あれからしばらくして。
あの後も左右から七神代行と岩櫃調停室長の二人にその健全な青少年には毒でしかない凶悪な体を押し付けられてもみくちゃにされた俺様は、精根尽き果てたような表情を浮かべてため息を吐きながら席に座っていた。
(はぁ……心臓に悪かったぜまったく……)
言わずもがなだけど、七神代行と岩櫃調停室長はただでさえ顔面偏差値の高いキヴォトスの女の子の中でもトップクラスに整った容姿をしていると言っていい人達だ。
更にそれだけではなく彼女達はスタイルも凶悪。
豊かに実った胸と言いくっつかれた時のいい香りといいとてもじゃないが俺様のような思春期真っ盛りの男子高校生が長時間耐えられるようなものではない。
しかも七神代行と岩櫃調停室長の香りや感触は同じ女子なのに微妙に違っていて……まぁこれ以上はもう言わないでおくけど、我ながらよく耐えきったもんだと思う。
そりゃ男ならこんなとびっきりの美人にくっつかれて嬉しくないわけはないけど、今は状況が状況だ。
それに俺様はワカモとあんな事を2回もしちまっているわけだし……正直、めちゃくちゃ罪悪感を感じている。
七神代行はともかくとして、岩櫃調停室長もあんな風に俺様にくっついてくれるのだから少なくとも嫌われてはいないんだろうけど……心臓に悪いことこの上ない。
「さて……それでは、改めて連邦生徒会内に潜んでいるであろうクーデターを企てている黒幕に対してどう対抗するかの話し合いを行いたいと思います。」
そんな絶賛脱力中の俺様の横で、妙にツヤツヤしながらいい笑顔を浮かべて明るい口調でそう言う七神代行。
彼女の表情はどこか満足そうな充実感を感じられるものであり、先程の有無を言わせない威圧感はどこへやら。
すっかりいつものクールな彼女へと戻っているようだ。
俺様の右隣では七神代行の言葉を受けて拳を胸の前へ持ってきて「ふんす!」と言う擬音が聞こえそうな気合の入った顔を浮かべる岩櫃調停室長が。
そしてそんな七神代行と岩櫃調停室長を向かいの席の先生は苦笑いで、由良木は心底呆れたような目で明太子チップスをつまみながら眺めている。
「まず、初めに集まって頂いた皆さん。お忙しい中お時間をいただいてありがとうございます。」
「いえいえ、このくらいお安い御用ですよ七神代行。それに七神代行だって代行業務で忙しいところ時間を作って下さっていますからね。」
“うん、タツミの言うとおりだよ。リンちゃんだって激務の中で時間を捻出してくれているわけだしね。これは私も負けてられないな、気合を入れないとね。”
「……ふふ、そうですね。ありがとうございます。」
俺様と先生の言った言葉を受けた七神代行は、口元に手を当てながら少し照れた様子でそう言った。
「それでは早速本題に入りますが……タツミ議長代理。今朝モモトークで送って下さった防衛室のカヤ室長が怪しいという点について詳しい説明をお願いできますか?」
そう言うと、こちらへ視線を送ってくる七神代行。
俺様は彼女と目を合わせて軽く頷くと、その事を説明するためにゆっくりと口を開く。
「えーっと……先生や七神代行にはモモトークで前もって伝えたんですけど俺様が不知火防衛室長と話している時に何と言うかこう、得体の知れない不気味な違和感みたいなものを何回も感じていまして。」
「得体の知れない違和感……?それってなにさタツミ。」
「そのまんまの意味だよ由良木。知っての通り、俺様はこの前の打ち合わせ通り連邦生徒会に来た時は黒幕に探りを入れるために各部署へ挨拶回りをしてる。んで、その時に不知火防衛室長と話したんだが……言葉にはしにくいけど確かな違和感を感じたんだ。それに実はさっきも下のエントランスでバッタリ会って話したんだが、そのときにも無視できない違和感を感じてな。」
怪訝そうに眉をひそめる由良木に対して、俺様はいたって真剣な表情を浮かべてそう説明をしていく。
まぁ本当はワカモから得た情報が決定的な疑惑を生んでいるんだけど、その事をこの場で正直に話してしまっては面倒なことになるのは確実だからな。
指名手配中のテロリストと協力しているなんて知られるわけには絶対にいかない。
それに不知火防衛室長と話していて違和感を感じるのは事実だし、別に嘘を言っているわけではないからな。
「もちろん他にも怪しい人物は居ます。ですが、防衛室と言う組織の性質的に考えて今回黒幕の手先となっている元SRTのFOX小隊を使えるのも防衛室の可能性が一番高い……なので現状、俺様は不知火防衛室長が現時点では一番怪しいと思います。今は広く浅く探りを入れていますが今後は不知火防衛室長を重点的に調べたほうがなにか掴めるんじゃないか……と思いまして。」
「……まぁ確かにカヤ室長はいつもニコニコしてて掴み所のないかなーり胡散臭い人だけどさ。流石に違和感を感じただけでそこまで疑うのは早計なんじゃないの?」
そんな事を考えていると、由良木はテーブルに頬杖をつきながらそう言った。
更に特に何か言っているわけではないけど、岩櫃調停室長も難しい顔をしながら何かを考えているようだ。
「そうですね。モモカちゃんの言う通りカヤさんはニコニコしていて何を考えているのかよく分からない人ですけど……違和感を感じたと言うだけでは……」
……うん、確かに俺様もそれはそう思う。
だが、前提としてワカモの情報は信用に値するものだと考えていいはずだしFOX小隊の口から防衛室と言う言葉が出てきたのは紛れもない事実だろう。
けど……その情報の出どころがワカモだからなぁ……
こんなの正直に言えるわけがないし、こればっかりはなんとかゴリ押しで説得して通すしかないんだろうが……
先生や七神代行は今朝モモトークを送信した時にすんなり納得してくれたんだけど、やっぱり由良木や岩櫃調停室長はそれだけで疑いを強める事は無理だよなぁ。
実際先程下のエントランスで話していたときも節々に違和感を感じたものの特に決定的な何かが掴めたというわけではなかったし……証拠として弱すぎるのは確かだ。
「リンせんぱ……行政官。カヤさんや防衛室を調べた時に何か怪しい動きはあったのですか?」
「今のところは何もありませんね。とは言えカヤ室長は防衛室の室長です。ヴァルキューレの公安局や警備局に対して指示を出すことが可能な権限やキヴォトスの治安を守るために軍事的な役割を担う組織の長でもありますし、先程タツミ議長代理が仰ったように防衛室であればもしかするとSRTと何か繋がりがあるのかもしれない……という可能性は充分に考えられると思います。」
「確かにそれはそうだけど、今のところ証拠は出てきてないんでしょ?なら、今まで通りカヤ室長も疑いつつ別の幹部も見張っていくしかないと思うけど?タツミを襲ったFOX小隊からカヤ室長の話が出たとかなら話は変わってくるけどさー。」
……うん、まぁそういう話になってきてしまうよな。
由良木の言っていることは至極真っ当だ。
彼女からすれば連邦生徒会の中にクーデターを企てている幹部が居るということだけでも心労がたたっているだろうに、そんな所に違和感を感じたと言うだけで特定の人物が怪しいなんて言葉を鵜呑みに出来る訳がない。
実際はFOX小隊から不知火防衛室長の名前は出ているんだけど、その情報の提供者がワカモである以上そのことをバラしてしまうわけにはいかないからな……
「そもそも先生やリン先輩はタツミから今朝モモトークで説明されたって言ってるけど、二人はタツミの違和感ってやつをどう思ってるのさ?」
“うーん……タツミはこう見えて結構人の悪意に敏感な所があるから、あながち間違ってもないんじゃないかなとは思ってるよ。それに今リンちゃんが説明してくれた通り防衛室は軍事的な役割を担っているからね。SRTに指示を出せるとすれば現状防衛室しか無いような気もするし。”
「私も概ね先生と同意見です。それに、私はタツミ議長代理を信じていますから。僅かな情報からクーデターを企てている人物の大まかな正体にまでたどり着いた彼の直感は本物だと思いますよ。」
由良木の質問に対して、肯定的な意見を述べてくれる先生と七神代行の二人。
「まぁ確かに最近リン先輩と親しい役員達が不審な入院をしたり襲撃を受けたりしてるから内部でクーデターを企んでる奴が居るってことは確実だろうし、そこにたどり着いてくれたタツミはすごいと思うし感謝もしてるよ?けど、だからって違和感だけでカヤ室長に捜査のリソースを大幅に割くって言うのは私は反対かなぁ。」
「わ、私もモモカちゃんと同意見です。FOX小隊と防衛室との間で何か決定的な繋がりがあるのなら疑いを強めるべきですが、もしも違った場合は徒労に終わるばかりか警戒が薄くなった所を突かれて結果的に黒幕の準備を進めてしまう可能性も否めません。私もタツミさんには感謝していますし決してタツミさんの言葉を信頼していないと言うわけではありませんが、流石に違和感を感じると言うだけで捜査の手を絞るのは……」
それに対して、難しい顔をしながら反対意見を述べる岩櫃調停室長と由良木の二人。
まぁ流石にそういう話になってしまうだろう。
二人の言っていることは至極真っ当だし、何なら俺様に感謝を述べてくれているだけありがたいというもの。
違和感を感じているだけで捜査の手を絞れと言う意見に賛成してくれている先生と七神代行にはいくら感謝してもし足りないだろう。
「そもそも仮に防衛室がSRTとコネがあったとは言え、エリート部隊であるFOX小隊がリン先輩ならともかくカヤ室長の指示を聞くとは考えにくいんだよねぇ。」
「も、もしかしたら何らかの条件を理由に従わせている可能性はありますけどカヤさんの権限を考えるとそこまで大きな条件を出すことは不可能でしょうし……」
まぁ、今の不知火防衛室長はあくまで1室長だしなぁ。
「うーん……例えば、クーデターが成功してトップに座った暁にはSRTの復興を提示しているって可能性は?」
「前の襲撃でSRTの力を危惧している役員達が襲われた事も合わせると考えられない話ではありません。ですが連邦生徒会内にSRTの力を危惧する生徒が多い以上、難しい話なのは間違いないでしょうね。」
「SRT閉校の法案を通すときも結構な人数が賛成派に回っていたから実現したことだしね。彼女達を全員黙らせてSRTを復興するとなると、それこそ武力で押さえつけでもしない限りは無理なんじゃないかなぁ。」
……だからこそ、その力を危惧してSRT閉校賛成派の役員達はSRTの閉校に対して肯定的な意見なんだろうけどな。
しかし……それにしても、自分の握っている決定的に重要な情報を話せないのがこれほどまでにもどかしいとは。
くっ……ワカモがテロリストなんかじゃなくて普通の生徒だったなら何の心配もなく情報を開示できるんだがな……
まったく、あの破壊趣味の女狐め……!
“……あっ、そうだ。みんな、ちょっといいかな?”
そんな事を考えながらどうしたものかと頭を捻っていると、突如先生の声がその場に響き渡った。
「先生?どうかされましたか?」
“えっと……これはタツミを襲ったFOX小隊や今回のクーデターとの関係があるのかは分からないけど……そう言えば最近ちょっと気になることがあったのを思い出して。”
「気になること……ですか?」
先生の言葉を聞き、七神代行が首を傾げる。
“うん。みんな、この前キヴォトスの全土で起こったあのすごい大雨のことは覚えてる?”
「すごい大雨っつーと……確か割と最近あったあの目の前すら見えないくらいの超ヤバい豪雨のことか?」
“うん、その超ヤバい豪雨のことだよ。”
俺様の言葉に先生は頷いて肯定の意思を示した。
そう、詳しい日付はもう覚えていないけど先生の言う通りに今から割と前にこのキヴォトス全土をとても激しい豪雨が襲った時があったのは確かだ。
しかもその雨脚の強さたるや、文字通りに目の前が見えない程には今までのキヴォトスで降ったどの雨よりもすさまじく激しい豪雨だったのを覚えている。
幸い俺様はその日は万魔殿にこもって執務をしていたから難を逃れたけど、もし外回りにでも行っていたら最悪ゲヘナへ帰れなくなっていたかもしれなかったからな。
そういう意味でも、かなり印象には残っているけど……
「先生、その豪雨がどうかしたのか?」
“えっと……RABBIT小隊のことはみんな知ってるよね?”
「RABBIT小隊?あぁ、あの結構前に公園を占拠してテロまがいの行為をしてた元SRTの子たちのこと?」
RABBIT小隊。もちろん知っている。
元SRT所属の1年生部隊であり、子ウサギ公園を占拠してテロリスト紛いのことをやらかした連中のことだ。
ただ、今はそのことをしっかり反省して子ウサギ公園でテントを張って野営しつつ子ウサギタウンの人々にも受け入れられてSRT復興のために地道な努力を重ねている。
もうしばらく会っていないけど、最後に会った時は月雪達も最初とは見違える顔をしていたのを覚えている。
「いや、それはもちろん知っているけどよ……」
それが先日の豪雨の件と何の関係があるって言うんだ?
そもそもあいつらは子ウサギ公園にテントを張って野営して生活しているんだし、別に関係なんて……
(っ……!?)
そこまで考えた時。
俺様の脳にある一つの可能性が浮かび上がって来た。
そう、そうだ。連中は子ウサギ公園でテントを張って野宿をして生活をしていたはずだ。そこへあんなキヴォトスでも類を見ないほどの大雨が降ってみろ……!
「先生……まさか……」
“……うん。あの大雨の影響でミヤコ達のテントは大ダメージを受けちゃって、今は復旧作業をしているところなんだ。それにあの大雨で持ってきたSRTの装備品や機材とかもほとんどがダメになっちゃったらしくてね……”
「……やっぱりか。」
表情こそ穏やかなもののどこか陰りの見える先生の言葉に対し、俺様は天を仰ぎながらそう言った。
RABBIT小隊が子ウサギ公園に張っていたテントはSRT製のものだからちょっとやそっとの雨風程度ではビクともしないだろうけど、あんな大雨となると話は別だ。
きっと、テントの機能と防水シートだけでは侵入してくる雨水を防ぎきれなかったのだろう。
(クソっ!もっと早く気づいてやれば何か出来たかもしれないのに……!)
俺様は目の前のコップの水を一気に煽り、気づけなかった自分を責めるように心の中でそう吐き捨てる。
……連中は子ウサギタウンでボランティアを始めてからはそこの人達に食料とかをもらったり、仕事を依頼されたりしていて食うのにはあまり困らなくなっていた。
ドラム缶風呂とは言え風呂にも毎日きちんと入れるようになっていたし、子ウサギタウンの人々からの信頼を受けて彼女達は少しづつ確かな自信をつけていたんだ。
だけど、その矢先にあの豪雨でテントも機材も流されちまうとか前途多難にも程があるだろ……!
最近は仕事が忙しすぎて子ウサギ公園に顔を出せていなかったのもあるが、いつまでも炊き出しをしにいって甘やかすのも彼女達のためにならないと思って炊き出しの頻度を減らしちまったのも仇になったか……
「先生、月雪達に怪我はなかったか?」
「うん、それは大丈夫。ミヤコ達は誰一人怪我をすることはなかったし、今は4人一丸となって落ち込むこと無く元気にテントの復旧作業をしているよ。」
「そうか、なら良かった……」
先生の言葉を聞き、俺様はほっと胸をなでおろす。
生活基盤が安定していた所を自然災害で台無しにされちまったのは気の毒としか言えないが、その中でも一人も怪我をすることがなかったのは不幸中の幸いだろう。
そして、先生が聞いた話ではそんなことがあったにも関わらず4人で協力して前向きにテントの復旧作業をしているようだし……彼女達の心はまったく折れていない。
ったく、あんな聞き分けのない連中が少し見ないうちに随分と立派になったもんだ……なんだか嬉しい気分だぜ。
今度、時間があれば久しぶりに炊き出しをしてあいつらの顔を見てくるとしよう。そのついでになにか困っていたら助けになってやりたいしな。
俺様と月雪達はそれほど仲がいいというわけじゃないけど、炊き出しをしに行っているうちにそれなりに話せる仲にはなっているつもりだし、あと単純に心配だしな……
“それで実は今日私が連邦生徒会に呼び出されたのもその件に関しての公園の設備補修の提案書を出してそのことでリンちゃんから呼び出されちゃったからなんだよね……書類の不備の修正のおまけ付きで。”
「私としてはおまけの方が本題のつもりで呼び出させて頂いたのですが……先ほども言いましたが、市民が使う公園を補修することに関しては何の問題もありません。ですが現状SRTの戦力に関して連邦生徒会内から危惧する声が上がっている以上、彼女達が公園に居続けることを是とすることは出来かねますよ。」
……まぁ、それはごもっともな話ではあるだろうな。
RABBIT小隊は今でこそ子ウサギ公園にテントを張って生活している流れ者として扱われているけど、元を正せば彼女達は元SRT所属の訓練されたエリート部隊なのだ。
連邦生徒会のSRTの力を危惧している連中から非難されるのは当然だろうし、そもそもシャーレの権限を使っているとは言え一度公園を不法占拠した前科もあるからな。
良くない目で見られるのはある程度仕方ないとも言えるが……彼女達の頑張りを見ていると複雑な気分だ。
「それで、そのRABBIT小隊がどうしたのさ先生。」
“えっと……そんな事があったから先日私も何かミヤコ達の力になれることはないかなって思って子ウサギ公園へ行って復旧作業を手伝っていたんだけどね。そしたら……その場に突然カンナがやって来たんだよ。”
「……カンナっつーと、ヴァルキューレ公安局局長の尾刃局長のことか?」
“うん、それで合ってるよタツミ。”
俺様の言葉に、首を縦に振って頷く先生。
「な、なぜヴァルキューレの公安局が子ウサギ公園にわざわざ出向いたのでしょう……?」
“それが、カンナ曰くRABBIT小隊に対する退避勧告をしに来たらしくてね……なんでも子ウサギタウンの再開発をするから、子ウサギ公園からは出ていくようにって……”
「子ウサギタウンの再開発……?」
初めて聞く言葉に、俺様は眉をひそめる。
「七神代行、それは確かな情報なんですか?」
「はい。元々あの一帯は辺鄙な場所にある街ということで近々再開発の話は出ていました。子ウサギ公園も元々撤去予定ではありましたしね。ですが再開発と言っても子ウサギタウンの開発を手掛けているのは連邦生徒会ではなくカイザーコンストラクションという企業ですのでヴァルキューレ公安局がわざわざ退避勧告をすると言うのはおかしな話だとは思うのですが……」
首を傾げ、怪訝な表情をしながらそう言う七神代行。
……おいおい、またカイザー系列の企業かよ。
この前のリゾートの件と言い、なんでこうも俺様はカイザー系の企業に縁があるのかねぇ……
いや……と言うか、ちょっと待ってくれ。
そもそも子ウサギタウンが再開発されちまえば、それはせっかく月雪達があそこで築いてきたものがすべて無くなってしまうと言う事を意味している。
それはあまりにも……酷な話だろう。
「とは言え先生、RABBIT小隊が子ウサギ公園に滞在することはシャーレの権限を使って不知火防衛室長も承認済みだって聞いているんだが……」
“うん。だから私もそう言ったんだけどカンナは「防衛室長がこの公園に滞在していいと言ったことはない。処分を保留しただけ」という言い分なんだよね……”
……まぁ若干屁理屈臭いけど納得出来ないわけではない。
それにそもそもRABBIT小隊には公園を占拠してテロ紛いのことをやらかした大きな前科があるので、彼女達が公園に滞在することで近くの市民に不安を与えているという可能性も考えられるからな。
市民の安全を守るヴァルキューレとしては、それだけで充分動く理由にはなるだろう。
けどRABBIT小隊は近くの街である子ウサギタウンの住人達からは力を貸している事もあり好意的に見られているはずだし、不安を与えているとは言い難い気もするが……
「七神代行。子ウサギタウンの再開発を今から止めることとかって出来ないんですかね?」
「……恐らく難しいでしょうね。再開発を連邦生徒会が手掛けているならともかく、流石に私達も民間企業に再開発の口出しまでは出来ませんから。」
くっ、せっかく月雪達が頑張って掴んだ居場所だってのにそんなのあまりにも残酷すぎるだろう。
それに再開発を計画しているのは他ならぬあの金の亡者であるカイザー系列の企業だ。
どうせろくでもないことを企んでいるに決まっている。
リゾートの件といい、アビドスの件といい連中はしょーもない金儲けのことしか頭にないからな……
今度カイザーに乗り込んで真正面からボコボコにぶちのめして……っと、話が逸れてしまった。
しかし、だとすると連邦生徒会が再開発計画に関わっていない以上余計にヴァルキューレ公安局がなぜそんな事をしたのか理由が気になるところだが……
「話の腰を折って悪かったな先生。続けてくれ。」
“うん。それで、その時に当然拒否したミヤコ達とカンナ達が一触即発になりかけたんだけど……その時に、ミヤコとサキはカンナ達公安局全員がヴァルキューレの正式装備とは違った武装をしているってことに気づいたんだ。”
「え、ヴァルキューレの正式装備じゃない武装……?」
先生の言葉に、俺様は首を傾げる。
それって見間違いじゃないのか……とも思ったけど、小隊長である月雪や火器類に関しては隊の中で誰よりも詳しい空井がそう言うなら恐らく間違いないんだろうな。
しかし、だとするとヴァルキューレは何の武装を……?
「うーん……ヴァルキューレの武装って予算が足りないから常にボロボロの物を使ってるって聞いてるし、流石にガタが来て新品に買い替えただけなんじゃないの?」
由良木が明太子チップスを食べながらそう発言する。
確かにヴァルキューレの予算が少ないと言う話は聞いたことがあるし、この前たまたま生活安全局の中務とバッタリ街中であったときも彼女はヴァルキューレの財政状態が良くないせいで銃弾の補充すらままならない状態が続いている……とも言っていたからな。
“ただそれにしては武器の作りはかなり最新鋭の物だったらしいし、銃弾にHEIAP弾を使っていたらしくて……”
「HEIAP弾ですか……!?」
“うん。サキが言うにはあまり生産されているものじゃないらしくて、個人の火器にしては高すぎるし実用性も低いってことみたいなんだ。だから、そんな武器を大量に生産できる財力のあるキヴォトスの企業といえば……”
「……カイザー系列の企業しか有り得ないってことか。」
“うん……そういうことになるね。”
なるほど、つまりはこういうことだ。
防衛室の権限のみで動かせるヴァルキューレ公安局が、理由は不明だがカイザー製の火器を装備していた。
つまり、ヴァルキューレ製のものよりも遥かに品質も火力も高いものに装備を一新させていた……と。
しかも、七神代行や岩櫃調停室長の驚いた表情を見る限りカイザー系列の企業とそんな大型の取引をするという情報は流れてこなかったのだろう。
その上で、同じくカイザー系列の会社が手掛けている子ウサギタウン再開発のために公園に居座っている月雪達を立ち退かせるために脅しをかけてきたという事だな。
……確かにカイザー製の武器は火力や品質は確かだけど、その分値段はかなり張るものが多い。
仮に万魔殿の予算で買おうとするなら稟議書を通すのはかなりの反対を食らうことが予想出来るレベルだ。
そして由良木もちらっと言っていたけど、とてもじゃないけど現状金欠にあえいでいるヴァルキューレが公安局全員分のそんな高価な装備品を買えるとは思えない。
仮に買えるだけの予算があるとしてもそんな大型取引をするなら絶対に稟議書を出すなり何なりしてしかるべきだけど、七神代行を含めた連邦生徒会の三人は全員が完全に寝耳に水という表情をしているし……
防衛室の権限のみで動かせる部隊の装備を一新。
そして、その事を連邦生徒会である七神代行はもちろん他の誰にも言わずに黙って実行していた……
しかも取引相手はあの悪名高いカイザー系列の企業となると……なるほど。
こいつは……かなりきな臭くなってきやがったな?
ま た カ イ ザ ー か