ちょっとだけ戦闘もします
俺様の朝は早い。
昨日寮の近くで深夜にチンピラがドンパチやらかしたせいで風紀委員の怒号とチンピラの悲鳴で中々寝付けなくてクソ眠いが、ゲヘナでは日常茶飯事なので気にしたら負けだ。
夜勤の風紀委員の方々はお疲れ様です。
それはともかく、俺様の朝のルーティンを紹介しよう。
まず、朝起きて身支度を整えたら体力づくりのために行っている日課の走り込みから俺様の1日は始まる。
俺様のポジションは最前線なわけだが、いくら軽量な素材で出来ているとはいえそれなりに重量のある盾とブークリエを構えて戦うのは非常に体力を消耗する。
それに最前線は常に戦局が変わるので、体力に余力を残して素早く動けないと待っているのは死のみだ。
なので、バテないようにスタミナを付けることを目的として毎日こうして走り込みをしているわけだな。
目標は装備一式を全て身につけた状態で運動場を10周が目安だ、余裕があるならもう少し走るけど。
それが終わったら一旦シャワーを浴びてサッパリした後にイブキの朝飯を用意する。
ちなみにゲヘナの寮は個室制度なので必然的に俺様とイブキは別室なのだが、イブキはまだ11歳。
1人で生活させるには少々心許ない年齢のため、イブキのみ特例で万魔殿のメンバーである女子達との相部屋が許可されている。
なおイブキの部屋に泊まるメンバーは日替わりで交代しているらしく、今日は棗先輩が泊まっているようだ。
本当は俺様の部屋と相部屋にしたかったんだが、俺様男子だからな……女子寮にゃ入れねぇんだこれが。
涙を飲んで従うしかねぇ。
ちなみにゲヘナで男子は今んとこ俺様1人なので、男子寮なんてものはなく俺様の部屋は女子寮の敷地の外の物置を無理やり部屋に改造したものだ。
肩身が狭いことこの上ないが、まぁおかげさまで普通の部屋よりちょっと広めだからそれは嬉しいところ。
そんなことを思いつつ朝飯を作る準備をしていると、俺様の部屋のインターホンが鳴る。
玄関まで行きドアを開け出迎えると、そこには万魔殿の制服に身を包んだイブキと棗先輩の姿があった。
「お兄ちゃんおはよ〜!」
「おう、おはようイブキ!昨日はよく眠れたか?」
「うん!イロハ先輩が本を読んでくれたんだー!」
「おーそうかそうか!良かったなぁイブキ!」
満面の笑みでそう言うイブキ。俺様はイブキの頭に手を置き、左右に動かして頭をなでる。
昨日のドンパチでイブキが眠れているか不安だったが棗先輩が寝かしつけてくれたらしい、ありがたいことだ。
「おはようございます、タツミ。」
「おはようございます棗先輩!いつも助かります!」
「いえ、イブキのためですからね。」
嬉しそうに笑うイブキに視線をやり、少しだけ口角を上げながら棗先輩はそう言った。
基本的には朝起きたらその日にイブキと同室だった人がイブキの身支度を整え、時間になったら俺様の部屋まで送り届けてくれる手筈になっている。
ちなみにそのまま俺様が送ってくれた人の朝飯もついでに用意するため、食ってから基本3人で登校している。
「よーしイブキ、今日は何が食いたい?」
「えっとね、イブキパンケーキが食べたいな!」
「よーし、パンケーキだな!すぐ作るからちょっと待ってろよ!」
俺様はエプロンを着けるとフライパンを火にかけ、バターとホットケーキミックスを取り出す。
「あ、棗先輩もパンケーキでいいすか?」
「はい、構いませんよ。私は2枚ほどお願いします。」
「了解です、ちょっくらお待ち下さいね〜。」
あくびを噛み殺しつつ、イブキを膝の上に乗せている棗先輩はブカブカの袖を振りながらそう言った。
冷蔵庫からバターを取り出し、スプーンで切り分けるとフライパンへと放り込む。
その間にホットケーキミックスに卵を割り入れ、牛乳を注いでダマにならないよう泡立て器でかき混ぜていく。
「イブキ、パンケーキ何かけるんだ?」
「えっとね、イブキはチョコレートソースがいい!」
「チョコレートソースだな!よっしゃ!任せとけ!棗先輩はどうしますか?」
「あ、私は普通のシロップでお願いしますね。」
「了解です、用意しときますわ。」
チョコレートソースとシロップを冷蔵庫から取り出しつつ、熱したフライパンに混ぜたホットケーキミックスのタネをお玉ですくって円状になる様に乗せる。
バターの弾ける音が聞こえ、甘い香りがふわっと俺様の鼻をくすぐる。あー……腹減ってきたな。
「いい匂いだね、イロハ先輩!」
「そうですね。タツミのパンケーキは美味しいですから楽しみです。」
キッチンの後ろでは棗先輩が慣れた手つきで食器棚から食器を取り出し、俺様の横まで来て皿を置く。
そしてその他の食器類を並べつつイブキとおしゃべりをしている様子だ。
ちなみにイブキは冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、それを抱えてトテトテと歩いている。
あまりにも可愛いぜ……
「もうすぐ出来るからなーイブキ。あ、棗先輩は飲み物どうしますか?」
「そうですね……コーヒーでお願いします。」
「了解す、インスタントしか無いすけど良いですか?」
「はい、構いませんよ。」
焼き上がったパンケーキを棗先輩が出してくれた皿に乗せながら、片手間でインスタントコーヒーを用意する。
そんなこんなしつつ、俺様は人数分のパンケーキを焼き終わるとそれぞれの席に配膳する。
「ほら、イブキのにはチョコレートソースをたっぷりかけといたからな。」
「ほんとに!?わーい!お兄ちゃん大好き!」
「グフゥ!?」
くっ、我が妹の笑顔の破壊力が高すぎるぞ!?
ふー危ない危ない、危うく昇天するところだったぜ。
そんな俺様を棗先輩はいつものジト目で見つめてくる。
「……冷めないうちに早く食べませんか?」
「さんせー!イブキ、もうおなかぺこぺこだよ!」
「そ、そうだな。じゃあ食べるとしようか!」
俺様達3人は一呼吸置くと、揃って手を合わせる。
「「「いただきます。」」」
そして食前の挨拶をしてから、俺様はナイフとフォークを手に取ってパンケーキをカットする。
あ、ちなみにイブキのパンケーキは既にカット済みだからフォークだけで食えるようになっているぞ。
そんなイブキはパンケーキを一口食べると、みるみるうちに表情を明るくして満面の笑み浮かべていた。
あぁ本当に可愛いなぁ……いっぱい食うんだぞイブキ。
なお棗先輩はバターをパンケーキに乗せて少し溶かすと、その上からシロップをかけている。
俺様はカットしたパンケーキを口へ放り込みつつ、自分用に入れたブラックコーヒーを少し飲む。
「……うん、我ながら中々いい出来だな。」
火加減も大丈夫だし、粉っぽくもない。
シロップの甘さがちょうどいい感じにマッチしていて自分で作っておいてなんだけど中々美味いのではないか。
昨日のイブキに頼まれたおにぎりとウインナーはウインナーを少し焦がしてしまったから、今日は失敗しねぇぞと気合いを入れた甲斐があった。
ちなみに昨日イブキの部屋に泊まっていたのは羽沼議長だったが、朝飯を用意した時は特に何も言わずに用意したおにぎりとウインナーを食っていた。
「イブキ、口にチョコレートが付いてますよ。」
テーブルの向かいでは夢中になってパンケーキを頬張っているイブキの口の汚れを棗先輩がハンカチで拭ってあげていた。
「ありがとうイロハ先輩!」
「どういたしまして。パンケーキは逃げませんから、落ち着いてゆっくり食べましょうね。」
「はーい!」
うん、今日もイブキはかわいいな!
流石は俺様の妹だぜ。
「……うん、美味しいですね。」
「そっすか?それは良かったです。」
パンケーキを口に運びつつ、棗先輩はそう言った。
それを聞いて俺様は安心する。
イブキに食わせるのはもちろんだが、先輩方に食わせるなら下手なものを出すわけには行かないからな。
それにしても、棗先輩の日は食卓が静かだなぁ。
元宮先輩の日はイブキと二人してはしゃいでるから賑やかだし、京極先輩の日は彼女が手伝ってくれてイブキと3人で料理を作ったりもするから結構騒がしい。
羽沼議長?イブキを膝の上に乗せて「早くしろ」とかドヤ顔で言ってるぞあの人。騒がしいけど。
「まぁ俺様の料理なんかでよければいくらでもご馳走しますよ。」
「そんなに謙遜しなくても良いんじゃないですか?何だかんだで、私達は皆イブキの部屋に泊まった時はタツミの朝ごはんを楽しみにしてますよ。」
「え、そうなんすか?」
「えぇもちろん。美味しいですし、貴方の料理。」
パンケーキをパクつきつつ、棗先輩はコーヒーを一口飲んだ後にそう言った。
俺様としちゃぁイブキのために用意して余ったものをついでに出してるって感覚なんだけど、褒められると悪い気はしねぇな!
喜んでもらえているならヨシとしておこう!
「それに、なんだかんだこの時間が好きですからね。」
「それはわかる気はしますけどね。万魔殿で全員そろって昼飯食うのも賑やかで楽しいっすけど、イブキと3人で食うのもまた違った良さはあります。」
「そうですね。それに……いえ、なんでもありません。」
コーヒーを啜りつつ、棗先輩はイブキの口についているチョコレートを拭き取りながらそう言った。
棗先輩、今何か言いかけなかったか?……まぁいいか。
「えへへ、ありがとうイロハ先輩!」
「おっ、ちゃんと礼を言えて偉いぞイブキ!ご褒美にお芋アイスをあげよう!」
「ほんとに!?やったー!お兄ちゃんだいすきー!」
「ゴハァ!」
「……ほんとにこれさえ無ければ……はぁ。」
そんなこんなで、のんびりとした朝食の時間は過ぎていくのだった。
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ゲヘナ学園の体育館にて。
なんでも本日は風紀委員会が戦闘訓練を行うということで、羽沼議長からの指示で「粗を探してこい!」とのことで俺様は彼女たちの訓練の視察に赴いていた。
……なんというか、これを俺様が言うのもなんだけど嫌がらせしたいなら俺様じゃなくて羽沼議長が自分で赴いたほうが良いんじゃないのか?と思わなくもない。
そもそも俺様は風紀委員に押し付けた書類を回収するような奴だぞ?そんな奴がクソ真面目に粗探しをしてくるとでも思ってるのか?あのアホ議長は。
自分で行かないならせめて元宮先輩とか、棗先輩辺りに頼めば良かったんじゃなかろうか。
棗先輩は面倒だからって拒否しそうだけどな。
まぁ一応今回の戦闘訓練は風紀委員会の予算にも関係してるので、粗探しをするつもりはないけどそれなりに真面目には視察をするつもりだ。
だから今回は体育館の隅っ子で書類と睨めっこしつつのんびりと戦闘訓練の様子でも見る予定……
「さぁ早く戦るぞタツミ!もう待ちきれないよ!」
……の、はずだったんだが。
俺様の目の前には何故か戦闘態勢に入り戦意を昂らせている銀鏡先輩の姿があった。
「あの、銀鏡先輩?今回俺様は視察として来たんですけど何でバリバリ戦闘させられようとしてんすかね?」
「あれ?今回はタツミも参加するってアコちゃんから聞いたんだけど、違うのか?」
「おい天雨アコォ!!!」
体育館の隅っこの方でバインダーを片手にこちらをニヤニヤしながら見ている天雨行政官に俺様は声を上げる。
クソ!通りで何か会った時から今日はエライご機嫌だなと思ってたよこんチクショウが!
普段万魔殿から嫌がらせ受けてるからってこんな形で返してきやがるとは……おのれぇ……
「大丈夫だ!アコちゃんの指示でタツミが撃たれても大丈夫なように訓練で使う銃の弾は全部ゴム弾に変えてあるぞ!」
「いやそういう問題じゃねぇんだけどなぁ!?」
そもそもゴム弾でも当たったら痛いしなんならアザが残っちまうかもしれねぇじゃねぇか!何の解決にもなってねぇっつーの!
「ちょっと天雨行政官!どういう事すかこれは!?」
「わざわざ万魔殿から時間を割いて来てくださっているんです。視察とは言わず、実際に体験してもらうほうがより理解していただけるのではないですか?」
「それは視察って言わないだろ!?」
「決して貴方がヒナ委員長と親しそうだからとか、手料理を振る舞ったのを羨ましいとか思っているわけではありませんからね?」
「それが本音だろ天雨アコォ!」
アンタが空崎委員長大好きなのは分かったけどさぁ!
くっ……こんな時に空崎委員長か火宮が居たら絶対止めてくれるのに、今日に限ってなんで参加してねぇんだ!
クソ、この妖怪横乳女め……!
「うーん、いつも私とやってる模擬戦みたいなもんだと思えば良いんじゃないか?」
「いや、それはそうかもしれませんけど……!」
確かに俺様は銀鏡先輩が暇な時は頼んで稽古をつけてもらってる事もあるけど、それとこれとは話が違うだろ!
まぁ一応装備は一通り持ってきてるから、やろうと思えばできない事はないけども……!
「ちょ、ちょっと風紀委員の皆!アンタらからも何か言ってやってくれよ!」
このままじゃマジで戦闘訓練に参加させられちまう。
そう思った俺様は周りの風紀委員達に助けを求める。
「えー、でもタツミくんだしなぁ……」
「よくイオリ先輩と模擬戦してるしいいんじゃないの?」
「と言うかこの前不良の鎮圧で一緒に戦ったよね?」
「まぁタツミはもう半分風紀委員みたいなもんだし……」
「クソ!味方が居ねぇ!」
と言うか半分風紀委員ってなんだよ!
俺様は万魔殿だぞ!
ウチの議長アンタ達目の敵にしてんだぞ!
「まぁ細かいことはどうでも良いじゃんか!こっちはもう準備できてるんだ、早く戦るぞ!」
そう言うと相棒の銃を肩に担ぎ、歯を見せて好戦的な笑みを浮かべる銀鏡先輩。
いや……あなたそんなにバーサーカーでしたっけ?
「あークソッ!」
あぁもう!分かったよ!
そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!
俺様はブークリエにマガジンを差し込んでチャージングハンドルを引き、肩に下げていた折り畳みシールドを手に取り取っ手のボタンを押して展開する。
こうなったらヤケクソだ!銀鏡先輩に勝ってその事を報告書に書いてやるからなァ!
「ははっ!そう来なくっちゃな!さぁやるぞタツミ!」
「上等だ!行くぞ銀鏡先輩ッ!」
俺様と銀鏡先輩は互いに武器を構えると、ほぼ同じタイミングで引き金を引く。
その銃声を合図代わりとして、戦闘訓練が始まった。
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「ハァ……ハァ……や、やるなタツミ!」
「ぜぇ……ぜぇ……銀鏡先輩こそ!」
あれからどれだけの時間が経ったのかはわからない。
周りには風紀委員の制服を着た生徒達が倒れ伏し、俺様と銀鏡先輩はお互いの武器を杖代わりに使いながら限界ギリギリの体力でなんとか地に足を付けていた。
お互いの攻撃をかわし、受け流し、防ぎ、相手の隙に攻撃をねじ込みに行くまさに一進一退の攻防。
命の取り合いではないとはいえ、お互いの全力をぶつけ合うタイマン。男として燃えないわけがなかった。
……ってか、やっぱ銀鏡先輩ってめちゃくちゃ強いよな。
トップの空崎委員長が頭おかしい強さだから霞んでるだけであって、銀鏡先輩もゲヘナ学園内ではトップクラスの強さを誇っていても何らおかしくはない。
「前よりも腕を上げたなタツミ!」
「そりゃ守りたいものがありますからね、俺様には!」
最前線に立ち、後ろの皆を守るため。
万魔殿の皆を守るため。
そして何よりも【イブキを守るため】にも。
俺様は強くならなければならない。
感謝しよう、嫌がる俺様を無理やり戦闘訓練に参加させてくれた天雨行政官と銀鏡先輩に。
間違いなく、俺様はこの戦いでまた1つ強くなれた。
「じゃあそろそろ決着を付けようぜ、銀鏡先輩!」
「あぁ、私とお前最後にどっちが立ってるか勝負だ!」
俺様と銀鏡先輩はお互いに視線をぶつけて笑うと、相手を地面に叩き伏せるために武器を構える。
そして銀鏡先輩へ向かって引き金を……
「はい、二人ともそこまでです。」
引こうとした瞬間だった。
パンパンと両手を叩きながら天雨行政官が俺様と銀鏡先輩の間にゆっくりと歩きながら割り込んでくる。
「えぇ……アコちゃん空気読んでよ。」
「そうっすよ天雨行政官。ここはどっちかが倒れるまで戦うのが青春ってモンだと俺様思うんすけど。」
「うるさいですね!そもそも今回の目的は戦闘訓練ですよ!?貴方達以外の風紀委員は全員そこで伸びているのにこれ以上は訓練になりませんからね!?」
周囲で「きゅ〜……」と言う声を出しながら倒れている風紀委員達を指差しつつ、天雨行政官は叫ぶ。
「そんな事言われてもなぁ……私達についてこれないのが悪いだろ。」
「どこの脳筋理論ですか!?とにかく、このままだと訓練ではなく単なる貴方達の決闘になってしまいます!」
「別によくないっすか?決着付けさせてくださいよ。」
「良くないですよ!戦闘狂ですか貴方達は!?」
失礼な、俺様は銀鏡先輩ほどは戦闘狂じゃないぞ。
戦ってる時に気分が昂るのは否定しないけど。
うーん……まぁ天雨行政官の言ってることも分からなくはないけどこのままだと消化不良なんだよなぁ……
「でもこのフラストレーションはどこへぶつけたら……」
「し、失礼しますっ!」
そんなことを思いつつ、ブークリエのセーフティをかけてマガジンを引っこ抜いた瞬間だった。
体育館のドアが乱暴に開き、風紀委員の制服を着込んだ生徒が血相を変えて駆け込んで来るのが見える。
「ほ、報告します!ゲヘナ学園から徒歩5kmの場所で大規模な不良による暴動が発生しました!」
……なるほど、さすがはゲヘナ学園。
今日もドンパチ賑やかなことだ。思わず笑みが溢れる。
俺様は引っこ抜いたブークリエのマガジンを速攻で装填すると、チャージングハンドルを引く。
チラリと銀鏡先輩を見ると、先輩は獲物を見つけたような鋭い眼光に好戦的な笑みを浮かべていた。
「はぁ……よかったですね二人とも。いくら叩きのめしても文句を言われない相手が現れましたよ。」
やれやれ、と言った表情で首を振る天雨行政官。
「いくぞタツミ!今度は実戦で確認だ!」
「えぇ、ここまで来たらやってやりますよォ!」
俺様と銀鏡先輩は顔を見合わせると、思いきり笑う。
……ってかその場のノリでOKしちゃったけど、俺様別に風紀委員でもなんでもないんだが大丈夫なのかこれ?
うーん……ま、天雨行政官がなんとかしてくれるだろ!
細かいことはもう考えないでおこう。
「……まぁ今はこれ以上無いほどに頼もしいですね。お二人は先行してもらえますか?私は後詰めの部隊の編成とヒナ委員長への連絡を行ったら向かいますので。あとは……万魔殿への言い訳もですかね。」
「分かったよアコちゃん!よし、行くよタツミッ!」
「サーイエッサーッ!!!」
「座標をイオリの端末に送信しました。二人とも、お願いしますね。」
俺様と銀鏡先輩は先ほどまでのフラフラの状態はどこへやら。我先に足を出して体育館のドアを蹴破ると、そのまま現場へ向かって走り出した。
あ、そう言えば今回の視察に当たっての報告書を書かないといけないんだったような気がするけど……
まぁ帰ったら【非常によく統率が取れている。予算の総額を検討すべし】とでも書いておこう、そうしよう。
んで、評価項目は適当に満点でも付けといてやれ。
実際よく訓練はされていたしな、銀鏡先輩がちょっとハッスルしたせいで全員伸びちゃっただけなので。
羽沼議長は風紀委員にもっと予算回してやるべきだと思うし、バチは当たんねぇだろ。
そんな事を思いつつ、俺様達は現場へと急行した。
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積み上がる瓦礫の山。鳴り響く爆発音に銃声。
バチバチと音を立てて燃える建物。立ち上る黒煙。
逃げ惑う市民の声。不良達の叫び声。
それらと対峙して戦闘を行う風紀委員の姿と怒号。
いやー実にゲヘナだ。実家のような安心感すら感じる。
現場に到着して目の前の惨状を目にした俺様と銀鏡先輩は、すぐさま近くにいる風紀委員の生徒に声を掛ける。
「おい、大丈夫か!?」
「イオリ先輩!?お、お疲れ様です!」
銀鏡先輩の姿を確認した風紀委員は姿勢を正す。
「状況は?どうなってる?」
「今は現場近くに居た風紀委員総出でなんとか抑え込んでる状態ですが、もう長くは……」
「そうか、分かった。アコちゃんが後詰めの部隊を編成してこっちに向かってきてるから、私たちはそれまで前線を維持するぞ!」
「はい、分かりました!」
風紀委員の子は元気よく敬礼を返すと、手にしたアサルトライフルを構えて再度前線へと向かっていく。
俺様もシールドを展開してブークリエのチャンバーをチェックしていると、銀鏡先輩の所持しているホログラム通信機が起動し天雨行政官の姿が映し出された。
「状況はどうですかイオリ?」
「あんまり良くはないかな……今は何とか抑えられてるみたいだけど、もう時間の問題だね。」
「分かりました。後詰め部隊の編成は終わりましたので私も今から現場へ向かいます。ヒナ委員長とも連絡が取れたので、そちらも片付き次第応援に来てくれるとのことです。指示は私が現場に着くまでは無線で出します。」
「分かった!」
「了解です!」
チラリと前線で戦っている風紀委員達を見る。
みんな制服が破れたり包帯を巻きつつボロボロになりながらも、市民の避難誘導を行い懸命に戦っていた。
そんな彼女たちを見てブークリエを握る手に力が入る。
「みんな!もうすぐヒナ委員長と援軍が来てくれる!私とタツミも来たからもう大丈夫だ!押し返すぞ!」
「「「おおーっ!!!」」」
銀鏡先輩の言葉を聞き、風紀委員達の士気が上がった。
全員が目に光を宿して懸命に銃を取る。
「行くぞタツミ!」
「言われなくても!」
俺様はシールドで体を覆い隠すように構えると、走り出した銀鏡先輩の後を追って前線へ突入する。
そのまま最前線へと合流すると、一番前を張っていた子の前に盾を突き立てて躍り出る。
「一番前は引き受ける!援護は頼むぜ!」
「タツミくん!?……うん、わかった!ありがとう!」
「タツミ!援護は任せろ!思いっきり行けよ!」
「はい、分かってますよ銀鏡先輩!」
俺様はシールドについているレバーを引くと、盾をその場に固定させてブークリエを構えた。
「行くぞオラァァァァ!」
叫びながら引き金を引く。ストックを押し当てた肩に走る衝撃とともに耳元で火薬の爆発音が炸裂する。
「ギャッ!?」
「あの制服は万魔殿!?な、なんで風紀委員と一緒に居るんだ!?」
「うるせぇ寝てろォ!」
ブークリエから放たれた銃弾を食らった不良は叫び声を上げながら地面へと倒れ伏した。
俺様はそのまま盾を持ち上げ、前線を上げるためにすり足で前進を始める。
「イオリ、タツミ!聞こえますか!?」
「聞こえてるよアコちゃん!」
盾から響いてくる銃弾を弾く金属音と共に、少し後ろにポジションを取る銀鏡先輩のホログラム通信機から天雨行政官の焦った様な声が聞こえてくる。
「この騒動の首謀者が先程分かりました!気をつけてください、彼女は矯正局から脱獄した脱獄犯です!」
……んん?ちょっと待て、今何つった!?
「っ!?」
完全に想定外だった俺様は、天雨行政官にもう一度確認を取ろうと口を開いた瞬間だった。
不意に俺様の視界ギリギリをかすめる黒い影の姿が映り込む。それを確認した瞬間、俺様は本能的に盾を黒い影の方向へ向けて振り被る。
ーーーガァン!!!ーーー
そして、その物体と盾が衝突した。
体中に衝撃が走る。
「ウフフ♡お会いしたかったですわ!」
「……っ!やっぱりお前か、狐坂ワカモォ!」
そこに居たのはいつかの狐面を被った女、狐坂ワカモだった。盾を振り、後ろに跳躍して距離を取る。
「災厄の狐!?何でこんなところに!?」
「ウフフ……このワカモ、貴方と再び相まみえる時を心待ちにしておりましたの。」
炎に包まれる建物をバックに、ヒラヒラとした和服を揺らしながら狐面の下で狐坂は愉快そうに笑う。
「私、あれから貴方の事で頭がいっぱいでしたのよ?もう一刻も早く貴方を壊したくて壊したくてたまらなくて……ウフフフフフ♡」
頬に手を当て、体を左右に揺らしながらそう言う狐坂。
その姿を見て思わず背筋に寒気が走る。
はぁ……これでセリフが物騒じゃなければなぁ。
ほんのちょっとは可愛いと思わなくもないんだけど。
「お、おいタツミ!なんかあいつやばいぞ!」
「え?まぁそりゃ災厄の狐っすからね……」
「なんでそんな冷静なんだ!?と言うか、なんかお前の事知ってるみたいだけど何があったんだよ!?」
「いや、実はシャーレの部室を取り返すときにコイツと一戦交えてましてね……その時の縁ってやつです。」
「災厄の狐と!?大丈夫なのか!?」
驚愕して目を見開く銀鏡先輩。まぁ無理もないだろう。
多分逆の立場なら俺様だってビックリすると思うし。
「あら、こんなにも貴方の事を思っている私が居るのに他の女と仲良くおしゃべりですか?ワカモ、妬いてしまいますわよ?」
「お前に妬かれても嬉しくもなんともねぇよ!」
「あら、照れ隠しですか?まぁ、何と愛らしい……♡」
狐坂はそんな事を口走ると、銃剣の着いた歩兵銃をゆっくりとこちらへ向けてくる。
クソ!ダメだコイツ!話がまったく通じねぇ……!
「くっ……タツミ、いけるか!?」
「任せてください!近接戦闘は引き受けます!」
「分かった、援護は任せろ!」
銀鏡先輩と俺様は顔を見合わせ、互いに頷く。
そして身体を隠すように盾を構えると、力いっぱい狐坂を睨み付けた。
「ウフフ……私をこんなにした責任、取って下さいね♡」
「チィ!上等だ!かかってこいよ!!!」
俺様はブークリエを構えると、声を張り上げた。
今度は絶対負けねぇぞ、狐坂ワカモォ!