果たしてどうなるのか⋯⋯
時刻は深夜の23時30分を回ったところ。
ヴァルキューレとカイザーの癒着を決定づける証拠を掴むべくヴァルキューレ本部へ乗り込むためRABBIT小隊の協力を取り付けた俺様は思い立ったが吉日ということであれから即座に準備を整え万魔殿のグループトークに「DU地区での仕事が長引いたので今日はシャーレに泊めてもらう」と連絡を送り、RABBIT小隊の潜入メンバーと共に闇夜に紛れて静かに行動をしていた。
「皆さん、そろそろ目的地であるヴァルキューレの本部へ到着します。ここからはいつどこに哨戒兵がいるか分からないので慎重に行動するようにしてください。」
「了解。」
「フン、そんな事お前に言われるまでもないぞミヤコ。隠密行動中において気配を殺すことは基本中の基本。教本にもそう書いてあるしな。」
「……なら無駄口を叩かずに足音をもう少し小さくする努力をすることだな空井。気づいててないかもしれないけど、この中でお前の足音が一番デカいぞ。」
「なっ、なんだと……!?」
「うぅ……大丈夫かな……ちゃんとやれるかな……」
今回のヴァルキューレ本館へ乗り込むに当たって潜入メンバーとして選抜された月雪、空井、霞沢、そして俺様の四人のメンバーは闇夜に紛れながら気配を殺しつつ姿勢を低くしながら少しづつ進んでいく。
そしてゆっくりと進み続けていると、やがて今回の潜入先である敵の総本山……ヴァルキューレ警察学校の本館が目の前に見えてきた。
ヴァルキューレ警察学校の本館はたくさんの明かりや哨戒兵の手にしているライトでまるで昼間かのように明るく照らし出されており、闇の中に浮かび上がるその立派なヴァルキューレの校章も相まってまるで難攻不落の要塞のような雰囲気を感じ取ることが出来る。
「キャンプRABBIT、こちらRABBIT1。ヴァルキューレの本部に到着しました。」
『こちらキャンプRABBIT。了解だよ。んじゃ正面の入口の裏手に勝手口があるからそこのロックを今から解除するね。多分RABBIT1達が裏手に回るまでには終わると思うけどなるべく急いでもらえると助かるかな。』
月雪が胸元のトランシーバーにそう問いかけると、トランシーバーの向こうからは今回の作戦で主に監視カメラや防衛システムのハッキング担当の後方支援役の風倉からそんなノイズ混じりの指示が聞こえてくる。
「こちらRABBIT1、了解しました。皆さん、裏手へ回りましょう。言うまでもありませんがここから先は敵の総本山ですのでなるべく姿勢を低くして物音を立てないように。静かに、迅速に行動してください。」
「了解だ。んじゃとっとと裏手へ回っちまうか。」
月雪の言葉に頷いた俺様達はそのままヴァルキューレ本部の外壁に張り付きつつ姿勢を低くしながら、風倉からの指示のあった裏口を目指して進んでいく。
さて、あれから公園で月雪や先生と話し合いをして決まった今回の大まかな作戦の概要はこうだ。
まずヴァルキューレの本部へ潜入するに当たって直接敵陣へ乗り込んで証拠を確保する突入班、そして建物内の監視カメラや防衛システムを無力化したりドローン等で突入班をサポートする後方支援班に部隊を分ける。
突入班には小隊長である月雪、ポイントマンの空井、奥内任務ではあるが戦闘になった場合を考慮して遠距離攻撃を行うことが出来るスナイパーの霞沢。
そして今回に限ってRABBIT小隊の臨時メンバーとして月雪達と任務を遂行することになったコードネーム【テンポラルRABBIT】こと俺様の4名となった。
ちなみにテンポラルと言うのはスペイン語で臨時と言う意味を指す言葉なので、臨時の隊員を務める今回の俺様にはうってつけなネーミングというわけだな。
主な陣形は盾を持っている俺様とポイントマンの空井の二人で安全を確保しつつその後ろから月雪、更にその後ろから霞沢と言った陣形を維持しつつ行動。
万が一戦闘になった場合は俺様と空井で前衛を務め敵の攻撃を食い止めながら月雪がカバーをして、霞沢の狙撃で敵を無力化する算段となっている。
そして突入班をサポートしつつ後方からの支援を行う支援班には電子戦やハッキングが得意な風倉、的確な指示で生徒の戦力の底上げが可能な先生、そして今回の作戦において会長代行権限を使用して俺様達の後ろ盾になってくれておりヴァルキューレ本部の見取り図などの提供を行ってくれた七神代行の3名が振り分けられた。
なお、岩櫃調停室長と由良木は七神代行が今回の作戦に参加するため代わりに書類を処理することになっているので不参加となっている。
二人には申し訳ないことをしてしまったな……また今度なにか差し入れでも持って行くとしよう。
で、風倉は言わずもがなだが七神代行もあまり戦闘が得意なタイプではなくどちらかと言うと後方支援で真価を発揮するタイプだし、先生に至っては戦闘能力がない上にヘイローもないと来ているので戦闘の可能性がある以上は危険すぎるため後方で待機してもらうことにした。
今回の任務はそんな先生と七神代行……つまりシャーレと連邦生徒会とか言う強大な組織のトップが後ろ盾に付いてくれているので、心強いことこの上ないだろうな。
ヘイローがないと言う点では俺様も同様ではあるが、俺様は今までも前線に出張りまくっているから戦闘に関しては人よりもこなせる自信があるから無問題だ。
なお、彼女達3人はシャーレの執務室から俺様達をサポートしてくれる手筈となっている。
後方で待機してもらうにあたって彼女達の中に戦闘を行えるメンバーがいないので少し不安だったのだが、その点シャーレなら警備体制は万全だからな。
それこそヴァルキューレに勝るとも劣らない堅牢な要塞なので、その中から後方支援をしてくれるならこちらとしても安心して任務に集中できるだろう。
今回の作戦で元SRTで現在は無所属のRABBIT小隊はともかく現万魔殿の議長代理である俺様がヴァルキューレへ潜入してもしバレようものならただでは済まないだろうから、俺様を突入班に組み込むかは議論がかなり過熱した上に俺様自身も最後の最後まで悩みに悩んだ。
だけど俺様の本分は盾とショットガンを生かして味方を守りつつ前線を押し上げるゴリゴリの最前衛タイプなため、今回に限っては正体を隠した上で突入班として参加するという事が決まったわけだな。
そのため今の俺様の格好は普段の万魔殿の制服ではなく何故か連邦生徒会の本部に残っていたSRTの男物の制服を身に着けており、頭は顔元の隠れるヘルメットで保護しているためパッと見でバレる心配はないだろう。
閑話休題。
さて、話を戻すがひとまず七神代行から提供されたヴァルキューレ本館の見取り図を元に潜入ルートを構築した俺様達は今風倉の指示のあったヴァルキューレ本館の裏手であるポイントEから潜入。
その後地下3Fにある公安局の取り引き帳簿である【クローバー】と名付けた証拠を確保するためにポイントSへと移動し、速やかに部屋に潜入して証拠を抜き取って脱出するという手筈となっている。
ことが上手く行けば30分もあれば終わる作戦だけど、こういう任務においてトラブルはつきもの。
最悪哨戒中の生徒にバレて銃撃戦になることも考慮するとあまり悠長に構えている余裕はなさそうだ。
「……こちらRABBIT1。キャンプRABBIT、手筈通りポイントEへ到着しました。扉の入口付近に哨戒中の生徒の姿は見当たりません。」
さて、そうこうしているうちにどうやらヴァルキューレ本館の裏手……ポイントEへ到着したようだ。
俺様と空井は月雪のその言葉を聞いて互いに顔を見合わせて頷くとそのまま裏口の扉の両サイドへと取り付く。
『こちらキャンプRABBIT。了解だよ。そこのドアのロックはハッキングで解除してあるからすぐにでも突入できるからね。んで、入った場所に監視カメラもあるけどそれもハッキング済みだから気にしないでいいから。』
月雪の身につけているトランシーバーから、ノイズの混ざった風倉の声が聞こえてくる。
……あいつ、普段はあんなにおちゃらけてるのに電子戦においてはマジで優秀なんだよなぁ。
警察組織であるヴァルキューレの監視カメラやロックをここまで簡単に無力化出来るなんて、それこそキヴォトス中を探したって数えるくらいしかいないだろう。
ちょっとトリガーハッピー気質なところが明確な欠点だけど、それがなければこれほど優秀なやつはいない。
これで普段ももう少しおしとやかなら言う事はないんだけど……まぁ今はそんなことはどうでもいいか。
「モエちゃん、相変わらず早いね……」
『くひひ、この程度のセキュリティくらい朝飯前よ……って調子に乗ったところ悪いんだけど、ハッキングはやっぱり30分しか持たなさそうだね。詳しい説明は省くけどどうにも30分で乱数コードが生成されるっぽくて……だからミッションは30分以内によろしくね。』
「了解です。ありがとうございますキャンプRABBIT。」
……なるほど。ハッキングできたとは言え、腐っても相手は警察組織のプログラム。いくら風倉ほどの腕前のハッカーだとしても一筋縄ではいかないってわけか。
さて、そうなるとここからは時間との勝負だ。うかうかしている暇はないだろう。
『状況が状況なので仕方ないのですが、こうも目の前で堂々と警察機関のプログラムをハッキングしているのを見ると少し複雑ですね……』
『“ま、まぁまぁリンちゃん。今は仕方ないよ。カンナには後で私からも謝っておくから。”』
月雪の胸元に装着されたトランシーバーからは風倉と同じく後方で俺様達のサポートを行ってくれる予定の先生と七神代行のそんなやり取りが聞こえてきた。
まぁぶっちゃけると今俺様達がやっている行為もわりと違法スレスレなんだけど、七神代行の言う通り状況が状況なのでここは目を瞑ってもらうしかないだろうな。
……最も、公安局とカイザーの間で取り引きがあったならば尾刃局長が関わっている可能性は高そうだが。
「キャンプRABBIT、裏口から侵入した場所に配置されている警備の生徒の数はどのくらいだ?」
『ハッキングしたカメラで確認した限りはゼロだね。』
「……なに?警備している兵士がいないのか?」
『うん、ここから見える限り人っ子一人いないよ。』
……おいおい、いくら裏口とはいえ警備の生徒が1人もいないっていうのは仮にも警察組織の総本山の警備体制とどうなんだと言わざるを得ないぞ。
まぁ、警備の生徒がいたらいたで戦闘になるわけだからそれはそれで面倒ではあるけども。
『ただ物陰とか死角もあるから、中に入ったら一応クリアリングはしておいたほうがいいかな。』
「分かった。タツ……じゃなかったテンポラルRABBIT。今の話は聞いたな?」
「あぁそら……じゃなかったRABBIT2。了解だ。」
俺様と空井は互いにそう遣り取りをすると、俺様は盾とブークリエを構えていつでも体をドアが開いた瞬間に室内へ滑り込ませられる体制を取る。
そして俺様の体制が整ったことをハンドサインで月雪と空井に伝えると、それを確認した月雪は軽く頷く。
そして全員が武器のセーフティを外し、空井が扉のドアノブにゆっくりと手をかけた。
「準備はできているぞRABBIT1。」
「こっちも大丈夫だ。」
「お、同じく……!」
「分かりました。それでは……ただいまよりクローバー作戦を開始します!総員突入!」
そんな月雪の指示と同時に、空井がドアノブを捻ってドアを開け放つと間髪入れずに俺様はそこへ体を滑り込ませて後から突入してくる月雪達を守るように盾を構えつつ室内へと潜入していく。
そして後ろからポイントマンの空井が入室してきたのを確認すると俺様と空井は互いをカバー出来る位置をキープしつつ少し開けている空間の物陰を丁寧にクリアリングしていき、敵影が無いことを確認した。
「……クリア。」
「こっちもクリアだ。キャンプRABBITの言う通り、どうやらここに警備の生徒はいないようだな。」
ひとまず物陰にも敵が潜んでいないことを確認した俺様達は息を吐くと、今いる少し開けた空間から先に続いている薄暗い廊下の先へ視線をやった。
「では敵影がないことを確認しましたので、このまま目的地のポイントSまで移動しましょう。」
『オッケー。あ、RABBIT1達がいま居る廊下の先の監視カメラもハッキングしてあるからね。確認したところ周囲に敵はいないからそのまま安心してポイントSまで移動しちゃって構わないよ〜。一応通行量が少ない西側の会談を使ってもらった方が安全かな。』
風倉の指示を受けて手元のヴァルキューレ本部の見取り図のコピーを確認し、今いる位置から資料保管室までのルートを頭の中で描いて形にしていく。
幸い西側階段を通るルートであれば曲がり角などの死角はそれほどないので、クリアリングも簡単そうだ。
……しかし、本当に優秀だな風倉。
つくづくこいつが味方で良かったと本当に思う。
仮に風倉と戦うことになったらこちら側の機械類が全て使えなくなりそうだし、敵にだけは回したくない。
「あぁ、了解だ。」
「しかし……仮にもヴァルキューレの本館なのに警備がいないってのはどうなんだ?敵ながら呆れたもんだ……これだからヴァルキューレには行きたくないんだよ。」
月雪の指示で陣形を組み直した俺様達が廊下を進んでいくと、俺様の隣で周囲を警戒している空井がぶつぶつと顔をしかめながらそんな事を呟いている。
……まぁこいつはお硬い見た目にそぐわず超が付くほどの真面目な奴だからな。仮にも警察組織であるヴァルキューレの警備がここまで杜撰なのが気に食わないだろう。
確かに彼女の言う通り、ヴァルキューレの本館には警備の生徒の姿が見当たらずに人の気配が全くしなかった。
いくら夜中とは言えヴァルキューレなら夜勤は当然あるはずだし……いくらなんでも杜撰としか言いようがない。
ただ、今風倉により無力化されたものの監視カメラとセキュリティロックで裏口はガチガチに守られていたからもしかしたらそれを信用して裏口には警備を立てずに正面の方に警備を集中させている可能性はあるけどな。
いくら夜勤の生徒がいるっつっても流石に日勤と同じくらい人を揃えるのは難しいだろうし……
まぁとは言え、正直今回の潜入任務に限っては戦闘の可能性が低くなるので良かったとも言えるわけだが。
……まぁ、複雑なのには変わりないけどな。
『繰り返しになるけど、制限時間は30分だからね。それまでに証拠を抜き取って脱出すること。いい?』
「はい、RABBIT1了解です。」
『“頑張ってね皆。私もここから応援してるから……”』
『……微力ながら私もタツミさんとRABBIT小隊の皆さんのご武運をお祈りしています。』
トランシーバーから聞こえてくる後方支援の3人の声を聞きつつ俺様達はポイントSへ向けて周囲を警戒しながら慎重に、かつ迅速に歩を進めていくのであった。
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と言うわけで公安局の資料保管室……通称ポイントSまでの道のりを慎重に進んできた俺様達突入班は、無事にポイントSまでたどり着くことが出来た。
……のだが。
(……おかしい、あまりにも静かすぎる。)
俺様達が廊下を進む時のコツコツと言う足音意外何も聞こえてこない周囲をぐるりと見渡しつつ、俺様は渋い表情を浮かべながら心の中でそう呟いた。
確かにヴァルキューレは通報から現場に到着するまでが遅かったり、よくサボっているところを街中で見かけることがあったりなど警察としてはお粗末な部分の多い組織ではあるが……だからといってここまで警備の生徒の姿を一人も見ないというのは明らかに不自然だ。
裏口から突入して廊下を通って公安局の資料が保管されているこの場所までに遭遇した警備の生徒の数はゼロ……拍子抜けとかそういうレベルではない。
ここまで来ると逆にヴァルキューレはこんなガバガバな警備体制で大丈夫なのかと心配になるレベルだ。
仮にもここはヴァルキューレの本館……夜勤シフトが組まれていることは七神代行から提供された情報を見ても間違いないし、いくら警備の手薄なルートを通っているとはいえそれでも人っ子一人いないのは疑問すぎる。
まるでこちらの油断を誘って奥へ奥へと誘い込まれているような……そんな嫌な予感を感じずにはいられない。
(……)
うーん……俺様の考えすぎだろうか?
これが気の所為なら良いんだけど……一応、万が一のために打てる手は打っておいた方が良さそうではあるな。
俺様はポケットに入っていたスマホを取り出すと、念のために近くで待機していてほしいというメッセージを協力者である彼女へと簡潔な文章で送信する。
「よし、到着したな。」
「この部屋にヴァルキューレの文書が全部……」
「頑丈な扉ですね。犯罪に関わる証拠なども全てあるでしょうし、当然ではありますが。」
一連のやり取りを終えた俺様がスマホをポケットにしまっていると、目の前のまるで銀行の金庫のように堅牢な扉を前にした霞沢と月雪が思わずそんな声を漏らす。
ここへ来る道中も警備の生徒はおろか普通に夜勤をしている生徒すら人っ子一人見なかったのでもしかしたら資料保管室も鍵をかけているだけの普通の部屋なのでは……と思っていたのだが、どうやら流石に証拠を保管している部屋に関してはしっかり守りを固めているようだ。
ちゃんと最低限の危機管理能力はあったらしい。
……今は敵である相手の心配をするのもなんだけど、ちょっとホッとしたのはここだけの秘密だ。
「その割にはやっぱり警備とか全然いないけどな。」
空井はもはや呆れを通り越して若干楽しくなっているのか、苦笑を浮かべながらそんな事を呟いている。
確かにいくらこんな見るからに頑丈な扉で守っているとは言え、不測の事態に備えて見張りくらいは付けておくべきな気はしなくもない。
まぁそもそもここへ来るまでに警備の1人すら見当たらないんだから、それも今更って話だろうけど。
「それに関しては空井に同意だな……裏口や道中の廊下はともかく、この部屋の前にまで警備がいないってのは……流石に警備体制が貧弱としか言えないだろうよ。」
「ま、楽なのはいいことだけど。……っていうか何でここで突っ立っているんだ?さっさと中に入らないのか?」
俺様とそんなやり取りをしていた空井は、おもむろに目の前の巨大な鉄の扉へ目をやりつつそう言った。
「いえその……この扉、どうやら電子式みたいでして。」
「今モエちゃんに頼んで、モエちゃんが一生懸命解除してくれているみたいなんだけど……」
「……おい、まさかその時間って30分にカウントされるわけじゃないよな?」
『急かさないでって!私だって今急いでるんだから!』
……まぁ、流石にこれほどまでにしっかりとした作りの扉に鍵がかかっていないことなんてあり得ないだろう。
電子ロックと言う事はいくら風倉でも解除するまでに多少なりとも時間はかかるだろうし、その間は周囲を警戒して万が一の事態に備えておくほうが良さそうだな。
俺様は盾を構えつつブークリエのチャージングハンドルを少し引き、きちんとチャンバーに弾丸が送り込まれていつでも発射できる状態になっているかを確認する。
「ちっ、普通に扉をぶち抜くんじゃダメか?」
「やめろ空井。こんな頑丈な扉に今持ってる銃を撃ったところでびくともしねぇよ。ぶち抜こうと思ったらそれこそ大量の爆薬でもいるだろうだけど、俺様達はそんなもん用意してねぇだろ。そもそも今回の任務は潜入任務だぞ?大きな音を立てたら忍び込んでいるのがバレちまうぞ。焦る気持ちはわかるけど、風倉だって頑張ってくれてんだから大人しく待機していようぜ。」
『タツミの言うとおりだよ。力付くで開けようとして警報でもなったらどうすんだっての。……あー分かった。これをデコードすれば……よし、開いたよ!』
明るい声色の風倉の言葉がトランシーバーから聞こえてきたと同時に、目の前の巨大な扉のロックがガチャンと重厚な音を立てて静かな廊下へと響き渡った。
俺様は思ったより大きなロックの解除音に周囲を警戒するが、警備が駆けつけてくる様子はない。
「……3分か、結構かかったな。」
『これでも相当速いんだけどこの難しさ分かってて言ってんの!?脳筋のサキには分かんないだろうね!』
「なんだと!お前だって無駄に頭でっかちのくせに!」
ひとまず室内へ入るためにブークリエを肩に下げてシールドを折りたたんでいると、空井と風倉がトランシーバー越しに喧嘩をしている声が聞こえてきた。
まったくこいつらと来たら……今は潜入任務中だから大きな声を出すなって言ってるだろうに。
「おいやめろお前ら。俺様達はヴァルキューレの証拠を確保するためにここへ来てるんだぞ。お前達のコントになら子ウサギ公園に帰ったらいくらでも付き合ってやるから、今は頼むから静かにしてくれ。」
「なんだとこのクソボケ野郎!」
『そーだそーだこのムッツリスケベ男!』
「お前ら……後で覚えとけよ……!」
と言うか空井も風倉もしょっちゅう喧嘩や言い合いしてる癖に俺様が仲裁に入ると息ピッタリで罵声を浴びせてくるのは一体何なんだよ……!
「3人とも、今は喧嘩をしている場合ではありません。残された時間はそう多くはない……急ぎましょう。」
「ちっ……仕方ないな。」
「俺様は巻き込まれただけなんだが……!?」
「うぅ……中は暗いから足元に気をつけなきゃ……」
『先生、こんな調子で大丈夫なのでしょうか……?』
『“き、きっと大丈夫だよ!……多分。”』
こうして危険な任務中とは思えない程の緊張感のなさを携えた俺様達はポイントSの室内へ潜入した後、証拠の確保をすべく手分けして室内の捜索を開始するのだった。
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「……ふふ、どうやらネズミもといウサギたちが罠にかかったようですね。貴方達が防衛室とカイザーの繋がりを証明する証拠を狙ってヴァルキューレへ押しかけてくることを私が想定していないとでも思いましたか?」
「あまり私を甘く見ないことですね。警備兵を1人も配置していないことにより、今彼女達は油断しきっているはず……さぁまとめて一網打尽にして差し上げましょう!」
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“……大丈夫かな、みんな。”
「まぁ大丈夫なんじゃないの?今のところ警備兵の姿も見当たらないし、あとは資料を見つけてヴァルキューレから出てくるだけ。楽勝な任務だったねー。」
「むしろ私は警備兵が1人もいないというのが逆に引っかかるのですが……まるで、油断させて奥へと引きずり込んで逃げ場を潰されているような気がして。」
「考えすぎだって会長代行さん。そもそも相手はあのヴァルキューレだよ?きっと夜勤中で眠いから仮眠してるとかそんなんだって。心配しすぎだよ。」
「……だと良いのですがね。」
(……なんだろう、ものすごく嫌な予感がする。)
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「……念のため近くで待機していてください、ですか。確かに仮にもヴァルキューレの本館に警備兵を1人も配置していないというのは不自然極まりますわね。タツミさんの直感は恐ろしいくらいに鋭いですし……何より、彼の言う事であれば私は喜んで従わせていただくまでです。」
「ウフフ……♡待っていてくださいね私のタツミさん。貴方のワカモが今参りますわ♡」
なんだかきな臭くなってきましたね⋯⋯