精霊幻想歪伝   作:四重茶

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分割話その2


第6話:精霊の里と蛇2

朝食の後、リオ達は里の中心にある市庁舎へと赴いていた。

既に各種族の長老たちが集まり準備は整っていたからだ。

会議室に到着すればさっそくリオ達に関する議題が始まる。

参加人数はそう多くはなく大方の結論は昨夜で決まっていたのかこちらの身の上に関する話の説明が主だった話題だ。

ただ、独り室内の端で佇んでいる女性らしき存在にカムンは違和感を感じる。

その感触はかつて肉を失った自らの姉のように情報体として揺蕩っている印象を受けた。

注意を向けつつもリオの話に耳を傾ける。

里側は同胞を解放したリオに大きな感謝と手違いによる手荒い真似となったことでかなり腰の低い態度となっていたがリオもまた知らず内にとはいえ彼らの警戒ラインに踏み込んでしまったのでおあいこだ。

リオの目的である保護したラティーファの引き取りは本来の主目標であるヤグモ地方という地域への移動のついでに行ったもの、だがラティーファの身柄引き受けはそもそも里側が願い出ようとしていたことの為、ちょっとややこしい事態となった。

謙遜も度が過ぎれば失礼になる、とは言われるがリオの謙虚さは少し扱いに困るものだとカムンも考える。

何が欲しいのかさっぱり分からないのはそれはそれで恐ろしいものだ。

未知は恐怖と誤解を生む要因となる。

リオからは直接出る事はなかったがどうやらラティーファと一緒にしばらく同棲することとなったようだ。

里の娘との婚姻も提案されたがリオはさすがに断っていた。

結局リオが欲したのは精霊術の教示ぐらいであった。

 

「して、カムン殿はどういたす?」

 

ようやっと自分の番になったカムンは口を開く。

 

「こちらも双方の不手際があったのは否めません。互いに水を流す、とこちらから申し出ると些か不遜かもしれませんがこれで手を打って頂けましたら当方は満足でございます」

 

カムンはまだ里の利益や恩となる行動をしていたわけではない。

故に報酬を求める立場ではないのは明確である。

 

「しからば、これは当方からの要望でございますが・・・よろしいでしょうか?」

 

とはいえ商人の端くれ。

折角掴んだこの縁、使わずしては勿体ないと思うのも事実だ。

 

「ほお?」

 

「私はこの通り流浪の身であり、異邦人であります。こうして出会ったのも何かのご縁であられましょう。あなた方よりこの世界の文化、物流、生活、色々な情報を仕入れたいと考えている次第ですが、代わりに私の助力や知識、差し出せるもので釣り合いが取れましたらなにとぞご協力をお願い申し上げます」

 

回りくどく丁寧に言っているが要はカムンの物品や知識、あるいは労働力を以て知りうる限りの情報を提供してほしい、という取引である。

 

「ふむ・・・確かテレイズ殿は【運脚】の大元、であられましたな?」

 

魔道具を除き、この箱庭世界はまだ機械化への道のりは遠く遥か先であり、飛行船・・・これは気球の超巨大版ではなく文字通り海上と空中を移動する船舶、というのが存在はしているものの陸上運送は基本、人力や大型草食動物が主流である。

いや、物流に飛行船を使うことは困難であろう。

この技術は賢神というこの世界における管理者に該当する存在が生み出したとされ、その深奥を理解されないままロストテクノロジーを騙し騙し運用しているのが実情で燃料に使う魔石も産出量的にもおいそれと用意できるものではないそうだ。

つまり新規建造はできない上に燃費の都合でも慎重な運用を求められるデリケートな存在なのである。

その話を聞いた時にカムンはさっそく【こちら】の技術を応用した全金属製空中船舶の開発が頭に過ったが、それをするには人手がまるで足らなかった。

ただ魔法や事象操作が当たり前に行われる世界でもその手の間違いない需要があると分かっただけカムンは大いに満足である。

 

「物品に関しては使えるかはわかりませんが手元で余らせている【これ】はどうでしょうかね?」

 

と言ってカムンはひょいと掌を宙へ向けるとその上側にズッと孔のようなものが出現してそこから深い蒼をした宝石の原石みたいな物が掌に収まった。

 

「ほお・・・空間収納魔術を有しておられましたか」

 

「この手の技術もあると?」

 

使用にオド・・・人間が魔力と呼ぶそれを大量に使うため使い手は選ぶがそういうのもこの世界にはちゃんとあるらしい。

技術ツリーが中々に歪である。

 

「して、これは―――ッ」

 

何かに気づいたのかエルフの最長老であるシルドラが目を見張った。

 

「これほどまでの精霊石・・・いや違う・・・だがよく似ている・・・」

 

とぶつくさ言っていたがこれは取り入れた物を全て自己エネルギーに変換できる神天龍が排出する神天力の残滓が時間を掛けて物質化と硬質化した結果である【排石(ルラーナウェイスト)】と呼ぶべき物だ。

平たく言うと排便である。

勿論、そんなことを言えば大問題になるのは確定なので黙っている。

 

「お目にかなうとよろしいのですが・・・」

 

大体、どこの世界に行っても高純度エネルギーに変換できるある種の万能貨幣として使ってはいるが最近、住んでいる次元でも需要が高まり始めている。

まあ供給源はまだまだ一杯あるので今のところ物々交換用として使えるはずだ。

 

「このようなもの・・・本当によろしいので?」

 

「まあ、掃いて捨てるぐらいにはあるので。迷惑料としてなるなら」

 

凄く恐縮されているが、幾らでも出せるので遠慮しないで貰いたいとカムンはひそひそ相談している精霊の里の面々を見ながらぼんやりと思う。

 

「凄いな。氷のマナそのものだが、他の属性へも簡単に変換できる」

 

「里の氷室維持に使ってみるのもありだな。ドンくらい持ちそうかはちょっと詳しく調べんことには分からねぇが、10年かそこらは持ちそうだ」

 

などなどそっちのけで盛り上がり始めている。

案外、彼らは職人気質が強いのかもしれない。

喜んでくれたのなら掴みとしては良い結果と言えるのだろうか。

 

「話はまとまったかしら?そろそろ私の用事も済ませたいのだけれど」

 

先ほどから隠れる様に端で佇んでいた女性がやっとか、という感じで言葉を発した。

あ、これ御同輩だわ、とカムンは声を聴いて理解する。

頃合いを見て話を始めたのだろう。

 

「もちろんでございます」

 

彼らはハッとしてその女性に恭しくしながら彼女を紹介する。

 

「リオ殿、カムン殿。こちらは大樹の精霊で在らせられるドリュアス様じゃ」

 

なるほど、とカムンは自身が感じた違和感の正体が分かって腑に落ちた。

声を聴いてからより洞察すると彼女から莫大な気が剥き出しになっている。

これは情報体に見られる特徴だ。

肉体を持たないということは肉という物質で情報を固定化しなくとも存在しえる程、強力なエネルギーを収束させることができる特殊な存在なのである。

 

「・・・この人が、精霊?」

 

リオは人と瓜二つのドリュアスを見てそう驚きの声を上げた。

そこまで驚くものだろうか、とカムンは彼の練りあがる力を垣間見てそう思わずにはいられなかった。

これほどのまでの力を振るうのならばその本質を共有している精霊とやらを見分けることは容易いのでは、と。

そう思考するカムンを置いて、ドリュアスはリオに対する疑問を詰めていく。

彼女はどうやらリオより発する僅かな精霊の気配を感じ取って興味を持ったそうだ。

そのことには思い当たりが無いとリオは返したが一瞬、思慮する顔をカムンは見逃さなかった。

どうやらその精霊はリオと契約を結んでおり、今は彼の体内で魔力を食いながら惰眠を貪っている、といういい方は少し酷であろうか?

とにかく表層に出られない程に消耗をしているようである。

契約と言っても恩恵の方が大きいとドリュアスは語るが、逆に精霊側がもらい受ける恩恵とは他人からの使役を引き換えにできる程に大きい物だろうかと疑問が尽きないが話は進んでいく。

ドリュアスは断りを入れてリオに触れ、体内の精霊を含めて調べ始める。

 

「凄いわ。あなた、尋常じゃない量の魔力を秘めているのね。本当に人間族?」

 

美味しそう、と何やら物騒な事を零していたがどうやら規格外のエネルギーを保有していたようだ。

カムンもそういわれてリオを観察すると、確かにカムンの常識の範疇でこれほどのエネルギーを保有して安定している人間は殆ど見聞きしたことはない。

それはもう半分、人外に突っ込んでいる完全にイリーガルな個体は永い旅の中で幾度となく出会ったがリオに関しては群を抜いている。

しかし、魂の構造を見たときに強い違和感を覚えた。

本来の人間は一層まるまるで構築されているものだが、リオは二つの魂の影が見える。

元ある魂に何らかの形で別の魂の情報を打ち込まれたかのようだ。

カムンの懸念を他所にドリュアスの診断は続く。

精霊の存在を確認し、リオとの間に繋がりができていることから契約していることは確かなようだ。

そして、契約している精霊がちょっと曰く付きであった。

 

「人型の精霊が眠っているわ」

 

静かに発せられたその言葉に精霊の民たちに電流が走ったかのような反応を示した。

 

「人型、ですか・・・?」

 

「そう。精霊にも階位があって、人型になれるのは高位精霊とそれに準ずる力を持つ精霊―――準高位級ぐらいなのよ」

 

人の機微を理解できるにはやはりそのくらいの演算力を求められる。

伊達に【霊長の頂点(プライミッツ・オン・トップス)】を張っているわけではないのだ。

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