「ねぇねぇお兄ちゃん!」
とある日の昼下がり。万魔殿の議事堂にて。
今日も今日とて執務室のデスクの上にサンクトゥムタワーの如く大量に積み上がった書類を処理し終えて一休みしていた俺様のもとに、ラブリーマイシスターことイブキが元気いっぱいの笑顔を携えてやって来た。
「ん?どうしたんだイブキ?」
「あのねあのね!イブキさっきまでチアキ先輩と一緒にお絵かきしてたんだけど、お兄ちゃんを描いたから見てほしいんだー!」
そう言うと、イブキは自信満々の表情を浮かべながらダボダボの萌え袖で掴んだ一枚の絵を俺様に向かってずいっと差し出してきた。
そこにはクレヨンで描かれたひと目見て俺様だと分かる精巧な絵と、そして俺様と絵の中で手を繋いでいるニコニコのイブキの姿が描かれていた。
「おぉ!こいつは紛れもない俺様じゃないか!」
我が妹が描いた絵のあまりの完成度の高さに俺様は一瞬で目を輝かせると、そんな俺様の表情を見たイブキの表情はみるみるうちに嬉しそうになっていく。
「えへへ!どうどう?上手く描けてる?」
「あぁ!こいつは天才だと言っても過言じゃねぇ!ワイルドハントのどんな天才画家が描いたものよりもこの絵の方が素晴らしいと言い切っても良いぞ!」
「もー、そんなに褒められたら照れちゃうよ〜。」
そうは言いつつも、にへにへとした表情を浮かべながら満足そうにそう呟くイブキ。
そんな我が妹のあまりの愛らしさに俺様は気が付けばイブキの頭に手をおいて左右に動かしていた。
「よーしよし!ありがとなイブキ!俺様は嬉しいぞ!」
「えへへ♪喜んでもらえて良かった!チアキ先輩にも手伝ってもらったんだー!」
「おぉそうか。きちんと元宮先輩に礼は言ったか?」
「うん!ちゃんとありがとうって言ってきた!」
「そうかそうか!偉いぞーイブキ!」
「えへへ……♡」
俺様の手の下で満開の笑顔を咲かせるイブキ。
やだ……俺様の妹……可愛すぎ……?
見てみろよ、目の前のこのイブキの愛らしさを。
まずくりくりしていて大きな黄色い瞳がかわいい。
その瞳の輝きはどんな宝石だって敵わないくらいには綺麗だし、同時に愛くるしさも感じる尊いものだ。
そこにブカブカの万魔殿のコートで包まれた萌え袖、しっかり整えられたサラサラの金髪、トレードマークであるちっちゃい角に羽に尻尾が加わればもう鬼に金棒だ。
我が妹ながら、この可愛さを超える女性などこの世に存在しないと言い切ってもいいだろう。
そのくらい俺様の妹は世界で一番可愛いのである。
うぉぉぉぉ!イブキ最高!イブキ最高!
そんな妹の描いてくれた大切な絵なんだ。
これはもう一生をかけて大切にすると誓うしかない。
「よし、そうと決まれば善は急げだ。早くこの素晴らしい絵を額縁に入れて丹花家の家宝に……!」
「……何を馬鹿な事を言っているんですかタツミ。」
俺様がイブキをひたすら撫でてやりながらそんな事を考えていたときだった。
突然執務室の扉が開いたかと思うと、両手にマグカップを手にした棗先輩が相変わらずのダウナーな雰囲気を漂わせながら入室してくる。
「あ、イロハ先輩だー!」
「……おや、イブキではありませんか。姿が見えないと思ったらこんなところに居たのですね。」
いつものように眠たげな表情を浮かべていた棗先輩だったが、イブキの姿を視認すると柔らかく微笑む。
……というかちょっと待て。
今聞き捨てならないセリフが聞こえたんだが?
「馬鹿なこことは何ですか棗先輩。見てくださいこのイブキの史上最高に素晴らしい名画を。どこに出しても恥ずかしくないと自信を持って言い切れますよ。」
「えぇ、確かにイブキの描いた絵は素晴らしいものですし額縁に入れて飾りたくなるのは理解できます。理解できますけど、その絵を入れたら貴方の言う丹花家の家宝は一体何枚目になるんですか?」
「えっと、この前3枚追加になったから……これを入れれば187枚目ですね!」
「……はぁ。これさえ無ければ本当に非の打ち所のない後輩なんですけどね。」
棗先輩は心底呆れたような表情でため息を吐くと、そのまま俺様の座っているデスクへと歩を進める。
そしてデスクの横までたどり着くと、手にしていた湯気を立てるマグカップのうちの片方をデスクへ置いた。
「どうぞ、インスタントで申し訳ありませんがコーヒーを入れてきましたので。」
「あ、そうだったんですね。わざわざすみません。ありがとうございます、棗先輩。」
「いえ、どうせ私の分を入れるついででしたのでお気にせず。イブキには後でオレンジジュースを入れてあげますからね。」
「ほんと!?わーい!ありがとうイロハ先輩!」
ぴょこぴょこと棗先輩に駆け寄りながら笑顔を浮かべるイブキを見て、つられて笑顔になる俺様と棗先輩。
そのままやり取りを始めた二人を眺めつつ、俺様はマグカップを手にとって棗先輩の淹れてくれたコーヒーをふーふーと冷ましてから口に含む。
淹れたて特有の熱いコーヒーからはしっかりと特有の風味が香って仕事で疲れた俺様を癒してくれた。
「それにしても……マコト議長といい貴方といい、ゲヘナの議長の座に座った人間はイブキの絵を額縁に入れて飾るようにでもなるんですかね。」
「そう言えば羽沼議長もイブキの絵を額縁に入れて万魔殿の家宝として議事堂に飾ってましたよね……くっ、イブキを誑かしたのは許せないけどイブキの絵を額縁に入れて飾るっていう行為自体はものすごく理解できる……!」
「いや、別にマコト議長はイブキを誑かしてはいないと思いますが……と言うかイブキの絵を額縁に入れて飾ることは理解できるんですね。」
「そりゃイブキの絵はこの世の何よりも価値のあるものですからね!いくら金を積んだって買えませんから!」
「それはそうかもしれませんけどね……まったく、相変わらずドの付くシスコンなんですから。」
「もー、お兄ちゃんったらそんなに褒められたらイブキ照れちゃうよ〜。」
「……こちらもドの付くブラコンでしたね。」
棗先輩は諦めたようにため息を吐くと、湯気を立てているマグカップに口をつけてコーヒーを啜る。
「……そう言えばタツミ。」
「はい、どうかしましたか棗先輩。」
「休憩中に仕事の話をするのもなんですが、以前トリニティから来ていた交流会の件はどうなりました?」
「あぁ、桐藤先輩と歌住先輩発案のあの件ですね。今のところ順調に打ち合わせが進んでますよ。この前トリニティに行ったときにその話をして、予定している風紀委員会と正義実現委員会の模擬戦の話もそれぞれの委員長と一緒に進めていますし。このまま行けば予定通り開催できそうですね。」
「そうですか、それは良かったです。……ところで、その打ち合わせをしにトリニティへ向かった日は随分を還りが遅かったようですけど一体何をしていたんですか?」
「別に大したことはしてませんよ。桐藤先輩からお茶に誘われたんで断るのもあれなので少し呼ばれて、正義実現委員会の剣先委員長や羽川先輩とバッタリ会ったので少し話し込んじゃったり、その後はいつも通りシスターフッドに顔を出して歌住先輩達とトリニティに行った時の恒例行事になっている祈祷をしたり……いやー、ゲヘナの生徒である俺様にここまで良くしてくださるなんて本当にトリニティの皆さんはいい人たちですよね。」
まぁ桐藤先輩からはトリニティでも最高級の1杯でゲヘナのビルが買える値段の紅茶を出されて緊張で味が分かんなかったり、何故か羽川先輩の距離がやたらと近かったり、祈ってるときに歌住先輩と若葉先輩の距離がちょっとだけ……うん、ちょっとだけ近かったりそれを見た伊落がなんかやけに威圧感のある笑みを浮かべていた気がしたけど特に気にすることでもないだろう。
「……随分と満喫してきたようですね。」
「いや、確かに楽しかったですけどあくまで仕事で行ってきただけですから……」
「それに最近は山海経や百鬼夜行へも随分と顔を出しているみたいじゃないですか。」
「山海経は元々梅花園の手伝いをしていますし、生徒会長の竜華先輩とは懇意にしていただいているので。百鬼夜行はほら、今度の交流会へ向けて色々と準備がありまして。それに春日先輩も遊びにおいでって言ってくれているので行為を断るわけにもいかず……」
「お兄ちゃん、女の人とばっかり会ってるじゃん……」
「うっ……確かにそうだけど、それを言われるとお兄ちゃんはキヴォトスに居る以上は誰とも会えなくなっちまうから許してくれないかイブキ。」
「……仕方ないなぁ。今度イブキとお出かけしてくれたら許してあげる!」
「よーし分かった!じゃあ今度遊園地に行こう!」
「ほんと!?わーい!お兄ちゃんと遊園地だー!」
「……はぁ、まったくこの兄妹は。」
騒がしくもどこか落ち着いた、そんなやり取り。
このいつもの日常を守るためにも、そしていつかは羽沼議長を入れて六人でまた笑い会える日々を迎えるためにも……俺様はその日が来るまでゲヘナを守っていこう。
「……それじゃあ、今名前の出たメスねk……じゃなくて女についてそれぞれの関係を教えてもらいましょうか?」
「へ?いや別にただの友人ですけど……というか今棗先輩メス猫って言いました!?」
「お兄ちゃん、それはイブキも知りたいな〜?」
「い、イブキもか!?い、いやだから別に何回も言うけどただの友達であってだな……!」
「嘘をつかないでください。ただの友達が卑しく祈りだのなんだのと言う口実で体を密着させたりするわけがないでしょう。」
「い、いやあれは不可抗力と言うか……!というかちょっと待ってください、何故それを!?」
「ふふふ、チアキの情報網を舐めないことですね。」
「いや元宮先輩の情報網怖ッ!?ま、待ってください誤解です棗先輩。確かに祈ってる最中に何故か歌住先輩と若葉先輩にサンドイッチにされてましたけど、別に彼女たちに他意はないですって!」
「……流石にそれは無理があるよお兄ちゃん。」
「なんでだぁぁぁ!俺様は無実だぁぁぁ!」
「さぁ、洗いざらいは吐いてもらいますよタツミ。」
なおその後、俺様が散々絞られたのは言うまでもない。
なんでだ、本当に全員ただの友達だっての……!
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「……ただの友達が特定の異性に体を密着させるような真似をするわけないじゃないですか。まったく、タツミは人の好意にはとことん鈍感なんですから。」
「……まぁ、チアキの情報網によると少し怪しい人物が最近タツミの回りを嗅ぎ回っているようですしね。私達の議長代理に手を出そうとはいい度胸です。しっかりと今後もチアキには監視をお願いしておかないとですね。」
「……トリニティにも山海経にも百鬼夜行にもタツミは渡しませんよ。彼は万魔殿の丹花タツミなんですから。」
イブキとイロハとタツミが並ぶと親子みたいだなーと思ったり