パラレル・なんかいい感じの・マスターズ 作:アマルティア・テーベ
「テスタだけ関連人物が愚弄されすぎてない?」という思いから始まった短編
「……アリス!?おい、アリスだろ!?」
視線の先にいた相手が振り返る。
テスタ・ロッサは、見た。
決して見紛うことのないだろう相棒の姿を。
喜怒哀楽の抜け落ちた顔で佇む同胞を。
──呪符によって縛られ貶められた盟友を。
「……アリ、ス?」
ディスタスのアリス-1は一瞬だけ、自分へ向けられた音に反応するように視線をテスタへ向けた。そして興味を失ったように、虚空へと目を逸らした。何かを計算しその解を導こうとする動き。テスタがかつて何度も見たアリスと全く同じ動作だった。
「……お、おいおいアリス。なんだそのファッション。流行ってるのか?悪趣味だし似合ってないぞ」
これは、テスタの知っているアリスではない。
「……冷たい奴だな。少しくらい口を聞いてくれたって、いいじゃないか」
これは、アリスの形をした模造品に過ぎない。
「……俺に、お前を殴れっていうのかよ。カツキングだけじゃなくお前まで!」
けれど。テスタ・ロッサにはアリス-1を殴れない。
そうすることで彼女の魂が解放されるのだとしても。自分にできることはそれしかないのだとしても。
それだけは、できない。
「なあ…なんか言ってくれよアリス。頼むよ、俺は」
脈絡もなく。
パリン、と。砕ける音がした。
「ぁ」
声にもならない嗚咽が零れ落ちた。
アリスの肉体は、テスタの目の前で爆ぜた。指も髪も顔も何もかもが等しくバラバラになった。
最期まで、アリスの表情は変わらなかった。
最後まで、アリス-1はテスタ・ロッサなど見ていなかった。
砕け散った破片は、地面に落ちるまでの僅かな間にさらに細かく崩れていく。チリのようにバラバラになった粉末は、音も立てず地面に散らばる。
アリスを構成していたエネルギーがどこかへ飛んでいくのをテスタは見た。だが、どうにもならない。
「──ァああああああああ!!」
喉が張り裂けるほどに、テスタは叫んだ。
テスタ・ロッサは「また」アリスを失った。
かつり、こつりという足音。
焦点の合わない虚な瞳を向ければ、忌々しい相手がそこにいるのが分かった。
「ゾロスタァァァ!」
起き上がり様にそいつの頬をぶん殴る。地面に転がったゾロスターを見下ろし…そして、テスタは見た。
全ての表情が抜け落ちた、人形のようなゾロスターを。機械のような無機質な動きで立ち上がる光景を。
「……なんだよ、チクショウ…」
ギリリ、という奥歯を噛み締める音。
「お前も…『被害者』なのかよ…」
テスタは、理解してしまった。
ゾロスターさえも手のひらで弄ぶような超常がこの騒乱の元凶なのだと。
分かりやすい『黒幕』は、決して自分の手の届くような場所にはいないのだと。
「…くそったれ」
何度も何度も拳を振り下ろす。
こんなことをしたところで、気持ちなんて晴れやしない。分かっている筈なのに、もうテスタには現実から束の間目を背けることしかできない。
殴る拳に血が滲むほどに、一方的に殴られ続けて限界を迎えたゾロスターの身体が消える。
魂を凌辱されたものには、安らかな死さえ与えられないとでもいうのだろうか。
「は、ははは。カツキングの次はアリスで、そのすぐ後にゾロスター?随分都合の良い話だな…次は誰だ。誰が死ぬ所を見届ければいいんだ。クロスファイアか?パルサーか?ジャッキーか?ブルースか?ブリティッシュか?それともヨミやイズモか?…畜生が…っ、バカにしやがって!ふざけんな!」
叫ぶことしかテスタにはできない。
カツキングやアリスをあんな目に合わせたのが誰かさえ、彼には分からないのだから。
「アウトレイジも!オラクルも!何もかもバカにしやがって!俺たちの生き様を嘲笑いやがって! ……俺たちを何だと思ってやがるんだ!!」
惨めで、悔しくて、情けなくて仕方がなかった。けれどどれだけテスタが頭を捻っても解決策は浮かばない。地面に向かって拳を振り下ろすしかできない。
「俺は…俺たちは…都合の良い道具なんかじゃない!何もかも使い潰されるための燃料なんかじゃない! みんな、生きていたんだ……懸命に、生きていたんだよ!!」
何度目かも分からない世界が軋む音がした。しかしテスタにはもう、それに抗おうとする気力はなかった。
虚な顔で座り込むテスタの腕を…何者かが掴んだ。
「大丈夫か!…何をやっているんだ?ここは危ない!一時撤退するんだ!」
「……誰だ?」
「ボクは…」
とあるムートピアの少年との出会い。
これが、テスタ・ロッサの運命を大きく変えることになる。
「ボクはググッピー。未来覇王ググッピーさ!」