Persona5:Reverse Sun   作:くろたいよう

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第三話 その決意を『棒』に振れ

 

 「あ、あのっ!竜司センパイ!てんこッ、……そこの二年の先輩!」

 「お、おぇ!?何で俊介がここにいんだよ!?」

 

 坂本竜司と小松俊介の2人は顔を合わせ、互いにわななく。この異様、異形が満ちている世界の中でそれが確かな現実のモノであるか見定めるに、視界の中心に相手を捉える。

 

 「………?な〜んか、おっかしいなぁ……マジでお前、俊介ぇ〜?」

 「いや、何言ってるんですかセンパイ、俺です俺、一年ながら生徒会の書記まで上り詰めた小松俊介ですよっ」

 

 小松俊介はニキャッと純粋無垢な子供の様な笑みを浮かべ、『いいね』のサムズアップを相手方(竜司と蓮)に突き出して、そしてその親指で自分のことを指し示す。竜司は安心安堵を乗せた溜め息をほっ、と吐き、小松俊介の元に駆け寄り肩を組んだ。

 

 「いやぁ〜、一瞬びくったけど知り合いと会えて安心したぜぇ………あ、そうそう。俊介、お前この城についてなんかしらねぇか?」

 その問いに返ってきたのは勢い良く横に振られた首だった。

 

 「いやいや,俺もめっっちゃびっくりしましたよ、なんか気味悪いピンクの空に、ちょっとボロいあのお城ありましたもん。でも、竜司先輩もいて、俺も安心しました!」

 まるで子供が画面の奥のヒーローか連日無双獅子奮迅のスポーツ選手にでも憧れるが如くのキラキラした輝きに満ちた目を坂本竜司に向ける。それは何処か強く光りすぎていて、ちょっと照れ臭さを出しつつも、坂本は完全にそれ(俊介)から目線を切っていた。

 

 「あ、あ〜分かった、分かったよ……そうだ!一応人数は居るんだし、あの中入ってしまおうぜ!?多分何かの出しもんだろ?イベントやってるなら、楽しむべきだよなぁ!」

 坂本が小松に顔を向け直すと、今度は勢い良く首がブンブン!と縦に振られる。同意を一つ、得たことで次は雨宮蓮の方を向くが。

 

 「…………本当にそれは、いいのか?」

 その言葉は雨宮蓮からしてみれば強い拒絶の意思であったのだが、坂本からして見れば唯の疑問の言葉であった。それゆえに「どうせなんかの劇か出しモンだろ」とすらすらと返し、今度は雨宮蓮の方に寄る。

 

 「ははぁ〜ん、さてはこうゆう肝試し系が怖いのかぁ〜? ま、いいや。俺の後ろについてきな…………俊介!行くぞ〜!」

 「イェッサー!竜司センパイ!」

 

 

 

 ……そして二人は意気揚々と開けっぱなしの正門から古城の中に入っていった。

 

 ——あの時の竜司と小松は陽気で、微笑ましいくらいに仲睦まじいやつらだった。ああ言う如何にも無鉄砲で、短慮で、感情任せで、失敗を犯しても次の日には立ち直れる様な強い心の人間とは、小、中学生の頃……高校一年の頃も……良く俺の周りに居た。そんな奴らと居た中で、そもそもの性質が違う俺は彼らに憧れとは言えないが、羨望の気持ちを抱いていたことはあった。

 そして。その気質のせいであの日彼らの様に動いて。そして失敗した。致命的な人生の敗北を繰り返した。本来ならこの日、『愚者』であった俺は経験から学び、この二人が歩む道とは逆に向かわなければならなかった。敗北の、逆を歩むべきだった。

 

 ……今思えば、かつてから学ばずそれが出来ずに。彼らと同じく歩んだ俺がもう一度敗北を経るのは当然だった。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 「おわぁ〜すっごい広いなぁ〜……あ、竜司センパイ見てくださいよ!あんなめっちゃ高そうな作り物までありますよ!」

 「うわっ……マジかぁ、あのシャン……えーと、シャンなんとかだっけ?生で見たらエグいな……」

 

 苔むし、ヒビが入った古城の中は、意外にも豪勢な内見を見せた。

 天井にぶら下がり、金色装飾が逆行により輝くシャンデリアから、足の裏が浮遊した感覚を味わう程上質な毛を使うカーペット、果ては加工されて尚ほんの僅かに芳香を放つ手すりまで。

 

 ——最早三人はここが『元・学校』である事さえ忘れかけて、中央ホールを探索していた。

 

 

 「なぁ俊介!コレいわゆる、宝箱って奴じゃないか!?」

 「そーっすよ!形まんま、よく見るやつですし!」

 

 それでも無我夢中で中央ホールの階段下を探索し続ける二人とは違い、雨宮蓮は冷静にあるオブジェクト……一際豪勢な金色の額に収められた油絵を観察していた。

 それは猛々しく剣を掲げる金色鎧の騎士であり、そのあらわになっている容貌は……アレほど清潔、イケメンでは無いが何処かで……

 

「おーい!ここ何処かわかんねぇし、危ねえことあるかも知れないし、あんまり離れんなよー!」

 一際響き渡る大声……あの竜司の声に、雨宮蓮は「いや、ちょっと気になったモノがあって……来てくれないか」と返す。

 

 

 今まではしゃぐ様にホールを探索していた二人が、雨宮蓮の居るホール中央に集い——蓮の側に寄り、蓮が指し示す方角にある例の油絵を凝視する。

 

 「なぁ、お前らあの油絵で描かれた人物に見覚えはないか?」

 

 小松俊介は意気揚々と、「アレって鴨志田先生じゃん!」と言ったのちに、何のせいか分からないが竜司の方をチラリと見、そして俯きボツボツ小言が漏れるだけでその後まともな返答は無かった。しかし竜司は……あの油絵に対し皺を寄せ忌々しげに、「ああ、鴨志田の野郎にスッゲー似てる」と。

 

 「それもあの絵の中の奴、鴨志田の野郎の割には大層イケメンに描かれて、何よりアイツみたいに威張ってやがる……クソ」

 

 「やっぱりか……なあお前達、本当はこの古城、秀仁学園とは全く関係が無いんじゃ…?」

 

 竜司と俊介が、絵を凝視し続ける蓮の元へ振り向く。蓮は一度彼らをチラリと見たが、すぐ元へ向き直し、話を続け、

 

 「コレが何かしらの座興や催し物だとして、特定の個人を祭るような絵画なんて、ココが学園なら普通は作らないはずだ……この場所は普通じゃ無い」

 

 それを聞いた俊介が、まるで申し訳なく意見でもするように「あ、その……鴨志田先生は、一部の生徒からとても人気なんです」竜司の方を時々チラリチラリと見て、「そして,他の生徒もみんな、鴨志田先生が嫌いでは無いから、そういった一部の人たちが熱を持って取り組んで、こんなの作ることも…一応、ある…あります。」

 

 「かと言ってあの油絵もそうだが、とても催し物の一つでアレだけの質の物は……」その時だった。

 

 

 「貴様ら侵入者か!ホールがやけに騒がしいと思えば、ココで何をしているッ!」

 その声と共に此方(こちら)へ駆け寄ってくるのは、緑がかった青銅の鎧に全身を包んだ、やけに恰幅(かっぷく)の良い中世時代の衛兵を思わせる存在だった。

 

 重装甲に身を包んでいるとは思えない速度で、油断していた三人はあっという間に目前にまで詰められる。そして

 「大人しくしろっ!」

 「「うわぁあっ!?」」

 

 左手に構えたその兵士の胴程はあろう大盾を、地面へ向けて押し潰しにかかる。三人は足に全力を込めて飛び——命からがら回避する。

 

 突如、轟音。盾を地面に押し潰した程度では到底吹かない強風が、床に転がる彼らの髪を撫でる。

 

 

 

 ——後方に飛んだ竜司、前方に飛んだ蓮と俊介、そしてその空間の間を支配する謎の兵士。一瞬の時間(沈黙)ができ——それを竜司が破る。

 

 「お前ら!逃げろ!走って逃げろッ!!」

 それは怒号にも近い合図だった。不意の衝撃に、残りは硬直し——隙を突くように竜司は兵士にショルダータックルを喰らわせ、元々大盾の不安定さも相まり、兵士を後ろへ倒す事に成功した。

 

 「そ、そんなっ竜司センパイも一緒に」

 「無理だっつの!コイツはやべえし速え!てめえも見ただろ!?」

 

 俊介は半ば恐慌状態に陥っていた。竜司の指図も、それを増長させるだけ。——今まさに兵士が起き上がり盾を構えた。

 

 「センパイ!そんなの——

 俊介はそれ以上言葉を紡げなかった。蓮に手首を掴まれ強引に引っ張られると同時、俊介の足もその場から逃げるように回った。

 

 二人は振り返らず疾走する。途中で鈍い嫌な音が微かに耳へ入ったが、速度を僅かにも落とさず,駆けた——

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 ココは古城の地下だろうか。所々石壁が剥がれ、湿った土が覗くこの場所は確かに地下なのだろう。無我夢中で駆け抜けた結果——木製の扉を蹴破り、この牢獄チックな部屋へたどり着くことが出来た。

 

 「………………」

 あの『スズメ』はココに辿り着いてからずっと黙っている。明らかに動揺しているのが、ゆする足と見渡す様に動く眼球が明瞭に示している。

 この様な状況になったからには俺が何とかしなければ

 ——なんて、思える訳が無い。

 

 ——今更気付き後悔したのだが、俺はまたあの時の失敗を犯してした。前は政治家(これは裁判の時知った)から絡みつかれていた女の怪人を庇ってしまって、今回はコレだ。

 過去の出来事、怪人の関わる揉め事に深入りしたあの事件の一連が頭の中でリフレイン(再演)する。あの時はまるでコンベアに乗せられた商品が出荷されるように、俺の居ない輪の中で俺の行方が決められた。

 

 そして今回も同じ。あの金髪が俺たちを庇い、俺がこのカイジンをかばった結果、俺達は捕まっているだろう彼を()()()()()()()()()()()()()()()あのバケモノ(兵士)をどうにかして。

 ………ああ、こうやって破滅の道は道にあらず、こちらが進まなくとも向こうから迎えに来るのモノなんだ。この危険な城で単独行動は不可能、また入って来る際に通過した正門は侵入者騒ぎの中絶対に封鎖されているだろう。裏口を探し出そうにも金髪を探し出すまではあの『スズメ』が「竜司センパイ探さなくてホントに良いんですか」やらの言葉で確実に良心へ妨害をかけてくるから——!?

 

 何気なく『スズメ』を確認しようとした蓮は慌てて後ろへ下がる。彼の眼前には先ほど震えていた筈の俊介が強く、鋭い目つきで彼と向き合っていた。

 

 「びっくりしたぁ……いや、どうしたの?」

 「もう休憩もしましたし行きましょう」

 早口でまくしたてるその言葉には、確固たる意志と僅かな恐怖が混じっていることが感じ取れる。否——恐怖を圧倒的な決意が潰していたことが感じ取れた。

 

 「ちょっと待ってくれ——ああそう、作戦を立てなければ……待ってくれ」

 誤魔化し。心の問題を別の理由へとすげ替える(嘘をつく)

 

 だが、『スズメ』は。

 「俺、少しの間だけど飛べるんです。……ああ、いや!その……………」

 

 そして顔見知りの周りで独り言を聞き取られないよう呟く様に、「俺……カイジンなんです、スズメの」

 

 

 「知ってるよ。だって駅で差別主義者に文句言う所、見たから——」 この言葉は心の奥でつっかえた。それを言う事が憚られたと言う事だが……じゃあ俺は——何故この言葉を思い浮かんだ。

 

 「だ、だからっ!俺が飛んで,力もそこそこあるので!もし見つかっても、あの兵士とケンカくらい出来ますからっ!そうしてしてる内に、先輩は竜司センパイを連れてッ!ええと——その!」

 

 「待った」顔を熱に染めながら辿々しく、浮かぶ言葉を早口で紡ぐ小松俊介を雨宮蓮は毅然とした態度と言葉で釘を打つ。

 

 「ちょっと待ってくれ。——焦りすぎだ。そう勇み足で行動を起こせば必ず失敗する。まずは一分間くらい何も喋らず、動かず、心も体も落ち着かせてくれ、その後俺にどうするか伝えてくれ」

 

 ——その言葉に酷く動揺した。熱意を冷まされた小松俊介が……では無く、雨宮蓮が。怪人『なんか』と向き合い、()()真剣に向き合ってしまったと言う事実が。怪人を避けるべきだと強く心に留めた意志をこうして打ち破った事実が、彼を慄かせた。

 

 「いや、すまない。忘れてくれ」蓮は俊介を視界から切る。

 ——俺はあの日に、ただ静かに生きる事を誓ったと言うのに。親も先生も保護司も大人も、「厄介事に手を出すな」とみな口を揃え俺を諭した筈なのに。

 ——俺は自らの間違いを今日から矯正しなければならないのに。

 

 

 

 『お前はまだ自分の意思を信じているのだろう?

 「———ッ!」

 

 背中を蒼き熱と滾る圧力に灼かれ、反射的に振り向く。

 そこに在ったのは、熱も圧力でも無い、感じさせない、あの『スズメ』。しかしその目はかつて渋谷で見た()()1()()()()と同じ、決意の眼だった。

 

 「……行きましょう。竜司センパイを探しに。」

 1分の時間を経ても、その動向は僅かでも変わろうとしなかった。今更だが、『スズメ』の意思は本物である事を思い知らされた。

 

 「……覚悟は出来てるのか?」

 「怖くないのか?」「無謀ではないか?」そんな事が言えればどれだけマシだったのだろうか。小松俊介の答えは当然一つだった。 

 

 「とっくに出来てます。」

 

 

 

 ……今度は雨宮蓮が冷静に思案を巡らせていた。喋らず、動かず、心も体もひとまず休止させて。このままでは絶対自分もついて行かざるを得ない。だから——それだけは……いや、それは余り……

 

 

 

 

 

 そうして浮かんだ言葉を、咄嗟に並べる。カイジン相手に誠実になってしまったとか、しょうもないプライドはこの時だけ捨てて。

 「なぁ、なんで人を助け出せるかハッキリ分からない程、恐ろしい相手なのに、そう葛藤の一つもせず動けるんだ?駅では差別主義者に震えてた癖に……俺は、正直怖いよ、助けれると思ってないし、俺たちがどんな目にあうかすら分からない。」

 

 地下に来てたらずっと頭にある事。先が見えない恐怖、常識が通用しないこの謎の世界で、常識が通用しなかった現実世界での俺の歩み(敗北)が示す前例。

 それらの恐れは一朝一夕で振り払うことなど出来ないのに、何故同じく恐怖を覚えている筈の『スズメ』はいとも容易く振り払えるの?と。

 

 

 ——その答えは、またしても確固たる視線(覚悟)と共に呆気なく帰ってくる。

 

 

 「だって、ウジウジ悩む事なんて、時間の無駄だから。失敗を悔やんでする葛藤なんて、墓場でやってれば良いし。——ある子が言ってた事の、受け売りだけどね。」

 

 ——この時、俊介が身近な存在である、とある『活動家』を思い浮かべていた事。そしてその言葉を丸々引用しただけで、現在の俊介ごときとその活動家とでは全く心構えも、覚悟の質も違っていた事は、蓮には知る由もなかった。

 

 だから、蓮には俊介がとても大きく見えた。自分がひどく矮小な存在である事を実感させられ、恥ずかしさを覚えた。——自分が、他人を見捨てようとした下衆であるとさえ錯覚していた。

 それ故に、ある意味冷静な思考を欠いて、

 

 

 「……分かった。俺も協力するよ。助けられた恩もあるし」

 そう口にしてしまった。

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