あれは嘘だ
冒頭にちょっとだけ出てきます
最近また一段と寒いので皆様も体調にはお気をつけ下さい
いつもたくさんのご感想ありがとうございます!
どこまでも続く気さえする、漆黒の闇の中。
そんな心地よい闇に身を任せていた俺様の平穏なひとときは、スマホにセットしてあった起床時刻を告げるアラームによって強制的に終了を迎えた。
「んぁ……もう朝か……?」
スマホを手にとってけたたましく鳴り響くアラームを止めた俺様は眠い目をこすりつつ、大きなあくびをしながらもぞもぞと掛け布団をどけながら伸びをする。
やっぱりいくつになっても朝起きるのは苦手だなぁ……
「ふぁぁ……あ〜……めんどくさ……」
思わずそんな言葉を漏らしてしまう自分に苦笑する。
さて、とは言え文句を言っていたところで時間は待ってはくれない。とっとと日課である訓練に行くとしよう。
そう思った俺様はとりあえず朝の準備を始めるためにベッドから起き上がろうと……した瞬間だった。
「ん……んぅ……」
突如、俺様の寝ていたベッドから眠たそうな様子の可愛らしい声が聞こえてきた。
「……え?」
その声を聞いた瞬間、俺様はまだ眠かった思考に冷水をぶっかけられた感覚に陥った。
なんだろう、上手く言えないがものすごく嫌な予感が……
俺様はその声の正体を確かめるために油の切れたロボットの如くギチギチと首を横へ向けると、そこには真っ白で美しい肌を惜しげもなく晒している一糸まとわぬ姿の狐坂ワカモの姿があった。
「……は?」
その姿を見て、俺様の思考は停止した。
ちょ、ちょっと待て。何故ワカモがここに……と言うかなんで裸なんだこいつ!?一体どういうことだ!?
あまりに予想外な出来事に俺様が目を白黒させていると、ワカモは色っぽい声を出しながらゆっくり目を開けた。
「ん……ふふ、おはようございますタツミさん♡」
眠たげな目をこすりながら、もぞもぞと起き上がりつつ寝起きの少し赤くなった顔で笑顔を向けてくるワカモ。
そんな彼女の美しくも可愛らしい姿を見て、俺様の寝ぼけていた脳は急激に覚醒を始めていく。
そ、そうだ。思い出した。
結局、あのあと首筋にこれでもかと言うくらい濃いキスマークを付けられた俺様はそのまま全力でワカモに迫られて雰囲気に流されて彼女と一夜を共に……って!
「ああぁぁぁっ!またやっちまったぁぁぁ!!!」
すべてを思い出した俺様はその場で頭を抱え、ゲヘナ学園中に響き渡りそうな大声でそう叫ぶ。
なんということだ……!
まさか一度だけじゃなくて、二度もこいつと体を重ねることになってしまうなんて……!
「ウフフ♡流石はタツミさん、1度体を重ねた経験を活かして私をあんなにもあられもない下品な声で鳴かせるとは……鬼畜♡タツミさんは鬼畜ですわ♡」
「うるせぇ!蕩けた顔で鬼畜鬼畜言うなこのバカ!大体お前みたいな美女に迫られて理性を保てる男がこの世にどれだけ居ると思ってんだよ!」
「そんな、美女だなんてなんと勿体ないお言葉♡ウフフ♡それを言うならば1度目の行為で把握した私の弱点をしつこく責めて女として私を求めてくださるタツミさんも大変男らしくて格好良かったですよ♡」
「だーっ!そんなこと言うなバカ狐ェ゙ッ゙!!!」
すまんイブキ、みんな。
俺様は……俺様は最低な男だ……!
「と言うかワカモてめぇ今回も用意周到にゴム持って来やがって!お前昨日慰めに来たとか言っといて最初からやる気満々だっただろ!」
「だから言ったではないですか。お食事にしますか?お風呂にしますか?それとも……わ・た・く・し?と?♡」
「いや、それはそうだが……!」
「ウフフ♡しかし1箱全て使い切ってしまうとは思いませんでしたね♡次はもう1箱余分に……」
「だぁーっ!頼む!頼むからもう黙ってくれぇっ!!」
……なお、その後ワカモは涼しい顔をして朝食を作ったあとに誰にも見つからないようにこっそりとゲヘナを後にしたとだけ言っておこう。
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場所は万魔殿。時刻は昼食が丁度終わった頃あたり。
俺様はいつものように本日の業務を行うため、執務室のデスクに着席して書類を捌いていた。
「は、ははは……やっちまった……またやっちまった……」
「……黙って聞いていれば、さっきから抜け殻のような表情で何をブツブツ言っているんですか貴方は。」
乾いた笑いを浮かべながら手を動かす俺様に対し、呆れたような評定をした棗先輩がジト目を向けながらそんな言葉をかけてくる。
「いや、ちょっと自分の欲が怖いなと思いましてね……」
「……何のことを言ってるかさっぱりなのですが?」
「別に大したことじゃないですよ、お気にせずに。」
「……抜け殻になっている時点で大したことじゃないという言い訳は通用しないと思うのですが?」
俺様の言葉に、変わらずジト目をこちらへ向けながら困惑したような表情を浮かべつつ棗先輩はそう言った。
……だって、仕方ないだろ。
なんと言うかその……俺様だって最近は激務続きで自分で自分のを処理する時間があまり取れなかったし、疲労と命を狙われているストレスや危機感からそういう欲がなかったと言えば嘘になる。
ただでさえ万魔殿では京極先輩のバカみたいに大きな胸の谷間とか、意外と短いスカートはいている元宮先輩の眩しい足とか、色気がないように見えて色気たっぷりの棗先輩の姿とかをずーっと見ているんだぞ。
それじゃなくてもゲヘナ……と言うかキヴォトスの生徒たちは男からの視線に無防備な事が多いんだ。
言い訳するようで見苦しいけど、そんな環境は思春期真っ盛りの俺様にとっては毒でしかないわけでだな。
そんな状況でワカモみたいに俺様に好意を寄せてくれてしかも可愛くて綺麗な女性から誘われたんだ。
男なら拒めるわけないだろ。
いや、拒まなきゃいけないのは分かってるんだけど……
なにはともあれ、今回の件は自分の欲を制御できなかった俺様の落ち度としか言いようがないだろう。
深く反省しなければならない。
それと同時に、2回も彼女を抱いてしまったのであれば流石に責任を取らなければ……という思いもある。
ワカモは抱いた罪悪感や責任感に漬け込んで付き合うつもりはないと言っていたけど、流石に誘惑されたとは言え2回も手を出してしまったからな。
……この複雑な感情がワカモへの恋心なのかは俺様にも分からないけど……少なくとも悪感情ではないのは確かだ。
なら責任は取るべきだが、ワカモ本人はきちんと自分に惚れてから責任を取ってほしいと言っていたし……
今責任を取って彼女と付き合うと言うのは俺様のきちんと矯正局へ入って罪を償って欲しいと言う思いにも、ワカモのきちんと俺様が彼女に惚れてから付き合って欲しいという思いにの反するするものだからな……
どうするべきなのか正解は分からない。
けど……このままズルズルと体を重ねる回数を増やしてしまうのは良くないことだけは確かだろうな。
(……あいつがテロリストじゃなければ良かったのに。)
そうじゃなければ俺様も堂々と責任を持って彼女と付き合って正式な恋人同士になれたんだろうけど。
けどテロリストじゃないワカモは上手く言えないけど、どこか違う気もするし……複雑な気分だ。
しかし昨夜は随分とワカモのやつもノリノリだったな。
朝は動揺してそれどころじゃなかったから気づかなかったけど、散々絞ってくれたおかげで体が非常に重い。
棗先輩の言う抜け殻のようだと言うのは恐らくあながち間違ってもいないのだろう。
……ったく、俺様を癒しに来たんじゃなかったのかよ。
かえって疲れさせてどうするんだ。
「……タツミ、昨日は本当に何もなかったんですよね?」
そんな事を考えながらため息を吐く俺様に、棗先輩は心配そうな声でそう問いかけてくる。
「はい。さっきも言いましたけど疲れているのは昨日の予算委員会のせいですから。それに朝説明した通りこの首の絆創膏も揚げ物をしていて油がはねて火傷したから貼ってるだけなので、大丈夫ですよ。」
俺様は心配そうな表情でこちらを見てくる棗先輩に対して笑顔を浮かべると、首の絆創膏を人差し指でトントンと叩きながらそう言った。
今説明した通り、昨日ワカモに付けられたこの刻印はエビフライを作ろうとしていたらエビの水分で油が跳ねて首を直撃して火傷をした……と言うことになっている。
一応前とは違う部分に付いているから、再度虫刺されと同じ箇所を怪我したわけではないので不自然さは無い……と思いたい。きっとないはずだ、うん。
我ながら苦しい言い訳だとは思うけど普段から料理を作っている事が功を奏したのか、朝に説明した時に棗先輩を始めとした万魔殿のみんなやイブキは特に違和感を感じる素振りはなくすんなりと納得してくれた。
まぁその後気をつけろと叱られてしまったけど……この下の刻印がバレるよりは百倍はマシだろう。
それに予算委員会のせいで疲れたというのは紛れもない事実だしな。こちらに関しては嘘はいっていない。
……まぁ、それ以外にも疲れる要因はあったけれども。
「……ならば良いのですが。貴方は少し目を離すとすぐ厄介なことに首を突っ込んでいきますからね。」
「あはは……面目ないです。」
「タツミ。昨日も言いましたけど、もし悩みがあるならきちんと私達を頼るんですよ。いいですね?」
「はい、分かりました。」
「……本当に分かっているのでしょうね?もう私達はエデン条約の時のように傷つく貴方を見たくないんです。くどいようですが必ず何かあれば相談するようにして下さい。これ以上イブキや私達に心配をかけないように。」
そう言って、静かに書類に目を落とす棗先輩。
そんな彼女を見て、七神代行や俺様の命を狙う黒幕のことやFOX小隊のことを隠している事に対して胸が痛む。
「……はい、そうさせてもらいます。」
本当は話すべきなのかも知れない。
けど、彼女達を危険に巻き込むのだけは……ダメだ。
それだけは……それだけはあってはならない事だからな。
手元のマグカップを手に取り、中のコーヒーを啜る。
すっかりぬるくなったコーヒーの苦みを味わいつつ、俺様は胸に抱えたそんな思いを誤魔化すようにペンを握って書類仕事を再開するのだった。
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それからしばらく時間がたった後。
いつものように万魔殿での事務処理を終えた俺様は、万魔殿を棗先輩達に任せて羽沼議長の面会のために矯正局のいつもの面会室を訪れていた。
「キキキッ!そいつは災難だったな!まぁでも、実にゲヘナらしい素晴らしい予算委員会じゃないか!」
「いや、笑い事じゃないですよまったく……それに話し合いの途中で銃を抜いたら最早予算委員会とかそういうレベルじゃないですよ。いや本当に。」
目の前の分厚いガラスの向こうで腕を組んで愉快そうに笑う羽沼議長の姿を見て、俺様は肘を突きながら唇を尖らせて心底気だるげにそう言い放つ。
「しかしヒナも問答無用でデストロイヤーを抜くとは随分とやんちゃになったものだ。普段はブレーキ役を勤めているあいつも、お前というブレーキ役が出来たおかげで心置きなく暴れられるようになった結果と言う事か?いずれにせよ、そいつは私が出所してから風紀委員会を潰すための良い口実になりそうだな。キキキッ。」
「アンタまだ風紀委員会に喧嘩ふっかけるつもりなんですか?いい加減やめましょうよ……つかブレーキ役って認識があんなら空崎委員長の胃を労ってやって下さい。」
「何を言うタツミ。私は風紀委員会を潰すために今まで行動をしてきたと言っても過言ではないのだぞ?今更風紀委員会への嫌がらせを辞めるわけがないだろう。」
「あ、すいません刑務官さん。こいつの刑期あと10年くらい伸ばしてもらっても構いませんよ。」
「おいコラ貴様ァ!!なんて事を言っている!?」
バン!とテーブルを叩いて立ち上がる羽沼議長に、俺様はジト目を向けながら口を開く。
「いや、アンタがそんなしょーもないことばっかり言ってるからでしょうが。」
「何を言う!風紀委員会を潰すために策を講じることは決してしょーもないことなどではない!」
「刑務官さん。やっぱ20年くらいでもいいですよ。」
「おいふざけるな!10年も増えてるじゃないか!」
「あれ?もしかして足りませんでした?」
「多いと言ってるんだボケェ!そんなにここに入っていたら私は三十路を超えて40手前だろうが!」
「いいじゃないですか、そのくらいの方が好きって人も世の中にはたくさんいるんですよ?」
「そういう問題ではない!私は行き遅れにはなりたくないのだが!?」
あかん、やっぱ羽沼議長をからかうの楽しいわこれ。
なんと言うか、万魔殿の一員ならやっぱりこの人のアホ面を拝んでこそ!って感じがするもんなぁ。
「まったく……!私はこう見えても矯正局では真面目にしていて模範囚扱いを受けている。刑期だってそろそろ終わるというのに、お前というやつは……!」
「まぁまぁ、冗談ですってば。羽沼議長がきちんと罪を償っている事はみんなも俺様も知ってますから。」
腕を組んで不服そうにパイプ椅子に腰掛ける羽沼議長に俺様は苦笑しながら声をかける。
そう、羽沼議長は今まで真面目に矯正局内で罪と向き合って刑務作業も真面目にこなしていることもあって近々出所を許されるという方向で話がまとまっている。
アリウスがエデン条約の会場へ侵攻してくることやミサイルを撃ち込む事を黙認して手を組んでいたという重い罪を背負った彼女ではあるけど、その後はきちんと自分の行いを反省してひたすら矯正局の中で真摯に自分の罪と向き合い続けていた事が要因となったのだろう。
俺様達だって毎日誰かしらが羽沼議長面会に行っていたし、その時に刑務官の生徒から羽沼議長の矯正局内での真面目な態度は聞いていたからな。
今はアリウススクワッド達の所属する班の班長としても頼りにされているらしく、その辺りは流石万魔殿で議長をやっていただけのことはあると言えるだろう。
面倒見が良かったり仲間には優しかったり、仕事を振り分ける能力があって実は人を使うのが抜群にうまい。
何やかんやでこの人は上に立つ素質のある人だからな。
なお羽沼議長と同時期に矯正局入りしたアリウススクワッドだが、彼女達は実行犯と言う事もあり羽沼議長より罪が重いため出所はもう少し先と言う事になっている。
とは言えアリウススクワッドも羽沼議長や刑務官から効く限りは全員真面目に刑務作業に取り組んでいるようだし、この分だと出所できる日はそう遠くないはずだ。
彼女達は出所したら身柄をシャーレで預かる方針になっているし、出所したあとは先生の仕事を手伝えば住む場所や食うものに困ることもないだろう。
「と言うか、そもそもの話アンタが風紀委員会に嫌がらせするって言うのが悪いんでしょうが。」
「フン!それの何が悪いというのだ。」
「いや、どう考えても悪い部分しかねぇだろ……」
ため息を吐きつつ俺様は呆れたようにそう言った。
まったく……そんなんだから風紀委員会から親の仇の如く嫌われるんだぞアンタ。
まぁでも、風紀委員会に変な対抗心を燃やして子どもじみた嫌がらせをしない羽沼議長なんてそんなのは羽沼議長ではないと言い切ってもいいからな。
彼女らしい、と言えばらしいんだろうけども。
「……そう言えば、さっきから気になっていたのだがお前のソレは本当に揚げ物の際の事故なんだろうな?」
そんな事を考えていると、眉をひそめた羽沼議長が自分の首筋を人差し指でとんとんと叩きながらそう言った。
「はい。さっきも言いましたけどこいつはエビフライを作ろうとしていたら油がはねただけです。いやー、もっと水抜きをしておくべだったかもしれませんね。完全に油断していました。俺様としたことがなんたる不覚……」
「……フン、そうか。まぁ、今回は良かったがくれぐれも【火遊び】はほどほどにしておくんだぞ?」
そう言うと、羽沼議長はどこか呆れたようにため息を吐き出しながらゆっくりと頭を左右に振った。
「……?別に俺様は遊んでたわけじゃないですよ?エビフライを作ろうとしてただけです。」
「いや、そう言う意味では……まぁいい。せいぜい突然後ろから刺されることの無いようにすることだな。」
「は?いや、一体誰から刺されるっていうんですか?」
「……前々から思ってはいたが、想像以上に重症だな。」
いや、重症ってなんなんだ?
さっきから何訳のわからん事を言ってるんだこの人は……
「いいかタツミ。ゲヘナの議長たるもの、横の繋がりを作るのは大いに結構だ。トリニティの羽付きどもと組むというのは気に食わんが、お前が決めたのであれば私とて文句は言わん。だが女の嫉妬や執着というのはこの世で何よりも恐ろしいものだぞ。信頼を築くのは結構なことだが、女を闇雲にたぶらかさないようにしておけ。」
「いやさっきから何の話をしてるんですか?別に俺様は女の子をたぶらかしてませんし、そもそも嫉妬や執着とか意味が分かりませんけど……」
「……お前、本当にそのうち誰かに刺されるぞ?」
「いやだから刺されるって何!?そもそもキヴォトスで刃物持ち歩いてるやつなんてあんまいないでしょ!?」
俺様は緊急時のために腰にマチェットを差している事があるけどキヴォトスの武器といえば重火器が基本だ。
さっきから羽沼議長はやたら俺様が刺されることを心配しているようだけど、どっちかと言うと刺されるよりも蜂の巣にされる心配をするべきなのでは……?
「話はイロハやサツキが面会に来た時に聞いている。トリニティ、山海経、百鬼夜行、アビドス、果ては連邦生徒会まで色々な学校の女と交流を持っているとな。」
「はい、それは事実ですよ。でも彼女達とは単に仲良くなったってだけなんですけど……」
「まったく、何故お前はこうも無自覚なんだ。これではいくら忠告をしても意味がないではないか……」
そう言うと、羽沼議長は腕を組んで首を傾げながら諦めたような声色でため息交じりにそう呟く。
「ともかく、くれぐれも危険な女遊びだけはやめておくように。いいな?これは議長命令だ。」
「いやだから女遊びって何だよ!俺様はそんな事してねぇっつってんだろこのアホ議長がァ!!!」
「なっ!?誰がアホ議長だ誰が!せっかく人がお前のためを思って忠告してやっていると言うのに人の好意を無碍にしおって!やるか!?今ここでやるかタツミ!?」
「上等だ表出ろアホ議長!ボコボコにしてやんよ!!」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて下さい!ここ面会室ですからね!?それに表には出せませんよ!?」
俺様と羽沼議長はガラス越しに激しく視線をぶつけ合うが、半泣きになりながら慌てて止めに入ってくる顔見知りの刑務官を見ると互いに頷いて矛を収める。
「……すみません刑務官さん。ちょっと話が盛り上がってしまって熱くなりすぎました。申し訳ないです。」
「右に同じくだ。貴様に迷惑をかけるつもりはなかったのだが……不快な思いをさせたらすまなかった。」
「あっ……い、いえ!分かってくださったなら結構ですので!でも、もう喧嘩はしたらダメですよ?」
「はい、肝に銘じておきますね。」
「……なるべく善処しよう。」
おいアホ議長、そこは分かったって言う場面だぞ。
「はぁ……まったく、このあと連邦生徒会に行かなきゃいけないんだから変に疲れさせないでくださいよ。」
「お前が勝手に疲れてるだけだろ!……っておい待て、連邦生徒会だと?そんな場所へ何をしにいくつもりだ?」
羽沼議長は連邦生徒会と言う言葉を聞いた瞬間に眉をひそめながら怪訝な表情でそう言った。
もちろん目的は黒幕の正体を探るため、七神代行に捜査の進捗を聞きに行くと同時に1人で恐怖と戦っている彼女を少しでも安心させてやるためなんだが……まさかバカ正直にこの事を羽沼議長に話すわけにはいかないからな。
「……ちょっと野暮用がありましてね。」
そう考えた俺様は、少し間を開けながらそう呟いた。
そんな俺様の返答を聞き、羽沼議長の顔が更に曇る。
「……なぁタツミ。念のために聞いておくが、何か私たちに隠していることはないだろうな?」
「何ですかヤブから棒に……そんなことは……」
……ない、と言えば嘘になる。
だけどこの事を羽沼議長に知られるわけにはいかない。
心苦しいけど、ここは誤魔化すしかないだろう。
「別に……何もないですよ。」
「……フン、なら良いのだがな。」
俺様は若干言い淀みつつそう言うと、羽沼議長は腕を組みながらパイプ椅子へ深く腰掛けるとこちらへ真面目なときにだけ見せる鋭い眼光を向けてくる。
「タツミ。散々イロハ達から言われているだろうが私からも言っておくぞ。もし困ったことや悩みがあるならば我々を頼れ。1人で抱え込むな、1人で解決しようとするな。お前が優しいのは誰よりも理解しているが、そこがお前の一番の弱点でもある。……精々肝に銘じておけ。」
そう言うと俺様の目を真っ直ぐに見えてくる羽沼議長。
……やっぱり、こういうところなんだよなぁ。
普段はバカだけど、時折見せるこの人のこういうところに……俺様はどこまでも付いて行こうって決めたんだ。
だからこそ……守ってみせる。
必ず。この命をかけてでも……必ずだ。
分かっている。
これが彼女の気持ちを蔑ろにする行為だということは。
だけどそれでも……俺様はこの人を失いたくないからな。
だから守る。命をかける。理由なんてそれで充分だ。
それに……人を助けるのに理由はいらないからな。
「……分かりました。ありがとうございます羽沼議長。」
心の中でそう固く決意しつつ、俺様はふにゃっとした笑顔を浮かべて羽沼議長へ向かって礼を述べる。
その後も羽沼議長と時折口喧嘩を交えて思う存分話をした俺様は、どこか充実した気持ちを携えてその足で七神代行の待つ連邦生徒会へ向かうのだった。
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「……はぁ。タツミはまた面倒事に一人で首を突っ込むつもりだな。あいつのあの誤魔化すような笑顔は何か隠し事をしているとき、しかもそれが後ろめたいものであるときの特有のもので間違いない。フン、あの程度でこのマコト様を出し抜けるなどと思わないことだ。」
「それにイロハ達も面会の際に最近タツミが前にも増して忙しそうにしているのと、連邦生徒会に顔を出す頻度が増えていると聞いているしな……まったく、タツミがお人好しなのは知っているが自分の身を危険に晒せば皆がどんな顔をするか想像もつかんのかあいつは。」
「タツミはああ見えて自己肯定感が低いからな。恐らく議長代理になった責任感から自分の身を犠牲にしてでも万魔殿の皆を守らねば等と思っているのだろうが……お前は一つ勘違いをしているぞタツミ。」
「もしお前がもう一度倒れてみろ。……きっと、今度こそお前はイブキやイロハ達に万魔殿に閉じ込められて二度と外を歩けなくなるだろう。そのくらいあいつらはタツミのことを愛していて大事にしているからな……まぁ私とて人のことはあまり言えないだろうが。」
「まったく、我が部下ながらとんでもない魔性の男だ。そんな事だから女たらしなどと呼ばれるのだぞ。」
「あいつがどれほど危険な事に首を突っ込んでいるのかは分からないが、あの笑顔を見た以上今度イロハ達が来た時に言っておくべきだろうな。」
「……タツミ。お前が皆を大切に思っているように我々もお前を大切に思っているのだ。それもお前が想像する以上に……な。いいかタツミ、勝手に1人で背負い勝手に傷つくことはこのマコト様が絶対に許さんからな……!」
久々のマコト登場回でした
次回は連邦生徒会へ乗り込みます