ご了承ください
「それでは皆さん、作戦通りにお願いします。」
「了解、位置に付いた。いつでも行ける。」
あれから手早く月雪からの作戦の概要についての説明を受けた俺様達は、作戦通りのフォーメーションを組んでそれぞれがそれぞれの持ち場へ移動し待機していた。
月雪から指示された内容はいたってシンプル。
【現状この資料保管室を包囲するようにヴァルキューレ公安局が守りを固めているだろうから、拘束するために外から保管庫の扉を向こうが開けてきた所を強襲して無力化。そのまま包囲網を突破し撤退する】というもの。
まぁ要は早い話が真正面からのゴリ押しである。
これがもし俺様達の侵入がバレていない状態であれば警報をわざと鳴らして外から扉を開けさせるという手もあったけど、どう考えても扉を閉じられている以上はこちらの侵入は察知されているだろうからな。
今更警報を鳴らしても何の意味もないだろうし。
そんな事を考えつつ、俺様は盾の後ろに身を隠しながらブークリエのチャージングハンドルを軽く引いてチャンバーに弾丸が送り込まれているかを確認する。
「フン、カイザー製の武器だかなんだか知らないが高性能な武器を手にしただけで強くなれる程甘くはない。慢心中のヴァルキューレの連中に一泡吹かせてやる!」
そんな俺様の反対側では、愛銃であるRABBIT‐26式機関銃にマガジンを差し込みながら空井がそう息巻く。
彼女の所持している機関銃はいわゆるライトマシンガンと言う奴であり、マガジン内に込められる弾丸の数が非常に多いことで知られている種類の銃だ。
そしてその数に物を言わせて弾幕を張りまくり、敵の牽制と火力を出力するのが持ち手の役割でもある。
なるほど、小隊の中で一番前のポジションを務めるポイントマンである空井にピッタリの銃だ。
とは言えSRT製の武器はカイザー製のものと同様高品質なわりに整備が難しかったり、パーツが繊細だからこその動作不良や弾づまりが多いことでも知られているのだが……まぁ空井がそんなヘマをするわけがないしな。
「そいつは頼もしいな空井。隣は任せたぜ?」
「お前こそ、私の足を引っ張るんじゃないぞタツミ!」
「おいおい誰に物を言ってるんだ?この俺様が居る限りお前達には銃弾の一発さえ通したりはしねぇよ。」
好戦的な笑みを浮かべながらそう言う空井に対し、俺様は歯を見せて笑いながら盾をコンコンと叩く。
「大した自信だな……だがまぁ、お前のその異常なまでの盾を使った防御の上手さは一回戦って身に沁みて分かってる。だから悔しいけど頼りにはしてるからなタツミ!」
「あれ、さっきは足を引っ張るんじゃないぞとか言ってなかったかお前?」
「う、うるさいな!細かいことはどうでもいいだろ!」
「ははは、冗談だよ冗談。」
ムキーッと言うような表情でまくしたてる空井に対し、俺様は軽く笑みを浮かべながらそう応えた。
なお月雪から指示されたフォーメーションだが、まずこの資料保管室を閉ざしている金属製の扉の両脇にポイントマンである空井と前衛である俺様が位置する。
扉の正面には室内の棚を総動員して作った簡易バリケードを築きそこへ月雪が、そしてその更に後ろの棚の裏に狙撃手である霞沢が構えるという形になっている。
こうすることにより、包囲が完了して俺様達を制圧するために扉を開けて踏み込んできたヴァルキューレ公安局の連中を両サイドの俺様と空井が強襲。
連中が多少なりとも混乱したところで霞沢が狙撃で仕留めていき、月雪が戦況を見ながら都度指示を出しつつ自身も銃撃での援護に回る事が出来るというわけだな。
いやはやしかし月雪の奴、あんなにも自信を喪失した状態で考えついた作戦だけど……
いや、作戦は厳密には正面突破だから置いておくとしてこのフォーメーションだけど現状の俺様達の能力とバランスを考えると最も理に適っていると言っていいだろう。
自分では先生に到底及ばないと言っているものの、俺様っていう臨時の隊員を抱えつつ緊急時にこのフォーメーションを組めるのは大したもんだ。
チラリと月雪の様子を横目で伺うと表情こそ緊張しているものの、先程までの臆病な彼女の姿はどこにもない。
そこには瞳に確かな覚悟を宿し、決意のこもった目で固く閉じた扉を睨む1人の小隊長の姿があった。
(……頼りがいのある姿になったな、月雪。)
あの様子だともう大丈夫だろう。
更にその後ろに位置する霞沢も獲物であるRABBIT‐39式小銃を握りしめ、スコープを真剣な顔で覗いている。
その表情は普段のオドオドした彼女からは考えつかないほどに鋭く、まさにSRTの狙撃手と言った感じだ。
俺様も子ウサギ公園で霞沢と戦った時に感じたけど、彼女の狙撃術はかなりのレベルに達している。
狙撃の腕だけで言えばトリニティの羽川先輩や、アリウススクワッドの槌永にも何ら見劣りしないものを持っているし……更に本人にとってはコンプレックスの存在感のうすさも、敵に回せばどこから撃たれているか分からないという精神的プレッシャーを与える大きな武器だ。
彼女の狙撃での援護がなければ俺様だって空井だって数の暴力に押しつぶされて終わってしまうだろうから、彼女がやる気になってくれているのは非常に頼もしい。
(……さてと。)
俺様はそんな事を考えつつ、鋼鉄の扉へ再び視線をやるとマガジンポーチの中のマガジンや腰に差したマチェット等をチェックしていつ接敵しても良い準備を整える。
俺様達がここへ閉じ込められてから体感でそろそろ30分が経過しているし、いくらヴァルキューレと言えど流石にそれだけあれば包囲網を敷ききるのは可能だろう。
となると、仕掛けてくるとすれば……
ーガチャン!ー
そろそろか……と言おうとした瞬間だった。
突如、目の前の金属製の扉から重い金属音が響き渡る。
「……っ!」
その音を聞き、俺様達四人は息を呑む。
そして誰からでもなく全員がお互いがお互いに顔を見合わせると、その場で大きく頷いた。
「さて、敵さんがおいでなすったようだな。」
盾の上部分から目だけを出し、扉の様子を伺う。
気がつけば、俺様はブークリエのグリップ部分を握っている右手にかなりの力を込めていた。
……やはりリラックスしているつもりではいても、今から戦闘を行うとなると緊張感は一気に高まるものだ。
戦いに慣れたとは言え、今でもそれは変わる事はない。
「上等だ。1人残らず叩きのめしてやる。」
「し、しっかりしないと……!」
俺様はブークリエのセーフティを解除して盾の上から扉へ銃口を向けつつそう言うと、俺様に続けて空井と霞沢はそんな言葉を口にする。
心なしか、その声にはは少し震えが含まれていた。
……なるほど。SRTに所属する彼女達と言えど戦闘の前に緊張するのは俺様と同じみたいだな。
その姿に少しばかりの安心感を覚えながら、俺様はブークリエを構えて扉を注視し続ける。
「皆さん、まもなく接敵です。状況が苦しいので焦りはあると思いますが、どうか冷静に行動して下さい。」
「あぁ、了解!」
「おう!任せとけ!」
「う、うん……!分かった……!」
月雪の指示に俺様達が頷くと、その瞬間目の前の扉が重たい金属音を立てながらゆっくりと動き始める。
俺様はそれを確認すると扉の死角になる位置へとポジションを少し移動させると、ブークリエのトリガーにゆっくりと人差し指を添えつつジリジリと扉へにじり寄る。
徐々に扉が開き、薄暗い室内に外の廊下の蛍光灯の光が差し込んで室内を照らしていった……その時だった。
室内に差し込んだ光が、廊下の向こうから室内へ侵入しようとしているヴァルキューレの生徒の陰を映し出す。
「……っ!RABBIT2!」
瞬間、月雪の指示が飛ぶ。
「了解!閃光弾行くぞっ!」
空井は合図を受けるとすぐさま腰に下げていた閃光弾のピンを引き抜いて安全レバーを外す。
カシン!と言う音ともに安全装置の外れたそれを、空井は扉の隙間へ向かって下手投げで放り込んだ。
「うわぁ!?なんだ!?」
「まずい閃光弾だ!総員すぐに目と耳を……!!!」
扉の向こうからヴァルキューレの生徒たちの慌てた声が聞こえてくるが……もう遅い。
空井の放り投げた閃光弾はそのままヴァルキューレの生徒達の間へと転がっていくと、その中心で爆発した。
ードガァァァァァンッ!!!ー
刹那、耳をふさいでいても脳を揺さぶられるようなすさまじい爆音と盾に身を隠していても目のチカチカするような強烈な光が扉の向こうで炸裂する。
「うわぁぁぁ!目が!目が見えない!」
「耳がぁぁ!何も聞こえないぞ!?」
続いて、扉の向こうからは完全に油断しているところに強烈な音と光を叩き込まれたヴァルキューレ公安局の生徒達が大声を上げ始めた。
作戦では室内へ踏み込んできたヴァルキューレに強襲をかける予定だったものの、敵は閃光弾を食らって怯んでいる状況だ。
ならば、ここは突撃した方が戦況を打開できると見た。
俺様は瞑っていた目を開けて耳を塞いでいた手をどけ、クラクラする頭を月雪へ向ける。
「RABBIT1、敵は怯んでる!今が好機だ!突撃許可をくれ!」
「分かりました、許可します!RABBIT2はその後ろから彼の援護を!私とRABBIT4は30秒後に続きます!」
「了解!よし、行くぞRABBIT2!」
「あぁ分かった!」
月雪の指示を受けた俺様は彼女に首を縦に振って、そのままドアへ近寄ると……
「オラァァァ!!!」
そのまま、開きかけていた扉に思いっきり手にしていた盾をぶりかぶって叩きつけた。
突然金属の塊で殴られた扉はそのまま音を立てながら勢い良く開くと、扉の前で突入のために待機していた公安局の生徒を何人か巻き込んでいく。
「くそっ!みんな敵襲だ!総員銃を……!」
「悪いがこちとら目も耳も潰れているような連中に遅れを取ったりはしねぇよ!」
俺様はそのままの勢いで盾を地面に叩きつけて構えると目を押さえながらヨロヨロとした足取りでこちらへ銃を構える公安局の生徒へブークリエを発砲した。
火薬の音が響き渡り、肩に押し当てたストックに衝撃が走るとともに銃口から散弾が発射される。
「ぎゃっ!?」
発射された散弾はそのままおぼつかない足取りの生徒へ命中すると、彼女をそのまま地面へと案内した。
空薬莢がチャンバーから排出されると同時に、空井が後ろの扉から廊下へと飛び出してくる。
「後ろは任せるぞ!」
「あぁ、分かってるさ!」
短くそうやり取りをして扉から飛び出してきた空井へ後ろを任せると、俺様はそのままその場で動けずに居るヴァルキューレの生徒へ向けてブークリエを叩き込む。
そに後ろでは空井が手にした機関銃の引き金を引きっぱなしにし、弾幕を形成して公安局を制圧していく。
「い、一体何が起こって……!?」
「悪いが、良い子はもう寝る時間だぜ!」
俺様はそう叫び、容赦なくブークリエの引き金を引く。
ヴァルキューレの生徒達は閃光弾をモロに食らった影響からか全員が目と耳を抑えながらヨロヨロとした足取りでその場に立っているだけの存在であり、そんな彼女達が俺様達の敵になどなるはずもなく……
ものの10秒ほどで、俺様と空井の二人は廊下にいた十数人のヴァルキューレの生徒達を地面に叩き伏せた。
「よし……廊下はクリアだな。」
「あぁ、戦えそうなやつはもう残ってない。」
「お疲れ様です2人共。私達が援護へ廊下に出たらもう鎮圧が終わっているとは……流石の手並みですね。」
俺様は周囲を見渡して1人も戦えるヴァルキューレの生徒が居ないことを確認していると、扉の中から廊下へと出てきた月雪が俺様と空井にそう声を掛けてくる。
「す、すごいね二人とも。これだけたくさんいたヴァルキューレの生徒達をあんな一瞬で……」
「まぁ言うて閃光弾を食らって無防備な連中を叩きのめしただけだからな。こんなの朝飯前……ウォーミングアップにすらならないってもんだ。」
「しかし仮にもSRTと一緒にキヴォトスの治安を担う部隊がこの程度か。楽に鎮圧できたのは幸いだけど、なんだか落ち込むなぁ……」
硝煙を上げるブークリエの銃口を手で払いつつマガジンの交換を行っていると、地面に倒れ伏したヴァルキューレの生徒を見ながら空井が呆れたようにそう呟く。
「まぁそう言ってやるな空井。この人達だって夜勤で駆り出されて大変なんだろうからよ。」
「そうは言うけど、敵の立てこもっている室内へ突入する際に投げ物が飛んでこないか細心の注意を払うのは基本中の基本だぞ。教本にもそう書かれているしな。」
「いや、まぁそれはそうなんだけどよ……」
正直そう言われてもまぁあのヴァルキューレだしなぁ……としか言いようがないのが悲しいところだろう。
……何か空井の気持ちが少しわかったような気がする。
「さて、ひとまず廊下は制圧したが……どうする?」
「恐らく先程の閃光弾の音や銃声を聞きつけてここにも生徒が集まってくるでしょう。となるとここで時間を費やしている暇はありません。速やかに脱出ポイントとして当たりを付けているORPまで移動しましょう。」
「となると通るルートは事前の館内の見取り図からして比較的入り組んでいて遮蔽物の多そうな東側の廊下を通るほうが良さそうだな。」
「はい。敵の数は向こうの方が圧倒的に上。数で押されたら私達はひとたまりもありません。視界が開けたところでは接敵しないよう行動しましょう。基本的に仕掛けるのはこちら側から、意表を突く形で行きます。」
「異論はない。それで行くとするか。」
俺様と月雪はその場で速やかに方針を決定すると、互いに頷きあったあとに再びフォーメーションを組み直す。
ポジションは俺様が一番前で、そのやや後ろに空井。
その後ろに月雪で、最後尾に霞沢の順番だ。
東側廊下は入り組んでいるのに加えて幅も細くて包囲される危険性が少なく、奇襲を仕掛けつつ進んでいきたい俺様達にとっては実に都合の良いルートとなっている。
俺様は盾を持っているから入り組んだ東側廊下を通る際には難儀しそうだが、身を隠しやすい方が今の状況に置いてはプラスになるのは言うまでもない。
いざとなったら盾をしまって俺様も遮蔽物を使いながら戦えばいいだけの話だから特に問題ないだろう。
「それでは待ち伏せに注意しつつ移動を開始します!」
こうして、月雪の指示と同時に俺様達は陣形を維持しつつ東側へ向かって脱出のため歩を進めるのだった。
……そういや【あいつ】には何かあったときのためにヴァルキューレの近くで待機しておいてくれってメッセージを送ったけど……まさか乱入してこないだろうな?
(……いや、余計なことは考えるな。今は目の前の敵をどう退けるかだけに集中しよう。)
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「思ったよりあっさりと侵入できてしまいましたわね。ヴァルキューレ本館の警備がこの体たらくではキヴォトスで犯罪率が高いのも頷けますわ。」
「さて、何やら館内はかなり慌しい様子ですわね。この様子だと恐らくタツミさん達の侵入はバレて戦闘になっていると見て良いはず……ですが直接顔を合わせてはSRTの生徒と行動しているタツミさんに疑いの目が行きかねません。ここは陰ながらサポートするとしましょう。」
「しかし妙ですね。何やらタツミさん以外にもかなり強敵の気配を感じます。この気配は……まさか狐……?」
「……一応、用心はしておくと致しましょうか。そうなった場合は直接タツミさん達を助けに入る必要もあるでしょう。その時は……ウフフ♡タツミさんに私との深い関係を全員の前で説明してもらうのも悪くないですね♡」
「さぁ、待っていてくださいタツミさん♡貴方のワカモが今参りますわ♡」
次回もヴァルキューレとの戦闘をお送りします