転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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まだまだ寒い日が続いてますので
皆さんも体調管理には充分お気をつけください


狐の嫉妬と丹花タツミ

……あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。

ひとしきりワカモの胸を借りて涙が枯れるまで泣いた俺様は、服の袖で涙を拭いながら抱擁を解いて再び正面の椅子に座ったワカモと向き合っていた。

 

「ウフフ♡落ち着きましたか?」

「あぁ、情けない所を見せてすまん。もう大丈夫だ。その……なんだ。助かったよ。ありがとうワカモ。」

 

きっと俺様の瞳は泣き腫らして真っ赤になっているだろうが、そんな俺様の言葉を聞いたワカモはニコニコとした笑みを浮かべながら満足そうに頷く。

 

「お気になさらないでください。私の目から見てもタツミさんは相当ご無理をされていましたからね。普段の業務に加えて命を狙われ、更にイブキさん達や連邦生徒会長代行を1人で守るつもりだったのですもの。ご自身では着丈に振る舞っているつもりでも、知らず知らずのうちに精神が疲弊していたのでしょう。」

「そうだな、お前の言う通りかもしれない。」

「ふふ、私で良ければいつでも胸を貸しますので人肌が恋しくなったならおっしゃってくださいね?♡」

「……おう。考えておくよ。」

 

赤く染めた頬に手を当ててくねくねと体を動かしながらそう言うワカモに対して、俺様は彼女のいつもと変わらない仕草に少し安心感を覚えつつそう言った。

 

しかし、こいつには随分と恥を晒してしまったな。

いくら疲弊していたとは言え、敵であるテロリストの胸の中であんなにわんわん泣いちまうとは……

ワカモの言う通り、背負うものが多すぎて知らず知らずのうちに疲弊していたのかもしれない。

 

まぁそれに、なんだ。

ワカモの腕の中はとても温かくて、優しい感じがして……上手く言えないけど、すごく安心出来たしな。

彼女には感謝しなければならないだろう。

……なんと言うか、俺様は口で言っているよりもワカモの事を信頼しているのかもしれないな。

 

「あら、遠慮なさらなくても良いのですよ?♡普段はとても凛々しくて男らしいタツミさんがまるで子どものように弱みを私に曝け出している姿は……とてもゾクゾクするものがありましたので♡」

「……は?どういう意味だよ。」

 

そんな事を思っていると、ワカモはおもむろにその場で立ち上がったかと思うと俺様へ向けて再びゆっくりと近寄ってくる。

 

「ウフフ♡言葉通りの意味ですよ?♡いつも皆さんの頼れる議長代理のタツミさんが、私には議長代理ではなく貴方自身として接してくれて弱みまで見せてくれる……愛する殿方からこれほどの信頼を向けられて、嬉しくない女などこの世におりませんよ?♡あぁどうしましょう♡歓喜で背筋がゾクゾクしてきますわ♡」

 

ハァハァと荒い息遣いになりながら、こちらへじりじりとにじり寄りながらそう言ってくるワカモ。

そんな彼女の姿を見て、俺様は思わず後ずさろうとするが……椅子の背もたれがそれを許してはくれなかった。

 

「ふふ、泣いているタツミさんは可愛かったですしね♡あんなに私にしがみついて、弱い所を全部見せてくれたのですから♡あぁ……ますます惚れてしまいそうです♡」

「だーっ!わ、忘れろ!その事は忘れろ!」

 

ニヤニヤとしながらこちらへ向けてからかうような視線を向けてくるワカモに対して、俺様は自分でもわかるくらい顔を真っ赤にしながらそうまくしたてる。

 

「知っていますかタツミさん?女性は愛する殿方の痺れてしまうほどに格好いい所ももちろん愛おしいですが、同時に心から信頼している相手にしか見せない弱みを見せて頂けるというのもたまらなく愛おしいのです♡あぁ……思いしただけでキュンキュンしてしまいます♡」

「おいその顔やめろバカ!人様の前でそんなだらしない顔をするんじゃありませんっ!」

「ウフフ♡私の体の感触はいかがでしたか?♡自慢ではありませんが私は自分の体には自身がありますので、極上の抱き心地を提供できたと思いますが♡」

「うがぁーっ!頼むもう黙ってくれ!これ以上俺様を追い詰めないでくれ頼むからさぁ!」

 

おいこらぁ!

ただでさえお前に抱きしめられてドキドキしてんのに追い打ちをかけてきてんじゃねぇぞ!

別に体柔らかいなとか、いい匂いするなとか、安心するなとか、優しいなとか、なんだかんだ年上の頼りになるお姉さんなんだなとか思ってない!思ってないからな!

そんな事は断じてない!ないったらない!

 

くっ……よりにもよってこいつの腕の中で泣いちまうとはこの俺様としたことが一生の不覚だ!

畜生!今後散々このネタでいじられるじゃねぇか!

と言うかお前の抱き心地なんて一回体を重ねてるんだからわかっ……ってそうじゃねぇぇぇっ!!!

 

「と、とにかく慰めてくれたことには感謝してるけど俺様とお前はまだ敵同士だからな!今回は利害が一致してるから手を組むが、お前は自分がテロリストだってことを忘れんじゃねえぞ!」

「あら……まだ、という事は将来は私と夫婦になってくださる気持ちはあるという事でよろしいでしょうか♡」

「うるせぇぇぇっ!だったらまずは矯正局に入って罪を償ってこいこのバカタレ!話はそれからだっ!」

 

そりゃお前のウエディングドレス姿はさぞ綺麗だろうけど……ってだからそうじゃねぇぇぇっ!!!

畜生!まったくこいつは本当に……!

……だけど。

 

「……まぁ、俺様を受け止めてくれて協力までしてくれることには本当に感謝してるよ。ありがとうワカモ。」

「まぁなんと勿体ないお言葉……♡ウフフ♡タツミさんのためならばこのワカモ、例え火の中でも水の中でも喜んで赴いてみせますわ♡」

 

恥ずかしさが限界を迎えた俺様はふいっとワカモから視線をそらしつつぶっきらぼうにそう言うと、ワカモはそんな俺様の言葉を聞いて嬉しそうに呟いた。

彼女その言葉を聞いて、俺様は自然と笑みがこぼれる。

 

「では、ひとまず私は打ち合わせ通りに動くということでよろしいのでしょうか?」

「あぁ、とりあえずはそれで頼む。」

 

ワカモが協力してくれることになったとは言え、彼女は矯正局から脱出した指名手配されているテロリストだ。

流石にそんな凶悪犯罪者と表だって行動するわけにはいかないため、俺様とワカモは俺様が落ち着いたあとに二人で少し今後の方針の打ち合わせをしたのだが……

結論から言うと俺様が今までと同様に連邦生徒会へ顔を出しながら黒幕の捜索をして、ワカモはその俺様のサポートをする……と言う事で話がまとまった。

 

ワカモが行うサポートと言うのは裏工作のことで具体的にはFOX小隊の動向を探りつつ俺様が監視されていると分かれば連絡してくれたり、場合によっては共に戦ってくれたりなどの戦闘の補助をしてくれるそうだ。

更には俺様の掴んだ情報を元にFOX小隊や黒幕の動向が分かればそこへ赴き、連中の行う裏工作や情報操作の妨害や足止め……と言ったことも引き受けてくれた。

 

役割上かなり危険な事を頼むことになるけど、こいつの実力は俺様が何よりもよく知っている。

それにあまり認めたくはないけど、ワカモは破壊活動や不良の陽動などに置いては右に出るものはいない。

曲がりなりにも秩序を守る組織の一員としてはそういった方法を容認するのは心苦しいのだが、あちらが殺人も厭わない姿勢を見せている以上はこちらとしても手段を選んでいられないのは確かだからな。

 

正々堂々……なんてお行儀の良いことを言っている場合ではない。取れる手段は取るべきだろう。

それに俺様は無法地帯と言えば真っ先に名の上がるゲヘナ学園の長なのだ、ならば卑怯な手だろうが使えるものはなんでも使ってやる。

俺様の持っている情報を握りつぶすために情報操作や裏工作を行おうとしている以上、そこに対しての妨害をワカモの方から仕掛けてくれるのは非常に助かる。

 

……正直、今のFOX小隊は黒幕によってテロリスト集団であることを強要されている状況だ。

彼女達だって本当はこんなことをしたくないはず、黒幕のやっていることは絶対に許されることではない。

テロリストを制圧するためにテロリストの手を借りるのはどうなんだと思わなくはないがやむを得ないだろう。

毒をもって毒を制すしかない。

それに……ワカモならそう簡単にやられることはないと断言できる。彼女になら安心して任せられるしな。

 

さらに、それ以外にもワカモは彼女の時間のある時はあちらで独自に調査を行ってくれるらしい。

俺様は万魔殿の議長代理である以上は普段の業務に外交なども行わないといけないのでどうしても黒幕の捜索にかかりきりってわけにも行かなかったので、この申し出は俺様にとっては願ってもないことだった。

 

七神代行達も黒幕の捜査を行ってくれてはいるけど、彼女達はあくまで連邦生徒会の一員だ。

黒幕が同じ組織に潜んでいる以上は派手な動きは出来ないし、下手なことをして黒幕の合図一つでFOX小隊が襲いかかってきてはひとたまりもないだろうからな。

そのせいもあって調査の進捗は芳しくなかったってのもあるし、俺様もゲヘナのお偉いさんとは言え所詮は外部の人間なので踏み込むのにも限界があるわけで。

 

その点ワカモならどこの組織にも所属していないのでフットワークも軽いし、多少強引な手段を取ったとしても彼女ならば特に不審がられることもないだろう。

まぁだからと言って流石に堂々と連邦生徒会へ顔を出したり襲撃をかける訳にはいかないから、サンクトゥムタワーの周辺を探ったり場合によっては清掃員などに変装して紛れ込んで侵入して情報を集めてくれるらしい。

前者はともかく後者はアウトな気がするけど……まぁもうこの際四の五の言ってはいられないからな。

 

まぁそういうわけで、ワカモと話し合って当面彼女は俺様のサポートをしてくれる形になったわけだな。

正直言って猫の手も借りたかった状況なので、ワカモの申し出は非常にありがたいものだったのは事実。

ならば、ここは思う存分頼らせてもらうとしよう。

 

ちなみに、それに当たって連絡が取れないのは困るということでワカモとはモモトークを交換しておいた。

まさかゲヘナの議長代理が災厄の狐と繋がっていると知られるわけには行かないので、音声データのこともありこれで今まで以上にスマホを見られるわけにはいかなくなってしまったな……まぁ仕方あるまい。

と言うかワカモはテロリストなのにどうやってスマホを契約しているのか色々疑問なんだが……まぁ、そこに突っ込むのは野暮というものだろう。

 

「あぁ、頼りにしてる。よろしく頼むぞ。」

「はい♡お任せください♡タツミさんを恐怖でここまで追い詰めてくれたのです。このお礼はたっぷりとさせていただきますわ……ウフフ、ウフフフフフ♡」

 

そう言うと、犬歯をむき出しにした好戦的な笑みを浮かべて目を細めながら不気味に笑うワカモ。

体から溢れる殺意を抑えきれていないあたり、ありゃ相当お怒りのようだな。

……俺様のためにあれほど怒ってくれるなんて、やっぱりこいつの根っこはいいやつなんだろうな。

そんな彼女の姿を見て、俺様の胸の中は温かいもので満たされていく感覚がする。

 

「ウフフ、タツミさんを壊して良いのは私だけです。FOX小隊はもちろん、他の女にその役目は譲りません。」

「あぁそうかい。安心しろ、俺様だってお前以外の女に殺されてやるつもりはねぇよ。」

「あら、それは告白と言う事でよろしいですか?♡」

「んなわけあるかアホ!!!」

 

はぁ……まったくこいつは。

まぁでも……今はそんなやり取りが何よりも心地良い。

 

大丈夫、ワカモと一緒ならきっとやり遂げられる筈だ。

待ってろよ黒幕のクソ野郎、絶対にお前を追い詰めて悪事を全て白状させて矯正局へブチ込んでやるからな!

さてと……じゃあそうと決まれば今後どう連邦生徒会内に潜む黒幕へどうアプローチをかけるか、方針は決まったので具体的にどう動くかの相談を……

 

「……ところで。」

 

そんな事を考えていたときだった。

突如、目の前でニコニコとした笑みを浮かべたワカモの口から静かにそんな言葉が放たれる。

 

「ん?どうした?」

「ウフフ、実は先程タツミさんが私の胸で泣いていらっしゃる時に貴方のスマートフォンからモモトークの通知がかなり鳴り響いていたのですが……」

 

そう言うと、ワカモはニコニコとした笑みを崩さずゆっくりとテーブルの上に置いてあった俺様のスマートフォンを手に取りそれをゆらゆらと揺らす。

そしてスマホを俺様の前へ突きつけてくると、より一層彼女の表情は更に良い笑顔へと変わるが……

 

「これはどういうことでしょうか?色男さん?♡」

 

ワカモの黄色い瞳は、まったく笑っていなかった。

 

(くっ、しまった!)

 

いつもこの時間になると、今まで知り合って友達になってきた人達から大量のモモトークが送られてくるのを今の今まですっかりと忘れていた!

と言うかそんなにピロンピロン通知が鳴ってるのに一切気づかないってどんだけ号泣してたんだ俺様は……!?

 

と言うかまずい!これはまずい!

何だか分からないけど、ワカモのあの目は絶対に怒ってる目だ!くっ……!なんとか言い訳をしねぇと……!

 

「わ……ワカモ。ひとまず落ち着いてくれないか?」

「ウフフ……ゲヘナ風紀委員会の面々、給食部に救急医学部……連邦生徒会長代行に調停室長、正義実現委員会のあの駄肉女、シスターフッドの長と配下の破廉恥な衣装を着たシスター、山海経の教官達、百鬼夜行の修業部の部長、そしてこの前のリゾート地で共にいたアビドスの連中……それ以外も大勢……随分とモテモテですね?一体どれだけの卑しいメスをたらしこんだのですか?」

「おい人聞きの悪いこと言うな!たらしこんでねぇよ!その人たちは俺様と仲良くしてくれている人たちで、みんな俺様の大事な友人ってだけだっつーの!と言うか何人のモモトーク勝手に見てんだてめぇは!?」

 

目を細めながらそう言ってくるワカモに対し、流石に彼女達に対して失礼だと思った俺様はその場で立ち上がると声を上げて抗議する。

 

「友人……ですか。果たして、本当にこのメッセージを送ってきた彼女達もそう思っているのでしょうかね?」

「はぁ!?お前何言ってんだ……!?」

 

そんな俺様にワカモは一切怯むことなく冷え切った声でそう言い切ると、俺様のスマホを器用に操作してモモトークのトーク画面を穴が開くほどに見つめている。

 

「ふぅん?このシスターフッドの長からは随分とお悩み相談をされて頼りにされているようですね?」

「おいコラ勝手に人の悩み相談を見てんじゃねぇよ!歌住先輩のプライバシーの侵害だぞ!?」

「ウフフ♡ご安心ください、相談内容は見ておりませんしそんなものに私は毛ほども興味はありませんので。」

 

冷え切った声でピシャリとそう言うと、ワカモは自然な手つきでモモトークのトーク画面を確認していく。

 

「それになんですかこの若葉ヒナタと言う女は。私のタツミさんに気軽にメッセージを送ってくるだけでは飽き足らず、身の程を知らずに逢引にまで誘うなどと……」

「いや、若葉先輩からはもし時間があるならアクセサリーを一緒に選んでくれないかって言われただけで……!」

 

と言うかいつ俺様がお前の男になったんだよ!

罪を償うまでは付き合わないって言ってんだろうが!

 

「世間ではそれを逢引と言うのですよタツミさん。そもそも男女が二人きりで出かけるという時点で逢引ですしこの卑しいシスターもタツミさんにアクセサリーを選んでもらおうという魂胆が見え見えです。きっと貴方に選んで頂いたアクセサリーをこれみよがしに身に着けてタツミさんは私の男だと誇示するつもりなのでしょう。」

「いや、俺様と若葉先輩はあくまで友達だからな!?」

「シスターなのにこんな聖職者にあるまじき破廉恥な格好をしていることと言い、どう見てもタツミさんを狙っている発情したメスにしか見えませんよ?」

「は、発情したメスってお前なぁ……!」

 

確かにシスターなのにあんな肌を露出しているのは目のやり場に困るから出来たら辞めてほしいけど、さっきから好き勝手言いやがってこいつ……!

 

「おい失礼だぞ!それ以上若葉先輩を侮辱するならいくらお前だろうがぶっ飛ばすぞコラァ!いいか!確かに若葉先輩は着ているシスター服はすごいけど根は真面目で優しい頑張り屋さんだ!アクセサリーの件だって前々から新調したいって相談を受けてたからだし彼女に他意はねぇよ!と言うか男女が二人で出かけたらデートっていくらなんでも話が飛躍しすぎていやしないか!?」

 

そもそもキヴォトスに男なんて俺様くらいしかいねぇんだぞ!?それを男女が二人で出かけたらデートなんて言われたら俺様は引きこもるしかないだろうが!

 

「タツミさん、騙されてはいけません。女は表面上ではいくらでも取り繕うことの出来る生き物……このシスターだって表向きは清楚な顔をしておきながら、裏ではとんでもない淫乱な本性を秘めているかもしれませんよ?」

「いーや若葉先輩においてそれは無いって断言してもいいね!あの人はピュアって言葉が服を着て歩いているような清純な人だぞ!適当なこと言うんじゃねぇ!」

「へぇ……こんな破廉恥な服を着ているのにですか?」

「そ、それは本人の趣味かなんかだろ!あの人、結構私服も露出度高めの物が多いしな……」

「……何故タツミさんがその事をご存知なのですか?」

「い、いやそれは……!と、ともかくだ!俺様の友人をこれ以上侮辱するのはやめろ!」

 

俺様はワカモを睨みつけながら彼女へ詰め寄ると、ワカモの手からスマートフォンをひったくる。

ちなみに、何故俺様が若葉先輩の私服の趣味を知っているかと言うと単純に彼女からそういう服が好きだと言う話をモモトークで聞いたことがあるからだ。

 

「……ったく、黒幕やFOX小隊を捕まえるのを手伝ってくれるのには感謝してるけど俺様の友人関係にまで口を出される言われはないぞ?」

「あら、【私の】タツミさんに変な虫が付いたら困りますもの♡ただでさえタツミさんはキヴォトスでは希少な殿方なのですよ?それに加えて優しく、強く、思いやりがあり、芯が強い……そんな誰が見ても素敵な貴方を男に飢えたメス猫達が放っておくとお思いですか?」

「……褒めてくれるのは嬉しいけど、俺様はお前が思うほど大層な人間じゃねぇぞ?」

「いいえ、タツミさんはとても立派なお方です。貴方はこのワカモの心を奪ったのですからね♡」

「……おい、顔が赤いぞ。」

「ウフフ♡なんのことでしょう?♡」

 

……ったく、よくこいつは恥ずかしげもなくこんな赤面するようなセリフを吐けるもんだまったく。

 

「タツミさんは自己評価が低いのでお気づきでないかもしれませんが、キヴォトスでタツミさんを狙っている発情したメスは数え切れないほどいるのですよ?悪い虫が付かないよう見張るのは当然ではないですか♡それに私は自分の体に自信があるとは言え、正義実現委員会のあの駄肉女や先生とまではいきませんし……」

「……いや、正直あそこまで行くと規格外だから別にそこと比較する必要はないんじゃないのか?」

 

正直羽川先輩のスタイルはキヴォトス基準で見てもあれほど立派なものを持っている生徒はいないんじゃないかと思うほどだし、先生に至ってはそんな羽川先輩が子どもに見えてくるほどのスタイルの持ち主だ。

そんな彼女達と比べたら、この世の全ての女性がスタイルが良くないってことになっちまうだろう。

 

「しかし、殿方というのは発育の良い女性が好みだと聞いたこともありますし……」

 

そう言うと、先程までの目を細めて不機嫌そうだったワカモはどこへやら。

彼女は自信がなさそうに両手を胸の前で組むと、人差し指同士をくっつけてその場でもじもじとする。

……いや、お前そんな目に毒な体つきをしておいてそんな顔をするのは他の女性に失礼だと思うんだが。

 

「やはりタツミさんも先生や駄肉女のような体が好みなのですか?タツミさんの交流関係を見る限りではスタイルの良い女性が多いように思いますので、このワカモももっと胸を大きくしたほうがよろしいのであれば……」

「バーカ、何いってんだ。」

 

こちらを上目遣いで見つめてくるワカモの頭に、俺様は手のひらを置くとそのままぽんぽんと頭を撫でる。

 

「別にそんな事しなくていいだろ、お前はそのままで充分魅力的だっての。他人と比べるもんじゃねぇよ。」

 

俺様はワカモの頭を撫でつつ、そう言葉を発する。

そうさ、確かに先生や羽川先輩と比べたら見劣りはするだろうけどワカモだってスタイルはいい。

と言うかスタイルが良いどころなんて話じゃないだろ。

比較的発育の良い女性の多いキヴォトス基準でも、ワカモは充分ダイナマイトボディと言って差し支えない。

 

美人で気立てが良くて、おまけにスタイル抜群。

こんな最高の女の子なんてそうそういるもんじゃない。

 

「だから気にすんな。それに俺様は女性を体で見るなんて失礼極まりない事をするつもりは断じてねぇ。」

「……ウフフ♡そうでしたね、私の愛しいタツミさんはこういうお方でしたね♡」

 

嬉しそうに笑って目を細めながら、俺様の頭にすりすりと頭を擦り付けてくるワカモ。

そんなワカモを見て仕方ないなと思いつつも、そのまま頭を撫でてやっていると……

 

〜ピロリン♪〜

 

「……ん?」

 

突如、ワカモから取り上げたスマホからモモトークのメッセージを知らせる通知音が鳴り響いた。

 

「すまんワカモ、ちょっと確認して良いか?」

(コクコク。)

「ん、ありがとな。」

 

緊急の連絡だと困るため俺様はワカモの頭を撫でながら彼女へそう問いかけて了承を得ると、即座にスマホの画面を確認する。

どうやらメッセージの送り主は七神代行のようだった。

 

(七神代行……?)

 

俺様は名前を確認するとそのままトーク画面を開き、七神代行から送られてきたメッセージを確認する。

……良かった、どうやら黒幕絡みの緊急案件ではなくいつもこの時間に送られてくる仕事の愚痴のようだった。

 

(うわぁ……今日はかなり荒れてるなぁ……)

 

ちらりと確認するだけでも七神代行から送られてきたメッセージは仕事の愚痴が相当量含まれており、彼女の本日の業務が激務だったことを物語っている。

これはもしかするとメッセージでのやり取りだけじゃなくて通話がかかってくるかもしれない。

 

とは言え今はワカモが部屋にいるわけだし、まさか七神代行とここで通話をするわけにもいかないだろう。

七神代行には申し訳ないけど、流石にワカモが俺様の事を気遣ってわざわざここまで来てくれているのにないがしろにするのは彼女に対して失礼すぎるからな。

ひとまず七神代行には今日はちょっと忙しいから簡単なメッセージの返答だけになると送っといて、改めてワカモと今後の動きについての相談を……

 

「……ウフフ。」

 

しなければ、と思った瞬間だった。

突然身を乗り出したワカモが俺様のスマホを画面を覗き込んできたかと思うと、そのまま俺様の両肩を掴んで後ろにあった椅子へと強制的に着席させてくる。

 

「お、おいワカモ?どうしたんだ?」

「……いえ、少し面白くないと思っただけです。」

 

ワカモは拗ねたような表情を浮かべてそう言うと、そのままゆっくりとその整った顔を俺様へ近づけてくる。

彼女から漂ってくる甘い香りに意識が持っていかれそうになるが、ハッとした俺様は慌ててスマホをテーブルに置くと彼女の両肩を掴んで押し返そうとするものの……

 

「いっ……!?」

 

そんな俺様の抵抗も虚しく、ワカモはその整った顔を俺様の首元へ持ってくるとそのまま俺様の首筋に歯を立ててかじりついた。

その瞬間、ピリッとした痛みが首筋に走る。

 

「お、おいワカモ……!?」

「あの連邦生徒会長代行は卑怯者です。タツミさんに守って頂いてもらうだけでは飽き足らず毎日こうしてタツミさんに連絡して話し相手にもなってもらって……ふふ……このワカモ、頭がどうにかなりそうですわ。」

 

そう言うと、ワカモは俺様の背中に腕を回しながら更に強く俺様の首筋に吸い付いてくる。

チクチクと刺すような痛みと生暖かい彼女の舌の感覚に体が麻痺してしまいそうだ。

 

このままでは、あの夜のようにくっきりとした刻印を消えかけていた首筋にもう一度刻まれてしまうだろう。

このままだとまずいと思った俺様は彼女を引き剥がそうとするが……キヴォトス人とヘイローのない俺様では力の差は歴然で、彼女の体はびくともしない。

 

「お、おいワカモ!頼む!離してくれ!」

 

俺様は身をよじりながらワカモへ懇願する。

くっ、やっと絆創膏を貼らなくても大丈夫なくらいに薄くなってきていたのにもう一度付けられたら今度はどんな言い訳をすれば良いんだ……!

 

「嫌です。」

「な、なんでだよ!」

「タツミさん、私は今嫉妬しているのですよ?タツミさんを私から奪い取ろとする卑しく発情したメス猫に。」

 

ワカモはそこまで言うと一旦首筋から口を離すと、俺様の文字通り目と鼻の先まで自身の顔を持ってくる。

彼女の目には嫉妬の炎が燃え盛っており……同時に、背筋が寒くなるような強烈な独占欲が浮かんでいた。

 

「そんな卑しい女にタツミさん奪われるわけにはいきません。例え相手が連邦生徒会長代行だろうと、私は貴方を渡すつもりはありませんので。」

「いや、俺様と七神代行はそういう関係じゃねぇよ!」

「……貴方はそのつもりでしょうが、そのメッセージを見れば同じ女である私には分かります。発情した卑しい女の気配が……ね?ウフフ……♡」

 

そう言うと、ワカモは再度口元を俺様の首へ近づかると歯を立てながら吸い付いて来た。

 

「……タツミさんは私のものです。他の泥棒猫に取られてしまわないようしっかりと印をつけておかなければ♡」

「ちょ、待っ……!お、落ち着けって……!」

 

有無を言わせず、俺様は彼女に首筋をかじられ続ける。

その後も俺様は様々な抵抗を試みるも彼女を引き剥がすことは敵わず、大人しく彼女のものであるという刻印を首筋に刻まれる様子を大人しく見守るしか無かった。

……これ、どう言い訳しようかなぁ。




ワカモ回は今回で終了となります
次回は話を進めたいところ
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