精霊幻想歪伝   作:四重茶

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流石にちょっと長いので分割することにしました。
妙に長いとこの表示形式だと疲れてしまいそうですし。


第6話:精霊の里と蛇1

夜も明け、朝となった。

精霊の里は心地の良い冷気に包まれ、気持ちの良い目覚めを促していく。

纏まって寝た日は久々だ、と薄く雲掛かった青空を見てカムンは身体を伸ばしながら感慨に更けた。

社長職もバタバタしており思いのほか休むタイミングを失ってしまったのである。

トップがそんな勤務体制じゃ下もおちおち休めないではないか、と言われていたが別にカムン・・・というか彼の種族自体がそこまで肉体的観点における休息を必要としないのもある。

体内は常に健康になるよう自動で代謝され、何なら肉体を自在に可変する能力も持ち合わせている。

肉体維持のメカニズムさえ把握し、補完してしまえば休息の必要がなくなるのも当然というものであろう。

あくまで、補完できるレベルの間での話であるが。

特にカムンが【貸与】された、と考えている【権能】を考えれば尚の事であった。

まだ少年―――リオは起きていない。

起こさないように外に出てからカムンは軽い準備運動をして身体の調子を探る。

久々にまとまった休息を取ったのでどういう状態に移ったのか確かめる為である。

黙々とゆったりとしたウォーミングアップを熟し、身体の可動域、筋肉の動き等をつぶさに診ていく。

概ね、夜中の時より良くなった印象がある。

やはり【生き心地】につくのは大切だ、と再認識した。

続いてカムンは邪魔にならない箇所で胡坐座りをし、深く瞑想に入る。

物質的な確認の次は情報的な状態を確認し、整調するのも大切だ。

全身に走る神天力を巡らす【回路】を通じてその炉心たる【心臓】の様子を伺う。

少し酷使したので若干であるが【回路】にダメージを確認した。

これを即座に修復する。

放置をすれば重い筋肉痛のような痛みと倦怠感に襲われ、出力が下がるだけでなく下手をするとまともに動けなくなってしまう。

回路に関しては肉体程簡単に治せないのでこうしたメンテナンスが欠かせない。

大体の修復と試運転も終えた辺りで昨夜に交戦した三人の【亜人】とも言える少女たちがゲストハウスにやってきた。

彼女らは深く瞑想し、微動だにしないカムンを見てギョッとする。

この時、漏れ出ている生力がある程度、魔力としてフィルタリングされて彼女らの目に映っていた。

魔力の量が人智を凌駕する圧倒的なもの、だという事だけが分かる。

しかし何が起こっているのかいまいち分からないのだ。

【人間】と違い、精霊に近いとされる獣人やエルフ、ドワーフの人々は魔力との親和性が高く扱いも長けている。

特にオーフィア以下彼女ら三人は次代の巫女として英才教育を受け見事にその才覚を呼び起こしていた。

故に深淵の底でじっとこちらを覗く怪物の目や気配を分かってしまう。

 

「そこまで怯える必要はない。取って食う訳でもないからな」

 

たじろいでいる三人に対してカムンは瞑想を取りやめて静かに語り掛けた。

普通に身体の調子を整えているだけで怯えられるのもなんだか悲しい気分になるがそれも自身が弛んでいるのだろうと考えることにする。

三人は怪物が興味を失って過ぎ去ったかのように安心した。

カムンと軽く挨拶を交わしてゲストハウスの中へ入っていく。

どうやら朝食の準備に来たようで、いつの間にか起きていたリオと言葉を交わしていた。

部屋に入ってきたカムンに気づいた少女たちは改めて話をすることができた。

 

「昨夜は、本当に申し訳ありませんでした」

 

立派な90度のお辞儀をして謝罪をする銀髪の犬耳少女―――銀狼獣人のサラにカムンは何を今さら、と感じつつもそれを受け取った。

 

「こちらこそ結果として不意打ちのような事をしてしまったからな。いや、本当に申し訳ない」

 

反射的にやってしまったのでこれこそ本当のやらかしである。

なのでそれで詰められるかと冷や冷やしていたが有耶無耶になったのでそれ以上を追及することはしない。

そういった謝罪合戦の最中にアースラが訪れてきた。

何事かとサラたちは畏まったが目的はリオに保護されていた狐獣人である少女、ラティーファの由来についてだ。

どうやらアースラはラティーファに縁を感じるそうでひと昔・・・丁度十数年前に失踪した近縁の者が居たことを頭に過ったそうだ。

その者の子か、とアースラは直感し母の所在をリオに聞いたのだが既にこの世を去っている事だけしか分からなかった。

カムンはアースラが一瞬だけ見せた静かな慟哭を湛えた哀しい目元を見て同じように悲し気に瞠目する。

ラティーファは暗殺者として【生産(ブリーディング)】された存在だという。

その母が居ないということは、産後不良か、任務に失敗して始末されるか返り討ちに合ったか。

何れにしろ、碌でもない最期を迎えたのは確かだ。

なんと惨い仕打ちであろうか。

だが、その娘は不思議な縁を経て戻ってきた。

 

「これも、大樹のお導き、なのやもしれぬな・・・」

 

窓の彼方に見える山ほどの大きさがあろう巨大な樹木を見ながらアースラは静かに呟いた。

 

「大樹、ですか・・・アレは一体・・・?」

 

リオもその大木を見ながらアースラに問いかける。

曰く、精霊の里で信仰される準高位精霊【ドリュアス】が宿った世界樹だそうだ。

 

「大樹が見えただなんて凄いですね。精霊術のよほど素養が高くないとあの幻影魔術は見破れないのですが・・・・」

 

大樹の管理者たるエルフのオーフィアはリオの素養を褒め、驚いていた。

確かに高度なカメレオンカバーと言ったところだがカムンの視点から見ると展開素子の隠蔽が足りていない。

アレでは素養が高くなくてもバレる時はあっさりバレてしまうだろう。

魔力の解析が進んで機械的にも利用され始めたら大樹が発見されるのも時間の問題となる。

今のところカムンは推定誘拐犯の疑惑が全部払拭されていないのでその安全保障まで首を突っ込む気ではない為、黙ってはいるが。

 

「ふむ・・・リオ殿は師事を受けて精霊術を身に着けた訳ではないのよな?」

 

何やら引っかかるような違和感を覚えたアースラがリオにそう投げかけ、リオもまた独学で魔術を模倣して魔力を直接操作している事を告げた。

 

「やはり、か・・・」

 

何か思い当たったのか、アースラは顎に手を添えて考え込んだ。

様子を窺っているときに、ラティーファが目を覚ました。

寝ぼけながら朝食の匂いを嗅ぎつけて腹の虫を鳴かせていた。

取り敢えず、朝のエネルギー補給から始めようという話になった。

難しいことはこの後に行われる長老会議で詰めれば良い。

独特な臭いのするパンを放り込み、生き心地を感じながらカムンはこの後についての思慮を静かに頭で回していた。

 

 

 

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