第一話 旅立つ『愚者』の初歩
「そして,昨晩起きたカイジンによる東名高速道路の重車両暴走事件、堂波政権はこの事件においてカイジンである事は事件に何の関与もない、として、未来新党とは全く異なる声明を発表しました。」
……春、本来なら学生や社会人などを『新』と付けて迎える季節でもあり、その付けられた文字の通り心機一転し新たな生活へと向かう,言わばもう一つの年明け。
俺にとっては……その意味もあるが、新しい生活をさせられてしまったと言うべきか。電車がゴトン、ガタンと揺れる度、故郷との繋がりがちぎれて行く感覚がする。
「堂波総理ってホントバカだよな、事件の犯人が殆どカイジンなんだろ、そんなの何かカイジンが仕組んでるに決まってるだろ、俺でも分かるっての」
「フフ、たっちゃん名探偵〜!3代目探偵王子になるぅ〜?」
「よせや,俺っちには合わねぇっての」
一つの吊り革に手に重ねる,カップルであろう二人組のつまらない会話から離れる様に,俺は頭部を後ろへ傾かせ天井を見る。広告の中には「ヘイトを許すな」「カイジンは国民です」などありきたりなフレーズも混じっていた。
……何がヘイト、だ。カイジンなんて今は『悪』なんだ。そのカイジンに寄り添おうとするならばそいつも『悪』と見做されて当然なのに。それなのに……どうしてあの時カイジンの味方をしたのか、どうして人間なのにカイジンに寄り添おうとしたのか。
あの時に戻れるなら,あの頃に戻れるならば、ここ春休みの二週間で何十回妄想した事か。
『次はー渋谷,次はー渋谷で御座います。お忘れ物のない様に、宜しくお願いしますーー。』
低音の響きと同時に俺は立ち上がった。立ち上がるだけでその混雑した電車の中からは一歩も動かなかった……何故?
自分でも理解できない行動に疑問を持ち座ろうとした瞬間、後ろに気配……元々自分の座っていた場所に手を伸ばし
……ああ、そう、よくある事だ,そんなの,目くじら立てる事では無いだろう。
電車が止まった。それと同時にアナウンスが鳴るが、俺はそれを最後まで聞かずに人混みを押し退けて外へ出た。
本来はここで降りる訳ではなかった。四限茶屋駅に降りて
スマホを取り出す。そしてロックを解除してからコンマ数秒も掛からぬ内に検索サイトを開き、『眼鏡屋 近い』と入力、そのままナビゲートを始める。
……
……右に曲がってラバーズジム
……ここの交差点を越える、か。
………見つけた。
俺の目の前に有るのは有名なメガネチェーン店、そう、ここで必要はないのだが……眼鏡を買う為に態々寄った。
「いらっしゃいませ!お客様のご要望、伺っております!」
「度の無い眼鏡はどこですか」
「伊達メガネですね!ここにありますよ!」
そのまま店員の後ろを付いてゆき、この店のコーナーの中でも一際小さい一角……そして特に新作商品の広告すら張り出されていない、本当にみすぼらしく見える一角に、伊達眼鏡がズラリと並んでいた。
そのまま適当に一つ取る。いや、丸型は選ぶ気がそもそも無かったから適当とは言わないのかもしれない。
とにかく一つ、眼鏡を取り試着する。そして窓際の鏡、よく太陽光の当たる場所へ行き、顔を上下させ——メガネが光を反射し、目周りを真っ白に染めた所で止める。そして上げていた髪は撫でる様に手で整え、額を髪に隠し、目元も見えない陰気臭いスタイルが出来上がる。
——これで良いな。
レジにて商業スマイルをする店員に「これお願いします」とだけ伝えた。
「はい、了解しました!じゃあ、お会計は…………6600円でございます!」と店員が言い終える前に札を一枚だけ乗せる。流れ作業の様にお釣りを貰い、そそくさと店を去った。
……伊達眼鏡なら他にももっと安い物あったかな
そう一瞬後悔にもきた気持ちが過ったが、どうせ自分はここでは誰かと遊ぶ事もないだろうし、金は困る事はないだろう、と適当に理由をつけて後悔を嘘にした。
気が付けば赤信号の交差点に俺は居た。そう言えば佐倉惣次郎に世話にならなければならなかった。……保護司なんかになって貰わなければ良かったとも思ったが、それは俺の決める事では無い。……無いが、それでも……
「遅くなる、ごめんなさい」と保護司にメールか電話をしようとしたが、そもそも連絡先すら持っていない事に気づき携帯のホーム画面で指が止まる。……………なんだ、コレ。
———赤い目玉。
———まるで俺を覗く……いや、俺と見つめ合っている。
———コレは……『アプリ』なのか?
押す。不可解なアイコンを押した,が、何も反応しない。反応しないからもう一度押す。それでも反応しない。
イタズラか?消せば良いのか?それともあの保護司となんらかの関係がある物なのか?そもそも俺がコレを触って良いのか?いや、俺が触っていないなら何故俺の携帯にあるのか?
…………困った。そして、信号は……?
周囲の時が止まっていた。どう考えてもあり得ないが、止まっていた。周囲の演技?いや、流石に……炎?
おかしいと思う。
だが、それが当然とも覚える。
そう、初めての経験だが既に知っていた、まるで予知夢の様な、そんな気分を覚えていく。
「フハハ」
……炎が笑った?
「フハハハ!」
……走った。とにかくあの蠢く青い炎に。
「フハハハ!フーッハッハッハ!!」
……あ。
「汝は我!我は汝!」
そんな普段なら歯が浮き頰を染めるようなセリフを、交差点の向こう、いや
見えない分からないアレは何か。
『自分』の顔を炎が覆い隠し、身体全体を飲み込んで……青い炎に赤い意匠……まるで顔の様な……。
次の瞬間、自分は『俺』のいた場所に居た。
信号は赤。何も……自分も変わってなくて、アレは嘘だったかの様な………額から冷や汗が吹き出しそうになる。
そして、気がついた。
自分のメガネが、掛けていたはずのメガネが,何故か。入れた覚えもないのに。少しの荷物を詰めたバッグの中にあった。
「……変だな」
眼鏡を再度掛ける。万全よし,と思い携帯を開いたが……あの怪しいアプリは……消えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
結局あの後は素直に佐倉家に向かったのだが,何度呼び鈴をかけても佐倉惣次郎は出る気配すらなかった。きっと留守にしているのだろうと思い玄関前で待ってみたものの、微かに聞こえてきたのは「オヌシ!それヒキョーなり!……そっかぁ」「フフフ、天下のアリババ様を舐めるなよ〜」など若干幼い声だけ。と言うか佐倉惣次郎にそもそも子供がいた事も知らなかったし、何故子供を育てながら前科持ちのヤツをを保護司として引き取ろうとしたのか?
結果業を煮やした?佐倉惣次郎が佐倉家に留まる自分の腕を無理に引き、喫茶店『ルブラン』の屋根裏へと押し込めた。
「二度とあの家には寄るなよ」「勝手に出歩くんじゃねえ」「次、何かしでかしたらテメェは少年院、塀の中だ、よく覚えとけ」「保護司の俺には報告の義務があるからコレ、書いとけ」……机の上に乱雑に置かれたごく普通のメモ帳の表紙に『雨宮 蓮』と走り書きをして戻し、今,この様にベッドの上だ。
「アレと、一年、か……」
正直言って無理だ、そう感じている。自分は未成年とは言えれっきとした前科持ち、佐倉惣次郎は子供を育てながら俺の面倒を見るか?いや、ハナから「メシと寝床は出してやる、後は自分でやりな」。そう言っていた。
……メシと寝床は用意してくれるんだな。
この時点で実親より百倍はマシだ。そう、マシだと考えよう。一年、一年過ごしたら後は誰にも邪魔しないしさせない生活を送ればいいだけ、中学校は既に卒業してるからどうにでもなるだろうし、バイトの経験も既に重ねているから飢え死にもしないだろう。
穏便に過ごせとも言われたが,それは真理だとも思う。
「寝るか」
寝着は昼のうちに買っておいて良かった。実家からは制服しか届かないだろうと薄々思っていたから買っておいたのだが,じゃあ何故伊達眼鏡で無駄に金を溶かしたのだろうか。
ああ、無駄だ。悩んだって使った時間分の答えは出る筈が無いのに悩んでしまう。
雨宮蓮は気を紛らわせる為に消灯、そして……暗闇の中,アラームをかけ忘れてたことを思い出し、スマホを手探りで探し……あった。
……昼に消えたはずの目玉のアプリが、復活していた。
気味が悪い、とボヤきながら消す。目覚ましのアラームも掛けて今度こそ安眠する為に布団を被る。
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—!
虚無に居ると云う矛盾。
生の感覚を失う事を知覚すると云う矛盾。
事象の全てに狭間を存在せしめると云う矛盾。
雨宮蓮は起き上がった。起き上がって、一歩を踏み出そうとした時、足元の違和感を察知し歩を止め、後ろを向く……我が身の後ろには古風な作り話でよくイメージを刷り込まれた鎖に繋がれた鉄球……自身は寝着ではなく着ているのは囚人服……
夢という割には理解が鮮明であり,現実という割には理解が置いていかれている。
「……うう」
それでもただ一つ,この状況でもハッキリと認識しているモノ、ハッキリと認識している光に,彼の足は進み始めていた。
一歩、右を踏み出してまた一歩と進む度夢が現実に変じる。
青い光は次第に形を帯びて、高貴な青を基調とし、中心部には『V』とマークが刺繍されたカーペットを形成、それを終えた後……彼がカーペットへ踏み出さんとその瞬間,無色の壁……がまたもや形を変じ赤茶色に錆びた檻の扉へと。それでも進むべく探る様に扉の前で手を蠢かせば……いつの間にか檻の前には、プラチナブロンドの髪を真後で結んだ、青と黒を基調とした看守服に身を包んだまだ幼い子供が、片手で持った警棒を顔にも出ている退屈さに任せてもう片方の手に軽く叩きつけていた。
雨宮蓮が自身の事を凝視している事を感じ取ったその幼い子供は、まるで侮蔑する様な目、フン,と鼻であしらった後……警棒で彼に《自身の主》への方向を指し示した。雨宮蓮がその方向へ振り向けば……先程まで何も存在しなかった空間に,本が数冊、無造作に置かれた木製の机と、椅子に腰掛け肘を机に立て顔を掌で支え不遜に笑う鼻長の老人の姿を見た。
その細身の体達は。この世の全てより無に満ちていて,この世の全てより無を認知させるモノだった。
そして数拍置いて,
「ようこそ、わたくしの、ベルベットルームへ」
……何が何だか、だ。……全てが,だ。
雨宮蓮は「出してくれ!」、と叫び,檻を揺らし抗議の意思を伝えたが……看守服の子供に警棒で檻を思いっきり叩かれ、響く轟音に気圧され、後退りをした。
「フン,気付いた様だな囚人、主が招く分相応に度胸のあるヤツかと思ったが、この程度でビビり散らかすならば些か見込み違い、ってヤツだな!」
反論はしなかった。と言うより彼女の言う通り、反論をする《度胸》がなかった。
鼻長の老人が従者と《客人》のやり取りが終えたのを見てまた数拍後、「出してくれ、か。……今のお前は眠りの
「フフ、これからも、そうやって理解してくれるよう……ここは、その夢と現実、そして精神と物体の狭間にある場所。そして何かの形で契約を結んだ者のみが訪れる部屋。………私はここの主を務めるイゴール、そしてこの看守姿はこの部屋の住人であり、お前の『更生』の支援を務めるカロリーヌ、だ。覚えておいてくれたまえ。」
「看守とは囚人を守る職務で、ここでは貴様の協力者、というわけだ!せいぜい足掻くんだな!」
「俺の……『更生』?』
「そうだ。この部屋が『牢獄』を現しているのは、お前の心の表れでもある。即ちお前は運命の『囚われ』……近い将来、お前には処刑という破滅が待ち受けているに相違ない。」
「破滅……この俺に、か」
蓮はまるで投げ捨てるかのように尻から身を落とし、だらけきった感じで座るも、看守のカロリーヌとやらからまた檻を力強く叩かれ飛び起きる。
「話が早い。お前にはその破滅に抗う術があるのだ。それこそが『更生』……囚われから、自由への更生。それがお前が破滅を逃れる唯一の手段だ。……さあ、世界の歪みに挑む覚悟はあるかね?」
……更生ならば挑むのではなく静かにする、なのでは?そもそも世界の歪みとは?そう聞きたかったが、そんな度胸は胸の何処にもなかった。そして俺は、「破滅は…イヤだ」とまたカロリーヌとやらから『ビビり』と言われそうな回答をしてしまった、が。
「良かろう、お前の更生の軌跡、そして世界を破滅へと『再起』させる者を倒すその信念を、見届けさせてもらおう。」
「……フフ、こうしている内にじき刻限、ここのことは少しずつ慣れて貰えばいい……。いずれまた直ぐ、会う事になるだろうからな」
イゴールとやらがバッ、と顎を支えていた手で合図を出す。するとそれを察知したかのように警鐘が牢獄中にけたたましく鳴り響く。そして…………………………………
ジリリリ、と鳴る携帯のアラームで目が覚める。清々しい朝で,昨日の不思議な体験とは正反対であった。
破滅……更生……そして『再起』する者を倒す。一体何のことだ…………?
ハーメルンって1話あたりの文字数が多い方が良いんだって。1.2話合併させて見たけどコレくらいが良いのかな?
読者さんへ、どちらの原作からこの二次創作を読みにきました?
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Black sun
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persona5
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どっちも知ってる、好きだから来たんだよ
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知らんがな