「……初めまして、丹花イブキです。」
「……初めまして、春原ココナです。」
目の前で向かい合いながらお互いに挨拶をするイブキとココナ教官。
だが、その空気はとてもじゃないが11歳の少女同士の会話で流れていいものではなかった。
息が詰まり、重苦しい雰囲気。とてもじゃないが、お茶の間にお見せ出来るものとは程遠い。
イブキは俺様の足にしがみつきながら仏頂面でぶっきらぼうに挨拶をし、ココナ教官もその空気に当てられたのかイブキを若干睨みつけながら挨拶をしている。
おかしい……俺様はイブキに同い年の友達ができたらって思って連れてきたんだが……何故だ……?
おい……なんだよ……この空気は……
とてもじゃないが梅花園でしていい空気じゃないぞ!?
「おかしい……何故こんなことになっている!?」
「……多分貴方のせいだと思いますよ、タツミくん。」
「囧うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!なんでぇぇぇ!」
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「それでねココナちゃん!その時のお兄ちゃんがかっこよくて!」
「そうなんだイブキちゃん!いいなぁ……私もタツミさんみたいなお兄さんが居たら……」
「うーん、ココナちゃんは特別!たまにだったらお兄ちゃんを貸してあげる!」
「ほんと!?ありがとうイブキちゃん!」
そうだよこれだよこれ!俺様が求めてたのはこれ!
冒頭の空気は疲れた俺様が見た幻覚ってことにしとこうそうしよう!それがいい!はい決定!
ってか今俺様を貸すとか言ってなかったか?
……まぁいっか!イブキに友達ができて良かったぜェ!
「ハーハッハッハ!!!桃源郷はここにあった!」
「しっかりして下さいタツミくん。死ぬにはまだ早いですよ。」
「大丈夫!俺様は正常っすよシュン教官!」
「ぐるぐる目で言っても説得力がありませんよ……?」
失礼な!俺様は普通だぞシュン教官!
イブキを梅花園に連れてきて初めにココナ教官と会わせた時は冒頭の様子だったから一時はどうなることかと思ったけど、その後徐々に2人で話してみると見事に意気投合したようで今ではキャイキャイと楽しそうに話をしている。
きっとイブキもココナ教官も人見知りしてただけだろう、あのまま険悪にならなくて本当に良かった。
「ふふ、よかったですねココナちゃん。同い年のお友達が出来て。」
「うん!最初は怖い子なのかなって思ったけど、話してみたらすごくいい子だし私達気が合いそうだよねイブキちゃん!」
「うん!ココナちゃん、イブキと歳が同じなのに梅花園できょーかん?をやってるなんてすごい!イブキ尊敬しちゃう!」
「えへへ……そんなにほめられると照れるよイブキちゃん……」
……なんだここは、天国か?
しかし、普段は大人びているココナ教官だけどイブキと話していると本当に年相応の女の子って感じがして非常に微笑ましいな。
「さて、ではそろそろ私は子ども達のおやつを準備してこないと……」
「あ、手伝いますよシュン教官。」
「あら、ありがとうございますタツミくん。」
時刻はそろそろ15時を迎える頃。
シュン教官がいつものようにキッチンへ行こうとするのを俺様は呼び止めた。
そして、いつものようにエプロンと三角巾を取り出して身につける。
「よし、んじゃイブキ!お兄ちゃんはシュン教官とおやつの用意をしてくるからココナ教官といい子に待ってるんだぞ!イブキのも用意してくるからな!」
「うん、分かった!イブキ、ココナちゃんとお話してるね!」
「おう、いっぱい話すんだぞ!じゃあココナ教官、イブキを頼むぜ。」
「はい、お任せくださいっ。」
ニコニコとした笑顔でそう言うイブキと、胸をドンと叩きながらドヤ顔でそういうココナ教官。
うむ、実に微笑ましい光景である。眼福眼福。
それを見て笑顔を浮かべつつ、俺様はキッチンへ向かうために廊下へと……
「では行きましょうか、タツミくん♡」
向かおうとした瞬間。
突然、俺様の右腕をシュン教官が掴んだ。
何事かと思いシュン教官の方を向くと、シュン教官はそのまま俺様の腕を自分の腕に絡めていく。
「うふふ♡」
「……!!!???」
「姉さん!?」
「シュンお姉ちゃん!?」
「ちょ、ちょっとシュン教官!?いきなり何を……!?」
俺様は慌てて腕を引き抜こうと力を入れるが、キヴォトス人のものすごいパワーでガッチリとホールドされた腕がそう簡単に引き抜けるわけもなく。
シュン教官はそのまま俺様に密着してくると、ホールドした腕をその豊満な胸へと押し付ける。
むにょん、とした柔らかな感触が腕に走る。
「……ちょ、流石にマズいですって!」
「あら、この前思う存分に甘えさせてくれるって言ったじゃないですかタツミくん?」
「そ、そりゃ言いましたけどこんなところでやんなくても……!と言うかこれはマズいですってば!」
「……シュン姉さん?」
「……お兄ちゃん?」
イブキとココナ教官が冷え切った声色で絶対零度の視線を突き刺してくる。
ちょっと!流石にこれはマズいっつーの!
近すぎるし!腕になんか柔らかいもの当たってるし!なんかいい匂いするし!シュン教官の目はなんか怖いし!
「まぁいいじゃないですかタツミくん♡」
「何もよくねぇんだが!?た、頼むから離してくれシュン教官!」
「……ねぇシュンお姉ちゃん?イブキ、嫌がってるお兄ちゃんにそういうことするのはよくないと思うな?」
「い、イブキちゃん……?」
俺様がなんとか腕を引き抜こうと四苦八苦していると、イブキが突然席を立ちニコニコとした笑みを携えながらトテトテとこちらへと近寄ってきた。
「……ふふ、そうですね。これ以上はイブキちゃんに怒られてしまいそうですし、名残惜しいですが今回はこの辺りで辞めておきましょうか。」
そう言うと、シュン教官は俺様の腕をあっさりと解放する。体と腕から密着していたシュン教官の体温がなくなると同時に、俺様はバクバクする心臓を抑えながら軽く深呼吸をした。
た、助かった……!あのままくっつかれてたら精神がイカれてたかもしれねぇ……!
俺様だって健全な男子なんだ、あの破壊力抜群の体は心臓にあまりにも悪すぎるんだよ……!
心の中で素数を数えてなければ危なかった、イブキには感謝しねぇとな。
「それでは、おやつの準備に行きましょうか。」
「アッハイ……」
なお、おやつはこの後ココナ教官から「罰としてシュン姉さんは今日は一人でおやつの用意をしてっ!」と怒られたシュン教官が一人で用意することになった。
「ゴゴナヂャンのいじわるぅぅぅー!!!」
「うるさい!早く用意しなさい!」
流石に少し気の毒で手伝おうとしたのだが、ものすごい威圧感を放つイブキとココナ教官に腕をつかまれて静止されたので心の中でシュン教官に合掌しておく。
それにしても……柔らかかった……
「……おにいちゃん?」
ハッ!煩悩退散ッ!煩悩退散ッ!!!
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「ではみなさん、手を合わせて……」
「「「「「いただきまーす!!!」」」」」
と言うわけで、梅花園の本日のおやつの時間が開始された。
園児達が美味しそうに食べているのはチョコプリン。
イブキがプリンが好きなことを前もって伝えておいたらシュン教官が気を利かせて用意してくれたものだ。
ちなみに全部1から作ったらしい。
シュン教官ってお菓子作りのプロか何かなのか……?
「んー!おいしー!」
「……うめぇな。シュン教官、今度作り方教えてくれません?万魔殿に帰ったらイブキに作ってやりてぇっす。」
「もちろんいいですよ〜。」
「うぅ……悔しいけど美味しい……私も料理上手になりたいなぁ……」
教室の真ん中でテーブルをくっつけてプリンを楽しむ園児達の少し横で、小さなテーブルをくっつけてそこに座った俺様達もチョコプリンを食っていた。
イブキはチョコプリンを大層お気に召したようで、先程からニコニコしながらプリンを食っている。
まぁそのイブキの表情の可愛いこと可愛いこと!やっぱイブキは天使なんだよなぁ!?
うぉぉぉぉ!イブキ最高!イブキ最高!
なお、イブキは俺様の膝の上に乗っかっている。
最近はいつもここが定位置になっているな。
「……じー。」
「ん?」
俺様はそんなイブキの頭を撫でてやりながらプリンを食っていると、ふとココナ教官が食い入るようにイブキのことを見つめているのに気づいた。
……なんだ?イブキが可愛すぎて見惚れちまったか?
いやー分かってるなココナ教官!イブキの可愛さに気づくとはお目が高い!天才の称号をやろう!
「……あれ、どうしたのココナちゃん?」
イブキはココナ教官がこちらを見つめていたことに気づいたらしく、俺様の膝の上からぴょんと降りるとトテトテとココナ教官へと近寄っていく。
ココナ教官は少し顔を赤くしながらイブキに耳打ちし、イブキは左の手の平を右の握り拳でポンと叩くと、今度はイブキがココナ教官へ耳打ちをする。
「……いいの?イブキちゃん。」
「うん!ココナちゃんだけ!特別だよ?」
……何が特別なんだ?
俺様とシュン教官がそのやり取りを頭にハテナマークを浮かべながら見ていると、ココナ教官がトテトテと俺様の隣までやって来る。
「し、失礼しますっ!」
すると、ココナ教官は大きな声でそういったかと思うと俺様の膝の上にぴょんと飛び乗ってきた。
……ん!?
「ちょっ、ココナ教官!?」
「イブキが代わってあげたんだよ!ココナちゃん、イブキがお兄ちゃんのお膝の上に乗ってるのが羨ましいーって言ってたから!」
「ちょ、ちょっとイブキちゃん……!」
ココナ教官は顔を真っ赤にしてイブキに抗議するが、イブキはそんなココナ教官をニコニコしながら見つめていた。
そんな……俺様の膝の上はイブキの特等席なんだぞ!?
いくらココナ教官と言えど……まぁでもイブキが許可してるならいいかぁ!!!
ふと、俺様の膝の上に乗ってきたココナ教官を見る。
イブキよりも一回りほど大きな体のため、程よくずしりとした重さが俺様の膝上にかかる。
うーん、当たり前だがイブキを乗せてる時とは全然感覚が違うなぁ……
……あと、ココナ教官って歳の割に発育いいんだよな。
イブキがちっちゃいのかもしれないけど。
「お兄ちゃん!今日は梅花園から帰るまではココナちゃんがお兄ちゃんの妹だからね!」
「……はい?」
ちょっと待てイブキ。
お兄ちゃん理解が追いつかないんだけど?
「なるほど。ココナちゃんも大胆ですねぇ……」
「さっき胸を押しつけてたシュン姉さんには言われたくないんだけどっ!」
「ちょっとまってくれ。この際ココナ教官が膝の上に乗ってるのは良いんだけど、梅花園から帰るまではココナ教官が俺様の妹ってのはどういう意味だイブキ?」
そもそも俺様はイブキ以外の妹を持つ気はないぞ!?
俺様の妹はイブキただ一人なんだからなぁ!
「それはねお兄ちゃん!ココナちゃんがお兄ちゃんみたいな人がお兄さんだったらな〜って言ってたから、イブキが少しだけ変わってあげることにしたんだよ!」
「……つまり、ココナ教官は俺様が兄貴だったら良いなと思ったからイブキと俺様が梅花園から帰るまでは妹を変わってもらったと?」
「そ、そういう事になりましゅ……」
顔を茹でダコのように真っ赤にしながらそういうココナ教官。正直意味不明な理論すぎるが……?
しかし……なるほど、ココナ教官はこう見えてめちゃくちゃ大人びているから気づかなかったけど、そういう子どもらしい願望もちゃんと持ち合わせてるんだな。
そうだ、ココナ教官はイブキと同じ11歳。
本来なら仕事に追われずにこんな感じのワガママを言ってても良い年頃なんだ。
子どもらしく甘えたい願望もあり、それでいて教官をやっているから一人前のレディとしても扱って欲しい。
うん、実に健全な子どもらしい思考だ。
いやー、正直言うと安心した。
ココナ教官は毎日毎日シュン教官と社畜生活をしてたから、ちゃんと子どもらしいことが出来ているか不安だったんだよな……
そういう事なら、期待には応えてやんねぇとな!
しかし、そんな願望を1発で見抜くとは流石イブキだ!
後でうんと褒めてやらねぇとな!
「よしわかった!じゃあ梅花園から帰るまでは俺様がココナ教官のお兄ちゃんだ!」
そう言って、俺様は膝の上で真っ赤っ赤になっているココナ教官に笑顔を向ける。
「……うん、ありがとう。タツミ兄さん!」
そう言うと、ココナ教官は俺様を上目遣いで見上げると真っ赤っ赤の顔で笑顔を浮かべてそう言った。
タツミ兄さんか……案外悪くないかもしれねぇな……?
「……お兄ちゃん?」
「だ、大丈夫だぞイブキ!俺様はイブキ一筋だからな!」
「むっ、兄さん。今はイブキちゃんじゃなくて私の兄さんでしょ?こっち向いて、ほら。」
え……ちょ、ちょっとまってくれ!
確かに梅花園出るまでココナ教官の兄になるとは言ったが、何故ココナ教官はこんなノリノリなんだ!?
ココナ教官?なんか顔が怖いぞ!?
そして冷たい目で見ないでくれイブキィィィ!!!
あと宇宙猫にならないでくれシュン教官!
「こ、ココナ教官……?何でそんなにノリノリなの……?」
「今はココナって呼んで?兄さん。」
「いや、あの……ココナ教官?」
「……にいさん?」
「ど……どうしたんだよココナ?」
「……っ♡」
俺様が根負けしてココナと呼ぶと、ココナ教官はガバっと俺様に抱きついてくる。
子ども特有の体温が俺様の体に伝わってきた。
「……頭、撫でて?」
「……分かったよ、ココナ。」
そう言うと、俺様はココナ教官の頭に手を置いて左右に動かして頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「〜っ!♡」
「こ、ココナちゃん……?」
耳を激しくピコピコと動かすココナ教官。
そんなココナ教官を見て、シュン教官は心配そうな声でそう言う。
「もっと、もっと撫でて兄さん♡」
……おい、なんかココナ教官表情ヤバいが大丈夫かこれ?
溜まったストレスのせいで偉いことになってません?
おいシュン教官アンタの妹だろ。なんとかしてくれ。
「……私は一体何を見せられてるのでしょうか?」
アカンこの人遠くを見てて頼りにならねぇ!!!
くっ……もう頼れるのはイブキしか……!
(にこにこ)
アカン、イブキの目が据わってる。
正確には笑顔なんだが目が笑ってない。正直怖い。
ってか、こんなことイブキに言うのは心苦しいんだけど言い出しっぺはイブキなんだけどなぁ!?
「にいさぁん……♡」
なお、ココナ教官は俺様の膝の上で俺様に抱きつきながら目をトロンとさせて熱っぽい表情を浮かべている。
おいダメだろ11歳の女の子がそんな表情しちゃ!
あとさりげなく太ももをすり合わせるな!
スカート短いんだからそんなことしちゃいけません!
だめです!ブルアカはエッチなゲームじゃありません!
えっちなのはダメ!死刑!
ってか状況が状況すぎてすっかり忘れてたけど今園児たちのおやつの時間なんだよなぁ!?
やめろ!こんなえっちな表情のココナ教官を子どもたちに見せたらアカンやろがい!?
「こ、ココナ……いったん落ち着こう、な?」
「何を言ってるの兄さん?私は落ち着いてるよ?」
いや、どう考えても落ち着いてないんだって。
現にココナ教官は熱っぽい表情浮かべて俺様に頭を撫でられてるし、イブキは目が据わってるし、シュン教官は宇宙からまだ帰ってきてないし……
と言うか、公の場でお兄ちゃんプレイさせられるのはちょっとキツイかなぁ!?
くっ、引き剥がそうにもココナ教官もキヴォトス人パワーで離してくれそうにねぇし……!
確かにココナ教官の期待には応えるとは言ったが、ここまでなのは聞いてねぇぞ……!?
「えへへ……兄さん、兄さんっ♡」
「うごごごごご……」
「……後でイブキもやってもらうからね、お兄ちゃん?」
「あ、お星さまが……」
……俺様死んだかもしれんな、これ。
頼むからヴァルキューレへの通報だけはやめてくれ。
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結局、あのあとおやつを食い終わって俺様達を見つけた園児達が騒ぎ出すまで俺様はひたすらココナ教官に抱きつかれながら彼女の頭を撫でててやり……
その後もココナ教官はそれはもう表情を蕩けさせ、頭の耳をピコピコとさせながら俺様にしがみついていた。
当然、彼女の表情がお茶の間に流せないようなものになっていたのは言うまでもないだろう。
その後、騒ぎ出した園児達に対して宇宙旅行から帰還したシュン教官が対応して騒ぎを収め、今は全員布団でスヤスヤと寝息を立てている。
で、肝心のココナ教官なんだが……
「兄さん……兄さん……♡」
まだ俺様の膝の上でこの状態なんだよなぁ。
ちなみに、イブキは我慢できなかったようで俺様の隣にやって来て座っており、空いた方の手で頭を撫でてやっている。
「むー……ココナちゃん、イブキ変わってあげるって言ったけどこれはやりすぎだよ!」
そう言って不服そうにココナ教官を見つめているが、言い出しっぺはイブキなので俺様も非常に心苦しいのだがここは我慢してもらうしかない。
「シュン教官……どうしますかねこれ?」
「うーん……私も最近忙しくてココナちゃんに構ってあげられてなくて……甘えさせてあげられてなかったから、それが爆発してしまったのでしょうか?」
「……イブキは違うと思うけどなー。」
ジト目でココナ教官を見つつ、イブキはそう言う。
「そうなのか?イブキはどう思うんだ?」
「それは自分で気づかないとダメだよ、お兄ちゃん。」
「……???」
自分で気づかないとダメ?
……うーん、どういうことなんだ?
「……そういうことですか、イブキちゃん。」
「うん。シュンお姉ちゃんは気がついた?」
「えぇ、なんとなくは……ですけどね。まさかココナちゃんがライバルになるとは……ふふ、ですが私は負ける気はありませんからね?」
ライバル?負けない?
……なんの話をしてるんだシュン教官は。
「イブキもだよ!それに、お兄ちゃんが一番好きなのはイブキなんだからね!」
「ん?そりゃ、まぁ心配しなくても俺様はイブキが世界で一番好きだが……?」
そう言ってイブキを撫でてやると、イブキはニコニコとした笑顔を見せる。
と、同時に俺様に抱きついているココナ教官から回された腕にぎゅっと力が込められた。
「……兄さん。私も姉さんやイブキちゃんには負けないからね。」
「お、おう。よく分からんが頑張れよココナ。」
「……クソボケ、鈍感、にぶちん。」
「え、何だって?」
「何でもない!ほら、もっと撫でて兄さん!」
「はいはい……」
俺様は片手でイブキを撫でつつ、もう片方の手でココナ教官を撫でる。
「イブキちゃん、実の兄妹でそれはさすがに……」
「うん?大丈夫だよシュンお姉ちゃん!愛があれば関係ないってマコト先輩も言ってたよ!」
「え、えぇ?そうなのかしら……?そうなのかも……?」
さっきからなんの話をしてるんだ?
意味がわからないから全くついていけないんだが……?
「それに、お兄ちゃんはカッコいいから他にもいっぱい変な虫が付いてるから……」
「イブキ?俺様に変な虫が付くわけないだろ?」
前も言った気がするが、俺様はただのシスコンだぞ?
シスコンしか取り柄のない男にそんなもんが付くわけ無いんだよなぁ……
全くイブキは心配性だな、そんなこと心配しなくても俺様はイブキ一筋だと言うのに。
「……ね?」
「はぁ……これは苦労しそうね。」
「兄さん……もっと撫でて……♡」
あーもうめちゃくちゃだよ!
なおこの後ココナ教官と約束した手前途中で辞めることも出来なかったため、キチンとココナ教官のお兄ちゃんとしての役目を遂行した。
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「お、お見苦しいところをお見せしました……」
「ハハハ……まぁココナ教官のストレス発散に少しでもなったなら良かったぜ。」
湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にして俯きながらそう言うココナ教官に対して、俺様は苦笑いを浮かべつつそう言った。
結局あの後もココナ教官を膝の上に乗せて、頭をひたすら撫でてやった俺様。
そして、いざ梅花園から帰る時間になって膝の上からココナ教官を降ろそうとすると……
「やだ!まだ兄さんに撫でてもらうの!まだ膝の上に座ってるの!」
と、駄々をこねていたのはここだけの話だ。
普段梅花園で教官を務めていて、かなり大人びてるココナ教官もあんな風に駄々をこねることがあるんだな……
うーん……ココナ教官、そんなに兄貴が欲しかったのか?
シュン教官だって頼めば甘えさせてくれると思うし、俺様としてはもっと頼ってあげて欲しいんだけどな。
まぁともかく、俺様の膝上なんかに乗って頭を撫でてやって満足してもらえたか自信はないが、幸せそうな顔をしていたので良しとしておこう。
なお、その後「また梅花園に来たらやってやるから」と約束すると渋々ではあるが納得してくれた。
なお、その際イブキは冷たい目で俺様を見てきたが「……まぁココナちゃんならいいよ、ほんとに特別だからね!ココナちゃん!」と膨れっ面で言っていた。
膨れっ面ではあったもののどこか親しげな感じの会話だったので、仲良くなってくれたようで何よりだ。
ココナ教官もイブキの事を大層気に入ったようだし、これからも末永くいい友達で居てほしいもんだぜ。
「今日はありがとうございましたタツミくん。子ども達だけじゃなくて、ココナちゃんの相手までしてくださって……」
「いえ、少しでも力になれたなら良かったっすよ。」
「……あと、イブキちゃんを紹介してくれて本当にありがとうございました。ココナちゃん、しっかり者で頼りになるのですがやっぱり少し無理をしている節はあったので……ああやって同じ目線で接し合える友人がいると言うのはとても心強いです。」
イブキと親しげに会話をしているココナ教官を母親のような慈愛のこもった目で見つつ、シュン教官はそう言った。
まぁ確かにココナ教官はもっと子どもっぽく振る舞っても全然いいくらいの年齢だからな。
イブキと遊ぶことでそれが引き出せるなら、俺様も紹介した甲斐があるってものだ。
それにイブキも大層喜んでいるようだし、お互い様というやつだ。
「改めてありがとうごさいました、タツミくん。」
「いえいえ、お安い御用ですよシュン教官。」
ペコリと頭を下げるシュン教官に対して、俺様はそう発言する。
「それにこちらこそすみません、お土産にチョコプリンまで頂いちまって……」
「ふふ、たくさん作って余ってしまいましたので。ぜひイブキちゃんや万魔殿の皆さんと食べてください。」
「わー!ありがとうシュンお姉ちゃん!」
チョコプリンの入った紙袋を誇らしげに掲げつつ、満面の笑みでシュン教官に対して礼を言うイブキ。
「うふふ、そんなに喜んでもらえると嬉しいです。」
そんなイブキに対してシュン教官はゆっくり歩み寄ってしゃがみ込むと、イブキの頭を撫でる。
「えへへ!」
「また是非遊びに来てくださいね、イブキちゃん。」
「うん!イブキ、絶対また来るね!」
「それと、ココナちゃんのお友達になってくれてありがとうございます。ココナちゃん、とても喜んでいると思いますよ。私も嬉しいです。」
「んーん!おやすいごよーってやつだよ!」
そのまま頭を撫でられつつニコニコとした笑顔でそう言うイブキ。うーん、実に微笑ましい光景だ。
ってか見てみろよあのイブキの超キュートな笑顔を!
クソッ!ここに元宮先輩がいたら秒間100連写くらいして写真に収めてくれるのに……なんともったいない!
仕方がないので俺様の目に焼き付けておくとしよう。
「イブキちゃん、今日は私のワガママを聞いてくれてありがとう。その……よかったら、これからも仲良くしてくれると嬉しいな。」
「もちろんだよココナちゃん!イブキたち、もうお友達でしょ?」
「……うんっ!ありがとうイブキちゃん!」
そんなイブキに対してココナ教官も近寄っていくと、イブキ頭を軽く下げつつそんなやり取りをしていた。
初めに険悪な雰囲気だった時はどうなることかと思ったが、仲良くなってくれたようで本当に良かった。
同い年の友達ってのは縁で繋がらないと出来ない、決して金で買うことは出来ない関係だからな。
イブキとココナ教官には是非これからも友情を育んでいって欲しいものだ。
そんな2人を俺様とシュン教官は微笑ましく見つめる。
「……あの、タツミさんもありがとうございました。」
「ん?あぁ……ま、気にすんなよココナ教官。人間誰でもちょっとはっちゃけたい時はあるもんだからよ。」
「……お恥ずかしい限りです。」
トテトテとこちらへやって来たココナ教官は再び頭から湯気を出しそうなくらい真っ赤になりつつそう言う。
「まぁでも、ココナ教官もちゃんと子どもらしい願望があって安心したよ。」
「え?……ど、どういう意味ですか!?」
「いや、ココナ教官って毎日毎日子ども達の面倒を見てるわけだろ?だから子どもらしく遊べてるのかなーって心配してたんだが、どうやら杞憂だったみてぇだな。」
「こ、子ども扱いしないでください!私は立派な教官なんですからねっ!?」
うがーっ!と言う擬音が聞こえてきそうな勢いで、顔を赤くしてそうまくし立てるココナ教官。
「はは、悪い悪い。ココナ教官は立派なレディだぜ?だがそれはそれとしてココナ教官はまだ11歳だ。時には年相応に甘えても良いんだってことを忘れんなよ?」
顔を赤くするココナ教官に俺様はそう言葉をかけた。
子どもらしい願望もありつつ、一人前の大人としても扱って欲しいってのは健全な思考だからな。
「……そうですね。ありがとうございます、タツミさん。」
ココナ教官は少し考え込むような仕草をしたあと、パッと明るい笑顔を浮かべてそう言った。
うんうん、やっぱりココナ教官には笑顔が似合うな。
そんな事を思っていると、ココナ教官が目の前でちょいちょいと手招きをしている姿が目に入った。
俺様が首を傾げると、ココナ教官は「しゃがめ」と言うジェスチャーをしてくる。
それに従って俺様がしゃがむと、ココナ教官はこちらへ距離を詰めて顔を俺様の耳元へ持って来た。
ちょ……!?距離が近いんだが……!?
「ちょ、ココナ教官……!?」
「タツミさんの言う通り、子ども達の前で背伸びばかりしていては疲れてしまいますし……たまには素直に甘えることにしたいと思います。」
「そ、そうか。そうすると良いと思うぞ……?」
「はい。なので……」
「今度また梅花園に来たら、いっぱい甘えさせてくださいね。タツミ兄さん?♡」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うーん……イブキ、ココナちゃんにならいいやって思ってたんだけど……やっぱりもやもやする……」
「でもココナちゃんはいい子だし、お友達になれて良かったって思うし……うーん。」
「これがオトナの感情ってものなのかなぁ……?」
「よく分かんないや……帰ったらいっぱいお兄ちゃんに撫でてもらおーっと!」
「ココナちゃんの匂いもイブキで上書きしないといけないし……ね?おにいちゃん?」
もう少し日常会が続きます