転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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今回から少し山海経の話が続きます


春原シュンと丹花タツミ

とある非番の日のこと。

俺様は山海経に食べ歩きに来たついでに、シュン教官やココナ教官に連絡を入れて梅花園に顔を出していた。

 

「タツミお兄ちゃんタツミお兄ちゃん!」

「んー?どうしたんだココロちゃん?」

「ココロのこと、たかいたかいしてー!」

「おー!そうかそうか!もちろんいいぞー!」

 

俺様にトテトテと寄ってきて、両手を広げながらそう言ってくるココロちゃん。

俺様はココロちゃんの両脇に腕を通すと、そのまま思いっきり持ち上げる。

 

「ほら、たかいたかーい!」

「わー!たかーい!」

 

俺様の腕の中でキャッキャと喜ぶココロちゃん。

うん、やっぱり子どもは笑顔なのが一番だな!

 

「あーっ!ココロちゃんずるい!タツミお兄ちゃん、次は私もやって!」

「ずるいよー!わたしもー!」

「おいおい慌てるなよみんな!心配しなくても俺様は全員たかいたかいしてやるからなー!」

「「「やったー!」」」

 

ココロちゃんがたかいたかいをしてもらってるのを見て四方八方から群がってくる園児にそう言う俺様。

足元には園児が俺様の足にしがみついており、キヴォトス人パワーをいかんなく発揮している。

ものすごい力で足をつかんでくる子どもたちはやっぱり園児とは言え、頭にヘイローのあるキヴォトス人なんだなぁと思わざるを得ない。

と言うか、この前は手榴弾でキャッチボールしてたからなこの子達。逞しく育っているようで何よりだ。

 

「ハハハ……こりゃ嬉しい悲鳴だな……」

「こらみんな!あまりタツミさんを困らせちゃダメ!」

 

とは言えこのままでは身動きが取れないため困っていると、作業をしていたココナ教官が見かねて園児たちに声をかけてくれた。

 

「でもココナちゃん!ココロちゃんばかりずるいよ!」

「ココナちゃんじゃなくてココナ教官!タツミさんはちゃんと順番にやってくれるって言ってるんだから、いい子に待ってようね?」

「……うん、分かったよココナちゃん!」

「だからココナ教官!」

「ふふふ。」

 

腰に手を当てて頬を膨らませながら児童を叱りつけるココナ教官。

それを見て、微笑ましそうに頬に手を当てながらシュン教官はその光景を見守っていた。

 

山海経で迷子になっていたココロちゃんを梅花園に送り届けてからしばらくが経つ。

あれから、シュン教官やココナ教官からは定期的にモモトークが来るようになった。

内容はココロちゃんを始めとした児童の様子や、ちょっとした仕事の愚痴。献立のメニューの相談などである。

 

俺様自身も子どもは好きだし、毎日毎日こんなにたくさんの児童の面倒を見ている2人の苦労を少しでも軽くしてやれればと非番の日には出来るだけ顔を出して梅花園の仕事を手伝っているといった次第だ。

まぁ、非番の日は給食部の手伝いもあるからそんなに頻繁に行けてるってわけじゃないんだが……

最近はもっぱら非番の日は昼食時に給食部を手伝ってそのまま山海経行きの電車に飛び乗り、梅花園におやつ前に到着してシュン教官と共におやつを作るのがルーティンみたいになってるな。

……なんか休みの日なのに仕事しかして無い気がするが気のせいだろう!

それに愛清先輩や牛牧はほぼ休んでないし、春原姉妹だって児童の面倒を毎日見ててほぼ休みなんて無いようなもんらしいので休日をもらってる俺様が弱音を吐いている場合ではないのである。

 

ちなみに、この前は壊れた園庭の遊具を直したりもしたし山海経へ児童を連れて散歩へ行ってることもあって俺様も山海経の人々とは徐々に顔見知りになって来た。

この前も玄武商会に食材を取りに行った時にも朱城会長や鹿山先輩が快く対応してくれたし、肉まんもサービスしてもらって大満足だった。

ただ、相変わらず玄龍門の人達とだけは未だに面識がないのだが……まぁ致し方あるまい。

 

その甲斐もあって、シュン教官やココナ教官とはだいぶ仲良くなり今では梅花園に顔を出すと園児達よりも先に笑顔で迎えてくれるようになった。

 

「ほらたかいたかーい!」

「わーい!」

 

そんな事を思いつつ、俺様は足元に群がっている児童達を持ち上げ次々とたかいたかいをしていく。

 

「タツミくん、そろそろ皆のおやつを準備するのですけど、手伝ってもらえますか?」

「あ、はい!了解っすシュン教官!」

 

丁度最後の一人をたかいたかいし終わったあとに、見計らったかのようなタイミングでシュン教官からそう声がかかった。

俺様は児童を床にそっと下ろすと、持ってきたカバンからエプロンと三角巾を取り出して身につける。

 

「じゃあお兄ちゃんはシュン教官と一緒におやつを作ってくるから、いい子で待ってるんだぞ!」

「「「はーい!」」」

「ココナ教官、子ども達を頼むぜ!」

「はい!おやつはお願いしますねタツミさん!」

 

ココナ教官に軽く手を挙げてそう伝えると、俺様は廊下へ出てパタパタとキッチンに走っていく。

キッチンでは既に材料の準備を終えたシュン教官がボウルをかき混ぜながら調理を始めていた。

 

「お待たせしましたシュン教官。今日は何を作るんですか?」

「ふふ、今日はキャロットケーキにしようかと思いまして。」

「キャロットケーキっすか、いいですね。梅花園の子達にはキチンと栄養も取らせないとですし……」

 

キャロットケーキなら人参をすりおろしたものを生地に練り込むから、栄養たっぷりだしケーキなので子ども達も喜んで食べてくれるだろう。

流石はシュン教官だ。

この前は野菜チップスだったし、おやつ選び1つとっても教官としてのレベルの高さが光っている。

 

「あとはココナちゃんの人参嫌いの克服も兼ねて……ですね。」

「あぁ……なるほど。」

 

頬に手を当てつつ、困ったようにそう言うシュン教官。

と言うのも話していくうちに分かったのだが、ココナ教官は筋金入りの人参嫌いなのである。

 

人参そのものはもちろん、すり下ろした人参の混ざった料理も駄目だし、なんならほとんど人参の味がしない料理でも少し人参が使われてるだけでダメ。

極めつけにはキャロットと名の付いたものには拒否反応を起こすなど、かなり重症な部類だな。

シュン教官からは好き嫌いすると立派なレディになれないと言われているようだが、本人はどうしても人参だけは無理らしい。……美味いのにな、人参。

俺様は別に生で食えるくらいには人参が好きなんだが。

 

「ココナちゃんには好き嫌いをしていると立派な教官にはなれませんよと言っているのですが、いつものお小言だと取られてしまうようでして……」

「あー……まぁ、子どもは野菜嫌いっすからねぇ。」

 

ココナ教官は11歳で梅花園の教官を任されるくらいしっかりした子だが、そういう辺りは年相応の子どもって感じがするよな。

言っとくが野菜って結構高いんだぞ。物によっちゃ普通に肉以上の値段がするからな。

 

「そういう事なら任せてください!俺様、野菜の調理には自信があるんすよ!」

「あら……そうなのですか?」

「えぇ、前に俺様にも妹がいるって話はしましたよね?」

「確か……イブキちゃんでしたっけ?」

「そうっす!これがもう可愛くてですねぇ……って今はその話は置いといて。イブキも人参をはじめとした野菜嫌いでしてね。小さい頃は四苦八苦したもんです。」

 

とは言え、炭水化物と肉類だけでは栄養が偏ってしまうため野菜も必ず食わせなければならない。

そう思った俺様は知恵を絞り、なんとか野菜を上手いこと料理に混ぜ込むことで一見野菜を使ってないように見せつつ実は野菜たっぷりの料理を作ることに成功した。

例えばハンバーグにすりおろした野菜を入れたり、ミキサーにかけてスープにして甘い味付けをしたりとか。

イブキに食わせてみたところ、美味しいと評判だったので一安心ってわけだな。

それからはいくつかレシピも考案してるから、今回のキャロットケーキにも応用が利くはずだ。

 

「なので、今回は任せてください!バッチリココナ教官でも食えるキャロットケーキを作りますよ!」

「ふふふ、頼もしいですね。よろしくお願いしますね?タツミくん。」

「はい!頑張りましょうシュン教官!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「すごいですタツミくん、本当にあのココナちゃんがキャロットケーキを美味しそうに食べるなんて……」

「いやー上手く行って良かったす!俺様の腕も捨てたもんじゃないっすね。」

 

おやつ後の食器の洗い物をしつつ、ニコニコとしたシュン教官に対して俺様は得意げにそう微笑んだ。

 

あのあと、シュン教官と共に児童達の分のキャロットケーキを作り上げた俺様とシュン教官はおやつの時間に焼き上げたケーキを皆に提供した。

児童達からは美味しいと大絶賛され、人参が入っているということを伝えずにココナ教官にも出してみたところとても美味そうにケーキを食ってくれたのだ。

 

作り方は簡単。

まずすり下ろしたニンジンにヨーグルトを加え、ニンジンの持つ甘みとヨーグルトの酸味を融合させる。

元々ニンジンは甘みの強い野菜なので、うまく調理さえしてやれば独特の優しい甘みに変化するんだぜ?

少なくとも砂糖をドバドバいれるよりは余程体に良い。

 

それを生地に混ぜ込んで焼き上げて、仕上げに酸味の効いたパイナップルをトッピングしたら完成だ。

ニンジン嫌いな子ってのはあの独特の土臭さが苦手だって事が多いので、土臭さを消して甘みだけ引き出してやれば食えるだろって事で作ってみたんだが……ココナ教官からは大絶賛であった。

 

ちなみにニンジンが入ってるってネタばらしした時のココナ教官の顔はぽかんとしており大変面白かった。

最初は「騙しましたね!?」と怒っていたが、最終的には「これなら私でも食べられるかも……」と言ってくれた辺り高評価だったようだ。

騙したのは申し訳ないが、シュン教官の頼みでもあったから許してくれココナ教官……

また今度クッキーでも作ってやるとしよう。

 

「まさかココナちゃんが人参を食べてくれるなんて……タツミくんには感謝にしなければいけませんね♪」

「いえ、俺様は大したことはしてませんよ。ま、お役に立てたんなら良かったっすけどね。」

 

そう言って、ニッと歯を見せて笑う俺様。

そんな俺様の表情を見て、シュン教官は洗い物を終えた手を拭きながらこちらをじーっと見つめてくる。

 

「そう言えばタツミくん、先ほどおやつの時間前に子ども達にたかいたかいをしてくださっていたようですが……」

「あぁあれですか?あのくらいお安い……」

 

御用だ、と言おうとしたのだが。

 

「……私にはしてくださらないのですか?」

 

俺様がそう言おうとすると、シュン教官は食い気味に言葉を被せてきた。

なんだ、シュン教官もたかいたかいしてほしかったのか?なら言ってくれれば別に俺様は……ん?

ちょっと待て!?

 

「……はい!?」

 

俺様は思わず洗い物の手を止め、シュン教官の方を全力で向く。

 

「実は私もたかいたかい好きなんですよ?」

「いやいやいや!?あれは子どもの遊びっすよね!?」

「あら、こう見えても私だってたまには子どもみたいに遊んでみたいと思うことくらいあるのですよ?」

「いやそれは俺様もありますが、いくらなんでもたかいたかいはちょっと……!」

 

と言うか、俺様がシュン教官をたかいたかいするって絵面がヤベェだろ!?

そもそもシュン教官俺様より背が高いし、何よりも……その……たかいたかいしたら密着しないと行けないわけで……

ともかく、その……色々とやばいんだよ!

 

「ほら、私の事はお気になさらず……」

「いや気にするっつーの!?」

 

そう言って両手を広げてこちらに近寄ってくるシュン教官に変な威圧感を感じた俺様は思わず一歩後ずさる。

それを見て、シュン教官はさらに距離を詰めてくる。

 

「ちょ、落ち着いてくださいシュン教官!」

「私は冷静ですよ?タツミくん。ふふ、さぁ早く!」

 

ジリジリとにじり寄ってくるシュン教官。

俺様はずりずりと後ずさっていくが、やがて背中が固いものにぶつかる感触を覚える。

……マズい、これ以上は後ろに下がれねぇぞ。

 

背中に変な汗が流れるのを感じるが、シュン教官はそんな俺様の気持ちなどお構い無しに手を広げて少しづつこちらへ近寄ってくる。

 

「さぁタツミくん……」

 

クソ!百歩譲ってたかいたかいするのはこの際もういいが、まずその格好をなんとかしてくれよ!

なんだよその胸の谷間も胸の横もザックリ空いてる服に、エグいぐらいのスリットの入ったスカートは!

前から思ってたけど教育者がしていい格好じゃないだろ!まだどっかの行政官の方がましだぞ!?

俺様も男だ!こんな色気たっぷりのお姉さんと密着して変な気が起きないわけがないだろ!

そもそも俺様は思春期真っ盛りの男子高校生だぞ!?

さすがに警戒心がなさすぎんだろ!

くっ……一体どうすれば……!

 

「姉さん?タツミさん?そろそろ子ども達に絵本の読み聞かせをするから、教室に戻って……」

 

俺様が煩悩に蓋を閉め、もう全てを諦めてシュン教官の脇に腕を通そうとした時だった。

キッチンのドアが音を立てて開くと、そこからひょっこりと顔をのぞかせたココナ教官からそう声がかかる。

 

「……は?」

 

ココナ教官は初めは呆気にとられたようにそう呟いて固まっていたが、やがて段々と視線が冷えたものになっていき最終的には絶対零度の視線で俺様とシュン教官を睨んでいる。

 

「……何をしてるの?2人とも。」

「ちょ、ちょっと待てココナ教官!誤解!誤解だ!」

「誤解?私にはタツミさんがシュン姉さんを抱きしめようとしているようにしか見えませんけど……?」

 

恐ろしく冷え切った声でココナ教官がそういう。

あ、俺様死んだかもしれんわ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁぁぁ〜疲れたぁぁぁ〜……」

「ふふ、お疲れ様でしたタツミくん。」

「誰のせいだと思ってんすか……!」

 

結局、あのあと全力で弁明したおかげでなんとか誤解を解くことには成功した。

ちなみに「ま、紛らわしいことをしないでくださいっ!」と顔を真っ赤にしたココナ教官に結局怒られることになったのはまた別の話である。

ちなみに、シュン教官はあのあとココナ教官に「タツミさんに迷惑をかけないように!」としこたま怒られて少ししょぼくれていた。

どっちが姉なのかわかんねぇなこれだと。

 

その後、ココナ教官と一緒に子ども達に絵本の読み聞かせを行った俺様達は園児のお昼寝の時間になったため園児達を寝かしつけで今にいたる。

俺様とシュン教官は、この時間を利用して園内の掃除をともに行っていた。

ちなみに、ココナ教官は明日の昼食で使う食材を玄武商会まで受け取りに行っている。

「罰として姉さんとタツミさんは私が帰るまでに教室をピカピカしておいてください!」と大変お怒りだった。

 

「それにしてもシュン教官。なんでたかいたかいしてくれなんて言ったんすか……?」

 

本人曰く子どもみたいに遊びたいとのことだが、さすがにもう少しやり方ってもんがあんじゃねぇのか……?

 

「良いじゃないですか。私だってたまには子どもっぽく好き勝手振る舞いたいですもの。」

 

どこか憂いを帯びた笑みを浮かべつつ、シュン教官は困ったようにそう笑った。

 

「あの子たちを導くことは、梅花園の教官としての責務です。とは言え、普段はあれほど天使のような子ども達でもはしゃぎだしたら何を言っても聞かなくなってしまうこともあるので……困ってしまうんですよね。」

「たまには私もあんなふうに何のしがらみもなく駄々をこねられたらどれほど楽しいだろうって……」

 

そう言うと、シュン教官は昼寝をしている児童達を微笑ましく見つめる。

だが、その優しげな表情の中には確かな疲労と不安感が浮かんでいるのを俺様は見逃さなかった。

 

……まぁ、確かにこのくらいの子どもってのは可愛いもんだが一度駄々をこねると言うことを聞かなくなってしまうことは往々としてあるだろうからな。

イブキが幼い頃もそうだった、ギャン泣きして何を言っても聞かない、何をしても泣き止まない。

そうこうしているうちにこちらもイライラしてしまい、感情的に怒ってしまって余計にギャン泣きされる。

そんな苦労をしたことも一度や二度ではない。

イブキは今でこそとても聞き分けのいい子に育っているが、それでも俺様には未だにとんでもないワガママを言ってくることはあるからな。

その度にキチンと叱ってはいるんだが……そう言えば、最近は結構ワガママを言う頻度も増えてきたような……?

 

閑話休題。

 

まぁともかく、俺様はイブキ一人でも大変だったのにシュン教官やココナ教官はたくさんの児童を毎日相手にしなければならないわけだ。

それにこのくらいの歳の子どもってのは少し目を離すと何をしでかすか分からない。

すぐ危険に首を突っ込むから、そういう意味でも常に気を張って相手をしなければならない。

そりゃ疲れるだろうし、ストレスも溜まるだろう。

梅花園の教官とて一人の人間なのだ。

 

それにシュン教官は接していて分かるが、責任感のとても強い人だ。

きっと子ども達を守ろうと人一倍責任感を持って仕事をしていて、色々と気苦労を抱えているのだろう。

もしかしたらシュン教官の子どもみたいに遊びたいって願望は、ストレスを発散して自分の心を守るための行動なのかもしれない。

 

「……すみませんタツミくん。突然こんな事を聞かされても困りますよね。」

「まぁその、なんつーか。うまく言えないんすけど。」

 

俺様は頭をガシガシと掻くと、シュン教官へ向き直る。

 

「俺様はシュン教官本人じゃないんで偉そうには言えませんが、梅花園の教官をやっててストレスが溜まるのは普通のことだと思います。」

「やんちゃ盛りの子ども達の相手……俺様はたまにしか来ないっすけど、毎日毎日それをやるって考えるとストレスが溜まるのは想像に難くないです。」

「まぁその、だから。俺様で良ければ愚痴ってくださいよ。モモトークで送ってくれてもいいですし、こうやって落ち着いたときに直接話してくれても構いません。」

 

俺様は一呼吸おき、続ける。

 

「せっかくこうやって縁ができたんですから、もっと俺様を頼ってくださいよ。シュン教官。」

「タツミくん……」

 

シュン教官は目尻に涙を溜めている。

俺様はポケットからハンカチを取り出すと、シュン教官の手に握らせた。

 

「え、わ、悪いですよ……」

「いいんです。1つ貸しってことにしといて下さい。」

 

慌ててハンカチを返そうとするシュン教官を手で制し、俺様はそう言う。

 

「それに、シュン教官にはココナ教官って言う俺様なんかよりも頼れる人がいるじゃないですか。」

「でも、ココナちゃんには迷惑をかけたくなくて。私が愚痴を聞いてもらうのは姉としてどうなのかと……」

「何いってんすかシュン教官。ココナ教官ならきっと真剣に聞いてくれますよ。」

 

ココナ教官は姉であるシュン教官への当たりはやや強い方だが、それでもシュン教官を深く慕っていて助けになりたいって思ってるのは誰が見ても明らかだろう。

 

「ココナ教官ならきっと貴方の助けになってくれるはずです。俺様も保証しましょう。」

「けれど……」

「……まぁ、どうしても言いにくいなら俺様に言ってくださいシュン教官。愚痴の相手くらいにならいくらでも付き合いますから。」

 

そう言うと、俺様は親指を立てて笑顔を見せる。

まぁもう梅花園には俺様も個人的な思い入れができるくらいには関わってきているからな。

シュン教官やココナ教官が困っているなら力になってやりたい。

 

「……なんなら、ココナ教官が帰ってくるまでまだ時間はあります。やりますか?たかいたかい。」

「えっ!?で、でもタツミくんは嫌がってたのでは……」

「……そりゃ正直恥ずかしいっすよ?でも、シュン教官は普段頑張ってるじゃないすか。だからそのご褒美って事で、俺様がたかいたかいしてあげましょう!」

 

そう言うと、俺様は半ばヤケクソ気味で両手を広げる。

俺様がたかいたかいした程度でシュン教官のストレスの発散になるかは未知数だが、それでも少しでも助けになれるならやらない理由にはならんだろう。

……恥ずかしいけどな!めっちゃ恥ずかしいけどな!?

正直やんなくていいならやりたくないけど、それでもこれがシュン教官のストレス解消に少しでもなるなら……

 

「……ふふ、ありがとうタツミくん。せっかくだけど今回は気持ちだけ受け取っておきますね?」

「そ、そう言ってもらえるなら正直助かります……!」

 

俺様は苦笑いを浮かべつつ、両手を引っ込める。

こんなしおらしい雰囲気のお姉さんをたかいたかいしようもんなら色々と絵面がヤベェからな!

 

「……その代わり。」

 

シュン教官は俺様から受け取ったハンカチで目元を拭うと、ツカツカとこちらへと歩み寄ってくる。

そして俺様の前で少し前かがみになって視線を俺様より下げ、上目遣いで俺様を見上げると彼女は口を開いた。

 

「私、普段は皆の頼れるお姉さんで居ようと気を張って過ごしているのは否定できない事実でした。」

「でも、さっきタツミくんが愚痴を言っても良いと言ってくれた。もっと頼ってほしいと言ってくれた。」

「知ってますかタツミくん?私、こう見えても子ども達に負けないくらいの甘えん坊なんですよ?」

「なので……これからは思う存分に頼らせて、思う存分に甘えさせてもらいますね?タツミくん♡」

 

……なんだろう、判断を間違ったかもしれない。

背筋に変な寒気を感じながら、俺様は頷くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はいココナちゃん!頼まれてた食材だよ!」

「ココナちゃんじゃなくてココナ教官ですルミ会長!私も姉さんと同じ立派な教官なんですからね!子ども扱いしないでくださいっ!」

「ははは!ごめんごめん。頼まれてたのはそれで全部だけど、合ってるかい?」

「えーと……はい、大丈夫です!ありがとうございますルミ会長。」

「良いって良いって。そうだ、せっかく来たんだしチャーハンでも食べてく?」

「いえ、せっかくですが遠慮しておきます。園に姉さんとタツミさんを残してきているので……」

「……ん?タツミってのは、最近ちょくちょく梅花園を手伝いに来てくれてるあのゲヘナ生のことかい?」

「はい!最近ゲヘナから手伝いに来てくれてるんです。私も姉さんもそこまでしなくてもいいとは言ってるんですが、本人が子どもが好きだからって言ってまして……悪いとは思いつつ、すごく助かってます。」

「そっかー、お人好しなんだね彼。」

「あれ?タツミさんとお知り合いなんですか?」

「この前彼が梅花園から食材を取りに来た時に知り合ってね。彼、結構気のいい奴じゃないか。最初はゲヘナ生だから警戒してたけど、杞憂だったよ。」

「はい。タツミさんは園庭の壊れた道具の修理とか、姉さんと一緒に子ども達の食事やおやつの準備とか、洗濯や掃除とかをやってくれてて……それに、子ども達の相手もすごく上手なんですよ!」

「それに私にもすごく優しくて……きちんと姉さんと同じように扱ってくれるし……とにかく、とても頼りになるんです!」

「……それ、ゲヘナから梅花園に引き抜いたほうが良いんじゃないのかい?」

「な、何を言ってるんですかルミ会長!?そんなのダメに決まってるじゃないですか!」

「はっはっは!冗談冗談。でもすごいね、園の仕事はそうだけど料理も出来るんだ。ふーん、私もちょっと興味がわいたかも?」

「むっ……タツミさんはあげませんよ!?」

「お、嫉妬かいココナちゃん?」

「違いますっ!タツミさんは私のことを一人前のレディだって言ってくれましたし、それにシュン姉さんとも仲がいいので!もし山海経に来ていただくのなら梅花園に来るのが普通じゃないかと思っただけですっ!」

「そのわりには顔が真っ赤だよ?ココナちゃん。」

「だから違いますっ!」

(いや、何も違わないじゃないか……それにしても、ココナちゃんは彼に相当いい印象を持ってるみたいだね。もしかして好意を持ってたり……はココナちゃんにはまだ早すぎるかな?とは言え、シュン教官やココナちゃんを泣かせないやつかどうか一度しっかり確認しとく必要がありそうだね。今度玄武商会に呼び出してみるか。)

「……ふふ、面白くなりそうだね。」

「???」




次回はココナちゃん回の予定です
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