一触即発の雰囲気だった俺様達アビドス&便利屋連合とゲヘナ風紀委員会。
そんな雰囲気を破ったのは便利屋の鬼方カヨコの一言であった。
「……あら?」
「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった。」
「カヨコさん……」
鬼方はそう言うと、天雨行政官と睨み合う。
「……面白い話をしますね?鬼方カヨコさん。」
「最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか理解出来なかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って。」
鬼方は発言を続ける。
「しかも迫撃砲まで持ち出している。こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない。」
それは確かにそうだ。空崎委員長ならこんなやり方はしないだろうし、そもそも前提として万魔殿定例会議にて空崎委員長はゲヘナの外れに出張に行っている事が明らかになっているからな。
俺様は事前情報があったから天雨行政官の独断だろうと判断出来たが、それ無しで辿り着くとは……
鬼方カヨコ、流石は便利屋に所属してるだけはある。
「それに私たちを相手にするにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば説明がつく。」
「……」
「とは言え、このアビドスは全校生徒を含めても5人しか居ない。なら結論は1つ。」
鬼方は息を吐くと、言葉の続きを発する。
「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から先生を狙ってここまで来たんだ。」
確信を持ったような口調で鬼方はピシャリとそう言い切った。
……先生を狙ってアビドスに進軍してきたってことか?風紀委員会が?
つまり便利屋を捕まえるためと言うのはただの口実で、本当の目的はシャーレの先生の身柄の拘束ってことか?
一体何のために……?
「何ですって!?」
「先生をですか……!?」
“私を?”
「ふふ、なるほど。便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れていました。のんきに雑談なんかしている場合ではありませんでしたね……」
天雨行政官は何故か笑顔を浮かべつつそう言う。
……否定しないってことは、その通りなんだな。
「まぁ構いません。」
「……!12時の方向、それから6時の方向……3時、9時……風紀委員の更なる兵力が四方から集結しています!」
奥空が額から汗を流しつつ苦しげな表情でそういう。
なるほど、つまりただでさえ過剰な風紀委員側の戦力が更に増強されちまったってことか。
明らかにあちらに非があるとは言えこの数の暴力でかかってこられると少しばかりキツそうだな、面倒クセェ。
「増員……」
「まだいただなんて……それにこんなにも数が……!」
「おいおい、こんなに動員してゲヘナの治安は大丈夫なんだろうな……?ゲヘナに帰ったときに焼け野原が広がってても俺様知らねぇぞ……」
「うーん、少々やり過ぎかとも思いましたがシャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし……まぁ大は小を兼ねると言いますからね。」
クソ、とは言え流石に人数が多すぎる……!
いくら便利屋とアビドスの面子に先生まで居るとは言え、この数はあまりにも……!
と言うかどう考えても一個中隊の規模超えてるだろ!
一個中隊は一般的には120人前後だが、それ以上いるように感じるんだが……?
「それにしても、流石はカヨコさんですね。先ほどのお話は正解です。確かに私はシャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました。」
「……」
「しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが……どうやら難しそうですね。」
「当たり前だろ……!」
よくもぬけぬけとそんな事を言えるな……!
「はぁ……仕方ありませんね。事の次第をお話しましょう、きっかけはティーパーティーでした。」
天雨行政官はため息をつきながらそう言った。
……は?ティーパーティー?トリニティの?
いや、何故それが今回の襲撃に繋がるのかまったく理解できないんだが……?
「もちろんご存知ですよね。ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にあるトリニティ総合学園の生徒会です。」
「それが今回の件と何の関係があるんだよ。」
「そのティーパーティーがシャーレに関する報告書を手にしている……と。そんな話がうちの情報部から上がってきましてね。」
そう言えば、今日の万魔殿定例会議で羽沼議長が同じ様な議題を出していたな。
ティーパーティーがシャーレに関する報告書を掴んでいる、と。
いや、だから別にシャーレなんてクソ目立つ組織のことなんざすぐキヴォトス中に知れ渡るだろうし、そもそもシャーレはトリニティからも当番を受け入れている。
報告書が上がるのは不自然なことではないが?
「発足当初は私もシャーレとは一体何なのか全く知りませんでしたが……一度先生に当番に呼ばれたので概ねの概要は把握しました。」
「連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している超法規的な部活。」
「どう考えても怪しい匂いがしませんか?」
……まぁ、それは否定できないけどよ。
「シャーレと言う組織はとても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にもどんな影響を及ぼすのか分かったものではありません。」
天雨行政官の言ってることは一理ある。
が、それはどちらかと言うと生徒会である万魔殿の仕事であって少なくとも風紀委員の気にすることではない。
「ですから、せめて条約が無事締結されるまでは私達風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに居合わせた不良生徒達も処理した上で……と言う形で。」
なるほど、状況が見えてきたぞ。
要はトリニティのティーパーティーがシャーレに対する情報を掴んだから、焦っているという事だろう。
それで、トリニティの好きにさせないように先生の身柄を風紀委員で拘束しようって魂胆なわけだ。
そうすれば先生を人質に出来て連邦生徒会への圧力にもなるし、トリニティに対してはシャーレの超法規的権限が脅しになるってわけか。
理屈は分からんでもないが、やろうとしていることはただの誘拐だぞ。
こんな事をして反発を食らうとは思わないのだろうか。
「天雨行政官、アンタもシャーレの当番をしたことがあるなら分かるだろ。先生はとても優しい人だ。条約の障害になるなんてことはないはずだぞ。」
「……それでも、万が一のこともあります。ヒナ委員長の不安を少しでも取り除くためには私は何だってやる覚悟ですので。」
……いや、多分現在進行形で空崎委員長シナシナになってそうなんだけど大丈夫かなぁあの人。
「ん、むしろ状況がわかりやすくなった。」
「先生を連れて行くって?私たちがそれではいそうですかって言うとでも思ったわけ?」
銃を構えながら、砂狼先輩と黒見は天雨行政官を威嚇する。
「……やっぱりこう言う展開になりますか。」
「なーにがこういう展開になりますか、だよ。」
俺様は一歩前へ出る。
「天雨行政官、アンタの言うことにも……まぁ一理あるとは思わなくもない。」
「……へぇ、私の意図を理解してくれたんですね?」
「あぁ、理解はしたが……納得はしない。」
俺様は息を吐き、天雨行政官を見据える。
「そもそもそう言う政治的な部分は万魔殿の管轄のはずだ。風紀委員会が出しゃばるのはお門違いってモンじゃないのか?」
「フン、万魔殿のタヌキ共に任せていたらどんな不利な条件で条約が結ばれるかなど分かったものではありません。」
天雨行政官は腰に手を当てつつそう言った。
「……あまりウチの議長を舐めないでもらえませんかね?あんなんでも一応ゲヘナのトップなんすよ?」
「あんなタヌキがゲヘナのトップなのがそもそも解せないのですが……?それに、あのタヌキが外交の場に赴いて好評だった試しがありますか?」
「おいおい失礼だな。いくら羽沼議長でも外交の場ならちゃんと……ちゃんと……」
『キキキ!見たかトリニティの羽つきども!このマコト様の威光の前にひれ伏すがいい!』
『トリニティの用意した菓子など食えるか!こんな物を食うくらいならその辺の雑草の方がマシだ!』
『ミレニアムサイエンススクールか……長ったらしい名前だな。略してミスとかでいいんじゃないのか?』
「……やっぱだめかもしれんな?」
“ダメなの!?”
いや、でもあんなんでもゲヘナのトップではあるんだ。
外交の場ではちゃんとしてることもあるんだ。
「話がそれましたが……羽沼議長以外にも棗先輩や俺様もあの条約の件に関しては動いてます。アンタが横から口を出さないでもらえませんかね?」
「……フン。信用できませんね!」
「へぇ……?じゃあアンタは風紀委員に任せてたらゲヘナの風紀が乱れるから信用できないって理由で万魔殿が不良を取り締まっても良いって言うんだな?」
「はぁ!?良いわけが無いでしょう!?」
「あぁ、良いわけないよな?ってことは当然、今回の件も良いわけないって事は分かるよな?」
「この、減らず口を……!」
一歩も引かず、俺様と天雨行政官はお互いに睨み合いながら言い合いを続ける。
「これだから万魔殿のタヌキは困るんですっ!」
「政治は化かし合うもので、タヌキは化かすのが得意なんでね。餅は餅屋に任せとけば良いんすよ。」
「うるさいですね!少し黙っていただけますか!?」
「アンタこそそのピーチクパーチクうるせぇ口を閉じたらどうなんだ!?」
「誰が鳥ですかッ!?」
「んなこと言ってねぇだろ!?そもそもシャーレは何の関係もねぇだろうが!アンタの勝手な判断で先生を巻き込むんじゃねぇよこのウスラトンカチが!」
お互いに歩み寄りすぎて最早ホログラムに体が貫通しそうな勢いで接近しつつ口論する俺様と天雨行政官。
「……なんか子どもの喧嘩みたい。」
「風紀委員のナンバー2と聞いていましたが、結構感情的な方なんですね……」
「あーもう!あなたのせいで変な誤解をされてしまったではありませんか!どうしてくれるんですかタツミ!」
「いやどうするもこうするも……」
アンタが感情的なのは事実だからそれは仕方なくね?
毎回風紀委員会に書類を取りに行った時に食って掛かってくるじゃねーかよ……
まぁ、感情的なのは俺様もだし人のことは言えねぇが。
「くっ……!これ以上を時間をかけるのはマズイですね……委員長に知られてしまったら……」
天雨行政官は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべてそう言った。
……やっぱりこの人の独断なのは間違いなさそうだな。
「こうなっては仕方ありませんね。実力行使です。」
「……来るぞ!」
クソ、仕方ない。
こうなったらもうやるしか無いだろう。
絶対後で羽沼議長にチクってやるからな天雨アコ!
俺様は後ろを向き、アビドスの皆や便利屋と顔を見合わせると頷き、もう一歩前へ出て盾を構える。
元々当初は便利屋と組んで風紀委員会をボコボコにする予定だったんだ。
絶対にしばき倒して大将と黒見に頭下げさせてやる!
「かかってこいやァ!ゲヘナ風紀委員会!」
「望むところです!風紀委員会、総攻撃を……!」
「アコ。」
「……え?」
そして天雨行政官からの指示が飛び、まさに開戦しようとした時だった。
突然銀鏡先輩が所持しているホログラム通信機が起動すると、見覚えのあるフワフワの白い髪の女性が映し出された。
「ひ、ヒナ委員長!?」
天雨行政官が驚愕の表情で目を見開く。
ホログラム通信機に映し出されたのは他でもない。
ゲヘナ風紀委員会の委員長、空崎ヒナその人であった。
「委員長?」
「あの通信相手が?委員長ってことは風紀委員会のトップ……?」
「い、い、委員長がどうしてこんな時間に?」
空崎委員長の登場に、明らかにうろたえている天雨行政官がしどろもどろになりながらそう発言した。
先ほどから目を白黒させ、額からは冷や汗を流しておりどう見ても動揺しているのが見て取れる。
「アコ、今どこ?」
「わ、私ですか?私はその……えっと……げ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです!風紀委員のメンバーとパトロールを……」
いや、思いっきり嘘付いてるがこの人?
「思いっきり嘘じゃん!」
「やっぱり行政官の独断行動だったみたいですね。」
まぁ空崎委員長がこんなやり方を容認するとは思えないからな。分かってはいたが、今ので確定した。
「そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?」
「さっき帰ってきた。」
……空崎委員長、なんか心なしか対応が冷たいような?
あれ、これ……もしかして天雨行政官がやってることに気づいてるのか?
「そ、そうでしたか!その、私今すぐに迅速に処理しなくてはならない用事がありまして後ほどまたご連絡いたしますね!ちょっと今は立て込んでまして……!」
「立て込んでる?パトロール中なのに珍しい、何があったの?」
「そ、それは……」
いよいよ誤魔化しが効かなくなってきたらしい天雨行政官は苦しそうな表情でそう絞り出す。
空崎委員長はしばしそれを無言で見つめたあと、口を開いた。
「他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?」
「……え?」
……やっぱりバレていたようだな。
まぁそりゃ空崎委員長からしてみれば出張から帰ってきたと思えば風紀委員会がほとんどもぬけの空なんだから不審に思うのは当然だろう。
天雨行政官の様子からして空崎委員長にバレる前に事を済ませて帰る予定だったみたいだし、当然報告もしていないだろうから尚更だ。
仮に先生の身柄の拘束に成功したとして、その後どうやって空崎委員長や万魔殿に報告するつもりだったのかは知らねぇけどな。
そんな事を思った時だった。
突然風紀委員達が慌て始めたかと思うと、正面に布陣していた風紀委員達が道を開けるように割れ始める。
何事かと思い視線を移すと、そこには羽織ったコートを風にはためかせながらこちらへゆっくりと歩いてきている空崎委員長の姿があった。
「い、い、委員長!?いつからそこに!?」
「え……えええっ!?」
自分たちのトップのいきなりの登場に風紀委員達はにわかにざわめき始める。
「どうも、お疲れ様です空崎委員長。」
「……タツミ?」
俺様が軽く頭を下げ続け挨拶をすると、空崎委員長は不思議そうな表情を浮かべた。
「何故あなたがここに?」
「いや、話せば長くなるんすけど……スゲー簡単に言うと現地にたまたま居合わせたってとこっすかね。」
「……アコが迷惑をかけたわね。」
「いえ、空崎委員長が謝ることじゃないっすよ。謝罪は天雨行政官から直接して頂きますので。」
ため息を吐き出しながら謝罪してくる空崎委員長。
出張から帰ってきてようやく一息つけると思ったら、本部はもぬけの空で部下が独断で他の自治区で問題を起こしてるってマジでお疲れ様としか言えない。
しかもこの後帰ったら俺様はこの事を万魔殿に報告するしか無いので、羽沼議長から色々言われるだろうしな。
あとで彼女には胃薬を一箱渡しておくとしよう。
「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう。特にタツミを巻き込んだ件について……ね?」
ギロリと空崎委員長は天雨行政官を睨みつける。
「ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナ。外見情報も一致します、間違いなく本人のようです。」
「だな、俺様も保証しよう。」
奥空の言葉に俺様はそう補足を入れた。
「ですが、ゲヘナの風紀委員長と言うことはゲヘナにおいてトップの戦闘力……この状況でこんな人物まで……」
そう言って奥空は表情を曇らせるが……恐らくだけど、空崎委員長に戦闘の意思は無いはずだ。
そもそも戦闘の意思があるならわりと問答無用で攻撃を仕掛けてくるからな、空崎委員長は。
と言うか、そもそも空崎委員長が戦闘に加わるならいくら先生が居ても流石に無理ゲーと言わざるを得ない。
そんなことを考えていると、天雨行政官が慌てたような様子で言い訳を始める。
「そ、その……これは素行の悪い生徒を捕まえようと……!」
「便利屋68のこと?確かにそこに居るし、彼女達とだけ敵対しているなら私も何も言うことはないわ。」
空崎委員長は天雨行政官のホログラムまで近寄ると、その目を覗き込む。
ヒッと言う小さな声が天雨行政官から漏れる。
「ただ、今はシャーレとアビドス……それにタツミとも対峙しているように見えるけど?」
「え、えっと……委員長、全て説明しますので……」
「いや、もういい。大体把握したわ。」
はぁ、とため息を吐き出す空崎委員長。
……心中お察しします。
それはともかく、俺様はこのまま戦闘になる雰囲気ではないことを察すると便利屋達にこっそりと近寄る。
「陸八魔。今ならどさくさに紛れて離脱できるぞ。」
「……ハッ。そ、そうね!」
小声で陸八魔に耳打ちすると、フリーズしていた陸八魔がビクッと動き出す。
「俺様のワガママで巻き込んじゃってすまなかった……今度会ったら何か奢るからそれで手打ちにしてくれ。」
「あら、依頼料は特別サービスって言ったでしょう?ただそうね……今度あのラーメン屋であったら替え玉でも奢ってもらおうかしら?」
そう言って陸八魔は不敵な笑みを浮かべた。
世話になった店を爆破されて対して仲良くない俺様の頼みを二つ返事で引き受けてくれて、さらには柴関ラーメンが復興する事を疑いもせずにこの提案……か。
なるほど、器のでかい奴だ。これは付いて行きたくなる奴が出てくるのも分かる気がするよ。
「あぁ、約束する。ありがとう、陸八魔。」
「このくらいお安い御用だわ。さて、ムツキ、カヨコ、ハルカ、帰るわよ。」
「はーい、またねータツミくん!」
「一時はどうなるかと思ったけど……良かった。」
「ま、待ってくださいアル様……!」
便利屋の四人はそれぞれそう言うと、空崎委員長にくぎ付けになっている風紀委員達の死角を脱兎のごとく走り抜けて撤退していく。
先生とアビドスの砂狼先輩はそれに気がついたようだが特に何も言わずに見送っていた。
空崎委員長には申し訳ないんだが、今回ばかりは流石に協力する義理はないからな。
俺様も便利屋が撤退したのを確認すると、空崎委員長へと目を向ける。
「要するにゲヘナにとっての不安要素の確認および排除。そういう政治的な活動の一環ってところね。」
「う、うぅ……」
「アコ、私達は風紀委員会であって生徒会じゃない。不良を取り締まるのが私達風紀委員会の仕事。」
至極真っ当なことを言う空崎委員長。
「シャーレ、ティーパーティー、連邦生徒会長。そういうのは万魔殿のマコト……じゃなくてもタツミに任せておけばいいわ。」
「そうっすよ行政官。政治は生徒会であるウチの本分です。今回のコレは超越行為と言わざるを得ないすね。」
と言うか、今サラッと羽沼議長のこと信用してねぇってニュアンスのこと言ってたな空崎委員長。
まぁ普段から嫌がらせされてるし、出張から帰ってきてすぐコレだから多少ピキッてるのかもしれないが……
「それに、成り行きとは言えタツミにも銃を向けている。後でマコトに……いえ、万魔殿全員から何を言われるか分かったものじゃないわ……ねぇ、アコ?」
「も、申し訳ありませんヒナ委員長!私は……!」
「詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎していなさい、アコ。」
「……はい。」
天雨行政官はがっくりと肩を落とすと、そのまま通信を切ってホログラムが消え……って、ちょっと待て!
まだ天雨行政官からは謝罪の言葉が何も無いし、補償についての話も付いてねぇんだぞ!
このまま逃がしてたまるかよ……!
「おいちょっと待て天雨行政官!まだ謝罪が……!」
「タツミ。」
ロングコートを風に揺らしつつ、前に出てくる空崎委員長から名前を呼ばれる。
「……何すか、空崎委員長。」
「アコには後できちんと謝らせるし、償いもさせる。ホログラム通信ではなく、きちんと対面でね。だから今はどうか抑えてもらえないかしら?」
「くっ……分かりました。」
喉元まで出かけていた「ふざけんな!」という言葉を何とか飲み込み、俺様は震えた声でそう絞り出した。
抑えろ、空崎委員長だって事を収めるために今奔走しているところなんだ。
俺様の怒りを委員長にぶつけても仕方ねぇだろ……!
自分の膝を拳で叩きつつ、俺様は歯を食いしばる。
「タツミくん……」
「……」
「……」
“……”
それを見たアビドスの面々と先生は苦い表情を浮かべている……が、次の瞬間。
砂狼先輩は一歩前に出ると銃を再度構えて口を開く。
「じゃ、改めてやろうか。」
「はぁ!?ちょ、ちょっと待った砂狼先輩!」
砂狼先輩が発したとんでも発言に対し、俺様は先程まで感じていた憤りがどこかへと吹っ飛んでいく。
「ま、待ってくださいシロコ先輩!ゲヘナの風紀委員長と言ったらキヴォトスでも匹敵する人物を見つけるのが難しいほどの強者の中の強者ですよ!」
「ん、望むところ。」
「ここは下手に動かず一旦交渉するのが吉です!どうしてそんなに戦うのが好きなんですかっ!」
額に怒りマークを幻視する勢いでそうまくしたてる奥空。なんつーか、奥空も苦労してんだな……
あとで胃薬でもプレゼントしておくとしよう。
「……ご、ごめん。」
砂狼先輩は奥空に叱られると、シュンとした表情を浮かべて銃を下ろした。
耳がぺたんと垂れており反省しているのが伺える。
「こちらアビドスの対策委員会です。ゲヘナの風紀委員長ですね?はじめまして。」
「えぇ。はじめまして。」
「まず、この状況については理解されていますでしょうか?」
「……えぇ、もちろん。」
空崎委員長は頷く。
「事前通達なしでの他校自治区における無断での兵力運用、及び他校生徒達との衝突の一歩手前。あまつさえ同じゲヘナの万魔殿に所属しているタツミにまで銃を向けていた……と言ったところかしらね。」
「はい、その通りです。」
「けれど、そちらが風紀委員会の公務の妨害をしたのも事実。違う?」
「……っ!」
空崎委員長がそう言った瞬間、収まりかけていた怒りに再度火が付いた。
確かにこっちが風紀委員の業務の妨害をしたのは事実だがこの状況で煽るような事を言うんじゃねぇよ……!
俺様は考えるよりも先に声を上げていた。
「お前もかよ、空崎ヒナァ!」
「……」
「そうだよな!やらかしたとは言え天雨アコは可愛い部下だもんなぁ!?そりゃ庇うよなぁ!えぇ!?」
「落ち着いて、タツミ。」
「コレが落ち着いて居られるかよッ!」
ドン!と盾を地面に叩きつける。
そりゃ空崎委員長からしたら天雨行政官は部下だ。かばいたくなる気持ちは理解できなくもない。
だが、今回はやったことの規模が大きすぎるんだよ。
責任は取らせるべきなんだ。
ここで有耶無耶にするわけにはいかねぇ。
「いいか空崎ヒナ!今回の件で下手すりゃラーメン屋の店主の命が消える可能性だってあったんだぞ!この際、俺様が爆撃を食らったのはどうでもいい!」
「タツミに爆撃っ……!?」
「不良を取り締まるためなら民間人の命はどうでもいいのか!?関係ない店を爆破してもいいのか!?そこにある食材なんて気にもとめないってか!?」
「ち、違うわタツミ!話を聞いて!」
「何が違うんだよ!大将が何をしたって言うんだよ!なぁ!教えてくれよ空崎委員長!」
気づけば俺様は空崎委員長に詰め寄り、彼女の目前でそうまくし立てていた。
風紀委員会の面々は俺様に苦渋の表情で銃を向けてくるが、そんなの知ったこっちゃねぇ。
「確かに私たちが公務の妨害をしたのは事実。」
「だけど、タツミくんの言う通り何もしてない大将が危うく死ぬかもしれなかったってのは事実なのよ!それにヘイローのないタツミくんだって無事じゃ済まなかったかもしれないわ!」
「委員長さん、私たちの意見は変わりませんよ?」
後ろではアビドスの人達がそれぞれ銃を構えている。
「ちょっと待ってください!便利屋の人達は撤退してあっちの兵力は変わってない……私達にはもう先生とタツミさんしか……!うぅ、こんな時にホシノ先輩がいたら……」
奥空がそう言うのを聞いて少し頭が冷えるのを感じる。
……クソ、またやっちまった。感情に任せて怒鳴り散らすのはよくねぇって分かってるはずなんだがな……!
「……すみません、空崎委員長。」
「私も言い方が悪かった。ごめんなさいタツミ。」
俺様と空崎委員長は互いに謝罪する。
「タツミ、あなたに爆撃って……」
「……たまたま俺様のいた建物に風紀委員会の迫撃砲が直撃したってところっすね。」
「……ごめんなさい。」
「空崎委員長が謝る事じゃないですよ。」
「……ありがとう。」
シナシナになりながら顔から血の気が引いていく空崎委員長に対して、俺様は安心させるように笑顔を浮かべた。
それを見た空崎委員長は少しだけだが、心が軽くなってくれたようだ。
あまりにも労しすぎるだろ……後で胃薬を渡しておこう。
「それにしても……ホシノ?」
一呼吸おき、目の前の空崎委員長がそう呟く。
……ホシノっつーとここに居ないアビドス3年生の小鳥遊ホシノ先輩のことだよな?
確か原作の知識が正しければ、自分のことをおじさんと呼ぶピンク髪のやたら強い人だった気がするが。
「アビドスのホシノって……まさか……」
「うへ〜、こいつはまた何があったの〜?なんかすごいことになってるじゃ〜ん。」
……噂をすればなんとやら、と言うやつだろうか。
突如その場にこの緊迫した雰囲気とは程遠いのほほんとしたような声が響いた。
「えっ……?」
「ほ、ホシノ先輩!?」
俺様を含めたその場にいる全員の視線が声の持ち主に注がれる。
視線の先には、大きなあくびをしながら長いピンクの髪を風に揺らしつつこちらへ向かって歩いてくる小柄な1人の少女の姿があった。
あれがアビドス対策委員会3年生の小鳥遊ホシノ先輩か……ほんとにピンク髪なんだな。
まぁ髪の色に関しては今更突っ込まねぇけどよ。
……そして、原作の記憶が正しければ小鳥遊先輩は空崎委員長にも匹敵するほど強かったはずだ。
「ごめんごめん、ちょっと昼寝しててね〜。少し遅れちゃった。」
特に詫びれる様子もなく、小鳥遊先輩はのんびりした口調でそう言い放った。
アビドス対策委員会3年生、小鳥遊ホシノ。
恐らくアビドスで一番権限のある人物の登場に、その場にいる全員に緊張が走った。
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「マコト先輩、先程チアキから連絡が来ました。」
「なんだ?定期報告時間にはまだ早いが……」
「それが……どうやらウチの風紀委員会がアビドス自治区と何やら揉め事を起こしているようで。」
「なんだと?キキキ、そいつは僥倖だな。これを理由に問題行為を起こしたとして予算の削減を……」
「……そこに、たまたま居たタツミも巻き込まれているとの連絡がありました。」
「……なに?タツミがか?」
「はい。……しかもタツミの居る建物に風紀委員会の迫撃砲が直撃した、と。」
「……は?」
「幸いタツミに怪我はないようですが……」
「……イロハ。」
「……えぇ、分かってますよ。」
「風紀委員会のクズどもが……タツミに手を出したことを後悔させてやる!!!」
アビドス対策委員会編も佳境に入ってきました
原作での次章はパヴァーヌ編1章ですが、私の頭ではどう頑張ってもゲヘナの万魔殿であるタツミをシナリオに組み入れる事が出来ず頓挫したので、日常回を数話と短編のオリジナルストーリーをパヴァーヌ1章の代わりとします。
その章が終わったらエデン条約編突入ですね。
先生→原作通りパヴァーヌ1章
タツミ→日常回、短編オリジナルストーリー
と言う形で時系列としては進めていきます