日常回書くの楽しすぎるからね、仕方ないね
とは言えそろそろ話を前へ進めたいところ
あれからしばらくして。
いつも通り風紀委員会とテロリスト共の抗争の場と化した予算委員会だったが、棗先輩や京極先輩と共になんとかその場を収めて会場の爆破だけは免れる事ができた俺様は重い足を引きずって帰路へと着いていた。
(想像してはいたが、やっぱりああなっちまったな……)
黒舘ハルナや鬼怒川カスミを筆頭にテロリスト同然の部活が破壊活動を自信満々に成果として発表し、それを理由にドヤ顔で部費の増額を訴える。
当然そんなもので増額なんて出来るわけもなく、むしろ周りに迷惑をかけているため俺様が部費の減額を言い渡すと連中は即座に武器を抜いて抗議。
それに堪忍袋の尾が切れた空崎委員長が怒りに任せてテロリストどもをボコボコにしようとすると言う……まぁ今回も例に漏れずいつもの予算委員会という感じだった。
なお、その際俺様は必死で空崎委員長に落ち着いてもらえるように説得しながらブークリエを抜いて黒舘と鬼怒川をボコボコにして簀巻きにしておいてやった。
あの様子だと空崎委員長は相当頭に来ていたようだし、あのまま暴れられてしまうとまた会場が木っ端微塵になりかねなかったからな。
空崎委員長の気持ちは痛いほど分かるけど流石に二回連続で会場が吹き飛んでしまうと俺様の胃が死んでしまうので……と説得すると、渋々ながら矛を収めてくれた。
まぁ口よりも先に手が出るゲヘナで穏便な話し合いができる等思ってはいないけど、流石に毎回毎回建物が木っ端微塵になるのは勘弁してほしいからな。
予算委員会の会場は使い捨てではないのだから。
それにしても……全ての部活動の代表が集まる場なんだからゲヘナのテロリスト共もその場に限っては荒事は抑えて欲しいと常々思ってはいるのだが、やはり皆の中に流れているゲヘナの血がそれを許してはくれないらしい。
会議の場がドンパチの会場になるのはゲヘナらしいと言えばらしいんだけど、司会進行を務めるこちらの身にもなって欲しいものだ……いやマジで切実に。
そして、その後も騒ぎ立てるテロリスト共をなんとか牽制しつつ進行を続けなんとか委員会を無事に終えた俺様は死んだ魚の眼をしながら帰路へついて居るわけだな。
「あ〜……疲れた……」
鉛のように重い体を引きずりながら、大きなため息を吐き出しつつそう言葉をこぼす。
なんとなしに空を見上げると太陽は既にかなり西に傾いており、真っ赤な夕焼けがゲヘナを照らしていた。
(……綺麗だな。)
心の中でしみじみとそう呟きつつ、俺様は自室である寮へ向かって歩を進めていく。
くっ……いつもの業務だけならここまで疲弊することは無かっただろうが、やはり予算委員会が尾を引いているのだろう。必死に動かしている足が棒のように感じる。
羽沼議長の面会から帰ってきたイブキの笑顔を見られたからまだ良かったものの、そうじゃなければ俺様は予算委員会が終わった瞬間に魂が抜けていてもまったくおかしい話ではなかったからな。
ひとまず今回の委員会は無事に終えられたけど、来季のことを考えると今から気が重い。
ちなみに委員会終了後もまだ万魔殿の業務は残っていたのだけど、俺様が疲れていることを見かねた棗先輩達が今日は帰れと言ってくれたんだよな。
俺様としては先に帰るのはしのびないし何よりイブキの夕飯を用意しなければならないので最後まで残ると言ったのだが、何故か若干怒っている様子のみんなによって強引に万魔殿から叩き出されてしまった。
イブキからも「無理しないで!」と頬を膨らませながら叱られてしまったし、イブキの夕飯は今日は先輩方が用意してくれるらしいから……まぁそういうことであれば疲れているのは事実だし、言葉に甘えるとしよう。
そんな事を考えながら重い足を引きずっていると、俺様が暮らしているゲヘナの男子寮が見えてきた。
と言っても俺様の部屋は女子寮の隣りにある小さい物置を無理矢理部屋に改造したものなのだが……まぁ、これはこれで小ぢんまりした一戸建てみたいな感じだから俺様は割と気に行っていたりする。
住んでいる寮が見えて足に少し力の戻った俺様は自室のドアの前まで歩いていくと、カバンからドアの鍵を取り出して鍵穴へと差し込んでドアを開け放つ。
「ただいまー……」
玄関の電気を付けながら誰もいない部屋の中へ向かって力なくそう言うと、俺様はそのまま風呂を沸かすために風呂場へ行こうと……した瞬間。
ーガタン!ー
不意に、リビングの方から何やらそんな物音が響いた。
(……えっ?)
誰もいないはずの室内から音がしたことに俺様がその場で硬直していると、リビングからぱたぱたとこちらへ誰かが駆け寄ってくる音が聞こえて来る。
その音にハッとした俺様は即座に気持ちを切り替えて音のした方を確認すると、ドアに埋め込まれた擦りガラス越しに俺様が部屋を出る前にの電気を消しておいたリビングの電気が灯っているのが確認できた。
(……っ!)
その瞬間、俺様は即座に背中のブークリエに手をやってセーフティに指をかける。
……まさかとは思うが侵入者か?
だとすると……可能性が高いのはFOX小隊の連中か……?
確かに音声データで牽制しているとは言え俺様は今でもFOX小隊から命を狙われている身なのは違いないし、まさか連中が部屋の中に侵入して奇襲を仕掛けてきた……?
いや、でもだとするとわざわざ自分の存在を声を出して俺様にアピールする意味がわからない。
目的が俺様の命だとすると、どう考えたって息を殺して俺様が油断しているところを襲ったほうがいいだろう。
(……まぁ、そんなことはどっちだっていい。)
相手が誰かは知らんが、人が仕事で疲れて帰宅したところを狙ってくるなんていい度胸だ。
いいだろう、俺様を狙ったことを後悔させてやるよ!
俺様はそう考えながらブークリエをいつでも抜いて戦闘を開始できる体制を整えると……それとほぼ同時に、リビングのドアが開け放たれた。
「あっ、おかえりなさいタツミさん!♡」
すると、その中から出てきたのは……
眩しいほどの笑顔を携えつつ、いつものひらひらとした和服に赤いリボンの付いている真っ白なエプロンを身に着けた……災厄の狐こと、狐坂ワカモその人だった。
「は……?」
その姿を見て、俺様の思考は一瞬停止する。
「ウフフ♡お待ちしておりましたよタツミさん♡」
「え?は……?はああぁぁぁぁっっっ!!!?」
可愛らしいエプロンをひらひらと揺らし、こちらへとぱたぱたと駆け寄ってくるワカモ。
そんな彼女の姿を見て、俺様はブークリエのセーフティを解除するのを忘れてその場で大声をあげた。
いやいやいや!ちょっと待て!
な、なんでこいつが俺様の部屋に居るんだよ!?
待ってくれ!展開が早すぎて頭がついて行かねぇぞ!?
「わ、わわワカモ!?お、お前なんでこんな所に!?」
「ウフフ♡お食事にいたしますか?お風呂にいたしますか?それとも……わ・た・く・し?♡」
「ベッタベタなセリフ言ってんじゃねぇよこのバカ!お前は新婚さんか何かか!?と言うか質問に答えろや!」
あまりにも予想外の事に俺様が目を白黒させていると、そんな俺様のことなどどこ吹く風と言った様子で嬉しそうに微笑んでそう言うワカモ。
ある意味いつも通りの調子の彼女に妙な安心感を覚えた俺様は、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻しながらも再度大声を挙げてワカモへと詰め寄る。
「そもそもお前どうやってここに入った!?玄関のドアには鍵をかけといたはずだろ!?まさかとは思うが、窓ガラスをぶち破ったんじゃねぇだろうな!?」
「あら、失礼ですわね。私はそんなその辺りのチンピラのような行儀の悪い真似は致しませんわよ?」
俺様の問いに飄々とした様子でそう答えるワカモ。
……いや、窓ガラスどころか建物を散々木っ端微塵にしといてよく平気な顔でそんなことが言えるなお前。
「本当だろうな?ならどうやって入ったんだよ?」
「ウフフ♡私を甘く見ていただいては困りますわよタツミさん。この私にかかれば、あの程度の単純な構造の鍵などかかってないも同然ですわ♡」
「おまっ……まさかピッキングしたのか!?」
「はい、その通りですわ♡」
さも当然と言った様子でさらりと言ってのけるワカモに対して、俺様は両手を広げながら絶叫する。
と言うか、こいつそんな才能まであんのかよ……!
本当に油断ならん奴だな……!
「はぁ……それで目的はなんだ?部屋にいるときなら無防備だろうって思って俺様の寝首でもかきに来たのか?」
「まさか。何度も言っておりますが、弱っている貴方や無防備な貴方を打ち負かしたところで何も面白くはありません。タツミさんとの決着は、全力の貴方を打ち負かしてこそ価値があるものですから……ね?♡」
俺様が怪訝な顔をしつつワカモにそう言うと、彼女はいらずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った。
「……じゃあこれは一体何のつもりだよ?」
「ウフフ♡ですので、今日私は大層お疲れな様子のタツミさんを癒すためにここへ参りました♡」
「……何?」
俺様を癒すため……だと?一体どういうことだ?
「……まぁ本来はFOX小隊の情報を掴んだのでそれをお伝えするためでしたがお疲れな様子のタツミさんを癒すほうが優先ですからね。あんなタツミさんの命を狙う汚らわしい狐の事など後回しです。」
「……え?なんだって?」
「いえ、何でもないです。それよりタツミさん。貴方は本日午後からの万魔殿の業務の一環でゲヘナの予算委員会へ出席されていた……そうでしょう?」
「おまっ……!なんでそれを……!?」
「あら、私はタツミさんのことであれば何でもお見通しですよ?♡遠目から見ていましたがとても大変そうでしたね、お仕事お疲れ様でしたタツミさん♡」
「あ……あぁ。」
……何か、こいつがさも当然って顔をして目の前に立っているのを見ると細かい事がどうでも良くなってくるな。
やっていることは紛れもない不法侵入だし問答無用で撃たれても文句は言えないと思うんだけど、こいつに戦闘の意思はないようだし俺様も疲れているから銃を抜くのはひとまず辞めておくとしよう。
……それに、こいつの力量を考えるとこの場で戦いを挑んでも俺様のコンディション的に勝つのは難しいしな。
「まったく、せっかくタツミさんが静止しようとしているのにあの連中は好き勝手に騒ぐばかりで……私、あまりに腹が立って途中で乱入しようかと思いましたよ?」
……いや、それは辞めてくれマジで。
ただでさえカオス状態だったのにお前が突っ込んできたら俺様は心労がたたりすぎて間違いなく吐いてたぞ。
「つかお前、一体どこから見てたんだ?」
「ウフフ♡それはご想像にお任せいたしますわ♡」
そう言うと、ワカモは唇に人指しを当ててぱちりと右目を閉じウィンクをして見せる。
「……そうかよ。」
「はい♡ですので、このワカモがお食事とお風呂の用意をしてタツミさんを労おうと思いましてこうして恐悦ながらお邪魔させていただいた次第と言う訳です♡」
「なるほどな……色々と言いたいことはあるがその気持ちだけは……ってちょっとまて、メシと風呂だと?」
サラリとそう言ってのけるワカモに対して俺様が眉をひそめながら疑問をぶつけると……ふと、どこかから何やらいい匂いが漂ってくるのに気がついた。
鼻をくすぐるそのいい香りに俺様の視線は思わず匂いが漂っている方向へと移動する。これは……方向的にキッチンの方から漂ってきているらしい。独特の香ばしい香りからは料理を作るのに味噌を使っているのが分かる。
俺様の部屋はリビングとキッチンが合体したような構造になっているので、ワカモが俺様を迎えるためにリビングを開けた際に匂いがここまで流れ込んだらしい。
……それにしても美味そうな匂いだ。気がつけば、今日1日昼食時以外は殆ど休みなく働いていた俺様の腹はとっとと飯を寄越せと腹の虫を鳴らしていた。
「……お前、料理できたんだな。」
「ウフフ♡私は将来貴方の妻になる女ですよ?働く夫を支えるのは妻として当然のこと。ならば、家事や炊事は完璧にこなせてこそですからね♡」
えっへん、と大きな胸を張りながら彼女にしては珍しくドヤ顔を浮かべてそう言うワカモ。
「いや、別に今は女が絶対に家事炊事をやるって時代でもないだろ。俺様だって家事や炊事は出来るし……」
「あらあら……ウフフ♡私と夫婦になることは否定なさらないのですかタツミさん?♡」
「はあぁぁっ!?う、うるせぇこのバカタレ!これはあれだよあれ!ほらあれだ、言葉の綾って奴だ!」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらそう言ってくるワカモに対し、俺様はわたわたとその場で慌てながら手をブンブンと振りつつ大声を上げてそう叫ぶ。
「それに先程も申し上げたではないですか。お食事いたしますか?お風呂にいたしますか?それとも……♡」
「だーっ!2回も言うなこのバカ狐ェ゙ッ!!」
畜生!絶対俺様の事からかって楽しんでるだろこいつ!
今に見とけよ、いつか絶対泣かしてやるからな……!
「つーか、さっきから聞いてりゃ我が物顔で俺様の部屋に堂々と不法侵入してんじゃねぇぞこの野郎!」
「ご安心ください、お食事の材料はしっかり私が購入してきましたので♡キッチンやお風呂を勝手にお借りしてしまったのは申し訳ありませんが……」
「いや別にそんな事を気にしてるわけじゃ……ってか謝るのそこかよ!謝るなら不法侵入に対してだろ!?」
「あら、お部屋の中へ入らないとタツミさんをお迎えするためのお食事やお風呂を準備出来ないではありませんか?お部屋の外で準備するわけにも行きませんし……」
「いや、別に頼んでねぇんだが!?」
くっ、ダメだ!最近こいつと共闘したり、リゾートでのあ……あんな事があったからすっかり忘れていたがこいつは災厄の狐なんて呼ばれている、街一つを趣味で消し飛ばすような凶悪なテロリストだったんだった……!
よくよく考えたらそんな凶悪な犯罪者相手にそりゃ世間の一般常識なんて通じるわけもねぇよな……!
「ウフフ♡それはともかく……改めてお仕事お疲れ様でしたタツミさん。カバンをお持ちいたしますね♡」
頭を抱えながらそんな事を考えていると、俺様に更に一歩近づいてきたワカモはその細っこい手をこちらへと差し出すとまるで本当に旦那を迎える嫁のような柔らかくて慈愛に満ちた笑顔を俺様へと向けてくる。
サラサラの綺麗な黒髪。
整った容姿に宝石のようにキラキラと輝く黄色い瞳。
彼女が今身につけている白いエプロンはいつも着ているヒラヒラとした黒い和服にとても良く似合っており、お互いの良さを引き立てている。
所業こそテロリストそのものだが、それでいてキヴォトスでもトップクラスの美貌を持つワカモ。
そんな彼女の姿を見て……
(……〜っ!!!)
不覚にも、俺様の心臓が大きく跳ねた。
くっ、落ち着け俺様!相手はテロリストなんだぞ!
ちょっと可愛くてスタイルが良くて俺様の事を好きでいてくれて、今だってこんな笑顔を浮かべながら俺様を出迎えてくれているとはいえこいつは俺様の家に不法侵入をしてきてるんだぞ!?
頭をガリガリと掻きむしりながら煩悩を振り払うようにうんうんと唸っていると、ふとこちらをじっと見つめているワカモの首元が目に入る。
そこにはあの夜に俺様が彼女へ刻み込んだ刻印を隠す様に花柄の可愛らしい絆創膏が貼られているのが見えた。
その絆創膏は彼女がいつも身につけている首飾りの下からチラチラと見え隠れしており、それを視認した俺様の脳内には嫌でもあの日のワカモの姿が浮かぶ。
(……って違う!こんな事考えてる場合じゃねぇだろ!)
「……?どうかしましたかタツミさん?」
「い、いや……すまん、なんでもないぞワカモ。」
首を傾げながらこちらを覗き込んでくるワカモに対して俺様は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くと、言い捨てるようにぶっきらぼうにそう言葉を発する。
(くっ……一体なんだこのシチュエーションは……)
朝から万魔殿で仕事をして予算委員会と言う特大の案件を処理し、重たい体を引きずって家へ帰ったらエプロン姿の可愛い女の子が料理を作って待ってくれているって一体どこの恋愛ゲームの世界観だ?
……問題はその女の子がテロリストかつ、俺様の自室へ不法侵入していると言うことだけどな。
そりゃ男に生まれたからには、ワカモのような超絶美女から風呂と飯を用意された上で出迎えまでしてくれるシチュエーションに憧れを抱かない訳がない。
これが不法侵入さえされていなければ、俺様は手放しに喜んで彼女の好意を受け入れていただろう。
正直、ワカモに言いたいことは山のようにある。
そもそも不法侵入は犯罪だぞとか。
こんな所を誰かに見られたらお互いにまずいだろとか。
……俺様はお前を一度フったんだぞとかな。
もはや言うまでもないが、ワカモはテロリストだ。
連邦生徒会長が失踪したあの日に矯正局から脱獄してから今になっても趣味で破壊活動を繰り返しながら各地を転々としている危険極まりない人物だし、そのためキヴォトス中に指名手配をされている凶悪な犯罪者。
なので、本来ならここで一戦交えてヴァルキューレに突き出すべき相手なのは間違いないのだが……
(……正直、今はそんな気分にはなれない。)
そう、そもそも俺様は今日の業務がハードすぎて心底疲れ切って自室に帰ってきているのにそこから更にこいつとやり合うなんて元気はもう残っていなかった。
それにこいつに俺様と戦うつもりは見たところ一切ないようだし、ならばそんな相手と戦う理由もないだろう。
俺様とワカモはライバルではあるけど、会ったら絶対に戦わなければならない敵ではないのだから。
それに純粋にワカモが俺様のために飯を用意してくれたという事実、そしておかえりと言ってくれた事を嬉しく思っている俺様もまたいるわけで。
繰り返すようだけど、今の俺様は書類仕事や予算委員会のドタバタにより限界まで疲弊している状態だ。
そんなところに俺様に好意を持ってくれている女の子がやって来て飯と風呂を用意してくれて、あまつさえそれが俺様の事を労うため……なんて言われたらどう思う?
そんなの、言うまでもなく嬉しいに決まっている。
それに、ワカモが俺様の疲れを労うために風呂や飯を用意してくれた……というのは見れば分かる事実だ。
キッチンから漂ってくる味噌のいい香りや浴槽に湯が溜まっていく音がその事を証明している。
俺様はもうこいつとは長い付き合いだから分かるけど、ワカモはこういう場で嘘を吐くような奴じゃないし用意した飯に薬を混ぜてどうこうしようって奴でもない。
だから、ワカモの言っている言葉に嘘偽りはないと神に誓って断言してもいいだろう。
彼女は本当に俺様を労うために、不法侵入してまで飯を作って風呂を沸かしてくれたと言う事でいいはずだ。
なら、せっかく作ってくれた料理を食べずに捨ててしまうなんて勿体ない事はできない。
そんな事は食材に対して……そして、何よりも風紀委員会の巡回の部員達に見つかるかも知れない危険を犯してまで俺様のためにわざわざゲヘナへやって来てこうして料理を作ってくれたワカモに対して失礼だろう。
それに腹が減っていたけど、疲れすぎて飯を作りたくなかったのもまた事実ではあるしな……
あと……その、なんだ。
うん、色々ごちゃごちゃ言ったけど普通に嬉しいんだ。
そりゃそうだろ。ワカモはテロリストだけど、その中身は俺様に対して恋心を抱いてくれている1人の女の子だ。
俺様だってテロリストだからって言う部分を抜きにしてもこいつのことは告白されたこともあって結構意識している部分はあるし、ちゃんと矯正局で罪を償ってくれるならその時は……と思ったこともある。
……まぁちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけどな!
そんな女の子が疲れた俺様を労るために甲斐甲斐しく飯や風呂を用意してくれて、更にはエプロン姿でおかえりなさいとまで言ってくれているんだぞ?
正直疲れた体にめちゃくちゃ染み渡っているし、目の前のこいつにテロリストって肩書が無く不法侵入さえされていないなら俺様はこいつに惚れていた自信がある。
それにワカモは俺様のためにここまで来てくれてるのにわざわざそれを追い返すのは忍びないしな……
……正直、俺様がワカモに対して抱いているこのモヤモヤとした思いが何なのかは分からない。
分からない……けど、何はともあれ俺様はこいつのことを女の子として意識しているのは間違いないだろう。
ワカモは気にするなと言っていたが、俺様は一度手を出した女を意識しないなんて事は到底出来ないからな。
だからこのモヤモヤした思いにもいずれ決着を付けなければならないだろう。
まぁ、今はその時ではないだろうけども……
(ぐっ……)
……ダメだ、疲れて頭があまり回らない。
ただそれでも一つだけ、今の俺様でもハッキリ言えることがある。
ワカモの気持ちは……とても嬉しい。
ただそれだけだ。
「さぁタツミさん、早くカバンをこちらへ♡」
「……お前も物好きなやつだな。」
「あら、愛する男性のために誠心誠意尽くすのは女として……そして将来妻になる者としての当然の務めです♡」
「なーにが将来の妻だ。言っとくが俺様はお前が罪を償わない限りは絶対にお前と付き合う気はねぇからな。」
「えぇ、それは理解しておりますよ♡」
「じゃあなんでわざわざこんなことをするんだ?ここへ来るまでに見つかるリスクだってあっただろ、こんなことをしたらお前だって危険だろうに。」
「あら、私を心配してくださっているのですか?♡」
「……うるせぇ。悪いかよ。」
「いいえ、決してそんなことはありません♡むしろお仕事で疲れていらっしゃるはずなのに私の身を案じてくださるタツミさんのそのお気持ち……このワカモ、嬉しくてどうにかなってしまいそうですわ♡」
そう言うと、頬に手を当ててその場でくねくねと体を動かして熱っぽい表情を浮かべるワカモ。
なんと言うか、平常運転すぎて逆に安心するな。
「……タツミさん。もう一度言いますが、私は貴方を1人の殿方として真剣にお慕い申し上げております。」
そんな事を考えていると、ワカモはそう言いつつ俺様の事を真っ直ぐに見据えながら口を開いた。
「……あぁ、知ってる。」
「はい、ですので今回危険を犯してでもこのような事をしたのは全てはタツミさんの疲れを癒すためです。知っていますかタツミさん、女と言うのは惚れた男のためであればどんな危険だって厭わない生き物なのですよ?」
真剣に俺様の目に自分の瞳を合わせながら、キッパリとした口調でそう言い放つワカモ。
そのあまりの真っ直ぐさに、俺様は少し赤面する。
「だとしても、そんな危険を犯してまで俺様のために尽くしてくれる義理なんて……」
「えぇ、もちろんありません。ですが、私の愛する殿方が……タツミさんがお疲れなのですよ?ならば癒して差し上げたいと思うのは当然のことですし、そこにごちゃごちゃとした細かい理由などは必要ないでしょう?」
「……っ!!!」
まるでそれが当然と言わんばかりの口調で、ワカモの口からはそんな言葉が紡がれていく。
彼女の口から出た嘘偽りのない真っ直ぐな気持ち。
俺様に対しての、正直で純粋な彼女の想い。
(そっか、そうだな。こいつはこういう奴だったな。)
その言葉を聞いた俺様は……難しい事を考えるのは辞めてそこで思考を止め、ワカモにカバンをそっと手渡す。
「えっ、タツミさん……?」
「カバン、持ってくれるんだろ?なら頼むよ。」
ここまで言われて拒むほど俺様はクソ野郎ではない。
ならば、ワカモの好意を受け取らない理由など俺様にはどこにもなかった。
「お前の好意を無下にすんのは悪いし、今回は素直に言葉に甘えさせてもらうとするぜ。とりあえず先に飯を用意してもらえるか?もう腹がペコペコでな。丁度自分で飯を用意するのも面倒だと思っていたところだ、ありがたくいただかせてもらうとするわ。」
カバンを手渡されてキョトンとするワカモの頭をぽんぽんと撫でながら、俺様は彼女へそう言った。
「お前の好意は素直に嬉しいよ。ありがとうワカモ。」
「〜っ!♡」
頭を撫でられたワカモは一瞬その場で硬直していたが、やがて顔を赤く染めると心底嬉しそうな表情を浮かべながら俺様が手渡したカバンをぎゅっと抱き締めた。
良く手入れされており、もふもふで触り心地の良さそうな彼女の尻尾がブンブンと左右に揺れる。
そんな可愛らしい彼女の姿を見て思わず笑みが溢れる。
「はいっ♡わかりました♡すぐにご用意させていただきますねタツミさん♡」
「あぁ頼む。食器とかは俺様が用意しておくよ。まだ作ってる途中だろ?手伝いがいるなら遠慮なく言えよ。」
「はい、ありがとうございます♡ですがもう主菜や副菜は作り終えておりますので、後はお味噌汁が出来たら完成ですから大丈夫ですわ♡」
「お、味噌汁があるのか。そいつは楽しみだなぁ。」
「えぇ、タツミさんのお口に合うように栄養バランスも考えて腕によりをかけて作りましたので是非召し上がってください♡」
嬉しそうな声色で笑みを浮かべてそう言うワカモの言葉を聞き、俺様はそう相槌を打った。
味噌汁は前世が日本人である俺様にとっては馴染みの深いものだし、なおかつ今も百鬼夜行へ行くとたまに店で頼んでいることもあるくらいには好きな料理の1つだ。
味噌と出汁を合わせて作るから家庭や店によって味が変わるのもまた味わい深いので、ワカモの作った味噌汁がどんな味がするのかはちょっと興味があるな。
……と言うか、すっかり忘れていたけどワカモって百鬼夜行の出身なんだよな。
であれば食の好みに関しては前世が日本人である俺様と近しいことが予想されるし、これは俄然彼女の作った料理が楽しみになってきたかもしれない。
まさかワカモの優しさが胸にしみる日が来るとはとは思わなかったなぁ……
いやはや、人生ってのは分からないものである。
「タツミさん。」
そんな事を考えていると、ふとワカモがこちらを上目遣いで見上げながら声を掛けてくる。
俺様がその表情に一瞬ドキッとしていると、ワカモはゆっくりと優しい笑みを浮かべながら口を開いた。
「改めてお仕事お疲れ様でした。おかえりなさい♡」
「あぁ、ただいまワカモ。」
こうして、互いに顔を見合わせて笑い合いながら俺様とワカモはリビングへと足を運ぶのだった。
「ウフフ♡ウフフフフ♡ここで私を受け入れてくれたということは、お食事とお風呂のあとはもちろん私を頂いてくださるということでよろしいのですよね?♡」
「いただくわけねぇだろこの色ボケ狐がァッ!!!」
……うん。
やっぱり受け入れなきゃ良かったかもしれない。
次回もワカモとのお話になります