「はい!おまちどうさま!」
ドン!!!
という音と共に俺様が座ったテーブルに出来立てのラーメンが運ばれてきた。
その他にも肉まん、春巻き、チャーハン、麻婆豆腐、青椒肉絲など、俺様の目の前には色とりどりの中華料理達が湯気を立てて鎮座している。
これだけの量の料理が並んでいるのは圧巻なんだけど、流石に多すぎないか……?
「あ、あの朱城会長?これ全部俺様1人で食うんすか?」
「ん?そうだよ?食べ盛りの男の子なんだ、このくらい余裕で食べられるでしょ?」
そう言って元気良く笑うこの大きなケモミミのお姉さんは、玄武商会の朱城ルミ先輩。
色んな商人が集まって連合を組んでいる玄武商会をとりまとめる会長である。
非常に気前が良く細かいことは気にしないおおらかな性格であり、初対面の時は玄武商会の会長と言うことでガチガチに緊張していた俺様をそのフレンドリーさでほぐしてくれた人物でもある。
「さぁタツミ、冷めないうちに召し上がれ!」
(いや、流石に量が多すぎんだろ!)
これはどう考えても1人で食う量ではないだろ……?
ラーメンとチャーハンでさえキツいのに、その上で肉まんや春巻き、麻婆豆腐まであるのはエグすぎるんだが。
ちなみに何故こんな事になっているかと言うと、俺様は今日も今日とて梅花園の手伝いに来ていたんだがシュン教官から玄武商会に発注していた食材の受け取りを頼まれたので、玄武商会に顔を出した。
そこで対応してくれた朱城会長に挨拶し、食材をチェックした後に持って帰ろうとしたら朱城会長が急に腕をつかんできて……
「まぁまぁ!せっかく来たんだから何か食べて行きなよ!今から作ってあげるからさ!」
と言う、朱城会長の申し出があったからである。
まぁ、梅花園はまだおやつタイムまでは時間があるし俺様も少し腹が減っていたから丁度いいと思って承諾して席に座って待っていたら……ご覧の通りと言う訳だな。
改めて目の前に所狭しと並べられた料理達を見る。
どれも湯気を立てており、見るからに美味そうな雰囲気を醸し出している。
それはそのはず、朱城会長は料理人としての腕は一級品で玄武商会でもトップレベルだからな。
商会でも一流の料理人な朱城会長の作る中華料理はそれはもう絶品だ。俺様も前に食った事があるから分かる。
だから、俺様の前に並べられたこの大量の料理達も味は保証されているんだが……
……いや、考えても仕方ない。
せっかく朱城会長が俺様のために作ってくれたんだ。
食わないって選択肢はないし、残すって選択肢もない。
俺様は息を吸って腹を括ると、箸を持ち上げた。
「いただきます!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ご、ご馳走様でした……」
最後に残った春巻きを口に入れて咀嚼した後で飲み込んだ俺様は、空になった皿をそれまで食って空っぽにしてきた食器の上へと積み重ねた。
「おぉ!まさか本当に全部食べちゃうとはね!ちょっと作りすぎたかなって思ったけど、流石は男の子!いい食べっぷりだったよ!」
そう言って嬉しそうに笑う朱城会長。
俺様はそんな朱城会長を見つつ苦笑いを浮かべ、パンパンに張ったお腹をさすさすとさする。
「朱城会長の料理は美味いっすからね。ちょっとばかし量は多かったっすけど……」
「お、そうかい?それは嬉しいねえ!でもそんなに無理に食べるくらいなら、残してくれても別に良かったんだよ?食べきれないくらいの「おもてなし」が出来たってことだからね?」
朱城会長はそう言ってくるが、そもそも俺様の頭の中には初めから残すという選択肢はなかった。
確か中国では出された料理を少し残しておくのがマナーだと聞いたことはあるんだけど、ここは中国じゃなくて山海経だしな。それに、何よりも……
「何言ってんすか朱城会長。この料理は全て朱城会長が時間を割いてわざわざ俺様のために用意してくれたものです。残すなんて端っから頭にないっすよ。」
確かに量はとんでもなかったが、それらは全て朱城会長が俺様のために用意してくれたものだし、何よりも残すってことは食材を廃棄することにも繋がるからな。
出されたものは残さずに食う。
これは俺様が掲げているポリシーでもある。
……それに、メシが腹いっぱい食えるってのはとても幸せなことだからな。
「朱城会長の料理は絶品っすからね!めっちゃ美味かったです!ご馳走様でした!」
「そ、そうかい?そんなに褒められると照れるねぇ……」
少し顔を赤くし、恥ずかしそうに頭を掻く朱城会長。
俺様も料理を作る身だから分かるが、やっぱり自分の作った料理を美味いって食ってくれると嬉しいからな。
なので、俺様も人の作ってくれる料理に対しては必ず美味いと言うようにしている。
……ってか、実際美味いからな。
思ったことを言ってるだけだ。
「とは言え、腹パンパンなんでちょっとすぐには動けそうにないかもっすね……」
「うーん、あの量全部食べちゃったからねぇ。私の方から梅花園に連絡しとこうか?」
「お願いしても良いっすかね?」
「うん、任せといて!」
そう言うと、朱城会長は梅花園に電話をかけるためにパタパタと厨房の奥へと引っ込んでいった。
いやー……それにしても食った食った。しばらく中華料理は勘弁してくれってくらいには食ったなー。
しかし、朱城会長の料理は本当に美味しかった。
ゲヘナ学園給食部の部長、愛清フウカ先輩にも勝るとも劣らない感じがするな。
まぁ朱城会長の得意な料理は中華料理で、愛清先輩はオールラウンダーって感じだからジャンルはそれぞれ違えど、作る料理が美味いってのには変わりねぇし。
お互いに料理人ってこともあって気が合いそうだし、今度愛清先輩に朱城会長を紹介してみても良いかもな?
「ルミ会長、ただいま戻りました。」
そんな事を考えながらパンパンになった腹を擦りつつお茶を飲んでいると、扉が開いて一人の人物が入室してきた。
「……おや、タツミさんではありませんか。」
「こんにちは、鹿山先輩。」
そう言って、軽くこちらに手を挙げながら近寄ってくるこの赤いチャイナドレスにスカジャンを羽織った女性は鹿山レイジョ先輩。
玄武商会の会長である朱城会長の護衛を務める人物で、同時に本店のマネージャーでもある人物だ。
また食材の管理を主に受け持つ人物でもあり、梅花園でも受け取りは朱城会長からだが発注は鹿山先輩へ頼むことが多いので俺様も顔見知りとなっている。
「今日も梅花園の仕事の手伝いですか?」
「はい、発注した食材を取りに来たんですけど……朱城会長から料理をご馳走されまして。食べ終わった所なので少し休憩してから梅花園に戻ろうと思ってたとこっす。」
「こ、この量を1人で食べたのですか……?」
俺様の座ったテーブルに積み上げられた山のような食器に目をやり、困惑したような表情を浮かべる鹿山先輩。
……うん、俺様も正直何で全部食えたのか自分でもわかんねーからそんなリアクションになるのも無理はない。
「しかし、肉体を作るためにはまず食事が大切。カンフーにおいても肉体は命と同じくらい大切な物です。それを作るためこの大量の料理を食べるとは……」
そう言って、鹿山先輩はブツブツ独り言を呟きながら積み上げられた食器の山を凝視している。
鹿山先輩は基本的には落ち着いた人物であり、マネージャーを務めていることもあって接客対応やクレームの処理等も迅速に行えるとても多彩な人である。
だが、趣味のカンフーの事となるとやや周りが見えなく節があり突拍子もない言動をすることがたまにある……と朱城会長は言ってたな。
「……流石はタツミさんですね。」
「いや、普通に出してもらったものを食っただけなんすけど……?」
何故か目をキラキラとさせながらこちらを見てくる鹿山先輩に対して、俺様は苦笑いを浮かべた。
ちなみに鹿山先輩はカンフーを修行の一環として取り入れているらしく、朝練もやっているらしい。
また、俺様とは時間がある時はたまに手合わせもしており近接格闘術を熟知した鹿山先輩と戦うことで俺様の近接戦闘の技術も最近はメキメキと上達している。
……まぁ、毎回鹿山先輩にボロ雑巾にされてるんだがな。
でも俺様の知る中では鹿山先輩は近接戦闘術ではトップレベルに強い人物なので、ありがたくはあるが。
ちなみに鹿山先輩はカンフーを何故かめっちゃ俺様に勧めてくるんだが、別に俺様はカンフーではなくて我流の近接戦闘術なのでいいトコだけ盗むようにしている。
と言うか、俺様は基本的には近接戦闘をする際は盾を使うからな。
まさかヘイローのない俺様が盾を持たずにキヴォトス人と取っ組み合いをするわけにもいかないし。
両手に何も持たずにやるカンフーとは相性が悪いのだ。
「しかし、ゲヘナでの仕事もあると言うのに非番の日は必ず梅花園へ来て仕事を手伝うとは……体の方は大丈夫ですか?タツミさん。」
「全然問題ないっすよ。そもそも梅花園の手伝いは俺様が好きでやってることっすからね!」
親指を立てつつ、俺様はそう言う。
「なら良いのですが……しかし、自分で言うのも恥ずかしいのですが私はどのように子どもと接すれば良いのか分からないので……梅花園で教官と同じように子どもの相手の出来るタツミさんの事は尊敬してしまいますね。」
そう言って、ふっと笑顔を浮かべる鹿山先輩。
「うーん……まぁ正直正解はないっすよ?梅花園の子どもたちは可愛いし純粋っすけどその分わがままを言うこともあるし、目を離したらすぐ危険に首を突っ込んでるし……あとは泣き出したら言うこと聞かないし。」
「それに、俺様も相手をしているとは言え所詮は非番の日に顔を出す程度っす。普段から梅花園で教官をやっているシュン教官やココナ教官の方が、俺様なんかよりもよっぽど凄いっすよ。」
ニコニコした笑みを浮かべつつ、俺様はそう言った。
「……そういうところがタツミさんの悪い所ですね。」
そう言うと、何故かジトーっとした目でこちらを見てくる鹿山先輩。……なんで?
「お待たせタツミ!梅花園に連絡してきたよ……って、あれ?レイジョ?帰ってたの?」
そんな事を思っていると、厨房の奥からパタパタと朱城会長がそう言いながら出てくる。
鹿山先輩はそんな朱城会長を視認すると、頭を下げて一礼をした。
「ただいま戻りました、ルミ会長。」
「どう?食材の仕入れの件、うまく行った?」
「はい。先方がとてもいい人でしたのでこちらの想定よりも安い値段で取引できそうです。」
「そっか!あそこのニンニクは香りが最高だから料理に使えるともっと美味しいものが作れるからね!うんうん、ありがとねレイジョ!」
「いえ、ルミ会長の頼みですから。」
朱城会長と鹿山先輩はお互いに笑顔を浮かべつつ、そんなやりとりをしていた。
うんうん、お互いにお互いを信頼していることが伝わってくる表情でとても見ていて微笑ましい。
「あっ、ごめんごめんタツミ。梅花園には連絡しておいたからね!」
「ありがとうございます朱城会長。あの2人なんて言ってました?」
「えっと、電話口に出てくれたのはココナちゃんだったんだけど「遅くなったらお説教ですからね、タツミさん!」だってさ!」
ニコニコしながらそう言う朱城会長。
……腰に手を当てて怒っているココナ教官の姿がありありと想像できてしまうな。
ココナ教官がそうってことはシュン教官もだろう。
あの2人、姉妹だから結構考えること一緒だし。
こりゃさっさと梅花園へ戻ったほうが良いだろう。
あの2人、怒るとマジで怖いんだよ……
「ふふ、愛されてるねータツミ!」
「いや……単に食材が早く来ないと子ども達のおやつが作れないってだけでは?」
「……レイジョ、どう思う?」
「有罪ですね。」
「何がっすか!?」
何故かジト目でこちらを見てくる朱城会長と鹿山先輩に対して、俺様は抗議の声を上げる。
「……タツミさんは自分がどれほどあの二人から信頼されてるかを自覚すべきです。」
「いや……そもそも俺様はゲヘナの生徒っすよ?それに園の仕事も非番の日にちょっと手伝うくらいだし……」
「いいかいタツミ?普段は他の地区の生徒会で忙しく働いてる男の子が、非番の日には必ず梅花園に来て仕事を手伝ってくれてるんだよ?」
「しかも子ども達の相手も上手く、料理も出来る。そんなの好印象を持たない訳がないじゃありませんか。」
「えぇ……?別に梅花園の仕事の手伝いなんだから、そのくらいは普通なのでは?」
「なるほど、これは重症だねぇ。」
困ったような笑みを浮かべてそう言う朱城会長。
……いや、非番の日にちょっと手伝いに来る程度の他校の生徒をそんな深く信頼はせんだろ?
それに手伝いっつっても子どもの面倒見たり、料理したり、遊具の修理したり、洗濯や掃除とか、シュン教官やココナ教官の愚痴聞くとか、あの二人が甘えたいって言ったら甘えさせてやってるくらいで……
そりゃ梅花園に入れてもらえてるわけだから、ある程度の信用はしてもらってるんだろうなとは思うけどさ。
……でも言われてみたら、最近あの二人やけに俺様に対して距離感が近い気はするんだよな。
まさか……本当に?
……いや、そんなことはねぇだろ!
そもそも俺様はイブキが大好きなシスコンってことだけが取り柄の冴えない男子高校生だぜ?
そりゃまぁ、甘えてきたりしてくるくらいだから多少なりとも好印象を持ってくれてはいるんだろう。
それは素直に嬉しいけどな。
「……タツミさん、今から私と手合わせしましょう。安心して下さい、骨は残しますので。」
「ちょ、鹿山先輩!?」
そんな事を考えていると、何故か威圧感のある笑みを浮かべた鹿山先輩が俺様の腕を掴んでくる。
「貴方にはシュン教官やココナ教官がどれほど貴方のことを信頼しているのか肉体言語で叩き込んであげましょう。……後、ついでに私の気持ちも。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!今から手合わせしたら吐く!俺様吐いちゃいますって!」
「問答無用です。男なら覚悟を決めて下さい。」
「そんな無茶苦茶な!た、助けて下さい朱城会長っ!」
「うーん……ま、今回はタツミの自業自得だね。たっぷりレイジョに絞られて来な?大丈夫、骨は拾ってあげるからさ!」
「こ、こんの裏切り者ォォォッ!!!」
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結局、あれから鹿山先輩にいつもの手合わせをしている公園まで引っ張って行かれた俺様は鹿山先輩と手合わせするハメになってしまった。
ルールは銃を使わない一対一のタイマン。なお、俺様は盾の使用が認められている。
俺様は突然挑まれて大困惑しながらも、とても断れる雰囲気ではなかったため仕方なく鹿山先輩との手合わせを渋々引き受けたのだが……
その後はもう無我夢中だった。
繰り出される鹿山先輩の突きや蹴りをひたすら受け流したり盾で受け止め、こちらからも拳や蹴りを繰り出して鹿山先輩を組み伏せにかかる。
お互いに一進一退の攻防を繰り広げつつ、腹がパンパンの食後に激しい運動をしたせいでこみ上げてくる吐き気と戦いつつ俺様はひたすら鹿山先輩と対峙した。
途中からだいぶ運動したおかげか、食べ物が消化されたのかは分からないが吐き気が徐々に収まって来ると俺様の動きも良くなり、蹴りや突きを盾で防ぎながら徐々に鹿山先輩を押し始めたのだが……
結局、最後は鹿山先輩の回し蹴りによって俺様の盾が吹き飛ばされてしまったためそこで決着となった。
クソ、もうちょっとだったんだけどな……!
「……やはりタツミさんは手ごわいですね。」
吹き飛んだ盾を回収して肩にかけ直していると、呼吸を整えた鹿山先輩からそう声がかけられる。
「それを言うなら鹿山先輩もですよ。俺様、あれでも結構本気だったんすよ?」
「ふふ、私は日頃からカンフーを取り入れた修行をしていますからね。」
大きな胸の下で腕を組みつつ、ドヤ顔を浮かべながらそう言う鹿山先輩。
まぁカンフーが関係あるのかはわからないけど、鹿山先輩が近接戦闘においてかなり強いのは確かだからな。
「カンフーは肉体の強化のみではなく、精神の修行にもなりますからね。私はそれを日常生活や仕事にも活かしています。カンフーを制するものは人生を制すると言っても過言ではありません。」
「いや、それはさすがに過言なのでは?」
そのままドヤ顔でそんな事を口走る鹿山先輩。
……ほんとにこの人、普段は常識的なのにカンフーのことになるとネジが外れるよなぁ。
まぁイブキのことになると見境のなくなる俺様が言えた話ではないかもしれんが。
「と言うわけなので、タツミさんも是非カンフーをやりましょう。安心して下さい、私が教えますので。」
「……この前、カンフーは飲食店の従業員がやってこそ意味があるって言ってませんでしたっけ?」
「それはそうなのですが、タツミさんは料理もお上手なので私の中ではセーフということで……」
「いやどんな理論なんすかそれ……?」
俺様はジト目で鹿山先輩に視線を送る。
「ゴホン!ま、まぁとにかく、タツミさんには私が手取り足取り教えますのでどうぞご安心を……」
「……ん?タツミじゃないか。そんなところで何をしているんだ?」
そして鹿山先輩が気を取り直して何かを言い出した瞬間に、俺様達の後ろから落ち着いた声がかけられた。
俺様はその声に反応し反射的に後ろへ振り向く。
そこには、一人の女性が腕を組んで静かに佇んでいた。
「……近衛先輩?」
「やはりタツミだったか。奇遇だな。」
そう言ってこちらへ向かって歩いてくる、頭にサングラスを乗せてロングコートに龍の柄の入ったマフラーを羽織っているパンツスタイルの女性。
彼女は山海経の生徒会である玄龍門に所属する、玄龍門の門主の護衛兼執行部長を務める近衛ミナ先輩だ。
「どうも、近衛先輩。その節はお世話になりました。」
「いや、私こそあの時は助かった。」
お互いに笑顔を浮かべる俺様と近衛先輩。
本来ならばよそ者を拒む玄龍門に所属している近衛先輩と知り合うことは無かったのだろうけど、ちょっとした縁があってこうやって周知の仲になっている。
え、理由?
実はこの前、梅花園の手伝いでシュン教官と一緒に園児を街に散歩へ連れて行った際に山海経では珍しく不良が街中で大暴れしていたんだよな。
当然治安維持組織も兼ねている玄龍門の構成員たちが出動して抑え込もうとしていたのだが、不良が思ったよりも手強くて苦戦をしていたのだ。
よそ者を拒んでいる玄龍門の事だから手伝うか迷ったんだけど、困っている人達を見逃せなかった俺様は園児をシュン教官へ預けて不良の集団へ突撃。
そこで鎮圧にあたっていた近衛先輩と力を合わせ、不良を倒して牢屋にぶち込んだと言うわけだ。
当然よそ者でしかない俺様の手を借りたことに玄龍門の構成員達は不満だったようで、名を名乗らずにその場を去ろうとしたのだが近衛先輩に呼び止められた。
なんでも「名を名乗らずに去ろうとするなど何てハードボイルドなんだ!是非名を教えてくれ!」とのこと。
……なんか、陸八魔と同じ雰囲気がしたのは気のせいだと思うことにしておこう。
まぁそんなことがあって、自己紹介を交わした俺様と近衛先輩は大っぴらには出来ないけどそれなりに仲良くはさせてもらっているという訳だな。
近衛先輩は玄龍門の中でも梅花園を特に気にかけてくれていて子どもたちを可愛がっているため、園にいるとおのずと彼女と会う機会も増えて話す機会も増えたし。
玄龍門所属でありながら、近衛先輩はそこまで強い嫌悪をよそ者に対して抱いていない様子だし俺様にとっては現状では唯一玄龍門で親交のある人になっている。
「ところで、今日は何でこちらに?」
「門主様の命で山海経のパトロールをしていてな。不良が暴れた後だから、警備の強化をするために……」
「……ミナ執行部長?」
「ゲッ、お前は玄武商会の……!?」
そんな事を近衛先輩と話していると、先程まで俺様と手合わせしていた鹿山先輩と先程こちらへとやって来た近衛先輩がお互いを認識してしまう。
マズい、この二人を会わせちまったら……!
「……お前、タツミに何をしていた?」
「手合わせをしていただけですが?私とタツミさんは暇な時間はよく手合わせをしていますので。」
「フッ、それはさぞタツミにとっては迷惑だろうな?」
「おや……タツミさんは手合わせ中は楽しそうにされていましたよ?」
(いやまぁ、手合わせ中はアドレナリンドバドバだったから若干楽しくなってたのは事実だが……)
「本当か?玄武商会の言う事など信用ならんからな。」
「玄龍門の方こそ、殻にこもってばかり居ると発言が錆びついてしまいますよ?」
お互いに密着するほど接近し、鋭い眼光をぶつけ合いながら言い争いを始める鹿山先輩と近衛先輩。
そう、この2人はめちゃくちゃ仲が悪いのである。
まぁそりゃ、片や山海経の伝統を守らんとする玄龍門。
片や新しい風を取り入れて殻を破ろうとする玄武商会。
お互いソリが合わないのは当然でバチバチなのは俺様も知っているのだが、この2人はそんな組織間の構図をこれでもかと表しているかの如く険悪なんだよなぁ……
出会って口論になるのは当たり前、なんならヒートアップしたら戦闘すら辞さないと言うくらいである。
俺様もこの2人の喧嘩は数回くらい経験してるんだが、やはり慣れるものではない。
「……口の聞き方に気をつけるんだな。私が言われたまま黙っているような女に見えるか?」
「そちらこそ、よく考えてから発言する事ですね。」
……あかん、胃が痛くなってきた。
「そもそも何故お前の手合わせにタツミを付き合わせる必要がある?タツミは梅花園の手伝いをしに来ているのであって、お前の手合わせに付き合うために山海経へ来ているのではないが?」
「それでしたら、ルミ会長から梅花園への連絡は既に済んでいます。遅くならない限りは梅花園の教官達も特に何も言わないはずですよ?私とて、彼の仕事の邪魔をするわけには行きませんので。」
「フン、そんな事を言ってどうせ無理やり付き合わせたんだろう?」
「……何故玄龍門である貴方がそれほどタツミさんの事を気にするのです?タツミさんは山海経の外、ゲヘナの生徒ですよ?」
「フッ、決まっているだろう。タツミは私の立ち振る舞いに理解を示してくれたし、何よりも梅花園の子ども達に懐かれている。確かによそ者には違いないが、拒絶するような人物ではないと判断しただけのことだ。」
……俺様、近衛先輩の立ち振る舞いに理解なんて示したことあったっけ?
なんかマフィア映画が好きだって言ってるのを聞いて「俺様もヤクザのゲームとか前にやってましたよ」って言ったらやたらその後のテンションが高かったのは覚えてるんだが……
「玄龍門ともあろう貴方が伝統を曲げるような真似をするなんて明日は槍でも振るのでしょうかね?」
「なんだと……!?カンフー映画ばかり見ているような脳筋にだけは言われたくないな!」
「脳筋……!?そちらこそ、マフィア映画ばかり見ている格好つけのくせに!」
「なんだと!?」
「やりますか!?」
「ちょ、ちょっと待ってください二人とも!」
口論がヒートアップしてお互いの武器に手をかけそうになる二人を見た俺様は、思わず二人の間へ割り込む。
「お、落ち着いて下さい二人とも!」
「そこをどけタツミ!この脳筋カンフー女を今度こそ地面に叩き伏せてやる!」
「どいてくださいタツミさん!このマフィア映画に脳を支配された女を今度こそは倒しますので!」
「だから落ち着いてくださいってば!」
俺様が割り込んでもお互いに喧嘩を止めようとしない鹿山先輩と近衛先輩。
と言うか、何なら余計ヒートアップしてるんだが……!?
「何故邪魔をするタツミ!」
「邪魔をしないでくださいタツミさん!」
「だから一旦落ち着けってアンタら!」
と言うか、俺様を挟んで距離を詰めようとすんな!
鹿山先輩近い、近いってば!色々当たってるっての!アンタの体凶悪なんだから自重してくれ頼む!
あと近衛先輩も張り合うな!鹿山先輩に負けないくらい立派なものが当たってんだよ!
クソ、頼むから離れてくれ……!何が悲しくてこの2人にサンドイッチされにゃならんのだ……!
「タツミは玄武商会の肩を持つのか!?」
「タツミさんは玄龍門の肩を持つのですか!?」
「おい、実は仲いいだろアンタら!?」
この後めちゃくちゃ仲裁した。
なお、どうにかこうにか二人の喧嘩を収めて梅花園へ食材を持って戻った俺様が帰りが遅いとしてシュン教官とココナ教官に正座をさせられてお説教される羽目になったのは言うまでもないだろう。
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「やれやれ、タツミも罪づくりな男だねぇ。」
「梅花園のシュン教官やココナちゃんがタツミにホの字なのは当然として、まさかレイジョまで好意を持っているとは思わなかったよ。」
「レイジョ、タツミと初めて会った時にカンフーを使って格闘戦が出来る手合わせの相手を見つけたって相当喜んでたもんね。練習の成果を思う存分にぶつけられるって目を輝かせていたし。」
「それにマネージャーとしての手腕とか接客対応も褒められて喜んでたし、クレーム対応で溜まったストレスや愚痴とかも手合わせのついでに聞いてあげてるみたいだし、それにこの前は手合わせ中に捻挫したレイジョを背負って商会まで送ってくれたもんね。」
「あははっ、あの時のレイジョ顔真っ赤だったなー。」
「最近はモモトークでも結構話してるみたいだし、レイジョもそんな年頃なんだねぇ……」
「ま、私もレイジョのことは言えないんだけどね。結構料理の悩みとか彼に相談してちゃってるし……いやー最初はココナちゃんを泣かせるやつじゃないか確認するだけだったのに、すっかり絆されちゃったなぁ。」
「それに、最近は梅花園で玄龍門の執行部長と話しているところを見かけるって情報もあるし……タツミの人脈は一体どうなってるんだろう?ちょっと気になるねぇ。」
「ところでタツミってゲヘナ所属なんだよね……うーん、今度ゲヘナに屋台でも出してみようかな?」
「1回、彼が所属してるっていう万魔殿の人達にも挨拶しておきたいし……ね?」
玄武商会の料理を食べてみたい今日この頃