転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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ドーナツトラップの成果はあるのか。


合歓垣フブキと丹花タツミ

と言うわけで、脱出ポイントへ向かう道中の妨げとなっている中務と合歓垣をなんとかするためにトラップを仕掛けることとなった俺様達は月雪の手によってトラップを仕掛け終わったあと、彼女たちが引っかかるのを待つために物陰に隠れることになったわけだが……

 

(……本当にあんなトラップで大丈夫なんだろうな。)

 

目の前に置かれているダイナマイトの上にドーナツを乗せ、更にその上から棒で立てた段ボールを被せただけという子どものおもちゃみたいな罠を見ながら俺様は内心で頭を抱えながらため息を吐き出していた。

 

確かに合歓垣がドーナツに目がないと言うのはたまに生活安全局に顔を出したときに署員達からよく聞く話だったし、ドーナツが置いてあるなら何らかの反応を示してくれる可能性自体はあるだろう。

けど、いくらなんでもあんな古典的かつ罠だってバレバレのふざけたものに引っかかってくれるかと言うと流石に無理があるのでは……と言わざるを得ない。

 

何度も言うけど、合歓垣は普段はダウナーでよくサボっているけどいざという時はきちんとヴァルキューレの警察官としての正義感を持って動くことの出来る奴だ。

それに合歓垣は先生とともにRABBIT小隊と戦ったときのことからも分かるように、ああ見えて結構頭の回転が早いタイプだからな。

 

それに生活安全局の本部には合歓垣だけじゃなくて中務もセットで居ると言うことが話し声から分かっている。

中務は射撃の腕こそ壊滅的なものの、それ以外は真面目で義理堅い警察官の鏡のようなやつだしこんなトラップを見たら一瞬で怪しまれるに決まっているだろう。

 

「おい月雪。本当に大丈夫なんだろうな。」

「大丈夫です、この作戦なら必ず行けます。」

 

俺様は流石に不安になって月雪にそう問いかけるが、月雪は自信満々の笑みを浮かべながら自作した典型的なトラップを見ながらそう言いきった。

なんでこいつがこんなに自信満々なのかは良く分からないけど、そこまで言い切られるとちょっとだけ本当に大丈夫な気がしてくるから驚きだ。

流石SRTの小隊の隊長を務めているだけはある。

 

……しかし、隊長が自信なさげだと部下がついてこないからもっと堂々としろとは言ったけどこの短時間でこの自信の付きようは一体なんなんだろうな。

まぁこんな状況でずっと悩まれているよりはよっぽどいいことなのは間違いないけど、これはこれで複雑だ。

 

「うわっ、もうこんな時間?どうして私達まで残んなきゃいけないのさ。侵入者なんて警備局や公安局の方でなんとかしてくれればいいのに……」

「フブキ!確かに今は警備局の方達や公安局の方達が戦ってくれていますけど私達生活安全局も予備戦力として残ってくれと言われたんですよ?なら、そんな気を抜かずにいつでも出動できる準備をしないとですね……!」

「上も普段は私達のことボンクラだのなんだの言ってるくせにこういうときだけ調子がいいんだからなぁ……」

 

そんな事を脳内で考えていると、生活安全局の本部の部屋の中から中務と合歓垣の会話する声が聞こえてくる。

 

「フブキ!」

「もーキリノは相変わらず真面目なんだから。うーん、もう適当にパトロールっぽい動きでもしてさっさと帰れば良くない?明日だって仕事なわけだしさ。」

「そんなわけないじゃないですか!確かに明日も出勤なので本官も本音を言えば早く帰りたいですけど、上の指示なのですから勝手に帰ると始末書ものですよ!?」

「まぁそうだよね……はぁ、面倒くさいなぁ……」

「ちょっと、どこへ行くんですかフブキ!?」

「喉が乾いたから飲み物でも買ってくるよ〜。」

 

二人は部屋の中でそんなやり取りをすると、やがて部屋のドアがガチャリと音を立てて開き中から特徴的なツインテールを揺らしながら合歓垣が廊下へと出てきた。

 

「さて、それじゃあ自販機に……ん?」

 

そして恐らくそのまま飲み物を買うために自販機へ向かおうとしたのだろう。体の向きを変えようとしたところで……彼女は目の前に置かれている例のふざけたトラップを視界に入れた瞬間その場で硬直する。

 

「……なにこれ?」

 

ご丁寧に【フリードーナツ!】と段ボールに書かれているトラップをジロジロと見つめながら、不審そうに腕を組みながら首を傾げる合歓垣。

 

「……」

 

その後も彼女は無言でトラップを見つめ続けた。

その表情には明らかに困惑の二文字が浮かんでおり、周囲をキョロキョロと見渡しながら目の前に置かれているトラップに視線を戻す作業を何度も繰り返し……やがて呆れたような表情を浮かべると口を開いた。

 

「……え、バカにされてる?」

 

心底面倒くさそうな声色で吐き捨てるようにそういう合歓垣。いや……まぁ……うん、そりゃそうなるわな。

 

「どこの誰が仕掛けたのか分からないけど、こんな悪質な罠……相当なバカじゃない限りこんなバレバレのふざけたトラップに引っかかるやつなんていないって。」

 

うん、俺様もそう思う。至極真っ当な意見だ。

と言うか……おい、どうすんだよ月雪。

お前が自信満々に行けるって言ってたトラップ、速攻で引っ掛ける相手に看破されてるんだが?

あの様子だととてもじゃないけど引っかかってくれそうそうにないし、下手を打てばこっちの存在がバレる可能性だってあるし余計に危険な気がするんだけど。

 

「いくらドーナツが好きだからって、こんなものを仕掛けられるなんて私も甘く見られた……」

「それ、マスタードーナッツの限定ドーナッツだぞ。しかもマシュマロ入りの。」

 

怪訝な表情でそう言う合歓垣に対し、俺様の横で息を潜めていた空井が突然明らかに合歓垣に向けた言葉をかなりの声量で言い出し始める。

 

「おいバカお前、そんな声量で喋っちまったら隠れてる意味が無くなるだろ……!」

 

俺様は空井のあまりにも軽率な行動にぎょっとすると、慌てて手のひらを空井の口へ当ててもう片方の手の人差し指を自分の口へ当ててしーっと空井へ合図を送る。

空井は最初俺様に口を塞がれたことにかなり驚いていた様子で顔を真っ赤にしながら目を見開いていたが、やがて自分の軽率な行動を自覚したのかコクリと頷いた。

ひとまずこれで空井がこれ以上この場で余計なことを言う心配はなくなったけど、事実として彼女が発した声によってこちらを察知された可能性は限りなく高い。

 

くっ……仕方ない。

手荒な真似はなるべくしたくなかったけど、こうなってしまってはもう実力行使するしか……!

 

「……マジで!?あの開店から突撃しないと買えない1日10個限定のめちゃくちゃレアなやつじゃん!」

 

そう思った俺様がブークリエを構えるために背中に背負った相棒のグリップに手をかけたその瞬間だった。

合歓垣にとってはどこからともなく聞こえてきた得体の知れない声だったはずの空井の言葉を聞いた彼女はそれをすっかり信じ込んだようで、目の前に置かれているドーナツを見ながらキラキラと目を輝かせている。

 

(……え?)

 

そんなまるで宝物を見つけた子どものような視線を浮かべる合歓垣を見て、俺様は思わずブークリエのグリップを握った状態のままその場で硬直した。

……いや待て待て、ツッコミどころが多すぎるだろ。

 

そもそもなんで合歓垣は得体の知れない怪しい声のはずの空井の言葉をそんなすんなり信じてるんだ!?

普通どこからともなくそんな言葉が聞こえてきたら普通は周囲を警戒するだろ!何で警戒するそぶりもなく目の前のふざけたトラップの餌であるドーナツを嬉しそうな表情を浮かべながら見てんだよお前はぁ!

いくらこいつがドーナツが好きだからと言っても、限定品だって聞いただけで怪しい要素を何もかもふっとばした上で目の前のドーナツに夢中になるなんて……

まずい、頭が痛くなってきた。

 

「……女ってのは良く分かんねぇな。」

「いや、多分あれは例外だと思うよタツミくん。」

 

俺様が痛む頭を抑えながら苦々しげにそう呟くと、横で見ていた霞沢がそんな言葉を口にした。

その後も俺様達は物陰から息を殺して合歓垣を観察するが彼女が俺様たちに感づいた様子は一切無く、ただひたすら目の前のドーナツを輝いた瞳で見つめている。

 

……合歓垣は頭の切れるやつだと思っていたんだけど、俺様の思い過ごしだったのだろうか。

それともそんなことはなくて、それ以上にドーナツが大好きなドーナツウーマンだったのだろうか。

良く分からないが……いずれにせよ、あの状態であればそのまま罠に引っかかってくれる可能性は高そうだ。

まさか普段なら命取りとなる空井の言葉によって状況が好転するとは……世の中何が起こるか分からんな。

 

「前からずーっと食べたいって思ってた逸品だし……食べちゃってもいいよね?こんなところに置いてあるってことはいらないってことだろうし、バレバレの罠だけどドーナツだけ気を付けて抜き取っちゃえば作動することだってないだろうから……」

 

いや、仮にも女の子がいくら喉から手が出るほど欲しい限定品とは言え道端に落ちているものを拾い食いするのはどうなんだと思わなくはないのだが……と言うか、それ以前にそもそもどう考えても怪しいだろそれ。

 

けど……まぁ……うん。

もうこの際細かい事は気にしないでおこう。

 

「いっただっきまー……」

 

俺様が最早諦めの境地に達しつつそんな事を考えていると、ウキウキしながら合歓垣はドーナツへ手を伸ばす。

そして彼女がドーナツに触れ、そのままゆっくりと持ち上げると……カシン、という音がその場に響き渡った。

 

「……へ?」

 

ドゴォォォォォォン!!!

 

すると次の瞬間、即座にドーナツの下に置かれていたダイナマイトが起爆して爆音とともに大爆発を起こした。

物陰に隠れていてもここまで襲ってくる爆風と熱気に顔をしかめつつ俺様は姿勢を低くしてそれをやり過ごす。

 

なるほど、どうやらドーナツにはワイヤーかなにかがくくりつけられておりドーナツを取ろうとするとワイヤーで繋がれた手榴弾なり爆発物が起動。

そのまま爆発してダイナマイトにも誘爆を起こす……と言った罠だったのだろう。

見た目はともかく、中身自体は実に巧妙に作られたブービートラップだと言える。見た目以外は。

 

「だ、だよね……」

 

ダイナマイトの爆風を間近で食らった合歓垣は口からケホッと黒煙を吐くと、苦笑いを浮かべながらそのまま床へとバタリと倒れ込んだ。

 

「合歓垣……!」

「お、おいタツミ!?」

 

今は敵同士とは言え、流石に一時は一緒に戦った仲の相手があんな風に倒れてしまっては放ってはおけない。

俺様は空井の静止を振り切って物陰を飛び出して彼女へ駆け寄ると腕を取って脈を確認する。

 

……良かった、どうやら気絶しているだけらしい。

まぁキヴォトス人であればあの程度のダイナマイトで負傷するとは考えにくいけど、気絶するほどの威力だったのであれば爆発音を考えてもかなりの火薬の量が使われていたのは明白な事実だろうからな。

彼女に怪我が無くて良かったと俺様は内心で安堵する。

 

UD地区に来た際はヴァルキューレの生活安全局に寄ってその中でも良く話す方だった合歓垣にこんなことをしてしまった罪悪感を感じるが……今は状況が状況だからな。

彼女には全てが終わったら好きなだけドーナツを奢ってやって、許しを請うしかないだろう。

 

「……すまん合歓垣。許してくれ。」

 

俺様はそう呟きながら合歓垣に対して頭を下げると、せめて彼女が硬い床で寝なくてもいいように彼女を抱え上げると近くにあったソファへと寝かせてやる。

ふと合歓垣の手元を見ると、その中にはトラップに使われていたドーナツが胸元にしっかり抱え込まれている。

ドーナツを爆発から守りきって気絶している彼女の顔はどこか満足げな表情に見えた。

 

「……まったく。どこまでドーナツが好きなんだか。」

 

まぁここまでドーナツに対して愛があるのであれば、あのトラップに引っかかったのも納得だがな。

しかし、廊下に等間隔でソファが置かれているのは幸いだった。ここが生活安全局のオフィスの近くで休憩用のソファが置かれている地区で良かったと言えよう。

 

しかしあれだけの爆発だったのに窓ガラスが割れていないどころか、廊下にも特に損傷が見られないとは……

流石警察学校だけなことはある。襲撃を受けたときに備えて造りはかなり厳重なものになっていると言う事か。

 

「まったくこんな時だと言うのに、どこまでもお人好しなんですね貴方は。」

 

そんな俺様を見て、呆れたような表情を浮かべた月雪がこちらへ近寄ってきながらそんな事を言ってくる。

 

「そりゃいくらこんな事態とは言え友達が倒れているのを見たら放ってはおけねぇだろ。」

「貴方の気持ちは分かりますが、今は任務中なのですから人の心配をしている場合ではありません。」

「それはそうかもしれねぇけど、俺様は少なくとも倒れてるやつを見捨てられるほど薄情じゃないんでね。」

「……強情ですね。まぁその方が貴方らしいですが。」

 

そう言うと月雪は呆れながらもどこか楽しそうな笑みを浮かべ、ふふっと笑った。

そんな彼女を見て俺様が首を傾げていると、空井と霞沢も物陰をでてこちらへと歩み寄ってくる。

 

「……まさか本当に行けるとはな。」

「私もどうかと思ったけどミヤコちゃんの案だったし……結果的に上手く行ったから良かったんじゃないかな。」

 

……おい、なんだかんだ言いつつやっぱお前らも作戦には懐疑的だったんじゃねぇか。

まぁそりゃあんなバレバレのふざけたトラップを仕掛けるなんて、普通はそうなっても仕方はないんだが。

 

「まぁ、私としても半分は賭けでしたが……上手く行って良かったです。」

 

いや半分は賭けだったのかよ!?

それでよくあんなドヤ顔が出来たもんだな……

いくら組織のトップは焦っているところや不安な所を見せてはいけないとは言え、あそこまで自信満々に振る舞えるのは上に立つ者としての確かな才能を感じる。

この作戦が終わったら羽沼議長にでも指導してもらえばいいじゃないか?

きっともっと余裕のある振る舞いを覚えられるだろう。

 

「いずれにせよ、ひとまず目の前の脅威は排除できました。先に進むとしましょう。」

「そうだな……いや、ちょっと待てRABBIT1。」

「どうしました?」

「合歓垣を無力化出来たのはいいが……何か重要なことを忘れているような……」

 

俺様と月雪が顔を合わせそんな会話をしたときだった。

 

「フブキ!?今の音は一体……えっ!?」

「あっ……」

 

突然生活安全局のオフィスの扉が開いたかと思うと、中から血相を変えた中務が勢い良く飛び出してくる。

中務は俺様達を見た瞬間目を見開き、やがてそのまま俺様達とソファに気絶して寝そべっている合歓垣をしばし交互に見つめたあと……やがてハッとしたようなような表情を浮かべながら腰から拳銃を引き抜く。

 

「し、侵入者っ……!?」

 

中務はそのまま構えた拳銃を月雪へ向けると、キッと睨むような表情を浮かべて俺様達を見据える。

しまった、ダイナマイトに巻き込まれて気絶した合歓垣を介抱することに気を取られすぎてまだ生活安全局の本部の中にいる中務のことをすっかり忘れていた……!

そりゃオフィスの外からあんな爆音がしたら飛び出してくるだろうし、それが合歓垣がオフィスから外に出ているときなら尚更に決まっている。

いくら友達が目の前で爆発に巻き込まれたからと言ってこの状況でなんというミスを……くっ、自分で自分をぶん殴ってやりたい気分だがそうも言っていられない。

 

「ちぃ、やるしかないか!」

 

背中からブークリエを引き抜き、盾を展開して構える。

そして月雪を始めとした他の隊員達もそれぞれの武器を構えながら、俺様達と中務は互いに睨み合うのだった。




キリノに見つかってしまった!(当たり前)
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