突如姿を現したアビドス対策委員会3年生、小鳥遊ホシノ先輩。
独特の眠たそうな雰囲気を漂わせつつこちらへと向けて歩いてきている。
「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナのやつらが……!」
「ん、今から全面戦争が始まる。ホシノ先輩が居るなら百人力。」
「だから戦おうとしないでくださいシロコ先輩!」
目をキラキラさせつつそう言う砂狼先輩。
……砂狼先輩ってもしかしなくても戦闘狂なのか?
「ゲヘナの風紀委員会かぁ、便利屋を追って来たの?」
「……そんなところね。」
「うーん、事情はよくわからないけど対策委員会はこれで勢ぞろいだよ。と言うことで……」
そう言うと、小鳥遊先輩は手にしたショットガンをゆっくりとこちらへ向け……
「あらためてやり合ってみる?風紀委員長ちゃん?」
目の笑ってない笑顔を浮かべつつそう言った。
……おい、この人も戦闘狂やんけぇ!どういうことだよ!アビドスには戦闘狂しかいねぇのか!?
少なくとも5人中2人が戦闘狂かよ!奥空の胃を少しは労ってやれよ!
「そこの男の子もまとめて……ね?」
はぁ!?ちょっと待て俺様風紀委員じゃないんだが!?
なんで俺様も……って思ったけど、熱くなりすぎて空崎委員長の側まで来ていたのを忘れていた。
万魔殿のジャケットを羽織ってはいるが、ゲヘナの制服を着てるし風紀委員サイドの人間と思われても仕方ない格好ではあるな、うん。
一応、腕章も万魔殿のなんだがなぁ……
「ちょ、ちょっと待ってホシノ先輩!タツミくんは風紀委員の仲間じゃないわよ!」
「ありゃ、そうなの?……同じゲヘナなのに?」
「そ、そうなんだけどタツミくんは万魔殿?ってところの人間で、たまたま柴関ラーメンにいたところを巻き込まれただけなのよ!」
「それに、タツミさんが言うには彼はゲヘナの生徒会に当たる組織に所属しているとのことです。」
「……ふーん?」
そう言ってこちらを見てくる小鳥遊先輩。
彼女のオッドアイの瞳と目が合う。
“ホシノ、それは私からも保証するよ。”
「んー……分かったよ。ごめんね〜、おじさん初めて見る男の子だったから珍しくってさ。」
「……いえ、大丈夫です。小鳥遊先輩。」
そのあまりの鋭い眼光に身震いするが、黒見や奥空、先生のフォローもあり小鳥遊先輩は信じてくれた様子だ。
そして小鳥遊先輩は一瞬だけ纏っていた鋭い雰囲気を散開させのほほんとした雰囲気に戻る。
……どうでもいいが、俺様が男なのは関係あるのか?
「小鳥遊ホシノ……1年生の時とは随分と変わったわね。人違いじゃないかと思うくらいに。」
「……ん?私のこと知ってるの?」
冷や汗をかく俺様を尻目に、空崎委員長はどうやら小鳥遊先輩と知り合いらしくそんなことを口走っていた。
「情報部に居た頃は各自地区の要注意生徒達をある程度把握していたから……特に小鳥遊ホシノ。あなたのことを忘れるはずがない。あの事件の後アビドスを去ったと思っていたけど。」
その言葉を聞いた瞬間、一気に小鳥遊先輩の表情が険しくなる。
……おい、余計空気悪くなってないかこれ?
「そうか、そういう事ね……だからシャーレが……」
……さっきからなんの話をしてるんだ空崎委員長は。
「まぁいい、私も戦うためにここに来たわけじゃないから。銃を降ろして、みんな。」
空崎委員長が手で合図を送ると、銃を構えていた風紀委員達は一斉に銃を下げる。
「……イオリ、チナツ。」
「……委員長。」
「……はい。」
「撤収準備。帰るわよ。」
そして、撤収を宣言した。
「……えっ!?」
「帰るんですか!?」
黒見と奥空が驚いて声を上げる。
いや、まぁそりゃそうだろう。
まさかこのままドンパチしようものならそれこそ戦争一直線だからな。
マジで外交問題になりかねない。
それに、そんなことは俺様が許さない。
そんな事を思っていると、空崎委員長は小鳥遊先輩へと歩み寄っていく。
そして、小鳥遊先輩の目の前に辿り着くと……
「……え?」
そのまま、頭を下げた。
「事前通達なしでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。」
「このことについては私、空崎ヒナよりゲヘナ風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する。」
深く頭を下げつつ、空崎委員長はそう言う。
「今後、ゲヘナ風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。どうか許して欲しい。」
「……それに関しては、俺様からもアビドスの皆さんに謝罪します。」
俺様は空崎委員長の隣まで歩いていくと、共に頭を下げる。
「た、タツミさん!?」
「な、なんでアンタが頭を下げるのよ!アンタは巻き込まれただけで……!」
「今回の件はゲヘナ学園として正式に謝罪しなければいけない案件だからだよ、黒見。」
俺様は顔を上げ、黒見の目を見据える。
「確かに今回の件はゲヘナ風紀委員会が全面的に悪いけど、今日の会議で風紀委員が1個中隊規模の部隊を編成してたのは耳に入っていた。そのうえで理由も聞かず、何もしなかったのは万魔殿の落ち度だ。」
「だからといって……」
「そもそも、風紀委員会は厳密にはウチの傘下組織でもある。部下の失態を上司がフォローするのは当然だ。さっき空崎委員長が謝罪したようにな。」
空崎委員長に目をやりつつ、俺様はそう言う。
「何より、それが上に立つものの【責任】だから。」
“…………タツミは偉いね。”
「そんなことはねぇよ先生。俺様に出来るのは頭を下げることくらいだ。」
俺様はそう言い切ると、改めて頭を深く下げる。
アビドスには俺様の個人的な怒りに付き合わせちまったのもあるし、申し訳ないからな。
「ゲヘナ学園の代表、万魔殿として。この度はウチの風紀委員会がアビドス高等学校に大変な狼藉を働き誠に申し訳ございませんでした。万魔殿議長、羽沼マコトに代わり謝罪致します。」
そう発言すると、俺様達の間には痛い沈黙が流れる。
「……頭をあげなよ、二人とも。」
が、そんな沈黙を破ったのは小鳥遊先輩だった。
「2人からの謝罪は確かに受け取ったよ。これ以上私達に危害を加えないなら、これ以上追及しないからさ。今回はこれで手打ちってことにしない?」
「……空崎委員長。」
「えぇ、わかっているわ。」
俺様達は言葉に甘えて頭を上げると、お互いに顔を見合わせる。
そして俺様は小鳥遊先輩へと向けて一歩だけ近づく。
「小鳥遊先輩。今回の実行犯は風紀委員会の行政官である天雨アコです。彼女に対面で直接謝罪させて頂くこと、柴関ラーメンを爆破した件で大将に直接謝罪させて頂くことと店の立て直しの費用は風紀委員が全額負担すること。そして便利屋の処遇はアビドスに一任すること。これはお約束させてください。」
そう、この件はここで終わりにしてはいけない。
この事態を引き起こした天雨行政官に直接謝罪をさせなければ、本当の意味で解決したとは言えないのだ。
それがなされた時、初めて手打ちと言う形になる。
責任は取ってもらわなければならない。
空崎委員長もそれは理解しているようで、俺様の話に特に口を挟むことはなく静視している。
「うへー、別にそこまでしてもらわなくてもいいよ?風紀委員長ちゃんや、キミも謝ってくれたことだし。そもそも便利屋は成り行きで関わってるだけだしね〜。」
「これはゲヘナ学園として、アビドス側に見せなければいけない誠意でもありますので……押し付けがましくて申し訳ありませんが、お受けできませんか?」
「うーん、分かった。そこまで言うなら受け入れるよ。誠実な対応どうもありがとうね?」
そう言うと、にへっとした顔で小鳥遊先輩は笑った。
「ありがとうございます、小鳥遊先輩。」
「いいっていいって。キミも大変だねー。」
「……お気遣いありがとうございます。」
苦笑いしつつそう言う小鳥遊先輩に対して、俺様も同じく苦笑いを返した。
「アコ……天雨アコ行政官は後日、私の付き添いの元あなた達に正式に謝罪させる。その際に破壊した建物の復興費の話等もさせてもらえると助かるわ。」
「分かりました、よろしくお願いします。」
空崎委員長は奥空との打ち合わせが終わったらしい。
俺様の隣まで歩いてくると、後ろに展開している風紀委員達に声を掛ける。
「帰るよ、みんな。」
「……はい。」
「わ、分かった。」
その言葉を聞き、銀鏡先輩や火宮を始めとした風紀委員達は急いでアビドス郊外へ向けて移動を始めた。
「それじゃ、俺様も風紀委員と一緒にゲヘナへ帰るとしますわ。」
「うん、分かったよ。気をつけてね。」
俺様は小鳥遊先輩に向けてそう言うと、小鳥遊先輩は首を縦に軽く振る。
「え、帰っちゃうのタツミくん?」
「元々アビドスにはラーメン食いに来ただけで、食い終わったら帰るつもりだったからな。もうアビドスでやることはないし、ゲヘナに帰るとするよ。」
黒見は俺様に駆け寄ってきてそう言うが、今言った通りこれ以上はアビドス自治区には用はないからな。
「大将への見舞いは後日行かせてもらう……悪かったな黒見。店、守ってやれなくて。」
「なんでアンタが謝るのよ!謝る必要なんでどこにもないじゃないの!」
「ん、その通り。あなたが謝罪する必要はない。」
俺様が頭を下げると、黒見と砂狼先輩はそう言って頭を上げるように言ってくれた。
あぁ……アビドスの人達はみんな大人だなぁ。
感情に任せて喚き散らしていた俺様よりも何倍も大人だ。
「いやーそれにしてもおじさんびっくりしちゃったよ。まさかセリカちゃんが男の子を引っ掛けてるなんてね〜?」
「ひ、引っ掛け……!?違うわよ!コイツはウチの店のただの常連さんってだけだからねホシノ先輩!」
小鳥遊先輩がニヤニヤしながらそう言うと、黒見はうがーっ!と言うような表情で小鳥遊先輩へ詰め寄る。
それを見て十六夜先輩と砂狼先輩は笑顔を浮かべており、奥空は困ったように笑っていた。
「それにしても、君の獲物。盾とショットガンなんだね。中々いいセンスしてるじゃん?」
「は、はぁ。ありがとうございます?」
「いやー、是非機会があれば一緒に戦ってみたいもんだよ。」
……そう言えば、小鳥遊先輩もショットガンと盾でゴリゴリに前線を張るタイプだった気がするな。
奇しくも同じ構え、というやつか。
「……確かに伝えたから。じゃあまた、シャーレの先生。」
“うん、分かった。ありがとうねヒナ。”
俺様と対策委員会の面々がそんなやり取りをしていると、空崎委員長と先生が何かを話していたようだ。
先生は空崎委員長へお礼を言うと、委員長は片手を挙げながら歩き出してこちらへ近寄ってくる。
「さて、帰りましょうかタツミ。」
「分かりました、空崎委員長。」
俺様は軽く頷くと、対策委員会の面々に向き直る。
「改めて対策委員会のみなさん、今回はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、お気にせずに〜♧」
「ん、今度は是非戦り合おう。貴方は強そうだし。」
「いいっていいって、もし良かったら遠慮せずにまた遊びに来てねー。セリカちゃんも喜ぶよー。」
「だから違うって言ってるでしょ!……まぁその、気をつけて帰りなさいよ。また来なさいよねっ!」
「タツミさん。私達のために怒ってくれてありがとうございました。口には出していませんが、私達は感謝こそすれどタツミさんのことを恨んでは居ませんよ。」
「……ありがとう、みなさん。」
アビドス対策委員会の面々に口々にそう言われ、俺様の目から熱いものが込み上げてくるがぐっと我慢する。
「先生。色々と迷惑をかけて申し訳ない。」
“ううん。大丈夫。良かったらまたアビドスに遊びに来てあげてほしいな。みんなも喜ぶと思うよ。”
「……分かった、サンキューな先生!」
俺様はそう言うと、先生に親指を立てる。
「では、またお会いしましょうみなさん!」
俺様と空崎委員長は並んで歩き始めると、最後に後ろを振り向いて大きく手を振った。
みんなで手を振る対策委員会を少し見つめた後、皆に背を向けてアビドス郊外へ退却を始めている風紀委員に追いつくために早歩きで進み出す。
そして委員長の隣まで辿り着くと、彼女は口を開いた。
「……ごめんなさいタツミ。今回の件で迷惑をかけた。」
「空崎委員長が謝ることじゃないっすよ。悪いのは天雨行政官です。アビドスの手前ああは言いましたけど空崎委員長はどっちかっつーと被害者ですしね。」
「……そう言ってもらえるなら助かるわ。」
空崎委員長は力なく笑いつつそう言った。
あの場ではゲヘナ学園って組織としての面子があったからああ言ったけど、空崎委員長は何も悪くないしな。
むしろゲヘナの外れまで出張に赴いて、帰ってきたら速攻で謝罪対応をさせられているんだ。
本人からしたらふざけんなって話だろう。
……あとで胃薬を渡しておくか。
「途中で怒鳴ってしまってすみませんでした。」
「いえ、私もあれは失言だった……」
心底疲れ切ったような表情を浮かべつつ「気にしてないから」とそう言う空崎委員長。
……帰ったら栄養のある料理でも作ってあげよう。
「羽沼議長にはなるべく風紀委員へのお咎めがないように報告させてもらいます。……ただ、柴関ラーメンの復興費だけはそちら持ちになるかもしれないっす。」
「それは甘んじて受け入れる。……帰ったらマコトからのお説教でしょうね。いや、お説教ではすまないか……」
あかん、空崎委員長の目がどんどん死んでいく。
俺様は帰ったら万魔殿に帰って報告するだけでいいけど、空崎委員長はやらかした天雨行政官へのお説教もこの後しなければいけないからな。
毎日毎日不良の鎮圧をして出張へも行って、部下の失態もカバーしてって本当にお疲れ様としか言えない。
そうこうしているうちに、前方に退却している風紀委員の部隊が見えてきた。
どうやら撤退中の風紀委員の部隊に追いついたらしい。
しかし、改めて見るととんでもない数だな。
こんな数に迫撃砲まで持っていくなんて、端から見たら戦争でもするつもりなのかと思われても仕方ないぞ。
俺様と空崎委員長は風紀委員の部隊の最後方へ到着すると、退却の指揮を執っている銀鏡先輩と火宮に合流した。
「お疲れ様、イオリ、チナツ。」
「い、委員長!」
「委員長……お疲れ様です。……タツミくんもお疲れ様でした。」
「いや、そんなに大したことはねぇよ。」
そのまま撤退していく風紀委員達の列に混ざりつつ、俺様達四人は並んで歩き始めた。
「二人とも、途中で売り言葉に買い言葉とは言え風紀委員たちのことを烏合の衆なんて呼んで悪かった。」
「何を言ってるんですか、それを言うなら私たちも少しはアコ行政官の行動に疑問を持つべきでした。」
「あぁ、アコちゃんの言う事にただ従ってただけだったからな……もう少し自分で考えたほうがいいのかもって今回の件で思ったよ。」
銀鏡先輩と火宮はお互いに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、苦しそうにそういった。
「それにタツミくんに迫撃砲を……」
「もういいよ火宮。その件はアビドスと話して決着が付いたし俺様は自分に迫撃砲を撃たれた件については何も思ってない。運が悪かっただけだ。」
「……それでも謝罪させて下さい。申し訳ありません。」
「タツミ、悪かった。私からも謝らせてくれ。」
そう言って頭を下げる銀鏡先輩と火宮。
「頭を上げてくれ2人とも。俺様はもう気にしてないしそれに2人は天雨行政官の指示に従っただけなんだから。」
「タツミ……私がこんな事を言えた義理ではないけど、あまりアコを責めないであげてほしい。あの子も色々と考えてゲヘナのためを思っての行動だろうから。」
「……そうですね。分かりました。」
まぁ確かに、頭に血が上ってたからそんな余裕がなかったけど冷静になってよくよく考えたら天雨行政官の行動理念はゲヘナのためを思っての行動ではある……
だが、いくらゲヘナのためとは言え他の自治区の民間人や建物を爆撃していいと言う理由にはならない。
だから償いはしてもらわないとダメ。
要は今回の件はそれだけの話だ。
だから、食材を破壊された怒りなんてのは俺様の個人的な怒りに過ぎない。
美食研究会とは違って天雨行政官は何度もそんな事を繰り返すことはしないだろう。
だから、ちゃんと直接アビドスや大将に謝罪をしてくれるなら俺様はそれ以上はなにも言わないつもりだ。
ただ、もし繰り返すようならその時は容赦しないがな。
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「……私はあと何枚反省文を書けばいいのでしょうか。」
「まだ200枚目くらいじゃないっすか。自分で1000枚書くって言ったんだから頑張ってください。」
「そ、それはそのくらい反省してると言う意味で言っただけですっ!本当に1000枚書くことになるとは思わないじゃないですか!」
「はいはい、口よりも手を動かしてください……コーヒーくらいなら出してあげますから。」
ゲヘナ風紀委員会の執務室にて。
大量に積み上げられた反省文の原本に死んだ目でペンを走らせながらぶつぶつと呟いている天雨行政官に対して俺様はコーヒーを淹れつつそう言った。
後日、俺様は空崎委員長と共に天雨行政官を連れてアビドス対策委員会へ正式な謝罪へと向かった。
柴関ラーメンの大将は便利屋が協力してくれたおかげで幸い無傷であり、俺様はその元気な姿を見て大号泣して一緒に居た黒見や奥空に若干引かれてしまったのは秘密だ。秘密ったら秘密だからな!
……それにしても、大将が無事で本当に良かった。
便利屋には感謝しないとな。
そしてその後柴関ラーメンの復興費用の話になったのだが、なんと大将がそれを拒否したのだ。
もちろん俺様は食い下がったが、大将曰く元々店を近いうちに畳む予定だったことを聞かされると何も言えなくなってしまい渋々了承をした。
だがあの味が食えなくなっちまうのは残念だ……と肩を落としていると、店の再建はそのうち考えるとしてしばらくは屋台にて柴関ラーメンを営業することを約束してくれた。
その言葉を聞き、再び俺様が号泣したのは言うまでもないだろう。何故か先生にまで引かれたけど。
なお、何故か柴関ラーメンの元々あったところには大金の詰まったカバンが置かれていたらしい。
差し出し人は不明らしいが、不思議な事もあるもんだ。
その後、先生の案内でアビドス高校の校舎まで赴いた俺様達3人は小鳥遊先輩を始めとするアビドス高校廃校対策委員会の面々に直接謝罪を行った。
その際、小鳥遊先輩は「いいよいいよ〜、わざわざありがとねー。」と快く許してくれた。
なお、便利屋の処遇についてはアビドス以外で問題を起こした時は風紀委員で対処しても良いとのことだ。
それ以外に要求があれば飲むつもりだったのだが、あまり大ごとにはしたくないし今回の件で謝罪してもらっただけで充分だよ〜とのこと。
小鳥遊先輩、あまりにも心が広すぎるだろ。
アビドスの砂漠くらい広いんじゃないか……?
そんな寛容な小鳥遊先輩に対して、俺様と空崎委員長はせめてもの償いとして【困ったことがあれば必ず力を貸す】と約束し、そのままアビドスを後にした。
ちなみに、謝罪に赴いた際に黒見が天雨行政官を大層威嚇してて天雨行政官が俺様の後ろで小さくなっていたのはここだけの話にしておこう。
ちなみに、羽沼議長に一連の事を報告すると真顔で立ち上がって風紀委員の予算をゼロにしようとしたので出来るだけ妨害はしておいた。
しかも何故か予算だけでなく、即刻活動停止にするとか言い出したのでゲンコツしておいたが。
風紀委員会が活動停止したらゲヘナの治安はどうなるんだよ、気持ちは分からなくもないが落ち着いて欲しい。
なお、報告した途端に羽沼議長を含む万魔殿全員が風紀委員会に押しかけて一悶着あったのは別の話。
なんでみんなあんなに怒ってたんだ?
銀鏡先輩とか泣きながらイブキに土下座してたぞ?
イブキも冷たい目で銀鏡先輩を見下ろしてたので、流石にやめてやれと言って許してくれたようだが。
火宮とか棗先輩からガン詰めされてたし、天雨行政官に至っては京極先輩から延々と責任問題について追及されておりその場面を元宮先輩に撮られていた。
なお空崎委員長は羽沼議長に密着するほど顔を近づけられて絞られており、シナシナになっていた。南無三。
……別に俺様は無事だったんだし、良いと思うんだが?
それに俺様に迫撃砲が飛んできたのは不可抗力であってわざとではないわけだし。
何より、俺様はもう気にしてないわけで……
正直、今回の件は空崎委員長は正直何も悪くないからな……正式にアビドスに謝罪して先方からの許しも頂いているし、万魔殿にも責任の一端はある訳なので。
とは言え完全に天雨行政官一人のせいだとは言えないのも事実なので、完全な予算削減の妨害は無理だったが。
まぁ、最終的には予算がかなり削られた程度で済んだのでまだ軽症と言える範囲ではあるな。
あとで空崎委員長には胃薬を渡しておくとしよう。
その後も羽沼議長は何だかんだとゴネまくっていたが、最終的に天雨行政官が勢いで言った「反省文を1000枚書きますっ!」と言う言葉を必ず実行させろと言う指示を俺様に出して不本意そうに引き下がって行った。
なお、妙に不機嫌な棗先輩が「1000枚じゃぬるいですよ、一万枚にしましょう」と真顔で言っていたっけ。
流石にそれは行政官が死んでしまうので勘弁してやってくれ、となんとか説得して渋々抑えてくれたが。
ただ、イブキを泣かせてしまったのだけは不覚だ。
イブキは俺様が帰ってくるなり泣きながら抱き着いてきて、その後も俺様から離れようとしなかった。
「お兄ちゃんはもっと自分を大事にしてっ!」と散々怒られてしまったしな……
確かに怒りに身を任せて自分のことを蔑ろにしていたってのはあるかもしれないし。
それに、なによりもイブキを悲しませてしまうなんて兄として失格である。
その日は久しぶりにイブキと一緒に風呂に入って一緒の布団で寝た。妹の優しさに心が温かくなったな。
ちなみに、イブキも風紀委員会には大層お怒りだったが経緯の説明とわざとじゃないことを説明すると理解してくれたようだ。
お利口に育ってくれてお兄ちゃんは嬉しいぞ!
そういうわけで、俺様は今風紀委員会にて天雨行政官が反省文を書いているのを監視しているわけだ。
はじめは棗先輩が監視する予定だったのだが、俺様が見てる方がメンタルに来るだろうと言う謎の理由で俺様が監視をすることになった。
ちなみに空崎委員長は今日も出張らしいが「タツミが見ててくれるなら安心出来る」とのこと。
「ぐぬぬ……ヒナ委員長ならまだしも何故貴方に監視されなければいけないんですか!?」
「それが羽沼議長の最大限の譲歩だからっすね……」
「くっ……あのタヌキ……!いつかギャフンと言わせてやりますからね……!」
「……反省の色が見えないなら枚数を追加してもいいと言われてますよ、行政官。」
「ぐぬぬぬぬ……!」
半泣きになりながらペンを動かす天雨行政官に対し、俺様は淹れ終わったコーヒーを書類の横に置いた。
「……その、すみませんでしたタツミ。」
「ん?何がですか?」
「いえ、あのラーメン屋はあなたの行きつけの店だったのでしょう?」
「あぁその件ですか……」
店が壊された当初の俺様は怒り狂って風紀委員会をボコボコにするつもりだったが、アビドスを巻き込んだことや空崎委員長や小鳥遊先輩の登場で頭が冷えてなんとか気持ちの整理を付けることはできたからな。
そりゃ天雨行政官のやったことはどうかと思うけど、彼女だって元々はゲヘナのため、空崎委員長のためを思って行動を起こしたみたいだし……
そのやり方がアレってのは良くないと思うけど。
……まぁ、店やそこにあった食材は吹き飛ばされちまったけど気に食わない店を意図的に爆破する美食研究会とは根本的に目的が異なっているからな。
わざとでは無いし、初犯。二度としないと本人が言ってるのだから、俺様の幼稚な怒りをぶつけるべきじゃないだろう。
そもそも天雨行政官は直接対面で対策委員会や柴大将に謝罪を行い、どちらからも許されている。
ならこれ以上俺様が行政官に対して怒りを向けることもないだろう、とりあえずは解決したのだから。
「確かに壊された時は頭が沸騰しそうなくらい怒りましたけど……天雨行政官はちゃんと謝りましたし、大将や対策委員会からも許されてます。なら俺様が怒る理由はもうありませんからね。」
そう言いつつ、俺様は苦笑を浮かべた。
「それに、知らないとは言え私はあなたに迫撃砲を撃ち込んでしまいました。あなたに危害を……」
「言ったでしょう行政官。俺様は気にしてません。」
「……そうですか、ありがとうございます。」
天雨行政官はそういうと、いつになく肩を落としながらコーヒーを一口啜った。
なんか、この人がしおらしいと調子が狂うなぁ……
「……まぁその、俺様もあの時は言い過ぎました。行政官も行政官なりに空崎委員長やゲヘナのためを思ってのことだったのに、アンタの気持ちをちっとも考えずに俺様の怒りだけで怒鳴り散らしてしまって。」
「……何を言っているんですか。今回の件は私がヒナ委員長に伺いを立てずに勝手に行動した結果、たくさんの人に迷惑をかけてしまいました。私が悪いんです。」
そう言うと、天雨行政官は天井を見上げた。
まぁ確かにそれはそうなんだけど、何度もいうようだが天雨行政官はもう許されているからな。
それに先生も「“アコくらいの年齢なら失敗なんていくらでもある、大切なのは反省することと繰り返さないこと”」だと言っていたし。
……いやはや、本当にそのとおりだと思う。
流石は先生だな。
「私はただ……ヒナ委員長のお役に立ちたかっただけなんですけどね……」
そう言うと、行政官は顔を手で覆って静かに嗚咽を上げ始めた。
……まぁ、本人からしてみれば良かれと思ってやったことで空崎委員長本人はもちろんその他の人達にも多大な迷惑をかけてしまったわけだからな。
俺様と天雨行政官、2人しかいない執務室に彼女のすすり泣く声だけが響き渡る。
「……涙を拭いてください、天雨
俺様はそう言って椅子から立ち上がると、天雨先輩の隣まで歩いていき万魔殿のジャケットのポケットにいれていたハンカチを彼女へ手渡した。
「確かにあなたのやった事は色んな人に迷惑をかける事だったかもしれません。ただ、空崎委員長のためを思ってやったってのが皆に伝わっているのも確かです。それは委員長本人の口からも聞きましたし。」
そもそも、こんな大事をやらかして反省文1000枚で済むってのは相当温情のある対応だと思う。
普通なら問答無用で風紀委員の牢屋で謹慎処分になっていてもおかしくないからな。
なんやかんで、空崎委員長は天雨先輩のことを大切にしてるんだなと言うことが伝わってくる。
「天雨先輩。これは先生の言葉を借りますが、間違いは誰にでもあります。大事なのはその後……つまり反省して、同じ過ちを繰り返さないことです。」
「……」
「先輩が反省してるのは勢いで言ったであろう、反省文1000枚をこうやって本気で書こうとしている時点で充分伝わってきます。……それで良いんじゃないですかね?」
「う、うぅっ……」
俺様がそう伝えると、天雨先輩はハンカチを顔に押し当ててその後もしばらく啜り泣いていた。
しばらくして涙が止まると、先輩は真っ赤に腫らした目で俺様を見て口を開く。
「……すみません、見苦しいところをお見せしました。」
「いえ、気にしないでください。」
「ハンカチ、ありがとうございました。これは私の方で洗濯してお返ししますので……」
「ん?いや、そんな事してもらわなくてもこっちで洗濯するんで構いませんよ?」
そう言うと、俺様はハンカチを受け取るために右手の手の平を差し出した。
別にそこまでしてもらわなくても、どうせ今日帰ったら洗濯機を回す予定だったしついでに洗えばいいだろう。
「わ、私が構うんですよ!こ、このハンカチは今私の涙でグチャグチャなんですから……!」
「いや、だから俺様は別に気にしませんけど……?」
「駄目です!これは譲れません!」
涙で濡れたハンカチを大事そうに胸元に抱え込みながら顔を真っ赤にしてそう言う天雨先輩。
まぁ別に、そこまで言うなら洗濯してもらってもいいけどなんでこんなに必死なんだ……?
「まぁでも、安心しましたよ。」
「えっ……何がです?」
「いや、なんか天雨先輩がしおらしいとらしくないなーって思いまして。」
「は……はぁ〜っ!?どういう意味ですか!?」
天雨先輩はバン!と机を叩いて立ち上がると、そのまま俺様にものすごい勢いで詰め寄ってくる。
「いや、まさか俺様の前で泣くとは思わんじゃないすか。」
「あ、あれは不可抗力ですっ!言いふらしたら許しませんからね!?良いですかタツミ!?」
「分かってますよ。」
「本当でしょうね!?」
そう言ってギャーギャーとまくし立てる天雨先輩。
……やっぱり、こうやって勝ち気で腹の立つくらい生意気な方がいつもの天雨先輩らしい。少し安心した。
「くっ……屈辱です……!万魔殿の人間に泣き顔をみられるなんて……!」
「なら、そのハンカチを俺様に返してくれたら証拠隠滅になると思いません?」
「嫌です!これは私が洗濯するんです!貴方には返してやりませんからねっ!」
「いや、それ元々俺様のなんだけど……」
どこかニコニコとしながらそう言う天雨先輩に対し、首をひねる俺様なのだった。
ちなみにこのあと天雨先輩は本当に反省文を1000枚書き上げてドヤ顔をしていた。
……まぁ元気になったようだし、良しとしておこう。
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「……マコトにたっぷりと絞られてしまったわ。」
「流石に今回の件は風紀委員に責任があるから私も何も言えなかった……またタツミに胃薬をもらおうかしら。」
「アコもきちんと反省文を書き終わったようだし、とりあえずこれで一段落ね。」
「それにしても、最近やけにアコのタツミを見る目が湿っぽい気がするのだけど……気のせいかしら?」
「……あの子も今回の件は堪えたみたいだから、かなり反省してるようだけどね。」
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「……マコト先輩、良かったんですか?」
「良いわけが無いだろう!だが、他ならぬタツミ自身が許すと言ってるんだ。なら我々が私怨で必要以上に風紀委員を弾圧するのはタツミの意思に反する……!」
「……私は納得いきません、マコト先輩。」
「無論私もだイロハ。だが、これ以上奴らを詰めるとタツミが我々に対して怒りかねんぞ?」
「まったく、自分が殺されていたかもしれないのに……どこまでもお人良しなんですからあの子は。」
「キキキ、安心しろイロハ。風紀委員会のバカどもには今後より一層嫌がらせをしようではないか……特にあのバカみたいな服装の行政官にはなぁ?」
「……あの行政官のことは許せません。巻き込まれたヒナ委員長は気の毒だと思いますが。」
「何を言っているイロハ。あのメス犬のリードをしっかり握れていなかったヒナにも責任はあるんだぞ!」
「まぁ……それはそうかもしれませんが。……マコト先輩、強く手を握りすぎて血が出てますよ?」
「フン、この程度何ともないさ。」
「……まぁ気持ちは分かりますけどね。」
「それに奴らはタツミに手を出しただけでなく、イブキも悲しませたんだぞ?許される行為ではないだろう。」
「……そうですね。」
「今回の件はタツミに免じて不本意ながらこの程度で許してやるが……もし次にタツミに手を出してみろ。大手を振ってゲヘナを歩けると思うなよ?風紀委員会のボンクラども……!」
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「お兄ちゃんは本当に優しいんだから、もう。」
「お兄ちゃんがああ言ってるから今回だけは許してあげるけど……もし次にお兄ちゃんを傷つけたら……」
「……絶対に許さないからね、風紀委員会のみんな?」
恐らく次話でアビドス編は終了です
そこからは日常会→短編オリジナルストーリー→エデン条約編と続きます