転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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今話からぼちぼちアビドスに絡むと言ったな
あれは嘘だ
次話からになっちゃいました、許して♡

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皆さん本当にありがとうございます!


便利屋68と丹花タツミ

「先生がアビドス自治区によく行っている?」

 

万魔殿の会議室。万魔殿定例会議にて。

各部活動への予算分配や今後の方針、情報の交換などを行うために定期的に行われる会議である。

その中の議題として、羽沼議長は元宮先輩を含めた諜報班からの報告書を読み上げていた。

 

「あぁ。我が万魔殿の諜報活動報告によると、シャーレの先生は最近ほとんどの時間をアビドス自治区へと赴いて費やしているようだな。」

 

あー……そう言えばもうそんな時期になるのか。

先生が外の世界からシャーレに赴任してきてからもう一月以上が経とうとしている。

確か原作では赴任してきてそう間もないうちにアビドスへ行って、確か遭難しかけてケモミミを生やした生徒に助けられるんだったっけな……?

記憶が曖昧なせいでよく思い出せないが、その後はアビドスの連中と親交を深めていった気がする。

先生ああ見えて結構どんくさいところあるからな……心配ではあるが。

 

「私の取材によると、シャーレの先生はアビドスに結構な支援をしているみたいですね!」

 

元宮先輩が資料を広げつつそう発言した。

棗先輩は気だるそうに資料を読んでおり、京極先輩はガッツリ居眠りをしている。

あの……京極先輩?あなた万魔殿の情報部長っすよね?

まぁ、京極先輩に関しては今更なので気にしないことにしておくとしよう。

ちなみにイブキは俺様の膝の上でお絵かきをしている。

 

「キキキ……あんな廃校も同然の学校に支援するとは先生も物好きだな。」

「……まぁあの学校に残ってる奴らにとっては大事な母校でしょうからね。それに先生も生徒からの助けを拒める人じゃないでしょうし。」

「どうしたタツミ。何が気になることでもあるのか?」

「いえ……なんでもないっす。」

 

俺様はアビドスに通う黒見の事をボンヤリと思い浮かべながらそう言った。

あいつが廃校を逃れるために必死にアルバイトを頑張ってるのは知ってるし、苦労してるのも知ってる。

それで少しモヤッとしただけだ。

理由はどうあれ頑張っている奴を否定されていい気分はしないだろう。それが友達なら尚更だ。

まぁ、羽沼議長は事情知らんから仕方ねぇけどよ。

 

それにアビドスには俺様の記憶が正しければだが、カイザーPMCに多額の借金があるはずだ。

先生が介入することで少しでも状況が良くなっていれば良いんだがな……

それにアビドス自治区には俺様がよく行っている柴関ラーメンもあることだしな。

あの地区に潰れられるとラーメン食えなくなっちまうし俺様も困るんだよ。

 

「……?まぁ良い、話を続けるぞ。次は風紀委員に関しての情報だが……今日は風紀委員が慌ただしいようだな。何やら1個中隊規模の部隊を編成しているとの情報が入ってきているぞ。」

「1個中隊ですか?暴動も起きていないのに?」

 

棗先輩が眉をひそめつつそう言う。

 

「あぁ、ただ今日は委員長である空崎ヒナは朝から別件でゲヘナの外れに出向いているらしい。」

「……ますます意味がわかりませんね。」

「あぁ。ヒナの指示ではない……となると十中八九、あのメス犬が何かを企んでいる可能性が高いだろうな。」

「天雨アコ行政官が……?」

「何を企んでいるのかは知らんが、どうせ下らんことだろう。ヒナ無しの風紀委員会など恐るるに足らん。放置しておけば良いだろう。」

 

そう言って羽沼議長は鼻を鳴らした。

……なんかサラッと天雨行政官をメス犬呼ばわりしてんだけど本人が聞いたら絶対キレるだろうなぁ。

しかし1個中隊規模とは穏やかじゃないな……また災厄の狐でも見かけた、とかなら分かるけど。

 

「続いてだが……トリニティのティーパーティーがシャーレに関する報告書を掴んでいると言う情報が諜報班から上がってきているな。」

「トリニティのティーパーティーが?」

 

トリニティ総合学園のティーパーティー……と言うのは一般的な学校の生徒会に当たる組織の事だったはず。

つまり万魔殿と同等レベルの組織ってことになるな。

そこにシャーレに関する報告書が上がっているということらしい。

 

別に、シャーレなんてクソ目立つ組織のことなんてすぐ各学園に知れ渡ると思うんだが?

……まぁ、多分羽川先輩辺りが正義実現委員会に提出したものが上に回ったとかだろう。

そこまで気にするほどのことでも無いと思うが。

 

「あぁ。だがこれは私達万魔殿もタツミからの報告書でシャーレの事は把握しているから特に問題にはならんだろう。むしろ、タツミがシャーレの当番にも赴いているという点では情報量という点では勝っているしな。」

「まぁたまにっすけどね……」

 

と言うか、この前シャーレの当番に行った時には先生が仕事に埋もれて半分幼児退行してたぞ……

流石に見かねて仮眠室にぶち込んで俺様が書類を片付けた上、カップ麺の山が転がっていたから料理作って食わせたらめちゃくちゃ泣いてたからな。

どんだけ激務なんだよシャーレ……流石に連邦生徒会に言ったほうが良いような気がしてきたぞ。

今度先生に会ったら胃薬でも渡しておくとしよう。

 

それにしても、トリニティがシャーレの情報を掴んでいると何かマズい事でもあるというのだろうか。

直近で心当たりがあることと言えばエデン条約くらいだが、それ関してはシャーレは特に関係ないと思うけど。

それか単純に羽沼議長トリニティの事嫌いだし、単に癪に障ったのもしれんが。

と言うか羽沼議長のことだ、そっちの方があり得るな。

羽沼議長、筋金入りのトリニティ嫌いだからな。

エデン条約もさっさと破棄したいと言ってるけど、連邦生徒会長が間に入って締結直前まで事が進んでるせいで今更破棄も出来なさそうな雰囲気だとこの前言ってたし……

 

「トリニティの忌々しい羽根つき共がシャーレの情報を掴んでいるのは気に食わんが、情報量でこの私を上回れるとは思わん。これも今は放置で良いだろう。」

 

羽沼議長は自信満々な表情を浮かべてそう言った。

……まぁそれに関してはそうとしか言えない。

この人は他のことはともかく、情報戦においては本当に右出る者が居ないくらいには優秀だからな。

自信満々になるのも頷ける。

 

「続けるぞ、次の議題だが……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぁぁ〜……ずっと座ってるのも疲れんなぁ……」

 

腕を伸ばして凝り固まった肩をバキバキと鳴らしつつ、俺様は欠伸をしつつ歩を進めていた。

結局あの後も会議は続き、予算の振り分けのところで案の定風紀委員の予算を削ると言った羽沼議長と大喧嘩になり会議が長引いちゃったからな。

なんとか羽沼議長を口車に乗せて説得し、今回の風紀委員予算カットは阻止したので良しとしよう。

ついでに、どさくさに紛れて給食部の予算の増額にも成功した。やったぜ。

これでちょっとは愛清先輩と牛牧が喜んでくれると良いんだがなぁ……

 

そんな俺様だが、今はアビドス自治区へ来ている。

今日の議題でアビドスの話題が出たので、柴関ラーメンのことを思い出して無性に食べたくなったためだ。

言うて前回行ったのも1週間前とかなんだが……あそこのラーメン本当に美味いからな、仕方ない。

それに、今日黒見がシフトに入っているなら先生がどこまで親交を深めているか確認もしておきたいしな。

あとはまぁ、1個中隊規模の部隊を編成してる風紀委員が気になるところだが……

ま、風紀委員には風紀委員の考えがあるだろうしな。

深くは考えないでおこう。

 

ちなみに今回はイブキを連れて行こうと思ったのだが、今日のイブキの部屋のお泊り担当である元宮先輩がイブキを喜ばせようとお子様ランチを作ろうとしてくれていたため断念した。

流石に元宮先輩の好意を無視してまでイブキを連れ出すつもりはないからな。

イブキ、いっぱい食わせてもらうんだぞ……

 

さて、そんなこんなをしているうちに柴関ラーメンに到着したようだ。頬を撫でる風に砂が混じっているのを感じながら、俺様は引き戸に手をかけて店内へと入る。

 

「いらっしゃい!お、タツミくんじゃないか!」

「どうも大将。お久しぶりです!」

 

厨房からひょっこりと顔を出して笑顔で出迎えてくれる柴大将。そんな大将に笑顔で挨拶しつつ、店内をぐるりと見渡した。

やっぱり中途半端なこの時間だから客数は少ないようで俺様の他には4人組の客が一組いるのみだった。

後は……いつもシフトに入ってたら黒見が接客に出てくるはずなので、今日は休みって事で良さそうだな。

 

「悪いが今日はセリカちゃんはお休みなんだ。悪いなタツミくん。」

「あ、いえ。大丈夫すよ。別に黒見に会いに来た訳じゃなくてラーメン食いに来てるんで。」

 

そりゃ黒見がいれば先生のことについて色々聞けたとは思うが、本来の目的は大将の作ってくれるラーメンを食うことだからな。

 

「んじゃ大将、いつもので!」

「あいよ!ちょっと待っててくれよ!」

 

適当なカウンター席に座りつつ、大将にいつも頼んでいる柴関ラーメン大盛りチャーシュートッピングを注文する。

俺様はいつものようにラーメン待つ間、時間を潰すためにスマホを取り出しSNSを開いた。

 

「はいよ、お待ちどう!」

「来たあ!いただきまーす!」

 

画面をタップつつボーっとスマホを眺めていると、先に来ていたらしい4人組の客に柴大将が出来立てのラーメンを持っていくのが横目に入る。

水を一口飲みながらそちらへチラリと目をやると、運ばれたラーメンに目を輝かせる4人組の姿が目に入った。

……なんかあの4人組、どっかで見たことあるような?

見たところ赤髪の生徒はゲヘナのカッターシャツを着ているようだし、もしかしてゲヘナの学校内で会ったことでもあったっけな……?

 

「ひ、一人につき1杯……こんなに贅沢してもいいんですか?」

「アビドスさんとこのお友達だろ?替え玉が欲しけりゃ言いな。」

「さっすが大将!ふとっぱらー!」

「ハハハ!それほどでもあるぜ!」

 

俺様がそんな事を考えていると、彼女たちと会話を終えた柴大将は笑いながら厨房へと戻って行った。

……やっぱあの集団、どこかで見たことあるんだよな。

どこだったっけ?なんつーか、ゲヘナでは結構有名だった気はするんだけど……

 

「こんなに美味しいのにお客さんがいないなんて。」

「場所が悪いんじゃない?廃校寸前の学校の近くだしねー。」

「まぁ美味しいから良いけど。それじゃ、いただきます。」

 

そう言って、赤髪の生徒以外は割り箸を割ってそれぞれラーメンに手を付け始めた。

そんな中、ラーメンに手を付けていない赤髪の女は下を向いてプルプルと震えている。

なんだ、食わないのか?ここのラーメンはうめぇぞ?

そんな事を考えつつ、水を口の中に流し込む。

 

「友達なんかじゃないわよぉーーー!!!」

「ぶっ!?」

 

次の瞬間、突然店内に絶叫が鳴り響いた。

俺様は想定外の事態に飲んでいた水を思わず吹き出す。

 

「ゲホ……ゲホゲホッ!」

 

器官に入り盛大にむせつつも、俺様はテーブルに備え付けられたダスター(飲食店でよく使われる台拭き)を手に取りこぼした水を拭き取りにかかる。

この野郎……いきなり飲食店で叫ぶんじゃねえよ……!

抗議の1つでもしてやろうかと4人組へ目を向けると、赤髪の女がテーブルを叩いて立ち上がるのが見えた。

その瞬間、その女と目が合う。

 

「えっ……貴方は!?」

 

その女は俺様を見ると目を見開きながらそう呟いた。

待てよ、コイツ……赤髪……ゲヘナのカッターシャツ……ロングコート……脇に置かれたクソデカいスナイパーライフル……

 

「っ!」

 

思い出したっ!

こいつ、便利屋68の陸八魔アルじゃねぇか!?

 

「便利屋68……!?何でこんなところに!?」

「そ、それはこっちのセリフよ!何でこんなところに万魔殿の丹花タツミがいるのよぉ!?」

 

俺様を指差しつつ、陸八魔はそう叫んだ。

 

便利屋68。

ゲヘナ自治区にオフィスを構えている金さえ払えばなんでも依頼を請け負ってくれる、いわゆるなんでも屋だ。

猫探しから傭兵まで、本当に金さえ払えばなんでもやっているらしくその中には建物を爆破する行為等のテロ行為も含まれているため風紀委員からはお尋ね者としてゲヘナで指名手配犯扱いされている連中だ。

リーダーの陸八魔アルを中心に、他3名の構成員で構成されいる組織……と羽沼議長は言っていた。

まぁ要は簡単に言うとお尋ね者集団なわけだな。

 

「いや、何でこんなとこにって言われても……ここが俺様の行きつけのラーメン屋だからだが?」

「な、なんでゲヘナ所属の貴方がこんな辺境の地のラーメン屋までわざわざ来るのよ!?」

「だってそりゃ……美味いからな、ここのラーメン。」

 

俺様としてはお前らが柴関ラーメンに居る理由のほうが聞きてぇよ……ここはアビドス自治区だぞ?

ちなみに、俺様は陸八魔達便利屋とは風紀委員と共闘した時に一度だけやり合ったことがある。

少し戦っただけではあるが、コイツらが相当の実力者なのは間違いないだろう。

 

どうする?相手は指名手配犯だ。ここで取り押さえちまっても良いわけだが……

だが、ここには奴の部下が3人も居る。陸八魔1人だけならまだしも流石に俺様1人では多勢に無勢だ。

銃を抜くのはあまり得策ではないだろう。

それに、ここで銃撃戦をおっぱじめようものなら店がめちゃくちゃになりかねない。

そうなったら大将に死ぬほど迷惑がかかっちまう。

それだけは避けたい。

 

「どうしたの社長?……ゲッ、万魔殿の丹花タツミ?」

「あっちゃ〜まさかこんなところに万魔殿の人間が来ちゃうなんてね〜。」

「ど、どうしますアル様!?やりますか!?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいハルカ!」

 

焦ったような表情で俺様へ向けてショットガンを構える紫髪の女……伊草ハルカを陸八魔が手で制する。

 

「……まぁ落ち着けよ。」

 

俺様は席を立つと、便利屋の座っているテーブル席の真横まで移動する。

 

「俺様はここでアンタらと事を構えるつもりはない。」

「……信用できないんだけど?」

 

白髪に1本だけ黒のメッシュの入った女……鬼方カヨコが疑いの目を向けてくる。

 

「そうそう、もしかしたらキミが風紀委員に通報するかもしれないしさー?」

 

表情は笑顔だが目が笑ってない白髪サイドテールの女、浅黄ムツキがこちらへそう問いかけてくる。

 

「だから落ち着け。俺様は別にアンタらを追ってきたわけじゃなければ捕まえる気もない。ラーメンを食いに来ただけだ。信用できないなら俺様が店を出るまで銃をお前らに預けても構わないが?」

 

そう言って、俺様はブークリエをテーブルの上に置く。

それを見た4人は驚いたような表情でこちらを見た。

 

まぁ無理もないだろう、ここキヴォトスでは銃火器は自分の身を守るためにも何よりも大切なものだ。

それを他人に預けると言うことは、何をされても抵抗しない……白旗を揚げているようなものなのだから。

 

「アンタ達だってラーメンを食いに来てるのにドンパチやりたくはねぇだろ?それにアンタらは美食研究会とは違うからよ、ここでやり合うメリットがお互い無い。」

「まぁ、それは確かにそうだけど。」

「……ま、この店を爆破しろって依頼でも受けてんなら話は別だがな?」

「んー、どうするアルちゃん?」

「……分かった。貴方を信じるわ。」

 

そう言って、陸八魔は息を吐きながら席に座る。

それを見た伊草も俺様へ向けていたショットガンを降ろし、俯きながら席へ座った。

 

まぁ俺様も最初は問答無用で取り押さえてやろうかとも思ったんだが、便利屋は別に敵ではないからな。

そりゃこいつらの受けた依頼次第では敵になることもあるだろうが、少なくとも今は同じ柴関ラーメンにラーメンを食いに来ているだけのようだし。

なら俺様達がここでやり合う理由なんて1つもない。

 

風紀委員に通報することも……まぁ考えないわけではないが、別に俺様は風紀委員でもなんでもねぇしな。

そりゃ仲良くしてはいるけどよ、少なくとも便利屋は美食研究会や温泉開発部みたいに発見したら即捕まえないとヤベー奴らでも無いっていうか。

 

まぁこの際だから正直に言おう。

ぶっちゃけ、仕事が終わってラーメンを食って癒されに来たのに仕事の延長線上みたいな事をしたくねぇ。

ので、俺様はこいつらを見なかったことにする。

もしここで遭遇してたのが美食研究会なら、人数不利だろうが問答無用で銃を抜いていたがな。

向こうに戦闘の意思が無いなら戦わない、それでいい。

 

「んじゃ、ここはお互い何も見なかったっつーことにしようぜ便利屋。」

「えぇ、そうしましょう。」

「話が早くて助かる……んじゃ、俺様は席に戻るわ。」

 

そう言うと俺様はくるりと踵を返し、座っていたカウンター席へ戻ろうと歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

そのまま数歩歩くと、陸八魔が声をかけてくる。

 

「……何だ?まだ何かあんのか?」

「そうじゃないわよ!はいこれ!」

 

陸八魔はこちらへ駆け寄ってくると、彼女達が座っていたテーブルに置いたはずのブークリエをこちらへとずいっと差し出してきた。

 

「いや、それは店を出るまでは預かっててもらって構わんが?ああは言ったけどまだ俺様を完全には信用できないだろ?保険のためにも持っておけよ。」

「冗談じゃないわよ!仮にこれが私達を安心させるための罠だったとしても、丸腰の貴方と戦うなんて卑怯な真似はゴメンだわ!」

 

そう言って、陸八魔はブークリエを俺様に押し付けてくる。

……そう言えば原作でもこいつってこんな奴だったなぁ。

アウトローアウトロー言ってはいるけど、その実は人情に厚くて義理堅いお人好し。それが陸八魔アルだ。

俺様は苦笑すると、ブークリエを受け取った。

 

「分かった、受け取るよ。……後で後悔すんなよ?」

「あら、貴方に戦闘の意思は無いんでしょう?」

「おう。モチロンだ。」

「なら後悔なんてしないわよ。受け取りなさい。」

 

ぐいぐいと押し付けてくるブークリエを受け取る。

 

「どうも。」

「どういたしまして。それじゃ。」

 

そう言うと、陸八魔は手を上げつつ踵を返して仲間達の座っているテーブルへと戻っていった。

……自分から銃を返してくるってことは、本当にドンパチするつもりは向こうに毛頭ないらしいな。

ならこっちも安心してラーメンが食えるってもんだ。

俺様はカウンター席へと戻ると、ブークリエを横に立てかけて椅子に座った。

 

「はいよ!柴関ラーメン大盛り、チャーシュートッピングお待ち!」

「待ってました!」

 

席に座った直後、厨房から出てきた大将が元気のいい掛け声とともに湯気の立ち上るラーメンを俺様のテーブルへと運んでくれた。

 

「サンキュー大将!メッチャうまそうっす!」

「はっはっは!そう言ってくれると作り甲斐があるねぇ!替え玉が欲しかったら言うんだぞ!」

「ありがてぇ……!」

 

大将はそう言って人の良い笑みを浮かべて笑った。

流石は大将だ。いい人すぎて後光が差し込んでいるぜ。

 

「じゃ、いただきます!」

 

俺様は席に備え付けられている割り箸を手にとって割ると、麺を一気にすすり込む。

くぅー!これこれ!やっぱり男子学生たるもの、放課後にラーメンは鉄板だよなぁ!

スープはもちろんのこと、分厚いチャーシューも肉汁たっぷりで美味すぎる。

 

「それにしてもタツミくん。あんたあの嬢ちゃん達と知り合いだったのかい?」

「うん?便利屋の事っすか?」

 

ニコニコしながらラーメンを啜っていると、大将がそんなことを問いかけてくる。

 

「まぁ知り合いってほどでは無いっすけど、面識はあるって感じですかね?」

「おー、そうだったんだな。ずいぶんと話が弾んでたみたいだから気になってよ!」

 

ハハハ、と笑いながら大将はそう言った。

まぁ話の内容としては穏やかなモンではないけどな……

 

「あー……うめぇ……」

 

やっぱり柴関ラーメンは最高だぜ。

仕事で疲れた身体の五臓六腑に染み渡る感じがする。

一心不乱にラーメンを啜る。

 

「分かった!何が引っかかってたのかわかったわ!問題はこの店、この店よっ!」

「……ん?」

 

そして水を飲んで一息ついていると、便利屋の座っている席から再び陸八魔の絶叫が響き渡った。

今度はなんだ?と言うか、俺様と便利屋以外に客が居ないとは言え飲食店で何度も絶叫するなよ……

 

「アルちゃん!?それってどゆこと!?」

「私達は仕事しにこの辺りに来てるの!ハードボイルドに!アウトローっぽく!」

 

ビシッ!と天井を指を差しながら陸八魔はそう言う。

……何の依頼で来てるのかは知らんが、ハードボイルドとアウトローってそこまで拘らなきゃ行けないのか?

便利屋の理念に口を挟むつもりはねぇけど、単純に興味はあるかもしれん。

 

「なのに何なのよこの店は!お腹いっぱい食べられるし!あったかくて親切で!話しかけてくれて和気あいあいでほんわかしたこの雰囲気!」

 

まぁそれが柴関ラーメンの良いところだからな。

よくわかってるじゃないか陸八魔。

 

「ここにいると皆仲良しになっちゃう気がするのよ!」

 

……うん?それの何が行けないんだ?

仲悪いよりは良いほうが良いんじゃないか?

 

「それ、何が問題なの?」

 

浅黄がラーメンを啜りつつ首を傾げてそう言った。

うん、俺様もそう思う。一言一句浅黄に同意だ。

 

「ダメでしょ!メチャクチャでグダグダよ!私が一人前の悪党になるにはこんな店は要らないのよ!」

 

いや、そもそもそんな思考が出てくる時点で悪党には向いてないんじゃ……って、ちょっと待て。

今なんつったこいつ。

 

「私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの!こんなほっこり感じゃない!」

「いや、それは考えすぎなんじゃ……」

「……おい陸八魔。今何つったお前。」

 

俺様はラーメンのスープを飲み干すと、割り箸を丼の縁に置いて立ち上がる。

そのまま便利屋が座っているテーブルまで歩を進めると発言者である陸八魔を睨みつけた。

 

「な、なによ……さっきお互い見なかったことにするって言ったじゃないの。」

「お前の発言で事情が変わった。今なんつったお前。」

「何って……私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと……」

「違う、その前だ。」

「こんな店いらないわよって……あっ。」

 

そこまで言って、陸八魔はしまったと言う様な表情を浮かべて手の平を口に当てた。

 

「どうやら俺様に喧嘩を売ってるらしいな……?」

「ち、違うわよ!その、これは言葉のあやで……!」

 

自分でもピキピキしてるのを感じつつ、腕を組みながら陸八魔を睨みつけると陸八魔はワタワタと慌て始めた。

それを見て、陸八魔の隣に座っていた伊草は即座にショットガンを構えると俺様へと突きつけてくる。

 

「あ、アル様に危害を加えるなら容赦しません!」

 

そう言って躊躇なく引き金に手をかける伊草。

 

「……やれるもんならやってみろよ。」

 

俺様は伊草に突きつけられたショットガンの銃口付近を掴むと、そのまま自分の頭に押し当てた。

 

「何を……!?」

「……なぁ陸八魔。このラーメン屋はいい店だよ。腹いっぱい食えるし、親切だし、和気あいあいしてるし、落ち着けるような素晴らしい店だ。お前の言う通りだ。」

 

俺様は陸八魔の目を真っ直ぐと見据えつつそう言った。

 

「俺様はこの店が好きだ。大将はいい人だし、ラーメンもうめぇ。おまけに安くて腹いっぱいになる、俺様みたいなヤツにとっては天国みてぇな店なんだよ。」

「……」

「だからよ、そんな店が【いらない】なんて言われたら流石に腹を立てたっていいだろ?な?」

 

分かってる、これは俺様の個人的な怒りだってことは。

だが、誰だって自分の好きなものをいらないなんて言われると少しくらいはムッとするもんだろう?

だから俺様は文句を言った。それだけだ。

 

「……ごめんなさい!」

 

陸八魔はテーブルに視線を落として考え込むような表情を見せた後、席を立つと俺様へ向けて頭を下げてきた。

 

「あ、アル様!?」

「ちょっと社長……!」

「私の意思よ、カヨコ、ハルカ。いくら言葉のあやとは言え、彼の言う通り今の言葉は大将さんやここに通ってる人達を否定する発言だわ。」

 

陸八魔は頭を下げたままそう言う。

 

「アルちゃん……」

「……いや、そのなんだ。」

 

流石に、ここまで素直に頭を下げられるとは思わなかったな……アウトローってなんだっけ?

なんか俺様がムカついてたのがガキみてぇじゃんか……いや、実際ガキなんだろうけどよ。

いい加減流せるようになれよなホントに……

 

「頭を上げてくれ、陸八魔。お前の態度から見るにそれが勢いで言ったものだってことは伝わったよ。俺様こそ下らんことに食って掛かって申し訳ない。」

 

そう言って、俺様は便利屋に頭を下げる。

 

「な、何で貴方が謝ってるのよ!?」

「いや、俺様のクソガキじみた怒りに付き合わせて悪かったなって思ってよ……」

「も、元はと言えば私が勢いでいらないなんて言っちゃったのが悪いんだし……!」

 

何故か謝罪合戦へと発展する俺様達。

……やっぱり陸八魔って悪人向いてないのでは?

こうしてみると、本当に他人のことを思いやれるただのいい人にしか見えねぇんだけども。

 

「くふふ、まぁ彼がそう言ってるんだし素直に受け取りなよアルちゃん!」

「そうだよ社長。正直どっちもどっちだしね。」

 

ニヤニヤしながらそういう浅黄と、ため息を吐き出しつつそう言う鬼方。

 

「ムツキ……カヨコ……」

「ハハハ……容赦ないなお前ら。」

 

俺様に対してはまだ分かるが、自分んトコの上司のことも言ってるんだけどそれはいいのか二人とも。

 

「ハルカ、銃を下ろしなさい。」

「は、はいっ!」

 

陸八魔に指示され、本日2度目の俺様に突きつけられていたショットガンが降ろされる。

実は内心心臓バクバクだった俺様は深く息を吐いた。

 

「大将さんもごめんなさい。」

「大将、俺様もすまん。店で騒いじまって。」

「おう、良いってことよ!口が滑っちまうことなんて人生たくさんあるからな!子どもは感情がむき出しなくらいでちょうどいいもんだぜ!」

 

ハッハッハ、と笑いつつ大将は笑顔でそういった。

あまりにも考え方が大人すぎるだろ……マジで尊敬するわこの人。感謝しか無いな、本当に。

 

「はぁ~……それにしても生きた心地がしなかったぜ……」

「なになに?あんなに大胆に銃口掴んでたのに内心はビビってたの?」

「あたりめぇだろ!こちとらヘイローないんだぞ!伊草が引き金引いてたら俺様は今頃あの世行きだよ!」

 

ニヤニヤする浅黄に両手を広げながら抗議する。

 

「クフフ、それなのに強がってたんだ〜?よっぽどこのお店が好きなんだね?」

「おうよ!ここのラーメンは美味いからな!」

「うん、それには同意するけどね。」

「は、はいっ!ここは私なんかにも優しくしてくれますし……!」

 

……なんだ、便利屋もなんだかんだこの店が好きなんじゃねぇかよ。

まぁここのラーメンはキヴォトス中を探しても中々見つからないくらい最高だからな。

それに、一番は大将の人柄だ。マジで聖人なんだよな。

大将のためにもまた来ようって気になる。

……と言うか、なんか陸八魔さっきから下を向いてプルプル震えてないか?大丈夫かこいつ?

 

「か……か……」

「か?なんだ?どうしたんだよ陸八魔……」

「かっこいい……!」

「……はい?」

 

陸八魔はそう言ってテーブルを叩いて立ち上がると、俺様の前まで猛スピードでやってくる。

 

「ヘイローがないのにショットガンを自ら掴んで頭に押し付けるなんて、なんて度胸があるのかしら!まさにアウトローって感じがするわ!」

 

そして、そのまま目をキラキラさせつつグイグイと距離を詰めてきた。

いや、別にそれはアウトローではないんじゃないか?

俺様は頭に血が上ると後先考えずに行動するって悪い癖があるから、今回もそれが出ちまっただけで……

イブキに叱られてるから直さないとダメなんだがな……

……ってか、陸八魔のヤツ距離が近すぎないか!?

 

「ちょ、陸八魔!?落ち着け!どうしたんだ急に!」

 

もう目と鼻の先だぞ陸八魔アル!

俺様とお前はさっきまで険悪だっただろ陸八魔アル!

そもそも俺様達ほぼ初対面だろ陸八魔アル!

 

「お、おい!なんとかしてくれ!お前らの上司だろ!」

「えー、面白いしパスで〜♪」

「また始まった……」

「目をキラキラさせているアル様もカッコいいです!」

 

ダメだこいつら役に立たねぇ!!!

おい鬼方!多分だけどお前がツッコミ役だろコレ!

役割を放棄すんな!

 

「どうやったら貴方みたいな並外れた度胸を身につけられるのが、是非教えて……」

 

陸八魔が俺様の手を取る勢いでさらに距離を詰めてきた瞬間だった。

不意に、遠くから何かを爆発させたような音が鳴り響いてくる。

 

(……?なんだ今の音……?)

 

陸八魔が目の前に居るのも忘れてその音を不審に思っていると……

 

ーーーズガァァァァァァン!!!ーーー

 

突如、店の外から爆撃音が鳴り響いた。

 

「なんだ!?」

「敵襲!?」

 

その音を聞いた瞬間、俺様と便利屋は即座に戦闘態勢に移行した。

それぞれが銃を手に取り、俺様は折りたたみシールドを展開して大将の側に駆け寄る。

 

「大将!俺様の側から離れないでください!」

「タツミくん!?な、何が起こってるんだ!?」

「分かりません!けど、多分ろくでもないことなのは確かです!」

 

大将を守るように盾を構え、俺様がこの爆発音の原因を探るために頭を回し始めた瞬間だった。

 

ーーーズドォォォォォン!!!ーーー

 

突然建物を襲う衝撃、熱気、地鳴り。

間違いなく近くで砲撃か何かが炸裂したような爆音。

大量の土煙が舞い上がり、ガラガラと言う音を立てて建物が崩壊し始める。

 

「……マズい!便利屋ッ!」

「えぇ、分かってるわ!」

 

俺様が陸八魔と共に大将を店の外へ誘導しようとした瞬間だった。

間髪入れずに次の砲撃であろう攻撃が炸裂する。

 

「ぐっ……!」

 

それでも俺様は歯を食いしばり、なんとか引き戸を開けて大将を建物の外へと避難させる事に成功した。

周囲をぐるりと見渡すと、道路や建物がえぐれ、そこからもうもうと土煙が立ち上っている。

 

「大将!?無事ですか!?」

「あぁ、なんとかな。タツミくん達が守ってくれたおかげだよ、ありがとう。」

 

大将の安否を確認するが、ケガはないようだ。

とりあえず大将を無事に逃がせたことにホッとする。

 

周囲を見渡すとツンと鼻につく火薬の匂いが周囲に広がり、柴関ラーメンはもはやギリギリ原型をとどめているだけの瓦礫の山になっていた。

その変わり果てた店を見て、俺様は一気に頭に血が上っていくのを感じる。

 

大将が汗水流してやっと構えた年季のある店を……

大将が仕入れた食材を……食いモンを……

大将が頑張った年月を……俺様が好きな柴関ラーメンを……

こんな風にしやがったのは……どこのどいつだ!?

 

「この砲撃跡……間違いない、50mm迫撃砲だね。」

 

鬼方が爆心地のえぐれた道路を見ながら冷静にそう分析する。

50mm迫撃砲。広範囲を爆撃して瓦礫の山に変えることが出来る破壊力抜群の兵器だ。

そして【ゲヘナ風紀委員会】の主力兵器でもある。

 

「50mm迫撃砲!?そ、それってまさか……」

「……そんなモンを兵器として運用できるところなんて1つしかねぇだろッ!」

 

俺様は地面を殴りつけ、大声で叫ぶ。

 

「……陸八魔、頼む。力を貸してくれ。」

「えぇ、分かってるわ。依頼料は今回は初回サービスって事にしておいてあげる。特別よ?」

「ソイツはありがたいね……!」

 

俺様と陸八魔は顔を見合わせるとお互いに頷いた。

それぞれが銃を構え、臨戦態勢に入る。

俺様は爪が食い込むくらいに手を握りしめながら、砲撃された方角を睨みつけた。

 

「仕事よ。ムツキ、カヨコ、ハルカ。私達に良くしてくれたラーメン屋を爆破された敵、必ず取るわよ!」

「はーい!全部ぶっ壊すしか無いよねッ!」

「今回ばかりは正面衝突もやむを得ないね……」

「は、はいアル様!アル様に害をなす者は私が消しますのでっ!」

「……ありがてぇ。よろしく頼むぜ。」

 

絶対に……絶対に許さねぇぞ。

覚悟しろよ、ゲヘナ風紀委員会!!!

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