転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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山海経に魔の手が忍び寄る…
と言うわけでオリジナルストーリーです
恐らく3.4話で終わります

オリジナルとか言いつつ原作の改変なのは許して♡


黒い影と丹花タツミ

ある非番の日のこと。

今日も今日とて梅花園にやって来た俺様は、ココナ教官と共に子ども達のテストの採点を行っていた。

 

「72点、53点、81点、48点……」

 

カリカリとペンを走らせる音が教室に鳴り響く。

俺様も答案用紙と答えの用紙を交互に確認し、素早くマルバツを付けて点数を書き込んでいく。

そして、俺様とココナ教官は最後の答案用紙に点数をつけ終わるとそれを同時に置いてある答え合わせ済みの答案用紙の上に置いた。

 

「ふぅ、今日の分の採点はこれでおしまいです!」

「いやー終わった終わった!お疲れさんココナ教官。」

 

ふわぁ〜と言いながら大きく背伸びをするココナ教官に対して、俺様は労いの言葉をかける。

 

「いえ!タツミさんこそお疲れ様です!すみません、テストの採点を手伝ってもらって。」

「このくらいお安い御用だぜ!書類仕事なら万魔殿で慣れてるからな。」

 

ペコリと頭を下げるココナ教官に対して、俺様は親指を立てながらそう言った。

俺様は普段からあのアホ議長が風紀委員会に押し付けた分+元々万魔殿で処理する分の書類をこなしているため、この程度の採点はぶっちゃけ朝飯前だしな。

ひどいときには書類がサンクトゥムタワー並に積み上がってるからなぁ……うっ、想像すると胃が……

それに比べたら数クラス分のテスト用紙の採点なんてかわいいもんである。

 

「ん〜……子ども達はどうして勉強が嫌いなんでしょうね?そんなに難しい問題でもないのに、いつも補習が必要な子がいるし……」

 

そんな事を思っていると、ココナ教官が採点済みのテスト用紙に目を落としながらそう言った。

 

「うーん、まぁ俺様も小さい時は勉強嫌いだったしなぁ。小さい子はみんな勉強嫌いだよな。」

 

じゃあ今勉強が好きなのかって言われると嫌いだがな。

それでも小さい頃ほどではない。

ほんとにあの小さい時特有の勉強嫌いって何なんだろうなぁ……?

……ま、俺様の場合はちょっとばかし特殊なんだけど。

 

「そうなんですよね……難しい問題が多いとまたシュン姉さんに怒られちゃうし……」

 

むむむ……と唸りながらそう言うココナ教官。

しかし、ココナ教官やシュン教官は本当にすごいよな。

普段は保育士のように園の子ども達の面倒を見つつ、こうやって教師のようなこともしているんだから。

発言を聞く感じこのテストはココナ教官が作成したものみたいだしそんな事まで出来るのかと感心する反面、いくらなんでも二人になんでもかんでも任せ過ぎでは?と仕事量が心配にならなくもない。

子ども達の面倒を見て、メシやおやつも作って、授業もして、テストを作って採点……

気がつけば、俺様は目の前に座っているココナ教官の頭に手を置いて撫でくり回していた。

 

「ちょ、ちょっとタツミさん!?突然何を……」

「いや……ココナ教官は本当によく頑張ってるなって。」

「そ、そうですか?えへへ……ってそうじゃなくて!」

 

ココナ教官はそう言うと、顔を真っ赤にしつつブンブンと腕を振り回し始める。

 

「子ども扱いしないでくださいっ!私は一人前の教官でレディなんですからっ!」

「はは、悪い悪い。撫でるの辞めたほうがいいか?」

「……やだ。辞めないで。」

 

俺様の手のひらに頭をぐりぐりと押し付けつつ、ココナ教官はボソリとそう呟いた。

うんうん、普段は頑張ってるんだからたまにはこうやって子どもみたいに甘えるのも大切だからな。

 

「んっ……」

 

そのままひたすらココナ教官の頭を撫で続けると、ココナ教官の表情が徐々に蕩けていく。

更にぐりぐりと手のひらに押し付けられるココナ教官の小さな頭。それを俺様はひたすら撫でてやる。

 

「ん……兄さん……♡」

 

どんどんと溶けていくココナ教官。

そんなココナ教官を見つめていると、ふと俺様の視界の端に見慣れないものが映り込んだ。

何気なしに、俺様はココナ教官の頭から手を引っ込めるとその荷物の方へ立ち上がって歩み寄る。

 

「あっ……」

 

後ろから聞こえてくる何故か悲しそうなココナ教官の声をバックに、その物体の側までたどり着く。

 

「……これは玄武商会のダンボールか?」

 

俺様は顎に手を当てながらそう呟く。

そう、ココナ教官を撫でている俺様の視界に入ってきたのはこの丁寧に包装された玄武商会のダンボールだったのである。

……何故こんなところに玄武商会のダンボールが?

玄武商会から食材でも買ってきたのだろうか。

 

「……あーっ!忘れてました!」

 

そんな事を思っていると、俺様の後ろからココナ教官の絶叫が響き渡った。

思わずそちらを向くと、ココナ教官は慌てたように立ち上がりパタパタとこちらへ向かって走り寄ってくる。

 

「このダンボール、玄武商会の食材が入ってるらしいんですけど、山海経の外で待ってる人に渡してくれって言われたのをすっかり忘れていました!」

 

そう言ってワタワタと慌てだすココナ教官。

急な変わりように思わずクスッとした笑みが溢れる。

 

「なるほど、朱城会長か鹿山先輩から頼まれたのか?」

「いえ、それが具合が悪いのかマスクをしていたから顔がよく分からなくて……でも、少なくともルミ会長やレイジョ姉さんではありませんでしたね。」

 

……朱城会長や鹿山先輩からじゃない?

 

「じゃあ玄武商会の誰かからってことか?」

「いえ、それがその人は玄武商会の制服を着ていなかったんですよね……」

 

……玄武商会の制服を着ていない?

 

「……ココナ教官。これ、中身は何が入ってるんだ?」

「え?いえ、それが分からないんです。頼んできた人は食材と言っていたので、何かの食材だとは思うのですが……あと、絶対に中は開けないでくれとも言われましたね。」

 

うーんと唸りながらそう言うココナ教官。

……中身がわからない?絶対に開けないでくれ?

 

「あっ!それと、梅花園の子ども達にも似たようなおつかいが頼まれてまして。」

「……なんだって?」

 

突然の発言に俺様は顔をしかめる。

 

「それも同じ人物からか?」

「はい。梅花園の園児はおつかいの練習で配達の依頼を受けたりしているんです。いつもは近所の方からの依頼が多いのですが……」

「今回は身元の良く分からない奴から、山海経の外への配達の依頼が来た……ってわけだな。」

 

つまり情報を整理すると、マスクをしていて顔を隠した人物から【食材】の入った玄武商会のダンボールを配達してくれと頼まれたと。

それも山海経の外で待っている人間まで。

 

……そもそも、玄武商会のダンボールを使うのであれば普通は玄武商会の人間が依頼してくるはずだ。

それに食材の事は鹿山先輩が主に担当していたはず。

なら配達依頼をしてくるのであれば鹿山先輩本人か、少なくとも玄武商会の人間でなければ尚更おかしい。

そもそも食材の配達をするならわざわざ梅花園に頼むなんて回りくどいことをしなくても、自分たちで直接配達すればいいだけの話だ。

それをわざわざ顔を隠すような真似をして梅花園のココナ教官や子ども達に頼んでくるなんて……

どう考えても怪しい。あまりにも危険な匂いがする。

……俺様の気にし過ぎか?

 

「ココナ教官、この依頼はもう受けちまったのか?」

「え?はい、受けました。危険なものではないと言われましたし……それに、何かあれば守ってくれるとのことだったので……」

 

そう言うと、ココナ教官はパタパタと玄武商会のダンボールへ近寄るとそれを持ち上げた。

 

「とにかく、私は今からおつかいを頼まれた子ども達とこれを届けてきますね!タツミさん、申し訳ないのですがシュン姉さんが帰るまで園を任せても……」

「……ココナ教官。」

 

俺様はココナ教官へ近寄ると、ココナ教官が手にしていたダンボールをひょいと持ち上げた。

 

「この配達依頼、俺様に任せてくれないか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……さて、ココナ教官の話によると受け渡し場所はこのあたりのはずだが。」

 

あれから「依頼を受けた以上は自分で運びますっ!」と言うココナ教官や、なんだかんだでおつかいを楽しみにしていたらしい子ども達をなんとか説得した俺様はココナ教官にもらったメモを頼りに荷物の受け渡し場所までやって来ていた。

 

身元不明の人物から、梅花園に届いた玄武商会のダンボールに入った食材を山海経の外まで運ぶと言う依頼。

一見すると子ども達の成長も兼ねた何の変哲もない梅花園の日常に見えるだろうが……

色々状況を照らし合わせて考えると、子ども達の善意が利用されている可能性が高いと見て良いだろう。

 

本当に食材を運ぶだけならそれでいい。

単なる園児達のおつかいとして済む話だからな。

だが、もしこの中身が食材なんかじゃなくてもっと危険な何かだとしたら?

それを子ども達やココナ教官の善意を利用して、山海経の外まで運ばせようとしているのだとしたら?

思わずダンボールを持つ手に力が入る。

 

本当にこいつの中身が単なる食材なら園に帰ってココナ教官や子ども達に「いやー俺様もおつかいしたくて!」と言って謝ればいい話である。

問題は……こいつの中身がやばいものだった場合だ。

 

そうなると、ココナ教官や子ども達は善意を利用されて知らず知らずのうちに悪事に加担したってことになっちまう。彼女達の手が汚れる。それも善意に付け込まれたという、本人達からしてみれば究極に不本意な形で。

それだけは許せない、許せるはずがねぇ。

あの子達はそんなドロドロとしたものに巻き込まれていいわけがねぇんだ。

 

それに100%善意からの行動とは言え、後々そんな悪事に加担していたと知ったらココナ教官はどう思うだろう?

優しい彼女のことだ、きっと「あの時断っていたら……」と自分を責めるに違いない。

自分のせいで子ども達を巻き込んでしまった自責の念に駆られるに違いない。

 

「ふざけやがって……!」

 

優しいあの子の手をこんなふざけたもので汚すわけにはいかない、それだけは絶対にあっちゃならねぇ。

だから今回俺様はこの配達の依頼を1人で引き受けることを決意した。……俺様の杞憂ならそれでいいんだ。

このダンボールの中身が本当に食材であることを願う。

 

「さて、そろそろ受け渡し地点に到着するが……受取人らしき人物は……」

 

そろそろ山海経と他の自治区の境目に差し掛かろうかというところだった。

 

「おい、そこのお前。」

 

受け渡し地点に到着し、周囲をキョロキョロと見渡していた俺様の背後から声がかけられる。

その声に反応して俺様は後ろを振り向く。

そこにはロボットの頭にスーツを着たオートマタと、サングラスとマスクで顔を隠した女子生徒が居た。

 

「……アンタ達が受取人か?」

「いかにも。だがおかしいな?私は梅花園の小さい教官と子ども達に依頼したはずだが……何故ゲヘナの制服を着たお前が荷物を持ってきたんだ?」

 

サングラスにマスク姿の生徒は怪訝な声でそう言う。

 

「いやなに、たまたま梅花園に手伝いに来てたもんでね。教官は子どもの面倒を見るのに忙しいから、俺様が代わりに引き受けて運んできたってわけだ。」

「梅花園の手伝いだと?ゲヘナの生徒が?」

「まぁ細かいことはどうでもいいだろ?荷物はしっかり運んできたんだからよ。」

「……まぁそれもそうだな。ご苦労だった。その荷物を渡してもらおう。」

 

そう言うと、オートマタは俺様に一歩近づくと両手をこちらへ差し出してくる。

 

「……その前に一ついいか?」

「なんだ?」

「このダンボールの中身は食材だと聞いているんだが……なんの食材が入ってるのか教えてもらっても?」

「……なに、ただの人参だよ。」

「へぇ、ただの人参ねぇ……それにしちゃ随分と人払いも済ませてあるみたいじゃねぇか?」

 

周囲をぐるりと見渡しつつ、俺様はそう言った。

疑念が確信へ変わる。

 

「……何がいいたい?」

「単刀直入に言うぞ。こいつの中身、単なる食材じゃねぇだろ?」

「……!?」

 

俺様がドスを効かせてそう言うと、オートマタと女子生徒はビクリと体を震わせる。

 

「へぇ?カマをかけたつもりだったんだがその反応……どうやら当たりのようだな?」

「くっ……貴様、どこで気づいた!?」

「最初からだよ。玄武商会の食材を山海経の外まで運ぶなら普通は玄武商会が自らやんのが自然だ。しかもデカデカと玄武商会の名前が書かれたダンボールを使うならな?」

 

俺様はダンボールを放り投げ、ブークリエを抜くとゆっくりと構える。

 

「目的は何かしらのヤバいブツの密輸。そして万が一バレたとしても玄武商会のダンボールを使えば罪は玄武商会になすり付けられる……そんなところか?」

 

引き金に手をかけ、俺様は目の前の二人を睨む。

 

「残念だったな悪党ども。計画がガバガバすぎんだよこのマヌケが。矯正局でオツムを鍛えなおしてもらってから出直してくるんだな。」

「くっ……話が違うぞ!?どういう事だ!?」

「クソ!バカなクソガキどもやバカそうなあの教官なら騙せると思ったんだ!こんな訳のわからん奴がいるなんて聞いてないぞ!?」

「……は?」

 

その言葉を聞いた瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。

ブークリエの引き金にかけた人差し指に力を込める。

火薬の炸裂音が鳴り響くとともに、目の前のオートマタが地面へ倒れた。

 

「ヒッ……!?」

「……おい、クソ野郎。」

 

俺様は地面に倒れ伏せたオートマタを一瞥すると、そのままツカツカと女子生徒まで歩み寄る。

そして、震える彼女にブークリエを突き付けた。

 

「今何つった?」

「ゆ、許して……」

「今何つったって聞いたんだよ!えぇ!?」

 

俺様は殺さんばかりの勢いで女子生徒を睨みつけ、ブークリエの銃口を押し当てる。

 

「お前今、ココナ教官や子ども達をバカにしたよな?」

「ち、違ッ……!」

「へぇ、何が違うんだ?バカそうな教官やバカなクソガキなら騙せると思ったんだろ?違うのか?」

「あ……あぁそうさ!思ったさ!それの何が悪い!?」

 

開き直ってそう叫ぶ女子生徒。

俺様はブークリエの銃口をさらに彼女に押し付ける。

 

「いいか?ココナ教官はバカじゃねぇよ。あの子はとてもいい子だ。あの歳で梅花園の教官としての責務を背負って、毎日毎日子ども達の面倒を見てる。とてもじゃないが俺様にゃそんなマネは出来ん。本当にすごいし尊敬してるよ。」

 

だから、たまに思いっきり甘やかしたくなるんだよな。

年相応に甘えてもいいんだぞって。

……まぁ、ハイライトのない目で「兄さん♡」って言ってくるのは勘弁して欲しいが。

 

「子ども達もバカなんかじゃない。子どもってのはすげぇぜ?何も考えてないようで、その実しっかり周囲のことを観察してあっという間に成長しちまうんだからよ。」

「な、何が言いたい!?」

「つまり……お前らみたいな三下が、ココナ教官や子ども達をバカにするのはお門違いってことだよッ!!!」

 

俺様はそのままブークリエの引き金を引く。

火薬の炸裂音が響き、腹を撃たれた女子生徒はそのまま地面へと蹲った。

 

「さて……教えてもらおうか。お前ら、誰の指示で動いてんだ?」

「ぐぅ……な、何を……!?」

「すっとぼけんな。山海経では手を出すのがタブーとされてる梅花園を利用してこんな事をしでかしてんだ。仮にバレたら玄龍門はもちろん、玄武商会だって黙っちゃいないんだぞ?」

 

そう、梅花園は玄龍門の門主自らが不可侵の中立地帯として定めており、それに玄武商会も同意している。

つまり梅花園に手を出すと言うことは、玄龍門と玄武商会の2つを敵に回す行為と言っても過言ではない訳で。

山海経の2大組織を相手に、こんなオートマタと女子生徒が2人でどうこうできるわけがない。

そんな舐めたマネをできるんだ。裏で糸を引いている強大な何者かがいるはずだ。

 

「答えろ、誰の指示だ?」

「し、知らないっ!本当だ!何も知らない!」

「……へぇ。まだ強がれるんだな?もう一発と言わず全弾腹にくれてやってもいいんだぜ?」

 

ブークリエの銃口を押し付けつつ、俺様は女子生徒の頭を掴み上げる。

 

「もう一度だけ言うぞ。……誰の指示だ?」

「ご、五塵の獼猴だッ!」

「……五塵の獼猴?」

「あぁ!五塵の獼猴、申谷カイだっ!」

 

……申谷カイ?

山海経にそんな生徒が居た記憶はないんだが……?

外部の人間なのか?

 

「へぇ、その申谷カイって奴の指示ってことか。」

「そ、そうだ!」

「五塵の獼猴ってのは良く分からんが……まぁ二つ名ってことでいいんだよな?」

「あ、あぁ!五塵の獼猴、申谷カイ。キヴォトスの矯正局を脱出した、七囚人の1人だ!」

 

その言葉を聞いて、俺様は目を見開いた。

 

「七囚人ッ……!?」

 

狐坂のことがふと頭に思い浮かぶ。

なんだって、俺様はそんなヤバい奴と縁があるかねぇ。

 

「そうか、なら洗いざらい吐いてもらおう。お前達とその申谷カイの関係性と、あの荷物がなんなのかについて。もちろん拒否したら……分かるな?」

「わ、分かった!吐く!吐くからぁ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

五塵の獼猴、申谷カイ。

元錬丹術研究会の会長にして、秘薬の密輸に関与した容疑で山海経からの永久追放を食らった犯罪者。

そして……矯正局から脱出した【七囚人】の一人。

狐坂と並ぶ、キヴォトス史上最悪のテロリストだ。

 

申谷カイは秘薬の密輸だけでなく、生徒を利用した非道な人体実験などの鬼畜行為も行っていたらしい。

中には後遺症が残ってしまい、今もその後遺症に苦しむ生徒もいるんだとか。

その行為が原因で玄龍門の門主から永久追放を言い渡され、更にヴァルキューレへ引き渡された。

まさかそんなとんでもない凶悪犯が裏で糸を引いていたとは……思った以上にとんでもない話になりそうだ。

 

こいつらはそんな申谷カイから山海経でしか採れない希少な植物である【萬年参】の密輸を依頼された。

萬年参は山海経でしか採れないため取引が非常に厳しく制限されていて、通常の手段では山海経の外に持ち出すことは不可能。

聞くところによると萬年参は確かに食材ではあるが、苦味が強すぎて食用には向かずにどちらかと言えば薬用として使われることが多いとのこと。

まぁ早い話がやべーブツと言うことである。

 

そこで梅花園の園児達を利用し、万が一密輸がバレても玄龍門と玄武商会の内輪揉めに持っていけるように玄武商会のダンボール箱を使って密輸を行おうとしたらしい。

クソが……邪悪すぎて反吐が出る。

何も知らない子ども達の善意を利用しようとしやがって……!

 

「し、知ってることはこれで全部だ……」

「そうか……ならもう行けよ。」

「わ、私を始末しないのか?」

「あ?お前をここで始末したところで何になるんだよ。そのロボットを連れてとっとと失せろ。」

 

俺様はブークリエの銃口を振り、女子生徒に退散するように促す。

 

「ただし……今度梅花園に手を出してみろ。今度は死ぬよりも恐ろしい目に合わせてやるからな!」

「ひ、ヒィッ!す、すいませんでしたー!」

 

俺様が銃口を向けて威嚇すると、女子生徒は転がっていたオートマタを脇に抱えると一目散に退散していった。

その背中を見送りながら、俺様は頭に手を当てる。

 

……どうする?敵は想像以上に強大だ。

誰かに助けを求めるか?

玄武商会に助けを求めることも考えたが、玄龍門がいる以上は彼女たちも派手に動くことは不可能だろう。

恐らく事情を話せば朱城会長や鹿山先輩は協力してくれるだろうが……

 

なら玄龍門に直談判でもしてみるか?

……いや、それこそ無しだな。俺様が敷地内に踏み込んだ瞬間に銃を突きつけてくるような連中だ。

そんな連中がこんな下手をすればこんな与太話とも捉えられかねない話を真剣に聞いてくれるとは思わない。

近衛先輩に……とも一瞬思ったけど、彼女に玄龍門を動かすだけの権限はないだろうからな。

 

ならゲヘナに帰って万魔殿や風紀委員会に……と思ったけど、ゲヘナ以外の自治区の問題にそんな大規模に干渉しようものなら大問題になりかねない。

ただでさえエデン条約の調印式も迫ってきているんだ。

この時期に他の学校と揉め事を起こすのは避けたい。

 

「クソ、八方塞がりか……?」

 

ともかく、今は情報が圧倒的に不足している。

誰かに助けを求めるにしろ、七囚人が絡んでいるのだからまずは説得できるだけの情報が必要だ。

……となると、今できるのはあそこへ行くことか。

 

錬丹術研究会。

今はネズミ耳の科学者、薬子サヤ先輩が会長を務めている山海経の薬関係を一手に引き受ける部活動だ。

聞き出した情報によると申谷カイは元々錬丹術研究会の会長を務めていたらしいからな。

もしかしたら、現会長の薬子先輩なら何か知ってるかもしれない。

こんな与太話を信じてくれるかは別だが、相談先としてはこれ以上ないくらい適任だろう。

話すだけならタダだ。事情を説明してみよう。

それに、この萬年参を申谷カイが何に使おうとしていたのかも気になるからな……

 

そうと決まれば善は急げだ。

俺様は万魔殿のジャケットのポケットからスマホを取り出すと、ココナ教官に電話をかける。

無機質な電子音がしばらく鳴り響いたあと、ココナ教官が電話に出る。

 

『もしもし?タツミさんですか?』

「おうココナ教官。頼まれた荷物は無事に送り届けたぞ。」

 

投げ捨てたダンボールをひょいっと拾い上げつつ、俺様はそう答える。

 

『ほんとですか?良かった……もう!子ども達がタツミさんにおつかいを取られたーって騒いで大変だったんですからね!?』

「悪い悪い。帰ったらみんなにプリン作ってやるから許してくれないか?」

『まったくもう……とにかく、依頼は終わったんですよね?これから園に戻って来るんですか?』

「……いや、そのことなんだがな。」

 

……ココナ教官達を巻き込むわけにはいかない。

俺様はスマホを耳から離すと息を吐き、再びスマホを耳元に近づける。

 

「ちょっと錬丹術研究会に用事があったことを思い出してな。園に戻るのはそれからでも大丈夫か?」

『え、サヤ姉さんのところにですか?……構いませんが、あまり遅くならないでくださいね?』

「ははは、分かってるよ。それじゃ、行ってくる。」

『はい!気をつけて行ってきてくださいね!』

「ありがとうココナ教官。じゃ、また後で。」

 

そう言うと、俺様はスマホの通話終了ボタンをタップする。

さてと……それじゃあ行くとするか。錬丹術研究会へ。

 

「七囚人……ねぇ……」

 

ったく、狐坂といい申谷と言い全くどいつもこいつも……

テロリストの思考ってのはつくづく理解不能だ。

 

……絶対に許さねぇぞ、申谷カイ。

ココナ教官や子ども達の善意に付け込んで、その手を汚させようとしたことを。

玄龍門と玄武商会を衝突させ、山海経に混乱をもたらそうとしたことを。

必ずお前を探し出して捕まえてやる。

そしてもう一度矯正局へ送り返して、お前がやった罪をその身を持って償わせてやるからな。

 

「覚悟しろよ……申谷カイッ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「萬年参の密輸がもう見つかってしまうとはね……ククッ、中々面白い事をしてくれるじゃないか。」

「でも残念なことに一歩遅かったね。他にも密輸ルートは確保している。そちらから手に入れた萬年参で新薬の実験は既に終えてあるからねぇ?」

「欲を言えばもう少し実験データが欲しかったところだけど……まぁ構わないさ。これもまた一興だ。」

「しかし……丹花タツミ、だったね?」

「キヴォトスでも類を見ない男子生徒にして、梅花園を利用した密輸に素早く気がつく洞察力……」

「ククッ、実に興味深いね?」

「あの子たちの顔を見に行くついでに、彼にはお礼参りも兼ねて【挨拶】しなければいけないなぁ?」

「それに……彼はキヴォトスでは貴重な男子生徒。そろそろ女子生徒ばかりの薬の実験もマンネリ化していたところだ。男である彼に薬を投与したら……一体どうなってしまうんだろうね?」

「あぁ、いつ以来だろうか……こんなにも心が躍るのは!きっと素晴らしい反応が見れるに違いない!」

「喜ぶといい。キミはこの私の新たな実験のサンプルにふさわしいと判断されたんだよ?」

「それと……私の計画の邪魔をした報い、その身を持って受けてもらおうじゃないか。」

「ククッ……絶対に逃さないからね?丹花タツミ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まったく、とんだ因縁もあったものですね。」

「五塵の獼猴、申谷カイ……私と同じ、七囚人の一人。」

「矯正局で彼女と顔を合わせたことはありますが、その時はまるで生気のない目をしていたのですがね……」

「……そして、また彼は必要のない面倒事に首を突っ込むつもりのようですね?」

「申谷カイなどに彼を壊されてはたまりません。もう少し彼を尾行して様子を見るとしましょう。」

「安心してください、貴方を壊すのはこの私……邪魔者は全てこのワカモが消して差し上げますわ♡」

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