転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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お待たせしました、デート回です


羽川ハスミと丹花タツミ

DU地区の街中にて。

今日俺様は羽川先輩と出掛けるために、慣れない私服に身を包んで待ち合わせ場所に到着し羽川先輩が来るのを待っていた。

目的はDU地区に新たにオープンしたカフェへ行くことだ。俺様がシャーレの一件で羽川先輩を守った事へのお礼と言うことらしい。

 

「へ、変じゃねぇよな……?」

 

俺様は両手を広げ、自分の格好を再度確認する。

普段は制服に万魔殿のジャケットしか着ないので、めちゃくちゃ四苦八苦しつつ選んできた私服なのだが変ではないだろうか。

会う人が会う人なので万魔殿の皆や風紀委員の皆にも相談できなかったしなぁ……

ちなみに、今日はスケジュールを合わせたため俺様も羽川先輩も非番である。

 

「わぁ、あれ男の子じゃない?」

「本当だ。ちょっとかっこいいかも……」

「ね、ねぇ。声かけてみる?」

「でも断られたらどうしよう……」

 

まぁやはりと言うかなんというか、周囲からは案の定ヒソヒソと話をされ注目されているようだった。

キヴォトスには男子生徒が見あたらねぇからなぁ……注目されるのは仕方ないとは言え、少しむず痒い。

普段は万魔殿のジャケットを着てるが、今日は私服なので所属が分からないしな。

 

それにしても、DU地区は平和だなぁ。

そりゃ連邦生徒会のお膝元なんだから治安がいいのは当たり前なんだが、ゲヘナだとそのへんを歩いていたら建物が爆発したり手榴弾が転がってきたりなんて日常茶飯事すぎて常に気を張ってなきゃいけねぇからな。

我ながら頭ゲヘナだと思わざるを得ないが、ゲヘナってのはそんな地区なんだから仕方ない。

 

本来ならああやってヴァルキューレの警官が堂々とサボってるくらい治安が良いほうがいいんだけど、ゲヘナではそれは無理な話なんでな。

……にしても、あの青髪のヴァルキューレの警官。

あれは流石に堂々としすぎじゃねーか?

流石に仕事しろヴァルキューレと言わざるを得ない。

そんなんだからSNSで悪口言われるんだぞ……

その隣では、同僚らしき真面目そうな白髪の三つ編みの警官が何かをワーワーとまくしたてている。

 

「フブキ!またあなたは……!」

「あーはいはい。分かったってばキリノ〜。」

 

……まぁ、俺様には関係のない話だが。

 

「……しかし、1時間前に着くのは早すぎたか?」

 

スマホの時計を見ると、待ち合わせ時間の1時間前の時刻がディスプレイに映し出されている。

エデン条約前でピリピリしているこの時期にトリニティに所属している先輩に失礼があってはいけないと思ったんだが、さすがに早すぎたかもしれん。

まぁ羽川先輩はモモトークでそれなりに話してて気の知れた中ではあるから、そこまでガチガチに緊張してはいけないけども。

 

「……タツミさん?」

 

そんな事を考えつつ何処かで時間でも潰してこようかと思っていると、俺様の後ろから声がかけられる。

そちらを振り向くと、そこには黒のタートルネックに緑のロングスカートを履いた羽川先輩の姿があった。

 

「羽川先輩!?」

 

正実の黒いセーラー服とは全然違う装いに一瞬ドキッとする。

羽川先輩と合うのはシャーレの奪還戦で一緒に戦って以来なので、正実の格好しか見ていなかったので新鮮みを感じる。

……ってかあの暴力的に胸を押し上げて悲鳴を上げているセーラー服と、エッグいスリットの入ったスカートしか見たことがなかったので正直スカートにスリットが入っていなくてホッとしている。

まぁ胸は暴力的だけどな!デカすぎんだろ……

それにしても、羽川先輩すごいスタイルいいし背も俺様より高いから私服がめっちゃ似合っている。

どこかのモデルだと言われても納得なレベルだ。

 

「早いですね、まだ1時間前ですよ?」

「いや、先輩に失礼があってはいけないと思って……そう言う羽川先輩こそ1時間前に来てるじゃないすか。」

「い、いえ。私も貴方に失礼があってはいけないと思ったので……け、決して楽しみにしていたとかそういう訳ではないですからね!?勘違いしないように!」

「は、はぁ……」

 

羽川先輩は何故か顔を赤くすると、そうまくし立てる。

まぁそりゃ羽川先輩は今回はシャーレの件のお礼ってことで誘ってくれたわけだし、別に俺様も勘違いするつもりなんてこれっぽっちもないわけだが。

それはそれとして、新しいカフェは楽しみだけどな。

 

「まぁお互い様ってことにしておきますか。」

「……そうですね。」

 

俺様と羽川先輩は顔を見合わせ、お互いに苦笑した。

それにしても、羽川先輩ってほんとに美人だよなぁ……

えっと、確かイブキが「女の子がおしゃれしてたら褒めてあげないといけないんだよ、お兄ちゃん!」ってこの前言ってたっけな?

 

「羽川先輩。その服めっちゃ似合ってるっすよ。」

「……!!?い、いきなり何を……!?」

「いや、その服ってゲヘナとトリニティの関係があるとは言え今日のために着てきてくれたわけじゃないっすか。なら感想を言うくらいさせてくださいよ。」

 

そういうと、羽川先輩は赤くなっていた顔をさらに真っ赤に染め上げながらワタワタと慌てだした。

実際似合ってるのは確かだしな。

それにゲヘナとトリニティの関係がなければ別に堂々と制服着て会えたわけだし、手間を取らせちまったって負い目もあるんでね。

それに、妹のイブキのアドバイスもあることだしな!

 

「その……あ、ありがとうございます。」

 

もはや顔から煙が立ち上りそうなほど顔を真っ赤にした羽川先輩は頬に手を当てながらそう言った。

……今日そんなに暑くねぇんだがな?羽川先輩ってもしかして暑がりなのか?

 

「タツミさんも似合ってますよ、その服。」

「お、そうっすか?いやー変じゃないか不安だったんすけど羽川先輩にそう言ってもらえるなら嬉しいっす!」

 

俺様の今の格好は良さげなジャケットに良さげなズボンというなんかこう、無難な感じの格好にしてみた。

普段私服とか着ないから死ぬほど悩んだ上に選んだんだが、好評だったようで何よりだ。

変な格好をして隣を歩いて羽川先輩に恥をかかせるわけにはいかねぇからな……

 

「じゃあ少し早いけど、行きますか?」

「ふふ、そうですね。」

 

1時間前とは言え、カフェのオープン時間はもう過ぎているわけなので今から行っても特に問題はないはずだ。

俺様と羽川先輩は隣に並ぶと、カフェを目指して歩き始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」

「2人なんすけど、席空いてますかね?」

「2名様ですね!大丈夫ですよ、こちらへどうぞ!」

 

カフェに入店し、店員のロボットとそう会話を交わした俺様達は店員の通してくれた席へと着席する。

周囲をぐるりと見渡すと、それなりの賑わいをみせてはいるもののやはり時間がまだ少し早いのか客足はまばらだった。

まぁオープンしてから割と時間立ってるしな、オープン直後はそれこそ凄い行列だったらしいけど。

 

店内はいかにもカフェと言うような落ち着いた雰囲気であり、注文用のタッチパネルもフチの部分が木製で出来ているなどこだわりを感じられる作りになっている。

 

「羽川先輩は何頼みます?」

「私はもちろん……これです。」

 

羽川先輩はタッチパネルを手に取ると、慣れた手つきで操作し注文する商品を俺様に見せてくる。

タッチパネルのディスプレイには『超ウルトラデラックスパフェ』なるメニューが表示されている。

 

その超ウルトラデラックスパフェとやらは、なんかもう色々すごいパフェだった。

まずソフトクリームの量が尋常じゃない。下手すりゃキログラム単位で無いかこれ?

それに上に乗っかってるイチゴやバナナ等のフルーツ類も量がやべぇし、コーンフレークとか下手すりゃ俺様の朝飯で食う量以上にあるだろコレ……

しかもトドメにチョコレートソースがかかっており、プリンまで鎮座しているオマケ付きだ。

俺様も甘いものは好きな方だが、ここまで行くと甘すぎて気分悪くなりそうだな……

えっ羽川先輩これ注文すんの?マジで言ってる?

 

「いや、それは構いませんが……食い切れます?これ。」

「余裕です。」

「そ、そうっすか……」

「それに、今日はこれが楽しみで来ましたからね!」

 

何故かドヤ顔を浮かべながらそう言う羽川先輩。

羽川先輩はモモトークをする中で知ったんだが、甘いものには超目が無いらしくトリニティでもよくパフェやケーキを食いにカフェに行っているそうな。

そして、食べる量も人より少し多いとは聞いていた。

……が、これは人より少しってレベルではないのでは?

 

「それに、タツミさんはいっぱい食べる女子は嫌いではないのでしょう?なら遠慮はいりませんよね!」

「まぁそれはそうっすけど……」

 

確かに俺様はいっぱい食う女の子は見てて気持ちいいから好きだけど、このパフェの量はやべぇぞ……?

まぁ羽川先輩は普段正実の業務で動き回っているから体がカロリーを欲しているのかもしれないが。

それに、よく食べるならこの規格外の体つきなのも納得がいく気がする。

身長を少し分けて欲しいと思わなくもないが。

 

「……じゃ、俺様はコーヒーとプリンにするか。」

 

ニコニコしながら超ウルトラデラックスパフェを注文する羽川先輩を尻目に、俺様はコーヒーとプリンをタッチして注文を済ませる。

このあと昼飯も食いに行く予定だから、あんまり食いすぎるのもアレだしな。

 

それに事前情報によると、このカフェはコーヒーがうめぇって評判らしいじゃねーか。

これは是非とも、普段風紀委員会で泥水みてぇなコーヒーを飲まされてる俺様が調査してやんねぇとなぁ!

……天雨行政官、もう少し淹れ方改善してくれねぇかな。

 

あと俺様は初めて入る店の場合は必ずプリンを頼んで食っているんだよな。

理由?そんなの決まってるだろ?

美味かったらイブキを連れて来てやるためだ!

 

「羽川先輩、飲み物はどうします?」

「私は紅茶にしますね。」

「了解っす。」

 

2人分の注文を入力し、タッチパネルの注文完了のボタンをタップした俺様は機械を充電器へと戻した。

それにしても、やっぱり羽川先輩もトリニティに所属しているだけあって紅茶派なんだな。

俺様も紅茶は別に嫌いじゃないんだが、小さい頃からゲヘナに住んでてコーヒーの方が飲み慣れてるから好きなんだよな。

 

「羽川先輩、今日は誘ってもらってありがとうございます。」

「いえ、気にしないでください。迷惑ではなかったですか?」

「いえ全然そんなことないっすよ。むしろ女子と出かけることなんて滅多にないんで、何か失礼がないか心配なくらいで……」

「……そうなんですか?」

「……?えぇ、そうですよ?」

 

イブキとなら数え切れないくらい出かけてるけど、羽川先輩みたいに他校の先輩と出かけたことなんてほとんどねぇからな俺様。しかも今回は私服だしよ。

万魔殿のメンバーと出かけるってなると主に仕事だし、プライベートで遊ぶ時も皆でって感じだから特定の誰かと出かけることってあんま無かったりする。

他校に飯を食いに行くときは基本的には1人だしな。

あとはまぁ……火宮くらいじゃないか?2人でどっか行くのって。火宮はたまに放課後に遊ぼうって誘ってくるから一緒にどっか行ったりしてるけど。

 

「驚きました。てっきりこういう事には慣れているものかと……」

「そりゃ仕事でなら慣れてますけど、俺様がプライベートで私服着て誰かと出かけるなんてほぼないっすからね?レアっすよレア。」

「……そうですか、ふふっ。」

 

そう言うと、羽川先輩はなぜか嬉しそうに笑った。

……何で嬉しそうなんだ?

あぁ分かったぞ、この後来るパフェが楽しみなんだな!

 

「羽川先輩、ほんとに甘いもの好きなんすねー。」

「……え?」

「いや、めっちゃ嬉しそうな顔してたもんで。」

「……このクソボケは……」

「……え?」

 

何だって?小声過ぎてよく聞こえなかったが……?

 

「お待たせしました!ご注文の超ウルトラデラックスパフェとプリンです。お飲み物からお渡ししますね。」

 

っと、そうこうしているうちに注文が運ばれてきたらしい。

先に飲み物をテーブルに置き、何故か俺様の前にクソデカパフェを置こうとする店員。

 

「あ、それは私の注文……」

 

羽川先輩がそれを見て店員に声をかけようとするが、俺様は手でそれを制する。

店員は一瞬だけ不思議な顔をしたが、すぐにプリンを羽川先輩の前に置くと「ごゆっくりどうぞ」と言い残して去っていった。

 

「はいどうぞ、羽川先輩。」

 

そして店員が去ったのを確認すると、俺様はクソデカパフェとプリンをさっと入れ替える。

羽川先輩、いっぱい食べるのは好きらしいけどそれを気にしているともモモトークで言ってたからな。

俺様は男だから別にいっぱい食うやつって見られても構わないが、羽川先輩が周囲の目を気にしているならこうするのが一番丸いだろう。

 

「……お、お気遣いありがとうございます。」

 

羽川先輩もそれを察してくれたようだ。

何故か顔が赤いのは気になるが、お礼を言ってくれた。

 

「この人はいつも自然にこんな事を……?これは周囲に女性が多いのも納得ですね……」

 

なんか、さっきから羽川先輩声が小さいんだけど何かあったのだろうか?

……ってか、気遣ったのはいいんだがこれ結局羽川先輩がパフェ食ってるの店員が見たらバレるのでは?

いらん気遣いだったかこれ……?

 

「……ふふ、まぁいいでしょう。ではいただきましょうか、タツミさん。」

「あ、はい。そうっすね!では……」

「「いただきます。」」

 

俺様と羽川先輩はお互いに挨拶をすると、それぞれスプーンを手に取り運ばれてきたスイーツに手を付ける。

ふるふると揺れるプリンにスプーンを差し込んですくい上げると、そのまま口へと運ぶ。

 

「……これは。」

 

このプリン……めっちゃうめぇな!

いつも行ってるコンビニのプリンもうめえんだが、これはそれを上回る美味さかもしれねぇぞ。

特にカラメルソースがチョコレートソースになっているのが俺様的にはポイントが高めである。

カラメル好きには申し訳ねぇが……これは是非ともイブキを連れてきてやんねぇとな!

 

そんな事を思いながらプリンをパクつきつつふと羽川先輩を見ると、羽川先輩は目をキラキラと輝かせながらソフトクリームを口に入れて笑顔を浮かべていた。

どうやらお気に召したようだ。良かった。

プリンを食って程よく口の中が甘くなったところで、俺様はコーヒーのカップを手にとって一口啜る。

 

「……うめぇな。」

 

口の中に入れた途端、豊かな風味が広がっていく。

香りもいいし、値段は張るけどコーヒーが美味いって口コミは嘘ではなかったようだ。

普段泥水みてぇなコーヒーを啜ってるからかもしれねぇけど、めちゃくちゃ美味く感じる。

空崎委員長にも教えようかな、普段天雨行政官の入れたコーヒーを愛飲してるからビックリしそうだが。

 

……それにしても、よく食うなぁ羽川先輩。

正直パフェがあまりにもでかすぎて俺様ビビってたんだけど、このペースなら難なく完食しそうな勢いだ。

満面の笑みを浮かべてパフェを食べている羽川先輩は普段のキリッとした表情とは違い、甘いものの好きな女の子って感じがして新鮮かもしれないな。

……今度料理でも作ってみようかな?羽川先輩ならうまそうに食ってくれそうだし。作り甲斐がありそうだ。

 

「もぐもぐ……美味しいですっ。」

「ん、良かったっす。」

 

その後もパフェを頬張る羽川先輩を眺めつつ、俺様はゆっくりとプリンとコーヒーを味わうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後、俺様と羽川先輩はカフェを出てDU地区を巡った。

 

「うーん……ナポリタンとカツ丼、どっちにするか超迷うな……」

「方向性が違いすぎませんか……?」

「いや、俺様結構和食好きなんすけどナポリタンも食いたいんすよね……どうすっかなぁ……」

「……では、両方頼んで私が残った方を私が食べるというのはどうでしょう?」

「おぉ、それいいっすね!ナイスアイデア羽川先輩!」

 

羽川先輩と一緒にレストランで昼メシを食ったり。

 

「見てくださいタツミさん!美味しそうなクレープの店がありますよ!」

「ま、まだ食うんすか羽川先輩!?もうパフェと昼飯も食ったのに、そんなに食うとふと……」

「な・に・か・言・い・ま・し・た・か?」

「……イエ、ナンデモナイッスハイ。」

 

はしゃぐ羽川先輩に付き合ったり。

 

「そういや羽川先輩ってゲヘナ嫌いじゃありませんでしたっけ?俺様の事も嫌いだったり……?」

「嫌いだったらこんな風に誘いませんよ!鈍感!これだからゲヘナは……!」

「鈍感とゲヘナって関係あんのか……?」

 

何故か羽川先輩に怒られたり。

 

「世界中の記憶がいつか〜♪」

「砂のように消えてしまっても〜♪」

 

カラオケに行ってめちゃくちゃデュエットしたり。

 

「もっと寄ってくださいタツミさん!」

「ちょ、ちょっと待ってください羽川先輩!これ以上くっつくと色々まずいと言うか……!」

「こ、このプリクラの機械が狭いのだから仕方ないではありませんか!ほら!もっと寄って!」

(無心……無心だぞ俺様……!)

 

ふらっと立ち寄ったゲーセンで羽川先輩の提案でプリクラを撮ったりと、思う存分に2人で楽しんだ。

そしてあっという間に時刻は夕暮れ時になり、キヴォトスの空には赤い夕焼けが浮かんでいる。

 

「あー楽しかった!いやー、久しぶりにこんなにはしゃいだ気がしますよ!」

「私もです。こんなに羽目を外したのはいつ以来でしょうか……」

「普段はお互い仕事仕事っすからね、たまにはこんな風にはしゃぐのも悪くないかもしれませんね。」

「……ふふ、そうですね。」

 

羽川先輩はそう言うと、ニッコリと笑う。

そして俺様に視線をやると、表情を少し陰らせながら口を開いた。

 

「……その、タツミさんは楽しかったでしょうか?」

「もちろんっすよ!」

 

俺様は全力で首を縦に振った。

片や万魔殿、片や正義実現委員会の副委員長。

それぞれの学園では立場的に忙しくて中々自由な時間が取れないので、今回誘ってくれたのは嬉しかったし何よりもめちゃくちゃ楽しかった。

 

「そうですか。私だけ楽しんでいないか少し心配だったので、楽しんでもらえたなら良かったです。」

「はい、心配しなくても俺様は充分に楽しませてもらったんで大丈夫っすよ羽川先輩!」

 

それにしても、わざわざそんな事を聞いてくれるなんて羽川先輩は本当にいい人だよな。

普段、正義実現委員会で同僚や後輩から好かれて頼られている姿が容易に想像できる。

 

「さてと、それじゃあ……」

「えぇ、そろそろ日も暮れてしまいますしね。」

 

俺様と羽川先輩は顔を見合わせると、お互いに笑った。

時刻はもう18時を回るかというところ。

解散にはいい時間だろう。

今日俺様は「ちょっと友達と遊んでくる」と言って万魔殿を出ているからな。

まさか馬鹿正直にトリニティの友人と会うと言うわけにはいかねぇしよ。

これ以上一緒に居たらさすがに友達と遊ぶにしちゃ遅すぎるし、帰った時に言い訳が効かなくなっちまう。

 

それは恐らく羽川先輩も同じだろう。

まさかエデン条約前で両校がピリピリしているこの時に馬鹿正直に「ゲヘナの友人と会って来る」なんて言えないだろうからな。

お互いゲヘナとトリニティじゃなければもっと気軽に出来たんだろうが……まぁこればかりは仕方ないだろう。

 

「……あの、タツミさん。」

 

そんな事を俺様が考えていると、羽川先輩が真剣な表情をしながら声をかけてくる。

俺様はそんな羽川先輩を見て姿勢を正すと、彼女に向き直る。

 

「今日はお付き合い頂いて本当にありがとうございました。とても楽しかったです。……その、良ければまた誘っても良いでしょうか?今度はお礼ではなく、ゲヘナとトリニティも関係なく、1人の【友人】として。」

 

そして、彼女の口からそう言葉が伝えられた。

……そんなもん決まってるだろ。

 

「もちろんです。俺様こそ今日はありがとうございました。すげぇ楽しかったです!遠慮せず、また是非誘ってください!」

 

そう言って、俺様は笑顔を作って羽川先輩へ向けた。

羽川先輩はその笑顔を受け取ると、同じ様に笑顔になる。

今日は本当に楽しかったからな。

俺様は羽川先輩は尊敬してるしいい人だと思うから、羽川先輩がいいならまた遊びたいとは思うしよ。

 

「良かった……」

「まぁゲヘナとトリニティじゃなきゃもっと気楽に会えるんすけどねー。私服じゃなくて、もっとこう大手を振って堂々と制服を着て。」

「……ふふ、そうですね。本当に……ゲヘナが皆タツミさんみたいな人だったら良かったんですけどね。」

 

少し表情を陰らせながらそう言う羽川先輩。

うーん……まぁそれはちょっと難しいかもしれねぇな。

ゲヘナと言えば爆発、戦闘、破壊みたいなイメージがあって実際にその通りな生徒が多すぎるからよ。

トリニティのような、お淑やかで落ち着いたお嬢様とは根本的に生きる道が違うからな……

 

「まぁでも、そしたら羽川先輩の私服姿見れなかったしこれはこれでいいかもしれませんけどね?」

「な、何を……!?もうっ!そういうところですよっ!」

 

そう言い、顔を真っ赤にしつつそっぽを向く羽川先輩。

……なんか変なこと言ったか?

別にその服似合ってるし、制服以外で女子とプライベートで会ったことってないから悪くないかもしれませんねって意味だったんだがな……?

そう考えたら俺様がプライベートで最初に私服で女の子と遊んだのってイブキを除けば羽川先輩が初めて……?

いや万魔殿の皆とは私服で遊んだことはあるが、2人でってなると……羽川先輩が初めてだな、うん。

いやはや、まさかトリニティの先輩とそんなことになるとは……人生は何が起こるかわかんねぇな。

 

「まったく……貴方という人は……」

「す、すいません?」

「……ふふ。許しませんからねっ?」

「え、えぇ……?」

 

今度は何故かいたずらっ子のような笑みを浮かべながらそう言う羽川先輩。

……女心はよく分かんねぇなぁ。

 

「……それでは、名残惜しいですが解散しましょうか。」

「まぁその……なんというか。そんな今生の別れみたいな言い方しないでくださいよ羽川先輩。モモトークだって交換してるんですし、また暇を作れば遊べますって。」

「ふふ……そうですね。」

 

帰り道を2人で歩きながらそんな事を話す。

 

そして、そうこうしているうちに駅に到着したようだ。

ここから俺様はゲヘナ行きの、羽川先輩はトリニティ行きの電車に乗ってそれぞれの日常へと帰っていく。

なお、ゲヘナとトリニティ行きのホームはそれぞれの学園の関係を反映するように真反対に設置されている。

当然改札も別。

つまり、ここでお別れだな。

 

「タツミさん、今日は本当にありがとうございました。」

 

そんな事を思っていると羽川先輩は俺様の前まで移動し、丁寧にお辞儀をした。

 

「こちらこそありがとうございました、羽川先輩。」

 

俺様も感謝を込めてお辞儀をする。

 

「……それでは、またお会いしましょう!」

「はい!必ず!」

 

そう言って俺様と羽川先輩はそれぞれの改札をくぐると、お互いに手を降ってから背中を向けて歩き出した。

 

羽沼議長の言うがままシャーレに行って、そこで羽川先輩に会ったときはこんな関係になるとは思ってもいなかった。最初は羽川先輩、結構顔を顰めてたしな。

まさかそこから縁が出来てモモトークも交換してこうやって遊ぶ仲になるとは……

まぁ今回はシャーレの件での礼って事だったが、次回は普通に友達として遊ぼうぜって約束もしたし。

つくづく、人生何が起こるか分からんものである。

 

「……エデン条約、上手くいくと良いんだがなぁ。」

 

そんな事をボソリと溢しつつ、俺様はホームへの階段に足を踏み入れるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……シャーレの当番の帰りにお茶でもしていこうと思ったら、とんでもない物を見ちゃったっすね。」

「いくら私服だとは言え、あのハスミ先輩がゲヘナの男子にわざわざ会いに行くなんて……明日、雨振らないっすよね?」

「まぁ、気になってストーカーの真似事をしていた私が言えた義理じゃないっすけど……」

「……ま、ハスミ先輩がお熱って言ってたゲヘナの男子も気になってたことっすし、別にいいっすかね?」

「それにしてもあの2人随分仲が良さそうだったっすね……ハスミ先輩、めっちゃグイグイ距離詰めてたし。」

「と言うかあの男子、本当にゲヘナ所属なんすかね?」

「女性に対する気遣いもちゃんと出来てたし、大盛りのパフェをそのまま受け取ってさりげなく取り替えたところとかハスミ先輩完全にメスの顔だったっすよ……?」

「全然野蛮じゃないし、確かにあれならハスミ先輩がお熱になるのも納得っすね。」

「とは言え、条約のこともあることだしあんま大っぴらに会うのは火種になりかねないから勘弁っすけどね。」

「……さて、私も帰るとするっすか。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……マコト先輩の指示でタツミくんをこっそり尾行してたら、まさか相手が正義実現委員会の副委員長だとはねー。」

「タツミくんのことだから、連邦生徒会に行ったときにでも引っ掛けてきたかな?まったく、スケコマシなんだから。イブキちゃんが泣いちゃうぞー?」

「とにかく、これは一大スクープだね!早速マコト先輩に報告を……」

「うーん……でも、今はエデン条約も控えてるしなぁ。タツミくんもあの副委員長もかなり気にしてたみたいだし、マコト先輩に言って変に煽らない方が良いかな?」

「それに、よく考えたらこれってタツミくんの弱みってやつだよね?」

「……ふふ。なら、これは私のカメラの中に残しておくとしよっか!マコト先輩には良い感じに誤魔化して報告しておこうっと!」

「さてさて、じゃあ私も帰ろうかなっ!」

「……タツミくんに何してもらうか、考えとかないとねっ!ふふふっ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……ウフフ♡ウフフフフフ♡」

「決まりました。次はトリニティで大規模な破壊活動を致しましょうか♡」

「しかし、そのためにはまず侵入ルートを調べませんと……まったく、面倒ですわね。」

「あの無駄に育った駄肉に惑わされてはいけませんよタツミさん。貴方はそんな卑しいメス猫よりも、私と戦うことだけを考えていれば良いのですから……」

「必ずこの手で貴方を壊して差し上げますから、もう少しお待ちください……ね?♡」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“……なんだかタツミに危険が迫ってる気がする!?”

「先生!早く書類を片付けてください!」

“いやでもユウカ!タツミが……!”

「えっ、タツミくん……?何をわけの分からないことを言っているんですか!?ほら、早くする!」

“ひぃ……ゆ、許してよユウカ〜!”




この後は少し山海経の話が続きます
オリジナルストーリーも山海経が絡む話の予定です
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