転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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突如撤退を命じられたFOX小隊
果たして彼女達との決着は……


撤退と直感と丹花タツミ

息も詰まるような雰囲気を切り裂くように、突如その場に鳴り響いたFOX4による通信。

それはその場の空気を一変させるものだった。

 

「何?撤退しろだと?どういう意味だ?」

『さぁ?理由は良くわからないけどこれ以上そこで戦闘を続けるのは不利になるんだってさ。いいから撤退しろってかなり強い口調で言ってたよ。』

 

通信機からノイズ混じりに聞こえてくるFOX4と思われる生徒による声を聞き、眉をひそめながら胸元の通信機に向かってそう聞き返すFOX1こと七度ユキノ。

そんな七度の隣でこちらへ向かって銃を構えているFOX2やFOX3も、その通信を聞いて微妙な顔を浮かべている。

 

……と言うか、今通信機を通じて七度にコンタクトを送ってきているFOX4の口からは【彼女からの指令が来た】との言葉が発せられていた。

それはつまり俺様の読み通り、FOX小隊の後ろには裏からこいつらに指示を出して操っている黒幕が居るということを決定づけるものに他ならない事を意味する。

 

まぁ七度もFOX2もFOX3も今回の任務を苦虫を噛み潰したような表情で行っていたから自分たちの意志とは考えにくかったが……やはり、という他ないだろう。

SRTの復校を餌にして、彼女達が殺人なんてキヴォトスにおいては最も禁忌とされている任務を請け負うまで追い詰めるとは……到底許せる話ではない。

 

(ちっ……胸糞悪い話だ。)

 

既に解体が決まっているとは言え、SRT特殊学園は連邦生徒会長直属のエリート部隊だ。

そんな部隊を手駒にして扱えるんだから、彼女達の後ろに居る黒幕はそれなりの権力を持っている立場の人間だと見て良いだろう。

更にFOX4の【彼女】という呼び方からして、黒幕の性別が女性であることが伺える。

ということは、少なくともカイザーのような人型のロボットではないということは確定した。

 

となると、怪しいのはSRTの構造を熟知した人物かつSRTの復校をチラつかせてもFOX小隊がそれを疑うことなく飲み込める程の権力を持つ立場の人間という事になる。

 

(まさかとは思うが……)

「FOX1、私は賛成かな。」

 

俺様がFOX小隊を睨みつけ、警戒を解かずに思考を巡らせていると突如FOX2が静かにそう呟いた。

 

「私達だけじゃとてもじゃないけど丹花タツミと狐坂ワカモを崩しきれているとは言えないし、生態反応はアビドスと彼の妹……つまり私達の敵となる存在。2人相手に苦戦を強いられているのにそこに更に2人加わるとなるとこれ以上の戦闘は危険かもしれない。」

「私もそう思うわ、FOX1。ここに更に敵が増えるのはマズいし、それに私達は丹花タツミと狐坂ワカモの弱みを握っている。まぁ、あいつらにも私達の弱みを握られた以上は痛み分けだと言うしかないけど……ともかくこの現場を見られるのはマズいでしょうからね。」

 

FOX2のそんな言葉に、FOX3も渋い表情で賛同する。

仲間の意見を聞いた七度はこちらから視線を外さずにしばし考え込んだあと、静かに口を開いた。

 

「……仕方ない、撤退するぞ。」

 

そう言って銃を降ろしながら、淡々と発言する七度。

 

「あら、あれだけ自信満々に襲いかかってきておいてタツミさんと私に敵わないと見るや即撤退とは……ウフフ、とんだ拍子抜けですわね。」

「……黙れ。貴様のような秩序とは無縁に暴れまわるような輩にそんな事を言われる筋合いなどない。」

 

仮面に手を当てて愉快そうにそう言うワカモの言葉に、不機嫌さを隠そうともせずにそう返す七度。

 

(……秩序とは無縁ねぇ。)

 

確かにワカモが秩序を守らず、自分の趣味だからといって街を一つ消し飛ばすような危険なテロリストであることは間違いない。

だが、それを言うならFOX小隊とてキヴォトスにおいては禁忌とされている殺人を実行しようとしたんだ。

秩序を守らないという意味では、ワカモだってFOX小隊だってそう変わりやしないだろう。

 

「ハッ、よく言うぜ。お前達だって躊躇なく俺様に弾丸をブチ込もうとして来たじゃねぇか。あれがお前達の秩序に乗っ取った正義の行いだとでも言うつもりか?」

「……悪いがこれ以上お前達の相手をするつもりはない。FOX小隊、速やかにこの場から撤収するぞ。」

 

俺様は肩をすくめながらそう言うが、七度は俺様の言葉を意にも介さずにそう言うと隊員に指示を出し始める。

 

「あら、逃がすとお思いですか?」

 

それを見たワカモは即座に手にしていた歩兵銃を構え、彼女達へ向かって突撃を行う姿勢を取る。

 

「……待て、ワカモ。」

 

だが、俺様はそんなやる気満々のワカモの肩を掴む。

 

「タツミさん……?何故止めるのです?」

「FOX2も言っていたが、もうすぐここへイブキとアビドスの誰かがやって来るからな。ここで追撃することは可能だけど、そうなるとイブキ達を危険に巻き込んじまう可能性がある。それだけは避けないとダメだ。」

「……ですがここでFOX小隊をみすみす逃がしてしまえばまた十中八九タツミさんの命を狙って襲撃を仕掛けてくるでしょう。それに彼女達は今回タツミさんの命を奪うことに失敗しています。次に襲ってくる時は失敗しないよう周到な用意をしてくるに違いありません。」

 

確かにそれに関してはワカモの言うとおりだろう。

FOX小隊の目的は俺様の暗殺。

となれば、今回一度失敗したくらいで諦めて再度襲撃をしかけてこないなんて可能性はゼロに近い。

十中八九、どこかで隙を見てまた命を狙ってくる筈だ。

なら、ここで彼女達を制圧して拘束し危険を排除したほうがいいというワカモの言い分は御尤もではある。

 

……けど、それでもイブキ達をここで危険に巻き込んでまで彼女達を拘束するのは避けたい。

生態反応がこちらへ近寄ってきているとFOX2が言ってからもう時間が立つし、そろそろこの場にイブキ達が到着してもおかしくない時間は迫っている。

当然イブキ達は俺様を探しに来ているだけだろうから、武器なんて必要最小限しか持っていないだろう。

そんな状態のイブキを……と言うか、そんな状態でなくてもイブキや無防備なアビドスの皆を俺様の都合で危険に巻き込んじまうのはあってはならないことだからな。

 

とは言え俺様とて今後暗殺に気を使いながら過ごすのなんて真っ平ゴメンだから、FOX小隊……そしてその裏にいる黒幕に少し脅しをかけておく必要はあるだろう。

そう考えた俺様はワカモに対して「大丈夫だ」と声を掛けて頭をぽんぽんと撫でると、そのまま一歩前へ出る。

 

「おい、FOX小隊。」

 

そして、俺様はそのままFOX3を殿に撤退の準備を早急に進めている彼女達へ向かって声を掛けた。

 

「……何だ。」

「お前達の後ろにいる【彼女】とやらに伝えておけ。もしそっちがワカモとの記録を暴露するなら、俺様も今回手に入れたこのログを公開する。お互い破滅したくないなら、迂闊な行動は控えるんだな……ってよ。」

「……脅しているつもりなのかも知れないけど、首に刃をかけてるのはこっちだって同じだからね?」

「んなこたぁ分かってるさ。この時点で俺様とお前達の立場は同じ。互いを破滅させる爆弾のスイッチを持っているってだけ。その気になれば自爆特攻だって可能なわけだしな。こんなの脅しにすりゃならねぇよ。」

 

そもそも、ボイスレコーダーに記録されている俺様とワカモの一夜の記録とは違って俺様の音声ログはスマホに保存されているものだからな。

極論、この記録を消すために後日FOX小隊が強襲を仕掛けてきてスマホを破壊でもされたら俺様はそれこそ打つ手がなくなっちまうわけで。

まぁだからこそ、改めて脅す必要があるわけだが。

 

「……じゃあ、貴方は何がいいたいの?」

 

怪訝そうな表情でそう言うFOX2に対して、俺様は涼しい表情を浮かべながらそう言った。

 

「だからもう1つ黒幕にこう伝えとけFOX小隊。俺様直々に【近い内に連邦生徒会まで挨拶に伺います】ってな。」

「……っ!?」

 

連邦生徒会。

その言葉が俺様の口から出た瞬間、FOX小隊の連中はわかりやすく目を見開いて肩を大きく震わせた。

 

「へぇ、半分カマかけのつもりだったけどその反応……こりゃ正解みたいだな。」

「……何のことだ?」

「とぼけんじゃねぇ。俺様が気づかない訳ねぇだろ。」

 

明らかに動揺を隠せていない七度に、俺様は鋭い視線を送りながらそう言った。

 

前々からおかしいとは思っていた。

こいつらには連邦生徒会を襲撃して、連邦生徒会の人間を何人か病院送りにしたっていう前科がある。

だが、いくらSRT特殊学園が厳しい訓練を積んだエリート集団だとは言え連邦生徒会はキヴォトスの運営を一手に担っているいわばキヴォトスの心臓部と言える組織。

その本拠地であるサンクトゥムタワーは当然厳しいセキュリティが敷かれているし、警備だってヴァルキューレ警備局の精鋭部隊が24時間体制で行っている。

そんな昼も夜も強固な警備体制を敷き、更には厳しいセキュリティを誇るサンクトゥムタワーをそう簡単に襲撃して、何人もの役員を病院送りに出来るほど大きな被害を与えることが出来るのか?と。

 

確かにFOX小隊は強い。実際に戦ってみて分かったけど彼女達の立ち回りにはほとんど隙がない。

この場にワカモが居らず、俺様1人だけだったなら間違いなくここで殺されていただろう。

そもそもあのワカモを逮捕できるという時点で、実力はキヴォトスでもトップレベルと言っていい。

 

とは言え、ヴァルキューレの警備局だって日夜厳しい訓練を受けているしそもそもサンクトゥムタワーの警備となれば相当の人数が詰めているはずだ。

いくらFOX小隊とは言え、2ケタは居るであろうヴァルキューレの警備局の生徒を相手にしながらサンクトゥムタワーの一部を消失させるほど大きな損害を出そうと思うと相当厳しいものがあるだろう。

それこそ、相手の手の内が分かってでもいなければ。

 

つまり俺様が言いたいのはこうだ。

FOX小隊による連邦生徒会襲撃事件……それを手引きしたのが、もし内部の人間の仕業だとしたら?

……そう。そうやって考えれば全ての辻褄は合うのだ。

 

例えば連邦生徒会で働く内部の人間だとすればヴァルキューレの警備員がどこに配置されているかも分かるだろうし、当然警備が手薄な位置も把握しているはず。

更に言えば、幹部クラスの人間なら警備員のシフトやスケジュールを手に入れることだって可能だろう。

ならばそこから襲撃を仕掛けるようあらかじめ指示を出しておけば、警備の薄い場所を突破することくらいならFOX小隊にかかれば朝飯前というわけだ。

 

更に七神代行の話によると連邦生徒会を襲撃したFOX小隊はSRTの閉鎖を進める部署を重点的に攻撃した……ところまではまだいい。

彼女達の目的はSRTの復活。

なら、SRTの閉鎖を進めようとしている連中は彼女達にとっては敵でしかないだろうからな。

 

だが、その中には七神代行を支持している役員が多く含まれていたと言うことが彼女の証言で発覚している。

そのせいで最近は連邦生徒会内の七神代行に対する風当たりが強くて……とこの前深夜に通話で彼女がくだを巻いていて、慰めるのに2時間位を費やしたことから見ても間違いのない事実と見て良いだろう。

実際、SRTの閉鎖を進める部署に襲撃の際に居合わせたけど見逃されている役員も居るらしいからな。

 

で、これは明らかに不自然だ。

いくら襲撃の事前にサンクトゥムタワー内部を把握していたとは言え、どの役員が誰を支持しているかなんて見た目で判断できるわけがないだろう。

けど、もし襲撃を指示したのが内部の人間であれば普段から一緒に仕事をしている人間が誰を支持しているのかくらいは分かっていてもおかしな話ではない。

 

連邦生徒会への襲撃。

SRTの閉校を進めていた部署への攻撃。

その中で、七神代行を特に支持している役員の排除。

 

今回の俺様への襲撃。

FOX小隊の目的は俺様の暗殺。

そして黒幕はSRTの精鋭部隊であるFOX小隊に命令を下せるだけの権限を持ち、なおかつ復校をチラつかせてFOX小隊が可能だと納得できるくらいの権力の持ち主……

 

(……なるほど。色々と繋がってきたな。)

 

となると、今回FOX小隊を操って俺様の暗殺を命じた黒幕ってのは連邦生徒会の幹部……それも七神代行のやり方に反感を持っている人物の可能性が高い。

なら目的は……十中八九、七神代行を支持している人間を少しづつ減らしていって連邦生徒会長代行って席を奪い取ること。早い話がクーデターってことだろうな。

ってことは、今回俺様の暗殺を命じたのはさしずめ俺様が最近七神代行と親しくしているから目障りになったとか、それか俺様を暗殺すれば七神代行の精神的疲弊を誘えるからとか……まぁ、大方その辺りの理由だろう。

 

……まったく、つくづくしょーもねぇ。

文句があんならこんなコソコソ卑怯な真似をせず、真正面からかかって来いってんだ。

俺様は逃げも隠れもしねぇんだからよ。

 

まぁ、それはともかく。

となると、七神代行本人はまずシロだ。

もし七神代行が黒幕であれば自分の支持者を自分で病院送りにする意味なんて皆無だし、むしろマイナスだ。

それに、何よりも彼女はそんなことする人ではない。

確かに七神代行は少し毒舌で無愛想だが、根はとても真面目だし相手のことを気遣える心の優しい人だ。

そんな彼女が連邦生徒会への襲撃や、ましては俺様の暗殺を命じるなどと言うことはあり得ないだろう。

 

同時に、七神代行を支持しており彼女と親しい岩櫃調停室長や交通室長の由良木も可能性としてはゼロに近い。

彼女達は普段から七神代行の事を慕っているし、会長室に顔を出して書類仕事を手伝っている場面も見かける。

七神代行も彼女達には感謝しているとモモトークで言っているし、岩櫃調停室もモモトークや通話で七神代行の事をとても尊敬している節が伝わってくる。

由良木はあまり交流がないから分からないけど、それでも七神代行への態度は砕けながらも信頼を寄せているのが感じられるから彼女が黒幕だとは考えにくい。

となると俺様との交流が少ない部署の室長……財務室長の扇喜アオイ、防衛室長の不知火カヤ、その辺りに黒幕が潜んでる可能性は充分に考えられるだろう。

 

あくまでこれらは俺様の根拠のない推測でしかないが、今のFOX小隊の反応を見て疑惑は確信へ変わった。

七神代行から得た情報と今回のFOX小隊の襲撃によって得た情報、それらを総合して考えると……彼女達の後ろにいる黒幕は連邦生徒会の幹部だと見てほぼ間違いない。

 

「まぁそういうことだから、お前達の後ろにいる奴にしっかり伝えておくんだな。お前のその腐った面を拝める日を楽しみにしてる……ってよ。」

 

いずれにせよ、今回の黒幕を許すつもりはない。

黒幕はFOX小隊にSRTの復校を人質に取り望まない人殺しを強要したり、七神代行への不満を直接ぶつけずに影でFOX小隊を使って七神代行の支持者を病院送りにするなんて卑怯で汚い手を平気で使ってくるような奴だ。

そんな人を人とも思わないような畜生に、これ以上好き勝手させるわけには行かないだろう。

 

そもそも、今の連邦生徒会は失踪した連邦生徒会長の捜索に膨大なリソースを割いていて現場を回す人間が足りない状態なんだぞ。

そんな状態で自分も働いている連邦生徒会へ襲撃をかけて更に人員を削るなんて正気の沙汰じゃないし、そのせいで七神代行の負担はかなり増えている。

 

本当ならここでFOX小隊を拘束し、矯正局へブチ込んで黒幕との関わりを絶たせるべきなのは理解している。

諸悪の根源が黒幕とは言え、彼女達は俺様の暗殺は未遂に終わったが暗殺をしようとした事実に変わりはないし何よりも連邦生徒会を襲撃して役員達を傷つけているという紛れもない前科があるわけだからな。

 

確かに彼女達は気の毒だとは思う。

いきなり母校を廃校にすると言われ、途方に暮れていた所にSRTの復校をチラつかせられれば良いように使われると分かっていても従わざるを得ないだろう。

FOX2やFOX3の苦虫を噛み潰したような表情を見るに彼女達だって黒幕にはイヤイヤ従っているはずだ。

七度だって、あの濁った目を見る限り「これが正しいこと」と信じ込むことにより自分の心が壊れるのをなんとか繋ぎ止めている状態に過ぎないだろう。

彼女達のSRTへ対する強い思いを利用して汚れ仕事をさせて、自分はのうのうとデスクで涼しい顔をしているであろう黒幕を断じて許すわけには行かない。

 

とは言え、だからと言ってそれがFOX小隊が連邦生徒会を襲撃して役員を傷つけていい理由にはならない。

彼女達にも自分のしたことの責任は取ってもらわなければならないし、反省するつもりがないのであれば俺様は断じて彼女達を矯正局から出すべきではないと思う。

 

確かに人生をやり直す権利は誰にでもあるがそれはアリウススクワッドのように自分の罪を認めて矯正局へ入って、自分の罪と向き合って反省している場合に限る。

なのでしつこいようだが黒幕から解放するという意味でも、本来ここでFOX小隊を拘束できるのがベストだ。

 

……けど、さっきも言ったようにここで戦闘を再開すればイブキ達を危険に巻き込んでしまう可能性が高い。

それだけは……それだけは避けなければならないからな。

 

だから、これは俺様から黒幕へ対する宣戦布告だ。

必ずお前の正体を暴き、矯正局にブチ込んでやる。

この俺様にケンカを売って、なおかつワカモを巻き込んだ挙句七神代行の負担を増やしてくれたんだ。

それ相応の報いは受けてもらわねぇとなぁ!!!

 

「あぁ、それともう1つ言っておけFOX小隊。もし今後俺様を襲ってくるようなことがあれば、俺様は即座にこのデータを世間へ公表する。黒幕が連邦生徒会の人間である、ということも付け加えてな。」

「……そんな事をすれば、こっちだってこのデータを世間へ公表するわよ。そうなればアンタ、自分がどうなるか分かってないわけじゃないわよね?」

「もちろん分かってるさ。だが、お前達の後ろにいる黒幕は表舞台に姿を表すのがさぞ嫌だと見た。なら俺様がこのデータとともに、黒幕は連邦生徒会の人間ですなんて暴露されて徹底的に取り調べられたら困るだろ?死なば諸共だ。俺様にケンカを売るってんなら、それ相応のリスクは背負ってもらわないとフェアじゃねぇよなぁ?」

 

俺様はそう言うと、口元を釣り上げて犬歯をむき出しにした好戦的な笑みをFOX小隊へぶつける。

 

「……分かった。伝えておくよ。」

「話が早くて助かるぜFOX2。それとこの場で言っておくが、確かにSRTの復権をチラつかされて操られているお前達を気の毒には思う。だが、それがこんな事をしていい理由にはならない。次に会った時は容赦なくボコボコにして、お前ら全員矯正局で仲良く反省させてやるから覚えておくんだな。」

「……フン。そちらこそ、精々我々以外との戦いで命を落とさないようにする事だ。貴様の命は必ず我々が奪ってやる。覚悟しておけ、丹花タツミ。」

 

俺様の言葉を聞き、ほんの少しだけ表情を崩してそんなことを口走る七度。

その表情からは強い悲壮感とともに、ほんの少しだけだがポジティブな気持ちを感じ取ることが出来た。

……なんだかんだ言いつつ、こいつも心の何処かでは自分を止めてくれる存在を求めているのかもしれない。

 

……いいぜ。

ならその挑戦、受けて立ってやるよ。

 

「ハッ、言うじゃねぇか。上等だ、精々部下ともども狐鍋にされねぇようにするんだな。」

「フン、それはこちらのセリフだ。貴様こそ、次に相まみえたときに挽肉になっていないことを祈る。」

 

鋭い視線でこちらを射抜いてくる七度と激しく視線をぶつけ合いながら、互いに言葉をぶつけ合う俺様と七度。

 

「……聞き捨てなりませんわね。タツミさんを壊すのはこの私なのですよ?貴方達のような牙を失った野良犬……いえ、野良狐などにタツミさんは渡しませんよ。」

 

そんな俺様と七度のやり取りに対し、不機嫌そうな声色を隠そうともせずにワカモが口を挟んでくる。

……いや、どうでもいいけどお前も俺様の命を狙ってるってこと自体は否定しねぇのかよ。

 

「心配しなくても、俺様は誰にも負けるつもりはねぇ。もちろんお前にもな?ワカモ。」

「あら……ウフフ♡何と情熱的なお言葉。このワカモ、嬉しくてどうにかなってしまいそうですわ♡」

「いや、今の言葉のどこにそんな要素があったんだ?」

 

仮面に両手を当ててくねくねと気色悪い動きをしながらそう言うワカモに対して、俺様はため息交じりにそう言葉をこぼした。

 

「……私達は何を見せられているのかしら?」

「うーん……バカップルのイチャつきかなぁ……」

「なんでそんなもん見せられないといけないのよ!と言うか前もやらなかったこのやり取り!?」

「……お喋りはそこまでだ、FOX2。FOX3。撤退準備は完了した。FOX小隊、これより撤退を開始する。」

「FOX2、了解。」

「はぁ……FOX3了解。殿は任せて。」

 

そんな俺様達を見てFOX2とFOX3は何かしらを言っていたものの、七度にそう声を掛けられると盾を構えたFOX3を殿にして高速でその場から離脱していく。

その撤退陣形を組む際の迅速さは尋常ではないほど高速であり、そうこうしている間にFOX小隊の連中はあっという間にジャングルの中へと消えていった。

その手際は流石SRTの精鋭部隊と言ったところだろうか。

 

「どうやら本当に退いたようですね。辺りにイブキさんたち以外の気配はまったく致しませんわ。」

「そうみたいだな。油断させておいて不意打ちしてくるみたいな真似をする気はないみたいで安心したぜ。」

 

俺様とワカモはしばらく戦闘態勢を解かずに警戒を続けていたものの、やがてFOX4からの狙撃の気配も止んだことを確認すると構えていた武器を降ろす。

 

「それにしても、よろしかったのですか?あのような黒幕を挑発しかねないような事を仰っても。下手を打てばFOX小隊からの襲撃がより過激になりかねませんよ?」

「安心しろ、その心配は全くしていない。むしろ逆だ。しばらく黒幕は俺様に手出しすら出来ねぇだろうよ。」

 

歩兵銃を背中に担ぎながらそんな事を言ってくるワカモに対して、俺様はそう答える。

 

「……何故ですか?タツミさんは明らかに黒幕へ対して宣戦布告とも取れる宣言をしました。タツミさんの暗殺を狙ってFOX小隊を送ってくるような輩が黙っているとは考えにくいのですが……」

「さっきFOX小隊にも言ったが、あいつらを裏で操っている黒幕の性格的に……奴は表舞台に姿を表すことを嫌っていると俺様は踏んでいるからな。」

「……随分と自信満々ですが、根拠はあるのですか?」

「もちろん。無けりゃこんな事は言わねぇよ。」

 

さっきも言ったけど、黒幕の目的は恐らく七神代行に不満を持つ人間による連邦生徒会内でのクーデターだ。

なら黒幕からすればクーデターを成功させる前に表舞台に姿を表すのは不本意だろうし、そもそも自分が矢面に立たずにSRTの連中を駒として使い自分は裏でコソコソするような奴にそんな度胸があるわけもないだろう。

 

だから、俺様の読みでは黒幕サイドが何らかの手を打つまでは迂闊に俺様を襲ってくることはないはずだ。

ここまで用意周到な人物なんだ。恐らく、俺様からの宣戦布告を聞けばきっとこのデータが偽物であるとかの言い訳に信憑性を持たせるために何らかの手を打ってくるであろうことは目に見えているからな。

ということは、このデータに信憑性のあるうちはデータを公表されれば黒幕は困るはずだ。

だって、このデータが漏れればクーデターに大きな支障が出ることは火を見るよりも明らかなんだから。

そして、俺様が再び襲われることがあるならばそれは黒幕による裏工作が完了したことを意味するだろう。

 

だから、タイムリミットは奴の裏工作が完了するまで。

裏工作が完了してしまったら俺様は再び命を狙われる。

そうなれば俺様はもちろんだが、イブキや万魔殿の皆に危険が及んでしまう可能性は非常に高いだろう。

 

だから、それまでに俺様は連邦生徒会の中から今回の黒幕を見つけ出して決着を付けに行かないとならない。

うかうかしている時間はない、ゲヘナに帰ったらすぐに行動を起こさなければならないだろう。

 

「まぁそういう訳だから、仮にこのデータが公表されれば連邦生徒会の……特に幹部連中への追求は免れないだろう。そうなりゃ連邦生徒会の中に潜んでいる黒幕にとっては致命傷だろうからな。」

「……なるほど。確かにお互いに命を握っていることには変わりありませんが、タツミさんのほうがより有利な条件を突き付けていると言うことでしょうか。」

「あぁ。黒幕からしたらまだ世間へ自分の存在をバラしたくはないはず。なら自分の存在が露呈するリスクは徹底的に避けてくるだろう。もちろん奴が破れかぶれになって俺様を始末しに来る可能性もゼロじゃないが……野心家の心情ってのは案外単純なもんだからな。」

 

そう、野心家ってのは自分の目的のためなら手段を選ばないしどれだけ手間ひまをかけても構わないものだ。

そして自分が成し遂げると決めたことはどんな事があっても、何が何でも成し遂げるという強い思いを持って行動していて目的を妨げる可能性のあるものは徹底して排除したがる生き物でもあるからな。

 

こちとら伊達に普段から野心家を見ていない。

まぁ、最も羽沼議長と今回の黒幕みたいなカスとでは比べるものおこがましいくらいの差があるけどな。

 

「しかし……はぁ、とんだ休暇になっちまったな。」

 

先程まで極限の緊張感の中で命のやり取りをしていた空気から解放された俺様は、ため息を吐きながら頭をガシガシと掻きむしりながらそんな言葉をこぼした。

 

思えば今回のリゾートに来てから色んな事があった。

イブキを乗せたボートで島についたかと思ったらそこにあったのはリゾートじゃなくて廃墟で、黒見がビンゴで当てたのはリゾートの利用券じゃなくて土地の利用券ということが発覚して、だったら廃墟を自分たちの手で掃除してしまえば良いと言うことになって掃除をして。

 

それから砂狼先輩と共に釣りに行って、そこでワカモを含めたヘルメット団が何故か襲撃してきて、一度撃退しかたと思ったらまた襲撃してきて、もう一度撃退し直してからは砂狼先輩の取ってきた食材を使って砂浜でみんなで遊びながらバーベキューや花火をして。

そして……その夜にワカモから告白されて体を重ねて。

それから朝になって、FOX小隊と戦って、黒幕の小隊が連邦生徒会に居ることを掴んだ。

 

なんだかほとんど休めた気はしないけど、それでも俺様にとってはこのリゾートに誘ってくれたアビドスの皆……特に黒見には感謝しなければならない。

色々なことはあったけど、その中でイブキとのんびり遊んでやることが出来たし俺様だって仕事のことを忘れてはしゃぐことが出来たのは久々だったからな。

思えば議長代理に就任してからというものの、俺様はイブキとすらロクに遊んでやれないほどに多忙だった。

だから、しっかり休むことの大切さを教えてくれた今回の件に関してはみんなに感謝の気持ちしかない。

 

「あら、でしたらこの後私とゆっくり2人だけの愛の時間を育む……というのはいかがでしょう?♡」

「バカ言ってんじゃねぇよ。もうすぐそこまでイブキとアビドスの誰かが来てんだぞ。そんな事してる暇ねーっつーの。」

「ウフフ、冗談ですわ♡」

「お前が言うと冗談に聞こえねぇんだよ……」

 

仮面に手を当てて、愉快そうに笑うワカモ。

……そう言えばさっきまでFOX小隊と命のやり取りをしていたおかげですっかり忘れていたけど、俺様ってこいつに告白されたんだったよな。

 

ふと、俺様は目の前のワカモを見やる。

サラサラの黒髪を風になびかせ、ひらひらした和服を身にまとった彼女は仮面越しでも分かるほどに美しい。

そして、そんな彼女を見ていると嫌でも目に入ってしまう惜しげもなくさらけ出された太ももや豊かな胸元。

……昨日、俺様は彼女のこの男の理想を絵に書いて出したような体をそれはもうぐちゃぐちゃにしたんだよな。

彼女の鎖骨や首飾りの下から覗く絆創膏を見て、嫌でも昨日の情景を頭の中に思い浮かべてしまう。

 

(って違う!今はこんなこと考えてる場合じゃない!)

 

俺様は悲しい男の性に抗うようにブンブンと頭を振って煩悩を払い飛ばすと、腕を組んで思考を巡らせる。

ともかく、FOX小隊を操って俺様の暗殺や連邦生徒会内でのクーデターを企てている奴が居るのは分かった。

なら、次はその正体を突き止めて矯正局へ突き出さないといけない。でなければ、また俺様の周囲の人間に危険が及んでしまうことは想像に難くないだろう。

 

とは言え相手はあの連邦生徒会の……それも恐らく幹部。

到底俺様1人で太刀打ちできる相手ではないし、黒幕を追い詰めるのであれば協力者は必須だ。

 

となると、まず先生には伝えておいた方がいいだろう。

先生はシャーレの強大な権限でどんな学園の問題へも無制限に介入することが可能だけど、それは連邦生徒会においてももちろん例外ではなく有効に作用するもの。

であれば、なにか不測の事態に備えて先生には事情を打ち明けておいたほうが良いのは間違いない。

……まぁそれに、俺様1人で解決のために動いて怪我をしようものならまた先生にお説教されちまうしな。

これ以上心配をかけるのも申し訳ないし、どのみち俺様1人では難しいのであれば協力を仰ぐのは賢明だ。

 

あとは……七神代行にも伝えておいた方がいいだろうな。

気づいているかは分からないけど、連邦生徒会の中で現生徒会長代行である七神代行に対して不満を持ってこんな事をしている奴が居るのでは彼女の身が危険だ。

知っているにせよ知らないにせよ、七神代行にはしっかりと伝えておいて普段から身の回りに注意するように警告しておいたほうがいいのは間違いないだろう。

 

それで……あと伝えておいたほうが良いのは……えっと……

万魔殿のみんな……は危険に巻き込みたくないし。

アビドスの皆……はそもそも今回の件に関係ないし。

トリニティは話が余計ややこしくなるし。

RABBIT小隊は話したところで信じてくれるか微妙だし……

……ダメだ、頭がこんがらがってきた。

 

「ウフフ……それではタツミさん、私はこの辺りで失礼させていただきますわ。」

 

そんな事を考えていると、不意にワカモからそんな言葉をかけられる。

 

「あの野良狐どもの襲撃のせいですっかり忘れていましたが、私は本来雇い主であるヘルメット団との合流を目指していたのでそろそろ彼女達の元へ向かわねばなりません。」

 

……そう言えばそうだったな。

元々ワカモは昨日俺様達に何故かヘルメット団と共に襲撃を仕掛けてきていた事をすっかり忘れていた。

それにしてもワカモがヘルメット団に雇われているのはこの際置いておくとして、ヘルメット団の連中は一体何の目的でこんな人のいない無人島に襲撃をかけてきたんだろうな?

……まぁ、考えても答えの出ない事ではあるけど。

 

「タツミさんとお別れするのは非常に名残惜しいですが、私も給料分は働くと彼女達に約束してしまいましたからね。そろそろ行かなければなりません。」

「……なんか、お前って建物とかは平気で吹っ飛ばすのに変な所で律儀だよな。」

「ウフフ、それは褒め言葉ということでよろしいでしょうか?♡」

「んな訳ねぇだろ!?」

 

そう言って、体をくねくねさせながらいつものような猫なで声でそう言うワカモ。

……なんと言うか、平常運転すぎて安心感すら感じるな。

 

「まぁそれはともかく、改めて一緒に戦ってくれてありがとうワカモ。お前のおかげで殺されずに済んだ。」

「まぁ、なんと勿体ないお言葉……ウフフ♡このワカモ、感無量ですわ♡」

 

俺様はワカモに向けて礼を言うと、ワカモは照れたような声色でそう返してくる。

 

「……けど、今度会う時は敵同士だ。何度も言うけど、俺様を好いてくれるお前の気持ちは嬉しいけどお前は七囚人。災厄の狐って二つ名を持つ、凶悪なテロリスト。矯正局へ入ってしっかり罪を償わない限り、俺様がお前と付き合うことは絶対に無い。」

「ウフフ……でしたら私はそれ以上にタツミさんを私へ惚れさせて夢中にさせてみせます。そんな事がどうでも良くなるくらい、私が欲しいと思わせてみせます。知っていますかタツミさん、狐は肉食なのですよ?そう、それこそタツミさんを取って食べてしまうような……ね?♡」

「ハッ、望むところだ。なら、俺様だってお前をとっ捕まえて矯正局へブチ込んでやるよ。そんで牢屋の中でしっかりと反省したら……その時は考えてやる。」

「ウフフ、私は負けませんよ?♡」

「あぁ、俺様だって負けるつもりはないさ。」

 

そう言って互いに視線を合わせながら言葉を交わし合う俺様とワカモ。

彼女を見ていると沸いてくるこの気持ちが何なのか、俺様には良く分からない。だが……この複雑な気持ちにも、早めに決着を付けなければならないだろう。

俺様自身のために、そして他ならぬワカモのためにも。

 

「それではタツミさん、またお会いしましょう♡」

 

そう言い残すと、ワカモはその場から大きく跳躍してそのままジャングルの中へと消え去っていった。

俺様はしばしワカモが飛び去っていった方向を見つめた後に、こちらへ向かってきているイブキ達と合流するためにブークリエにセーフティをかけて背中に担ぐとシールドを折りたたんで肩から下げる。

そして、そのまま足を一歩前に出した瞬間だった。

 

「あ、お兄ちゃんだー!」

 

突如、その場に響き渡る元気いっぱいの声。

もちろん、俺様がこの声を聞き間違えるはずはない。

俺様の目前に広がる、ジャングルの中の少し開けた広場のようなスペース。

そこにはこちらへ向かって満面の笑みを浮かべながらブンブンと手を降るイブキと、その横で眠そうな表情を浮かべている小鳥遊先輩の姿があった。




リゾート編が終わったら連邦生徒会編になるかもしれません
少なくともリンちゃんとのデートは書く予定です
あと、ミレニアム勢ともぼちぼち絡ませていきたいところ
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