「で、見事に惚れてしまったと?」
「お恥ずかしながら……」
「……シュン教官よ。其方とて女であることは妾も理解しておる。じゃが、梅花園の教官である其方があまり男にうつつを抜かすと言うのは……」
「だって仕方ないじゃないですか門主様!タツミくんは園の仕事も手伝ってくれるし、さりげなく重たいものを持ったりしてくれるし、私が子どもに手を焼いていると横からサッと助けてくれるし……」
「……ふむ。」
「疲れていたらマッサージしてくれるし、手料理も作ってくれるし、愚痴だって何時間も聞いてくれるし、私が甘えたいって言ったら顔を真っ赤にしながらも甘えさせてくれるし……こんなの、好きにならないほうがおかしいじゃないですかぁ!」
「……随分とその男にお熱なのじゃな。確か丹花タツミと言ったかのう?」
「え?はい、そうですけど……」
「聞けばココナ教官もその男にお熱だそうじゃな?姉妹揃って同じ男にお熱とは……」
「ココナちゃんも一人前のレディとして扱ってもらえたことにすごく喜んでいましたからね。」
「なに、別に悪いとは言わぬよ。ただ、シュン教官とココナ教官は山海経の未来である子ども達を育む梅花園の教官という立場じゃからな。応援してやりたいのは山々じゃが、妾も玄龍門の門主という立場があるでの。」
「……申し訳ありません。門主様。」
「よい、何も責めているわけではない。ただ、タツミという男は玄武商会にも顔を出していると聞く。妾は構わぬと思うが、玄龍門の構成員には良く思わない者もおるじゃろうからな。」
「つまり門主様はゲヘナの生徒が玄武商会のルミ会長とも面識があり、その上で梅花園に出入りしているとなると良くないと……?」
「そういう事になるかの。妾とて心苦しいが、梅花園によその生徒が出入りしている現状はよそ者を嫌う構成員にとっては面白くないじゃろうて。そうなると現状山海経においての絶対安全圏である梅花園が安全ではなくなる可能性もある。」
「……」
「何も会うなとは言わぬよ、シュン教官。そのタツミという男は少なからず其方らの心の支えになっておるようじゃし、園の子ども達も懐いていると見える。」
「じゃが、すでに不満も出始めているこの状況で妾が何もせぬと言うわけにはいくまい。最近はルミが様子を見に行ってくれてはいるようじゃが……」
「ここは妾自ら確かめに行く必要があるじゃろう。と言うことで……この前の梅花園の制服を今一度貸してはくれぬかのう?シュン教官。」
「……分かりました、門主様。私もサヤさんからあの薬をもう一度もらってきます。」
「それは心強い。では、潜入捜査と行くか。」
「シュン教官とココナ教官を陥落させた女たらしの視察に……の。」
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「タツミお兄ちゃんみてみて!お兄ちゃんのお顔を描いてみたよ!」
「おぉ!よく描けてるな!俺様は嬉しいぞ!」
「お兄ちゃんお兄ちゃん!私、積み木でお城作ったんだー!」
「これは……玄武商会の建物か?よく出来てるな!」
「タツミお兄ちゃん!ココロ、また肩車してほしい!」
「おーココロちゃん!今ちょっと忙しくてな……また後でやってあげるから、いい子で待てるか?」
「わかった!ココロいい子にして待ってるね!」
「サンキューな!偉いぞココロちゃん!」
「えへへ……」
ココロちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、ココロちゃんはフニャフニャとして笑みを浮かべる。
「あっココロちゃんずるい!お兄ちゃん、私も!」
「わたしもわたしもー!」
「もーみんな!タツミお兄ちゃんはココロのなんだからね!?」
「ははは、慌てなくても皆撫でてやるからなー。」
万魔殿で仕事づめの中ようやく回ってきた非番の日。
午前中に給食部のヘルプを終わらせた俺様は、いつものように午後からは梅花園に訪れていた。
俺様の周りをワーワーと園児達が取り囲んでいく。
「よーしよしよしよし!」
俺様はしゃがみ込んでそんな園児たちに目線を合わせると、一人一人の頭に手を置いて思い切り撫でていく。
「あーずるいー!」
「順番にやってやるからなー?喧嘩はダメだぞ?」
「「「はーい!」」」
うむ、元気があって大変よろしい。
子どもはやっぱこのくらい元気でなきゃなぁ!
「すみませんタツミさん、手伝ってもらっちゃって。」
「いいっていいって。気にすんなよココナ教官。」
園児たちにもみくちゃにされている俺様にココナ教官が申し訳無さそうに声をかけてくる。
俺様は親指を立てつつ、ココナ教官へそう返した。
梅花園の手伝いなんてもう今更の話だしな。
ココナ教官はそれに対してニコリと微笑むと、俺様の側までトテトテと寄ってきて耳に顔を近づけて来る。
「……後で私にもやってね、兄さん♡」
「は、ははは……」
どこかねっとりした声で耳元でそう囁くココナ教官。
……俺様、もしかしたらとんでもないものを目覚めさせてしまったかもしれんな?背筋に嫌な汗が流れる。
い、いやー!それにしても、非番の日に梅花園に来るのもすっかり慣れちまったなぁ!
前まで非番の日は給食部の手伝いの後に柴関ラーメンや百鬼夜行、山海経の街へ外食に行ったりしていたのだがいまでは梅花園に顔を出すのが当たり前になっている。
なんなら万魔殿の仕事が早めに終わった日も梅花園に顔を出してシュン教官やココナ教官の仕事の手伝いをしているしな。
給食部の業務の日はイブキの朝飯を作ったらすぐに山海経行きの電車に飛び乗ってるし。
まぁあの2人は俺様なんかより余程ブラックな業務をこなしてるんだ、このくらいどうってこたぁない。
……まぁ、そろそろエデン条約の調印式が迫ってきているから今までみたいに頻繁には来れなくなるだろうが。
ちなみに、あれからイブキとココナ教官はモモトークで良くやり取りをしておりこの前は2人で山海経の街へ遊びに出かけていた。
流石にゲヘナの街で2人で遊ばせるわけには行かないから遊ぶ時はもっぱら山海経なんだけどな。
まぁ、山海経も山海経でよそ者を嫌う玄龍門の存在があるから絶対に安全とは言えないんだが……
まぁともかく、仲良くしてくれているようで良かった。
「……そう言えば、今日はシュン教官はいないのか?」
俺様は園児の頭を撫でつつ、周囲をキョロキョロと見渡しながらココナ教官へそう質問した。
いつもならおやつの準備やら、園児たちの相手やらでシュン教官も園にいるはずなのだが今日は姿が見当たらなかったのだ。
「シュン姉さんは今日は用事があるとかで、朝から錬丹術研究会のサヤ姉さんのところまで行ってるんです。」
「錬丹術研究会……?あぁ、あのネズミ耳の妙な科学者の……」
錬丹術研究会。
山海経においての医療分野の一旦を担っており、様々な効能を持つ薬の研究を日夜行っている組織だ。
風邪薬、美容薬、栄養促進剤等色々な薬を開発しているらしく現在はネズミ耳が特徴的な薬子サヤ先輩が会長を務めている……まぁ割と怪しげな部活である。
彼女をはじめとする錬丹術研究会の作る薬は熱を即座に下げたり疲労を軽減したりと有能な効能の薬が多いのだが、中にはとんでもない効能のものもある。
例えば意味もなく変な踊りを踊りだしたり、突然奇声を上げるようになるなど。
なお、有用でも副作用がやべぇ事もあるようで評判に関してはあんまり良くはないらしい。
まぁ副作用に関しては解毒剤を用意しているようだがそういう問題ではない気がするのは俺様だけか……?
ちなみに錬丹術研究会には一度、園の子どもが風邪を引いた時に風邪薬をもらいに行ったときがあるのだが薬子会長とはその時に一度だけ会ったことがある。
なんというか、怪しげな組織の長のわりには結構フレンドリーな人物だった記憶はあるな。
「ほうほう、キミは自分のことを俺様と言うのか!ぼく様となんだか親近感を感じるのだ!」
とかなんとか言ってたな。
なお、その際に新薬だとかなんとか言って半ば無理やり変な薬を飲まされたのは記憶に新しい。
え?どんな薬だったのかって?それが薬を飲んだ瞬間に意識を失って、その後に薬子会長に解毒剤を口に突っ込まれるまでの記憶がほとんどないんだよな……?
その中でもほんとにうっすらとではあるが、何かしらを持ち上げて抱きしめていた記憶だけは残っている。
何を持ち上げたのか、抱きしめたのは何だったのかはまったく分からないけどな……
解毒剤を飲んで意識が覚醒した時には何故か顔が真っ赤の薬子会長と、俺様の帰りが遅くて心配して迎えに来たらしいシュン教官とココナ教官が恐ろしく威圧感のある目で薬子会長を睨んでいたのは覚えているんだが。
まぁともかく、シュン教官はそんな錬丹術研究会に何やら用事があるらしく出かけているらしい。
「錬丹術研究会か……何しに行ったんだろうな?」
「なんでも不老不死の霊薬がどうこうと言う話らしいんですが……私も詳しいことは良くわからないんです。」
「あー……なるほど。」
シュン教官、ああ見えて結構美容のことを気にしてる節があるからなぁ。
恐らく不老不死とまではいかなくても、何か美容にいい薬の相談でもしに行ったんだろう。
いや、女性なら自分の美容に関して気にするのは当たり前だと思うがシュン教官はなんというかその……気に仕方が女子高生のソレじゃないんだよな。
この前は肩と腰が痛いって言うからマッサージしてやったけど、それ以外にも肌が荒れるとかアンチエイジングが……とか言ってたし。
どう考えても発言がアラサーなんだが……大丈夫なのだろうか?
……そんな事気にしなくても、シュン教官は充分美人だと思うんだけどな。
「さて、そろそろ子ども達のおやつの準備をしないといけませんね……」
「あ、なら手伝うぞココナ教官。」
ココナ教官がそう言って立ち上がったのを見て、俺様もいつも通り持ってきたエプロンと三角巾を付けるために立ち上がるのだった。
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「みなさん!おやつが出来ましたよ!」
「「「わーい!」」」
「今日はタツミさんが作ってくれたプリンです!さぁみなさん!手を洗って来ようね!」
「ココナちゃんも手を洗わないとだめだよ〜。」
「ココナちゃんじゃなくてココナ教官!」
時刻は昼の15時過ぎ。
俺様とココナ教官はキッチンに赴いて本日のおやつのメニューであるプリンを作ると、それを持って教室へと戻ってきていた。
……ちょっと材料が多くて作りすぎちまったが、まぁイブキの土産にでも持って帰ってやろう。
「わー!プリンだー!」
「プリンだプリンだー!」
「こらこら押すなよー。お友達が怪我しちゃうだろ?ちゃんと一列に並んで取りに来るんだぞー。」
「「「はーい!」」」
プリンに群がる児童達にそう言うと、彼女達は行儀良く一列に並び始める。
うんうん、聞き分けが良くて何よりだ。
「うぬぬ……私が言っても聞かないのに何でタツミさんが言うとすぐに聞くの……」
ココナ教官は俺様の隣で児童たちにプリンを渡しつつそんな事を呟いた。
そんなしょぼくれたココナ教官を見た俺様は、自然とココナ教官の頭に手を乗せていた。
「も、もうタツミさん!子ども達の前ですよ!?」
「悪い悪い。そんなしょぼくれなくても、ココナ教官は立派に頑張ってるから心配すんなって思ってよ。」
「もう!そういうところですからねっ!?」
何故か頭を撫でられながら腰に手を当てて俺様を叱りつけるココナ教官。なお、彼女の頭は俺様の手の平にグリグリと押し付けられている。
……前に万魔殿や風紀委員会のみんなも言ってたけど、そういうところってなんのことなんだろうな?
「……あれが丹花タツミくんです。門主様。」
「ふむ……一目見た感じではただの女たらしにしか見えぬが……?」
「……それは否定できませんけどね。」
「と言うか、園児達の前でいちゃついとるがアレは良いのか?」
「……後で私にもやってもらいます。」
「……ん?」
ココナ教官を撫でてやっていると、俺様はプリンを取りに来た児童たちの中に見慣れない顔が2人ほど混ざっているのを見つける。
一人は梅花園のスモッグを着込み、黄色の帽子を被って黒髪をツインテールにまとめた少女。
もう一人はシュン教官と似たようなチャイナドレスを着た、白いニーソックスの黒髪の少女だった。
「あれ、初めて見る顔だな?君たちは?」
「初めましてお兄ちゃん!私、キキって言います!」
「私はシュエリンです!よろしくお願いします!」
「キキちゃんにシュエリンちゃんだな!お兄ちゃんは丹花タツミだ!たまにシュン教官やココナ教官のお手伝いをしてるんだ、よろしくな!」
初めて見かけるけど、最近入園した子達だろうか?
……それにしても、この子達やけに発育がいいな?
他の園児たちよりも一回りくらい大きい気がするが……
「はい!シュンお姉ちゃんから聞きました!タツミお兄ちゃんはとっても優しくて、頼りになるのよって!」
「そ、そうか?そんなに褒められると照れるなぁ。」
「むっ……」
おい何故そこで頬を膨らませるんだココナ教官。
ココナ教官はそのまま膨らんだ頬をしたままこちらを向くが、シュエリンちゃんを見た瞬間目を見開く。
「……って、あーっ!あなたはこの前の……!」
ココナ教官はシュエリンちゃんを見ると大きな声を出して指を差し、その後怒りの表情を浮かべながらずんずんとシュエリンちゃんに向けて距離を詰めた。
「あ……お、お久しぶりですココナちゃん……」
「お久しぶりですじゃないよ!この前はよくもあんな事言ってくれましたね!?」
そう言って、シュエリンちゃんにずいっと顔を近づけてまくし立てるココナ教官。
どうやら、ココナ教官はシュエリンちゃんと面識があるらしい。
ただ出会い頭にこんな形相で詰め寄るって、シュエリンちゃんは一体何をやらかしたんだ?
「こ、ココナ教官?その子と何かあったのか?」
「聞いてくださいよタツミさん!この子ったら、この前梅花園の前の公園で会ったときに私の悪口を散々言ってきたんですよ!」
「わ、悪口じゃなくてほとんど事実を言っただけじゃないですか!」
うがーっ!と擬音が聞こえてきそうな表情を浮かべてそう言うココナ教官に対し、シュエリンちゃんはワタワタと慌てながらそう言った。
「具体的にはどんな事を言われたんだ?」
「私が好き嫌いばっかりするからまだ子どもだの、だから背が伸びなくてそのままだの、姉さんの悪口を言ってると身長がそのまま成長しないだの……!」
……なるほど?
確かにそれはちょっと言い過ぎだなシュエリンちゃん。
と言うか、シュエリンちゃんってやけにココナ教官に詳しいんだな……?
姉であるシュン教官くらい詳しくないか?
「ねぇねぇタツミお兄ちゃん!」
「……ん?」
ココナ教官に詰められてタジタジになっているシュエリンちゃんを眺めていると、俺様の万魔殿のジャケットの袖がくいくいと引っ張られる。
何事かとそちらを見ると、そこには俺様を上目遣いで見つめながらジャケットの袖を引っ張るキキちゃんの姿があった。
「どうしたんだ?キキちゃん。」
「タツミお兄ちゃん、私もプリンもらってもいいですか?」
「おぉ、もちろんいいぞ!」
俺様がプリンを手渡すと、キキちゃんはニコニコとした表情でプリンを受け取る。
「ありがとう!タツミお兄ちゃん!」
「良いってことよ!早速食べるといいぞ!」
「はい、いただきます!」
キキちゃんはそう言って一緒に渡した紙のスプーンでプリンをすくい上げると、口の中へ運ぶ。
そしてそのまま少し咀嚼すると、目をキラキラさせながら満面の笑みを浮かべた。
「これ、タツミお兄ちゃんが作ったんですか?」
「ん?そうだぞ。いつもはシュン教官が用意してくれてるんだけど、今日は用事があっていないみたいだから俺様が変わりに作ったんだ。どうだ?美味いか?」
「はい!とっても美味しいです!」
「そうかそうか!そいつは良かった!作りすぎちまってまだまだあるから、よかったらおかわりしてもいいんだぞ?」
「ほんとですか!?やったー!」
ぴょんぴょんと笑顔で飛び跳ねながら喜ぶキキちゃん。
うんうん、やっぱり子どもは元気なのが一番だ。
その後もニコニコでプリンを食べるキキちゃんを眺めていると、ふとキキちゃんの頬にプリンがついているのを見つけた。
俺様はポケットからハンカチを取り出すと、キキちゃんへ近寄る。
「キキちゃん。ちょっとこっち向いてくれるか?」
「はい、どうかしましたかタツミお兄ちゃん?」
そう言ってくるりとこちらを向いたキキちゃんの頬に手を添えると、俺様はハンカチをキキちゃんの顔に押し当てると口についたプリンを素早く拭き取る。
「……えっ?」
「これでよし!いきなりごめんなキキちゃん。キキちゃんのほっぺたにプリンが付いてたからよ。」
俺様は自分のほっぺたをトントンと人差し指で叩き、笑顔を見せながらそう言った。
それを見たキキちゃんはしばし口を開けてポカンとしていたが、やがてハッとなると少し顔を赤くする。
「……なるほどのう」
「ん?どうかしたのかキキちゃん?」
「ううん、何でもない!ありがとうお兄ちゃん!」
「おう!こんくらいお安い御用だぜ!」
すぐ笑顔になってお礼を言ってくるキキちゃんに対して俺様はそう答えた。
それにしても、何でキキちゃんは若干顔を赤くしてるんだろうな……?
「うぇーんタツミお兄ちゃん!助けてくださいぃぃ!」
そんな事を考えているとプリンを食べている児童達の中からシュエリンちゃんが半べそをかきながら俺様に駆け寄ってくると、そのまま足にしがみついて来た。
「こら!待ちなさいシュエリンちゃん!」
そんなシュエリンちゃんを追いかけて、怒り心頭と言った感じのココナ教官が教室の奥からパタパタと走ってくる。
シュエリンちゃんは「ヒッ」と喉を鳴らすと、半べそをかきながら俺様の後ろへと隠れた。
「ゔえぇぇえん!ごめんなさいココナちゃんー!」
「ココナちゃんじゃなくてココナ教官でしょ!?謝っても許さないからね!シュエリンちゃん!」
「ま、まぁココナ教官。シュエリンちゃんも反省してるみたいだし、その辺でやめとこうぜ?な?」
「むぅ……まぁタツミさんがそう言うなら……」
ココナ教官は納得のいかない表情を浮かべていたが、とりあえずは矛を収めてくれたようだ。
それを確認すると、俺様はシュエリンちゃんのほうを向きそのまましゃがみ込んで目線を合わせる。
「なぁシュエリンちゃん。」
「ぐす……なんでしょうタツミお兄ちゃん。」
「確かにシュエリンちゃんはココナ教官に自分が思ったことを言っただけかもしれないぜ?ただ、その言葉はココナ教官にとってはとっても傷付くことだったって場合もあるかもしれない。」
俺様は涙の溜まったシュエリンちゃんの目を真っ直ぐに見据えながらそう言う。
「思ったことを言葉にできるのはシュエリンちゃんくらいの歳では難しいから、すごいと思うぞ?ただ、それが相手にとって嬉しい言葉なのか悲しくなる言葉なのかを考えてから言えるようになるとシュエリンちゃんはもっと素敵なレディになれると俺様は思うな。」
「タツミお兄ちゃん……はい、今回は私もちょっと言い過ぎてしまいました。」
「うんうん、良く分かってるなシュエリンちゃん。自分で気づけて偉いぞ。」
そう言うと、俺様はシュエリンちゃんの頭に手を置いて優しく撫でてやる。
「えへへ……」
「シュエリンちゃん、ココナ教官になんて言えばいいか分かるか?」
「はい。ごめんなさい、ですね。」
「正解だ!よし、じゃあお兄ちゃんと一緒にココナ教官にごめんなさいしような。」
「はい!」
俺様は笑顔になったシュエリンちゃんを見て微笑むと、立ち上がってココナ教官へと向き直る。
そしてシュエリンちゃんに目配せをすると、シュエリンちゃんは自分の足でココナ教官へと近寄る。
「……ココナちゃん、ごめんなさいっ!」
そして、そのまま頭を下げた。
「……まぁその、私も今回は言い過ぎたから。こっちこそムキになってごめんね、シュエリンちゃん。」
シュエリンちゃんの真剣な謝罪が心を打ったのか、ココナ教官はバツの悪そうな顔を浮かべると頬をポリポリとかきながらそう言った。
「ココナちゃん……ありがとうございます!」
「だからココナ教官だってば!もうっ。今回はタツミさんに免じて許すけど、また言ったら今度こそ許しませんからね!?」
「はい、分かりましたココナちゃん!」
「だーかーらー!」
「ふふ、ココナ教官もシュエリンちゃんも楽しそうですねタツミお兄ちゃん!」
「いや、これは楽しそうなのか……?」
そんなこんなで、今日も梅花園は騒がしいのだった。
その後もやけにくっついてくるシュエリンちゃんを膝に乗っけて頭を撫でてやったり、それを見て頬を膨らませたココナ教官の頭も一緒に撫でたり、一歩引いた位置で遠慮がちにこちらを見ていたキキちゃんも膝の上に半ば強引に乗せたりして時間が過ぎていった。
ちなみに膝の上に乗ってる時のキキちゃんは顔が真っ赤だったが、熱でもあったんだろうか?
なお、シュエリンちゃんはずしりとした重みがあったのに対してキキちゃんはとても軽かったのだが……
ちゃんと食ってるんだろうか?今度キキちゃんに会ったら栄養の付くメシでも作ってやろうかな?
ちなみに、このあとシュエリンちゃんとキキちゃんはいつの間にか姿を消しておりそれと同時に入れ替わるようにシュン教官が錬丹術研究会から戻ってきた。
「おかえりシュン姉さん。」
「ヒッ……た、ただいまココナちゃん。」
なお、何故かココナ教官を見た途端にシュン教官の体が少し震えていたのは此処だけの秘密にしておこう。
なんだろう、ココナ教官が大事に取ってたお菓子をつまみ食いでもして怒られたのかなぁ?
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「いかがでしたか?門主様。」
「うむ。まぁ悪い奴ではないじゃろうな。子ども達も大層懐いておるようじゃし、何より気立てが良く園の仕事も其方らと遜色なくこなしておったしのう。」
「そうなんですよね……タツミくん、私達と遜色なく園の仕事がこなせるんですもの……ほんとに万魔殿から引き抜きたいくらいです。」
「うむ、其方が評価するのも納得じゃったな。……妾を強引に膝の上に乗せたのは少し驚いたが。」
「ふふ、門主様が寂しそうに見えたからではないですかね?彼、女性からの好意に対してはびっくりするくらい鈍感なのにそういうところはとても敏感なんです。」
「……まぁ悪い気はせなんだがの。ともかく、あやつが梅花園をどうこうしてやろうと言う意思は全くもって感じられなんだ。その旨は玄龍門の構成員にも伝えておこう。」
「ありがとうございます、門主様。」
「まぁそれであやつらが納得するかはまた別の話じゃが、妾自らがそう判断したからの。文句は言わせぬ。」
「……そうですね、重ね重ねありがとうございます。」
「ときにシュン教官。お主、どさくさに紛れてタツミとやらにえらく抱きついておったようじゃが……?」
「えっ!?き、気のせいではありませんかね……?」
「とぼけるでない。ココナ教官が親の仇を見るような目を其方へ向けておったぞ。」
「そ、そう言う門主様だってさりげなくナデナデを要求していたではないですか!」
「……妾のはあくまで視察のためじゃ。決して邪な思いがあったわけではないぞ。普段甘えられぬからと言って、彼に父性を感じたなど断じてないからな。」
「そ、それを言うなら私だって視察のためですっ!」
「いや、お主は別に視察せんでも彼の人となりは知っておるじゃろうに……」
「と、とにかくっ!タツミくんはとてもいい人なので!これからも梅花園には来て頂きますからねっ!」
「うむ、よかろう。それにこれを期にゲヘナと少し交流しておくのも悪くないやもしれぬし……な。」
次回から山海経で事態が動きます
オリジナルストーリーとか言いつつ原作の改変なのは許して…