転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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ヴァルキューレ内からお送りしております


小隊長の葛藤と丹花タツミ

あれから無事に公安局の資料保管室……もといポイントSへの潜入を果たした俺様とRABBIT小隊の面々は、例のリベートに関する件の資料の創作を行うために手分けして室内の捜索をしていた。

 

「これは直近の警備記録に……こっちは公安局の最近捕まえた犯罪者リスト……うーん、中々見つからないな。」

 

棚から資料を手にとって何枚かパラパラとめくって確認しつつ棚に戻すと言う作業を繰り返してもう数分立つがヴァルキューレとカイザーの取り引きに関する資料は一向に見つかる様子がなかった。

風倉によるとセキュリティを制御できる時間は30分で、そのうちの10分弱はもう使ってしまっているだろうから残された時間はそう多くはない。

一応書面じゃなくてUSBメモリー等のデータで保管してある可能性もあるから解析機も持ってきてるけど、証拠探しに時間をかければかけるほど脱出に使える時間が削られていくわけだからな。

データにせよ書類にせよ早く見つかるといいのだが……

 

「えーっと、公安局公安局……あった、これだ!」

 

そんな事を考えながら資料をひたすら確認していると、反対側の店の捜索をしていた空井から声が上がった。

どうやら例のリベートに関する書類を見つけたらしい。

俺様は手にしていた書類を棚に戻すと、小走りで空井へと駆け寄った。

 

「見つけたのか空井?」

「あぁ。取引先にカイザーインダストリーと記されている。恐らくこれで間違いないだろう。」

「ナイスですサキ。見せてもらえますか?」

 

俺様と同じく駆け寄ってきた月雪がそう言うと、空井は手にしていたトップシークレットと言う赤色の印が押されている茶封筒を月雪へと手渡した。

月雪は手渡された封筒から手早く書類を取り出すと真剣な表情で確認を始めたので、俺様もその中身を確認するために月雪の手にしている書類を覗き込むと……

そこにはやはりヴァルキューレ公安局とカイザーインダストリー間での違法な取り引きに関しての詳細がバッチリと記録されていた。

 

「どうやらこいつで間違いなさそうだな。」

「はい。クローバー……公安局とカイザーインダストリー間における不正な取り引きの証拠を確保しました。」

「先生の言っていた通り、やはり子ウサギタウンの再開発の話が間に噛まされていたようだな。」

 

パラパラと資料をめくって軽く確認するだけでも、まぁ出るわ出るわカイザーの考えている悪どい企みの数々。

子ウサギタウンの再開発と言ってもそれはあくまで表向きの話。実際にやることは子ウサギタウンを取り潰して自分達の工場や商業施設を建てることで、こんなの再開発というよりもほとんど乗っ取りに近いものがある。

しかもこんなもんヴァルキューレを矢面に立たせて立ち退きを執行させて自分達は高みの見物をするようなもんだからな……つくづくカイザーには反吐が出るぜ。

 

「自社の利益のためならばそこに居る住人のことなんて微塵も考えない血も涙もない行動……なるほど、金の亡者であるカイザーの考えそうなことだ。」

 

しかし、これほどまでに子ウサギタウンに住んでいる市民をないがしろにするような契約をいくら財政状況の苦しいヴァルキューレ公安局が高品質な武器を手に入れられるからと言って尾刃局長が受け入れるだろうか?

尾刃局長はRABBIT小隊と一戦交えた時にしか会ったことはないけど、あの厳格な態度の裏には犯罪者を絶対に緩なさいというような強い正義感がある気がした。

と言うか、そもそもヴァルキューレに所属して公安局の局長まで上り詰めている時点で市民を守ると言う警察官として真っ当な考えが備わっていないわけがないはず。

 

少なくとも、俺様が接した限りでは彼女はこんなことに進んで手を出すような裏のある人間には見えない。

そんな彼女がこんな犯罪まがいのことに手を貸すかと言われると、はなはだ疑問ではある。

……となると、逆らうことの出来ないもっと上の上司からの命令で苦渋の決断で行った説が濃厚だろうな。

 

(尾刃局長……)

 

……ちっ、考えただけで胸糞悪い話だ。

カイザーなんて言う金の亡者と手を組むだけでなく、尾刃局長に権限を振りかざして彼女の正義感までをも踏みにじるとは……どうやら、不知火カヤはあの人の良さそうな笑顔の裏にとんでもない物を隠しているようだ。

 

「ひとまず、この資料さえあれば彼女達の動きを止めることが出来そうです。」

「あぁ。それだけじゃなくてこんなものが流出すればカイザーも責任を追わざるを得ないだろうからな。内容が内容なだけに子ウサギタウンの住人たちも黙っちゃいないだろうし、再開発の話も見直されることだろう。」

「これで公安局の奴らにも一泡吹かせられるな!さんざん威張り散らしてくれたからいい気味だ。」

 

空井は愉快そうに笑いながら月雪の手にしている書類を眺めつつそう言った。

正直今回の件に限っては尾刃局長に非があるとは思えないが……まぁこいつもこいつで今まで散々ヴァルキューレにしてやられている事に鬱憤が溜まっているのだろう。

 

しかしこの書類の取り引きのそれぞれの責任者の欄を確認すると、ヴァルキューレ側は尾刃局長の名が記されているものの不知火カヤの名前は載っていない。

それどころか書類自体にそもそも一言も防衛室と言う名前が出てきていないのを見るに……あくまで今回のリベートに関しては尾刃局長が責任者だと言う体なのだろう。

まぁ陰でコソコソ暗殺を企てたり、あれほど用心深くて用意周到な人間がそう簡単に証拠を残してくれるとは思えないけど……これは流石に無理のある話だ。

 

というのも、ここまで大規模な取り引きなら確実に尾刃局長だけの一存で決められることではない。

そりゃ当然だろう。カイザーと取り引きするならば莫大な予算が動くことになるだろうし、そうなった場合あくまで公安局の局長である尾刃局長のみの判断でこんな契約を交わせるわけがない。

ヴァルキューレの運営資金は連邦生徒会から出ているんだから財務室長か……少なくとも、直属の上司である防衛室長の許可は必ず必要になってくるはずだ。

 

……この取り引きの裏にはヴァルキューレの上位組織である防衛室が関わっているのはほぼ間違いないだろう。

この書面の内容を確認して俺様はほぼそう確信した。

そうでなくともこの書類の取り引き内容も不自然なものが多いわけで、このリベートの証拠を不知火カヤへ突きつけて不自然な点を問い詰めていけば名前こそ載っていないものの確実に追い込むことが出来るはずだ。

 

「よし、なら証拠を確保できたしいつまでもここに長居している道理はないな。」

「はい。残り時間が少ない以上はここに留まるのは無意味……迅速にここから撤退するとしましょう。」

 

俺様と月雪はそう言うと、互いに頷き合う。

制限時間30分のうち潜入で10分、資料捜索で10分くらいかかっているからざっくり計算すると俺様達に残された時間はあと10分程度しか無い。

脱出するにしても時間的にかなりギリギリだし、のんびりしている暇は1秒もないだろう。

 

欲を言えばこの部屋を隅から隅まで調べてもっと決定的な証拠……具体的には不知火カヤの名前の載った取り引きの記録でも探してやりたいところだけど、脱出に使える時間を含めて10分しかないのでは到底これ以上この部屋を調べることのできる状況じゃないからな。

そもそも本当に証拠が残っているか分からない中でリベートの決定的証拠を確保できただけでも御の字だ。

この取り引きの書類だけでも充分強力な証拠になるのは間違いないだろう。

後は持って帰った資料を先生や七神代行に確認してもらった上で、どう不知火カヤを詰めるかを考えればいい。

 

さて、そうと決まればうかうかしてはいられない。

とっととここから脱出してシャーレへ……

 

ーガチャン!ー

 

向かおう……と思った瞬間だった。

突如、暗闇に支配された恐ろしいくらい静かな室内に金属製の大きな音が響き渡る。

 

「なんだ!?」

「この音は……まさか……」

 

なんだろう、猛烈に嫌な予感がする。

ひとまず俺様達はその金属製の音を確認するために音のした方へ向かうと……そこには、俺様達の入ってきた巨大な円形の扉がしっかりと人の入り込む隙間無く閉じられている光景が広がっていた。

 

「と、扉が閉まっている……?」

「こいつは一体どういうことだ……?」

 

俺様と月雪は互いに困惑したようにそう呟いた。

と言うのも、入ってくる時の風倉とのやり取りからこの巨大な円形の扉は電子ロック式な事が分かっている。

となると締め切ってしまえばもしかすると内側から空けられる手段も電子ロックを解除するしかないかもしれないので、念のために開けっ放しにしておくように入室の前に俺様と月雪の意見が一致したので空けておいたはずなんだが……どう考えても目の前の扉は閉まっている。

 

「あ、あのねミヤコちゃんにタツミくん。私、みんなが資料を確認している時に念のために扉を見張ってたんだけど……皆がこっちに来る直前で、外から誰かがこの扉を閉めてちゃったみたいで……」

 

そんな事を考えていると、目の涙を浮かべ半泣きになった霞沢がオドオドとした様子でそう言った。

 

「そんな馬鹿な、だってミユもここへ来るまでに警備が人っ子一人いないのを見ただろ?一体誰が外から扉を閉めるんだよ。お前が閉めてしまっただけなのを誤魔化しているんじゃないのか?」

「いや、彼女の様子を見るに嘘はいっていないと思うぞ空井。そもそも霞沢だって入室する時に扉を閉めるなって指示は聞いているはずだからな。」

 

そもそも今更だがこの円形のドアの内側にはドアノブが付いていないようだし、一度閉じてしまうと内側から開けるのは難しそうな構造になっているのに気づいた。

となるとそれを扉を見張っていた霞沢が気づかないわけないし、彼女が自ら閉めた可能性はゼロだろう。

 

……思えば、ヴァルキューレへ潜入した時からところどころで違和感は感じていた。

本部だと言うのに1人も見当たらない警備、警備だけじゃなくて夜勤が組まれているにも関わらず事務仕事をしている生徒の気配すらしない不自然なまでに静かな館内。

そして俺様達の今いるここ、公安局の資料保管室はヴァルキューレの地下3F……これらを総合して考えると……

 

(罠だった……と見るのが妥当だろうな。)

 

警備が1人もいないのは、俺様達の警戒心を緩めて油断を誘うため。不自然なまでに館内が静かなのは、戦闘に備えて非戦闘要因をどこかに避難させているため。

そうやって何も知らずにノコノコやって来た俺様達をここへ閉じ込め袋の鼠にするためと考えれば辻褄が合う。

 

ここはヴァルキューレの地下3階だ。

つまり地上へ脱出するには3階層も上に上がっていかなければならないこの本館の最深部だし、ここに閉じ込められてしまえば脱出は困難を極めるだろう。

仮に扉が閉じられたこの部屋から出られたとて脱出経路をガチガチに固められれば突破は困難だし……なるほど、さしずめ今の俺様達は餌につられて罠にかかっちまった哀れなウサギとでも言うべきだろうか。

 

どこで情報が漏れたのかは定かではないけど、あの用心深い不知火カヤのことだ。

恐らくFOX小隊を使って連邦生徒会内なり子ウサギ公園なりのどこかしらで話をしている俺様達の計画を知ってこんな罠を打ってきたのだろう。

連邦生徒会の会長室は完全防音仕様だから……あり得るとすれば子ウサギ公園での会話を聞かれていた可能性が高いが、いずれにせよ迂闊だったと言わざるを得ない。

くそっ、こんなことなら子ウサギ公園で会話をせずに一旦シャーレにこいつらを連れて行くべきだったが……あまり時間もなくて焦っていたのが裏目に出ちまったか。

 

「……別に閉められたなら開ければ良くないか?」

「良く見ろ空井。そのドアにドアノブはない。つまり開けるためにはもう一回電子ロックを解除する必要があるだろうな。」

「はぁ!?じゃあどうするんだよ!?」

「そりゃもう一度風倉に頼むしか無いだろうよ。月雪、すまないが風倉にもう一回頼んでもらえるか?」

 

声を荒げる空井を諌めつつ、月雪にそう問いかける。

 

「っ……!」

(……ん?)

 

俺様がそんな事を考えていると、ふとトランシーバーを握りしめた月雪が焦ったような表情を浮かべているのが目に入った。

 

「……どうした月雪。何かあったのか?」

「いえ、それがその……先程から何度も通信を試みているのですが、どうやら電波妨害を食らっているようで一向に支援班への連絡が取れないのです。」

「なんだって……!?」

 

その言葉を聞いた俺様は慌てて自分のスマホを取り出すが、右上の普段なら通信状況を示すアンテナマークが圏外の二文字になっているのを確認した。

 

なるほど。

警備をあえて置かずに俺様達を最深部まで誘い込み、扉を閉じて閉じ込めた上で外部との通信を遮断された……

つまり、今俺様達は敵地で完全に孤立させられてしまった上に恐らく包囲もされてしまったという事になる。

 

(ちぃ……やってくれるな……!)

 

さて……こうなった以上もうセキュリティの制御の効く30分以内の脱出は不可能だろうから、見つかることを前提として戦闘の準備をしておいた方が良さそうだ。

そもそも俺様達を閉じ込めたってことはヴァルキューレは俺様達を外へ逃がすつもりはない。ここで犯罪者として拘束して真実を闇へと葬ってしまうつもりだろう。

 

恐らく館内には気づかなかっただけで相当の数の公安局の兵士が待機しているだろうし、今こうしている間にも着実に戦闘の準備を進めているはずだ。

そもそも外から誰かが扉を締めてここへ俺様達を閉じ込めたとしたら扉が空いたところで外で敵が出待ちしている可能性もあるし……いずれにせよ、ここまで来たら戦わずにヴァルキューレを脱出するのは不可能だろう。

くそ、やってくれるな不知火カヤ……!

 

「通信妨害か、そいつはかなりマズいな……」

「……状況から察するに罠だったのでしょうね。私達をここへ誘い込み、袋の鼠にするための。」

「あぁ、だろうな。なにはともあれひとまず戦闘の準備をした方が良いのは間違いなさそうだ。」

 

俺様は折り畳みシールドを展開し、ブークリエのマガジンとチャンバーのチェックを行いつつそう発言する。

しかし月雪の奴、俺様が何も説明しなくてもこの状況が罠だと見抜くとは……やっぱり流石隊長なだけはある。

この状況になってもあまり動じておらず冷静だし次のプランを練っているように見える辺り……こいつが何故この小隊の隊長を務めているのかが分かった気がするよ。

 

「罠だって!?くそっ!馬鹿にしてくれるな……!」

「ご、ごめんねみんな……私がもっとちゃんと扉を見ていれば……やっぱり私なんか、SRTに入るべきじゃ……怖がってばっかりで……みんなの足を引っ張って……」

「ミユ、そんな事を言わないでください。狙撃手が奥内行動に慣れていないのは仕方ありません。むしろそれを考慮できていなかった私の落ち度です。」

「そうだぞ霞沢、むしろお前はそん中でも扉を見張るって言う役割をしっかりこなしてくれてたじゃないか。警備が1人もいなければ油断しちまうし、俺様だって正直どこか慢心してた。お前だけが悪いんじゃないんだからそんな自分を責めるな。」

 

俺様はそう言って半泣きになって謝る霞沢の頭に手のひらを置くと、そのまま左右に動かして頭を撫でてやる。

霞沢は最初は肩を震わせていたが、やがて制服の袖で目元の涙を拭うと徐々に震えも収まっていった。

 

「えへへ……うん、ありがとう二人とも。」

「いえ、それに状況的にこれから脱出するに当たって戦闘は避けられません。なのでミユの狙撃での援護は私達に必ず必要になります。期待していますよ。」

「うん、分かった。頑張るね……!」

 

そう言うと、握りこぶしを作って胸元に持っていきながら力強く総宣言する霞沢。

その瞳には光が宿っており、先程までの半泣きのオドオドとした表情とは違いどこか頼もしさを感じられた。

よし、どうやら落ち着いてくれたみたいだ。

この分ならもう大丈夫だろう。

 

「あと月雪。別にお前の落ち度でも無いと思うぞ。俺様だってもっと考慮してりゃ良かったんだから。」

「……下手なフォローは要りませんよ。」

「フォローじゃねぇよ、俺様は事実を言っただけだ。」

「……お気持ちだけ受け取っておきます。」

 

俺様がそう言うと、月雪は相変わらずの仏頂面で一言そう言って重々しい鉄の扉へと向き直る。

と言うかどうでもいいけどさっきから俺様の手のひらに霞沢が頭をグリグリ押し付けてきてるんだが……涙も止まったようだし、そろそろ手を離してもいいだろうか。

 

「しかしどうするんだ?さっき私が言ったように無理矢理扉をぶち抜いて脱出するか?」

「こうなった以上俺様達の存在はバレてるだろうから大きな音を立てても問題はない。爆薬でもあれば話は別だろうが……生憎小銃じゃ厳しいだろうな。」

「くそっ……おいミヤコ!」

 

空井は扉の前で難しい表情をしている月雪に詰め寄っていくと、彼女へ向けて声をかける。

 

「お前、仮にも小隊長なんだろ?何かこの場を打開できるいい方法はないのか?」

 

空井の表情には明確な焦りが浮かんでおり、早くなんとかしなければと言う思いがかなり先走っているようだ。

まぁ無理もない。この状況が罠だって分かれば普通は空井や霞沢のように取り乱してしまうのが当たり前で、比較的冷静な俺様や月雪は例外と言っても良い。

 

……とは言え、あれは流石に焦りすぎだ。

空井も実力は確かなんだからもう少し落ち着きと柔軟性さえあればもっと強くなれるのに勿体ない……って今はそんな事を考えている場合ではないな。

 

「お、落ち着いてくださいサキ……」

「これが落ち着いていられるか!もう時間はほとんど残ってないんだぞ!悔しいけど、私はこんな状況教本には載ってなかったからどうすればいいのか分からない!だから……今はお前だけが頼りなんだミヤコ!」

「っ……!」

 

空井の言葉を聞き、月雪の表情が曇る。

 

「頼むミヤコ。こんな虫の良い事を言うのはどうかと思うけど……考えてくれ。この状況を打破してくれ。」

 

そう言うと、空井はがっくりとその場でうなだれる。

……空井も空井で恐らく相当な無力感を感じているのだろう。こいつは口こそ悪いけど、根っこは律儀かつ超が付くほどに真面目な奴なのは知っているからな。

 

「サキ……私は……」

 

空井の姿を見て、月雪は体を小刻みに震わせながら握りこぶしを作ってそれを顔の前へと持ってくる。

 

「ミヤコちゃん……」

 

そんな月雪の姿を見て霞沢は心配そうに声を上げた。

……恐らくだけど、今の月雪は隊員からの悲痛な叫びを受けて自分がこの場をなんとかしなければならないと言う責任感とプレッシャーを感じているのだろう。

 

この状況を打開しないといけない。

部下の期待に応えなければならない。

何かあればその責任は全て自分が負うことになる。

 

……その気持ちは俺様にもよく分かる。

俺様はこれでも今はゲヘナの議長代理だ。下から期待される重圧とプレッシャーは何よりも理解している。

 

「月雪。正直この状況は俺様も苦しいと思うが皆で策を出し合えばきっとなんとかなるはずだ。こっちでも打開策を考えてみるが……お前から何か良い作戦はあるか?」

 

そう思った俺様は、霞沢の頭から手を離して月雪の正面へと移動すると彼女の目を見ながら暗に1人で悩む必要はないんだぞと言う意味を込めてそんな言葉を口にした。

 

『タツミさん……1人でなんでも抱え込むのはタツミさんの悪い癖ですよ?』

 

いつかワカモに言われた言葉が脳裏をよぎる。

……なんだろうな。目の前で隊長としての責任と戦って全てを自分でなんとかしようとしている月雪の姿は……

 

どこぞのお節介な自己犠牲野郎と重なった。

 

「ミヤコ……」

「ミヤコちゃん……」

「……おい、大丈夫か月雪?」

「わ、私は……」

 

霞沢も空井も俺様と同様に月雪に声をかけると、月雪はそんな俺様達の表情を1人1人確認したあとで……突然視線を床に落とし、自信なさげに語り始めた。

 

「思えばSRTを離れて以来、私が指揮をした作戦は全部失敗しています。公園の時も、キャンプが浸水した時も……私には先生みたいな戦術眼も統率力も……そしてタツミさんのような何事にも動じない強靭な精神力もない。この状況で……私に一体何が出来るのでしょうか……?」

 

そう言うと月雪は俺様へその濁った視線を向けてくる。

その瞳からは……自信、と言う二文字が消失していた。

 

(くっ……この状況でこれはマズい……!)




実際1年生で隊長を務めるのはかなりの重圧だと思います
タツミ?彼はまぁ……うん
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