転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

2 / 138
風紀委員会と丹花タツミ

ゲヘナ学園風紀委員会。

治安がこの世の終わりみたいなゲヘナ学園に置いて風紀を守るために動く組織……まぁ早い話が治安維持組織だ。

その活動内容は多忙を極めている。

 

まぁそりゃ当然だ。ここはゲヘナ学園の自治区。

毎日そのへんで銃撃戦なんて当たり前、ビルを爆破したり道路をぶっ壊したりなんざ日常茶飯事の世界。

建物が壊れない日は平和だったなー位の感覚だな。

なお、時には美食を名乗るイカれ集団が飲食店を爆破したり温泉を掘るとか言いつつ平気な顔をして街を破壊するイカれた集団が出現することもあるな。

そんな中で治安を維持するために日夜頑張って働いているのが風紀委員会と言うわけだ。

 

そして、俺様は今そんな風紀委員会の本部の前に居る。

目的は一つ。あのアホ議長がまた本来なら万魔殿で処理しなければならない書類を風紀委員会に押し付けやがったからその書類の回収である。

と言うかそんなホイホイ万魔殿でやる書類を押し付けんじゃねぇよ……予算の承認の書類とか風紀委員会に権限ねぇのに押し付けたところでどうなるんだよマジで。

まぁ大方目的は嫌がらせなんだろうけどよ。

何がそこまで羽沼議長を嫌がらせに走らせるのか。ホントあの人風紀委員会の事になると目の色変わんだから……

あの悪癖さえなきゃちょっとは尊敬できんだがなぁ。

 

そんなことをボンヤリと考えつつ、俺様は風紀委員会の門をくぐった。

 

「ん……?おい、ここは風紀委員会だぞ。万魔殿の連中が何の用だ?」

 

門をくぐった瞬間に、見張り当番であろう女子生徒が近寄ってきて声をかけてくる。

腕には風紀と書かれた赤い腕章をつけており、俺様の羽織った万魔殿のジャケットを睨みつけながらドスの効いた声で問いかけてくる。

当然万魔殿のあのアホ議長が風紀委員会に嫌がらせを仕掛けているのは風紀委員会の周知の事実なため、ここまでの敵意を向けられるのも当然だろう。

 

「どうも、お疲れ様っす。」

「ん……?なんだ、お前かタツミ。」

 

だが、そんな射殺さんばかりの視線は俺様が声をかけたことによりどこかへと消え去った。

というのも、俺様は羽沼議長が風紀委員会に押し付けた書類をよく回収しに来ているからである。

初めの方はそれはもう親の仇かの如く睨まれたりわざと肩をぶつけられたり、銃を突き付けられて脅されたりもしたもんだ。

だが、今では敵意がないことが伝わったのか前までみたいな露骨な視線を向けられることは無くなった。

見張りの風紀委員とはほぼ顔見知りになり、本部の人間とも何人かとは雑談くらいはする仲になっている。

たまに空崎委員長の隣で書類を捌いているのが効いたのかは知らんけどな。

 

「また書類の回収か?」

「そっすね。全く困ったんもんすよ……」

「まぁそのなんだ、お前も大変だな……同情するよ。」

「ハハハ……まぁもう慣れたんでね。」

 

ため息を吐きながら、俺様はそう言った。

 

「空崎委員長は居ますかね?居なければ天雨行政官とか火宮でも大丈夫スけど。」

「ヒナ委員長は生憎不良の対応のため留守でな……アコ先輩かチナツならいるから、呼んでこようか?」

「あ、なら申し訳ねぇけど火宮で頼めますか?天雨行政官だとほらその……ね?」

「あぁ……アレはな。分かった。少し待っててくれ。」

 

そう言うと、見張りの風紀委員の先輩はドアの奥へ引っ込んでいった。

しばらくその場で待機していると、ドアが開いて1人の女性が書類を抱えてこちらへ向かってくるのが見えた。

茶髪にメガネをかけ、赤タイツとか言うクソ目立つものを身に付けている俺様のクラスメイト、火宮チナツだ。

 

「よぉ火宮。」

「こんにちは、タツミくん。」

 

俺様達は軽く挨拶をすると、俺様は手を出して火宮の持っていた書類を受け取った。

 

「サンキュ、これで全部か?」

「はい、万魔殿からヒナ委員長に押し付けられたものはこれですべてのはずです。」

「分かった、いつも悪い。助かる。」

「それはこちらのセリフですよ。いつもいつも書類を取りに来てくれてるので、ヒナ委員長も感謝してます。」

「……空崎委員長、最近は眠れてるのか?」

「前に比べたら睡眠時間はかなり改善されています。これもタツミくんのおかげですね。」

「いやいや、俺様はやる必要のない物を持って帰ってるだけだぞ?火宮を始めとした風紀委員のみんなの頑張りのおかげのはずだ。」

「……ありがとうございます。そう言ってもらえると少し気が楽になります。」

 

……火宮をはじめとした風紀委員も頑張ってるんだろうが、ゲヘナ学園の自治区で治安維持活動をするって言うのは並大抵の努力じゃ務まらないことだからな。

現にキヴォトス最強クラスと言われる空崎委員長が自ら現場に出向いているにも関わらずドンパチの量は減るどころか日に日に増えていくばかりっつー惨状だ。

ゲヘナ風紀委員会は空崎委員長が強いだけであとは大したことないとか巷では言われているが、あんなにボロボロになりながら頑張ってる連中にそれは失礼だろう。

万魔殿としても何とかしてあげたいところだが、トップが風紀委員ガチアンチなのがどうにもなぁ……

俺様1人ではたかが知れてるし、そもそも俺様も仕事あるから万魔殿の仕事の合間くらいしか手伝えんしな。

 

「そう言や火宮、お前もちゃんと休めてるのか?」

「え?はい、私はしっかりとお休みをもらっていますから大丈夫ですよ。」

 

そう言うと、火宮はニコッと笑った。

だが、その顔には少し疲れが見えるように感じる。

 

「……まぁ俺様に出来ることがあれば遠慮なく言ってくれ。少しは力になれるよう努力するからよ。」

「ふふ、ありがとうございます。ただ私達としては万魔殿からの書類を持って帰ってくださるだけでかなり助かっているので、これ以上は望みませんよ?」

「いや、別にこれはあのアホ議長がそっちに押し付けてるだけで本来なら万魔殿でやる仕事だからな。手伝いのうちには入らんだろコレ。」

「でも、タツミくんにも仕事があるんじゃないんですか?」

「まぁあるけど、風紀委員よりはよっぽどラクだろうよ。実働も少ないし基本は書類仕事だ。それに万魔殿は実質的な生徒会だぞ?困っているヤツを助けるのは当たり前のことだろ。」

「……ふふ、そういうところですよ?タツミくん。」

 

そう言うと火宮は口元に手を当ててくすくすと笑った。

……そういう事ってどういう事なんだ?

この前棗先輩にも言われたが、さっぱり意味が分からん。

 

「……ん?おぉ!タツミじゃないか!」

 

そんなこんなで火宮と立ち話をしていると、風紀委員会の建物の中から聞いたことのある声が聞こえてきた。

視線をそちらへ向けると、そこには銀髪のツインテールに褐色肌の眩しい銀鏡イオリ先輩が居た。

自身の獲物である銃を肩に担ぎながら、手をふりふりと振りながらこちらへ歩いてくる。

 

「銀鏡先輩、どうも。」

「また万魔殿からの書類の回収か?」

「まぁそんなところっスね。」

「そうか、いつも助かっているよ。ありがとう。」

「いえ、元はと言えばコレはこっちでやるべき仕事ですから。俺様はアホ議長の尻拭いしてるだけっスね。」

「……こういうところだよなぁ、ホントに。」

 

銀鏡先輩はガリガリと頭を掻きつつそう言った。

……ほんとにどういうことなんだろうか。

ちなみに銀鏡先輩とは今でこそこうやってそこそこフレンドリーに話せる仲だが、初めに俺様が風紀委員会を訪れていた頃はそれはもう敵意剥き出しだったもんだ。

最初は顔を合わせるたびに威嚇されていたが、根気強く話したり時には一緒に肩を並べて戦ううちに自然と敵意は消えて割と仲良くなっていた。

え?なんで万魔殿なのに風紀委員会と肩を並べて戦ってるんだって?……まぁいろいろあったんだよ。

機会があれば話すとしよう。

 

「そう言えばチナツ、ヒナ委員長はいつ戻るか知ってるか?」

「ヒナ委員長ですか?今は不良の鎮圧に出て30分くらい立ちますが……あまり大きな規模ではないと聞いているので事後処理も含めたらそろそろ帰って来られるかと。」

 

ひゃー、鎮圧に事後処理含めて30分あれば充分ってさすがは空崎委員長。

風紀委員会、いやひいてはキヴォトス最強クラスの名は伊達じゃないって事だな。

そんな存在に真正面から喧嘩を売る我らが議長ってもしかして相当なアホなのでは?

まぁでもあの人はあの人で良いところもあるしなぁ。

 

「そうか、さっきこっちでも終わった不良の鎮圧に対する報告書を書いたから提出したかったんだけど、そういうことならもう少し待つか。」

「それならアコ行政官に提出すれば良いのでは?」

「アコちゃんにはもう提出したよ。ただ、ビルを3軒も爆破されちゃったから被害の大きさから考えてヒナ委員長にも目を通してもらったほうが良いって言われたからさ……」

「あぁ……それは確かにそうですね。」

 

いやほんとお疲れさんとしか言いようがねぇ……

しかしビル3軒か、派手にやってくれたな不良ども。

 

「銀鏡先輩も不良の鎮圧に行ってたんすね。お疲れ様です。」

「あぁ、ありがとう。最近不良が暴れる頻度が前よりも多くなってるから私とヒナ委員長が一緒に出ていく訳にも行かなくなっちゃってな。」

「イオリ、今回も小隊長を任されていましたものね。」

「うん、大変だけどやりがいはあるよ。」

 

そう言って銀鏡先輩はニコニコと笑った。

空崎委員長の陰に隠れがちではあるが、銀鏡先輩も風紀委員会の中では相当の実力者だ。

それこそ並の相手では5秒も持たないだろう。小隊長に指名されるのも納得だ。信頼されてるんだな。

 

「……まぁその、なんだ。お前もあんまり無茶して妹を泣かせるなよタツミ。ただでさえお前は体が私たちに比べると脆いんだからな。」

「そうですよ。この前タツミくんがケガして帰ってきたときイブキちゃん泣いてましたからね?」

「うっ……確かにそれはそうだ。この俺様とした事がイブキを悲しませちまったのは一生の不覚……!!!」

 

俺様は苦虫を噛み潰した表情を浮かべつつそう言った。

この前、出先で不良同士の喧嘩に巻き込まれて駆けつけた風紀委員会と事を収めるために共闘してる時に数発食らっちまったからなぁ。

幸い防弾チョッキを着込んでたおかげで大事には至らなかったが、結果的には怪我しちまった。

すぐ救急医学部へ担ぎ込まれて手当てをしてもらったから大事には至らなかったが。

 

あん?俺様が脆い理由?そりゃ俺様には【ヘイローがない】からな。

……こう言えば、ブルーアーカイブの世界で俺様がどういう存在かは分かるだろ?

 

まぁ心配すんなって!俺様とて可愛い可愛いイブキを置いて先にポックリ逝っちまうなんてのはゴメンだ。

外に出る時はキチンと防弾チョッキを着込んでるし、戦闘になれば防弾ゴーグルで顔をカバーしてる。

それにヘルメットも被ってるから頭の防御は万全だ。

ちなみに防弾チョッキは制服の下に着れる薄手のものだが、アサルトライフルの弾くらいなら弾けちまう防弾性能に優れた特注品だ。

羽沼議長がくれたんだよなコレ、この点に関してはマジでありがたいぜ。

 

それに、俺様の相棒であるフルオートショットガン【ブークリエ】も常に持ち歩いているしな。

引き金を引きっぱなしでショットガンの散弾を広範囲にばら撒ける制圧力バツグンの優れた銃だぞ。

結構反動があるのがたまにキズだがな。

んで、コイツを片手に折りたたみ式のシールドを構えつつ戦うのが俺様の戦闘スタイルだ。

まぁ必然的に前に出るから戦闘時は肘当てとか膝当ても付けたフルアーマーだし、盾のおかげで肉体への被弾は案外少ないからそこまで心配するこたぁない。

 

「しかも怪我の理由が被弾しそうな風紀委員を庇ったからだって聞いたぞ?」

「いやー、いくらヘイローがあるとは言え被弾しそうな女の子を見捨てるのは男が廃ると言うか……」

「タツミくんは銃弾1発が致命傷になりかねないんですから、本当にあんまり無茶はしないでくださいね?」

「うっ……善処します。」

 

どこか威圧感を感じる二人に俺様はそう答えた。

おかしい、何故俺様は万魔殿じゃなくて風紀委員会でお説教をされているのだろうか。

仕方ねぇじゃん、俺様盾持ってんだし。それに被弾しそうな奴見ると体が勝手に動いちまうんだよなぁ……

 

「まぁ、ゲヘナなら自分の身は自分で守らなきゃダメだしな。心配には及ばないようもっと強くなるぜ!」

「そういうことじゃないんだが……コレはイブキも苦労してるだろうなぁ。」

「まったくですね……」

 

銀鏡先輩と火宮は額に手を当て、ため息を吐き出しながらそう言った。

なんか、さっきから俺様呆れられてんのかコレは……?

 

「まぁいつまでも立ち話もなんだし、良かったらお茶でも飲んでいくか?タツミの時間があるならだけど。」

 

そんなことを思っていると、銀鏡先輩からそんな提案が飛んできた。

 

「んー……まぁ今日は万魔殿の仕事は終わってますし、せっかくならご馳走になりますか。空崎委員長と天雨行政官にも挨拶しときたいですし。」

「分かりました、それではこちらへどうぞ。」

 

俺様が承諾すると、火宮と銀鏡先輩は俺様を先導するように風紀委員会の本部へと入っていく。

俺様も後を追い、建物の中へと入っていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まーたあなたですか丹花タツミ。あなたは万魔殿の人間なんですよ?そうホイホイと風紀委員会に来られては困るんですけど。」

「ハッハッハ。今日も絶好調っすね天雨行政官。」

「何がですか!?」

「え?嫌味ですけど。」

「もう少しオブラートに包めないんですか!?」

「あと相変わらずバカみてぇな格好だなと。」

「セクハラで訴えますよ!?」

 

キーッ!と言う擬音が聞こえてきそうな表情で俺様に距離を詰め、凄んでくる目の前の水色の髪の女性。

この人がゲヘナ風紀委員会のナンバー2、空崎委員長の右腕を務める天雨アコ行政官だ。

まぁ見てもらえば分かると思うが、俺様はこの天雨行政官にはあまり良く思われていない様子だ。

……まぁ、別にトップに嫌がらせしている組織に属する人間に対する態度なんてこんなもんだと思うから気にしてないがな。むしろ銀鏡先輩や火宮が聖人なんだよ。

 

「だって挨拶しに来たらいきなり憎まれ口が飛んでくるとは思わないじゃないスか、もう慣れましたけど。」

「慣れてるなら別に良くないですかね?それにあなたに書類を引き取ってもらわなくてもあの程度なら私が片付けられますけど?」

「いや、それとこれとは話別スね。アレはもともと万魔殿の仕事なんで。回収すんのは当たり前ですよ。」

「はぁ……そう言うと思いました。」

「そもそも行政官ちゃんと寝てるんすか?目の下のクマひどいっすけど?」

「……仮眠は取りましたよ。」

 

ハァ……と天雨行政官は腕を組みながらため息を吐いた。

風紀委員は多忙を極めてるから、空崎委員長だけじゃなくて天雨行政官の仕事量もエグいんだよな……

体を壊さないでほしいと思うばかりである。

 

さて、話は変わるんだが……やっぱりいつ見ても度し難い服装してんなこの人。

なんだよ胸の横の部分がザックリ空いてるって。そこから呼吸でもしてらっしゃるとでも言うのか?

そしてなんだその首元のベルは。それって家畜に付ける奴じゃないのか?ファッションにしちゃ奇抜すぎんか?

初対面の時はあまりにも驚きすぎて、邪な思いなんて一切なくただ困惑してガン見しちまった記憶がある。

 

と言うか、天雨行政官なまじスタイルが良いから目のやり場に困るんだよ……!せめて俺様がいる間くらいは上着かなんか羽織ってくれよマジで……!

少なくとも異性の前でしていい格好じゃねぇぞ!あとイブキの教育にも良くないんだよ……!

どういうわけか、このキヴォトスには俺様以外の人間の男が絶滅危惧種なのか?ってくらい見当たらない。

よって、女子たちもほぼ同性の目にしか晒されないため天雨行政官みたいなイカれた格好をしている女の子と言うのはまぁ一定数存在しているわけで。

いやおかしくね?人間じゃないだけで獣人やオートマタも一応男に分類されるんだが?

そいつらに見られたら恥ずかしいとか思わんのか?

 

「……なんですか、私の顔に何かついてます?」

「いえ、何も付いてないっすよ。」

 

そんなことを思っていたら、行政官の顔を凝視してしまっていたようだ。

俺様は視線をそらすと、テーブルの上の火宮が淹れてくれたお茶をグイッと煽った。

 

「アコちゃん、書類の不備直したけどこれでいい?」

「ちょっと待ってくださいねイオリ。この書類が終わったら確認しますのでそこに置いておいてもらえます?」

「分かった、頼むねアコちゃん。」

「チナツ、ヒナ委員長はあとどのくらいでお帰りになるか分かりますか?」

「委員長が出てからもうすぐ30分になりますので、あと少しで戻られるかと。」

 

そんな俺様を横目に、風紀委員会のみんなは日々の業務を粛々とこなしているようだった。

真剣な顔をして仕事をする天雨行政官はただの美人なんだけどなぁ、口を開くと面白お姉さんになっちまうと言う悲しい現実。どっかの議長みたいだな。

 

……ってかなんかお邪魔しといてアレだけど俺様迷惑な気がすんなこれ。回収した書類も寮に持って帰って寝るまでに仕上げないといけねーし、空崎委員長にも挨拶しときたかったけどお茶だけ飲み終わったら万魔殿に戻るかな。

 

「ただいま。今戻ったわ。」

 

そんなことをボンヤリと考えていると、部屋の扉が開いて聞き慣れた声の女性が入室して来た。

自身の腰よりも長いフワッフワの白い髪に、クソデカヘイローを頭に浮かべた小さな女の子。

ゲヘナ風紀委員会の誇る最強の風紀委員長、空崎ヒナその人である。

 

「お帰りなさいヒナ委員長!」

「ヒナ委員長、お待ちしておりました。」

「お疲れ様です!ヒナ委員長!」

 

風紀委員会の長の帰還に、周囲の風紀委員たちもザワザワとし始めている。

……しかし、いつ見ても髪のボリュームがすごいな。

ウチの棗先輩といい勝負なんじゃなかろうか。

なんか髪の色を交換して服を取り替えたらどっちがどっちか分かんなくなりそうじゃね?

ダウナーな雰囲気と表情もどことなく似てるし。

 

「……あら、タツミ?来ていたのね。」

 

そんなくだらないことを考えていると空崎委員長は俺様を見つけたらしく、片手を挙げながら近づいてきた。

俺様は座ったまま対応するのは失礼だろうと立ち上がり空崎委員長に挨拶するため口を開く。

 

「お疲れ様です、空崎委員長。あのアホ議長が押し付けた書類の回収に来ました。」

「えぇ、いつもありがとう。助かるわ。」

 

そう言って少しだけ微笑む空崎委員長。

……なんかあのアホ議長が押し付けたものを回収しに来ただけなのに礼を言われると少しむず痒いな。

俺様としては当たり前のことをしてるだけなんだが……

 

「いえ、こちらこそあのアホがいつもすみません。何回も言ってるんですが聞かなくて……」

「貴方が気に病む事じゃないわ。それにマコトのいつもの嫌がらせにはもう慣れているから気にしないで。」

 

いや、それは慣れたらアカンでしょうよ空崎委員長。

はぁ……なんとかしてあのアホの嫌がらせを止める方法があれば良いんだけどなぁ。

 

「お帰りなさい、ヒナ委員長。」

「ただいまアコ。イオリ、そっちはどうだった?」

「無事……かは分からないけど鎮圧は終わったぞ!報告書を挙げたので確認して欲しい。」

「分かった、後で確認するわね。チナツもお疲れ様。変わったことはない?」

「はい、今のところは特にありません。」

「そう、良かったわ。」

 

周囲の風紀委員と情報の共有をしつつ、空崎委員長は自分のデスクへと向かい椅子に腰掛けた。

そのまま流れるようにデスクに積み上がった書類を一枚手に取り、ペンを走らせ始める。

何でもないような顔をしているが、その顔には少なからず疲労の表情が浮かんでいるのを俺様は感じ取る。

 

……空崎委員長って、こう見えて意外とリーダーには向いてないんじゃねぇかなって思うことがあんだよな。

そらキヴォトス最強ってのは間違いないし、風紀委員のトップ張るなら強くないと行けないってのはある。

ただ、空崎委員長は何でもかんでも1人で抱え込んであまり人を頼らない節があんだよな。

身も蓋もない言い方をすると仕事の振り型が下手って事だ。天雨行政官も銀鏡先輩も火宮も、それ以外の風紀委員も皆優秀なんだからもっと頼ればいいのにと思わんこともない。

そう考えると、ウチの羽沼議長は仕事の振り方が意外と上手いし人にもすーぐ頼ってきやがるからな。

……案外、リーダー適正は高いのかもしれん。

空崎委員長も必死で頑張ってるんだし、こんなことを思っちまうのもメッチャ失礼な話ではあんたけどな。

 

「……最近、調子はどう?」

「ぼちぼちやってますよ。あのアホ議長がやらかすおかげで胃が何回かお亡くなりになりましたが。」

 

主に各所への謝罪回りでなぁ!

 

「マコトは相変わらずね……そう言えばこの前もらった胃薬、あれよく効くわね。どこに売ってるか教えてもらってもいいかしら?」

「あぁあれですか?あれならゲヘナ学園からちょっと歩いた薬局に売ってますよ。まだ薬局が木っ端微塵になってないなら行けば買えるはずです。」

「そう、ありがとう。」

 

冷静に考えるとコレ学生の会話じゃなくねぇか?胃薬の話で会話が弾むって今時の社会人でもねぇだろ……

 

「そう言えばこの前作ってくれた野菜炒め、あれすごく美味しかったわ。作り方を知りたいのだけど。」

「あぁアレっすか?別に大したことはしてないっすよ?冷蔵庫に残ってた野菜とベーコンをフライパンに入れて好みの味付けしたら完成っすね。」

「……そうやって簡単に作れるなら苦労しないわ。」

「炒めるだけだから簡単っすよ?なんならキノコとか入れても美味いっす。キクラゲとか。」

「そう、今度試してみようかしら。」

 

どこか遠い目をしながら空崎委員長は書類に印鑑を押す。悲哀が漂ってるな……やはりくたびれたOLなのでは?

今度また時間がある時に何か栄養のあるものでもご馳走するとすっかな。

 

「はぁ!?ちょっと待ってください!」

 

そんな感じで俺様と空崎委員長が雑談をしていると、書類仕事を片付けていた天雨行政官が絶叫しながら立ち上がる。

 

「ヒナ委員長!?野菜炒めって何ですか!?この男がこの前作ってくれたってどういうことですか!?」

「どういうことも何も……そのままの意味だけれど?」

「はぁぁぁ!?じゃあ何ですか!あなたはヒナ委員長に手料理を振る舞ったとでも言うんですか!?」

「……いや、だって空崎委員長の食生活心配ですし。」

 

だってこの人ほっといたら毎食カップ麺とかで済ませようとするんだぜ?

毎日クタクタになるまで働いて飯はカップ麺って流石に体に悪すぎるだろ。

せめて栄養のあるものくらいは食べてほしいじゃん?

 

「この前書類取りに来た時に普段何食ってるかの話になりましてね。カップ麺を主に食ってるって言ってたんで栄養バランスが心配になりまして。」

「そ、それはそうですが……!万魔殿の出してくるものなんて……!」

「アコ、タツミは給食部の手伝いで厨房に入れるくらいは料理ができるのよ。心配はいらないわ。」

「ひ、ヒナ委員長……!」

「ちなみに食堂の厨房借りてそこで作ったんで天雨行政官の心配するようなことはないっすよ。安心してください。」

「そういう問題じゃありませんよ!と言うか、そもそも貴方料理できたんですか!?」

「イブキに作ってやってますからね、家庭料理レベルですけど食えなくはないと思いますよ?」

 

キーッ!と言う擬音がでてきそうなくらい顔を真っ赤にする天雨行政官。そんな彼女を火宮が諌めていた。

 

「次は私が用意します!」

「分かった、楽しみにしているわアコ。」

「ヒナ委員長ぉ……!」

 

……ちょっと単純すぎひん?それでいいのか天雨アコ。

まぁ空崎委員長大好きだしな、仕方ないか。

 

じゃ、仕事の邪魔になっても悪いし俺様はそろそろ退散させてもらうとすっかな。

何やら天雨行政官もお怒りのようだし。

そう思い、俺様はテーブルに置かれた書類を手に取る。

 

「……あら、もう帰るの?」

 

そんな俺様が目に入ったのか、空崎委員長が声をかけてきた。

 

「せっかく来たのだから、もう少しゆっくりして行っても良いのだけど。」

「いえ、お茶もご馳走になりましたしこの書類も片付けないといけないですからね。そろそろお暇させてもらいますわ。」

「別に気を使わなくてもいいのよ?何なら、この前みたいにそこの空いてるデスクを使って書類を終わらせても構わないけれど。」

 

そう言うと、空崎委員長は彼女が座っているデスクの隣に位置する空きデスクを指しながらそう言った。

この前、と言うのは例によって羽沼議長が押し付けた書類を前に回収した際に万魔殿と風紀委員会両方の承認が居る書類があったため、一々往復するのも面倒なので空崎委員長がここでやると良いと空きデスクを貸してくれた時のことを言っているのだろう。

だが今回はざっと確認したが万魔殿の承認のみで問題ない書類ばかりの様だし、何より万魔殿の人間が風紀委員会で仕事をするのもあんまり良くはないだろうしな。

 

「お言葉はありがたいんすけど、今回は万魔殿の承認だけで大丈夫なものばかりですし。お気持ちだけもらっときます、空崎委員長。」

「……そう。分かったわ。」

 

一瞬間があったのが気になるが、空崎委員長は俺様の言葉を聞くとすんなりと引き下がってくれたようだ。

 

「火宮、コップ洗いたいんだけど給湯室借りれるか?」

「あ、それなら私が洗っておきますよ。」

「そうか?悪い、助かる。」

 

そう言って、俺様はコップを火宮に手渡した。

 

「それじゃあ、失礼します。」

「えぇ、またいつでも遊びに来てね。」

「模擬戦の訓練ならいつでも付き合うぞ!」

「また明日、教室で会いましょう。タツミくん。」

「ぐぬぬ……彼は万魔殿の人間なのに……」

 

ブツブツと何かを言っている天雨行政官を横目に、俺様は手を振りながらドアをくぐった。

……さて、それじゃあ寮に帰って小脇に抱えてる書類をさっさと片付けちまうとするかね。

若干ため息を吐きつつ、俺様は足を踏み出した。




次話くらいから原作開始の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。