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あの後、瓦礫の山と化した柴関ラーメンを見て再度頭に血が上りつつもまずは無事だった柴関ラーメンの大将を安全シェルターに避難させた俺様と便利屋。
周囲には相変わらず迫撃砲の爆撃が降り注いでいるが、俺様は盾を持ちながら風紀委員会の進軍ルートに便利屋と共に仁王立ちしていた。
「……陸八魔、ありがとう。」
「え、どうしたのよ急に。」
「いや、よくよく考えたらお前達は風紀委員に追われてる身なんだろ?なのに一緒に戦ってくれって頼んでるもんだから今になって罪悪感が……」
「何言ってるのよ、元々追われてるんだから戦いなんて慣れっこだわ。」
陸八魔はスナイパーライフルに弾を込めつつ、風紀委員の布陣している方角を見ながら答える。
「陸八魔……」
「クフフ、まぁあれだけお世話になったラーメン屋を吹っ飛ばされちゃったらね〜?」
浅黄が飄々とそう言う。
「社長。風紀委員の目的はおそらく私達だから、逃げた方が良いとは思うんだけど……」
「……カヨコ。貴方ならもう私の性格は理解しているのではなくて?」
「……はぁ。そんなことだろうとは思ったけど。」
鬼方はどこか諦めたような表情を浮かべたあと、鋭い目つきに変わる。
「消えて下さい消えて下さい消え下さい……!」
伊草はショットガンを抱きしめつつ、何やらブツブツと小声で呟いている。
全員やる気は満々のようだ。
瓦礫の山と化した柴関ラーメンを。
木っ端微塵になった食材を。
思い浮かべるだけで腸が煮えくり返る思いになる。
戦うことは決まった。
あとは風紀委員がどのくらいの規模かもにもよるが、迫撃砲を運用できるってことは少なくとも結構な人数でこちらへ向かってきているのは間違いないだろう。
だが、相手がどれだけ強大だろうが関係ない。
やるか、やらないか。選択肢はそれだけだ。
俺様は息を吐いて呼吸を整える。
「アンタ達っ!」
ブークリエにマガジンを差し込み、チャージングハンドルを引いた瞬間だった。
唐突に、俺様達の背後から聞き覚えのある声がかけられた。
「便利屋!どういうこと!?これはアンタ達の仕業!?」
「黒見!?」
「え……えぇっ!?タツミくん!?」
その声のする方に振り返ると、そこに居たのは柴関ラーメンのアルバイトであり俺様の友人の黒見セリカその人であった。
その後ろには黒見と同じ制服を着た生徒が2人こちらを見ており、さらにその後ろからはスーツを着た大人の女性が……
「えっ……先生!?」
“やぁタツミ。久しぶり。”
「いや、この前シャーレの当番に行っただろ……?」
“あれ?そうだっけ?忙しすぎて随分前のことに感じちゃうなぁ……あはは。”
な、なんで先生がここに……?
と思ったが、確か今は先生が赴任してきて一月以上ってところだから原作的にはアビドスに居てもおかしくはないことを思い出す。
そして、反応を見るにアビドスも便利屋も先生もお互いがお互いに知り合いの様子だった。
“とりあえず皆混乱してるみたいだし、情報交換をしよっか。”
「……そうっすね。」
というわけで、俺様達はそれぞれの事情と情報を交換して状況を整理しあうことになった。
まず俺様。
柴関ラーメン食いに来て爆発に巻き込まれた。
大将は無事だったから良かったが、ラーメン屋と食材を破壊されたことに怒り狂いそうになってる。以上。
次に便利屋。
柴関ラーメン食いに来て爆発に巻き込まれた。
今回の迫撃砲での砲撃は恐らく便利屋を狙ったものだと思われる、と鬼方は思っているらしい。
続いて、先生や黒見を含む【アビドス高校廃校対策委員会】。
この場には先生や黒見の他に2年生の砂狼シロコ先輩と十六夜ノノミ先輩。そして学校に残りホログラム通信機にてサポートをしている1年生の奥空アヤネ。
今は不在だが、3年生の小鳥遊ホシノ先輩の5名がアビドス廃校対策委員会のメンバーらしい。
先生によるといつものように廃校対策のための会議をするために集まると、奥空が爆発を検知した。
その爆心地が柴関ラーメンだったため、大急ぎでここまでやって来て今に至るというわけだ。
ちなみに奥空の情報によると爆発の衝撃波の形状は間違いなく砲撃によるものだったらしい。
俺様達は今回の爆撃がゲヘナ風紀委員によるものであること、風紀委員達がこちらへ向かっていること、大将は無事で近くのシェルターへ避難してもらったことを伝えた。
「そっか、大将は無事なのね……良かった……!」
それを聞いた黒見は心の底から安堵している。
……ホントに間に合ってよかったよ。
「その……タツミくんも怪我はない?」
「おう、大丈夫だぞ黒見。この通りピンピンしてる。」
「……なら良かった。」
俺様がそう言うと、黒見は胸に手を当ててホッとしたような表情を見せた。
「絶対に許さないわよ、ゲヘナのやつら。大将だけじゃなくてタツミくんにまで手を出すなんて……!」
そしてホッとした表情を怒りの表情に変えると、その目に確かな怒りを宿している。
“ありがとう、みんな。”
「大将にはいつもお世話になってるからな。このくらいお安い御用だぜ先生。」
俺様は親指を立てながら先生にそう言った。
「それにしても、まさかセリカちゃんに男の子のお友達が居るなんて初めて知りました♧」
「人間の男の子……初めて見るかも。」
「あはは……」
そしてどうやら砂狼先輩と十六夜先輩は俺様に興味津々のようで、深刻な雰囲気そっちのけで俺様のことを見つめて来ている。
そんな緩い雰囲気が少しだけ流れたかと思うと、再度遠くから爆発音が鳴り響いた。
“……!みんな、伏せて!”
「先生!」
ーーーズドォォォォォン!!!ーーー
先生がそう言った直後、俺様達のやや斜め後ろ辺りに迫撃砲の砲弾が直撃して道路をえぐり取った。
モクモクと土煙を上げ、瓦礫が周囲に散乱する。
俺様は先生の前に立って盾を構えると、飛来する瓦礫を受け止める。
「先生!ケガはないか!?」
“うん、大丈夫。ありがとうタツミ。”
「皆さん、砲撃です!3kmの距離に多数の擲弾兵を確認しました!」
先生の無事を確認していると、先生の所持しているホログラム通信機が起動し奥空が焦ったような表情を浮かべてそう伝えて来た。
「50mm迫撃砲……便利屋やタツミさんの情報と一致しました!狙いはどうやら便利屋の様ですが……」
「……さて、おいでなすったな。」
「兵力の所属、確認できました!ゲヘナの風紀委員会、1個中隊の規模です!」
ホログラム姿の奥空がそう発言する。
……そういや、今日の万魔殿定例会議で風紀委員が1個中隊規模の部隊を編成してるって言ったっけか。
これが目的だったのかよ……!
ロクでも無いことに兵力を動かしやがって……!
いや、まぁお尋ね者扱いである便利屋を捕まえるのは風紀委員の仕事ではあるけど問答無用で他の自治区に迫撃砲をぶち込むのは流石にラインを越えているだろう。
下手したら政治問題になりかねないぞ……!
羽沼議長の情報によると、空崎委員長は今日は別件でゲヘナ自治区の外れまで出張しているらしい。
……となると、ここまで大規模な兵力を動かせる人物など限られているだろう。
まぁそもそもこんな無茶苦茶なやり方、空崎委員長なら容認しないだろうから恐らく彼女の独断だろうが……
……絶対許さねぇからな、天雨アコ!
「風紀委員会が便利屋を捕まえに来たってこと?」
「情報を整理するとその可能性が高いと思われますが……私達に友好的かは判断しかねますね。」
「確かに。砲撃範囲内には私たちもいた。そもそも何の予告もなく柴関ラーメンを爆破しているし……」
「そんな……」
……これ、アビドスは完全に巻き込んじまってる形になってるよな。本当に申し訳ない。
「ゲヘナの風紀委員会は他校の公認武力集団や、便利屋のような部活とは性質が異なります。一歩間違えば政治的な紛争の火種になるかもしれません……」
十六夜先輩が苦い顔をしながらそう言う。
「アヤネちゃん、ホシノ先輩とはまだ連絡がつきませんか?」
「はい、普段ならここまで連絡が取れないことは無いはずなのに……」
「……この状況、私達はどうすればいいのでしょうか?」
重たい空気になるアビドス高校の面子。
「なら、俺様に任せてもらっても構いませんか?」
そんなアビドスの皆に俺様は声を掛ける。
「タツミくんに……?」
「あぁ。まず前提として話すんだが、俺様の所属がそもそもゲヘナだってことを忘れてないか?」
「……あっ!」
ハッとしたような表情を浮かべる黒見。
「おいおい、一応ゲヘナの制服着てるんだが……?」
「き、緊急事態だからそこまで頭が回らなかったのよ!」
顔を真っ赤にしながらそう言う黒見。
……いや、普段からゲヘナの制服に万魔殿のジャケット羽織って柴関ラーメンに行ってたんだけどな?
「それに、今回の風紀委員の目的であろう便利屋の所属もゲヘナだ。仮に戦闘行為になったとしても同じゲヘナ内なんだから政治的な問題にはならんだろ。」
「ん、でもいくら便利屋を捕まえるためと言ってもそれが私達の自治区で勝手に迫撃砲を撃っていい理由にはならない。」
砂狼先輩が手を挙げつつそう言う。
それはまぁその通りだ。その通り過ぎて頷くしかない。
「シロコ先輩の言うとおりです。きっと便利屋の皆さんが問題を起こしたのは事実だと思いますが、風紀委員会が私達の自治区で既に戦術的行動をしたと言うことは政治的紛争が生じるということです。」
「そうですね、他の学園の風紀委員会が私たちの許可もなくこんな暴挙をしてもいい理由にはなりませんし。」
「その通りだわ!これは私達の学校の権利を無視するような真似よ!便利屋を罰するのは私達だし、柴関ラーメンを壊した代償はキッチリ払ってもらわないと!」
砂狼先輩の発言を皮切りに、それぞれが思いの丈を吐き出していく対策委員会の面々達。
“うん、私も先生だから生徒皆の味方をしてあげたいけど今回ばかりはアビドスの皆が正しいと思うかな。”
続いて先生もそう発言した。
「なら、俺様が協力しない理由はないっすね。」
「右に同じだわ、先生。私達もあのラーメン屋には恩義があるの。便利屋の名にかけて力を貸しましょう。」
“ありがとう。アル、タツミ。”
先生はニッコリと笑ってそう言ってくれた。
その言葉に俄然やる気が出てくる。
“でもいいのタツミ?風紀委員とは仲良くしてるんでしょ?”
「そりゃそれなりには仲良くさせてもらってるけどよ、さすがに今回の件は俺様も頭にきてんだ。柴関ラーメンを爆破しやがった落とし前はキッチリ付けさせて貰わねぇと気がすまねぇからな。」
“……君自身が爆撃されたことに対する怒りはないの?”
「ん?それは全くないぞ。俺様が怒ってるのは柴関ラーメンを爆撃されたのと大将が怪我をする可能性があった点だ。そもそも俺様が店に居たことを風紀委員会は知らんだろうからな。」
“タツミ、君はもっと自分の心配をしてね?”
「……分かったよ、すまん先生。」
先生の真剣な表情に俺様はそう答えた。
なんとなく空を見上げる。
「黒見には負けるけど、俺様もあの店のことは大切に思ってた。美味いラーメン、気のいい大将、居心地のいい店……俺様の癒やしだったんだよ、柴関ラーメンは。」
「タツミくん……」
「大将が無事だったのは不幸中の幸いだが、それで済ませられるほど俺様は大人じゃねぇ。」
俺様はブークリエを肩に担ぐ。
「ま、たまには万魔殿らしく風紀委員会に楯突くのも悪くないかもしんねぇしな。」
そう言って、俺様は歯を見せながら笑顔を浮かべた。
柴関ラーメンと食材を爆破された落とし前、利子をたっぷり付けた上で払わせてやるからな。
「まぁ何にせよ、便利屋を捕まえるって大義名分があるとは言え今回のは100%風紀委員会が悪い。万魔殿所属の身としてはそこを突付いてやればいいと思うしな。」
「あの……先ほどからタツミさんが仰っている万魔殿と言うのは何なのでしょうか?」
奥空がおずおずとそう質問を投げかけてくる。
「あぁ、早い話が生徒会だな。俺様はそこの……まぁ役員ってところだ。」
「げ、ゲヘナの生徒会の役員!?アンタ、何でそんな事今まで黙ってたのよ!?」
「え、だって聞かれなかったし。」
「あのねぇ……!」
あと別に生徒会っつっても知名度は風紀委員会のほうが上だしな、羽沼議長の支持率とかヤバいぞマジで。
とはいえ流石に風紀委員でも同じ学校の、しかも万魔殿の人間が現地にいたとなると渋々でも話を聞かざるを得なくはなるだろうからな。
知名度は低いとはいえ、こちとら生徒会だしよ。
「と言うか、黒見は知ってると思ってたんだが?」
「そりゃ店に来たときに万魔殿に所属してるとは聞いてたけど、ただの部活かなにかだと思ってたのよ!」
……いや、ただの部活で書類仕事はしなくねぇか?
まぁ説明してなかった俺様も悪いけどよ。
「まぁそういうわけだから、とにかく矢面には俺様が立つよ。もちろんアビドスの自治区で勝手に戦闘行為を行った責任問題や、便利屋の処遇に関してはアビドスに一任するように話をつけてみる。」
「わかりました、よろしくお願いします。」
頭を下げてくる奥空に対して「気にすんな」と返す。
情報を整理していたら少し怒りも収まってきたようだ。
最初は便利屋と共に風紀委員をボコボコにする予定だったが、アビドスも巻き込んでしまった以上俺様の個人的な怒りに他の自治区を巻き込むわけにはいかない。
便利屋もそれは了承してくれた様子だ。なお浅黄と伊草はヤル気満々だったため少し残念そうな顔をしていた。
そりゃ俺様だって問答無用で戦闘したいのは山々だが、話し合いで解決できるならそれが一番だろうからな。
まぁ、交渉が決裂したら存分に怒りをぶつけさせてもらうとするけども。
とにかくまずはアビドスの自治区で勝手に戦闘行為を行ったことに対する対策委員会に対する謝罪。
次に柴関ラーメンを爆破したことによる、大将や黒見への謝罪と建て直しのための費用を全額負担すること。
最後に今回の件に関しては風紀委員は便利屋を見逃し処遇をアビドス自治区の預かりとすること。
とりあえず、以上3点だけは必ず守ってもらおう。
もし交渉が決裂したら戦闘は避けられないだろう。
そうなったら便利屋と俺様でなんとかするしかない。
アビドスと先生を巻き込むのは避けたい。
「……風紀委員会、こちらへ向かってきます!間もなく接触するかと思われます!」
頭で条件を整理していると、やっとこさ元凶の風紀委員会がお出ましのようだ。
俺様は黒見達に背を向けると、正面からやってくる1個中隊規模の部隊を視認する。
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」
俺様はサラッと何でもないようにそう言い放つと、風紀委員の部隊を睨みつけながら足を踏み出した。
そのまま数歩歩き、こちらへと進軍してくる風紀委員の部隊の真正面で仁王立ちをする。
そして、息を吸い込んで大声で叫ぶ。
「止まれ!ゲヘナ風紀委員会!」
俺様の呼びかけに対し、戦闘を歩いていたゲヘナの風紀委員の足が止まった。
風が吹き付け、俺様の万魔殿のジャケットがはためく。
「あれは万魔殿のジャケット!?な、なんでこんなところに万魔殿が……」
「ど、どうするのこれ!?」
俺様が着ている万魔殿のジャケットを視認したらしい。
先頭付近で進軍をしていた風紀委員達は慌てたような様子で取り乱し始める。
「おいどうした!?進軍停止命令は出ていないぞ!」
そんな様子を見ていると、風紀委員達の列の後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「……やっぱり居るよなぁ、銀鏡先輩。」
風紀委員の列を割って、銀髪ツインテールの風紀委員の切り込み隊長こと銀鏡イオリ先輩が前へ出てきた。
その後ろには火宮の姿も見える。
「一体何が……」
「もう一度言うぞ!止まれ!ゲヘナ風紀委員会!」
「は?なんだお前……って、タツミ!?」
「タツミくん!?何故アビドス自治区に……!?」
銀鏡先輩と火宮は俺様を視認すると、二人とも目を見開き心底驚いたような表情を浮かべている。
“やぁチナツ、イオリ。久しぶりだね。”
「せ、先生まで……!?」
俺様が腕を組んで仁王立ちしながら話していると、いつの間にか隣まで来ていた先生が火宮に声をかけていた。
「こんな形でお目にかかるとは……」
「せ、先生までいるなんて聞いてないぞ!?」
ため息を吐きつつ頭を押さえる火宮に対して、銀鏡先輩は困惑したような表情を浮かべて先生を見ている。
確か既にシャーレの当番に一回は行ったことがあるんだったっけな、風紀委員のみんなは。
「いや、そんなことはどうでもいい!タツミ!何でお前がアビドスに居るんだよ!」
人差し指を俺様に向けつつ、まくし立てるように銀鏡先輩がそう発言する。
「簡単に説明すると、行きつけのラーメン屋がアビドス自治区にあってそこで便利屋とたまたま同じタイミングでラーメン食ってたんすよ。そしたら先輩達の迫撃砲で店が吹き飛んで……って感じっすね。」
「べ、便利屋と一緒にラーメンを食ってたのか!?」
「いや、一緒には食ってないっすよ……?」
と言うか突っ込むところそこなんかい。
「と言うことは、私達はタツミくんに対して迫撃砲を撃ち込んだことに……?」
「まぁ早い話がそういう事だ。いくら便利屋を捕まえるためとは言え、ちょっとやりすぎだろ。なぁ火宮?」
火宮に視線を向けつつそう言うと、火宮の顔からサーッと血の気が引いていく。
そして、フラフラとした足取りで俺様に近づいてきた。
俺様がその行為に首を傾げていると、火宮は俺様の目の前までやって来てそのまま俺様に抱きついた。
彼女の体温がダイレクトに伝わってくる。
「なっ……!?」
後ろから黒見の叫び声が聞こえる。
ちょ、ちょっとまってくれ!なんか色々柔らかいしあったかいしいい匂いするしこれは流石にマズい……!
「……!?お、おい火宮!?」
「良かった……タツミくんが無事で本当に良かった……!」
俺様が突然の事に動揺していると、火宮は悲痛にそう叫んでそのまま涙を流し始めた。
「……っ。」
……まぁ火宮も悪気があってこんな事をしているわけではないだろう。ここで八つ当たりすんのは最低だ。
俺様は火宮の手にハンカチを握らせると、頭を軽くポンポンと撫でてやる。
「……大丈夫だ火宮、俺様に怪我はないよ。」
「すみません!すみませんタツミくんっ……!」
「大丈夫、大丈夫だ。俺様は生きてるから……な?」
俺様は安心させるようにそう言い背中をさすってやる。
「ぐす……すみませんタツミくん。泣きたいのはあなたの方なのに……」
「まぁ怒ってないと言えば嘘になるが……泣いてる女の子をほっとけるほど薄情なやつにはなりたくねぇし。」
「……本当にすみません。」
「おう。……んじゃ、後はお互い風紀委員会と万魔殿の一員として話そうや。」
「……はい。」
そうしているうちに火宮は少し落ち着いたようで、俺様の渡したハンカチで涙を拭うと俺様から離れて風紀委員達の戦列へと小走りで戻っていった。
……ハンカチ持っていっちまったが、まぁいいだろう。
「なんなのあの女……!」
あの黒見さん?何故そんなに不機嫌なんですか?
「その……タツミ、お前に迫撃砲を撃ったのは本当に悪かった。私からも謝る。」
俺様が黒見を不思議そうに見つめていると、心底申し訳なさそうな顔をしつつ火宮を庇うように前へ出た銀鏡先輩が頭を下げてくる。
「けど……タツミ。こっちは便利屋を捕まえるためにここまで来たんだ。」
「……幸い怪我人は出ませんでしたが、勝手にゲヘナ以外の自治区の建物に迫撃砲をぶち込むのはどう考えても一線を越えてるとしか言えねぇっすよ銀鏡先輩。」
「それは……便利屋がそこにいたんだから仕方ないよ。店が壊れたのは不可抗力だし……」
「なら最初にアビドスに説明して許可を取るべきじゃないっすか?少なくとも、俺様の後ろに居るアビドスの方々の反応を見る限り事前に連絡があったとは思えないんすけどね?」
チラリと後ろの黒見達を確認すると、うんうんと首を縦に振っている。
「そ、それはそうかもしれないけど……!」
「……まぁ御託は良いんすよ、銀鏡先輩。」
俺様達を誰かの指示でジリジリと包囲していく風紀委員達を睨みつつ、俺様は息を吐いた。
「俺様ね、今怒ってるんすよ。」
「……迫撃砲をタツミくんに撃ち込んだ件に関しては本当に不可抗力でした、申し訳ありません。」
「ちげぇよ火宮。俺様が怒ってんのは迫撃砲を俺様に撃ち込まれたことじゃねぇよ。」
「……え?」
「俺様が怒ってんのは店を壊されたことに関してだ。」
泣き腫らした赤い目で心底申し訳なさそうな顔をする火宮に対し、俺様はそう口にする。
「だ、だからそれは不可抗力で……!」
「不可抗力かどうかはこの際関係ないっす銀鏡先輩。肝心なのは店が壊れたって事実の方なんで。」
「そんな……!メチャクチャだぞ!」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。」
そんなの納得できるか!と不満気な様子の銀鏡先輩。
……このまま銀鏡先輩や火宮と話していてもラチが明かないな。もっと上の立場の人間を引きずり出さないと。
この2人は恐らく上からの指示に従っているだけだ……
そう思った俺様は、くるりと周囲を一瞥する。
なるほど、1個中隊規模と言う情報に偽りはないな。
俺様たちは気づけば風紀委員に完全に包囲されていた。
便利屋を捕まえるためだけにこんな規模の部隊を編成して迫撃砲まで持ち出す必要があるのかは首を傾げざるを得ないが、そんなことは今はどうでもいい。
「……そろそろ姿を見せたらどうなんですか?」
空崎委員長が不在の今、こんな無茶苦茶な兵力を運用できる人物なんて1人しか居ない。
「天雨アコ行政官!」
一体全体何のつもりなのかは知らねぇが、柴関ラーメンをぶっ壊された落とし前は付けさせてもらう。
「……何故貴方がアビドスにいるんですか。タツミ。」
俺様が呼びかけると銀鏡先輩が所持していたホログラム通信機が起動し、心底面倒くさそうな表情を浮かべた天雨行政官の姿が映し出された。
「何回も説明させないでもらえません……?」
「嫌味に決まっているでしょう。事情はイオリに話していたのを聞いているので把握済みです。まったく、面倒なことをしてくれますね……!」
「……あ?」
この横乳女、この期に及んで嫌味を言っているんだが?
キレてもいいか?俺様キレて良いよなこれ?
「不可抗力とは言え、貴方に爆撃してしまったせいであとで万魔殿のタヌキに何を言われるか分かったもんじゃありませんよ!まったく!」
いや、それはどう考えてもアンタの自業自得では……?
ってか何で俺様悪態付かれてるんだよ!?
「……まぁ、貴方が無事で良かったですけど。」
「え?なんだって?」
「ゴホン!さて……それでは、何故私達が迫撃砲を撃ち込んだのかについてこちらからも説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
そう言って天雨行政官は咳払いをひとつすると、真面目な表情になってそう言った。
「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属、風紀委員会の行政官で天雨アコと申します。」
「……アビドス高校1年生の奥空アヤネです。」
天雨行政官が自己紹介をすると、アビドスからは奥空が代表してホログラム同士でやり取りを行う。
「行政官と言うことは、風紀委員のナンバー2……」
「あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして。」
……その秘書が自分に無断でこんな事を起こしたと知ったら空崎委員長はどんな顔するんだろうな?
何の断りもなく、他の自治区へ大量の戦力を仕向けて何の罪もない飲食店を爆破したなんて知ったら。
「本当にそうなら、そこの風紀委員達がそんなに緊張するとは思えない。」
「だ、誰が緊張してるって!?」
「……なるほど、素晴らしい洞察力です。確か砂狼シロコさんでしたか?」
まぁ天雨行政官ナンバー2張れるだけの手腕はあるからなぁ……それにしちゃ今回のコレはいくら何でも強引が過ぎるとは思うけども。
「アビドスに生徒会の面々だけが残っていると聞きましたが、皆さんのことのようですね?アビドスの生徒会は5名と聞いていましたがあと一人はどちらに?」
「今はおりません、そして私達は生徒会ではなく対策委員会です。行政官。」
「奥空さんでしたよね?それでは生徒会の方はいらっしゃらないということでしょうか?私は生徒会の方と話がしたいのですが。」
「ほう、なら俺様と話しましょうや。天雨行政官。」
ホログラム体の奥空の一歩前に出て、天雨行政官を睨みつける。
「あなたは引っ込んでいてくださいタツミ!今は私がアビドスの皆さんとお話しているんです!話をややこしくしないで頂けますか!?」
「いや、だから生徒会の奴と話したいんでしょ?なら万魔殿である俺様と話せば良いのでは?」
「あーもう!貴方は黙っていてください!」
天雨行政官はしっしと手で虫を払うような仕草をする。
……いい加減キレそうなんだが?
「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上私たちが生徒会の代理みたいなものだから言いたいことがあるなら私らに言いなさいよ!」
黒見が天雨行政官に噛みつく。
「それにこんなに包囲して銃を向けられたままお話しましょうなんて言うのは、お話の態度としてどうかと思いますけどね?」
続いて十六夜先輩が顔をしかめながらそう言った。
「……それもそうですね。失礼しました。全員、武器を下ろしてください。」
天雨行政官がそう指示を出すと、俺様達を包囲していた風紀委員達は手にした銃を次々と下ろし始めた。
「あら……?」
「本当に武器を下ろした?」
「対策委員会の皆さん。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。」
天雨行政官は続ける。
「あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし……やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです。」
……なんだと?
「風紀委員としての活動にご協力を……」
ーーーダァン!!!ーーー
「……何のつもりですか?タツミ。」
「そろそろその口を閉じろ、天雨アコ。」
天雨行政官のホログラムの足元に銃弾が着弾し、俺様が構えたブークリエの銃口から硝煙が立ち上る。
それを見た風紀委員達は一斉に武器を構える。
「さっきからピーチクパーチクうるせぇんだよ……!」
そのまま天雨行政官へブークリエを向けつつ、俺様はそう言葉を絞り出した。
「……銃を下ろしてください、皆さん。」
「で、でもアコちゃん……!」
「下ろしなさい。タツミがケガをしてしまいます。」
「う、分かった……」
天雨行政官の言葉を聞き、俺様に銃を向けていた連中は渋々と言った表情で銃を下ろす。
「まだ違法行為とは言い切れないだと?ゲヘナ学区外でその学区の許可も取らず勝手に戦闘行為を行っておいてよくそんな事が言えるな。あ?」
「タツミさんの言うとおりです!他の学校が別の学校の敷地内で堂々と戦闘行為を行うなんて……自治権の概念からして明確な違反です!」
「しかも下手すれば民間人に被害が出てたかもしれないのよ!?現に私のバイト先はアンタ達の撃った迫撃砲のせいで無くなっちゃったんだからね!?」
奥空と黒見が後ろからそうまくし立てる。
「柴関ラーメンを爆破した責任は取ってもらいますし、便利屋の処遇は私達が決めます!天雨行政官!」
後ろで控えている陸八魔に目をやる。
俺様と視線が交わると、陸八魔は軽く頷いた。
「ん、その通り。」
「まさかゲヘナほどの大きな学園がこんな暴挙に出るとは思ってもみませんでしたが、ここは譲れません!」
「なるほど。そちらの方々も同じ考えのようですね?」
天雨行政官はアビドスのメンバーを確認すると、目を瞑ってため息をついた。
「この兵力を前にしても怯まないだなんて……」
「ハッ、頭数だけ無駄にそろえただけの烏合の衆で何が出来るってんだ?是非教えてくれよ天雨行政官。」
「なんだと!?」
「数だけ無駄に揃えてもそれを指揮する頭が無能なら意味がねぇってこと、教えてやろうか?」
「タツミくん……それは流石に……!」
「すまんな火宮。今は言葉を選べそうにねぇんだ。」
「それはっ……!」
「一々茶々を入れないでくださいタツミ!」
俺様の言葉を聞いて天雨行政官はもちろん、銀鏡先輩や火宮も顔を顰めるがそんなのは関係ない。
今は言葉を選ぶ余裕なんてこっちにはねぇんだからよ。
「……これだけ自信に満ちているのはやはり信頼できる大人の方がいるからでしょうか。ねぇ、先生?」
“……”
「シャーレの先生。あなたも対策委員会と同じご意見ですか?」
“そうだね、便利屋は困った子達だけど悪い子達ではないから。”
「いや、どう考えても悪い奴ではあるでしょ!?」
“でもセリカ、便利屋のみんなはタツミに頼まれて一緒にこの場に居てくれてるんだよ?”
「そ、それはそうだけど……!」
しどろもどろになりながらそう言う黒見。
「ん、とは言え便利屋は私達の学校を襲ってきたし大人しく引き渡すわけにはいかないのは事実。」
「そうですね、彼女たちの背後に居る方の正体もまだ分かっていませんから。先にお話を聞かせてもらいませんとね。」
「そういうわけなので、交渉は決裂です!ゲヘナ風紀委員会!あなた達に退去を要求します!」
続いて口々に思いの丈を発言するアビドスのメンバー。
それを聞いて、天雨行政官は腕を組んで黙り込む。
「……いや、奥空。退去だけで済ませちゃダメだ。」
「タツミさん……?」
俺様は一歩前へ出ると、そのまま発言を続ける。
「まず、そこの行政官がなんと言おうが今回の件は立派な違反行為だ。他の自治区に勝手に侵入、無断で迫撃砲を撃って建物を破壊。その上で自分たちはさも正しいかのような振る舞い。まずは開口一番言い訳より謝罪の1つでもあるのが当然じゃないのか?」
「そ、それはそうですが……」
「とりあえず要求することは3つあるぞ奥空。」
俺様は右手を前に出し、指を3本立てる。
「まず1つ、アビドスの自治区で勝手に戦闘行為を行ったことに対する対策委員会への謝罪。」
「2つ、柴関ラーメンを爆破したことによる大将や黒見への謝罪。あとは店の建て直しのための費用を風紀委員持ちで全額負担すること。」
「最後に3つ、今回の件に関しては風紀委員は便利屋を見逃し処遇をアビドス自治区の預かりとすること。」
「少なくともこれらは突きつけていいし、その上で他に要求があるなら俺様に言え。」
ジャケットをはためかせ、俺様は天雨行政官へと向き直る。
「ウチの羽沼マコト議長に言っといてやるからよ。」
そして俺様はニヤリと笑ってそう言った。
ただでさえ普段からあることないことで風紀委員会へ嫌がらせをしている羽沼議長の事だ、こんな風紀委員に落ち度がある様な事を伝えたらそれはもう嬉々としてペナルティを課すに違いない。
空崎委員長には本当に申し訳ないんだが、それでも組織の体裁としては仕方ないからな。
正直俺様個人の怒りとしては柴関ラーメンと店にあった食材を爆破されたことでかなり有頂天まで行ってるんだが、ここで個人的な怒りをぶちまけてアビドスの面々に迷惑は掛けたくないのでぐっと飲み込んでおく。
……飲み込めてるかは別として。
「……これは困りましたね。うーん、こうなったら仕方ありません。出来るだけ穏便に済ませたかったのですが……ヤるしかなさそうですね?」
天雨行政官が手で指示を出すと、銀鏡先輩を含めた風紀委員達が一斉に銃口を俺様達へと向けてくる。
それを見たアビドス対策委員会のメンバーと便利屋はそれぞれ武器を構え、俺様は折りたたみシールドを展開して体を隠すように構える。
「いいんですか?俺様と戦って。後で羽沼議長に何て言われるか分かりませんよ?」
「……ここまで来たら戦闘しなくても同じでしょう?」
俺様はすり足でジリジリと最前列へと移動すると、風紀委員の先頭に立つ銀鏡先輩の前にポジションを取る。
「イオリ、チナツ、風紀委員の皆さん。くれぐれもタツミと先生に怪我をさせないように。」
「分かった!ごめんタツミ、相手になってもらうぞ!」
「怪我をしたら私が治療しますので……」
「……お気遣いどうも。」
お互いが睨み合い、まさに一触即発の雰囲気。
いつ誰が引き金を引いてもおかしくないような状況。
「……嘘をつかないで、天雨アコ。」
そんな空気を撃ち破ったのは、後ろで控えていた便利屋68の課長。鬼方カヨコの一言だった。
ようやく絡んでおいてなんですが多分あと2.3話でアビドス編終了しそう…