4月10日。
今日は秀仁学園へ入学のあいさつをしに行った。
転入のめどは既に整えて下さっていた様で、川上先生が担任をして下さる2年Dクラスへと、明日から通う事となった。
帰り、保護司に前科持ちである事の意味を聞かされた。自身がどの様な立場なのかを重々受け止め、この1年間、せめて社会にふさわしい人間となれる為に教養を積もうと思う。
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昨日書いた日記だ。
この通勤ラッシュの時間帯、渋谷行きの電車にて何とか座席が取れたので誤字脱字をしていないかのチェックをする。いかんせん昔から日記張を始め——いや、世間一般の所謂『約束メモ』やらを始めとした自身の口語で書いた文章を再読すれば心が軋むような羞恥の気持ちがする。
が、保護司が書けよと告げた以上、俺には否定する権利など無かった。
「学校では何言われても大人しくしとけ」……朝のカレー中に言われた事であるから明瞭に覚えていないのだが,自分の一年は徹頭徹尾誰からも無視されて終わるか、それとも『イジメ』を受け続けるか、確かそれに付け加えて……レッテルがどうのこうの……やはり順を追って会話を想起させても,微睡んでいた時の記憶は蘇らない。
2回目の電車はまた、何かが引きちぎられていく感覚がした。
それでも前回とは違い、むしろ……いや、前回の真反対に心地よい、苦痛から人生の安らぎを得られる場所へ、流されてゆく感覚だった。
———無理に何かを考える必要は無い。
『渋谷、渋谷でございます』とのコールに合わせ,ゆっくりと席から立ち上がる。大勢の移動による揺れと圧に依然として苦しめられるも何とか電車からは脱出、真新しく小綺麗な黄色が目を引く点字ブロックの上にて立ち止まる。
秀仁学園には……銀坐線に乗り換え…青山駅で降りる。保護司が予め教えてくれたルートだ。
雨宮蓮はその教えられていたルート通りに駅に着こうと階段を登り,地下通路に出たが……慣れない広さと複雑さにまた足を止めた。
——迷路と形容するに相応しい渋谷駅地下通路。そしてその大規模な雑踏の中に混じる,動物園で見せ物になっている動物達の如く、あの鼻を突く様な
彼が鼻を
「どうも,
——カイジンを取り巻く複雑な問題に疎い雨宮蓮にさえ、その『団体』が何であるかは充分に理解していた。
怪人差別団体。
「皆さん、知ってますか!?つい昨日、与党の『
そのリーダー格の男——現在スピーカーで拡声中の男——灰色の坊主頭の癖に、小洒落たワインレッドのコートを黒のシルク調の下地の上に着こなし、その顔と言動さえ無ければ物語で見る英国の紳士を想起させるも、粗野の権化たらんその
「明智吾郎クンなんぞ、高校生にしてこの一ヶ月、えー、確か3件以上!精神暴走事件も含めた怪人どもの卑劣極まりない犯行を暴いたと言うのに、大金もらってブクブクと太っているだけならまだしも、侵略者紛いの怪人にその金を分配する売国奴共はとっとと退陣しろぉ!」
だがしかし,それに気がつく訳も無い蓮は余りに慄いた。暗闇の外で段差を踏み外すあの悪寒——もっと自らの立場から卑近に例えれば……あの女カイジンを権力者から庇って
だが,その慄きは、ある少年の鶴の一声によって霧散する。
「い、
雨宮蓮は咄嗟に、声変わりの途中にありがちな、しゃがれた声の出た方へ振り向く。その少年は、特にスタイルにこだわっていないクシャクシャとした黒髪、整っても醜くも無いパーツの組み合わせ,一重瞼が如何にも素朴な感じを思わせる少年であり——自身と同じ,秀仁学園の制服を着ている生徒だった。その容貌のせいか、それともあの時の自分があの少年と似た行動をとっていたせいか、どこか親近感を感じさせる。
雨宮蓮が振り向く動作の最中にも,その声の主には先程のカイジンヘイトのリーダー格——
「ほ〜らね!『スズメ』君!私達も、国民のみなさんも、怪人には居てほしく無、い、ん、で、すぅ〜!……分かったら、怪人は、『大人しく』日本から出ていきましょうねっ。」
そのニコッとした坊主から放たれた言葉が彼の何になったのかは分かりかねるが、その『スズメ』——井垣に反発した少年は、ガクガクと全身が小刻みに震えて、動悸とも取れる不安定な呼吸を吐き始めた。
——それは恐怖によるモノでは無かった。
——まるで、変態するように……素肌に遠目からでもハッキリと見える鳥肌が立ったと思えば、そこから針のような細く、凶暴な白と茶の毛が生え……腕からは特に強健な羽毛が集まり羽を形成して……ギョロリとした円形の黒一色の眼球、しかし口だけは身体とは不釣り合いに、可愛らしいほどに小さく、丸みを帯びた黒いクチバシをしていた。——忌々しげに、井垣の名をうなる様に呼ぶ。
………あれはカイジンだ。
———怪人が『変身』、した。……
雨宮蓮の中に焦燥が渦巻く。この場は先ほどから一転、何かえもいわれぬ危険地帯へと変貌したとうっすらと感じ、その場から走り去ろうとした時……突然だが『スズメ』の、丸っこい眼球にハッキリと捉えられたことを認識した。
「え、あ、あなた……
決してやましくは無いはずなのに、その言葉に気が引ける。———怪人と面として向かうその行為そのものが——彼の奥底のナニカを傷つけていたのだ。
そして逃げた。そのカイジンを直視せぬよう、雨宮蓮は逃避し——半ば恐慌状態となってホームを駆け抜けた。
「えっ……ええっ」
その変貌した『スズメ』——
小松俊介の様な
「ほーらね!最近の怪人は、ちょっとでも気に入らない事があったらすーぐバケモノの本性現す!見てくださいこの凶暴なクチバシ!凶器を持つバケモノと、一緒な国で暮らせるわけがないだろ!」
井垣渉の演説が更に熱を帯び、通行人の小松俊介を突き刺す目線は対象的——否、
ヘイト集団はいつの間にか井垣以外のメンバーも「そうだ!」「バケモノめ!」と井垣に同調する様に罵詈雑言を俊介に浴びせていた。集団の塊に、初めはいなかった白髪や艶やかな長髪までもが混ざっていた。
そして小松俊介は——あの『噂の転校生』を追う様に走り,去った。
それを逃げだと解釈した井垣が腹の底から張り上げて「あらあら、1人じゃなーんにもできないか!」と叫んだが——吹き出してしまいそうなのを抑えるため、これ以上小松俊介個人を追撃することはなかった。
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走り,掻き分け、つたう。——まだ春先だというのに額から汗をかくほど必死、無我夢中に走り、『銀坐線』にまで辿り着いたが——あの『スズメ』、あの秀仁学園の生徒が今まさに階段を下り、俺のいるホームにまで辿りつかんとしていた。
「あの!!そこの転校……秀仁学園の先輩さん!」
またあの振り絞ったしゃがれ声が響く。と同時に、それを掻き消さんとする金属の擦れる甲高いブレーキ音がホーム一帯を支配した。
彼は何かを伝えたいようだが——どうせ名前も知らない、初対面、いやそもそも——
雨宮蓮は開いたばかりの電車のドアに潜り込み、人混みをかきわけ小松俊介の視界から消え去った。それを追いかけようと小松俊介も人混みに紛れて電車に入ろうとするが、その足は既に走るのを辞めていた。
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『次は〜青山一丁目前、次は〜青山一丁目前ー』
そそくさと電車から降り、他人に不審がられない程度に周囲を見渡す。——あの『スズメ』は見当たらない。
そうと気づいた彼の足取りには、焦燥や不安は消え去り、若干重いものの一歩一歩平然と踏み出していた。そうして駅の外に出れば、しと、しとと雨が降り出した。
彼にとっては若干の小雨であるが、「制服に染み込んだしまったら気持ちの良いものではないから」という理由をつけてもっともらしく、まだ開店の時刻では無さそうな、消灯してあるブティックショップの
俺の前を、多くの学生が通っていく。友達と他愛もなさそうなおしゃべりをやり取りする子もらいれば、下方を向いてぶつぶつと何かを言いながら早歩きをする学生もいる。すぐ隣同士に居るものの,何の言葉も交わさない、一体どんな関係性なのか疑問に感じる秀仁学園の生徒もいた。しかしその中に——余り見てはならないような光景も入り混じった。
「おい、高巻。こんな雨だから送ってくよ」
そう優しさを含んだ声を作って、車のガラス窓から片腕を乗り出して告げたのは、顔においてライン
一旦の間をおいて、その高巻と呼ばれた女子生徒が言われたままに車に乗り,すぐさま出発——するかに見えたが、その間の一瞬、先生とその女子生徒に、視線を向けられたような悪寒が走った。
——『噂の』転校生。
あの『スズメ』の言葉と光景がフラッシュバックし、余り浮かべたくのない予感が脳裏に走る。彼がその
「クソ、あの変態教師め!」
それは雨宮蓮にとっては、正に青天の霹靂だった。
色とりどりな感じを見せる秀仁の生徒の中で一際輝くように見えたその生徒。そもそもが滅多に見ない、前の時代の不良かとツッコミを入れたくなるボサッとした金髪、両の足を少し外へ開き、ポケットに手を突っ込み、野暮ったい顔面で威圧するように、くの字を想起させるその猫背の姿勢。明らかに関わってしまったら良い事は無さそうな生徒だった。——あの『スズメ』とは別の意味で。
「また女ばっか乗せやがって、男は無視かよ。クソ……」
苛立ちを露わにするその男子生徒の後ろで、雨宮蓮は困っていた。なんせこうゆうヤンキーは大抵、カツアゲや無差別な暴力によって怒りを治めようとする、と彼は実体験は経なかったもののそういう法則、決まり?があるかのようにいつからか理解をしていたからだ。
取り敢えず逃げるか?いや、道に詳しくもないのに回り道をするのか?それとも——彼が進んでくれるのを待つか?いや、それではストーキングじゃあ——
「あ?おい、何見てんだ?鴨志田にチクる為か?」
雨宮蓮は軽く絶望した。あの威圧の姿勢、その矛先が自分に向けられている。巡らせる打開の思考も、その焦燥に絡まり言葉にならない。
それでも、絡まり混沌とした言葉のまま、それを打開の糸口として打ち出す。
「その鴨志田って奴はずっとあんな感じなのか?」
金髪のヤンキー風生徒はその言葉に目を丸くし、次に怪訝がる。瞼を細めて、舐め回すように視線で雨宮蓮の全身をなぞってゆく。そして、
「えっ、オマエ……秀仁学園でお城の王様気取りしてる、女に甘く、男にキビシく、自分にはチョー激甘の鴨志田だぞ?……いや、やっぱ、オマエ秀仁だよな」
元々細めていた瞼をさらに細く、眉間に皺ができるくらいに細くして、屈伸しながら、雨宮蓮の背後に回り込みながらさらに全身をなぞるような視線を向ける。
「それにその制服、2年、タメか……ああ、そういうことかよ」
「?」
「まだ慣れねえだろうが、まず鴨志田にはぜってぇ気を付けろよ?じゃなきゃ……ココには居場所はねぇ。」
その金髪生徒は一瞬だけ、目を斜方にそらした。すぐにコチラの方を向き直したが、その目には少なくとも意欲満々アゲアゲフィーバーな日々を過ごしているだろう金髪ヤンキーに宿る訳がないほどの青い感情があった。
「おっと、ココでペチャクチャおしゃべりしてっと、遅刻すんぜ?秀仁はココを真っ直ぐだ。」
ヤンキー生徒がゆったりと身体を回転させ、その秀仁へ向けて踏み出し始める。自分はその後ろをついて行った。ストーキングすんなとイチャモンを付けられそうだと言う憂いは、その時だけは『変態教師、お城の王様、鴨志田』と三つの存在がアタマノナカを占めていたせいか全く無かった。
金髪生徒が壁沿いに配管が巡らされた裏道を進み、ジメっとした水溜まりを特にアクションを起こさず進むついでに躱し、そして僅かな腐臭を乗せるダクトからの風に煽られても表情一つ変えず歩み続ける。雨宮蓮も、まるで親鳥につきまとう雛鳥の様に大股で躱したり腐臭に鼻を押さえたりしながら金髪生徒の後ろをつける。
だが。
平然と歩を進めていた金髪生徒が突然止まり、硬直した様になる。雨宮蓮もつられて、硬直して歩を止める。
——彼等は目的地の秀仁学園に辿り着いた。
しかし、看板にある『私立秀仁学園高等学校』との文字とは全くの見当違いである事を堂々と隠さず示しているお城——壁にツタの這う、中世時代のヨーロッパや古今東西多くのファンタジーで見るあの石造りの古城があった。
「……なぁ〜ここって秀仁学園だったっけぇ?」
「……改装でもしたんでしょ」
「いやありえねぇよ!学校だぞ!?」と金髪の生徒は叫ぶものの、また腑抜けた感じに力無くその古城を見上げるのを他所に、雨宮蓮はナビゲーション機能を使おうとスマホを取り出しだが、瞠目した。
『鴨志田 秀仁学園 城 のナビゲーションを完了しました』——あの目玉アプリが勝手に起動しており、赤黒い画面にその文字が浮かんでいた。
「秀仁学園へナビゲーションしてみたぞ」
「どうだった!?俺たち、逆へ行ってなかったか!?」
「ほい」
金髪ヤンキー風の生徒に先程の画面を見せる。その生徒は一旦「いやお前それナビのヤツじゃねぇやん……」と膝から溶けるそうに崩れ落ちたが、「ってお前そのアプリなんだよ!?」と膝でジャンプし先の体勢から一瞬でピンと直立し、自分の見せたスマホを凝視する。
「いつのまにか入っていた。目のアイコンをしてるから……俺の事を監視するアプリ?なのかな」
「ってお前このお城より怖いモン入れてんじゃねぇよ……」
「消したら別アプリ乗っ取って復活するから無理」
途方に暮れた二人は古城の前で漫歩する。ウロチョロ歩き、顎に手を当て考えてる感じを醸し出し、そしてまた歩き……金髪生徒が突然「中に入って聞いてみようぜ」……雨宮蓮は「それは危ないよ……もしコレ不法侵入とかなんか法に触れてたら……」とすぐさま切り返したが、「こんな街中の城、ぜってぇ撮影のセットかなんかだよ、入ってみようぜ!」と軽く返され、答えに窮してしまった。
そして金髪生徒が古城の中に足を踏み入れんとした時だった。
「あ,あのっ!竜司先輩!てんこッ、……そこの二年の先輩!」
「お、おえ!?ありえねぇ!なんで俊介がここにいんだよ!?」
……なんで、
二人の後ろで膝に手をつき息を切らしながらも、彼等の顔を曇りなき瞳で望む少年……
やっとクロスオーバーの雰囲気出せたよ……1話目なんてペルソナ5マルパクリだし……