精霊幻想歪伝   作:四重茶

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ちなみにタイトルの意味は【天罰からは決して逃れられない】ということだそうです。


第13-2話:天網恢恢疎にして漏らさず

時間を少々巻き戻し、ゴンたちがユバ宅に向かっている最中。

対象の動きを村から旅客小屋の広範囲に展開していた索敵網でカムンは正確に捉えていた。

今、実働メンバーであるカムンとリオ、それにシンがリオの部屋に集まって最終打ち合わせを行っていた最中の出来事である。

 

「動き出したようだな」

 

シュウヤから最後のチャンスを与えたいという要望を聞いて待ったが、どうやら予想通り意味をなさなかったようだ。

契約はここに成立し、あとは最適なタイミングで摘み取るだけである。

 

「・・・マジかよあいつら。可笑しいんじゃねぇの?」

 

お疲れ様会で酔いつぶれていたシンはカムンにたたき起こされ、リオの精霊術で強引に酔いを吹き飛ばされて引きずり出されていた。

ルリとサヨを囮に使う作戦を知った時に血相変えて猛反対したが既に計画は動いているのと完全な証拠を掴むために已む得ない事だと強く説得したところ、渋々承知したのである。

とはいえ取り越し苦労で終わって欲しいという願いは強かった。

だが結果は御覧の通り、武士の有無に関わらずゴンたちはルリへの強引な夜這いを実施している。

 

「ところがどっこい。これ現実。最悪な事にな」

 

渋い顔をしてカムンもシンの呆然とした呟きに頷いてそう吐き捨てた。

 

「・・・タイミングは予定通り、で良いんですよね?」

 

「そうだ。(わたし)が吸音の結界と濃霧を小屋一帯に展開し、雑兵を処理、リオが部屋の内部に突入してゴンを取り押さえる。シンは後詰として逃げ出した奴を抑える予備兵力だ。狩猟と同じ、連携と各々の役目を全うすることが重要なのはわかっているな?」

 

メインディッシュを食い散らかすカムンとリオに対してシンの役目は地味だ。

分かってはいるが納得できないシンはムスッとした顔をしていた。

 

「しょうがないなぁ・・・二人ぐらいは逃がす隙を与えてやるからそいつらを叩いて見せろ」

 

流石に出番なしはアレなのでカムンも情けで獲物を分けることとする。

シンもそれを感じ取ったのか引き締まった顔になり、狩人の顔をし始めた。

 

「対象は慎重に行動している。それぞれが己の役目を果たすことを祈る」

 

カムンのこの言葉に無言で二人は頷いた。

各々が所定の位置に移動して間もなくゴンたちの姿が見え、緊張が走る。

彼らは知った道を辿るかのように素早くルリの部屋がある箇所まで回ってきた。

思ったより早い、とカムンは眉間に皺を寄せて様子を伺う。

そのまま大きい音を立てながらゴンが引き戸を丸ごと取り外したのを見てセキュリティの問題を認識した。

ゴンがするっと中に入ったのを確認した直後、カムンはあらかじめ展開していた結界術を作動させる。

瞬間、音もなく濃霧がユバ宅を包み込んだ。

視界が5メートルもない濃密な霧が突然、出てきて外に待機している舎弟共はざわつき始める。

 

「うわ、なんだこの霧・・・」

 

「さっきまでなかったのに」

 

カムンはそれをユバ宅の屋根上からまるで獲物を待ち構えるタガメのように眺めていた。

ゴンが事をする前に手早く、恐怖を与えながら排除しなければならない。

幸い、彼らは上からの襲撃を全く警戒していない為、あとはタイミング次第である。

彼らの視線の先にある草むらを適当に揺らして気を惹かせた。

案の定、音に素早く反応した彼らはユバ宅から意識を完全に逸らしてしまう。

その瞬間にカムンは仕掛けた。

まず一人、屋根から音もなく背後から奇襲して口元と首根っこを掴んで一気に屋根上へ引きずり上げる。

捕まった青二才をそのまま締め上げ気絶させると手を素早く縛り上げた。

下の連中はいなくなった一人に気づいてパニックを起こしていたがその声も結界による遮音でゴンに届くことはない。

次々と隙を見せた者をひっ捕らえて軽く締め上げること数回。

いよいよ頭数が二人ほどに減った時に舎弟たちは恐怖が忠誠心を上回り霧の中、やみくもに逃げ始めた。

 

「待てやゴラァ!!」

 

草むらに隠れていたシンが側面から急襲して一人を無力化する。

精霊術を絡めた見事なストレートパンチにカムンは思わず称賛の口笛を吹いた。

だがもう一人はかまわず全力で来た道を走り抜ける、が。

 

「ひっ」

 

既にそこには退路を断っているシュウヤが仁王立ちしていた。

 

「僕は言った筈ですよ」

 

呆れてものも言えない表情でシュウヤは青ざめている最後の舎弟に冷たく言い放った。

 

「【人食い蛇】が現れている、と」

 

直後、腕がにゅるりと舎弟を絡めとり。

 

「はぁあぁああああい」

 

人食い蛇(カムン)が陽気な声色で最後の仕事を終えようとしていた。

 

 

「極めて順調に終わったぜ」

 

気絶している下手人全員を縛り上げ、一か所に集め終わったカムンたちは予定通りに事が済んだことを称え合っていた。

 

「ええ、本当にありがとうございます」

 

「・・・まだリオがゴンを連れてこねぇのがきになるな」

 

依頼主のシュウヤはほっとしている表情をしているが肝心のゴンがまだ来てないことにシンは嫌な想像を止められないでいる。

 

「まさかリオの奴・・・」

 

「それはないだろうよ。飛竜相手に素手で勝てる奴だぞ?凡人に毛が生えた程度のゴンなんぞ鎧袖一触さ」

 

ヤグモでも山の彼方から時折、ワイバーン・・・つまり飛竜が人里近くまで降りてくることがあり、人畜に甚大な被害をもたらすそうだ。

そんな飛竜を素手で撃退するリオの話をカムンから聞いたシンは引き攣った顔をする。

 

「まあさすがに時間かかりすぎではあるな。様子でも見に行くか」

 

ユバ宅に戻ると騒ぎを聞きつけたユバとハヤテが出てくるところと遭遇した。

ハヤテの方にも一応、話を通してはいたので彼も慌てた様子はなかったが何か異様な雰囲気を感じ取って出てきたそうだ。

実際、まだリオが顔を出してきていない。

まさか返り討ちに合うとは思っていないがカムンとしても解せない状況に一抹の不安を覚える。

ルリの部屋に近づいた時、予感は確信めいたものに変わっていた。

熱せられた汚泥のような殺気が粘つきながら部屋から漏れ出ている。

 

「おい、リオ!」

 

ろくすっぽまともな事ではないと思いつつカムンが部屋に入ると多少散らかった部屋の備品の傍らでゴンに馬乗りながら淡々と拳を振り下ろし続けているリオの姿が目に入ってきた。

後から入ってきたハヤテやシュウヤ、シンもユバもその粘ついた殺気に息を呑む。

部屋の片隅で惨状を見続けて恐怖に染まっているルリとサヨに気づくことすらできないでいた。

ゴンは既に辛うじて判別できるぐらいに顔面が変形していているがそれでもリオは殴打を止めることはしていない。

あ~、これ()るつもりだ。

カムンはそれで確信したが目的は生け捕りであり、度が過ぎている。

 

「おい、リオ。もう止めろ」

 

肩を強く叩いてカムンは話しかけたがリオは濁った溝のような瞳を煩わしそうに向けてきたあと、何も言わずに殴打を続行した。

面倒くさいなぁと内心、舌打ちしつつもカムンは振り下ろされる拳の手首をふん掴まえて強引に終わらせる。

 

「もういい。ゴン(それ)に、お前が手を汚す価値はない」

 

ピクリとも動かなくなったリオは無言で何故という不満を表したがカムンは顎で怯え切ったルリとサヨを指してやるとようやっと自分がどういう状態だったのか理解したようだ。

それがきっかけとなってリオから張り詰めた気も力も波が引くように消えていった。

 

「・・・ゴン、なのかい?それは」

 

「はい。二人に手を掛けようとしていたので」

 

ユバが恐る恐ると訊くとリオは淡々とそう答えた。

ひくひくと痙攣しているが息はあるようである。

 

「ううむ・・・事情を聞こうにもこれではな・・・」

 

とはいえ話せる状態ではないのはハヤテも含めて誰が見ても明らかな状態であった。

 

「おいごら、起きろや」

 

話せないふりをしているかもしれないのでカムンが一発、片足のストンピングをねじ込むと痛みでうめき声をゴンは発したがそれきり動かないでいる。

どうやら言葉が出せないのは事実なようだ。

 

「ふん、ゴミめ。喋れないのは確かみたいだな」

 

虫けらを睥睨しながらカムンは冷たくそう言い放つ。

 

「・・・・私が喋れる程度には治します」

 

この状態にしたリオ本人が治すというと全員がおいおい、と言った顔をする。

だがハヤテは治療術を使うのは得意でないらしく、この場でそれができるのはリオとカムンぐらいなため最終的にリオの手による治療が為されることとなった。

ただカムンは治療の最中にリオが()()()()をしているのに気が付いたが敢えて無視する。

やがて腫れていた顔は戻り、乱れていた呼吸も落ち着きを取り戻した。

咳き込みながら這いつくばるゴンにハヤテは尋問をするがゴンは黙秘を貫こうとする。

この太々しさにカムンは思わず舌を巻かざるを得なかった。

だがそれもリオが小さく舌打ちをした直後に終わる。

跳ねるような反応を示したゴンはリオに対して必要以上の恐怖心を抱いているように見えた。

―――暗示の精霊術。

人間の経験記憶への刷り込みを行う禁術に該当する強力な精神干渉(マインドジャック)だ。

しかしカムンはリオがゴンに対して恐怖を刷り込んだことを黙認する。

実験体として都合が良く、話もスムーズに進むだろうと考えたからだがちょっと強めに掛かりすぎているようにも見えた。

素直になったゴンを尻目に話が進んでいく。

カラスキの法に則ると強姦は未遂でも重罪で死罪も視野に入るとのこと。

軽くても労働刑として犯罪奴隷落ちする。

ムショに数年ぶち込まれるだけの21世紀日本やカムンが知る時代よりキツイ量刑だ。

それだけ頻発している事態なのやもしれない。

実際、戦争が終わって20年ちょいの為、あちこちそういった話は尽きないそうだ。

そういう世情があるのに決行したゴンはぶっちゃけバカなのだろうとカムンは結論づける。

何でも暴力で済ませてきた結末が早世とは割に合わない。

ふとリオに目を向けるとシンとユバが寄り添ってルリとサヨを落ち着かせている光景を苦々しい顔で見つめていた。

居た堪れなくなったのか、そのままリオは踵を返して外に出てしまう。

それに気づいたサヨが追いかけようとするが全員に止められてしまった。

何も分からない自分たちではどうすることもできない、そう言い聞かせるように。

カムンとしてもちょっと失敗したなとは思う。

こうなると分かっていたならまだ自分がヒャッハーしてビビられた方がマシだった。

とっちめ方はいろいろ考えていただけに浅慮であったとカムンは反省せざるを得ない。

そうなる材料はちゃんとあったはずだがそれを見逃して検討することなく策を実行したのは間違いなく全体の段取りを行ったカムンの不手際だ。

 

「ハヤテ殿。申し訳ないがこれの後始末の程、お願い申し上げても?」

 

「・・・承知した」

 

言質を貰ったカムンはそのままリオが去った草原の方へと足を運んで行った。




アンケート設置しました。
前者はよりドラマティックで整合性も整えやすいですが原作から結構ズレそう。
後者は初志貫徹、歪みは徐々に増していく。そして破局は一気に来るって感じです。

副社長アークライト氏が救助に向かうそうですが時期はどっちが良いですか?

  • 早めに越したことはない(原作5巻あたり)
  • 遅めでもまあ大丈夫でしょ(原作20巻)
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