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「ワカモ!スイッチ!」
「承知いたしましたわ!」
目の前のFOX3からの銃撃を防ぎながらワカモにそう呼びかけてポジションを入れ替え、背後から飛んでくるFOX4からの狙撃を盾で受け流す。
そのまま盾を回転させてワカモに襲いかかる七度に体当たりを仕掛けて弾き飛ばし、カバーに入ってくるFOX2へブークリエの銃口を向けて引き金を引く。
火薬の爆発する音とともに、ブークリエからフルオートで放たれた散弾が一斉にFOX2へ襲いかかった。
「やらせないわよっ!」
それに反応したFOX3が即座に俺様とFOX3の間に割り込むと手にした盾で散弾を全て受け止める。
だが、その隙を見逃す俺様ではない。
俺様は空になったブークリエのマガジンを振って飛ばしつつ、その場で足を地面に踏み込んで一気に前へ出る。
その過程でブークリエにマガジンを差し込んでチャージングハンドルを弾いてチャンバーに弾丸を送り込んだ俺様は、そのままの勢いでブークリエのストックをFOX3の盾に叩きつけた。
「甘いわっ!」
しかし、俺様のストックを受け止めたFOX3は盾を大きくその場で振って俺様を弾き飛ばしにかかった。
ストックを跳ね除けられた俺様は後ろへ跳躍するが、着地と同時に目前に七度が迫って来る。
「覚悟しろ!」
「やらせません!」
七度は俺様へ向けて手にした銃の銃口を突き付けてくるが、横から割り込んできたワカモが七度に飛びかかると銃口を蹴り飛ばして照準を俺様から強引に逸らす。
そのままワカモと七度は取っ組み合いを始め、そのカバーをするために駆け寄ってきたFOX2へ向かって俺様は手にした盾を振りかぶってぶつける。
「させないわよっ!」
だが、俺様とFOX2の間に割り込んできたFOX3が盾をねじ込んできた事により俺様の振りかぶった盾はFOX3の盾を叩いた。
すかさずそのまま盾に力を入れようとする俺様だが、突如背中に悪寒が走る。
「っ!ワカモ!」
「はいっ!」
俺様は一にも二にもなく即座に盾を引っ込めると、そのまま10時の方向へ盾を掲げてFOX4の狙撃を防ぐ。
その過程でがら空きになった俺様の脇腹をFOX3は見逃さなかったが、俺様の隙をカバーする形で飛び込んできたワカモの蹴りがFOX3の盾へと突き刺さる。
「ナイスカバーだワカモ!」
「ウフフ、お任せください。タツミさんには傷一つ付けさせませんわ!」
俺様とワカモは互いに顔を見合わせて笑みを浮かべるとそのまま背中を預け合い俺様はFOX2・FOX3と、ワカモは七度と対峙する。
「くっ、何なのこいつら!さっきから隙を狙って狙撃しているのに完璧に防ぐなんて……!」
「ウフフ♡これが愛の力と言うものですよ、彼氏の1人すらいない負け狐さん?」
「う、うっさいわね!ひと足早く大人の階段を登ったからってアンタにそんな事言われる筋合いはないわよ!」
仮面の下から余裕たっぷりの様子でそう言うワカモに対し、FOX3はキーッ!という表情で大声を上げる。
いや、と言うかそもそも俺様はワカモの彼氏ではないんだけど……まぁ、あんな事をしておいて強くその事を否定できないのも事実ではあるんだけどな。
「……っ。FOX1、ちょっとまずいかも。」
「何だ?どうしたFOX2。」
「近くに生態反応がある。それも2つ。どうやらこっちへ向かってきている様子だよ。私達の位置を悟られないように工作していたつもりだったけど、戦闘が長引いたから徐々に効果が薄れているみたい。」
「……何?」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、FOX2は手元の端末を見ながら苦しげな様子でそう呟いた。
工作というのが何のことかは分からないけど、FOX2の口ぶりからして恐らく認識阻害とか聴覚妨害とかの類のものだろうということは推測できる。
事情はどうあれFOX小隊のやっていることは指名手配犯のワカモの逮捕だけならともかく、曲がりなりにもゲヘナの議長代理である俺様の命をも狙っている行為。
世間に露呈すれば追求は避けられないだろうし、SRTの復興だって遠のいちまうだろう。
まぁ俺様とてやっている事は指名手配犯のワカモを庇う行為なわけだから正直どっこいどっこいな気はしなくもないんだけど、それでも弱みがあるのはお互い様だ。
それにこの島には先生やアビドスの皆も居るし、精鋭部隊であるこいつらがそれを把握していないはずはない。
だから恐らくその辺りに悟られないような工作ってことなんだろうが、俺様とワカモ相手にここまで苦戦するとは思っていなかったんだろうな。
そして、恐らくFOX2の言った2つの生態反応というのは十中八九先生かアビドスのうちの誰かだろう。
俺様が先生にホテルを出てヘリの墜落地点へ向かっていると連絡してから体感でもうとっくに1時間以上は経過しているし、流石に遅いと踏んで俺様を探しに来ていても何ら不思議な話ではないからな。
問題はその2人が誰かって話なんだけど、恐らく誰であろうと部外者にこの現場を見られることはFOX小隊にとっては致命的であることは間違いないだろう。
これがワカモだけであればSRTの特殊部隊が七囚人を逮捕するための戦闘ということで通るだろうけど、この場には俺様もいるわけだからな。
FOX2の少し焦った様子からもそれは伺い知れる。
「どうするFOX1?流石に部外者に見られるのは……」
「フン、問題ないだろう。確かに我々は狐坂ワカモのみならず丹花タツミとも戦闘をしているが、元はと言えばそこの丹花タツミが狐坂ワカモを庇ったからだ。」
FOX2の問いかけに、七度は特に顔色を変えることもなく平然とそう言い放った。
「我々が逮捕しに来たテロリストを庇うと言うのはSRTへ対する明確な反逆行為であり、公務執行妨害に当たる。よって私達は制圧行動を行っているのであって、見られた所で何も問題はないだろう。」
「……よくもそんな嘘を堂々と吐けたものですね、七度ユキノ。」
七度がつらつらとFOX2へ向けて話していると、俺様の横で銃を構えていたワカモが怒りの形相で口を開いた。
「貴方達の目的はタツミさんの暗殺のはずです。私の逮捕云々というのは、たまたま私が貴方達によるタツミさんの暗殺の現場に居合わせた事による都合の良い方便に過ぎないでしょう。」
手にした歩兵銃を七度へ向けて構え、不機嫌さを隠そうともせずにそう言葉を放つワカモ。
「あるいは私も【ついで】に逮捕することにより、SRT復権への足がかりにしようとしたのかもしれませんが……どちらにせよ、貴方達の目的はタツミさんの暗殺。その言い分は真っ赤な嘘もいいところです。それが分かっているから、そこのFOX2も慌てているのではなくて?」
「それは……」
「フン。貴様のようなテロリストに真っ赤な嘘だと言われた所で誰がその言い分を信じると言うんだ?」
ワカモはFOX小隊へ揺さぶりをかけるかのごとくそう言うが、七度はそれがどうしたと言わんばかりの表情で平然とそう言い放った。
「……すっかり変わってしまいましたわね、七度ユキノ。今の貴方はまるで生気のない野良犬のよう……過去に私を逮捕した時の鬱陶しいほどの正義感に溢れていた貴方のほうが、よっぽど貴方らしかったですわよ?」
「……黙れ。貴様に私の何が分かると言うんだ。」
「私とて自分自身の行いが善ではなく悪であるということは承知しております。ですが、キヴォトスにおいて殺人というのは一番犯してはならない禁忌。いくら私とは言え、そんな事を嬉々として実行する特殊部隊の人間がいないことくらいは理解できましてよ?」
「黙れと言っているだろうっ!!!」
淡々とそう言うワカモにしたいして、七度は苛立ちを隠そうともせずに大声を挙げた。
「お、落ち着いてFOX1!」
「……ともかく、この現場を見られた所で私達がテロリスト1名と共謀者1名を逮捕しようとしている現場という事実は揺るがない。少なくとも、客観的に見ればな。」
「へぇ。果たして本当にそうかな?」
「……何?」
俺様はワカモの横に並びながら七度へ向かってそう言葉をかけると、七度は俺様を鋭い眼光で睨みつける。
「……フン。例え何と言おうが、貴様が我々に対する公務執行妨害をしていることは客観的に見た事実だ。」
「確かに俺様がワカモを庇っているのはお前達の言うように事実だから、俺様だってそこを否定するつもりは毛頭ない。この現場を見られたら俺様だってマズいのは変わりないが……お前達だってマズいんじゃないのか?」
「……何が言いたい?」
「分からないか?確かにこの現場は俺様がワカモを庇っているのは事実だが、お前達が俺様の命を狙って襲撃を仕掛けてる現場でもあるってことだよ。」
怪訝な表情を浮かべながらそんな言葉をこぼす七度に対して、俺様は一歩も退くことなくそう言葉を返す。
「フン、何を言うかと思えば……自分の状況を理解していないようだな?お前がテロリストと協力して我々に歯向かっているのは見れば分かるが、我々がお前の命を狙っている証拠はどこにも無いじゃないか。それで誰がお前の言い分を信じると言うんだ?」
「へぇ、俺様の命を狙って襲ってきたって事は否定しないんだな?」
「黙れ、質問に答えろ。」
「……そりゃ確かに何の証拠も無ければ、俺様の言い分はただの言い訳にしか聞こえないだろうよ。テロリストに協力してるゲヘナの生徒がSRTから命を狙われていると言った所で、信じるやつはいないだろう。」
そう、自分の趣味で街をいくつも消し飛ばしている七囚人と協力してSRTの特殊部隊と戦闘をしている奴がそんな事を言った所であまりにも苦しい言い訳に過ぎない。
「それが分かっているなら、むしろこの現場を見られて困るのは我々ではなくお前の方じゃないのか?」
「あぁ、その通りだ。……お前達が俺様の命を狙っているって証拠がない場合はな?」
「……何?」
そんな七度にニヤリとした笑みを浮かべてやりながら、俺様はポケットからスマホを取り出した。
「……スマートフォン?」
「まさか……!?」
「フン、そのスマホがどうしたと言うんだ?」
「分からないなら教えてやるよ。こういうことだ。」
そんなスマホを見ながら、不思議そうに首を傾げるどれがどうしたと言わんばかりに七度。
そんな彼女に視線を送りながら、俺様はスマホの録音アプリを呼び出して再生ボタンをタップする。
『丹花タツミ、貴様をテロ共謀罪で拘束する。』
『狙いは始めからタツミさんだったのでしょう?』
『キヴォトスにおいて殺しは禁忌とされている行為、それが何を意味するかはお前達にも分かるはずだ。』
『フン、【そんなのは承知の上】だ。』
『へぇ、俺様の命を狙って襲ってきたって事は否定しないんだな?』
俺様が手にしたスマホのスピーカーからは、FOX小隊が襲撃してきてから今の今まで俺様やワカモと交わしたやり取りが無機質に規則正しく流れている。
そう、俺様はこんな事もあろうかとFOX小隊の襲撃直後にスマホの録音アプリを起動していたのである。
「なっ、それは……!」
「俺様は今はゲヘナの議長代理をやってるんだが、やっぱ学園のトップともなるといざこざに巻き込まれる機会もそれなりに多くてな。自衛のためにこういう時は記録を残すようにしてんだよ。お前らと同じようにな?」
驚愕したような表情を浮かべる七度に対して、俺様はそんな言葉を投げつける。
「記録を残すってのはお前達の専売特許じゃないってことだ。残念だったなFOX小隊。」
「貴様っ……!!」
「……けど、いくら貴方が私との会話を録音していたとは言えその中に私達が殺人を請け負ったと認めた発言はないはずだよ。それに、そんな記録は合成音声を用いた捏造だと主張することだって出来る。」
俺様の音声記録を前にして明らかに狼狽える七度の前に冷静な表情を浮かべたFOX2がショットガンを構えながら出てくると、俺様を睨みながらそう言ってくる。
「確かにお前達FOX小隊が直接殺人をしに来たと言っているログは無いが、会話の中で暗に認めるような発言をしている場面はある。そもそも合成音声だのなんだの言っているが、こんな音声が出回った時点で合成だったとしても問題になるのは目に見えてるはずだぞ?例えこの記録が偽物だったとしても、噂が広まればそう簡単には消えない。人の口に扉は立てられないからな。」
「……私達との会話を最初から録音していたなら、貴方と狐坂ワカモが一夜を共にした関係だって事も会話の中で記録されているはずだよ。それは貴方にとって隠さなければいけない爆弾だって言うのは理解しているよね?」
「あぁ、もちろん分かってるさ。」
FOX2の問いかけに、俺様は涼しい顔でそう答える。
「なっ、開き直るつもり!?」
「開き直るも何も俺様とワカモが一夜を共にしたのは紛れもない事実だからな。それは何をどうしたって違いないし俺様はこの一件を有耶無耶にするつもりはない。」
「タツミさん……」
「……そして、お前達FOX小隊にその事を脅しの道具に使わせるつもりだって微塵もない。」
俺様はFOX2を睨みつけると、出来るだけ低くドスの利いた声を出して威嚇する。
「確かにお前達は俺様とワカモの昨日の夜の記録を持っている。けど……FOX小隊が丹花タツミの命を狙った。この事が外部に漏れるとマズいのはお前達も同じ。つまり俺様達は互いの心臓に銃を突きつけ、どちらかが撃てば共倒れになる状態って事だ。」
「それは……!」
「もしお前達が俺様とワカモの記録を公表するなら俺様だってこの音声を世間に公表する。確かに俺様の責任追求は逃れられないけど、お前達だってただじゃすまないはずだぞ。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるFOX小隊の面々に対し、俺様は淡々と言葉を発していく。
「お前達の目的はSRTの復権、ならそのイメージはクリーンなものじゃなきゃならない。当然だ。SRTってのは本体なら悪から市民を守るための組織であって、人殺しを請け負うような集団じゃねぇんだからな。」
「だからと言って、世間がお前の味方をするとは限らないだろう!?」
「そりゃそうだろ。理由はどうあれ、俺様はワカモを庇ってお前達に牙を向いたことに変わりはない。その事を否定するつもりはないさ。だが、お前らは連邦生徒会を襲撃して役員を病院送りにしたって前科もある。そんなところへこんな音声が流れたら……それこそ、世間がどんな反応をするかは理解出来るんじゃないのか?」
こいつらのSRT復権を目指す気持ちに嘘はない。
それは人殺しなんて言う、キヴォトスに於いては最も避けるべき事を請け負ってまでこうして俺様に襲撃を掛けてきている事実から見ても明らかだ。
なら、そこへこんな暗に人殺し任務を請け負っていることを匂わせているような音声ログを公表されればSRTの復権なんて夢のまた夢へと消える。
何故ならば、そんな事をすれば人殺しによって再建されたSRTなんて最早テロリスト集団と何の違いも無いと言っても過言ではなくなるからだ。
そう、だからこれは俺様からFOX小隊に対する脅しだ。
お前達が俺様とワカモの本来なら墓にまで持っていくべき事を公表すると言うならば、こっちだってお前達が人殺しのために襲ってきたことを公表するぞと言う脅し。
同時にこのログにはFOX小隊が自分たちの意思ではなく逆らえない立場の人間からの命令によって動いているだろうと思われる音声も残されている。
そう、これはFOX小隊に対する脅しであると同時に彼女達を裏で操っている黒幕へ対する強烈な牽制にもなる。
確かにワカモとのログを公開されれば俺様は議長代理の座を追われるだろうし、最悪テロ共謀罪によって矯正局へ収監されてしまうかもしれない。
だが、このログを公開すれば少なくともFOX小隊を道連れにすることは出来る。こいつらだってSRTの復校を果たさず道半ばで倒れるようなことは望んでないだろう。
政治的にも人道的にも、俺様が我慢できずにワカモに手を出してしまったせいでこんな事になっているのは間違いないからそこは猛省するしか無いが……なってしまった以上はこっちだって打てるべき手は打つべきだからな。
とは言え、もし彼女達がこの事を恐れずにワカモとの音声ログを世間へ公表すれば俺様とて無事では済まないから到底解決策と呼べるものではないのも事実だが……
恐らくだけど、彼女達の裏に付いている黒幕とて彼女達のようなSRTの特殊部隊という手駒を失うのは痛いだろうからそれは避けてくる可能性が高いだろう。
それでも公開されたその時は……まぁ、矯正局の中で責任を取ってワカモと添い遂げるのも悪くないかもな。
卑怯と言いたければ言え、ゲスと言いたいなら罵れ。
そもそも俺様はあのゲヘナ学園の議長代理。
テロが日常で毎日建物が爆発して、毎日誰かが怪我をしているキヴォトス1治安が悪いとされているゲヘナ学園。
そんなルール無用の学園の代表なんだ。
なら、たまにはこうやって悪役らしい事をしても文句は言われないだろう?
「で、FOX2の話によると確か生態反応が近づいてきているんだったな?先に言っておくけど、その生態反応ってのはほぼ間違いなく俺様の知り合いだろう。」
「くっ、あのアビドスとかいう連中か……!」
「その通りだ。彼女達は俺様とはそれなりに仲良くしてくれているって自覚はある。そんな彼女達が俺様の言い分と、見ず知らずのお前達の言い分。どっちを聞いてくれるかは……言わなくても分かるよなぁ?」
もうここまで来たら、とことん悪役に徹してやろう。
俺様はニヤリと笑ってそう言うと、FOX小隊へ向けてありったけの敵意をぶつける。
「くっ……特大のネタを掴めたと思ったけど、まさかそれが私達を巻き添えにして大爆発を起こす諸矢の剣だったとはね。してやられたという他無いわ。」
「……仕方ない。こうなれば、最早音声ログごと丹花タツミを消し去ってしまうしか方法はないだろう。」
そう言って、手にした銃を俺様へ向けてくる七度。
そんな七度から目を離すことなく、俺様は手にした盾を地面へと突き立てる。
「面白ぇ、やれるもんならやってみろ。」
「……FOX1。流石に分が悪いと言わざるを得ないよ。確認してみたけど、生態反応は彼の言う通り1人はアビドスの生徒で、もう1人は丹花タツミの妹みたい。」
……何だと?
「彼の言う通りアビドスの生徒が彼と親しくしているのはFOX4からの定期連絡で把握済みだし、もう1人は彼の妹となれば尚更私達があの2人を拘束するって言う言い分を聞き入れてくれる可能性は低いんじゃないかな。」
「ならば、目撃者は全て拘束するまでだ。そのアビドスの生徒や丹花タツミの妹がどれほどの実力者なのは分からんが、任務の邪魔をするなら……」
ードンッ!!!ー
気がつけば、俺様はブークリエの引き金を引いていた。
ブークリエの銃口から放たれた散弾は、そのまま七度の足元へ着弾する。
「……何のつもりだ、丹花タツミ。」
「黙れ。聞くに耐えない戯言を垂れ流すんじゃねぇ。」
今、目の前のこのクソ狐は何と言った?
任務の邪魔をするなら、イブキを拘束するだと?
「おい、七度。」
「……何だ、丹花タツミ。」
「お前ら……SRTの誇りはどこへやったんだ?」
七度へブークリエの銃口を向けながら、俺様は黒髪の狐のことを殺さんばかりの視線で睨みつける。
「SRTの復権のためなら何でもするってのは分かる。その過程で人殺しを請け負ったから、俺様を殺しに来てそのついでにワカモも逮捕しちまおう。ここまでは百歩譲ってギリギリ、マジでギリギリ理解できなくもねぇ。」
まぁ人を殺した上で復興したSRTなんてロクなもんじゃないだろうが、こいつらにとってはSRTってのは人を殺してでも復権させたい大切な大切な母校なんだろう。
「だがな、その過程で目撃者になりそうな民間人を攻撃するならそれはもうテロリストと変わりはねぇぞ!!」
こいつらが俺様の命を狙うのはまだ分かる。
何故ならいくら逆らえない奴に命令されて自分の意思では無いとは言え、それはこいつらがこなすべき任務。
その過程で俺様とワカモを結びつける証拠を手にしたから、元々七囚人としてキヴォトス中で指名手配をしているワカモの逮捕もやってしまおうってのもまだ分かる。
だが、目撃者になりそうな民間人を始末する。
これは違う。いくらなんでも、それだけは違うだろう。
「SRTは本来、テロリストみたいな連中から市民を守るために設立された学校なんじゃないのか!?自分たちの屈強な正義を実行する組織じゃないのかよ!?」
月雪は言っていた。
正義とは、理にかなった正しい道理のことだと。
そんなブレない正義を追求するSRTの姿に、月雪は憧れてSRT特殊学園を目指したのだと。
だが、今目の前の七度は何と言った?
目撃者は全て拘束するだと?
それのどこに正義がある?
それのどこに理にかなった正しい道理があるってんだ?
「いい加減にしろよ七度ユキノ!!!それがお前達の正義だとでも言うつもりか!?あぁ!?」
そんな考え、認めるわけには行かない。
イブキや先生やアビドスの危険に晒すわけには行かないし、それに何よりも……七度の発言は月雪のSRTに対する憧れや思いを否定するものにほかならない。
「正義ってのは理にかなった正しい道理のことじゃなかったのか!?それがSRTの、お前らの掲げている正義ってやつじゃなかったのかよ!?」
「貴様、何故それを……!?」
「それを自分たちの任務の邪魔をするなら民間人を攻撃するなんて、自分の目的のために人を傷つけるテロリストと何が違うってんだ!?」
ブークリエを構えながら、俺様はひたすら叫び続ける。
「ハッキリ言ってやる!今のお前達はただのテロリストだ!月雪は言っていたぞ!FOX小隊の事を尊敬してるって!そんなお前がSRTの尊厳を傷つけるようなことを言って後輩の思いを踏みにじって良い訳がねぇだろうが!」
「黙れ丹花タツミ!貴様のようなテロリストに協力する犯罪者にそんな事を言われる筋合いはない!!」
「ハッ!何の罪もない民間人に危害を加えようとするお前らみたいな奴なんかより、ワカモの方が何倍もお行儀がいいに決まってんだろうが!」
こちらのことを鋭い表情で射抜いてくる七度の殺意のこもった視線に一歩も怯むことなく、俺様は盾をダンダンと打ち鳴らしながら叫ぶ。
「俺様を殺そうとするのはこの際まだいい!だがもしお前らがイブキを傷つけたり、ワカモをバカにするってんなら容赦しねぇぞ!誰の指示で動いてんのかは知らねぇが、お前ら全員ぶっ飛ばしてやるッ!!!」
「お、落ち着いてくださいタツミさん!」
そして俺様はそのまま勢いに任せて突撃しようと地面を踏み込むが、そんな俺様の肩をワカモが掴む。
「っ!?離してくれワカモ!あいつは月雪の思いを踏み躙っただけじゃなくて、イブキにまで危害を加えると言いやがったんだ!この手で一発ブン殴ってやらねぇと気がすまねぇんだよ!」
「えぇ、それは理解しています!ですが頭に血が上った状態で無策で突っ込んではタツミさんが危険です!そんな事、このワカモが許すわけには参りません!」
ワカモはそのままFOX小隊の銃撃を喰らわないように俺様の盾に身を隠しながら、俺様の前へ立った。
「……タツミさん、こう見えて私も内心は怒りで打ち震えていますのよ?目の前で想い人の妹に危害を加えると宣言されたのです。私とて人の子、それを聞いて何も思わないわけではありません。」
真剣な表情で俺様を見ながらそう言ってくるワカモの言葉を聞き、俺様はハッとなる。
俺様の肩を掴んでいるワカモの手を見ると、その手は怒りを我慢しているかのようにプルプルと震えていた。
「貴方は私の大切な人です。そして大切な人の何よりも愛する妹とあらばそれは私の守るべき対象ですから。」
「ワカモ……」
「ですが先程も言ったように相手はあのFOX小隊。無策で突っ込んで勝てる相手ではありません。」
真剣な声色で俺様に必死にそう訴えるワカモ。
……確かにワカモの言う通り、相手は殺人を請け負うほどプライドを捨てているとは言えあのSRTの精鋭部隊。
あのまま頭に血が上ったまま突っ込んでしまっては決して勝てなかったであろうことは確かだろう。
考えてみれば迂闊な行動だったと言わざるを得ない。
……だが、あいつらは月雪の思いを踏みにじった。
その上でワカモを馬鹿されて……それに何よりも、イブキに危害を加えると言われた瞬間に俺様はそれまでの思考が吹き飛んで頭が真っ白になってしまった。
それで黙っていられるほど、俺様は冷静な人間ではないからな。可愛いイブキを危険な目に合わせるなど、そんなことは俺様が死んだとしても許される事じゃない。
だがいずれにせよ、俺様が迂闊な行動に出たのは事実。
その点ではワカモには感謝の言葉しかない。
「……すまんワカモ。少し熱くなっちまったみたいだ。」
「いいえ、タツミさんは何も悪くありません。悪いのはFOX小隊の連中なのですから。」
俺様はワカモに対して謝罪するが、ワカモは仮面を少しずらして優しげな笑みを浮かべるとそう言った。
そして俺様の頭を数回撫で、そのまま仮面を被り直す。
そんな彼女の笑顔を見て不思議と冷静になれた俺様は、深く息を吐いて目の前のFOX小隊に視線をやった。
さて、もうこうなった以上ここへイブキ達を近づけるわけには行かなくなった。
FOX小隊が民間人に危害を加える意志がある以上、こいつらはここで何が何でも無力化しないといけない。
……大丈夫。ワカモのおかげで冷静さは戻ってきている。
俺様は俺様に出来ることをやるだけだ。
誰に命令されているのか、後ろにどれだけ強大な黒幕が居るのかは分からないが……この俺様の前でイブキに危害を加えると宣言して、無事でいられると思うな。
お前ら全員、ぶん殴って目を覚まさせてやる!!!
「行くぞ!覚悟しろよテロリストども!」
「テロリストにテロリストなどと言われる筋合いはない!貴様達こそ、生きて帰れると思うな!」
互いにそれぞれの武器を構え、睨み合いになる俺様達とFOX小隊の面々。まさに一触即発という雰囲気だ。
最早誰が引き金を引いてもおかしくはない、息が詰まるほどの極限の緊張感が周囲に漂う。
『FOX1聞こえる?こちらFOX4。【彼女】からの指令が来たよ。一旦撤退しろだってさ。』
そんな中その空気を引き裂いたのは、七度の胸に取り付けたトランシーバーから聞こえてきたノイズ混じりのFOX4による通信だった。
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「FOX4からの通信を通じて戦いぶりを拝見していましたが、何をやっているのですかあの人達は!特大のネタを掴んだところまでは良かったものの、こちらの弱みまで丹花タツミに握られるなんて迂闊もいいところじゃないですか……!」
「くっ、これではお互いの首に片方が爆発したらもう片方も爆発する爆弾を同時に仕掛けられたようなもの。なるほど、ただでは転ばないというわけですか。……まったく、とことん厄介ですね彼は。」
「仮に我々が丹花タツミと狐坂ワカモの記録を公表すれば必ず丹花タツミも録音ログを公表するはず。そうなると彼の人望からして、FOX小隊に対する尋問が行われても何ら不自然な話ではありませんね。」
「SRTの方々は敵からの尋問によって口を割らない訓練も受けていますが、彼女達とて女子高生。何度も何度も口を割るまで尋問を続けられてはいずれ私との繋がりを吐いてしまう可能性はある……となると、今回手に入れた記録を使用するのはあまりにもリスクを伴いますか……」
「それにFOX小隊の皆さんはSRTきっての精鋭部隊。ここで使い捨てるには余りにも惜しい存在です。オトギさんの報告によると丹花タツミの仲間も迫っているようですし……仕方ありませんね。ここは一旦彼の暗殺は諦め部隊を撤退させるしかありません。」
「今回彼を仕留め損なったのはあまりにも痛いと言わざるを得ませんが……共倒れになるとは言え、彼の首に爆弾を仕掛けられたのは収穫だとするしかありませんね。確かに記録を露呈させれば私達は危険に晒されますが、それは彼とて同じことだから互いに抑止力にはなるはず。なら、何もできないよりは遥かにマシです。」
「手に入れた記録については、また後ほど安全に使用できる方法を考えるとしましょう。ともかくまずはFOX小隊の皆さんに引き上げるよう指示を出すのが先決です。彼女達の存在が露呈するのは別に構いませんが、マズいですからね。」
「それにしても、丹花タツミ……まったく、どこまでも小賢しい男ですね……!」
あと数話でリゾート編は終了となります