「最近、タツミくんが万魔殿の議事堂に居る時間が少なすぎると思うんだよね!」
「……はい?」
とある日の昼下がり。
いつものように万魔殿の執務室にて大量の書類を捌き終えた俺様は一緒に執務をしていた先輩たちやイブキと共にしばし休憩を取っていたのだが、そこで突然元宮先輩がそんな事を言い始めた。
「突然どうしたんですか元宮先輩。」
「どうしたもこうしたもないよ!言葉通りの意味で、最近タツミくんってば出張や外交ばかりで議事堂に居る時間が少ないと思うって話だよ!」
コーヒーを注いだマグカップを片手にずいっとこちらへ身を乗り出しながらそう言ってくる元宮先輩。
「そーそー!おかげでイブキ、お兄ちゃんと遊んでもらう時間がすっかり無くなっちゃったもん!」
「うぐっ……そ、それは本当にごめんなイブキ。」
元宮先輩の言葉に同意するように、少し頬をぷくっと膨らませながらそう言うイブキ。
流石は俺様の妹だけあって怒ったイブキも犯罪級に可愛いのだが、イブキを悲しませちまったのは良くない。
思えば確かに最近は仕事仕事でめっきりイブキにかまってやれる時間が減ってしまったからなぁ……
今度、しっかりと遊ぶ時間を確保してやるとしよう。
「確かにそれは私も思っていましたね。マコト先輩はこれ程までに他校へ行くことは無かったのですがタツミになってからは自ら外交へ赴くことが増えましたし。」
続いて、うんうんと頷きながら棗先輩がそう発言する。
「いや、それは羽沼議長の頃は俺様が外交を主に担当してたからって話じゃないんですか?」
「それは確かにそうなんだけど、だとしても最近のタツミは万魔殿を留守にしすぎじゃないかしら?」
「そう言われましても……けど、確かに外交のたびに万魔殿を空けることになって留守を任せて迷惑をおかけしている事は事実です。申し訳ありません、先輩方。」
京極先輩の言葉に対し、俺様は頭を下げつつそう言う。
確かに言われてみれば最近の俺様は仕事とは言えよく万魔殿を空けて他校へ外交へ赴くことが多い。
議長代理をやる前からの仕事の延長と言えばそれはそうなんだけど、その理由としては俺様の方針として他校とはできるだけ友好な関係を築いておきたいから……という目的があったりする。
というのも、ゲヘナはその治安の悪さから何かと他校からは煙たがられる立場にある。
道を歩いていれば銃弾が飛んできたり手榴弾が転がってきたり、建物や道路が爆破されるなんて日常茶飯事。
いつも不良が縄張り争いを繰り広げ、テロリストどもがテロを起こし、それを鎮圧する風紀委員会とのドンパチで毎日騒がしいことこの上ないのがゲヘナだからな。
そんな感じだからやっぱりゲヘナの生徒ってはどうも他校からしてみたら乱暴かつガラが悪いってイメージに見られがちらしく、俺様も始めは外交の場でゲヘナの生徒ってだけで白い目で見られることも割と多かった。
けど実際は知っての通り空崎委員長のような良識のある人物も数多く在籍しているし、みんながみんな何かあれば銃を持ち出すような世紀末の住人ではない。
そんな負のイメージを払拭すべく、俺様は積極的に他校へ働きかけてゲヘナの偏見を取り除いているわけだ。
もしゲヘナに何かしらの危機が起こった場合、仲良くしている学校が多ければ多いほど助けを求められる学校の数もそれに比例して増えていく。
もちろんゲヘナにだって空崎委員長を初めとした戦闘力の高い人達が揃っているから内々で対処することは可能だろうけど、それでも万が一ってこともあるからな。
なので外交を行って他校と仲良くしておくことはゲヘナの、ひいては万魔殿のみんなを守ることにつながる。
それに……あとはまぁ、単純に仕事のためでもある。
今は一応一段落したとは言えトリニティと合同して行っているエデン条約関係の後処理だってまだ終わってるわけじゃないし、百鬼夜行とは今度の交流会の打ち合わせの細部を詰めなきゃいけないし、ミレニアムからも顔合わせの依頼が来ているし、何よりそれ以外の学校とも色々と会談をしなければならなかったりする。
そのため、俺様が万魔殿を空けている間に留守を守ってれている先輩方には本当に頭が上がらないのだ。
「たしかに仰る通り、最近はよく万魔殿を空けることが多いですけど……それも全ては俺様が留守の間に万魔殿を守ってくださる先輩方がいるからです。先輩方がいるから俺様は安心して外交へ赴く事ができる……いつも本当にありがとうございます。感謝していますよ。」
そう言うと、俺様はその場で深々と頭を下げる。
「な、なんかそう言われると照れるわね。」
「……まぁ、こちらとしても外交という面倒な仕事を貴方に任せている立場なのは事実ですしね。こちらこそいつもありがとうございます、タツミ。」
「うんうん、確かにさみしいけどお兄ちゃんはその分いっぱい頑張ってるからね!イブキ、応援してるよ!」
「ありがとうございます。イブキもありがとな。」
「うん!」
棗先輩に礼を言いつつ、俺様の隣りに座っているイブキの頭をぽんぽんと撫でてやるとイブキは花の咲いたような満面の笑みを浮かべつつ嬉しそうに笑った。
うんうん、やっぱりイブキの笑顔は最高だぜ!
「確かにタツミくんはゲヘナのために日々各校を走り回って尽力してくれているから、そのことに関しては私達としても感謝しているしそんな役割をタツミくんに任せちゃって申し訳ないなーと思ってるよ。けどね……」
元宮先輩はこちらを真剣な表情で見つめながらそう言うと、そこで一旦言葉を区切る。
いつになく真剣な表情を浮かべる元宮先輩に、俺様は若干緊張しながら次の言葉を待っていると……
「外交へ行くたびにそこで決まって女の子を引っ掛けてくるのはどういうことなのかな?」
「……はい?」
彼女は、突然意味のわからないことを言い出した。
それも目の笑っていない笑顔で。
「あぁ……それは確かに私も気になってはいましたね。」
「いっつも他校へ行くたびに女の子の連絡先を増やして帰ってくるものねぇ……まったく、油断も隙もないったらありゃしないんだから。」
「いやちょっと待ってください!引っ掛けるってなんですか!?俺様はそんな事してませんって!」
その後妙に威圧感のある雰囲気を出しながらそう言う棗先輩と京極先輩に対し、俺様は声を上げる。
……なんか、場の空気が一気に冷え込んだ感じがした。
「そもそも連絡先の交換って言っても外交のときに連絡を取るために交換してるだけであってですね……!」
「なら普通に万魔殿の議事堂へ連絡をしてもらえればいいだけなのではないですか?仕事の連絡ですよね?わざわざモモトークを伝える必要はないと思いますが。」
「そ、それはそうかもしれませんけど……!」
あかん、何故かは良く分からないけどこうなった先輩方はマズい。上手く説明できないけどとにかくマズい。
なお、イブキは先輩方がこんな雰囲気を醸し出しているにも関わらず相変わらず俺様に頭を撫でられながらニコニコとした笑顔を浮かべて隣りに座っている。
そんなイブキの笑顔を見て、動揺が少し落ち着いた。
「確かになにか用事があれば万魔殿まで連絡を貰えればいいですけど、ちょっとした用事ならわざわざ公的な手続きを踏むのも面倒じゃないですか。モモトークを交換しているのは時間を短縮するためであって決してやましいことがあるからとかではありません。先輩方の心配しているようなことは何もないので安心して下さい。」
「えー、本当に?」
「本当ですって。」
ジト目を浮かべてそう言ってくる元宮先輩に対して、俺様は冷や汗をかきながら言葉を述べる。
「私の調べによると、最近は随分とあの連邦生徒会長代行と仲良くしているって噂があるんだけど。」
「確かにそれは事実ですけど、それはあくまで友人としてです。俺様と彼女は立場的に近いので話も合うから気が合ったってだけの話ですよ。」
「あの無愛想で鉄仮面な連邦生徒会長代行と仲良く出来るって……一体どんな魔法を使ったのタツミ?」
京極先輩は不思議そうな表情を浮かべつつ首を傾げながらそう発言するが……いや、別になにか特別なことを慕って覚えはないんだけどな。
あと七神代行は無愛想で鉄仮面とはよく言われてるけどああ見えて実は結構表情豊かだし、俺様と話してると普通に笑ったりもするからそんなことはないと思うが。
「それにトリニティに行ったときも、ティーパーティの現ホストと仲良くしてるって噂もあるし……」
「桐藤先輩とは何度もエデン条約関係の後処理で顔をあわせていますからね……それだけ会っていれば嫌でも仲良くなりますって。」
「シスターフッドのシスターたちと仲良く奉仕活動をしているって目撃情報もあるけど?」
「歌住先輩たちにはまだ俺様がトリニティに慣れていない頃に数え切れないほど助けていただきましたからね。その恩返しをしているだけですよ。」
「へぇ、それにしては破廉恥な格好のシスターに随分と密着されてたみたいじゃない?」
「……心当たりがないんですが?」
おい誰だよそんな根も葉もない噂を流したやつは!
と言うか破廉恥な格好のシスターって絶対若葉先輩のことだろ!いや確かにもう見慣れたから最近はなんとも思わなかったがよくよく考えたらシスターなのにすごい格好だなとは思うけど本人の前で言うなよまったく!
あの人、格好にそぐわず中身はめちゃくちゃピュアな人なんだからな!
「それに何やら腹黒い事を考えてそうな銀髪のシスターとかオレンジ髪のシスターと仲良く話をしてたって目撃情報も入ってきてるんだけど?」
おい誰だ歌住先輩のことを腹黒いこと考えてそうって行ったやつ!本人が気にしてるんだからその言い方はやめてやれよなマジで!
「それに正義実現委員会と幹部とも仲良く話していると言う目撃情報もあるし……ゲヘナとトリニティは犬猿の仲のはずなのに随分と仲が良いみたいね?」
「い、いや……羽川先輩たちとは成り行き上とは言え一緒に戦ったこともある仲ですしね……ははは……」
と言うかどんだけ目撃情報あるんだよ!?それこそゲヘナとトリニティって犬猿の仲のはずなんだがな!?
「桐藤ナギサ……羽川ハスミ……若葉ヒナタ……歌住サクラコ……見事に3年生ばかりですね。」
「まったく、タツミは年上に好かれる才能でも持っているのかしらね。」
「しかも全員キヴォトスでもトップクラスの美貌の持ち主ですしね!本当にタツミくんはクソボケです!」
「いやクソボケじゃないですけど!?」
そもそもさっきから何の時間なんだよこれ……!?
罰ゲームかなにかなのか!?
「噂によると先生からの好感度もかなり高いようですしね……タツミなら当然ではありますけど。」
「加えて休日は山海経で保育所の手伝いのようなこともしているみたいですしね!そこの子どもたちや保育士達にも随分と人気なようですし。」
「俺様にプライベートはないんすか!?」
なんでそこまで知られてんの!?
逆に怖いんだけどマジで!
「お兄ちゃんはカッコいいもんね!女の子に人気になっちゃうのも分かるよ!……でも、いくら皆に人気だからって誰にも渡さないけどね?」
「い、イブキ……?」
ど、どうしたんだイブキ!
お前までなんか雰囲気が怖いぞ!?
こうして、俺様はその後も異様な雰囲気の先輩方に根掘り葉掘り質問をされるのだった。
なお、そんな中でもワカモとの一連の関係については意地でも隠し通したと言うことだけは言っておこう。
万魔殿でのわちゃわちゃ書くの結構好き