連邦生徒会、生徒会長室にて。
先生の発言によりヴァルキューレの公安局がカイザー製の武器を所持していることが判明したことで、会議室にはどんよりとした重たい空気が流れていた。
(ヴァルキューレ公安局がカイザーの武器をねぇ……?)
俺様は眉をひそめ、腕を組みながら心の中でそう呟く。
軽くため息を吐き出しながらぐるりと会議のメンバーを見渡してみると、全員がそれぞれ難しい表情を浮かべながら何かを考えているような素振りを見せていた。
「先生、ひとまずヴァルキューレの公安局がカイザーの火器を何らかの方法で入手したことは理解したよ。」
“うん、ありがとう。今回の黒幕の件とは関係ないかもしれないけど、ちょっと気になることだったからさ。”
「いや、多分だけど……俺様の見立てではそのヴァルキューレの火器類の件と今回のクーデターの件についてはあながち無関係ってわけでもないと踏んでるかな。」
先生の目を見据えながら、俺様は椅子に深く腰掛けつつ真剣な表情でそう言い放った。
“……なるほど、タツミはもしかしたらその事とクーデターに何かしらの関係があると思っているんだね?”
「あぁ。先生が話したことについて解せないことがあまりにも多すぎるからな。」
“解せないこと……?”
小首を傾げる先生に対して、俺様は軽く頷く。
「正直疑問点が多すぎて何から話せばいいか分からないけど……やはり一番の疑問はヴァルキューレはどうやってカイザー製の武器を大量に入手したのかについてだ。」
そう。先生からこの話を聞いたときにも言ったことだけど基本的にカイザー系列の企業が作っている火器類というのは高性能で高品質なものが多い代わりに、値段がべらぼうに高いと言う特徴があるのだ。
何せ、カイザー製のアサルトライフルを買おうと思ったらゲヘナで安価で量産されている安いアサルトライフルなら10個以上は買えるほどに値段に差があるからな。
個人的にはカイザーの高い割に操作が複雑な銃よりゲヘナの多少雑に扱ってもビクともしない銃のほうが使いやすいのだが……まぁそれは今はおいておくとしよう。
それに、カイザー製の武器は使用するマガジンや弾薬も専用のものが使用されていることが多い。
それこそ5・56mm弾や7・72mm弾のような他の銃器にも使用できる汎用性のある弾ではなく、先程先生の言ったようなHEIAP弾のような個人で使用するには高価かつ更に汎用性も低いものを使っているのが主流だ。
新規で重火器を購入する場合パーツやマガジン、弾薬の使いまわしが出来るならその分を節約することが可能だがカイザー製の武器はどれもこれも互換性の低いものばかりのため買おうと思えば相当な値段がかかるだろう。
一方、俺様は同じヴァルキューレの生活安全局に所属している中務からこの前街でバッタリ会った時に「ヴァルキューレの財政状況は良くなくて弾丸の補給にも苦労する」との証言を得ている。そのことを鑑みればヴァルキューレの財政状況は苦しいと見るのが自然な発想だ。
由良木の言う通り、実際ヴァルキューレが金欠なのは結構周知の事実であり装備品も使い古されてボロボロのものや旧式のもので装備が不十分なところがあるからな。
いくら生活安全局がヴァルキューレの中では軽視されがちな部署とは言え、そんな貧乏なヴァルキューレがカイザー製の武器を……それも公安局全員に行き届く数を確保できるとは到底思えないのだ。
だって新品の銃ならともかくあのカイザーの武器だぞ?
そもそも公安局には結構な大人数が所属しているはずだし、そんな人数の武器をカイザーから買おうと思ったら仮に万魔殿の予算を使うとしても大反対を食らうことが想像できるくらいには膨大な金額になるに違いない。
どう考えたって財政状況の良くないヴァルキューレが手を出せるような金額ではないだろう。
そんな武器を人数分揃えたとなると……どう考えても裏で何らかの取り引きがあったとみてしかるべきだ。
「七神代行、確認のため聞きたいんですけど不知火防衛室長からこのことについて話はありましたか?」
「……いえ、残念ながらカヤ室長からは何のお話も伺っていませんね。」
俺様の言葉に七神代行は目を閉じ、額を抑えながらゆっくりと首を左右に振りながらそう言った。
……この話を最初に聞いた時の七神代行の表情からして察しはついていたけど、やっぱりそうだよな。
こいつは……かなり怪しくなってきやがったな?
「まぁ、普通カイザー製の武器なんて高価なものをそんなに大量に買おうとしたら稟議書は必須だもんね。しかも公安局全員分となればそれはもうすごい金額になるだろうし、そうなれば公安局長はもちろんその上司であるカヤ室長の一存でも決められない。財務室長……更にその上のリン先輩に話を通すのが筋ってもんだよ。」
「ですが、先生のお話によると実際に公安局はカイザー製の武器を所持していてそれを使用していたと……そのことから考えるのなら、既にカイザーへの支払いを終えたあととしか考えられませんが……」
「……頭の痛い話ですね。」
深い溜息を吐き出しつつ、それぞれ深刻そうな表情で言葉を述べていく連邦生徒会の三人。
「念のためお聞きしておきますが七神代行。防衛室から今回の取り引きに関してのデータは……」
「いえ、代行権限を使用して怪しい部分が無いか洗いざらい詳しく調べましたが防衛室からそのような取り引きのデータは一切ありませんでした。当然、財務室の予算が動いていると言う事もありません。ですが先生のお話を踏まえて考えればデータが無かったのではなく意図的に隠しているか……もしくは明るみに出る前に握りつぶしたと考える方が妥当でしょうね。」
七神代行はそこまで言うとため息を吐き出し、手元のコップを手にとって水を一口口に含んだ。
「確かにこれは怪しいかもね……」
「あぁ。仮にヴァルキューレの装備品が貧弱なのを気にしていて、それで高品質なカイザーの武器を買いたいのであれば堂々とその事を話せばいいだけだ。けどそれをせず、みんなに黙ってこんなコソコソと秘密裏に進める真似をしているってことは……」
「……やましいことがある証拠、ってことだね。」
「そういうことになるだろうな。」
顔をしかめながら明太子チップスをバリバリと音を立てて食べる由良木に、俺様は静かに同意した。
「なにはともあれ、これで流石に不知火防衛室長がクーデターを企んでいる黒幕だと断定するつもりはありません。けど、裏でコソコソしていることを踏まえると怪しい人物の筆頭になったのは間違いないでしょうね。」
「ですが、公安局がカイザー社の武器を所持していたのは分かりましたが一体どうやってヴァルキューレはカイザー社の武器を大量に購入したのでしょう?先程タツミさんが仰ったことの繰り返しにはなってしまいますが、ヴァルキューレは予算が少なくそんな金額を捻出できるとは到底思えないのですが……」
“……そのことなんだけど、一つ心当たりがある。”
岩櫃調停室長のつぶやきに、先生が俺様達をぐるりと見渡しながら静かに口を開いた。
“さっきも言った通り、私はこの前RABBIT小隊の皆と大雨で壊れたテントを修理している時にカンナ達がやって来たんだけど……その時、カンナは【スポンサーの協力で武器を入手した】という言葉を口にしていたんだ。”
「スポンサーの協力……ですか?」
「……どういう事?ヴァルキューレは防衛室の傘下組織だよ?民間企業じゃあるまいし、そもそもヴァルキューレにスポンサーなんて付いてないはずだけど。」
スポンサーか……へぇ、なるほどな?
「先生、もしかして公安局の所持していた武器は【カイザーインダストリー】製のものか?」
“うん。サキが言うにはそれで間違いないらしい。”
「なるほど、となると……リベートだな先生?」
“本当に君は賢い子だね。うん、その通りだよタツミ。”
俺様の問いに、先生は首を軽く縦に振って頷く。
なるほど、それなら確かに金欠のヴァルキューレでもカイザー社の武器を手に入れることは可能だ。
……どうやら、不知火防衛室長はあのニコニコとした笑顔の裏に相当計算高いものを隠し持っているらしいな?
「えっと、リベートって言うと……」
“簡単に言うと割戻しのことだね。支払った金額分の一部が返ってくるって制度のことだよ。”
「なるほど。子ウサギタウンの開発を手掛けているカイザーコンストラクションは元を正せば武器開発を主に手掛けているカイザーインダストリーと同じ系列の会社ですからね。資金の移動は比較的容易でしょう。」
「はい。なのでもしカイザーコンストラクションが子ウサギタウンの開発で得られるだろう利益をカイザーインダストリーが事前に武器として還元することで公安局へと流していたとしたら、公安局は武器の対価として再開発に邪魔となるRABBIT小隊を追い出せばいいということになる。正しくスポンサー契約っつー訳ですね。」
「なるほど……確かにそれなら財政状況の悪いヴァルキューレでもカイザーの武器を入手する事は可能ですね。」
まぁこれはあくまで仮説でしか無いけど、先生の証言を合わせて考えるとヴァルキューレはほぼこの方法でカイザー製の武器を入手したと考えていいだろう。
そもそも財政状況が悪い以上、お金を払って買うという正規の方法はまず取れないだろうからな……
となると、残った手段は自分達の労力を対価にして協力関係を結ぶことしか考えられない。
で、それならばわざわざRABBIT小隊を追い出すために公安局が出張ってくるのも頷ける話だ。
カイザーコンストラクションは子ウサギタウンの再開発を望んでいるわけで、そうなれば当然子ウサギ公園に居座っているRABBIT小隊は邪魔でしか無いからな。
ヴァルキューレとしての表向きの理由はあくまで武器を所持している流れ者の取り締まりだろうが、裏では十中八九そういうことで間違いないだろう。
何せヴァルキューレにとってカイザーはスポンサー。
後ろ盾である奴からの頼みなんだからな。
断れば契約を打ち切られてまた元の貧弱な装備に戻ってしまう以上は条件を呑むしかないだろう。
「ですが、それは違法なのでは……」
「はい、もちろん違法です。本来なら市民の安全を守って然るべきであるヴァルキューレ警察学校が、カイザーと言う企業のために動いているわけですからね。」
「警察と企業が結託するなんて……いやはや、こりゃ世も末だねぇ。」
「……まぁRABBIT小隊もなんとも言えない立場だろうけどともあれ公安局とカイザーが協力関係にあるってことは間違いなさそうだな。」
はぁ……こりゃ想像以上に面倒なことになってきたな。
とは言えこのタイミングで防衛室の権限で動かせるヴァルキューレ公安局の装備を強力なものにする理由は……
まぁ、そんなもん一つしかないだろうな。
「……皆さん。あくまでこれは可能性の話でしかありませんけど、聞いてもらえますか?」
俺様はその場で軽く手を上げ、会議に参加しているメンバーをぐるりと見渡しながら真剣な表情でそう言う。
すると、皆言葉こそ口には出さないものの俺様の意図を汲んでくれたのか首を縦に振ってくれた。
ありがたい。
俺様は皆に感謝しつつ、意見を述べるために口を開く。
「これはあくまで可能性の話でしか無いですが……連邦生徒会内の七神代行寄りの役員達への襲撃、FOX小隊の俺様への襲撃、そして今回のヴァルキューレとカイザーの水面下での癒着……どうにも、俺様はこれらがバラバラの目的のために行われているとは思えないんですよね。」
「……と言うと?」
「つまり、早い話これらはすべて黒幕のクーデターのための下準備ってことだと俺様は睨んでいます。」
真剣な表情を浮かべつつ、俺様は言葉を続ける。
「FOX小隊が七神代行派の議員を襲ったのは、いずれ来るクーデターへ向けて不信任案を提出した時に七神代行に味方する議員を減らすため。俺様を襲ったのは、七神代行と仲の良い俺様を始末することで七神代行の精神的動揺を狙うため。そして今回ヴァルキューレがカイザーの後ろ盾を得たのは不信任案が通らなかった場合に武力で無理矢理クーデターを起こすため、そしてクーデターを成し遂げたあとに必要な武力と人員の確保をしているとしか思えないんですよ。」
そう、俺様の考えは概ね今言った通りだ。
それを踏まえた上で、黒幕が考えているであろうクーデターの手段は俺様の考える限りでは大きく分けて2つ。
1つ目は正攻法によるクーデター。
そしてもう1つは武力によるクーデターだ。
正攻法によるクーデター、これは分かりやすい。
七神代行に不満があると議会で堂々と発言して不信任案を提出し、それを賛成多数で可決させてしまえば七神代行は代行の座から降りざるを得なくなるのだから。
実際、前回のFOX小隊による連邦生徒会への襲撃のせいで七神代行派の議員は結構な人数が入院やら静養やらで連邦生徒会に顔を出せていない状態が続いている。
そんな状況で不信任案を提出すれば高確率で法案は通ってしまうだろうし、黒幕は現状ここを目指して色々と根回しをしている最中だと思っていいだろう。
俺様への襲撃も七神代行と仲の良い俺様を始末することによって彼女の精神的動揺を誘い、抵抗する意思を削いだり思考を鈍らせる目的だと思っていいはずだ。
今は俺様の所持している爆弾を奴の首に巻き付けて縛っているから奴も下手な動きは出来ないだろうけど、それもいつまでも機能するとは限らない。
正直、時間との戦いといっていいだろうからな。
そしてもう1つは……武力によるクーデターだ。
そう、黒幕は仮に不信任案を提出しそれが否決されてしまった場合は武力行使をしてくると俺様は読んでいる。
だって黒幕は目的のためならFOX小隊を使って連邦生徒会を襲撃させたり、俺様の暗殺を命じてくるような血も涙もない冷酷な人間なんだぜ?
不信任案が通らなかったからと言って、はいそうですかと簡単に諦めてくれるわけがないだろう。
十中八九そうなった場合は武力行使をしてくるはずだ。
そのため、今回のヴァルキューレ公安局にカイザーがスポンサーに付いたのはその前準備……つまりクーデターのための戦力の確保だと見てほぼ間違いないだろう。
SRTが解体された今、現状連邦生徒会側が保有している戦力と言えばヴァルキューレ警察学校のみ。
そしてその指揮権が防衛室にある以上、そこを握られてしまえば七神代行に抵抗できる手段は残されていない。
とは言え、七神代行がそんなことになれば当然先生が黙っていないのは火を見るよりも明らかだ。
なので、そうなった場合先生は各学園から生徒を集めて混成部隊を作って七神代行を守りにかかるだろう。
そうなった場合を想定してのヴァルキューレの戦力の確保と、いざという場合はカイザーにも何らかの見返りを約束して協力を取り付けた……と考えることも可能だ。
現状、キヴォトスに存在している企業の中でカイザー社の力は圧倒的だ。社員の量、装備の質、財源力……どれをとっても頭一つ抜けて居るといっても過言ではない。
であればシャーレという強大な権力を相手にする場合を考慮してカイザーって言う強力な企業と今のうちに何らかの関係を持っておき、いざと言う時は協力を要請するというのは充分に有り得る話だろう。
カイザーは金の亡者だし、仮にシャーレを打ち倒すことが出来ればシャーレの強大な権力はそっくりそのまま黒幕のものになるわけで……そうすればカイザーとしても今まで以上にでかい顔で商売が出来るだろうし、恐らく黒幕とカイザーの利害は一致していると見ていい。
その結果が今回のヴァルキューレと言う労働力を提供してのスポンサー契約……と考えるとしっくりくる。
なんせ、用意周到かつ用心深い黒幕のことだ。
上手く行かなかった時の方法の1つや2つ……いや、それ以上に用意しているのは簡単に想像が付く。
そして……極めつけは、ワカモからもたらされたFOX小隊から防衛室と言う言葉が出てきたという情報。
さっきは不知火防衛室長を黒幕と断定するには早計だと言ったが、流石にここまで状況証拠が出揃ったら……
“それは……つまり……”
「あぁ。俺様は今回の黒幕は不知火防衛室長……ほぼ彼女で決まりなんじゃないかとかなり強く疑っている。」
そう。以上のことを踏まえた場合に不知火カヤが黒幕だと仮定して考えると、全ての辻褄が合うのだ。
「ハッキリ言いましょう。今までも疑ってはいましたが今回の件で俺様の中での黒幕は不知火防衛室長だとほぼほぼ決まったと言っても過言ではありません。FOX小隊による襲撃も、今回のヴァルキューレとカイザーの件も、クーデターの下準備と考えばしっくりくる。」
更に言えば、正攻法だろうと武力行使だろうとクーデターを成し遂げたあとには自分の思うままに動かすことの出来る人員が必要になってくる。
そりゃそうだろう。だってクーデターを起こすということはトップをすげ替えると言うことであり、そうなれば新しい政権で働く人間だって一新する必要が出てくる。
当然クーデターなんて方法で実験を握れば反発する生徒が大量に発生してもおかしくないし、彼女達にストライキでも起こされればせっかく実験を握ったとしても組織運営が出来ずに黒幕の政権は崩壊してしまう。
そうなるとクーデターを起こした意味がなくなる、黒幕としてもそれだけはなんとしても避けたいはずだ。
となれば今のうちに自分の息のかかった人員を増やしておくというのは自然な流れだろう。
恐らく不知火カヤはそれをヴァルキューレとカイザーで補おうとしているんだろうが……ヴァルキューレはともかく、カイザーなんて生徒を食い物にしている金の亡者と手を組むなんて正気の沙汰だとは思えない。
いくら自分の目的のためとは言え、あんな連中と手を組むなんていつ寝首をかかれるか分かったもんじゃない。
連中の手綱を握るためには相当難易度が高いと思うが……まぁ今はそれはどうでもいいだろう。
“……そうだね。カヤがそんな事をしているとは考えたくはないけど、タツミの考えは理にかなっていると思う。”
先生は俺様の言葉を聞き終えると、苦い表情を浮かべながら絞り出すようにそう呟いた。
……恐らく、先生からしても自分の信頼している生徒がこんな事を企んでいるとは思いたくないのだろう。
彼女の苦しそうな表情がそれを物語っていた。
かく言う俺様だって不知火防衛室長のあのニコニコした笑顔の裏にこんなどす黒いものが渦巻いているとは考えたくないし、彼女が俺様にしてくれた気遣いには打算的なものが含まれているとは感じられなかった。
あんなにフレンドリーでいい人がこんなことをしているとは思いたくないが……ここは心を鬼にするしかない。
「……そうですね、私も彼の考えには賛成です。」
「私もカヤさんがそんな事をしているとは思いたくありませんが、ここまで状況証拠が揃ってしまうと……」
「まぁ確かにこれは怪しさ満点だしね。そういうことなら私もカヤ室長を重点的に調べるのは賛成だよ。タツミの違和感も案外バカに出来ないんだねぇ。」
「……そりゃどうも。」
まぁ、俺様もワカモからの情報を得るまでは不知火防衛室長に対して言いようのない違和感を感じる程度にしか怪しめていなかったわけだからな。
本当にワカモには感謝しなければならないだろう。
「しかし重点的に調べると言ってもカヤさんは今回のカイザーとの取り引きも完全に隠蔽しているのですよね?リン先輩が代行権限を使って調べてもデータが出てこないとなるとこれ以上探っても何も出てこないのでは……」
……そう、問題はそこなんだよな。
確かに状況証拠的には今回のヴァルキューレの件で不知火防衛室長は限りなく黒だと言っていい。
けど、それはあくまでも状況証拠のみでの話だ。
恐らくここまで裏で用意周到に準備を重ねている相手に状況証拠だけを突きつけてもいくらでも言い逃れ出来る手段は用意してあるだろうし、そんなことをすればそれは彼女に対する宣戦布告も同然の行為だ。
そうなれば不知火防衛室長はもうなりふり構わず俺様達を始末しに来るだろう、それは非常にマズい。
その気になればFOX小隊やヴァルキューレとカイザーの連合軍を迎え撃つことは可能だろうけど、そうなった場合は最早戦争レベルの争いが予想されるだろう。
それだけは……何としても避けたいからな。
なので、不知火カヤを仕留めるのであれば言い逃れできないレベルの証拠を集めて逃げ場をガチガチに封鎖した上で一撃で仕留める必要があるだろう。
具体的には今回のカイザーとの癒着を示す決定的な証拠を揃えた上で、それを突きつけることが出来るのが一番手っ取り早い手段ではあるんだけど……
「流石にこれだけ大きな取り引きであれば取り引きのデータを完全に消去しているとは考えにくいですが、不知火防衛室長の傾向からして保管場所として防衛室のサーバー等を選ぶのは不用心が過ぎますからね。恐らく防衛室をいくら調べてもデータは出てこないでしょう。となると防衛室ではなくもっと別の……それこそ、外部からのアクセスが制限されているような場所だと言うことが予想出来るでしょうね。」
「外部からのアクセスが制限されている場所というと……今回で言えば、ヴァルキューレの本部やカイザーコーポレーションの本社ということになるでしょうか?」
「カイザーは良くわかんないけど、確かヴァルキューレ本部のサーバーはローカルサーバーのはずだよ。外部からのアクセスやハッキングは不可能なはずだしサーバーの中身を確認しようと思えば直接本部のPCからアクセスするしか無い……なるほどなるほど、バレたくないものを隠すには絶好の場所だねぇ。」
……そうだな。確かに由良木の言う通り、ヴァルキューレのサーバーに証拠が残っている可能性はある。
もしくは書面で取り引きがなされたならばその書類が金庫かどこかに厳重に保管されている可能性もあるが……
今回の取り引きの真の責任者は不知火防衛室長だろうけど、多分表向きにはヴァルキューレ公安局とカイザーの間の契約ということになっているだろう。
ならば、データにしろ書面にしろヴァルキューレの本部に何らかの証拠が残っている可能性は高い。
更に、本当に不知火防衛室長がカイザーと手を組むことを決めたとすればその中に不知火防衛室長の名前が載っている可能性もある。もしそんな物を手に入れる事ができたらこれ以上無いほど決定的な証拠になるだろう。
それにヴァルキューレの本部なら当然大勢のヴァルキューレの警察官が詰めているはずだし、仮に証拠を狙って誰かが襲撃を仕掛けてきても強化された武器を持ったヴァルキューレの生徒達で即座に鎮圧できると来た。
いわば堅牢な要塞の中に証拠を隠している様なもの、客観的に見てこれ以上隠し場所に適した所はないだろう。
それで言えばカイザー社の方にも取引自体のデータやスポンサー契約の詳細を示したデータなどが保管されているだろうし、腐っても連中は大人だ。
恐らくヴァルキューレが保管しているものより詳細なデータが手に入る可能性はあるが……流石にカイザー本部へカチコミをかけるわけには行かない、そんなことをすればカイザーとの全面戦争まったなしだからな。
となると、現状ではヴァルキューレに保管されている可能性の高い取り引きのデータを掴むほうが堅実だろう。
……まぁ、一番の問題はどうやってヴァルキューレに保管している証拠を確保するかなんだけども。
「ですがそれが分かったとしてもどうやってアプローチをかければ良いのか……恐らく今までの話を鑑みれば公安局ないしは防衛室がカイザーと何らかの取り引きをしているのはほぼ間違いないでしょうし、ヴァルキューレに証拠が残されている可能性は高いと思われますが……」
「まさか真正面から証拠を出せーってカチコミに行く訳にもいかないしねぇ……カヤ室長を問い詰めたところで証拠がなければ暖簾に腕押しだろうし。」
“そうだね……なにかいい方法があればいいんだけど……”
……ヴァルキューレのサーバーがローカルサーバーである以上、外部からのアクセスやハッキングは不可能。
となると残された手段はもう直接ヴァルキューレへ乗り込んで行くくらいしかないが、いくら状況が状況とは言え世間で見たら市民の味方であるヴァルキューレにカチコミをかけてしまえば下手すりゃこちらの信用が地に落ちかねないだろうしそれは避けたいところだからな。
正面からのカチコミは不可能だ。となれば、あと現実的なのは4〜5人くらいの少数でこっそりと潜入してバレないように証拠だけを抜き取ってしまうことだけど……
とは言え、ヴァルキューレの本部の警備は言わずもがな超厳重だし仮にそんな取り引きをした証拠を守っているとすると普段より警備が強化されている可能性もある。
そんな厳戒態勢の中でバレないように忍び込み、証拠だけを抜き取るのは相当な訓練を積んだ……それこそSRTの生徒くらいの実力がないと不可能だ。
そんな実力を持った連中なんてその辺にホイホイいるわけもないだろうし、だったら俺様が……と言いたいところだけどゲヘナの議長代理である俺様がそんな事をしてもしバレれば大問題どころの話では済まなくなる。
負担ばかりかけてしまって申し訳ないけど、やはりここは隠密行動が得意なワカモに頼むしかもう手は……
(いや……待てよ……?)
……そう言えば、いるじゃないか。子ウサギ公園に。
厳しい訓練を受けてきたエリートが。
自分の掲げる正義を信じている正義感に溢れた連中が。
そしてSRTの誇りを何よりも大切にしている……確かな実力を持っているウサギたちが。
「七神代行、一つ俺様から提案があるんですが……」
「提案……ですか?」
その場で手を上げながら七神代行へ視線をやった俺様は彼女へ向かって力強くそう言い放つ。
俺様の言葉を聞いた七神代行は少し驚いたような表情をしていたが、やがてコクリと頷く。そして彼女からの了承を得た俺様は……そのままゆっくりと口を開いた。
「今回のこの一件……RABBIT小隊の力を借りるというのはどうでしょう?」
次回、RABBIT小隊の元へ向かいます