転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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気が付けばもう年末ですね
年越しそばの準備しないと……


七神リンの心配と丹花タツミ

結局、あれからも何故か不機嫌な七神代行に満足するまでソファで抱きしめられ続けた俺様。

彼女の体から感じる体温、押し付けられた胸や太ももの感覚、そして漂ってくる甘い香りにガリガリと理性を削らながらも俺様はひたすら無心を貫いて何とか耐えきり間違いを犯すことだけは避けることが出来た。

 

(はぁぁ……心臓に悪かったぜ。)

 

今更言うまでもないが、七神代行は規格外のスタイルと美人な生徒の多いキヴォトスの中でもトップクラスと言っていいほどの美貌を兼ね備えている女性だ。

そんな女性からあんな潤んだ目をしながら上目遣いで見つめられながら密着されては、健全な男子高校であれば精神がガリガリ削られるのは当たり前のことだろう。

 

ワカモと言う俺様に想いを寄せてくれている女の子がいながら七神代行の恐怖心を和らげるためとは言え他の女の子と密着して抱き合ったことに罪悪感を感じつつ、俺様は目の前のテーブルに置かれたコップの水を煽る。

よく冷えた水が喉を通る感覚が、俺様の頭の中をスーッとクリアにしていってくれた。

 

(……ワカモには申し訳ないことをしちまったな。)

 

コップをテーブルに置きながら、俺様は心の中でワカモに対して謝罪する。

理由はどうあれ、テロリストではあるがワカモはこんな俺様の事を心から好いていてくれる女の子だ。

そんな女の子が居て、しかも体まで重ねたと言うのに他の女性とあんなに密着してしまった罪悪感が俺様の胸の中を駆け巡っていく。

 

……とは言え、身内から命を狙われて恐怖に震えている七神代行を放って置けなかったのもまた事実だからな。

もし次にワカモに会った時は、誠心誠意そのことを謝るしか無いだろう。

 

まぁそもそも俺様とワカモは付き合ってなければ彼氏と彼女の関係ってわけでもないから、別に今回の件が浮気に入るかと言われればそうじゃないとは思うけども……

でもあんな事をしておいて他の女性と抱き合うってのは良くないのは事実ではあるわけだし……

 

それに七神代行のメリハリの効いた体は同じダイナマイトボディだがワカモの体とは違って……って何を考えてんだ俺様は!こんなこと考えるなんてワカモに対しても、七神代行に対しても失礼だし最低だろ!

くっ……すまんイブキ、俺様は最低な男だ……!

 

「ふぅ……溜まっていたものを発散できてスッキリしました。それでは、話の続きを始めましょうか。」

 

俺様がぐるぐると頭の中で思考を巡らせていると、七神代行がゆっくりと口を開いた。

正面のソファには先程まで俺様を抱き締めていた七神代行が妙に肌をツヤツヤさせながら満面の笑みで座っており、見るからに上機嫌な様子が伺える。

……何故俺様を抱き締めるだけであんなにも上機嫌になるのかはよく分からないけど、まぁ恐怖心が払拭されてくれたのなら俺様としても嬉しい限りではあるな。

とは言え思春期の男子高校生に七神代行の破壊力抜群のダイナマイトボディは心臓に悪いとしか言いようがないから、出来たら勘弁してもらいたいものだが。

 

「あ、はい……そうしましょうか。」

 

俺様はそんな彼女に対して、そう言葉を発した。

……ひとまず、今は俺様のこのモヤモヤよりも黒幕に対する話を優先すべきなのは間違いないからな。

表情を真剣なものにして、七神代行に改めて向き直る。

 

「それでは……ひとまず連邦生徒会内部に潜んでいる黒幕の狙いが私かつ私の支持者を陰から排除しようとしている今の方針から考えて、アユムやモモカにも黒幕の手が伸びるのは時間の問題だと言えるでしょうね。」

 

七神代行は先程まで浮かべていた笑みから一瞬でいつもの冷静沈着で真面目な顔へと表情を切り替えると、大きな胸の下で腕を組みながら溜息を吐きつつそう言った。

 

「そうですね。彼女達は七神代行の業務を良く手伝ってくれていますし、七神代行との仲も良好です。俺様も彼女達が黒幕である可能性は限りなくゼロに近いと思いますし……何よりも彼女達は連邦生徒会の幹部。影響力は一般の役員の比ではないですからね。」

「はい、黒幕にとっては格好の的でしかありません。ですので彼女達には今回の事を伝え、身の回りには気をつけるようにと忠告しようと思います。」

 

真剣な表情を浮かべながらそう言う七神代行に、俺様は首を縦に振って頷く。

 

先程も言ったが岩櫃調停室長や交通室長の由良木は連邦生徒会内でも特に七神代行と仲が良く、彼女の業務を手伝っているところをたびたび見かける事がある。

更に彼女達は連邦生徒会内でも強固な七神代行の支持者であるため、黒幕からすれば邪魔な人員であるはずだ。

幹部である彼女達の影響力を考えると、七神代行の言う通り黒幕の格好の的であることは間違いないだろう。

 

しかも岩櫃調停室長は調停室と言う連邦生徒会と他の学園の調停をする部署……早い話が窓口のような部署の室長を務めているし、由良木の交通室だって地味ながらキヴォトスの交通事情を支えている重要な部署だ。

もし彼女達が襲撃されて各部署の機能が麻痺するような事があればキヴォトス運営への影響力は計り知れないだろうし、単純に七神代行の味方をしてくれる人間がいなくなる以上の問題なのは間違いない。

そんな彼女達を黒幕の手で失うことがあってはならないのは確実、早急に手を打つ必要があるだろう。

 

もちろん俺様だって岩櫃調停室長とはモモトークをしたり、調停室とは結構な頻度で連絡を取り合うこともあるのでそれなりに仲良くさせてもらっている。

この前調停室へ顔を出した時はいつものお礼だと言って彼女から栄養のある料理をご馳走してもらったりしたし、その礼に調停室の仕事を手伝ったり疲れている様子の岩櫃調停室長にマッサージをしてやったり……

それに彼女は調停室と言う他の学園と主に関わる仕事についているためそれに付随してストレスも溜まるみたいで、七神代行ほどではないけど彼女ともモモトークや通話をして悩みや愚痴を聞いたりもしているからな。

時折妙なじっとりした視線を感じるのが気になるけど、ともかく彼女とは良好な関係を築いているつもりだ。

 

それに、由良木もゲヘナの不良共がよく道路や線路を爆破するおかげで何度も世話になっているからな。

この前はその詫びに手作りの明太子チップスを差し入れたら大層喜んでくれたし、普段はだらだらしておちゃらけている彼女も仕事のことになると面倒くさそうにしつつも非常に真面目で優秀な一面もあるからな。

ダウナーな雰囲気といい、なんやかんやで仕事に対しては真面目な部分といい髪の色が近いのも相まってどうしても棗先輩と同じ雰囲気を感じざるを得ない。

それに何よりも、彼女は俺様と同じ1年生でありながらキヴォトス中の交通事情を一手に担う交通室の室長を勤め上げている尊敬すべき人物でもあるのだ。

そんな七神代行の友人であると同時に俺様の友人でもある彼女達に手をかけるのは……絶対に許さない。

 

「あとは……タツミ議長代理だけではなく、私の方からも連邦生徒会内部に潜んでいる黒幕に対しては今後積極的に探りを入れていこうと思っています。」

 

俺様がそう考えていると七神代行はすっと目を閉じると大きく息を吐き、決意した表情を浮かべてそう言った。

 

「……それはありがたいですが、大丈夫なんですか?」

 

確かに七神代行の申し出はありがたいものだ。

俺様は連邦生徒会の内部に今回のクーデターを企てている黒幕が居ることを掴んではいるものの、俺様は所詮連邦生徒会の部外者の人間だ。

黒幕に対して探りを入れるにしてもどうしても限界は出てくるし、黒幕には俺様から挑戦状を叩きつけている以上向こうも警戒しているであろうことは間違いない。

 

その点、七神代行は連邦生徒会長の代行。

つまり実質的に、今の連邦生徒会のトップの人間だ。

そんな人間であれば自身の持っている権限を使えば連邦生徒会内部の詳細なデータまで調べることが可能だろうし、幹部達の不審な行動にも常に目を光らせられる。

内部に潜んでる黒幕をあぶり出すため、非常に有効な手段を多く打てるのは間違いないだろう。

 

……とは言え、当然だが黒幕に近づけば近づくほどに七神代行の身はそれに比例するように危険に晒される。

七神代行は連邦生徒会長代行なんて大層な肩書を背負ってはいるが、その中身は1人の優しい女の子だ。

そんな女の子に、自分の身を危険に晒しながら探りを入れてもらうと言うのはかなり心配ではあるのだが……

 

「えぇ、問題ありません。」

 

そんな俺様の心配をよそに、七神代行はそう言うとかけたメガネをくいっと手で引き上げつつレンズを光らせながらそう発言した。

 

「元はと言えばこの事件の発端は連邦生徒会の幹部がクーデターを企てた事によるもの。つまり本来であれば私が解決すべき問題であることは明らかです。タツミ議長代理は本来ならこの件からは手を引いてもいいのに、それでも危険を犯して探りを入れてくれると言っているのですから……当事者である私が何もしないというわけには行きませんからね。私は狙われるばかりのか弱い女ではない。防戦一方なのではなく、こちらからも仕掛ける事により黒幕の焦りを引き出してやりましょう。」

 

そう言うと、七神代行は不敵な笑みを浮かべながらキッパリとそう言いきる。

その綺麗な青い瞳には先程の怯えや恐怖、不安などの感情は一切なく……そこにあったのは黒幕の好きにさせてたまるものかと言う、彼女の強い決意だった。

 

……良かった、この分ならもう大丈夫だろう。

だって七神代行は先程までの恐怖で縮こまっていたか弱い女の子ではなく、連邦生徒会長代行と言うキヴォトスを守るべき人物としての表情をしているのだから。

 

「えぇ、一緒に黒幕を追い詰めてやりましょう!」

 

そんな彼女の決意に応えるように、俺様はニヤリと笑みを浮かべると拳を前へ突き出して力強くそう言った。

 

「はい!それに、私には私のことを守ってくださる頼りになる男性がいますからね♡ふふっ♡」

 

続いて、彼女は不敵な笑みを色っぽい表情へと変えると俺様の目をじっとりと見つめながらそう言ってくる。

俺様は一瞬その目に妙な寒気を感じつつも、すぐに彼女の目を見据えながら真剣な表情で口を開いた。

 

「はい、黒幕には貴方に指一本も触れさせません。俺様は貴方に誓いましたからね。どんな手を使ってでも、何が何でも絶対に七神代行を守り抜いてみせますよ。」

「はい♡頼りにしていますよ、タツミ議長代理♡」

 

そう言うと、心底嬉しそうに微笑む七神代行。

その顔を見て俺様は彼女の恐怖心を払拭できたことに安心しつつ、突き出していた拳を引っ込めた。

さて、ひとまずこれで七神代行は完全に自分の身を脅かす黒幕への恐怖心を打ち破れたと言って良いだろう。

 

やるべき事は決まった。

であれば、今後俺様や七神代行がどう動きべきなのか……そのための具体的な相談をしておきたい。

コップを再び手に取って傾けつつ、俺様は天井を見ながら思考を組み立てていく。

 

俺様や七神代行がどう黒幕へアプローチをかけるのか。

そのための方法はどうすべきか。

信頼できる連邦生徒会の幹部は誰で、何人いるのか。

探りを入れるとは言え七神代行1人では限界があるだろうから、危険に巻き込んでしまうことになるが岩櫃調停室長や由良木の協力を得ることは出来ないか。

そういう細部を相談して、それを実行しつつ少しづつ黒幕を囲い込んで追い詰めていけばいいだろう。

そう思った俺様はひとまず今後の相談をするために手にしていたコップをテーブルに置くと、天井から七神代行へ視線を向けて口を開こうと……

 

「……そう言えば、先程から気になっていたのですが。」

 

したその瞬間だった。

俺様よりも先に、七神代行が思わず背筋がゾクリとするようなどこか冷たい声でそうぼそりと呟く。

その場の空気を瞬間冷凍させるような声に俺様はビクリと肩を跳ねさせながら彼女へ視線をやると、七神代行はニッコリとした笑みを浮かべていた。

 

……だが、気のせいだろうか。

彼女の青い瞳は、まったく笑っていなかった。

 

「……その首元の絆創膏、どうしたんですか?」

 

彼女は底冷えするような口調でそう言うと、俺様の首元に貼られた絆創膏を暗示するように自分の首元をトントンと軽く叩いている。

 

「えっ?い、いやこれはその……」

 

……まずい、今ここでそんな事について突っ込まれるとは想像すらしていなかった。

てっきりこれから黒幕にどう対抗するかの話し合いをすると思っていた俺様の体は、あまりにも予想外の話題を出されたことにより金縛りにあったようになる。

 

とは言えこれはまずい。非常にマズい。

この絆創膏の下にはワカモとの一夜で刻まれた刻印がくっきりと残っている。

こんなものを見られてしまってはとんでもないことになるのは確実。この事を知られるわけにはいかない……!

突然の質問に俺様の思考は硬直しかけるが、ハッとなった俺様は慌てて脳を急速回転させて言葉を絞り出す。

 

「えっと……じ、実はこの前アビドスの皆と行ったリゾートでお恥ずかしながら蚊に食われてしまいましてね……結構痒くて掻きむしって悪化すると良くないので、こうやって絆創膏で保護してるんですよ。」

「……へぇ?それにしては随分とたくさん貼っているようですけど、いくら南の島で蚊が多いとは言え首だけをそんなに集中して食われるものでしょうか?」

「そ、それが寝る時に窓を開けっ放したまま寝てしまったせいで大量の蚊が入ってきちゃいまして。もちろん首だけじゃなくて、それ以外の部分も食われてますよ。」

 

目の前でまったく笑っていない目をこちらへ向けながらそう言ってくる七神代行に対して、俺様は背中に冷たい汗が流れるのを感じながらそう言葉を発する。

 

「……なるほど、それはさぞかしわる〜い虫にたくさん食われてしまったのでしょうね。タツミ議長代理の事などお構いなく欲望のままに……そして貪るように。」

 

俺様の首元の絆創膏を食い入るように、そして恨めしそうな目で見つめながら冷たい声でそう言う七神代行。

 

「な、七神代行……?」

「……失礼、少し取り乱しました。なるほど、そういうことだったのですね。てっきり、私はタツミ議長代理が悪い女に誑かされた時に付いたのを隠すために貼っているものだとばかり思ってしまいましたよ。」

「は、ははは……そんな訳ないじゃないですか……」

 

ニッコリと威圧的な笑みを浮かべてそう言う七神代行に対して、俺様は引きつった笑顔を浮かべてそう言う。

 

「ですがタツミ議長代理。貴方はキヴォトスでは殆ど見ない男子生徒……ただ街を歩いているだけでさえ視線を引くのですから、窓を開けっ放しにするなどの無防備な行為は今後控えたほうがよろしいかと。でないと……今度こそ食べられてしまいますよ?虫などではなく、良からぬことを考える悪い女から……ね?」

「か、考えすぎですよ七神代行。そんな大げさな……」

 

有無を言わせず身を乗り出して俺様に顔を寄せてきながらそう言う七神代行。

そんな彼女に、俺様は若干震えた声でそう返した。

 

「いいえ、そんなことはありません。貴方はとても心が優しくて……悪人でも助けを求めれば自分を犠牲にしてでも助けようとする呆れるほどのお人好しです。無防備で人懐っこくて女性に対してはとても紳士的……そんな男性なんて悪い女の格好の獲物ですからね?例えばそうですね、テロリストのような女には特に……ね?」

 

テロリスト。

その言葉を聞いた瞬間、俺様の肩がビクリと跳ねる。

 

「……ふぅん。当たらずとも遠からずと言ったところでしょうか?」

 

……大丈夫だよな?これバレてないよな?

バレてないはず……だと思うけど。そう思いたいけど。

 

「か、買いかぶりすぎですよ七神代行。褒めてくれるのは嬉しいですけどそんな事ある訳ないですって。」

「いいえタツミ議長代理、警戒しておくに越したことはありません。貴方にとって女性は守るべき対象なのかもしれませんが、外の世界の女性はともかくキヴォトスの女子生徒であれば貴方を力で無理やり抑え込む事など造作もありません。それこそ、先程貴方は私から腰を引いて逃げようとしていましたが私が力を入れるだけでその場に釘付けになっていたでしょう?」

「そ、それは……」

 

言い訳の出来ない事実に、俺様は言葉に詰まる。

 

「貴方は強い。それはあのキヴォトスでも右に出るものは少ないと言われるほどの実力者である空崎ヒナと渡り合えることからも確かです。ですが、事実として貴方にはヘイローがありません。無防備な状態を突かれて武器を取り上げられては、私のような戦うすべを持たない生徒にすら簡単に組み伏せられてしまうでしょう。」

「……そうですね。それは否定できない事実ではあります。俺様がキヴォトス人と戦えるのはこの盾と銃があるから、それは間違いないですしね。」

 

足元に置いた折りたたみシールドをコンコンと叩きながら、俺様は渋い顔をしつつそう言った。

確かに七神代行の言う通り、俺様は盾と銃がなければただの銃弾一発で死んでしまうような貧弱な人間だ。

それこそキヴォトス人の拳や蹴りなんてものを直接くらえば骨折……までは流石にいかないとしても、痛みで立ち上がれなくなってしまう可能性はある。

槌永の弾丸を食らったときだって防弾チョッキと薬子先輩の薬が無ければ俺様は間違いなく死んでいただろう。

 

ヘイローのあるキヴォトス人と、ヘイローのない俺様との間には抗えない力の差があるのは確かだ。

だからこそ俺様は盾を使って攻撃を肩代わりしてもらう事によって肉体強度を補っているわけだけど、七神代行が言いたいのはおそらくそういう話ではないだろう。

 

決して油断するな、黒幕に出し抜かれるな。

お前はいつ死んでもおかしくない。

そういう事が言いたいということで間違いないはずだ。

 

「はい。ですので、くれぐれも気をつけてください。決してタツミ議長代理の事を過小評価しているわけではありませんが、事実そういうお話がありますので。」

「……分かりました。肝に銘じておきます。」

 

気がつけば先程までの冷たい表情はどこへやら、真剣に俺様の事を案じるようにそう言ってくれる七神代行に対して俺様はコクリと大きく頷く。

最近あまり意識することもなくなっていたけど、七神代行に改めて言われると俺様は極めて危険な場所にいるんだと言う実感がひしひしと沸いてくる。

……けどいくらキヴォトス人が俺様よりも強いとは言え俺様にとっては万魔殿の皆やゲヘナの皆、そして七神代行を含めた俺様と仲良くしてくれている人たちが守るべき対象なのに変わりはない。女の子となれば尚更だ。

だからこれはキヴォトス人がどうとか、力の差がどうとか……そういう問題じゃない。

 

困っている人を助けること。

大切な人たちを守ること。

それは……単純に俺様の譲ることの出来ない信念だから。

相手が自分より強くても関係ない。

俺様がやりたいからやる。

そう……ただ、それだけの話だ。

 

とは言え、七神代行の言う事も御尤もではあるからな。

今後はそういう事には気をつけることにしよう。

 

「ご理解してくださったようで何よりです。絆創膏の件は……そうですね、タツミ議長代理の言い分を信じることにします。くれぐれもお体は大切にしてください。」

「はい、そうさせてもらいます。」

 

……良かった、何はともあれひとまず絆創膏の件はなんとか誤魔化すことが出来たようだ。

 

「まったく、あんな目立つところに印をつけるなんて……彼に手を出したのはさぞ独占欲の強い女なのでしょうね。まるで狙った獲物に執着する狐のようです……首筋へのキスは独占特の表れとも言いますし、狐のテロリストと言えば……」

「……?どうしました、七神代行?」

「……いえ。なんでもありません。少し今後の身の振り方について考えていただけですから。」

 

ゴホンと言う咳払いをしつつ、ズレたメガネを指で押し上げて掛け直しながらそう言う七神代行。

その後その場にはなんとも言えない微妙な空気が流れるが、その空気を変えるために俺様は話題を切り出した。

 

「あ、そう言えば七神代行。この前のロストパラダイスリゾートの件ですが、ありがとうございました。」

「ロストパラダイスリゾート?あぁ、カイザーがくだらない企みをしていたあの件ですか。」

 

俺様の言葉を聞き、ハッと思い出したかのような表情を浮かべつつそう言う七神代行。

 

「俺様はその場にいなかったので分かりませんが、本来であれば連邦生徒会のものであったあの土地を百鬼夜行のお祭り運営委員会に譲渡してくれたとのことで……さっきシャーレで先生と話していた時に聞きましたが、百鬼夜行の河和先輩は大層喜んでいたそうです。俺様からも是非礼を言わせてください。」

「いえ、お礼を言われるようなことではありませんよ。それに正直、私達としてもあの土地は持て余していたと言いますか……会長が失踪する前であればあそこを管理する人員も居たのですが捜索にリソースを割いている状態では土地の管理までは手が回っていないのが現状でしたからね。シズコさんが買い取って運営してくれるのであれば、こちらとしても都合は良いですから。」

 

冷静に振る舞いながら、そう言葉を口にする七神代行。

確かに理屈だけを聞けばそうかもしれないけど、それでも七神代行があの土地を百鬼夜行へ譲ることを決めたおかげで河和先輩やアビドスの皆の努力が無駄にならなかったのは紛れもない事実だ。

俺様は百鬼夜行や河和先輩と直接関わってはいないけれど、仲良くしてくれているアビドスの皆が世話になったのであれば俺様が礼を言わない理由はないだろう。

 

「だとしても七神代行のおかげであの場にいた皆の頑張りは実を結んだ訳ですからね。だから俺様が礼を言うのはお門違いかもしれませんけど……本当にありがとうございました、七神代行。」

「……いえ、大したことではありませんよ。それに私としても百鬼夜行の皆さんにはお礼をとして料理をご馳走になりましたからね。どうぞお気にせずに。」

 

それでもと俺様が感謝の言葉を述べると、七神代行は柔らかな笑みを浮かべながらそう言った。

 

「しかし、連邦生徒会の土地であると知りながらその土地の利用権利書を売りつけた上で堂々と詐欺とは……カイザーも中々舐めたマネをしてくれますね。」

「仕方ありません。元よりカイザーは金のためなら悪行も厭わない事で有名です。文字通り血も涙もない、生徒を食い物としか思っていない悪徳企業ですから。」

 

俺様の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそう言う七神代行。

そんな彼女に対して俺様は頷きながら同意する。

 

正直カイザーの金の亡者っぷりや悪行の数々はアビドスへの借金の件を鑑みても分かりきっていた事ではある。

けど、まさか今回のように少し調べれば連邦生徒会の土地であろうと分かる場所の利用権利書を売りつけるなどというふざけた真似をしてくるとは思わなかった。

 

言うまでもないけど他者の所有している土地を勝手に売りつけるなんてことは当然犯罪だし、その土地を利用してあまつさえ詐欺を働くなどもはやラインを超えたクソみてぇな行為だと言わざるを得ないだろう。

言い換えれば、カイザーが今回やったことは連邦生徒会に堂々とケンカを売る行為に他ならないからな。

しかもその余波で黒見を始めとしたアビドスの皆にまで迷惑をかけられているわけだし……まったく、どこまでもアビドスと妙な縁のある連中だぜ。

 

まぁとは言え、結果的にはそのおかげで河和先輩の手掛ける超大型リゾートが誕生したわけだから不幸中の幸いというか……雨降って地固まると言うか。

ただ、ロストパラダイスリゾートで一儲けしようと企んでいたカイザーの元理事は先生の話いわくどさくさに紛れて逃亡したらしいから……またろくでもない事をどこかで企んでいないといいんだけど。

カイザーは生徒のことを食い物だとしか思っていない悪徳企業ではあるけど、資金力や行動力だけは無駄にあるので仮に敵に回るようなことがあれば厄介な相手であると言わざるを得ないだろうからな。

願わくば、連中とは金輪際関わりたくないものだ。

 

「ひとまずカイザーのことは置いておくとして、先生の助力もあり無事に解決したのでその件に関しましては良かったと言えるでしょう。我々としてもあの土地に人員を割かずに良くなった分連邦生徒会の業務に当てられる人数も少しではありますが増えましたしね。現状としてましては連邦生徒会は業務に遅れこそ出てはいますが概ね正常に回っている状態です。」

 

……まぁとは言え七神代行のこの疲れ具合や目の下の深いクマからしてみても多少人員が増えたとは言え連邦生徒会長の捜索に膨大なリソースを割いている今、働く人間の数が足りないのは確かだろう。

もし足りているのであれば七神代行が目の下にクマを作ったり岩櫃調停室長があれほど大量の書類を処理しなければならない状況にはならないはずだからな。

……だからこそ、このカツカツの状況において黒幕の考えているクーデターを起こさせるわけには行かない。

 

と言うか、そもそも黒幕は連邦生徒会が現状ギリギリの人員で業務をしていることを理解しているのだろうか?

仮にクーデターが成功したとしても、それは七神代行を支持する人間を大量に排除してからになるだろう。

だとすれば、黒幕が連邦生徒会長代行の席に着いた時には今よりも連邦生徒会内で動ける人員は少なくなっているのは火を見るよりも明らかだ。

 

しかも黒幕が消そうとしているのは七神代行を始めその支持者である岩櫃調停室長や由良木、その他七神代行を支持している役員達のはず。

七神代行は言わずもがな書類仕事をさせれば右に出る者はいないし、岩櫃調停室長だってあの大量の書類を半日もあれば崩せる程には事務仕事において優秀だ。

由良木だって普段はやる気がないだけでやるべき事はしっかりやるタイプだし、七神代行の支持者たちも彼女を支持しているだけあり事務仕事が優秀な人員が多い。

 

そんな現状の書類仕事を一手に担っていると言っても過言ではない彼女達を排除してしまえば、ただでさえギリギリの状態で回している今よりも余計に連邦生徒会の仕事が回らなくなることは少し考えれば分かるはずだ。

となれば黒幕からしてみれば、今よりもかえって苦しい思いをすることになる思うし正直自分で自分の首を絞める行為に他ならない気がするけど……それとも、黒幕には何か減った人員を補充できる伝手でもあるのだろうか?

それこそ、考えられる可能性としてはカイザーのような腹に何を抱えているか分からない連中を金で雇うくらいのものだと思うが……あんなクズどもに頼るようなら、それこそ連邦生徒会は終焉を迎えかねないからな。

 

まぁ人殺しを平気で指示し、SRTを人質にFOX小隊を顎で使うような人間の考えることなんて理解できないが……いずれにせよ、黒幕の好きにさせるわけには行かないことだけは確かだろう。

 

「……話が逸れましたね。では改めて、今後私とタツミ議長代理がどう黒幕へ立ち向かうべきなのか……それを相談するとしましょうか。」

「はい、よろしくお願いします。七神代行。」

 

俺様と七神代行は互いに顔を見合わせて頷き合うと、今後黒幕に対抗するためにお互いがどうしていくかについての話し合いを始めるのだった。




次回で年内の最終話となります
特に年末スペシャルとかは予定しておらず、普通に本編を投稿する予定ですのでよろしくお願いします!
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