「T3ダウン!」
「確認しました。RABBIT2は次の遮蔽物へ前進して下さい。テンポラルRABBITはカバーをお願いします。」
「了解!任せておけ!」
「RABBIT4、5時の方向にスナイパーです!」
「りょ、了解……!ごめんその前にリロードする……!」
「分かりました!二人とも、援護射撃を!」
「分かった!」
「任せろ!」
あれから脱出のためにヴァルキューレ警察学校本館の東側へと向かった俺様達は、行く手を遮るヴァルキューレ公安局の生徒達と交戦を行いつつ脱出地点として設定した場所へ向かってひたすら前進していた。
「り、リロード終わったよ!」
「了解!行くぞっ!」
霞沢のリロードが完了したという声に応えるように前へ出た俺様は近くの遮蔽物に身を隠すヴァルキューレの生徒へ銃撃を浴びせて無力化すると、そのままの勢いで盾を構えながら遮蔽物を飛び越えていく。
直後に背後から霞沢の構えるスナイパーライフルの銃声が鳴り響き、前方のスナイパーをダウンさせた。
「あいつら何者!?この数で圧倒できないとかどういう状況なわけ!?」
「こっちのホームで押されてるとか意味が分からない!くっ、このままじゃ押し切られる……!」
目の前のヴァルキューレの生徒達が狼狽えたような様子でそんな会話を繰り広げているが……まぁ無理もない。
俺様達が現在戦闘を行っているこの東側廊下は遮蔽物が多い上に、横幅も狭く入り組んだ構造をしている。
横幅が狭いと言う事はイコール包囲されにくいと言うことでもあるため、数ではヴァルキューレに圧倒されている俺様達にとっては絶好の地形だ。
と言うのも、俺様達は知っての通り現状4人しかいない。
そのため仮に四方を包囲されようものなら対応しきれずに数の力で押しつぶされてしまうからな。
その点横幅の狭いこの廊下なら敵が左右へ展開出来ないため、こちらとしては目の前と背後にさえ気をつけていれば良い上に必然的に敵とは正面から戦う形になる。
ハッキリ言うが、RABBIT小隊のみんなとヴァルキューレ公安局の生徒達では実力にかなりの差がある。
そのため敵が数を活かせず正面衝突するしかないこの状況では、質の勝っているこちらが相手を圧倒出来るのは自然の摂理と言う奴だろう。
「ターゲットダウン!」
「了解です!テンポラルRABBIT、前線をあげて下さい!その他の隊員はそのカバーを!」
「あぁ、分かった!」
後ろの月雪から飛んだ指示を聞いた俺様は即座に盾を少し持ち上げて浮かせると、そのままジリジリとすり足で
盾を前へ突き出しながら前進していく。
ヴァルキューレの生徒達が手にしている銃から放たれる銃弾が盾とぶつかり甲高い金属音が鳴り響くが、俺様はまったく怯むこと無くゆっくりと前へ前へ移動する。
「テンポラルRABBIT!集中砲火を受けてますが大丈夫ですか!?」
「あぁ、こんなもの攻撃されてるうちに入らねぇよ!」
月雪からそんな心配の声がかけられるが、俺様は盾から少し顔を出して前方を確認しつつそう言った。
もとより一番前へ配置されることが決まった時から敵の攻撃が一番飛んでくるのは分かっていたし、そもそも俺様はいつだって最前線へ赴いて盾を構えているからな。
今更この程度の攻撃で怯むわけがないだろう。
確かに、ヴァルキューレの生徒達の数に物を言わせた弾幕は結構火力もあって強力だ。けどこんなものゲヘナの問題児どもに比べれば生ぬるいにも程がある。
性能の良いカイザー製の武器を使っているのと、よく訓練されているからか的確に俺様の盾に攻撃を当ててきているが……結局はそこまでだ。
これがもし美食研究会や温泉開発部のバカどもならなりふり構わない戦術でかかってくるだろうから苦戦は必須なんだが……まぁテロリストみたいな戦い方をヴァルキューレがするわけにもいかないだろうからな。
それに、こっちはアリウススクワッドやFOX小隊とお互いの命を掛けたやり取りを何度もして来ているんだ。
こんな数を揃えればどうにかなると思っているぬるい攻撃なんざ、さっき言ったように攻撃にすら入らねえよ。
「撃て撃て!奴らをこれ以上前へ行かせるな!」
前へ進んでいくたびに俺様に浴びせられる銃撃は勢いを増していくが、俺様は敵の攻撃の合間を縫ってブークリエの銃口を盾から出すと引き金を引いて前方で守りを固めているヴァルキューレの生徒を無力化していく。
「うわぁっ!?」
「ぎゃっ!?」
前方の遮蔽物に隠れながら射撃をしてきていた生徒へ散弾を浴びせ、地面へと倒れたのを確認した俺様はひたすら盾を構えながら前へ前へと前線を押し上げる。
「相変わらず無茶苦茶な火力だな……フルオートのショットガンを片手で扱えるなんて一体何者なんだよお前……」
そして次に待ち構えているヴァルキューレの生徒へ鋭い視線を送っていると、俺様の少し後ろから遮蔽物に隠れる形で追従している空井が呆れたようにそう言った。
「そりゃ普段から訓練を怠ってねぇからな。それにこいつは俺様に合わせてオーダーメイドされたもんだから盾を構えながらでも扱いやすい様に出来てんだ。」
構えている盾に銃弾の当たる衝撃を感じながら、俺様は前から目をそらさずにブークリエのマガジンを素早く入れ替えながらそう言った。
ブークリエは万魔殿に入った時に盾と一緒で羽沼議長から俺様に対して送られたもので、当初から俺様の相棒だと自信を持って言えるくらいの存在だからな。
まず、何と言ってもブークリエは銃身が軽い。
普通ショットガンと言えば構造的に結構重たくなってしまうのが欠点なのだが、このブークリエは盾を構えて使うように作られているので動作に問題がない程度に極限まで軽量化がなされているのだ。
そのため盾を構えながら片手で扱うことは容易だし、盾の方にもブークリエの銃口を固定する溝が掘られているためここから安定した射撃をすることも可能である。
更にブークリエは極限まで軽いのにとても頑丈だ。
ちょっと乱暴に扱った程度じゃビクともしない。
ショットガンである以上は近接戦闘がメインになるため銃剣を装着して戦う場面もそれなりにあるのだが、その時にストックで殴りつけても傷一つ付かない程度にはコイツの銃身には頑丈な素材が使われているからな。
まったく万魔殿の技術力には恐れ入るばかりだけど、ブークリエやシールドがなければ俺様はただの一般人。
頼れる相棒をくれた羽沼議長には感謝の言葉しかない。
「だとしても反動は片手じゃ制御しきれないんじゃないのか?銃の銃身が軽くても弾はそうはいかないだろ。」
「そこはまぁこう見えて鍛えてるからな。」
「なんだそれ……鍛えてどうにかなるもんなのか?それにお前はヘイローがないから銃弾が当たったら大怪我じゃすまないのに肝が座りすぎだろ。」
「そりゃこちとら何度も修羅場を潜ってきてるからな。今更こんなもので狼狽えたりしねぇっつの。」
ヒュンヒュンと風を切りながら俺様達の横を通過していく銃弾の音をBGMに、俺様と空井はそんな会話をしながらも慎重かつ冷静に前線をジリジリと押し上げる。
前方の遮蔽物から顔を出すヴァルキューレの生徒へブークリエの散弾を叩き込み、空井が放り込んだ閃光弾で炙り出された敵は後ろの霞沢が確実に仕留めていく。
「くっ、私達を前にして雑談だなんて……!」
「大丈夫!もうすぐ警備局の増援が来るはず!到着次第波状攻撃で押し返すよ!」
互いの銃声と爆発音が鳴り響く地獄と化した廊下を進んでいると、前方の遮蔽物の裏に隠れているヴァルキューレの生徒達のそんな会話が聞こえてきた。
「RABBIT1!聞こえたか!?増援だ!」
「はい、確認しました。……ちょうどここから西側の廊下に多数の足音の反応がありますね。」
俺様がチラリと後ろを見ながら月雪にそう言うと、月雪はなにかのタブレット端末を確認しつつコクリと頷きながらそう言った。
「西側ってことはちょうど私達の背後じゃないか。どうする?あいつらの話が本当なら挟み撃ちになるぞ。」
「確かにそれはマズいとしか言いようがないけど……打つ手はいくらでもある。」
……けどここで俺様が真っ先に策を出すのは違う。
正直増援を何とかする方法はあるにはあるけど、あくまでこの場においての隊長は月雪ミヤコだ。
まずは彼女に何か策があるか聞くべきであって、月雪が何も思いつかないようなら提案をすべきだろう。
「RABBIT1、なにか策は?」
俺様は手短に月雪へそう尋ねると、月雪は俺様へ視線を合わせながら口を開く。
「ここまで侵攻してくる間に通ったルートに防火扉があるのを確認しています。スプリンクラーを故障させて誤作動させられれば、防火扉を閉じて増援を阻止し挟撃を防ぐことが出来るでしょう。見たところあの防火扉は一度閉まれば手動で開けることは出来ず、システムで開けるタイプのものですので。」
「なるほど、確かにそれなら理に適っているな。」
「けど、背後の防火扉を閉めるってことは私達の退路がなくなる事を意味する。その事は大丈夫なのか?」
「大丈夫です。元より私達の退路は前にしかありません。後ろに下がっては脱出できるものもできなくなってしまいますから。」
決意のこもった目でハッキリとそう言い切る月雪。
……この短い時間で随分と覚悟が決まったようだけど、今はそれが何よりも頼もしい。
「分かった、異論はない。それで行こう。」
「仕方ない。挟まれるよりはマシか。」
「わ、分かった……」
「ありがとうございます。ではRABBIT4、スプリンクラーを狙撃してもらっても構いませんか?」
「りょ、了解……!」
月雪は作戦が決まると即座に霞沢に指示を出し、指示を受けた霞沢は銃を構えて西側廊下のスプリンクラーを的確に撃ち抜いた。
直後、けたたましいアラートが鳴り響くと同時に故障したスプリンクラーから大量の水が放出される。
「うわっ!?み、水!?」
「まずい、あれだと防火扉が……!」
その光景を見てヴァルキューレの生徒が慌てるが、もう遅い。大量のスプリンクラーの水と警告アラートに反応するように、西側廊下とこちらの廊下をつなぐ防火扉はゆっくりと重厚な音を立てながら閉まっていく。
そしてガシャン!と言う音を立てて防火扉が完全に閉じたのを確認すると、俺様達は再度前へと意識を向ける。
「し、閉まっちゃった……」
「どうすんの!?これだと警備局と合流出来ないよ!」
「自分たちの学校に閉じ込められるなんて……」
増援を封じられたのを見て、前で守りを固めているヴァルキューレの生徒達が浮き足立つ。
「今が好機です!皆さん、一気に突破しますよ!」
「了解!突撃する!援護は任せたぜ!」
「分かった!任せろ!」
「う、うん……!」
月雪の指示が飛ぶ。
俺様のその指示を聞いて即座に盾を持ち上げ姿勢を低くしながら構えると、そのまま前方へ向かって地面を踏み込んで一気に突撃を開始した。
「くっ、迎え撃て!」
俺様を視認したヴァルキューレの生徒達は銃をこちらへ向けてくるが、俺様は最小限の盾の動きで銃撃を受け流すとそのまま近くのヴァルキューレの生徒に向かって盾を振りかぶって叩きつける。
「ぐふっ!?」
「悪いな!そこで寝ててくれ!」
公務中の女の子を盾で殴りつけるのは気が引けるけど、状況が状況なだけに仕方ないから許してくれ。
そんな事を思いつつ、俺様は続いてブークリエの銃口を別のヴァルキューレの生徒へ向けて引き金を引く。
「ぎゃっ!?」
悲鳴とともにドサリと生徒が地面へ倒れ伏す音が聞こえると同時に、俺様は盾を持ち上げてひたすら前へ進む。
すぐ後ろからは空井、その後ろからは月雪と霞沢が的確なカバー射撃をしてくれており俺様が相手取れない敵を正確に処理してくれているようだ。
流石は常日頃から部隊単位で動いている小隊、初めて合わせる相手のカバーもお手の物と言うわけか。
「どけぇ!」
ブークリエの射程圏内に居る敵に銃撃を浴びせ、懐へ潜り込みながら盾とブークリエの銃床で敵を殴り付ける。
続けてブークリエのマガジンを交換すると、カバーに入ってくる生徒に銃口を向けてそのまま引き金を引く。
火薬の爆発音が鳴り響くとともにチャンバーから空の薬莢が排出され、コロンと音を立てて地面へ転がる。
「このっ……!」
そんな俺様を止めるためにヴァルキューレの生徒は必死に食らいついてくるが、彼女達からの銃撃や格闘攻撃を盾で全て防ぎながら前線をゴリゴリと押し上げていく。
「よし!次はどいつだぁ!」
「くそっ!なんなんだこいつ!?」
こうして目の前に立ちふさがる敵を全てなぎ倒しつつ、俺様達は脱出ポイントを目指して突き進むのだった。
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「なぁミヤコ。私達やること無くないかこれ。タツミのやつヴァルキューレの生徒が何人襲ってきても全部1人で片付けてるぞ。敵からの攻撃は全部防いでるし相手の懐へ飛び込んでのCQCも一流……いくらヴァルキューレの質が低いと言えどあの数を相手にあれはバケモノだろ。」
「それに自分が戦いながらも絶えずこっちを確認して私達と相手位置を把握しながら敵からの射線だけを切るように動いてるし……そのおかげでここまで一発も弾が飛んできてないよ。」
「なるほど、あの強さに状況把握力……最初にサキやモエが戦った時の情報から手練れとは聞いていましたが……ここまでとは思いませんでしたね。」
「さ、流石にスナイパーにはショットガンが届かないから苦戦してるみたいだけど逆に言えばスナイパーさえ無力化すれば後はタツミくんがやってくれるもんね……」
「先生の話によると彼はあれに加えて戦場で指揮を取ることも可能なようですし……底が見えないですね。」
「……あいつが敵じゃなくて良かったな。」
「う、うん……」
「えぇ、本当に……」
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「くっ、想定はしていましたがやはりあの丹花タツミとSRTの1年生を相手に公安局だけでは苦しいですか。これを見越して署内にほぼすべての公安局の人員を待機させていたのにどこまでも忌々しい男ですね……!」
「……仕方ありません。もう少し消耗してから出て頂く予定でしたがこちらも切り札を切ると致しましょうか。」
「頼みましたよ……FOX小隊の皆さん?」
そろそろ敵と味方の狐が登場します