一体どうなるのか
月雪の仕掛けたトラップにより合歓垣の無力化には成功したものの、爆発音で中にいる中務に察知されてしまった俺様達は拳銃をこちらへ向けて構える中務とお互いに睨み合いながら対峙していた。
「こんな所で侵入者と会うとは想定外でしたが、そこで止まってください!今から本官の指示に従って手を上げて武器を捨てて降伏を……」
「いや、この状況でするわけないだろ。」
中務はこちらを睨みながら大声で降伏勧告をしてくるが空井は中務へ銃を向けながらピシャリとそう言った。
まぁこの状況ならこちらが相手より数でも実力でも勝っているのは間違いないが、中務は射撃の腕はともかく近接格闘術においては光るものを持っている人物だ。
数で勝っているとは言え、決して油断していい相手ではないだろう。
「あ、貴方達は……!?」
そんな彼女は言葉を発した空井を見て驚愕で目を見開くと続いて月雪、霞沢と視線を忙しなく移していく。
そして最後に俺様をチラリと確認したあとに、鬼気迫る表情で口を開いた。
「まさかとは思いましたが、侵入者とは貴方達のことでしたか!」
「えっと、貴方は確か……」
「先日はお世話になりました。生活安全局のエース、中務キリノです!」
そう言うと、中務は自信満々な表情をこちらへ向ける。
……なんと言うか、白髪の生徒って言うのは揃いも揃って何故こうも自信満々なやつが多いのだろうか?
空崎委員長は違うけども。
まぁでも確かに中務の正義感はヴァルキューレの中でも突飛して高いものと言えるし射撃の腕前は壊滅的なものの、近接格闘術の方は優秀だしパトロール中に市民の皆から慕われている様子からみてもあながちエースというのは間違っていないのかもしれない。
少なくとも、この前の小ウサギ公園のこいつらによるテロまがいの行為を前にして何の恐怖も抱かずに市民を守るために戦いに身を投じたその心は称賛に値するのは間違いないだろうからな。
「何やら一名見覚えのない方もいらっしゃいますが……ともかく、こんな夜中に校舎への不法侵入などこの本官が許しませんよ!」
……それに関しては彼女の言う言葉が超正論なだけに何も言い返すことが出来ないな。
いくら俺様達がヴァルキューレとカイザーの不正な取り引きを追うため、ひいてはその裏にいる連邦生徒会でクーデターを企む黒幕に証拠を叩きつけるために動いているとは言えそんな事情を明かすわけにはいかない。
となると中務からすれば俺様達は夜中に自分の通う学校の校舎へ侵入して暴れている不審者に他ならないし、ヴァルキューレの生徒である以上はここで拘束しようとするのは至極当たり前の話だろう。
と言うか、俺様はDU地区に来たときに何度か生活安全局に寄って中務とも喋ったことがあるし一緒に戦った事もあるから変装しているとは言えバレないか心配だったのだが……今のところバレている様子はなさそうだな。
「ちっ……暑苦しいのが来たな。」
「ミヤコちゃん、どうする?」
目の前でこちらへ銃を向ける中務を見て、心底面倒くさそうにそう言う空井と不安そうにそう言う霞沢。
そんな隊員たちの言葉を受け、月雪は少しその場で考え込むような仕草を見せるとやがて口を開いた。
「……先日は撃たれましたが、情報によるとこの方の射撃は命中率が著しく低いと言うデータがあります。」
「うぐっ……!た、確かに銀行強盗等で犯人を打とうとしたら人質に銃弾を全て当ててしまった事や狙った的に弾が当たらないことはありますけど、貴方にそんな事を言われる筋合いはありません!」
いや、それはそうなんだけど……流石にひどすぎるだろ。
そこまで行くと本人の中の腕ってよりかは支給されている拳銃の銃口が曲がっているか、それかライフリングが掘られてないんじゃないかってレベルなんだが……
命中精度が昔の当たらないマスケット銃並みすぎる。
だって中務の持っているのは拳銃だぞ?
生活安全局に支給されているのはリボルバー式のものだし、マガジンを使用するオートマチック拳銃に比べると型は古いものの動作製には信頼のあるタイプの銃だ。
俺様のブークリエみたいな扱いの難しい銃ならまだしも反動も少ないし、銃身も軽いからしっかり構えれば狙った的に弾を当てることくらいは容易なはず。
なんか、そこまで行くともはや逆にそれはそれで一つの才能なんじゃないかと思えてくるな。
「……どうする?RABBIT1。」
「無視します。総員、引き続き前進しますよ。」
「……は?」
俺様は盾の後ろへ身を隠しながら月雪へ問いかけるが、月雪から帰ってきた答えは俺様のまったく想定しないものだった。
「……いや、流石にそれはまずいだろ。確かに彼女の射撃の腕では自分でも言っているように低いようだが、だからって何もせずこのまま素通りってのはどうなんだ。いくら脅威度が低いとは言えこっちは姿を見られているわけだし、決して侮れる相手じゃないぞ。」
それにここで中務を無視して素通りしてしまうと応援を呼ばれる可能性だってあるわけだし、その過程で侵入者が元SRT所属だと言う事もバレてしまうだろう。
恐らく不知火カヤにはもうその事は筒抜けだろうからそこに関しては大した問題はないと思うが、ヴァルキューレの生徒達の事を思うとそうも行かないからな。
合歓垣を無力化した以上、ここは心苦しいが心を鬼にして中務も無力化したほうがいいのは間違いない。
「そもそもフブキさんを無力化したのはここを通るときにバレてはまずいからという理由です。ならキリノさんに見つかってしまった今、彼女をこの人数で無闇矢鱈に痛めつける必要はないでしょう。」
「だから強行突破すればいいってか?いつの間にそんな滅茶苦茶な作戦を思いつくようになったんだお前は。」
「滅茶苦茶なことは百も承知です。ですが今の私達には時間がない……それに貴方が私に言ったのですよ?隊長であるならば臆していけない、と。」
「そりゃ言ったけど、まさかその一言でそこまで吹っ切れるとは俺様も思っちゃいねぇっつーの。」
月雪はこちらへ向けて不敵な笑みを向けてそう言い、俺様はそんな彼女を見ながら苦笑いしつつ言葉を零す。
どうやら我らが隊長様の意思は固いらしい、なら俺様達隊員のやるべきことはたった一つ。
隊長を信じ、突き進むだけだ。
「なら殿は任せてもらおう。」
「元よりそのつもりです。彼女を撒くまで背中は貴方に預けますからね、テンポラルRABBIT。」
「あぁ、任されたぜRABBIT1。」
さて、そうと決まれば善は急げだ。
俺様達は互いに頷き合うと月雪はすかさずハンドサインをだし、それに頷いたポイントマンの空井がまず脱出ポイントまで続く廊下へと足を踏み入れる。
続いてその後をすかさず月雪と霞沢が追いかけ、俺様は霞沢の後ろを守るような形で殿のポジションに付いた。
いくら中務の射撃の腕が壊滅的とは言え、撃たれることを考慮すれば守りを固めておく必要があるのは明白。
元より俺様は盾を所持している以上攻撃を引き受けるつもりでいたし、月雪の配置はこれ以上ない程正確だ。
何の不満もないだろう。
「え、えっ?ちょっ、どういうことですか貴方達!?」
そんな俺様達の姿を見て、中務は明らかに動揺したような様子でその場で声を張り上げた。
まぁそりゃ銃を向けて対峙していた連中が自分を無視して先に進もうとしていならばそうなるのも無理はない。
気持ちはめちゃくちゃよく分かる。
「止まってください!う、撃ちますよ!?本当に撃たないといけないんですけど!?」
中務はこちらへ拳銃を構えながらそう言うが、よく見ると彼女の両手はぷるぷると震えている。
恐らく自分の射撃の腕の無さを自覚していて苦手な射撃を行わなければならない事に動揺しているのだろう。
「では総員、脱出ポイントへ向かって前進!」
そんな中務を尻目に、月雪の指示とともに空井を先頭に動き出すRABBIT小隊の面々。
俺様は彼女たちの動きを把握しつつ中務へ向かって盾を構えるが、俺様達の動向を視線で捉えている中務は銃を構えながらその場で青い顔をしている。
……真面目な彼女のことだ。
きっと、このままではせっかく遭遇した不法侵入者をみすみす撮り逃してしまうと責任を感じているのだろう。
元はと言えば夜勤中だった彼女にとって今回の騒ぎで落ち度なんて一つもなく、俺様達が潜入したからだと考えると俺様の中で罪悪感が湧き上がってくる。
「……一つ忠告しておこう、そこの警察官。」
そう考えると居ても立ってもいられなくなり、俺様はできるだけ意識して正体がバレないよう低い声を出しながら彼女へ声をかける。
「な、何ですか?」
「いいか、まずお前の犯人に立ち向かっていくその心意気は立派だし尊敬されるべきものだ。」
「そ、そうですか?いやぁそれほどでも……」
……おい、俺様はお前から見たら不法侵入者なんだぞ。
そんなやつに褒められたからってヴァルキューレの生徒が照れたような笑顔を浮かべるんじゃない。
もし尾刃局長がこの場にいたら大目玉を食らうぞ。
「ただし、警察官たるもの敵の前で弱みを見せるのはよくないだろうな。その様に銃を構えている手が震えていては射撃に自信がないと言う言葉を裏付けているようなものに他ならない。違うか?」
「そ、それは確かにそうかも知れませんが……!」
「だから虚勢でも何でもいい。胸を張れ。ハッタリでもいいから堂々と自信満々にしていろ。犯人の前で弱みを見せればつけ込まれるぞ、今回のようにな。」
そう、月雪に言われて動揺したことと言い拳銃を構えている時の手が震えていることと言い……彼女の言動からは射撃に自信がないことがありありと伝わってくる。
もし現場でそのような姿を見せたとして、犯人はつけあがるだけで何一つ良いことがないのは確実だ。
実際、今回だって月雪にそれを利用されてこうやってスルーされるって方針を取られているわけだしな。
ならどうすればいいか。
答えは簡単。堂々としていれば良いのだ。
人ってのは馬鹿な生き物だから、例え射撃が苦手だったとしても自信満々にしていれば勝手に不安を抱くもの。
その点、中務は良くも悪くも正直すぎるんだよな。
もちろんヴァルキューレの警察官にとって誠実であると言う事は大切だし、彼女の気持ちいいくらいに正直なところは中務にとっての長所でもある。
愛嬌があって真面目でバカ正直な彼女はまさに警察官の鏡のような存在と言ってもいいだろう。
その素直さや市民のことを思う気持ちはヴァルキューレのどの警察官にだって負けていないとも思う。
けど、それはこういう戦いの場においては時には短所にだってなり得る……と言う事を知っておいてもらいたい。
生活安全局に所属しているから戦いとは縁がないと言えばそれまでだけど、彼女が常々口にしている警備局に入りたい……と言うことを考えるなら尚更だ。
「言いたいことはそれだけだ。じゃあこっちは先を急ぐんでな。また機会があればどこかで会おう。」
そう言うと、俺様は既に進み始めている隊列の最後尾に位置する霞沢を守るように盾を動かしつつ中務を正面に捉えながらジリジリとすり足で後退を始める。
「ま、待ってください!というか貴方のその盾と銃……どこかで見たような事がある気が……!」
中務はそんな俺様を見てこちらを手を伸ばすが、生憎今はこれ以上彼女に付き合っている暇はない。
居ても立ってもいられなくてフォローしてしまったけど、この経験を活かして彼女が少しでも念願の警備局に入れるような糧になることを陰ながら祈っておこう。
そんな事を思いながら、俺様は最後尾で殿を務めつつ脱出ポイントまでの道のりを進んでいくのだった。
なお、その後中務は何かを叫びながら手にした拳銃をこちらへ向けて発砲してきたのだが……全て明後日の方向へ弾が飛んでいったことは最早言うまでもないだろう。
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「……タツミさんはどうやら無事に脱出地点まで移動できているようですね。最もあの方の腕を考えればヴァルキューレの腰抜け達では太刀打ちなど出来ないでしょうから当然と言えば当然の結果ですが。」
「懸念があるとすれば……間違いなく不知火カヤが送り込んできているであろうFOX小隊の存在でしょうか。気配からしてヴァルキューレ本部へ居るのは間違いありませんが……どこで仕掛けてくるのか分からない以上は警戒を続けるべきでしょう。」
「仮に彼女たちがタツミさん達に強襲を仕掛けるとなるとタツミさんはともかく、行動を共にしているSRTの生徒では相手をするのは力不足と考えると……RABBIT小隊を守りながらFOX小隊を相手にするのはいくらタツミさんと言えど危険と言わざるを得ないですね。」
「……今は騒ぎを起こさぬよう隠密行動をしておりますがいつでも出られる準備をしておきましょう。」
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(……ダメだな。まだ通信が回復しねぇ。)
(となると最早脱出まで外部からの助けは望めないと言っていいだろうな。今のところは順調だが、あの用意周到な黒幕のことだ。用心するに越したことはない。)
(一応万が一に備えてワカモにヴァルキューレの本部の外で待機しておいてくれと言ってはいるが……あいつがどう動くかも未知数だし当てにはしない方がいいな。)
(……この先、何もなく無事に脱出出来ればいいが。)
そろそろFOX小隊が出てきます