あとどうにも最近、変換ミスが多くなってる気がするんですよね。
日を置くのって大切です。
里の子供らしき獣人を誘拐したと思われる少年を制圧し、精霊術によって造られた土壁を崩しているときに【それ】は現れた。
音もなく、光もなく、それは【何か】を放った。
喉元を鷲摑みされたかのような衝撃が襲い掛かる。
息がか細くなり、血の気が無くなり、身体は蛇に締め付けられたかのように動かなくなった。
現れた長身の男は視界を失っているのか少し覚束ない足取りであったが、こちらの位置を正確に掴んでいるかのように目線を合わせてくる。
「き、貴様は何者だ!?」
何とか気を取り戻し、そう叫んぶことで周りを支配していた重苦しい雰囲気を払拭しようとした。
「まぁその、怪しい者ではございませんよ?」
どこか呆れたような、それとも小馬鹿にしたかのような声色で長身の男はそう応えた。
突然、現れた奴が【怪しい奴】ではないといったところでその言葉に如何程の説得力がないかというのは火を見るより明らかだ。
そのどこまで見下したかのような物言いに、手にしていた槍を構えた有翼の女性―――ウズマは叫んだ。
「ふざけるなっ!貴様もあの少年の一味かッ!?」
そう叫ぶ
自分だって知覚するまでもなくいきなりその場に現れた奴なんか怪しいと思って慎重に対応する。
おまけに怪しげな術を使って相手を制圧したのだ。
不可抗力だったとはいえ、先に手荒な真似をしでかしたのはこちらであるのが悪い状況を生んでしまっていた。
最後の少年とは、そこでのびて制圧されている彼の事であろうとあたりを付ける。
「そやつと私は何の因果もない。偶さかここに飛び出してしまっただけでの。見逃して頂けると幸いだ」
カムンは両手を上げて戦闘意志がないことをアピールする。
これで丸く収まってもらいたいが様子を察するに修羅場の真っただ中であり興奮している様子だ。
最悪は打ち倒してトンズラをこいても良いが、これまた開始早々に住民を発見できたのは不幸中の幸い。
出来ればコネクションを作っておきたいが現状はちょっと良くない方向である。
「問答無用ッ!」
案の定、一蹴されてしまう。
カムンとしてはちょっとはこちらの意見を聞いてくれてもいいのではと苦笑せざるを得ない。
そこまで興奮しているような状況ではなかった気がしないまでもなく、むしろ酔っぱらいが一瞬でシラフに戻るような【界力風】が襲っていたのである。
警戒してこちらの様子を伺うはず、と思ったが完全に当てが外れた。
自動翻訳術式から伝わる強い敵意と怒り、そこから来る
細身からは到底、想像がつかない程の速度で向かってくる。
森に適した短槍でこちらをまっすぐ貫く混じりっ気のない突撃だが・・・。
ふっとカムンは小さく鼻で嗤うと最小限の胴の動きでその一突きをするりと躱し。
ちょん、と少し力強く背中を押して彼女のバランスを崩す。
たたらを踏みながら姿勢を戻した有翼の女は自身が小馬鹿にされた対応をされたことにますます気を悪くした。
「おのれぇ!!」
その顔は能面で言う泥眼のような人を超越した怒りで満ちている。
カムンからしたらチワワが元気に吼えているような微笑ましさを感じるだけであるが。
気迫を漲らせ、更に速度を上げて吶喊してくる。
「ウズマ!」
戦場の熱気で我を取り戻したか犬耳を生やした銀髪の少女が叫ぶ。
恐らくそれが有翼の女の名前だろう、とカムンは推察する。
彼女の殺気は本物であり、容赦なく心臓を貫くコース取りをしている。
ギアを上げた速度は生物離れしており、離陸でもつもりなのかとカムンは皮肉を思い浮かべる。
それは【余裕】というものである。
今度もふわりと最小限の動きでカムンはウズマの突きをあっさりと躱して見せる。
ふたたびたたらを踏んだ有翼の女、ウズマは態勢をすぐに立て直すと隙なく今度は払う形で穂先を打ち付けてくる。
まだ温い、そして遅い。
薙いで来る刃をするりと仰け反りカムンは避ける。
嵐のように槍の薙ぎ払いと突きが繰り出されいくが何度でも躱していく。
猛烈な風切り音を甲高く立てながら槍が振るわれる。
だが、それは一向にカムンを捉えるには至らない。
何だこいつは?
ウズマは本気で攻めているのにも関わらず、一向に捉える事を許さない目の前に居る長身の男がどういう存在なのかわからないでいた。
フェイントを仕掛けようとも乗ってこないし、死角を捉えたと思った一撃も滑るように避けていく。
まるでこちらの打ち込みを事前に見聞きしているかのように攻撃を捌いていく。
最初は高いテンションで迎えていた長身の男も段々と失望を滲ませた表情に変わる。
完全に弄ばれている、ウズマは戦士としての誇りに泥を投げつけられているがそれと同時に隔絶した壁を嫌でも感じ取り始めていた。
「遅いぞ」
直前に嘆息を零しながら氷のように冷たい声色でそう呟かれた後、突き込んだ槍の柄に掌底が打ち込まれる。
その瞬間、槍が不自然に弾かれ、軌道が強引にズラされた。
避けるのも飽いたカムンが掌底部に指向性の力場を形成して槍を弾き飛ばしたのだ。
確実に捉えた軌道であったとしても横殴りの指向は簡単にカムンの居る位置からズレた場所を抉るのみ。
余裕綽々で攻撃を捌ききるカムンにウズマの激情は完全に喉元へ引っ込み、戦慄が肌を撫でていく。
もはや怒りより恐怖が上回り始め、興奮も首根っこを掴まれて退かざるを得ない程だ。
「援護します!」
ようやく立ち直ったのか長く尖り気味な耳輪を持った少女が弓を番えるのをカムンは確認する。
埒が明かない、とカムンは多少の焦りを覚えた。
混乱の坩堝がピークに達し殺傷せざるを得なくなる前にケリを付けることとした。
再び槍を構え切り込んでくるウズマの一撃を往なした直後、隙を晒した槍の柄を捉えてむんずと掴む。
そのまま握り潰さないように加減しつつ、抜けないように力を込めて抑え込んだ。
ウズマが息を呑むのをカムンは感じ取る。
「これ以上は無駄である」
声色を重くしてカムンは少女らに語り掛ける。
ウズマは強引に引き抜こうとするがセメントで塗り固められたかのように、槍が動くことはなかった。
そして彼女は得物を捨てる判断を下す。
すぐさま手放すと翼をはためかしながら拳に何らかのエネルギーを貯めていく。
それは紫電を放ち、食らえばただでは済まないことが伺える。
「無駄だと言った筈だが?」
カムンは更に語尾を強くして警告する。
手で掴んでいた槍の柄をゆっくりと握りつぶし、へし折る。
硬いものが砕ける音を響かせて槍はくの字に手折られ、打ち捨てられる。
それは、言葉に出さない警告でもある。
お前なぞ何時でも【処理】できた。
それをしないのは敢えてなのであってその意を理解しろ、と言外で叩きつける。
蛇に睨まれたかのように動けなくなったウズマの外側より鋭い軌道を描く矢が速射される。
中々の腕前にカムンは称賛を心中で送るも矢玉ごときで仕留められるほど甘くはない。
一本、二本と襲ってくる矢の
何をしたか捉えられなかった長耳輪の少女は息を呑み脂汗が垂れる。
取った弓矢はそのまま摂氏マイナス280度ほどに瞬間冷凍し、塵と化した。
これ以上続けるとこの矢玉のように消えてしまうぞ。
無言の圧をカムンは少女たちに向ける。
何とか矛を収めれる冷静さを取り戻してほしいが、とカムンは願うが強硬な姿勢を続けると却って相手も引っ込みが付かなくなる可能性がある。
その場合はまあ
目撃者などすべて消してしまえばどうとでもなるのだから。
多数の可能性を考慮しつつどうかこれ以上、面倒なことになりませんようにと祈るカムンと違い、相対するウズマたちは彼が行った【それ】が自身たちですら把握していない未知の業によって引き起こされた、と正しく理解した。
先ほどから彼女たちが契約を交わしている存在達も竦む様に実体化を拒んでいる。
じっと陰に潜み、過ぎ去るのをただ待つしかない嵐を耐えしのぐかのように、だ。
本気を出されれば自分たちはその辺の塵芥のように掻き消されるであろう。
そう確信めいた予感を嫌というほど感じ取れた。
「そろそろ納得していただけたかと思うが」
しばしの沈黙と睨み合いが起こった後、カムンは先ほどよりも柔和な声色で語り掛ける。
ここで威圧を続けてしまうのは利益の観点で言えばよくはない、とそう考えたからだ。
何よりも彼女たちの行動に大きな間違いはない。
無法に土足で上がり込んできたのは自分だ。
少し話を聞いてもらえればそれに越したことはない。
無駄に血が流れるのは無益な損失なのだから。
「何もあなた方と敵対したいという考えは当方にはない。降伏が必要ならばそうさせてもらい、そちらの指示に従おう」
矢玉を消しておいてなんだ、と思うかもしれないがこれで必要以上の殺傷意図が存在しないことを改めて強調する。
ただこれでもまだ吼えてくるならば容赦はしない、という話である。
柔和な声色の影にこれほどまで冷徹な刃があるのを彼女らは十二分に理解することができた。
しばし、彼女らは小さく耳打ちあい、相談を交わし、そして決定する。
「――――良いでしょう。あなたの降伏を認めます」
銀髪の犬耳を持つ少女が硬めの声でそう告げる。
何とかなった、とカムンはため息を吐いて安心した。
「ありがたい。
どっちの立場が上かこれではわからないが、兎にも角にもカムンはいきなりの修羅場を何とか穏便に済ませることができたのである。