転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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今回は少し短めです


小隊長の決意と丹花タツミ

「この状況、私にはどうすることも出来ません。仮に先生がこの場にいれば、どうにか出来たかもしれませんけど……私一人では何も出来ません……!」

 

静かな室内に響き渡る、悲痛な月雪の心の叫び。

その表情は不安一色に染まっており、目に見えて今のが彼女が自信を失っていることが見て取れる。

 

「私は先生とは違います。優れた戦術眼も統率力も何もない……!仮にあったとして、今の私にはもう何も分からないんです……!」

「ミヤコ……」

「ミヤコちゃん……」

「月雪……」

「私だけでは何も出来ません!私は……私は、他ならぬ私自身を信じられないんです……!」

 

そう言うと、月雪はその場で目尻に涙を溜めながら苦しそうな声で叫んだ。

……恐らく、月雪は隊長として自分がこの状況をなんとかしなければならないと言う自責の念と自分にはそれは荷が重いという気持ちで精神が不安定な状態なのだろう。

 

その気持ちは痛いほど理解できる。

何故なら俺様は今のゲヘナの議長代理……厳密に言えば立場は違うけど、人の上に立って部下に指示を与えて動かす立場だと言うことに変わりはない。

 

その重圧はとんでもないものだ。

日々周囲から課せられるプレッシャー、何かあった時の全面的な責任等……苦労することなんて数え切れない。

 

だから俺様だって何度も心が折れかけた。

何度も挫けそうになった……目の前の月雪のように。

 

けど、俺様は一人じゃなかった。

万魔殿のみんな、そして頼りになる部下達が居たからこそ彼女達を信じて頼ってここまでやって来れたんだ。

俺様1人では到底成し遂げられなかっただろう。

そして月雪にだって俺様と同じく頼れる部下達が今この場に2人……いや、3人いるじゃないか。

 

なるほど、月雪の姿を見て少し分かった気がする。

万魔殿のみんなやワカモがあれほど口酸っぱく俺様に対して【周りに頼れ】と言ってきていた理由が。

 

1人で抱え込むな。お前は1人じゃない。

責任や不安は皆で少しづつ分け合って背負えば良い。

要はそういうことなのだろう。

……目の前で1人で解決しようと悩んでいる月雪を見てそれを自覚することになるとは、なんとも皮肉な話だが。

 

「落ち着け月雪。」

 

なにはともあれ、俺様達の置かれている状況は最悪だ。

今から嫌でも戦闘が想定される以上、月雪をこのままにしておくわけには行かないだろう。

そう思った俺様は月雪の正面へ立つと、彼女と目を合わせて優しい声でそう語りかける。

 

「お前の気持ちはよく分かる。俺様だって規模は違えど上に立つ立場の人間だ。お前が今感じているプレッシャーや責任感は痛いほど理解できるものだ。」

「タツミさん……」

「……ただ、現状としては時間がないのも事実だ。まず何か策があれば聞かせてもらえないか?」

 

そう、ここで自身を失って悩んでいる月雪にハッパをかけなければならないのは山々だがそれはそれとしてこうしている間にも恐らくヴァルキューレ公安局は俺様達の包囲を着々と進めているはずだ。

本来ならしっかりと丁寧に時間をかけてケアすべきことだけど、今の俺様達には時間がないのも事実だからな。

 

「作戦は……あるにはあるのですが……」

 

そんな事を考えていると、月雪は目を伏せながらぼそぼそと独り言を呟くそうにそう発言した。

 

「なんだ、あるんじゃないか。それだけ悩むんだからもしかしたら万事窮すなのかと思って心配したぜ。なら話は早い。是非その作戦とやらを聞かせてくれよ。」

「……ですが、先程も言ったように私は先生のような圧倒的な指揮能力があるわけではありません。今思いついた作戦だって不確実で穴の多いものであることも事実……そんな危うい作戦にみんなの命を掛けるわけには……」

 

そう言うと、両手を握りしめて地面に視線を落としながら震える声でそう言う月雪。

 

「月雪。確かにお前に先生みたいな戦況をひっくり返しちまうような圧倒的な指揮能力はねぇ。それは俺様もお前と同じ意見で、まったく同感だ。」

「……容赦ありませんが、やはりそうですよね。」

「あぁ。ただ……その頼みの綱である先生に頼ろうにも今は通信を妨害されていて連絡が取れない状態だ。なら今この場にいる俺様達でなんとかするしかないだろ。こうなった以上、もう腹をくくるしか無い。」

「それは……そうですが……」

「大丈夫だ。確かに先生には及ばないだろうけど、お前だってSRTの厳しい入学試験をくぐり抜けたうえで地獄のような訓練を受けてきたエリートの中のエリートだ。そして、お前はそんなエリート部隊の隊長としてここに立っているんだぜ。それに小隊の隊長の仕事は部下に指示を与えて任務を遂行することなんじゃないのか?」

 

俺様はそんな月雪の顔を覗き込んで真っ直ぐに目を見ると、しっかりと彼女へ届くように言葉を紡いでいく。

 

「だからもっと胸を張れ月雪。この任務中、俺様達の隊長はお前なんだ。俺様達が指揮を受けるべきなのはお前であって先生じゃない。だから堂々としてろ。堂々と命令しろ。迷っている隊長に部下は付いていかない。失敗してもいい。間違えってたっていい。上に立つ者として一番大切なのは堂々と指示をすることだ。」

 

そう、上に立つ立場の者ならば部下の前で不安な素振りや迷っている素振りを見せてはならない。

むしろピンチのときほど堂々と胸を張らないとダメ。

自信のない上司に部下は決して付いていかない。

 

全部、俺様が羽沼議長から教わったことだ。

 

「堂々と……胸を張る……」

「あぁそうだ。いきなりそんなこと言われても難しいのは分かってるぜ?俺様だって最初は苦労したからな。」

 

俺様は自分でいうのもなんだがまだ1年生だ。

そんな奴が経験豊富な先輩に偉そうに指示を出してもいいのだろうかと言う不安や葛藤もあったが……実際に羽沼議長の言っていることは正解だったからな。

他の学園ではいざ知らず、少なくともゲヘナは力のあるものが正義。優柔不断ではゲヘナを引っ張って統治するのは到底不可能だ。

正直今でも何度だって挫けそうになるが、それでも俺様は仲間の助けを借りながらなんとかやっているからな。

 

「なーに、道中何があっても最後になんとかなればそれでいいんだ。終わりよければ全て良しって言うだろ?それにお前には頼りになるRABBIT小隊の隊員たちが付いてんじゃねぇか。だから1人で抱え込むな。もっと皆に頼りゃいいんだよ。」

 

……まったく、危険に巻き込まないようにって万魔殿の皆に今回の件を黙っているどの口が言ってるんだろうな。

こんなこと俺様の口から言えた義理じゃないのは分かっているけど……今だけは許してくれ、みんな。

 

「先生がどれだけ凄かろうが関係ない。今の俺様達の隊長は月雪ミヤコ、お前だけなんだからな。」

 

俺様がそう言うと、月雪はハッとしたような表情で俺様の事を見つめてくる。

その瞳には徐々に光が宿ってきているような気がした。

 

「だから俺様はお前の指示に従う。安心しろ、お前は自分で思ってるより優秀なやつだ。それは子ウサギタウンの住人から受け入れられていることからも普段はなんやかんや憎まれ口を叩いているRABBIT小隊の連中から信頼されていることからも伝わってくるし、最初に俺様がお前たちと子ウサギ公園で一戦交えた時だってお前の指示が空井や風倉にきちんと通っていたらあの勝負だってどう転ぶか分からなかっただろうさ。」

 

それにこいつの指揮能力は自分に匹敵するほどすごいと先生も大絶賛していたからな……頭が硬そうに見えて意外と柔軟なことを考えても、指揮官にはうってつけだ。

 

「自信がなくてもいい。穴だらけでもいい。いいからその作戦を俺様達に話せ。そして最後に【私を信じろ】って言えば良いんだよ。お前は隊長なんだから。」

「私が……隊長……だから……?」

「あぁ、だから安心しろ。どんな無茶な命令だろうがこの俺様がいる限りはお前達には弾丸一つ通さねぇし、指一本触れさせるつもりはねぇ。今の俺様はゲヘナ学園の議長代理じゃない、RABBIT小隊の隊員だ。遠慮なく使ってもらって構わない。それにお前の部下達だって多少無茶な作戦をこなせないほどやわじゃない……そうだろ?」

 

俺様は盾をコンコンと拳で叩きながらニッと不敵な笑みを浮かべると、それに釣られたように空井が一歩前へ出てくると銃を構えながら声を張り上げる。

 

「そうだぞミヤコ!私を見くびらないでもらおうか!無茶な命令の一つや二つ、SRTに入った時から受ける覚悟はとっくに出来ている!そんな度胸もなしに私はここに立っちゃいない!」

「サキ……」

「そもそもなんだお前は!まさかタツミの言うように今回の責任が自分にあると思ってるんじゃないだろうな?そんなことあるわけないだろ。落ち度があるとすれば今回はRABBIT小隊全員の責任だ。仮とは言え、小隊長に全責任を押しつけるほど私は無責任じゃないぞ!」

 

そう言うと、月雪の背中を気合いを注入するかのごとくバシンと叩く空井。

そんな彼女の姿を見ておずおずと、それでいって瞳にはしっかりとした決意を乗せた霞沢が前へ出てくる。

 

「ミヤコちゃん。確かにこの状況は絶望的だけど……きっとミヤコちゃんと一緒なら何とかなる気がするんだ。もし私1人なら、もうダメだっていつもみたいに投げ出していただろうけど……みんなと一緒なら、きっとなんとかなる。そんな気がする……!だから私も頑張るから、ミヤコちゃんも一緒に頑張ろう……!」

「ミユ……」

「そ、それに今は通信妨害されているけどモエちゃんだってこの場に居たらきっとサキちゃんや私と同じ事を言っていたと思うよ……!だから安心して……!」

 

ぎこちないながらも月雪を安心させるような笑顔を浮かべつつ、優しい口調でそう言う霞沢。

そんな信頼する隊員達の声を受け、月雪の濁っていた瞳に輝きが戻っていく。

 

「ハッ、頼もしい部下達じゃないか。ま……そう言う訳だからいっちょよろしく頼むぜ、月雪小隊長!」

 

そう言うと、俺様は月雪へ向けて親指を立てる。

月雪はしばし俺様達3人を見渡しながらまぶたをぱちぱちと閉じると……やがてふっと笑みを浮かべる。

 

「……そうですね。貴方達の言うとおりです。サキ、ミユ。何も私1人で抱え込む必要はない……私には頼れる隊員たちが居るのですから。」

「た、頼れる隊員……えへへ、褒められちゃった。」

「……なんだか改めてお前からそう言われると照れくさいな。というかしれっと隊長面してるけどあくまでこの状況だから仕方なく認めてるだけだからな!私はまだお前を隊長だと認めるつもりはないぞミヤコ!」

「ふふっ、そうですね。それでは貴方に認めてもらえるようにしっかりと頑張らなければ。」

 

先程までとは違い、和やかな雰囲気で月雪達3人は顔を見合わせて笑顔を浮かべつつそんな遣り取りをする。

そしてやがて月雪はこちらへ視線をよこしてきたかと思うと、そのまま俺様の前までやって来て口を開いた。

 

「……貴方にはほとほと呆れました。まさか作戦に自信がなくても堂々と命令を下せなど……穴の多い危うい作戦は任務の失敗に直結するだけでなく、部下の命を危険にさらす行為でもあります。それを胸を張って自信満々に命令しろなど……やはり貴方は変な人ですね。これがSRTの入試試験なら貴方は速攻で失格ですよ?」

「おいおい、俺様はお前を励ましたつもりなのにひどい言い草だな……」

「事実を言っているだけですからね。……ですが、おかげ様で覚悟は決まりました。」

 

そう言うと、月雪は言葉通り覚悟の決まったような表情を浮かべるとその瞳に決意を宿らせそう言葉を発する。

……いい表情になったじゃないか。

この分ならもう心配する必要はなさそうだ。

 

「なので、その点だけは感謝しています。二度は言いません……ありがとうございます、タツミさん。」

 

軽くその場でぺこりと頭を下げる月雪。

そして、頭を上げた彼女の表情は……今までで俺様が見た中でも一番と言っていいほどの笑顔を携えていた。

 

「おう、お安い御用だ。月雪小隊長。」

 

うんうん、やっぱり女の子には泣き顔よりも笑顔のほうが何倍も……いや、何百倍も似合うってもんだ。

 

「先程は見苦しい所をお見せしてしまってすみませんでした。もう大丈夫です。それでは改めて、今から作戦の概要を説明します。この先指示に気になる点も出てくるかもしれませんが……どうか迷わず従ってください。」

 

月雪は俺様達へ向き直ると、一瞬で柔らかな笑顔から真剣な表情へ切り替えると力強くそう言った。

その口調に迷いはない。

 

「状況はよくありません。この先いくつも困難があるでしょう。それでも……どうにかこのクローバーを持って私達の居場所へ帰りましょう!」

「了解!やってやるさ!」

「う、うん……!」

「あぁ、任せておけ!」

 

自身に満ちた表情でそう宣言する月雪。

やる気満々の空井、怖がりつつ勇気を振り絞る霞沢。

正直、状況だけ見れば絶望的だ。

だけど……今のこいつらと一緒ならばどんな困難だって乗り越えていける。そんな気がするのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……マズいね。通信妨害を食らってるみたいで一向にミヤコ達と通信が繋がらない。それどころかセキュリティへの侵入もかなり難しいプログラムに置き換えられているし……あーもう!簡単な任務だったはずなのに!」

“お、落ち着いてモエ……とにかく、まずはミヤコ達を救出することを優先して動こう。”

「しかし救出すると言ってもいくらヴァルキューレが不正を働いているからと言って、現時点では証拠を公開できていない以上各学園に応援を頼んでヴァルキューレへ乗り込むことは不可能ですし……ですがこのままタツミ議長代理達が捕まれば真実は闇に葬られてしまいます。一体どうすれば……」

 

“……ひとまずアイデアを考えるしか無さそうだね。モエ、厳しいとは思うけどヴァルキューレへのシステムの潜入をお願い出来るかな?ミヤコ達との通信が回復するだけでも状況はかなり変わると思うから。”

「了解!やってやろうじゃん!ちょっと時間はかかると思うけど、この程度のシステムなんて私の敵じゃないってことをあのギザ歯の局長に思い知らせてやる!」

“うん、お願いね。”

「タツミ議長代理……くっ、この事が罠だと事前に気づいていればこのようなことには……!」

“リンちゃんのせいじゃない。私だってヴァルキューレの館内に警備が居ないことを不審に思いつつも引き返させずに作戦を続行させてしまったし、今回の全責任は私にある。何か責任を問われれば私がこの身を持ってミヤコ達やタツミを守ってみせる。だから、今は考えよう。タツミ達を救出する方法を。”

「……はい。分かりました。ここでくよくよしていても仕方ありませんものね。」

 

(“とは言ったものの、状況はかなり苦しい。なんとかモエに頑張ってもらって通信を回復させて私が彼女達に指示を出すくらいしか現時点では思いつかないけど……”)

「タツミ議長代理……どうかご無事で……」

(“……リンちゃんのためにもタツミのためにも、そしてミヤコ達のためにもここで私が悩んでいる暇はない。今回の件の責任は私にある⋯⋯なんとかしないと。”)

 

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「何やら署内が騒がしいですわね。しきりに公安局の生徒らしき者たちが慌ただしく行ったり来たりしていますし……タツミさんには何かあった時のために待機しておいて欲しいと言われておりますが、嫌な予感がします。」

 

「……タツミさんからのメッセージには【緊急時の判断はお前に任せる】とありました。先程からタツミさんにメッセージを送ってもいつもなら10分以内には返答があるのに一向に帰ってくる様子がありませんし……これは緊急事態だと見ていいでしょうね。」

 

「ウフフ。そういうことでしたら容赦は致しません。待っていてくださいねタツミさん、貴方のワカモが今お迎えに参りますわ♡」




次回、RABBIT小隊VSヴァルキューレ公安局です
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