精霊幻想歪伝   作:四重茶

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もうちょっとこっちのテンポ上げた方がいいのか迷っています。


第2話:箱庭への侵入

 

入り口に入ってから、カムンの周りは異様なまでの静寂が支配していた。

様子からしてかなり【荒れている】と予想していただけにカムンは余計、警戒を強めた。

巧妙に入り口を隠していたということはこの箱庭に入らせないようにしていたと考えるのが自然だ。

罠があると考えて警戒するのが当然であるが、今の状況は静寂とそれに似つかわしくない不安定でサイケデリックな空間模様だけである。

不安と困惑を誘う不安定な空間をカムンは神経を尖らせながら前進する。

その後も随分と進んだものの、彼の経験則でいえばそろそろ本来の空間が出てくる頃だと訴えてきているがその気配はない。

まさか既に罠に掛かってしまったか、と考えがよぎった直後であった。

唐突に不安定だった空間のどこかからか強く引っ張られる感覚が襲い掛かってくる。

 

「ぬぅ!きよったか」

 

分かってはいたがその不意打ちはさしもの歴戦の強者と言えど、後手にまわざるを得なかった。

対抗術式を展開する間もなく、離岸流に呑まるかの如く抵抗しようのない奔流にカムンは吸い寄せられていく。

 

「―――はっ・・・舐めるなよ」

 

だがそれにただ翻弄される程、彼は非力でもなく、甘くもない。

潜った修羅場は数知れず、おまけに何度も臨死するほどの過酷な状況に身を置いたこともある。

上とも下ともつかぬ無縛の領域に起こるうねりにカムンは過去の経験から導かれる対策を以て果敢に挑む。

まずは己の存在をある程度、固定させる必要がある。

右腕に拳を作り、ちょうど甲の辺りに幾何学的な模様がいくつも折り重なった術式を展開する。

内容は【重力アンカー】と呼ぶべき、無重力空間において座標を固定するための錨だ。

 

(フン)ッ!」

 

気合の声を上げカムンはその錨を空間に叩きつける。

瞬間、虚空にそれは突き刺さり、抵抗によってカムンの身体はうねりから解放された。

しかし、肩には奔流で引きずり込まれる負荷が強くかかった。

あまり長く留まることは危険であると判断し、次いで彼は索敵術式を多種多重に展開する。

ここから通常空間へ到達できるかある程度を調査するためだ。

しかし、結果は芳しくない。

そも、多次元とは超広大な宇宙が複数に存在しているのを定義したものだ。

その構造はまるで泡のように物質が豊富な地点と、そうでない地点が分かれている。

後者は【超空洞(ヴォイド)】と呼ばれ、数億光年見渡してもまともな物質は存在しないと言われている。

それもはや何もかもが【絶たれた空】と呼んで差し支えないだろう。

カムンはもしかしてそこに出てしまったのか、と訝しむ。

それは実質、遭難であり探索の失敗である。

実は何度かそういう空間に出てしまったことがあり、徒労感が物凄く出てくるので勘弁してほしい次第だ。

とはいえ、うねりというのは物質の流れがあってこそ発生しうるものであり何もない超空洞に飛び出したのならばそれすらもないのが道理。

つまりこの状況は超空洞を否定するモノであり、最悪の仮説を否定してもいる。

まるで【何かを引きずり込む蟻地獄】のような作為的にも感じるこのうねりと奔流は一体、何なのか。

恐らくは箱庭の主が用意した罠の一つというのが妥当な考えだ。

しかし、主が居るのか、もぬけの殻なのか、この段階では分からず仕舞い。

索敵術式の強度と出力を上げてより広く、遠くに伸ばしていく。

だが術式は何も捉えることはなかった。

超空洞か、それとも既に手折(たお)られた次元なのか。

疑問が尽きないが、いつまでもこうして宙ぶらりんでいるのも飽く。

術式でいくら探しても虚空しか映さないのだからいっそ、この奔流に任せてみるのもありなのかもしれないとカムンは思い始める。

これが作為的ならば意図がある、侵入者を迎え撃つ狩場に放り込むのが基本だろうが。

 

「往くとするか」

 

目を見開き、覚悟を決め、戦意を高めたカムンは重力アンカーを解除する。

杭から放たれたカムンはそのうねりに再び呑まれる。

だが、先ほどと違うのは態勢を上手く維持し、いつでも対応できる余裕を生み出している点だ。

この【作為】を必ず上回って見せる、という彼自身のプライドから来るハングリー精神を滾らせカムンは奔流を征していく。

そして、その精神は一瞬の変化をも見逃さなかった。

正面に捉えたのは溶鉱炉のような終着点(ゴール)

そこに至る道筋の隅にそれはひっそりと隠れる様に在った。

いつの間にか黄金に輝いていたカムンの【左眼】は隠されているであろう楽園への入り口を正確にその場所を見抜いていた。

 

「シュヤアアア!!!」

 

蛇の威嚇音のような気合を込めた声を力強く吼え滾り、カムンは見抜いた入り口らしき光が漏れだす穴に向かって重力アンカーを叩きつける。

再びうねりから脱したカムンは勢いをそのまま、穴に向かってターザンの要領で突撃した。

光が漏れる穴に飛び込んだ一瞬、ぐっと押し返されるような圧力を感じたが負けじと更に圧し込み、最後の壁を突破する。

抵抗が一気になくなり穴から飛び出した直後、カムンの目は夜の帳と焚火の暖かな橙色が飛び込んでくる。

一瞬だが視界がシャットダウンし、逆に熱感がホワイトアウトする。

普段、使っている感覚が潰された結果、カムンは咄嗟に周りを把握するべく索敵術式を全開で作動させてしまう。

体内の膨張する【生力(ルラーナ)】が世界を押しのけ【概念】の暴風を生み出す。

さながらそれは津波のようである。

一瞬で索敵術式で捉えた生体反応が殆どこの【界力風(モルナ・ワイブ)】で制圧してしまった。

索敵術式で捉えた状況は齢が15にも届いてなさそうな少年が複数の人物に取り押さえられていた。

それも先ほど風の影響を受けて取り押さえていた人物たちのその殆どは顔面蒼白になって硬直していた。

しまったなこれは、とカムンは(ほぞ)を噛む。

喧嘩を売りに来た訳ではないのに反射で多人数を制圧してしまっては今後の事に支障をきたしてしまう。

索敵で見つけ出したのは、4人ほど。

どれも人間と極めて近いが、しかし【ホモ・サピエンス】とは違う身体特徴を有していることが把握できた。

視界と熱感が戻りつつあるカムンの耳に数拍ほど支配した沈黙を破って槍を持った有翼の女が口火を切った声が響いた。

 

「き、貴様は何者だ!?」

 

と、言われると惚けて答えたくなるがボケる場面ではないとさしもの(カムン)も理解できる。

 

「まぁその、怪しい者ではございませんよ?」

 

しかし、こんな言い訳が通用する状況でもないのもまた悲しい事実であるとも理解していた。

 

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