転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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FOX小隊を退け、イブキとホシノと合流したタツミ
三人でのんびりと森を歩く中、ホシノが語ったのは……


小鳥遊ホシノと丹花タツミ

「はぁ……不味いことになりましたね。」

 

「FOX小隊のニコさんからの報告によれば、丹花タツミは彼女達を退けた上でFOX小隊が彼を暗殺しようとしたデータを録音して保存、その上で今後自分を襲えば黒幕が連邦生徒会の幹部に潜んでいるという情報を添えて公表するとまで言っている……と。」

 

「くっ……互いの首に爆弾を巻き付けたかと思っていたらまさかこちらの方が遥かに損失を被る爆弾だとは思いもしませんでした。彼の所持している音声データが捏造だと言うことは可能でしょうが、仮に捏造だとしてそんな疑惑が上がれば連邦生徒会に捜査の手が入るのは確実。クーデターを成功させるためにも、今連邦生徒会に捜査の手が入るのは得策とは言えないでしょう。まったく、面倒なことをしてくれますね……!」

 

「仮に互いに所持しているデータを公表するとして、丹花タツミが被るのは議長の座からの解任。それに対してこちらはFOX小隊を失った挙句、最悪私にまで疑いの手が及ぶ可能性がある……あまりにも割りに合いません。せっかくここまで上手く事を進めてきたのに、そんなくだらないことで台無しにされてはたまったものでは……」

 

「いずれにせよ、何の裏工作もしていない今彼の所持している音声データが流出するのは非常に不味いです。彼の思惑通りになるのは非常に腹立たしいですが、今後彼を襲撃すれば即データを公表すると宣言している以上はしばらくは監視のみにとどめて直接襲撃をしに行くことは避けたほうが良いでしょうね。」

 

「とは言え、こちらにも彼と狐坂ワカモの不徳行為のデータがあると言う点は彼に対して明確に優位な点ではあります。そちらがこちらを脅してくるのならば、こちらとて受けて立ってやろうじゃありませんか。確かに彼に対して襲撃を仕掛けることはしばらくは出来ませんが逆を返せばそれは細工をすることに専念出来るということでもあります。FOX小隊の皆さんはそう言った事も得意ですし、悪いことばかりではありません。それに監視自体は続けていきますし、機があれば彼の所持しているスマホを破壊してデータを闇に葬ってしまうことも不可能ではありませんからね。」

 

「さて、そうと決まればまずは裏工作から……FOX小隊が暗殺を試みたこと、黒幕が連邦生徒会の幹部である事。これらが丹花タツミから出たところで一笑に出来るほどの噂や風評を流していく必要があります。彼の今まで築き上げてきた人脈や評価を鑑みるにかなり苦しいのは違いありませんが、それでもやるしかありません。」

 

「しかし私が裏で糸を引いていることをあんな僅かな情報から嗅ぎつけてくるとは……犬猿の仲のトリニティと円滑にコミュニケーションを取れる能力、あの気難しいリン行政官すら懐柔する懐の広さ、そして僅かな情報から真実へたどり着く洞察力……なるほど、伊達に1年生でゲヘナの議長代理を務めていないと言う訳ですか。」

 

「丹花タツミ、やはり彼は危険すぎます。何が何でも始末しなくては私の今後のクーデターに多大な影響が出かねませんし、仮にクーデターを成功させたとしてその後も立ちはだかってくるのは目に見えていますからね。」

 

「ひとまずは裏工作を行いつつ、丹花タツミに対する不信感を高め彼の所持している情報の信用が落ちるのを待つしか無いでしょう。そして情報が充分に信用足り得ないものになれば再びFOX小隊に命じて今度は確実に彼が1人のタイミングを狙って、不意打ちを仕掛けて反撃の隙もなく始末する。これしかないでしょうね。」

 

「同時に彼の弱みも探っていくとしましょうか。聞く所によれば彼には妹が1人居て、それはそれはもう目に入れても痛くないほどに可愛がっていると聞きます。……上手く使えば、彼を脅してデータを破棄させた上で議長代理の座から引き摺り下ろすことも可能でしょう。その辺りもFOX小隊の皆さんには調査してもらいますか。」

 

「……あぁ、そう言えば今度丹花タツミは連邦生徒会に直接いらっしゃるんでしたね。大方そこで探りを入れて黒幕をあぶり出すつもりなのでしょうが……ふふ、わざわざ敵の本陣に挨拶に来て頂けるとは何とありがたい。」

 

「情報を引き出そうとしているのは何もそちらだけではありませんよ、丹花タツミ。せっかくわざわざ連邦生徒会までご足労頂けるのですから、こちらもありがたく情報を引き出させてもらうとしましょう。」

 

「ふふ……あまり舐めた真似をしないことです。私がそう簡単にボロを出すとは思わないことですね……!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あれから少しして。

道に迷っているであろう俺様を探しに来たと語ったイブキと小鳥遊先輩と合流した俺様は、現在イブキと手をつなぎながら本来の集合場所であったヘリの墜落地点へと向かって3人でゆっくりと歩を進めていた。

 

「もー!心配したんだからね!」

「ごめんなイブキ。ちょっと道に迷っちまってよ……」

「全く、お兄ちゃんは本当に方向音痴なんだから!」

「うっ……返す言葉もねぇぜ……」

 

少し前かがみになりながら頬を含まらせ、ぷりぷりと可愛らしく怒りを顕にするイブキ。

そんなイブキに対して俺様は平謝りするしかなかった。

まぁそりゃ、いくら道に迷っていたとは言えまさか1時間以上も迷っているなんて普通はあり得ないからな。

……まぁ実際はFOX小隊に命を狙われて戦闘していたわけなんだが、そんな事を言えるはずもないし。

 

「まぁまぁイブキちゃん。タツミくんだって悪気があったわけじゃないんだしもうそのへんで……」

「もー!ホシノ先輩はお兄ちゃんを甘やかさないで!」

「……うへー、これじゃどっちが年長者か分からないねぇ。」

 

そんな俺様を見かねたのか小鳥遊先輩がのんびりとした口調で助け舟を出そうとしてくれたが、ご立腹のイブキに一括されて小さな体を更に縮こまらせた。

あのハチャメチャに強い小鳥遊先輩を一言でここまで萎縮されるとは……やはりイブキは最強なのでは?

……まぁ、それはともかくとして。

 

ちなみに今はイブキの右手を俺様が、左手を小鳥遊先輩が握って歩いている状態なので俺様達3人は横一列に並んでジャングルの中を歩いている形になっている。

万魔殿に居る時は俺様が握っている方とは違う手を万魔殿の誰かが握って3人並んで散歩するという事はよくあるんだけど、よくよく考えればイブキとこうして3人で歩くのは万魔殿以外では小鳥遊先輩が初めてだったりする。

 

なんだか、こうしているとイブキにお姉さんが出来たみたいでちょっと新鮮だなぁ。

まぁでも小鳥遊先輩は背格好で言えば棗先輩と似ているし、眠たげでダウナーな雰囲気も彼女と共通しているので実はそこまで違和感は無かったりする。

基本的に万魔殿の女性陣はみんな背が高いから俺様とでイブキを挟むとイブキが連れ去られる宇宙人みたいな絵面になってしまうのだが、棗先輩は小柄なのであまりそういう絵面にはならないんだよな。

小鳥遊先輩も棗先輩と同様に小柄のため、あまりその辺りの違和感を感じないのかもしれない。

 

「けど、まさかタツミくんがここまで方向音痴だとは思わなかったなぁ。中々見つからないから、おじさんも結構焦っちゃったよー。」

 

そんな事を考えていると、イブキの手を握っている小鳥遊先輩からそんな言葉がかけられる。

 

「本当に面目ないです……ご迷惑をおかけしてすみません小鳥遊先輩。」

「まぁタツミくんだって好きで道に迷ったわけじゃないだろうからねー。こうして無事に見つかったからいいんじゃないかな?」

「……ありがとうございます、小鳥遊先輩。」

 

頭を下げて謝罪の言葉を述べる俺様に対して、小鳥遊先輩はのんびりとした口調でそう言う。

 

「それにタツミくんは道に迷った挙句【クマに襲われちゃった】んでしょ?そんな不測の事態があったなら、遅くなっちゃうのも仕方ないって。」

「……そう言って頂けると助かります。重ね重ね申し訳ありません小鳥遊先輩。」

「いいっていいって。あまり気にしなさんなー。」

 

変わらずのんびりとした口調でそう言う小鳥遊先輩に対して、俺様は何度目か分からない謝罪を行った。

 

あれからFOX小隊が撤退してワカモとも解散し、俺様を発見して大声で呼びかけるイブキと小鳥遊先輩と合流した俺様……だったのだが。

当然、あれほどFOX小隊と派手にドンパチやらかしていたおかげで銃声が二人の耳にも届いていたらしく何があったのかをその場で問い詰められてしまった。

 

もちろん馬鹿正直に俺様を狙った暗殺者と戦っていましたと言えるわけもなく、俺様はその場で頭を高速回転させて【道に迷ってたら突然襲ってきたクマを撃退するために戦っていた】という咄嗟の言い訳を絞り出した。

それを初めに聞いた二人は「この島にクマが居たのか」「そもそも警備ロボットが反応していないじゃないか」と最初は半信半疑だったものの俺様が必死に弁明をしたりブークリエの弾丸が減っていること、そしてイブキの「お兄ちゃんから動物の匂いがする」と言う鶴の一言により無事に信じてくれた様子であった。

 

何故イブキが俺様から動物の匂いがするのか分かったのかはともかくとして、あまりにも苦しい言い訳だったけどFOX小隊のことがバレるとイブキたちにも危険が及んでしまうためこの事は何が何でも隠し通さなければならなかった俺様は安堵のため息をその場で吐き出した。

なお、その際俺様を問い詰めるイブキは何故か滅茶苦茶不機嫌だったのだが……俺様、なんかしたっけなぁ?

 

まぁそれはともかく、道に迷った挙句熊に襲われて撃退のために戦ったという言い訳が無事に通って納得してもらえた俺様はイブキや小鳥遊先輩とジャングルの中を歩いてヘリの墜落地点へ向かっているというわけだな。

 

それにしても、あれだけ派手にドンパチ銃をぶっ放していたんだから俺様のブークリエ以外にもFOX小隊の所持している銃の銃声やワカモの歩兵銃の銃声が聞こえていてもおかしくないような気はするんだけど……

理由はわからないけど、まぁその辺りはFOX2の仕掛けた工作が効いたとかなのだろう。

そもそも、深く追求されたら困るのは俺様だからな。

特に言及されない限りは黙っておくとする。

 

「でも、おじさんとしてはタツミくんが無事で良かったよー。もしタツミくんがクマに襲われて怪我でもしていたら今頃熊鍋が出来上がっていただろうからねぇ。」

 

すっと目を細めながらそう言う小鳥遊先輩。

その姿は穏やかながらも確かな威圧感を感じるもので、俺様は若干冷や汗をかきながらそう言った。

 

小鳥遊先輩は黒見の話にもよく出てくるけど、のんびりしているように見えて実は誰よりも周りの事を見ていて後輩のことを常に気にかけている真面目な先輩だ。

彼女に心配されていることを嬉しくも思いつつも、同時にそんな小鳥遊先輩に嘘をつかなければならない状況にズキズキと心が傷む。

 

……けど、真実を悟られるわけには行かない。

それこそ小鳥遊先輩を始めとするアビドスの人達は、本当にただこの島にバカンスに来ただけなのだから。

 

恐らく、真実を話せば彼女達は協力してくれるだろう。

けど、今回の件に何の関係もない彼女達を俺様の都合で危険に巻き込んでしまうわけには絶対にいかない。

そもそも、彼女達には今回リゾートに誘ってもらったっていう大きな恩があるからな。

そんな彼女達に迷惑をかけるのはまっぴらゴメンだ。

 

「うへー、それにしてもまさかこの島にクマがいるとはおじさん思わなかったよ。ヘリの墜落地点へ戻ったらアヤネちゃんに頼んでクマにも警備ロボットが反応してくれるようプログラムしてもらわなきゃねー。」

「あはは……そうですね。」

 

大きなあくびをしつつ、眠そうにそう言う小鳥遊先輩に対して俺様は苦笑いをしながら相槌を打つ。

でも、今回は俺様の口から出たでまかせだが長年放置されていた無人島ならもしかしたら本当にクマがいるかもしれないのもまた事実なのでそいつが現れた時に警備ロボットがきちんと反応してくれるようにしておくのは悪くないのではと思わなくもない。

 

警備ロボに頼らずともキヴォトス人のフィジカルならクマ程度の野生動物であれば簡単に撃退できるだろうけど俺様や先生にはヘイローがないわけだからな。

万全を期しておくに越したことはないだろう。

奥空には余計な仕事を増やしてしまって申し訳ないが。

 

「ねぇお兄ちゃん。イブキ本当に心配したんだからね?それにイブキやホシノ先輩だけじゃなくて、セリカ先輩や先生も心配してたんだよ?」

「……ごめんなイブキ。それに関しては完全に俺様が悪いとしか言えない。」

 

頬を膨らませながらそう言ってくるイブキに対して、俺様は頭を下げながらそう言うしか無かった。

FOX小隊に襲われたのが完全に想定外の不可抗力だったとは言え、そのせいで時間をかなり食ってしまってイブキや皆を心配させてしまったのは事実なわけだからな。

これはもう、ヘリの墜落地点へ到着したらみんなにひたすら謝り倒すしか無いだろう。

 

「なので、罰としてイブキはお兄ちゃんに頭をなでなですることをよーきゅーします!」

 

俺様が若干落ち込みながら歩を進めていると、イブキはそれまでのしかめっ面をぱぁっと笑顔へと変化させるとニコニコとした笑みを浮かべながらそう言ってくる。

 

おいおい、いいのかイブキ?

イブキの頭をなでなで出来るなんてそれは俺様にとっては罰どころか、むしろご褒美みたいなもんなんだが?

自慢じゃないけど、俺様はイブキの頭だったら余裕で1日中は撫でていられる自信があるぞ!

 

「うへ……イブキちゃん、それは罰じゃなくて単に自分がやってほしいってだけじゃ……」

「違うもん!これはみんなやイブキを心配させたお兄ちゃんに対するせーとーな罰なのです!」

 

そう言うと、ふんす!と言う擬音が出そうなほどのドヤ顔を浮かべてえっへんと胸を張るイブキ。

俺様はそんなイブキを見て、自然にイブキと手を繋いでいないもう片方の手をイブキの頭に乗せていた。

 

「そうだな、お兄ちゃんはイブキやみんなを心配させちまったからな。好きなだけなでなでしてやるぞ。」

「ほんと!?やったー!」

 

俺様がそう言いながらそのまま左右へ手を動かすと、みるみる内に花の咲いたような笑みを浮かべるイブキ。

うんうん、やっぱりイブキの笑顔は最高だな!

この笑顔を見ていると俺様は無限に頑張れちまうし、どんな無茶なことだってやれる気がしてくる。

 

「えへへ……♡」

 

そんな事を考えながらイブキの頭をひたすら撫でてやると、イブキは目を細めて満足そうな表情を浮かべる。

その屈託のない笑顔はまさに犯罪級の可愛さだ。

やはり、キヴォトス中を探しても可愛いことに関してはイブキを差しおいて右に出る奴はいないだろう。

流石は俺様の妹だ、笑顔の破壊力は申し分ないぜ!

 

「ふふ、本当にタツミくんとイブキちゃんは仲がいいんだねぇ。」

「えぇそりゃもう!イブキは世界一可愛いし、いい子だし、可愛いし、あと可愛いですからね!」

「いや、ほとんど可愛いしか言ってないじゃん。まぁ私も気持ちは分かるけどねー。」

 

イブキを褒め称える言葉を述べる俺様を見ながら小鳥遊先輩は苦笑しつつそんな言葉をこぼす。

だってしょうがないだろ!イブキが可愛いんだから!

ほら見てみろよこのイブキのまるでヒマワリが咲いたような笑顔を!この笑顔を見ているだけで、さっきの戦闘の疲れなんて一瞬でどこかへ吹き飛んじまうぜ!

 

……そして、そんなイブキの笑顔を見ると、やはりイブキだけは何が何でも危険に巻き込むわけには行かないと言う思いがふつふつと湧き上がってくる。

一応FOX小隊や黒幕にはこちらが有利な証拠を握っていると脅しをかけているからしばらくは襲っては来ないだろうが、それでも監視の目を向けられたり周りをチョロチョロして俺様の事を嗅ぎ回ってくるかもしれない。

 

そうなると、万魔殿の皆はもちろんだけど俺様の妹であるイブキだって危険だ。

普通の人間であればいくら暗殺対象の妹とは言えまだ幼いイブキをどうこうしようなんて言う考えは人道的に浮かばないはずだが、FOX小隊の裏で糸を引いている黒幕はキヴォトスにおいては禁忌とされている殺人を平気で他人に命令するような倫理観のイカれたやつだからな。

俺様が溺愛しているイブキに目をつける可能性は十分に考えられるし、イブキが危険な目に合う可能性はゼロだとは言い切れないだろう。

 

……最も、そんな事を企てようもんなら容赦はしない。

もしイブキに手を出したその日には……黒幕にはこの世に生まれてきたことを心の底から後悔させてやるがな。

まぁそれはともかく、イブキのこの笑顔を守るためにも早急に連邦生徒会に潜んでいる黒幕を炙り出して矯正局へブチ込まなくてはならないだろう。

うかうかしている暇はない、皆と合流したら先生に事情を説明してさっさと対応に当たらないと……

 

「……タツミくん、どうかした?」

 

俺様が思考を巡らせながら歩を進めていると、不意に小鳥遊先輩から声がかかった。

 

「さっきからなんだか難しい顔をしているみたいだけど……もしかして、何か考え事?」

 

イブキの手を引きながら首を傾げ、心配そうに俺様に視線を向けてくる小鳥遊先輩。

どうやら、真剣に考えていたせいで表情にもそれが出てしまっていたようだ。俺様、昔からわりと顔に出るタイプって皆から言われているからなぁ……

 

確かに現状特大の悩み事があるのは事実だが、流石にこんな事を小鳥遊先輩に言うわけにはいかない。

何度も言うようだが、イブキはもちろんアビドスの皆だって危険に巻き込むわけにはいかないんだ。

そう思いながら俺様はすぐに笑顔を浮かべると、小鳥遊先輩に向かって口を開いた。

 

「いえ、そういうわけではないんですけど……ゲヘナに帰ったらまた仕事かぁと思ったら少し憂鬱で。」

「あー、確かにそれは分かるかも。私達も今は何も考えずに楽しんでるけど、学校に帰ったらまた借金のことを考えなきゃいけないからねぇ。」

「……お互い大変ですね。」

「まったくだよー。」

 

そう言うと、顔を見合わせて互いに苦笑を浮かべる俺様と小鳥遊先輩。

……よし、なんとか自然にごまかせたようだ。

 

「まぁそういう訳なので、仕事のことを考えていただけなのでご心配には及びませんよ。」

「そっか、なら良いんだけどね。もし何か悩んでいることがあるなら、相談になら乗るよ〜って思って。」

「そうだったんですね。すみません小鳥遊先輩、余計な気遣いをさせてしまって。」

「ううん、大丈夫。タツミくんにはいつもウチのセリカちゃんがお世話になっているからね。セリカちゃんの先輩として、何か力になってあげられるならって思っただけだからさ。」

「いや、黒見にはむしろこっちが世話になってると言うか……俺様やイブキが今回のリゾートに来れたのだって元はと言えば黒見が誘ってくれたのがきっかけでしたからね。むしろこっちが礼を言いたいくらいですよ。」

 

うへへ、といつもの調子で笑顔を浮かべながらそう言う小鳥遊先輩に対して俺様はそう答える。

 

「いやぁ、タツミくんは素直でいい子だねぇ。」

「それを言うなら、小鳥遊先輩だって黒見の友達とは言え所詮は他校の生徒でしか無い俺様の事をこうやって心配してくれてるじゃないですか。」

「確かにタツミくんは他校の子だけど、私にとっては可愛い後輩には違いないからね。そんな可愛い後輩が難しい顔をしてたら、気になるのは当然じゃない?」

 

そう言うと小鳥遊先輩は不意にそれまでの穏やかな笑みを真剣な表情に切り替えると、静かに口を開いた。

 

「……だからタツミくん。悩みがあるなら必ず誰かに相談するんだよ。確かに君はゲヘナの議長代理でゲヘナのトップに立つ子だけど、それでも君はまだ1年生。1人で抱え込む必要はまったくないんだからさ。」

「小鳥遊先輩……?」

「君の周りには頼りになる先輩がたくさんいる。万魔殿のみんなやゲヘナの風紀委員長ちゃん、今まで君が出会ってきた他校の先輩たち。君が助けを求めれば、必ず応えてくれる先輩達が居るはず。だから、全部自分で抱え込まずにちゃんと人に頼るべき場面では頼るんだよ?1年生なんて、先輩に甘えて当然なんだからさ。」

 

真剣な表情を浮かべながら、小鳥遊先輩は続ける。

 

「悩みがあるなら相談すれば良い。もし身近な相手に話しにくいことならおじさんが相談に乗るからさ。……意地を張って、全てを失ってからじゃ遅いからね。」

 

小鳥遊先輩はそこで言葉を区切ると、一瞬だけどこか影のある表情を浮かべる。

その表情は上手く言い表すことは出来ないけどなんと言うか……とても深い後悔を抱えているかのようだった。

普段のんびりしてポワポワしている小鳥遊先輩からはあまり考えられないような表情に俺様が困惑していると、程なくして小鳥遊先輩はいつもの笑顔を浮かべた。

 

「まぁ、悩みがないのならこんなこと言われても困るよね。ごめんね、お節介な先輩で。」

「いえ、小鳥遊先輩の仰っていることは最もだと思います。確かに俺様はゲヘナの議長代理って座に座っては居ますがまだぺーぺーの1年生。当然皆さんにたくさん迷惑だってかけていますし、先輩方のフォローがなければここまでやれてはいませんから……小鳥遊先輩の言う通り、何か困り事があれば遠慮なく頼らせてもらいます。」

「うん、そうしてくれるとおじさんも嬉しいな。」

 

ニコニコとした表情を浮かべながら、うんうんと頷きながら満足そうにそう言う小鳥遊先輩。

 

……多分だけど、十中八九小鳥遊先輩は俺様が今悩みを抱えていることに薄々気がついているはずだ。

でなければ、唐突にこんな事を言うはずがない。

そして、俺様の抱えている悩みが到底人に言えることではないと言う事も察してくれているのだろう。

 

さっきも言ったが、ここで素直に先程までの事情を全て隠さず説明すれば小鳥遊先輩は協力してくれるだろう。

けどFOX小隊と戦っている最中にも言ったことだけど、ここで事情を明かしてしまえばイブキやアビドスの皆を危険に巻き込んでしまうことになる。

それは俺様が望んでいることではないし、何よりも俺様の都合でみんなを危険な目に合わせる事は出来ない。

これだけは、俺様だって譲れないんだ。

だから、この場で小鳥遊先輩に相談をすることは出来ないけれど彼女の気遣いはとてもありがたいものだった。

 

それに、前までの俺様だったら小鳥遊先輩や身近な先輩方はおろか恐らく先生にすら事情を明かさずに1人で突っ走ってまた大怪我をしかねなかっただろうからな。

そのせいでエデン条約の一件では数え切れないほどの人に迷惑をかけてしまったし、俺様を撃った槌永にだって深いトラウマを与えちまっている。

だから流石にあの一件で懲りたのもあって、今はなるべく1人で解決できなさそうな事は先輩方や先生を出来るだけ頼らせてもらうように心がけている。

そういう俺様の突っ込み癖に待ったをかけるという点でも、小鳥遊先輩の言葉はとてもありがたい。

……まぁ、今回は事情が事情だから先生と七神代行にだけ事情を明かすつもりではいるけども。

 

「ありがとうございます、小鳥遊先輩。」

「いいっていいって。それにしても、ゲヘナなんて大きな学園の代表を1年生で務めてるなんてタツミくんはすごいよねぇ。おじさん、おんなじ事やれって言われたら絶対に出来る気がしないよ〜。」

「いえ、俺様だって毎日分からないことだらけですし先輩方には迷惑をかけっぱなしで……正直、羽沼議長の代理をきちんと務められているかは怪しいですからね。」

「ううん、そんなことはないよ。タツミくんが議長代理になってからはトリニティとの関係もちょっとづつ改善してるんでしょ?それに本来なら上級生が背負うべき責任を君は背負ってるんだ。例え仕事ができなかったとしても、それだけで充分すごいとおじさんは思うよ。」

「……そういうもんですかね?」

「そーいうもんだよ。タツミくんは偉いのさー。」

 

にへーっとした笑顔を浮かべつつ、親指を立てながらそう言ってくる小鳥遊先輩。

いつものんびりとしていて、ポワポワとした雰囲気を浮かべながらも人の表情から敏感に気持ちを読み取って寄り添ってくれる、後輩を気遣う思いやりと懐の深さ。

やはり体は小さくとも、彼女もしっかりと頼りになる3年生なんだなぁと感じる。

黒見が普段から彼女に絶大な信頼を置いているのも納得だろう。もしかすると小鳥遊先輩はふわふわした雰囲気とは裏腹に、洞察力に長けた人なのかもしれないな。

 

「さてと、そろそろヘリの墜落地点に到着するよー。」

 

そんな事を考えていると、イブキの手を引いて歩いていた小鳥遊先輩がのんびりとそう口にする。

どうやら彼女とやり取りをしている間にも結構な距離を歩いていたようで、そろそろ目的地へ到着するようだ。

俺様がヘリの墜落地点へ向かうって言ってからもう軽く数時間は経過しているし、みんなには結構な心配をかけてしまているに違いない。

みんなと合流したら、しっかり謝らねぇとなぁ……

 

そんな事を考えながらイブキの手を引いて、俺様と小鳥遊先輩は鬱蒼と茂ったジャングルの中に太陽の光が射差し込んでいる小さな広場へと足を進める。

 

「さ、付いたよ。」

 

相変わらずの口調でそういう小鳥遊先輩。

どうやら、ここアビドスのみんなと先生が乗ってきたヘリが墜落した現場……ということらしい。

周囲をぐるっと見渡すと、確かにそこには青々と茂った大自然の中では明らかに目立つ人工物である大型のヘリコプターがポツンと1台置かれている。

そのヘリは既に修理を終えているようで外装がピカピカに磨き上げられており、太陽の光を反射して装甲がキラキラと輝いていた。

 

ざっと見た感じでは装甲も頑丈そうだし、機銃やミサイル等の装備品もかなり充実しているように見える。

奥空の話によると借金を返済しつつ貯めたアビドスの資金で購入したとのことだったので、彼女たちが相当頑張ってきたんだなと言う事が伺える立派なヘリだった。

 

そして、ヘリの傍には修理を終えたであろうアビドスの皆と先生が手頃な切り株の上に腰を下ろして水分補給をしながら休んでいる姿が見えた。

……けど気のせいだろうか?ヘリの修理をしていただけにしては、皆やけに汗をかいている気がするんだけど。

そりゃ今は夏なんだから暑いのは当たり前だがなんと言うかこう、ただ作業をしているだけではあれほど大量の汗をかくことは無いと思うのだが……

 

と言うかよく見ると、全員明らかに肩で息をしているし彼女たちの足元には先程まで使用していたであろうそれぞれの武器や空の薬莢が転がっているのが確認できた。

……間違いなく、何かあったと見て良いだろう。

 

「うへー。ただいまーみんな。」

「あっー!やっと帰ってきたわねホシノ先輩!」

 

そんな彼女たちに小鳥遊先輩がいつもの調子で声をかけると、こちらへ気づいたらしい黒見が勢いよく切り株から立ち上がると小鳥遊先輩に近寄ってくる。

 

「ただいま、セリカ先輩!」

「あ、おかえりイブキちゃん。タツミくんを見つけてきてくれたのね、ありがと。」

「遅くなって悪かった黒見。すまねぇな、ちょっとばかし道に迷っちまっててよ。」

「ちょっとばかしって、タツミくんが先生に連絡を入れてからもう数時間は立つわよ?一体どれだけ道に迷ってたのよ……?」

「い、いや……ちょっと色々と事情もあってだな……」

 

ジト目を向けて抗議をしてくる黒見に対して、俺様はしどろもどろになりながらそう答える。

まぁ、そりゃこんな対して広くもない島で何時間も道に迷ってたって言われたらそうなるわなぁ……

 

“やぁ、おかえりタツミ。”

「あぁ先生。すまん、遅くなっちまって。」

“ううん、気にしないで。私達は大丈夫だから。”

「そう言ってもらえると助かるぜ、ありがとう。アビドスの皆さんも、改めてすみませんでした。」

「ん、問題ない。」

「はい!それにタツミくんは方向音痴らしいので、迎えに行かなかった私達にも非がありますからね☆」

「あ、あはは……ひとまずヘリの修理は早朝からやっていたこともあってホシノ先輩達が帰ってくるまでに私達で終わらせましたので、これで一安心ですね。」

 

黒見を皮切りに続々とこちらへやって来るアビドスの皆や先生と言葉を交わしつつ、俺様は彼女たちに遅れて申し訳ないと言う旨の言葉を述べる。

……それにしても、やっぱり彼女たちの汗のかき方は尋常ではない気がするんだよなぁ。

砂狼先輩や奥空なんて羽織っている上着が湿っているくらいには汗をかいているし、先生や十六夜先輩は首から流れている汗が胸の谷間に吸い込まれて……って、今はそんなところを見ている場合じゃないだろ!

 

ま、まぁともかくそんな感じで彼女たちはとにかく汗だくなのがここから見ても伺える。

まるで、なにか激しい運動をしたあとかのようだ。

 

「そう言えば、なんだかみんな汗びっしょりみたいだけど……何かあったの?」

 

どうやら、小鳥遊先輩も同じ事を思っていたらしい。

小首を傾げつつ、不思議そうな表情を浮かべて小鳥遊先輩は先生たちにそう疑問をぶつけていた。

 

「そんな呑気な事言ってる場合じゃないわよホシノ先輩!こっちはヘルメット団に襲われたり、リゾート狩りだのなんだので大変だったんだからね!」

「えっ、ヘルメット団?」

 

小鳥遊先輩の言葉を聞き、突然うがー!と言う擬音が聞こえてきそうな形相で黒見が大声を上げる。

ヘルメット団っつーと……昨日俺様達を襲ってきたワカモの雇い主だって言うあの赤髪の女の率いているヘルメット団のことだろうか?

それにリゾート狩りって……なんか、昨日も同じような言葉を聞いた事があるような気がするけど。

 

「そのせいで朝セットした髪は崩れるし……もう最悪!」

「せ、セリカちゃん?落ち着いて……」

「これで落ち着いてなんていられないわよ!」

“……ひとまず、お互いに情報の整理をしようか。タツミが迷っていた事情っていうのも気になるところだしね。”

「そ、そうだな。そうした方が良さそうだ。」

 

理由は分からないが荒れている様子の黒見を横目に放たれた先生の言葉に、俺様は頷いて同意する。

その後、みんなが座っていた切り株に腰を下ろした俺様と先生たちはお互いが別行動を取っている間に起こっていたことについて情報を交換し合うのだった。




最近寒すぎますね
皆様も体調には充分お気をつけください
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