時刻は太陽が昇り、辺りが明るくなる前の午前6時。
まだ周囲の景色が薄暗い中、俺様は日課のトレーニングを行うためにゲヘナ学園の校庭へやって来ていた。
軽い準備運動後にいつも身につけている装備一式を付けてグラウンドを10周し、それが終わったら武器を振るう時間を保つ筋力を付けるために軽い筋トレをする。
そして少しだけ休憩した後に、今度はブークリエに実弾を込めて実戦形式の戦闘訓練を行っていた。
「うおぉぉっ!!!」
手にしたブークリエのストックで敵に見立てた目の前の的を殴打し、すぐさま前転して視界の端に映り込んだ的へ向かってブークリエの引き金を引く。
けたたましい火薬の爆発音と共に、散弾を食らった的は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「はぁっ……!」
そのままの勢いでブークリエのマガジンを交換しながら的へ向かって突撃した俺様は盾を思い切り振りかぶって的を弾き飛ばすと、倒れ込んだ的とその横の的へ正確にブークリエの弾丸を叩き込んでいく。
「まだまだっ!」
障害物に見立てた跳び箱を飛び越えながら、着地寸前に回し蹴りを繰り出して的をなぎ直していく。
ひたすら体を動かして銃撃し、殴って、蹴り飛ばす。
そしてそんな動きを何度も繰り返して設置した的を全て倒したあと、俺様は動きを止めて軽く息を吐いた。
「んー……まぁ、とりあえずこんなもんか。」
盾を地面へ突き立て、ブークリエのマガジンを引っこ抜いてチャージングハンドルを引く。
そしてチャンバーから飛び出してきた散弾をキャッチしつつ、そんな事を呟いていた。
「やっぱ的が相手だとイメージ通りに動けるから実戦ってよりはイメトレにしかなんねぇなぁ……まぁ頭の中でやるより体を動かしてる分効果的なのは違いねぇけど、まったく手応えがないのも張り合いがねぇっつーか。」
キャッチした弾丸をマガジンへ詰め直して再度ブークリエに差し込み、チャージングハンドルを引く。
独特のガチャリと言う金属音と共に、チャンバーに弾丸が送り込まれた音が聞こえてきた。
「出来たら風紀委員会のみんなとか、銀鏡先輩みたいな生身の人間が相手の方がどんな動きをしてくるか読めない分いい実戦練習になるんだよな。実力も申し分ねぇし、今度朝練に付き合ってくれないか頼んでみるか?」
まぁ言うて銀鏡先輩なら頼めばいくらでも付き合ってくれそうではあるけど、彼女も忙しそうな風紀委員会の仕事を回しながら後輩の指導もしている身だからな……
最近は近々トリニティの正義実現委員会と合同で行われる予定の訓練の打ち合わせで忙しそうにしてるって話も聞くし、そうなると俺様の個人的なトレーニングに付き合わせちまうのは申し訳ない……か。
(それにしても、風紀委員会と正義実現委員会の合同訓練かぁ……)
実は少し前にゲヘナとトリニティ間で不良生徒の取り締まりをする際に境界が曖昧な部分の不良の制圧の際に両組織間で衝突が起きないように話し合いをしたんだが……その時に空崎委員長と剣先委員長は思ったより意気投合していたっぽいんだよな。
だから今回の合同訓練も互いの組織の委員長同士の提案と言う事らしいのだが、やはり共にアリウスと戦ったことで少しだけ溝は埋まったとは言えまだまだゲヘナとトリニティは険悪な関係が続いていることは間違いない。
意気投合していた様子の空崎委員長と剣先委員長はともかく、天雨行政官と羽川先輩が顔を合わせでもしたらどうなるか……想像するだけで頭が痛くなってくるな。
とは言えいつまでもお互いいがみ合っているわけにも行かないし、互いのことを知るためには拳を交わし合うのが一番有効だとどこかで聞いたことがあるからな。
これを気に、ちょっとでも風紀委員会と正義実現委員会の仲が良くなってくれればいいんだけど……
(……まぁ、なるようになるだろ、多分。)
うーん、しかしそうなるとどうすっかなぁ……
空崎委員長……は言わずもがな超多忙の身だし、そもそも彼女と戦っていては命がいくつあっても足りない。
この前だって何発か彼女に攻撃を食らわせるのが精一杯で基本的には防戦一方でボロ雑巾にされちまったし……
とは言えやはりキヴォトス最強と言われるあの身のこなしや視線の動き、攻めるか引くかの判断力は勉強になるから……今度頼み込んでみるのはありかもしれない。
強さだけで言えば美食研究会の連中や温泉開発部の下倉も中々のもんだけど、別に連中とはわざわざ模擬戦なんてしなくてもいくらでも制圧の時に戦えるしな。
となると他校の人間って事になってくるけど……わざわざ他校まで赴いて俺様の模擬戦に付き合ってくれと言うのも申し訳ないからな。
山海経の鹿山先輩とは今でもちょいちょい模擬戦してるけどそれは前々からやってたことだし。
個人的にはアビドスの小鳥遊先輩やこの前知り合った百鬼夜行の春日先輩辺りは同じ盾持ちとしてどんな戦いをするのか少し気になるような気もするけど……まぁ、やっぱり俺様の都合で振り回すわけには行かねぇしな。
風紀委員会のみんなの暇ができるまでは的を相手にした訓練をして、暇ができたら頼むとしよう。
それに訓練をしなくてもゲヘナではその辺を歩いているだけで不良からケンカをふっかけられたり、テロに巻き込まれるなんてことは日常茶飯事だ。
だから模擬戦どころか実戦なんて嫌でも出来るって話ではあるんだが、備えあれば憂いなしとも言うし。
(それに俺様は銃弾食らったら死んじまうからな……)
ワカモを庇った時に出来た古傷に手のひらを当てながら俺様は息を吐き出しながらそう心のなかで呟いた。
あの時は羽沼議長からもらった防弾チョッキと薬子先輩からもらった薬のお陰で一命を取り留める事はできたけど、防弾チョッキが無ければ俺様の体は上半身と下半身が泣き別れしていだろうし薬がなければそのまま大量の失血により命を落としていただろうことは間違いない。
二人には感謝するとともに、改めて吹けば飛ぶような体でしか戦えない自分の貧弱さに虚しくなってくる。
そのせいで、なんだかワカモにも負い目を感じさせちまっているみたいだし……皆から死ぬほど怒られたから流石に俺様も反省しているけど、ワカモを守ったことに関して後悔はないんだから気にする必要なんてないのにな。
まったく、普段は俺様の命を獲るため本気で襲ってきているのに妙なところで律儀だよなぁあいつ……
……そういや、最近ワカモの奴あんまりゲヘナで問題を起こさなくなってきた気がするんだよな。
他の地区では相変わらず破壊活動を繰り返しているらしいから破壊衝動が収まったわけじゃないだろうが、前までは1週間に最低3回くらいはゲヘナで問題を起こしていたあいつとやり合ってたのに最近は週1あるかないかと言った感じになっているし。
まぁ空崎委員長の余計な仕事が減るのはいいことだが、しょっちゅうあいつと顔を合わせていた身としてはちょっとだけ寂しかったり……
(……って何考えてるんだ!?)
そこまで考えて、俺様は首をブンブンと振って心の中でそう絶叫をした。
くそっ、何を言ってるんだ俺様は!?相手は災厄の狐、矯正局から脱獄した七囚人の1人で今も現在進行系でテロを起こしている凶悪な犯罪者なんだぞ!?
いくら体を重ねたからってあいつが犯罪者なのは紛れもない事実だし、それで絆される訳には行かないだろ……!
「……はぁ、疲れてんのかな俺様。」
ガチャガチャとブークリエのチャンバーをいじりながら俺様はため息を吐きつつそう愚痴をこぼした。
えっと、それで話を戻すけど。
前から俺様もヘイローがないならないなりにこのキヴォトスで渡り合う術を研究して必死に身に着けてきてるつもりだけど、それでもヘイローがあればもっと大胆な立ち回りができるだろうと思ったことは数知れない。
前線に立つ時は必ずフルアーマーだけど、それでもヘイローがある生徒が何も防具を身に着けていない状態よりも遥かに防御力としては貧弱なのは事実だからな。
ヘイローさえあればもっとたくさんの人を守ることが出来るだろうに、なんともやるせない気分だ。
「はぁ……俺様にもヘイローがありゃなぁ……」
「あら、ヘイローがどうしたのかしら?」
徐々に明るくなり始めている空を見上げながらボソリとそう呟くと、どこからか聞き覚えのある声が響いた。
俺様がその声に反応して反射的に視線を下げると、そこには大きめのハンドタオルとスポーツドリンクを手にした京極先輩の姿があった。
「あ、おはようございます京極先輩。」
「うふふ、おはようタツミ。」
俺様は彼女へ向けて軽く頭を下げながら挨拶をすると、京極先輩はにこやかな笑みを浮かべながらこちらへ向けてゆっくりと歩いてくる。
「朝から精が出るわね。あんなに激しく体を動かして日中の業務は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫ですよ、毎日の日課ですから慣れてますし。ってか……あれ?俺様のトレーニング見てたんすか?」
「えぇ、ちょっと用事があって校舎に行った帰りに丁度タツミがグラウンドを走っているのを見かけてね。貴方が毎朝トレーニングをしているのは前々から知ってたけど、そう言えば見るの事態は初めてだったな……と思いながら見てたらすっかり魅入っちゃったわ。はいこれ。」
そんな事を言いながら、俺様に向かって手にしたハンドタオルとスポーツドリンクを手渡してくる京極先輩。
「そうだったんですね、ありがとうございます。」
俺様はそんな彼女に対して礼を言いつつそれらを受け取ると、タオルで汗を拭き取る。
そしてスポーツドリンクのキャップを外すと、ペットボトルを傾けて中身を一気に煽った。
「……タツミ。トレーニングをするのはいいことだとは思うけど無理はしないでね?」
そんな感じでごくごくと喉を鳴らしながらスポーツドリンクを飲んでいると、心配そうな表情を浮かべた京極先輩がそんな言葉を言ってきた。
「ぷはっ……大丈夫ですよ、無理はしてませんから。」
「そう?ならいいんだけど日中の業務や外交で他校へ行って疲れているのに毎朝あんなハードなトレーニングをしているかと思うと心配で……私の目から見てタツミはもう充分に強いと思うわ。何せあのヒナ委員長に一歩も引かずに戦えるほどだもの。だからたまには休んでも……」
「いえ、それでもまだ空崎委員長から一本取ることは出来てませんからね。彼女に勝つことは俺様の目標でもあります。だから京極先輩が心配してくださるのは嬉しいですけど、そのために努力するのは当然ですからね。」
俺様は心配そうな表情を浮かべる京極先輩にそう言って親指を立てると、笑顔を浮かべて見せる。
「それに鍛錬は一日にしてならずとも言います、そりゃ確かに一日くらいサボりたいと思う日もありますけど……それでも、俺様はまだまだ強くなりたいので。」
「……それはやっぱりイブキちゃんを守りたいから?」
「はい、もちろん。」
京極先輩の問いに、俺様は迷うことなくそう答える。
「イブキには俺様と違ってヘイローはありますけど、イブキはまだ11歳ですしここはキヴォトスで一番治安が悪いと言っても過言じゃないゲヘナですからね。いつイブキの身に危険が降りかかるか分からない以上は俺様が鍛錬を疎かにするわけにはいきませんから。」
手にした盾をコンコンと叩きつつ、俺様は続ける。
「それに俺様はイブキだけじゃなくて万魔殿の皆も、風紀委員会の皆も俺様と仲良くしてくれている皆も全て守りたいと考えていますからね。俺様の力やこの盾はそのためにあるものです。なら、ただの口だけ野郎にならないためにも強くならなきゃいけないのは当然でしょ?ただでさえ俺様にはヘイローがないんですから、人よりたくさん努力する必要もありますしね。」
苦笑しつつ、俺様はそう言葉をこぼす。
「……その気持ちはとても嬉しいわ。けど、それでタツミが倒れたら心配する人が居るって事も忘れないでね?」
「大丈夫です、俺様はこの程度で倒れるほど軟弱な鍛え方はしてません。それに今の俺様は代理とは言えゲヘナのトップなんです。なら、ゲヘナを守るために頑張るのは俺様がやって然るべき事ですからね。」
ヘイローがないことに対するコンプレックスがないわけではないけど、それならそれでヘイローを持つ生徒と渡り合える努力を俺様はしているつもりだからな。
いくらヘイローがないとは言え、早々簡単に倒れてやるつもりなんて俺様には毛頭ありやしない。
「ですが心配してくれていることはとてもありがたいですし嬉しいです。ありがとうございます京極先輩。」
そこまで言うと、俺様は一旦そこで言葉を区切って真剣な表情で京極先輩を見つめた。
京極先輩はそんな俺様を見てふっと息を吐くと、どこか呆れの混じったような笑みを浮かべて表情で口を開く。
「……まったく、お説教でもしようかと思ってたけどそんな事を言われたらやめろなんて言えないじゃないの。」
そう言うと、京極先輩は俺様に一歩近寄ってくると真剣な表情で口を開いた。
「タツミ、そこまで言うなら朝練をやめろとは言わないわ。ただし、何度も言っているけど絶対に無理はしないこと。貴方が倒れたらイブキちゃんはもちろん、万魔殿の皆やゲヘナの皆……気に食わないけどトリニティの連中だって悲しむと思うわ。もちろん、私だってね。」
そう言うと、京極先輩はごく自然な動作で俺様の頭に手の平を乗せてきた。
そして、そのまま頭に置いた手の平を左右に動かして俺様の頭をぐしゃぐしゃと撫でていく。
「ちょ、京極先輩……?」
「タツミが議長代理になったことで背負うものが増えて責任感が増したことは私の目から見ても分かる。今のタツミは万魔殿に入って来たときとはまるで別人かと見違えるほど立派に成長したわ。私も先輩として鼻が高い……けど、それでも貴方はまだ1年生なの。私から見れば、まだまだ手のかかる可愛い後輩に違いはないわ。」
俺様は唐突に頭に手を載せられた事に困惑するが、京極先輩は穏やかな表情でそんな言葉を紡いでいく。
「本来であれば議長代理なんて役目は3年生である私が請け負うべきことで、それを1年生であるタツミに押し付けてしまっているのは……本当に申し訳なさで一杯よ。」
「いや、それは京極先輩が謝ることじゃないですよ。俺様が議長代理に選ばれたのはゲヘナの選挙の結果なんですから、京極先輩が指名したわけじゃないでしょう。」
「……それでも、よ。可愛い後輩に重圧や責任を押し付けてしまっている今の状況は私にとっても、そしてイロハやチアキにとっても罪悪感があるのよ。もちろんその原因になったマコトちゃんだって同じ事を思っているわ。」
京極先輩は俺様を撫で続けながらそう言うと、真剣な表情を浮かべながら言葉を続ける。
「だから何かあれば私やイロハ、チアキを頼りなさい。もちろん今は矯正局に居るけどマコトちゃんを頼ってもいいわ。ゲヘナやイブキちゃんを守るのは貴方だけの仕事じゃなくて私達の仕事でもあるんだから。ね?」
そう言うと、京極先輩は右目をぱちりと閉じてウィンクをしながら俺様へ向けて優しくそう言った。
はは……本当に、この人には敵わないなぁ。
「タツミ。貴方に負担をかけておいてこんな事を言える立場じゃないのは理解しているけれど……それでも何度も言うようだけど無理だけはしないようにね?貴方が倒れれば悲しむ人間は大勢いる。それに貴方が皆の力になりたいと思ってるのと同じように、貴方の力になりたいと思っている人だってたくさんいるわ。だから、そのことだけは忘れないでおいて頂戴ね。」
「……はい、肝に銘じておきます。京極先輩。」
「うん、よろしい。」
優しく俺様の頭を撫でながらそう言う京極先輩。
そんな彼女の言葉を聞いて、俺様は温かい気持ちになると同時にもう少し人に頼ってみてもいいかもしれないと言う気持ちを抱くのだった。
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あれからしばらく京極先輩に見守られながら日課のトレーニングを終えた俺様はグラウンドの片付けをした後に一旦シャワーを浴びに寮へ戻った。
いつもであれば女子寮で起床したイブキを日替わりで一緒に泊まってくれている先輩方が俺様の部屋まで送り届けてくれるのだが、今日は棗先輩がイブキの朝食を用意してくれるということなので言葉に甘えることにした。
という事でそのまま制服に着替えた俺様はスポドリをくれた礼と言うことで京極先輩の分の朝飯も作って二人で食った後、お互いに身だしなみを軽く整えて待ち合わせた上で肩を並べて出勤することになった。
「京極先輩、今日の予定は?」
「えっと、まずは出勤次第百鬼夜行との交流会の打ち合わせで陰陽部から書面で連絡が来ているはずだからそれの確認ね。その後はバスのチャーターとかの交流会に向けての業務にいつもの書類処理……あと今日は各部活や委員会の代表との予算委員会もあるからそれに出席もしてもらわないとダメね。」
「げっ、予算委員会があんのか……」
ペラペラと今日の予定が書かれた手帳をめくりながら予定を伝えてくる京極先輩に対して、俺様はゲンナリしたような表情を浮かべながらそう呟いた。
「あら、浮かない顔ね?」
「そりゃそうですよ。予算委員会と言えば美食研究会の黒舘ハルナや温泉開発部の鬼怒川も来るんですよ?もう何度その場で会議という名の空崎委員長とのガチバトルが起こったか数え切れないじゃないですか。」
「あ、あはは……確かにそれはそうね……」
俺様がそう言うと、京極先輩は引きつったような笑みを浮かべながら苦々しげにそう言葉を絞り出した。
予算委員会と言えば前世では国の政治家達が顔を揃えて話し合いをする場所だが、ここゲヘナでは各々の部活動や委員会の代表が普段の自分達の活動報告やそれに伴う結果や損害を報告してそれを踏まえて万魔殿が予算……つまり部費を振り分けると言う場になっているんだよな。
出席するのは各部活や委員会の代表……つまり風紀委員会の空崎委員長や給食部の愛清先輩、そして救急医学部の氷室先輩とかが例として挙げられる。
……が、どういう訳か美食研究会の黒舘ハルナや温泉開発部の鬼怒川カスミも毎回出席してるんだよなぁ。
まぁいくら指名手配されているような連中とは言え彼女達が所属しているのはゲヘナ学園であり、その中における部活動という形式のもとで活動しているから出席してくるのは当たり前といえば当たり前なのだが……
当然そんな連中が大人しく話し合いに応じてくれるわけもなく、毎回毎回予算委員会とは名ばかりのただのテロリストどもが武力をぶつけて予算をもぎ取ろうとするドンパチ会場になっちまってるんだなこれが。
そのせいでブチギレた空崎委員長による蹂躙が繰り広げられるのは最早ゲヘナ予算委員会においての風物詩になっているが……風紀委員会や給食部、救急医学部の様な真面目な部活動からしたらたまったもんじゃないからな。
……どうせ今回も黒舘や鬼怒川が騒ぎ出すのは目に見えているだろうし、俺様も盾とブークリエを持っていかなきゃならないだろうなぁ。
(あ〜……気が重い……)
そんな事を思いつつ歩いていると、どうやらいつの間にか俺様達は万魔殿の議事堂へ到着していたようだ。
俺様は横の京極先輩に目をやって互いに頷くと、そのまま議事堂の正面扉へと手を伸ばす。
(……ま、なるようになるだろ。今日も頑張るとしますかね!)
扉に手をかけながら心の中でそう呟き、俺様は手に力を込めてそのまま万魔殿の議事堂の正面扉を開け放った。
「あっ、おはようございますタツミ議長代理!サツキ先輩!今日もいい天気ですね!」
「お、おはようございますお二人とも!今日もご出勤お疲れ様ですっ!」
「おはようタツミくん!サツキちゃん!」
扉をくぐって議事堂の中へ入ると、夜勤を終えた万魔殿の役員達が俺様達を見るや否や次々と挨拶をしてくる。
「うふふ、おはようみんな。お疲れ様。」
「あぁ、おはよう。夜勤お疲れ様。体調は大丈夫か?」
「はいっ!この通りまだ全然働けますよー!」
俺様と京極先輩はその一人一人にしっかりと目を合わせて挨拶を返しつつ、早速業務の引き継ぎを行っていく。
「夜勤中になにか問題はあったか?」
「いえ、今日は陰陽部からの書面が届いた以外に来客や他校からの連絡などの緊急性のある事は特に何もありませんでした!」
「書類の進捗状況はどうなってるかしら?」
「は、はいっ!全て滞りなく終了しております!」
「そうか、分かった。ありがとう。」
ポケットからメモとペンを取り出して夜勤者からの報告をメモに書き留めつつ軽い遣り取りをしたあと、俺様はメモを閉じると夜勤の役員たちへ向かって口を開く。
「よし、みんなお疲れ様でした!良かったからキッチンの冷蔵庫に俺様が作ったプリンが入っているから、甘いものでも補給してゆっくり体を休めて欲しい。」
「ほんとですか!?やったぁ!」
「い、いいんですかタツミ議長代理……?」
「あぁもちろん。俺様は立場上あまり夜勤には入れないからその分皆には迷惑をかけちまってるからな……こんなもので礼になるかは分からないけど、俺様からの気持ちだ。本当に皆には感謝してるし、助かってるよ。」
そう言うと、俺様は夜勤の役員達へ向けてニッコリとした笑みを浮かべつつ親指を立てた。
「俺様がこうして議長代理として働けているのはいつも俺様を支えてくれているみんなのおかげだ。改めてありがとうなみんな。今日は疲れただろうから、しっかり体を休めてくれ。お疲れ様でした!」
「はいっ!お疲れ様でしたタツミ議長代理!」
「やだ……私の上司……素敵すぎ……」
「これで私よりも歳下なんだもんなぁ……もうトップの風格だよこんなの……」
「あぁ……夜勤明けにタツミくんの笑顔が染みるぅ……」
(……?)
あれ、なんだか夜勤明けの皆の表情がどこか上の空な気がするけど……気のせいだろうか?
まぁ俺様も夜勤に入った時は引き継ぎのこの時間が一番眠いから、恐らく眠いだけだとは思うけどな。
「じゃあ気をつけて帰るんだぞー!」
「「「はい!お疲れ様でしたタツミ議長代理!サツキ先輩!お先に失礼します!」」」
引き継ぎを終えて終業の挨拶をし、眠そうな目をこすりながらキッチンの冷蔵庫に入っていたプリンを手にとって寮へ帰っていく万魔殿の役員達。
俺様はそんな彼女達の姿が見えなくなるまで手を振って見送った後、ふぅっと息を吐いた。
「ふふ、慕われてるわねぇ。タツミ議長代理?」
「や、やめてくださいよ京極先輩。」
そんな俺様の様子を見た京極先輩はニヤニヤとした表情を浮かべながらこちらをからかってくるが、俺様はそれに対してそう言葉を返した。
「助けてもらったら例を言うなんて当たり前のことじゃないですか。それにさっきも言ったように俺様が議長代理として働けているのはいつも助けてくれるみんなのおかげですからね。感謝するのは当たり前の事ですよ。」
そう言うと、俺様はその場で笑顔を浮かべる。
当たり前だが、万魔殿を運営してゲヘナを守るに当たって俺様一人が頑張ったところでどうにもならない。
当然大勢の生徒の力を借りなければならないし、先程も言ったように俺様は立場上徹夜をすることは何度かあっても夜勤にはあまり入ることが出来ないからな。
自分の手の回らない部分をやってもらっている事には感謝しかないし、夜勤をやってくれる人達がいるからこそ万魔殿が回っているのは間違いのない事実だ。
「それに俺様はまだまだ未熟者です。だからみんなが胸を張って自慢できるような、そんな議長代理にならないといけませんからね!もちろん、京極先輩にも感謝しています。こんな未熟者の俺様を支えてくださって、いつもありがとうございます。」
「……まったく、こういうところなのよねぇ。」
「……ん?なにか言いましたか京極先輩?」
「別に、なんでもないわ。」
俺様の問いに対して京極先輩は誇らしそうな、それでいて少し拗ねたような表情を浮かべながらそう言った。
「さ、ここで油を売っている暇はないわよタツミ。早く執務室へ行って、仕事を始めましょう。」
「はい、わかりました京極先輩。」
こうして、俺様は京極先輩と共に本日の業務を行うために執務室へと向かうのだった。
なお、執務室に到着したあとに相変わらずデスクの上に積み上がった大量の書類に二人で盛大なため息を吐きだしたのは言うまでもないだろう。
次回も万魔殿での様子をお送りします。