転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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ヤベー奴に絡まれることに定評のあるタツミ


七囚人と丹花タツミ

災厄の狐、狐坂ワカモ。

目の前で狐坂を睨みつけている申谷カイと同じ、矯正局から脱獄を果たした通称七囚人の1人だ。

 

「ウフフ……矯正局以来ですわね、五塵の獼猴。」

「……何故君がここにいるんだい?災厄の狐。」

「あら……決まっておりますわ。」

 

そう言うと、狐坂は手にした銃を申谷へ向ける。

 

「タツミさんを壊すのはこの私です。貴方のような薄汚いメス猫にその役目は渡せませんので。」

「……ほう。丹花タツミ、君は随分と面倒な女に好かれたものだねぇ?」

 

心底面倒そうな表情を浮かべ、申谷はかぶりを振る。

そうこうしているうちに狐坂は俺様と申谷の間に割って入ってくると、俺様を守るように立ち塞がった。

 

「……すまん狐坂。助かった。」

「ウフフ♡タツミさんが私に素直にお礼を言うとは、明日は槍でも降るのでしょうかね?♡」

「おま……!感謝くらい素直に受け取れよ!」

 

やっぱりこいつと一緒に居ると調子が狂う……!

……とは言え、助かったのは事実だ。

俺様はあのままだと申谷に得体のしれない薬を飲まされ命を落としていたかもしれないんだから。

 

「ククッ……随分と仲がいいみたいだねぇ?」

「ええそれはもちろん……私とタツミさんはあんな事やこんな事をした仲ですので♡」

「いやお前とは普通に戦っただけだからな!?」

 

くねくねと体を動かしつつ、狐面の頬の部分に当ててそう言う狐坂。

相変わらずの態度にため息が出てそうになるが、今はその飄々とした雰囲気が頼もしかった。

 

「ククッ、災厄の狐ともあろうものが1人の男にお熱になるとは……いやはや、分からないものだね?」

「あら……私にタツミさんを取られて嫉妬しているのですか?フフ……負け惜しみは見苦しいですわよ?」

 

狐坂と申谷はお互いに軽蔑するような口調で言い合う。

申谷はもう一つ胸元から薬を取り出すと、それを持ちながら狐坂へ一歩近づく。

 

「そこをどきたまえ、災厄の狐。彼は私のことを散々侮辱してくれたんだ。報いは受けてもらわないとなぁ?」

 

そう言って申谷は狐坂に対して鋭い視線を送る。

が、狐坂はそんな視線はどこ吹く風と言わんばかりに更にもう一歩申谷に対して近寄る。

 

「あら、その様な破廉恥な格好をされているのですよ?侮辱されて然るべきではありませんか?」

「……君が言えた義理かい?災厄の狐。なんだいそのスカートは。動いたら見えてしまいそうじゃないか。」

「あなたこそ何ですか?そのざっくりと開いた胸元は。少しでもずれたら中身が見えるのでは無くて?」

「ククッ……この服装が理解できないとは……これだから凡夫は困るんだ。」

「そのような駄肉を見せつけてタツミさんを誘惑するのはやめてくださいますか?薄汚いメス猫。」

「君こそ彼と話す時の媚びた猫なで声をやめたらどうなんだい災厄の狐。実に耳障りだ。」

 

……さっきからなんの話をしてんだ?こいつらは。

 

「そもそも丹花タツミは私の実験サンプルにふさわしい男なのだよ?何せキヴォトスで彼以外の男など見たことがないのだからね。ククッ。」

「彼は私の壊すべき相手です。ウフフ、タツミさんを壊すのは私の役目ですから。決して貴方のようなメス猫の実験サンプルなどではありませんわ。」

「いや、俺様としては壊されたくもないし実験サンプルになるつもりもねぇよ!?」

 

何を本人の前で物騒な話してんだこいつら!?

と言うか一瞬でも狐坂を味方だと思った俺様がバカだったよ!こいつやっぱ俺様の命狙ってるじゃねぇか!

 

「それに彼は仙丹のことをゴミとまで言い、私のことを凡夫だと言い切ったんだ。到底許されるものではない。報いは受けてもらわないと、そうだろう?」

「うるせぇよ。何度でも言ってやるがお前は凡夫だし仙丹はゴミだ。人の尊厳を奪ってまで作ったものが良い物であってたまるかよ……!」

 

俺様は申谷を睨みつけ、絞り出すような声でそう言う。

狐坂はそんな俺様に視線をよこすと、何かにハッとしたように近寄ってくると俺様の首に手を当てた。

俺様はぎょっとすると、慌てて後ろに飛び退く。

 

「狐坂!?お前もかよ!?」

「違いますタツミさん!タツミさんのそこ、首の部分に赤い手形が……」

「手形?あぁ、首を絞められていたからじゃねぇの?」

 

俺様は首筋を撫でながらそういった。

さっきまで窒息しない程度くらいの強さで申谷に首を掴まれていたからな。

まぁ、このくらいならほっとけばそのうち消えるだろ。

 

「……許せません。」

 

俺様がそう思っていると、狐坂がわなわなと震えだす。

仮面の下から冷え切った声でそう言うと、有無を言わさず手にした銃を申谷へ突きつけた。

 

「狐坂……?」

「よくも私のタツミさんを傷物にしてくださいましたね?覚悟はよろしくて?申谷カイ。」

「おやおや、少し私のものだとマーキングをしただけだろう?嫉妬深い女は嫌われるよ?災厄の狐。」

「落ち着け狐坂。このくらい時間が経てば消える。」

「そういう問題ではありません、タツミさん。」

 

俺様は思わず狐坂の肩を掴むが、その上に手のひらを重ねられる。

 

「この女はタツミさんを傷つけました、それが私は許せないのです。」

「いや、傷ならお前にもつけられてるんだが……?」

「あら、貴方を壊すのは私なのですから私から付けた傷は別に構わないでしょう?」

「いやどんな理論だよ!?良くないだろ!?」

 

飄々とそう言う狐坂。

……やっぱ、こいつもなんだかんだでヤバい奴なんだと再認識させられるな。

 

「ククッ……お熱いことで。だが災厄の狐。実は私も彼からは傷をつけられていてねぇ。」

「……は?」

 

狐坂の冷え切った声がその場に響く。

……ちょっと待て。申谷にそんな事をした覚えはないぞ?

俺様が首を傾げていると、申谷は愉快そうに左手にはめていた黒い手袋を脱ぎ去ってその手を俺様と狐坂に見せつけてくる。

差し出された奴の真っ白な手の平と薬指の付け根には、先ほど俺様が噛み付いて抵抗した時に出来たであろう歯型がしっかりと残っていたのだ。

 

「ククッ……随分と派手にやってくれたね?こんなにもしっかりとマーキングされてしまうと流石の私でも少し照れてしまうよ……」

「……タツミさん?」

「おいふざけんな申谷!それはお前が俺様の口に薬を無理やりねじ込もうとしようとしたからだろうが!」

「だが、結果として君が私に歯形をつけたのは事実だろう?しかも左手の薬指とは……ククッ、中々情熱的だね?丹花タツミくん?」

「…………タツミさん?」

「違う誤解!誤解だ狐坂!これは不可抗力で……!」

 

わざとらしく左の薬指を手でさすりつつ、こちらを見ながら心底愉快そうに笑う申谷。

と言うか何で俺様が狐坂に弁明しなきゃいけねぇんだ!

お前は俺様の彼女でも何でもねぇだろうが!

クソ!申谷の奴ふざけやがって……!

 

「で、この責任は取ってくれるんだろうね?」

「誰が取るかアホ!」

「おやおや、それは何とも不誠実ではないかい?女を傷物にした上で捨てるとは……なんて薄情なんだ君は。」

「もう黙れ!その口を閉じろ申谷カイ!」

 

俺様は肩にかけたブークリエを構えると、狐坂の横に並んで申谷にその銃口を突きつける。

 

「……タツミさん、後で私にも噛み跡を付けてくださいね?」

「いやなんでだよ!?普通に断るが!?」

 

突然俺様の横の狐坂から放たれた爆弾発言に、俺様は思わず狐坂を見ながらそう叫ぶ。

 

「あの女と違って左手の薬指と言わず、よく見える首元などにお願い致します♡」

「話聞けよ仮面女!と言うか今回助けてもらった事は感謝してるが、そもそも俺様とお前は敵同士だぞ!?」

 

そう。今回は助けてもらってるしこんなやり取りをしているから味方だと勘違いしそうだが、狐坂は元々俺様の命を狙う敵なんだ。

そもそも、こいつだって申谷と同じ七囚人の1人だ。

やってる事は申谷カイと大して変わらない、キヴォトス史上最悪のテロリストの1人なんだぞ。

そんな奴と馴れ合いなんてまっぴらごめんだ。

 

「それに俺様がお前に感謝してやることなんて今回だけだからな!いいな狐坂!?」

「相変わらず素直じゃないんですから……まぁ、その方がタツミさんらしいですけどね?♡」

 

俺様と狐坂は顔を見合わせてそう言うと、お互いに持っている銃口を申谷へ突きつける。

それを見た申谷は足に装着したホルスターに手を伸ばすと、そこからハンドガンを取り出して狐坂へと向けた。

 

「彼は渡しませんよ、申谷カイ。」

「ククッ……奇遇だねぇ。私も彼を渡すつもりはないよ、狐坂ワカモ。」

「お前らは俺様を景品か何かかと思ってんのかよ……!」

 

と言うかなんで七囚人なんてやべーやつらから取り合われてんだよ俺様は!特になんもしてねぇだろうが!

クソ!めっちゃヴァルキューレ呼びたい!呼びたいけどここ山海経なんだよなぁ!?

 

「彼は私が壊すと決めておりますので。」

「彼は私の計画の邪魔をしたあげく、仙丹をゴミと言った。その報いは私の手で必ず受けてもらう。」

「あらあら……聞き分けのないメス猫ですわね?」

「その不愉快な口を閉じたらどうだい?卑しい女狐。」

 

絶対零度の空気が流れる中、睨み合う狐坂と申谷。

 

「おい、申谷カイ。」

「おや?ククッ、私を選んでくれる気になったかい?」

「なわけねぇだろバカ。」

 

俺様は銃口を申谷に向けたまま、奴と目を合わせる。

 

「いいか、お前は自分の責任から逃げてるだけのクソ野郎だ。だからここで捕まえて、罪を償ってもらう。」

「やれやれ……君も懲りないねぇ?そもそも仮に私が君に捕まったところで、反省はしないと思うがねぇ?」

「そうか、なら反省するまで何回でもお前をぶちのめすだけだ。」

 

奴の濁った瞳から目をそらさず、俺様はそう言い切る。

 

「申谷、お前のやったことは許される事じゃない。矯正局を脱獄している暇があるなら、さっさととんぼ返りしてその中でお前自身の罪と向き合って来い。」

「嫌だと言ったら?」

「お前が反省するまで何度でもぶちのめして、その度に反省しろって言ってやるよ。」

「……ククッ、面白い事を言うね?」

 

ニヤリと笑みを浮かべながらそう言う申谷。

狐坂は静かに銃を構え、俺様たちの会話を聞いている。

 

「……こんな救いようのない女にそこまで必死になるなんて、ますます君に興味が湧いてきたよ。丹花タツミ。」

「勘違いするな。お前自身に興味なんてこれっぽっちもない。俺様はお前が人に責任転嫁して、人を人とも思わないその思考が気に食わないだけだ。」

「ククッ……まぁ、そういうことにしておこうか?」

「だからよ……申谷カイ。」

 

俺様は続ける。

 

「俺様は必ずお前を捕まえてやる!例えお前が地の果てまで逃げようとしても、どこまでも追いかけてやる!そして、必ずお前を罪と向き合わせる!必ずお前を反省させた上で、梅花園の子ども達やお前の被害者全員に謝らせてやる!」

「……」

「確か……絶対逃さない、とか言ってたな?」

「ククッ……あぁ、言ったねぇ?君には私を侮辱したことの報いを受けてもらわないといけないから。」

「ハッ、上等だ。」

 

俺様はダン!と地面に足を叩きつけると、申谷を睨みつけながら声を挙げる。

 

「お前こそ俺様から逃げられると思うなよ!申谷カイッ!!!」

 

大声を出しすぎたせいで、俺様の耳にビリビリとした感覚が走る。

俺様のその言葉を聞いた申谷はしばしぽかんとした表情で固まっていたが……

 

「ククッ……クククッ……ハーハッハッハッハ!!!」

 

やがて、愉快そうに大声で笑い始めた。

 

「な、何がおかしい!」

「ハハハ!いやはや、これは不意を突かれた!まさかそこでそう出てくるとはなぁ!」

「なんだと……!?」

「ははっ!いいだろう!私を捕まえてみるといい!最も、君にそれが出来るのなら……の話だがね?」

「上等だ!やってやるよッ!」

「あぁ、いつ以来だろうね?こんなにも心が躍るのは!この気持ちはなんだろう。愛?憎悪?それとも……」

「さっきから何をぶつぶつと……!」

「まぁ……なんだっていいか。」

 

そう言うと、申谷は自分の左手の薬指。

つまり俺様の歯型の付いた部分を口元へ持っていくと……

 

「ククッ……この私を怒らせたり、楽しませたり……君と居ると退屈しないなぁ?丹花タツミくん?」

 

そのまま、そこにキスをした。

 

「……っ!!!」

 

その瞬間、狐坂から殺気が放たれる。

 

「逃さない……絶対逃さないよ、丹花タツミくん?」

「この……薄汚いメス猫ッ!」

 

歩兵銃を構えたまま申谷へ詰め寄っていく狐坂。

申谷も負けじと狐坂に近寄っていくと、2人はそのままほぼ密着するくらいの距離まで接近する。

 

「お、おい狐坂……!」

「止めないで下さいタツミさん。この女は……この女だけは許せません!」

 

狐坂は一瞬だけこちらを向いてそう言うと、申谷を狐面の下から睨みつける。

 

「申谷カイ!彼にふさわしいのはこの私です!」

「いいや、私だね。狐坂ワカモ。」

 

そして2人はそのまま衝突し、体をぶつけ合った。

……いや、何やってんだこいつら!?

 

「お、おい!何してんだよお前ら!?」

「ん?見て分からないのかい?君の取り合いだが?」

「はぁぁぁ!?なんでそんな事してんだ!?」

「何故と言われても……ねぇ?」

「貴方みたいな薄汚い女が彼に触れないで下さい!彼が汚れてしまいますわ!」

「ククッ……メスの狐が発情しているようだねぇ?」

 

ダメだ、理解が追いつかない。

なんで狐坂ワカモと申谷カイが俺様の取り合いをする?

そもそもこいつらは七囚人だぞ!?

キヴォトス史上最悪のテロリストどもなんだぞ!?

何故そんな奴らが俺様に執着する!?

 

「貴方はタツミさんに傷の手当てをして頂いたことはありますか?ないでしょうね!?」

「ククッ……彼は私を捕まえると執着心を見せているんだよ。災厄の狐、君じゃない。この私に。」

「あら、それを言うのであれば私はタツミさんとの戦闘中に抱きかかえて頂いたこともありますよ?」

「ちょ、何いってんだお前ェ!?」

 

確かに戦闘中に狐坂がビルから落下しそうになって、思わず抱き抱えて助けたことはあるが……!

ってか何やってんだ俺様!狐坂はテロリストだぞ!?

助ける義理なんてねぇだろうが!?

 

「ほう……なるほど?君も罪な男だねぇタツミ。」

「何がだよ……!」

「こんな美女2人を侍らせるなんて、世の男が君を見たらどう思うんだろうね?」

「美女?ハッ、よく言うぜテロリストがよ!」

 

確かに申谷は美女だし、狐坂も仮面を取れば美人だとは思うがこいつらはあくまでテロリストだ。

真っ当な評価が欲しいなら、きちんと今までの行いを反省してくるんだな……!

 

……と言うか、さっきから変な空気に当てられてるけど申谷は何の罪もない生徒を薬品漬けにして、梅花園の園児たちに犯罪の片棒を担がせようとした凶悪犯だぞ!

この空気のまま対峙していい相手じゃない……!

そんな事を思っていると、申谷の濁った黒い瞳と目が合った。

申谷はニヤッと笑うと、狐坂を手で押しのけて俺様までツカツカと歩み寄ってくる。

 

「……っ、動くな申谷!」

 

あまりにも唐突な行動にハッとするが、俺様はすぐにブークリエを構えると申谷へ銃口を向ける。

狐坂も申谷の後ろにポジションを取り、俺様と挟み撃ちにするような形で銃を構えた。

 

「……頼む狐坂、今は力を貸してくれ。」

「いいでしょう。この卑しいメス猫にタツミさんを良いようにされるわけにはいきませんので。」

 

狐坂は申谷の背中に銃を突きつけつつそう言った。

 

「ただし、1つ貸しですわよタツミさん?」

「……すまん、恩に着る。」

「ウフフ……♡何をしてもらおうか考えておきますわ♡」

 

そう言って狐面の下で熱を帯びた声を出す狐坂。

……協力を頼む相手を間違えたかもしれないなこれ?

今は申谷を捕まえることが最優先だが、狐坂も狐坂で大概ヤベー奴だし何より俺様の命を狙ってるからな。

そんな奴と協力するなんて普通なら正気の沙汰ではないが……今は事情が事情なので仕方ない。

狐坂も申谷のことは何故か気に入らないようだし、敵の敵は味方という言葉もあるからな。

俺様も狐坂も申谷に対して敵対心を抱いているって部分は共通している。今だけは協力してもらおう。

 

「良いのかいタツミ、こんな発情した女狐に貸しを作ってしまって。後でどんな命令をされるか分かったものじゃないと思うがねぇ?」

「誰のせいだと思ってんだてめぇ……!」

「あら、タツミさんが私を選んだことに対する負け惜しみですか?メス猫の嫉妬は見苦しいですわよ?」

「いや別にお前を選んだわけじゃないないからな!?この場では利害が一致してるから協力するだけだ!」

「ククッ……だ、そうだよ?災厄の狐。」

「ウフフ……タツミさんは照れ屋なところがあるので中々素直になってくれないのです、そういうところも彼のいいところなのですけどね♡」

「だめだこいつ話が通用しねぇ!」

 

やっぱこいつと協力すべきじゃなかったかもしれない。

お前らまとめて矯正局に送り返してやってもいいんだぞ……!

 

「ククッ……とは言え、この状況は少しマズいね。いくら身体強化薬を飲んでいるとは言え、災厄の狐と君を相手にするとなると骨が折れそうだ。」

「ハッ、ならここで捕まってもらおうか?」

「君に捕まえられる……か。ククッ……それも悪くないかもしれないねぇ?」

 

申谷は俺様が向けている銃口などおかまいなしに俺様に一歩づつ近寄ってきた。

狐坂はそんな申谷の後ろをピッタリと張り付き、いつでも引き金を引ける状態をキープする。

 

「だが、私はまだ仙丹を完成させていない。そのために錬丹術研究会へ戻る必要がある。君に捕まるのも魅力的だが、流石にそれには及ばないからね。」

 

そして俺様の眼の前までやって来ると、口元に手を当てて笑いつつ申谷はそう言った。

何度目か分からないが、奴の濁った目と目が合う。

その瞳はドロドロとしており、得体のしれない不気味さを感じさせるものだった。

 

「私を逃さないのだろう?丹花タツミ。」

「当たり前だ。お前が何処へ逃げようが、地の果てまで追いかけてやるからな。」

「ククッ……なら、私も君を逃すつもりはないとだけ言っておこうか。」

 

喉を鳴らして笑いつつ、そう言う申谷。

 

「上等だ、出来るもんならやってみろよ!」

 

俺様は歯をむき出しにし、威嚇しながらそう叫んだ。

それを見た申谷は満足そうに笑う。

そして、胸元から小瓶を1つ取り出すと口を開き……

 

「ではまた会おう、【私の】丹花タツミくん?」

 

そう言うと、手にしていた小瓶を地面に叩きつけた。

その瞬間、瓶の中からものすごい勢い飛び出した激しい灰色の煙が辺り一面を包み込む。

 

「なっ……煙幕だと!?」

 

たちまち煙が周辺一帯を支配し、俺様の視界は一寸先すら灰色の煙しか見えない状態にされる。

 

「クソッ!狐坂!」

「えぇ、分かっていますわ!」

 

俺様は煙を吸い込んで目に涙を溜めつつも、申谷の後ろにポジションを取っていた狐坂に呼びかける。

 

「ここまで来て逃がしてたまるかよ……!」

 

そう、ここで申谷を逃がすわけにはいかない。

奴はヤバい薬を簡単に作れるの技術力を持っている。

そんなやつを野放しにしていいわけがない。

これ以上奴の被害者を増やすわけにはいかないんだ……!

幸いここは一本道の路地裏だ。狐坂と協力して進路をふさいでおけば煙に紛れて逃げることはできないはずだ。

そう思った俺様は煙を吸い込んで激しく咽つつも、両手を広げて申谷の進路を防ぐ。

 

「ゲホゲホッ!こ、ここは通さないぞ申谷ッ……!」

「くっ……小癪なメス猫ですね!」

 

舌打ちをしつつそういう狐坂。

……今回ばかりはその意見に同意するしかねぇな。

そうこうしているうちに、灰色の煙が離散していく。

 

「……っ!」

 

……が、煙が晴れた時にそこに申谷の姿は無かった。

クソ!逃げられたか……!

 

「チクショウ!」

 

俺様は壁を殴りつける。

 

「……やられましたわね。」

「あぁ、もう少し奴の言動に目を配るべきだった……!」

 

仮面の下の表情までは分からないが、恐らく苦しげな表情をしているであろう狐坂の発言に俺様も同意する。

クソ、こんなことなら問答無用で発砲するんだった……!

 

「……申し訳ありませんわ、タツミさん。」

「いや……お前が謝ることじゃねぇよ、狐坂。」

 

頭を下げてくる狐坂に対して、俺様はそう言うと頭を上げてくれとのジェスチャーを送る。

 

「クソッ!奴は罪もない生徒を薬漬けにした挙げ句奴隷にしたり、梅花園の子どもにまで手を出そうとするような外道なんだぞ!ここまで来て取り逃がすなんて……!」

「……子どもにまで、ですか?」

 

俺様がそう言って膝を殴りつけると、狐坂が怪訝な声色でそう尋ねてくる。

 

「あぁ……奴は山海経の門外不出なブツの密輸を梅花園の園児に手伝わせようとしたんだ。絶対に許しちゃおけねぇよ……!」

「……なんて悪趣味な。」

 

狐坂は不快感を隠そうともしない声でそう言った。

……どうやら、こいつは申谷のような外道にまでは堕ちていないようだな。そのあたりの感性はまともらしい。

 

考えてみれば、狐坂のやっていることは破壊活動のみ。

その規模はシャレにはならないが、別に破壊活動なら温泉開発部や美食研究会も同じようなことをやっているし何よりもこいつのやり方はとにかく実力行使だ。

申谷のように児童の善意を利用することもなければ、薬を使って被害者を操ろうともしない。

俺様にだって不意打ちこそするものの正々堂々とした戦いを毎回望んでいるし、搦め手を使うことはほぼ無い。

……そう考えると、申谷よりはマシなのかもしれない。

 

「……ちょっとだけお前を見直したよ、狐坂。」

「まぁ……!ウフフ♡タツミさんが素直に私を褒めるなんて……今日は御赤飯にしないといけませんね♡」

「いや、別に褒めてないんだが……?」

「ウフフ♡照れ隠ししなくても良いのですよ?♡」

 

そう言って、くねくねと体を動かす狐坂。

いつも思うが、その動きはなんとかならねぇのか……?

……って、今はそんな事どうでもいい!

申谷を追わないと!

 

「狐坂、無駄話は後だ。とにかく奴を追わないとならねぇ。まだそう遠くへは逃げてないはずだ……!」

「……しかし、山海経は申谷カイの庭なのでしょう?現に私たちも進路を塞いだのに逃がしてしまいました。闇雲に追っても尻尾をつかめないのではありませんか?」

「それは……!そうだが……」

 

冷静な意見を述べる狐坂に対し、俺様は返答に詰まる。

確かにそれはその通りではある。

現に申谷は玄龍門の目が光っているはずの山海経に誰にも気づかれずに潜入し、俺様へ接触してきた。

奴だけが知っている秘密の抜け道でも使われようものなら追いつきようが無いと言うのは事実だ。

 

「まずは冷静になりましょう、タツミさん。」

「……そうだな。」

 

悔しいが、狐坂の言う通りかもしれない。

闇雲に追っても奴にたどり着けないのは恐らく正しいだりうからな。

ここはすぐにでも走り出したい気持ちを抑え、一旦落ち着くべきだろう。

 

「それにしても……助けてもらっといてなんだが、何でお前が山海経に居るんだよ狐坂?」

 

俺様は首を傾げると、狐坂そう疑問を投げかける。

そう、あまりにも自然に助けられたもんだから今の今まで頭から抜けていたのだが何故狐坂の奴は山海経にいるんだ?

空崎委員長の話によると最近は主にゲヘナで破壊活動を行っているようで、空崎委員長がシナシナになっていたのを覚えているのだが……

 

「ウフフ、最近タツミさんがよく山海経へ行かれているという話を小耳に挟みまして。山海経で破壊活動を行えばタツミさんが飛んできてくれると思いこのワカモ、山海経まで飛んで来きてしまいましたわ♡」

 

……前言撤回。

やっぱこいつも申谷と同じ、キヴォトス史上最悪のテロリストの1人だわ。伊達に七囚人などと呼ばれてない。

と言うか、山海経は玄龍門の目が光ってるんだぞ?

元山海経の生徒だった申谷はともかく、百鬼夜行出身のお前はどうやって山海経にバレずに侵入したんだ……?

……まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

「狐坂……もし梅花園に手を出してみろ。」

 

俺様はブークリエを構えると、銃口を狐坂へ向ける。

そして、出来るだけ声にドスを効かせて口を開いた。

 

「俺様はお前を絶対に許さねぇぞ……!」

「ご安心くださいタツミさん。私は梅花園に手を出すつもりはありませんわ。私とて子どもに手をかけるほど堕ちてはいないつもりですので。」

 

狐坂は俺様が向けた銃口を物ともせず一歩俺様に近づくと、いつになく真剣な声色でそう言った。

 

「……そうか。悪い。」

「ウフフ、その代わり他のところでは思う暴れさせていただくかもしれませんけど……ね?」

「……ハッ、上等だ。そしたら俺様がすっ飛んでいってお前をボコボコにしてやるから覚悟しとけよ、狐坂!」

「ウフフ♡それでこそタツミさん、ですわね♡」

 

俺様は歯を見せ好戦的な笑みを浮かべてそう言う。

狐坂もそれに対して、愉快そうな声で応えた。

 

「それにしても、あのメス猫は厄介ですわね……」

「まったくだ。早急に手を打つ必要があるだろうな……」

 

ともかく、梅花園に帰る手筈だったが予定を変更して一旦錬丹術研究会へとんぼ返りし薬子先輩に申谷カイと接触したことを伝えたほうが良いだろう。

薬子先輩は玄龍門の門主、竜華先輩のところへ赴いているはずだがもう結構時間は経ってるしな。

そろそろ錬丹術研究会へ帰ってきてもおかしくない頃合いではある。

少なくとも申谷の捜索班を作ってもらったり、山海経の警備の強化はした方がいいだろうからな。

申谷が山海経へ侵入したという事はいつでも事を起こせるぞ、と言う脅しにもなっているはずだ。

早急に手を打ったほうがいいのは間違いないだろう。

 

……梅花園に戻るって言ってからかなり時間を食っているから、帰ったらまたシュン教官やココナ教官からお説教を食らっちまいそうだがな。

あの2人、怒るとマジで怖えんだよなぁ……

 

「では早速ですがタツミさん……先程の貸しを今ここで返して頂きたいのですが……」

「え?」

 

俺様がボンヤリとそう考えている時だった。

狐坂は突然そんな事を言い出すと、俺様へ向けてゆっくりと歩兵銃の銃口を向けてくる。

 

「はぁ!?ちょ、ちょっと待てェ!」

 

俺様はそれを見て慌てて折り畳みシールドを展開すると、体を覆い隠すように構えた。

 

「お、おい何のつもりだ狐坂!」

「ウフフ♡ですので、先程の借りをここで返していただこうかと思いまして。私と今から一戦交えると言う形で……ね?♡」

「はぁ!?いや、そもそも申谷を取り逃がしてんだから借りもクソもねぇだろうが!?」

「あら、私をあのメス猫の捕獲に付き合わせたのですから成功の有無は関係ないのではありませんか?」

「そ、それはそうかもしれんが……!」

 

歩兵銃を構えつつ、ジリジリと近寄ってくる狐坂。

チクショウ!結局こうなるのかよ!

やっぱりこいつに協力なんて頼むんじゃなかった……!

 

「さぁタツミさん……戦りあいましょう?♡」

「くっ……!」

 

チィ……!クソ!もうこうなったらヤケクソだオラァ!

その借り、ここで綺麗さっぱり無くしてやるよ狐坂ッ!

 

「さぁ行きますわよ!タツミさん!」

「ハッ、上等だ!かかってこいよ狐坂ァッ!!!」

 

俺様と狐坂はお互いにそう叫ぶと、引き金を引いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ククッ……まさか災厄の狐が邪魔してくるとは想定外だったが、彼女には感謝すべきかもねぇ。」

「あのままこの薬を彼に飲ませていたら彼が死んでいただろうから、そうなったら何と勿体ない事をしたんだと流石の私でも嘆いていたところだよ。」

「あぁ、久々に楽しかったよ。矯正局へ入るまでキサキ以外に私に楯突いてくる者は居なかったのに、彼は私のことを真正面から否定してみせた。」

「しかも自分から逃げられると思うな……なんて情熱的なアプローチまでされたしねぇ?」

「とは言え、彼は仙丹の事をゴミ扱いした上で私のことを凡夫などと呼んだんだ。ククッ……それを許すつもりは毛頭ないよ?彼にはぜひ苦しんでもらわないと。」

「今から彼をどうしようか楽しみだ。完全に洗脳する薬で私に服従を誓わせるのも悪くないが、あえて精神のみ残しておくのもまた一興。」

「それとも梅花園の園児でも人質に取ってみるかな?彼の反応が楽しみだ……ククッ。」

「それにしても災厄の狐……あの発情し切った目を彼に向けていたのはいささか不愉快だねぇ。彼は私のものなんだ、発情した狐などには絶対渡さないよ?」

「おっと、こうしてはいられない。早く彼を私の手に堕とすための薬の調合に取り掛からなくては……」

「彼に計画を邪魔されたから今すぐにとは行かなくなったが、月影祭の辺りには問題なく計画を実行出来るだろう。それまでは機が熟すのを待つとしようかね。」

「ククッ……また会える日を楽しみにしてるよ。【私の】タツミ?」

 

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「ウフフ……また邪魔が入ってしまいましたか。」

「路地裏とは言え流石に街中であれだけ長時間銃声を鳴らしたら気付かれてしまいますわよね……あの制服は確か……玄武商会のものだったでしょうか?」

「しかし、タツミさんの後を着けていて正解でしたわね。少し目を離しているとタツミさんがあの忌々しい発情したメス猫の手に堕ちていたでしょうから。」

「あのような卑しく発情した薄汚い女の手にタツミさんを渡すわけにはいきません。」

「とは言え、あの女のドロドロとした愛憎の混じった目……危険ですわね。またタツミさんを狙って近寄ってくる可能性は高いでしょう。」

「私の方でも申谷カイの行方を探ってみても良いかもしれませんね……あの女は放っておくと面倒ですわ。」

「全く……無自覚なんでしょうが、絶対に逃さないなんて言ったら女は勘違いしてしまいますよタツミさん?」

「まぁそれが彼の魅力でもあるのですが……ウフフ♡」

「安心してくださいねタツミさん。貴方を壊すのは私なのですから、障害となる物はこのワカモが全て排除して差し上げますわ♡」




恐らくあと1話でオリジナルストーリーは終わります
その後はエデン条約編に突入予定です
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