転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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深夜にトリニティに行くことになったタツミの運命は…


美食研究会と丹花タツミ

「クソ!絶対許さねぇからな美食研究会のアホ共が!」

 

運転しているスクーターのハンドルを強く握り込みながら、俺様は腹の底からそう絶叫を挙げる。

 

愛清先輩が美食研究会に攫われた。

それだけならいつもの光景なのだが……いや、いつもの光景として片付けてはいけないんだけどそれは今は置いておくとしてだな。

 

とにかく牛牧から愛清先輩が攫われたという話を聞いた俺様は急ピッチで注文の入っていた弁当を仕上げると配達を牛牧に任せ、そのまま万魔殿にとんぼ返りして俺様用に用意されているいつものスクーターに飛び乗った。

そして出来る限りのスピードを出しつつ、俺様は今スクーターをぶっ飛ばしてトリニティへと続く公道を疾走していた。

 

クソ!エデン条約で両校がピリピリしているこの時期に面倒なことをしてくれやがって……!

いくらゲヘナはおろかキヴォトス中で指名手配されているテロリスト集団とは言え、所属がゲヘナである以上はトリニティで問題を起こされると困るんだよ……!

もしトリニティで民間人に被害なんて出してみろ。

最悪、風紀委員会の責任をトリニティ側から追及されかねないぞ!

 

「バカ共が……絶対ボコボコにしてシメてやる!」

 

牛牧の話によると、美食研究会の狙いはトリニティの水族館に展示されているらしいゴールドマグロなる魚介類だそうだ。

どうせ美食研究会のバカ共のことだ、希少な食材なんだから水槽に展示するよりも味わってみたいとか言うろくでもない理由なんだろうが……

というか、水族館なんて観光施設でテロを起こそうとすんじゃねぇよバカ共!

もれなく民間人が大量に居るであろう施設じゃねぇか!

 

牛牧によると、愛清先輩が攫われたのは今からおよそ1時間前とのことだ。

美食研究会のバカ共は腕だけは無駄にいいので、それだけあれば恐らく水族館なんて警備のゆるそうな施設から目的のものを強奪するのは容易いだろう。

つまり、少なくとも水族館は爆破されていてもおかしくはないし何なら向こうの治安維持部隊である正義実現委員会との戦闘になっててもおかしくはないわけで。

その過程でもし民間人や建物などに被害が出ていると思うと……頭の中に謝罪の二文字が浮かんで胃が痛くなる。

 

「クッ……胃が……!」

 

キリキリとした痛みが胃に走るが、それをごまかすように俺様はスクーターのエンジンをふかす。

クソ、こんなことならスクーターじゃなくてちゃんとした二輪バイクを買っておくんだった……!

 

『間もなくトリニティ自治区です。』

 

そんな事を思っていると、スクーターのハンドルに取り付けたナビ代わりのスマホから電子音声が鳴り響く。

どうやら、間もなくトリニティの自治区へと到着するとのことだった。

一応エデン条約前で両校がピリピリしているこの時期に万魔殿である俺様がトリニティの自治区に向かうのだから、スクーターを運転しながらトリニティのティーパーティーに連絡を試みたのだが……

 

『あはっ!ゲヘナの汚らわしい角つきと話すことなんて何もないじゃんね☆』

 

と言う、電話口の女性の一声とともに通話が切られてしまった。いくらなんでもあんまりである。

こっちはアンタの所で暴れてるウチのテロリストの対処へ向かってんだぞ……!

いくらゲヘナとトリニティが犬猿の仲だとは言え、話くらいは聞いてくれても良いんじゃねえのか……!?

 

「クソ、羽川先輩も電話に出てくれねぇし……!」

 

それからティーパーティーに電話を拒否されてしまった俺様は、正義実現委員会の副委員会である羽川ハスミ先輩にコンタクトを取るために何度も連絡をしているのだが取り込み中なのか一向に電話がつながらない。

今の時刻は深夜なので、もしかしたらもう寮に帰って寝てるのかもしれねぇけどよ……!

 

とは言え、流石にこのまま美食研究会を好き放題暴れさせると言うわけには行かねぇ。

連絡がつかなければトリニティ自治区へ何の連絡もなしに突入することにはなるが、かと言って何もしないのはそれはそれで責任問題を追及されなかねないからな。

動いても詰められるし、動かなくても詰められる。

ならまだ動いて事態をなんとかしようとしたって姿勢を見せるほうがマシだろう。

 

それに、こちらはぶつ切りされたと言えど一応ティーパーティーには連絡を入れてあるし正義実現委員会の幹部である羽川先輩にも連絡を試みている。

あとで仮にトリニティ側から責任問題を追及されたとして、この2つを盾にすれば言い訳は聞くだろう。

まぁ……俺様の胃は犠牲になるだろうがな!

 

「クソ、トリニティの連中との舌戦は勘弁だぞ……!」

 

トリニティの連中、とにかく陰湿なんだよなぁ……

なんと言うか、人の心をえぐったりするようなことをネチネチとひたすら言い続けてくるんだよなあいつら。

別に俺様はトリニティに対して敵対心とかは特にないんだけど、そういう所だけはどうかと思うぞ……?

ってか文句があるなら正面から来いよな!

ゲヘナなら銃を片手にドンパチ殴り合ってうるせー!知らねー!FINALFANTASY!で大体解決してんぞ!

 

「チィ、それもこれも全部美食研究会のせいだ!」

 

絶対許さねぇからな、黒舘ハルナ!

そんな事を思いながら、俺様はスクーターをぶっ飛ばしてトリニティ自治区へと突入するのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『間もなくトリニティ水族館、目的地周辺です。』

「よし、到着したぞ!」

 

あれからスクーターをぶっ飛ばし続けた俺様は、美食研究会が狙っているゴールドマグロが展示されていると言うトリニティのアクアリウム付近に到着していた。

……ってか、このアクアリウムよくよく見たらトリニティのど真ん中じゃねぇか!

なんてとこ襲撃してんだあのバカ共は!?

 

「けが人はいませんか!?」

「こっちです、みなさん避難して下さい!」

 

スクーターのエンジンをふかしてアクアリウムの前を通り過ぎると、黒いセーラー服を着た正義実現委員会の部員達が周囲の民間人の避難誘導を行なっていた。

アクアリウムの建物からは大量の黒煙が立ち上っており、爆破が行われた事は想像に難くない。

見た感じだと幸い深夜帯と言うこともあって水族館は閉館時間だったらしく、怪我人は出ていないようだが……

しかし、トリニティの建物をゲヘナのテロリストが破壊したということはトリニティへの謝罪がこの瞬間に決定したわけで。

 

「黒舘ハルナァァァッ!」

 

俺様は叫び声を挙げながらスクーターを飛ばす。

クソ、もうめちゃくちゃだよ!

こうなったら美食研究会だけは何が何でも捕まえてやるからな!覚悟しとけよ!

そんな事を思いながら半ばヤケクソになりつつスクーターを走らせていると、どこからか銃声が鳴り響いた。

音から察するに、ここからそれほど遠くはない様子だ。

こんな深夜にキヴォトスでは比較治安のいいトリニティで不良による銃撃戦が起こっているとは思えない。

十中八九、美食研究会と何かが戦っている音だろう。

 

俺様はスクーターのブレーキを握り込んで一旦車体を急停止させると、銃声に聞こえる方向へ向かってエンジンを吹かしてスクーターを急発進させる。

そして銃声の音の元へとたどり着くと、そこには給食部の車に乗った美食研究会の四人と縄で縛られて口に猿ぐつわを嵌められた愛清先輩の姿があった。

その更に向こう側には黒いセーラー服を着た集団、正義実現委員会が美食研究会に銃を向けているのが見える。

どうやら美食研究会のアホ共は正義実現委員会に包囲されているらしく、四方八方を黒いセーラー服の女子たちに囲まれている様子だ。

 

チィ、面倒な事になってやがるな……!

俺様はスクーターの正面に装備された盾を展開すると、正義実現委員会と銃撃戦を行う美食研究会の背後へ向けてスクーターをぶっ飛ばす。

ともかく、まずは愛清先輩を助け出さないと……!

 

「え?な、なんかスクーターが突っ込んでくる!?」

「えぇ!?ほ、本当だ!?」

「そ、そこのスクーター!止まって下さい!この先は私達正義実現委員会と、ゲヘナのテロリストが戦闘中で……!」

「すまねぇ、ちょっとだけ邪魔するぜ!」

 

ワタワタと慌てながら俺様の前に飛び出してくる正義実現委員会の女子を避けて包囲網に突入した俺様は、美食研究会の元へと向けてスクーターを走らせる。

 

「ねぇぇぇぇ!何でこんなとこまで来ちゃったの!?トリニティのど真ん中じゃん!」

「仕方ありません、あのゴールドマグロと聞いては黙って見ているわけにはいきませんし★」

「ふふっ。あの伝説のマグロをただ観賞用として扱うなんて……そんなこと、美食に対する礼儀がなっていないというものですわ。」

 

そんな会話をしつつ、正義実現委員会と交戦する美食研究会のバカ四人。

 

「美食と言うのは孤高でありながら、普遍的でなくてはなりません……ただ見世物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、このゴールドマグロさんも……」

「黒舘ハルナァァァッ!!!」

 

何をわけのわからねぇことを言ってやがる……!

俺様は大きく息を吸い込んで大声でそう叫ぶと、乗っていたスクーターのブレーキを握り車体を急停止させる。

そして転がるようにスクーターから飛び降りると、折りたたみシールドを展開してブークリエを抜いた。

 

「おや、タツミさんではありませんか。ごきげんよう。今日はいい夜ですわね?」

「いい夜ですわね、じゃねぇよこの超ド級のアホ共が!トリニティの自治区で何をしてんだお前らは!?」

 

ドン!と盾を地面に叩きつけながら俺様は叫ぶ。

 

「うふふ……愚問ですわね、タツミさん。」

「なに……!?」

「私達はただ、このゴールドマグロさんの食材としての吟醸……お金稼ぎの手段で終わりたくないという声に共感しただけ。そうですよね、フウカさん?」

 

そんな事をほざきながら黒舘は縄でぐるぐる巻きにされてトランクに乗せられている愛清先輩へ目を向ける。

愛清先輩は黒舘の言葉を聞くと、首を大きく横に振りながら目尻に涙をためて何かを叫んでいる。

 

「んんっ!?んーーーっ!んんんんんっ!?」

「御覧なさい、このゲヘナ学園給食部部長の感涙にむせび泣くほどの同意を!」

「お前の目は節穴か!?どう考えても首を横に振ってるだろうが!」

 

そう叫んでいると、ふと愛清先輩と目が合う。

目には涙が溜まっており、相当こいつらに振り回された後なのか表情には疲労感がありありと表れていた。

 

「ふふっ、猿ぐつわのせいで何を言っているのかはさっぱりですけどね★」

「ったくお前らは何回言っても毎度毎度愛清先輩をさらって行きやがって!愛清先輩を返してもらおうか!」

「うわっ!マグロがまだビチビチ跳ねてる!ひれでビンタされてるっ!?」

「イズミ、ちゃんと捕まえてて!それすっごい高いんだから!」

「人の話を聞けやお前らァァァ!!!」

 

なに俺様を無視して仲良くお喋りしてんだてめぇら!

いい度胸じゃねぇかゴルァ!!!

 

「ところでこれいつ食べられるの?マグロにはビンタされるし、黒いセーラー服の子たちには追いかけられるし、なんかタツミくんまで来ちゃったし、そろそろお腹すいたんだけど!」

「うぅ……正義実現委員会だけならともかくタツミまではヤバいよ!どうするのハルナ、逃げきれるの!?」

「へぇ……?俺様から逃げ切れると思ってるとはいい度胸してんじゃねぇか赤司……?」

 

ドスの効いた声でそう言い、俺様は犬歯を見せて笑う。

 

「は、ハルナ!タツミの奴キレてる!キレてるって!」

「ふふっ……逃げ切れるのかどうかなんて、大した問題ではありませんわ。」

 

ドヤ顔を浮かべつつ、そんな事を口走る黒舘。

 

「大事なのは食べられるか、否か!」

「……は?」

「つまりは食べるか死ぬか!ただその2択のみ!それこそが私達美食家が進むべき孤高な道なのです!」

「ふふっ。結局、こういうことですね★」

「……なるほど、お前達の意見はよーくわかった。」

 

俺様はそう呟くとブークリエにマガジンを差し込み、チャージングハンドルを引く。

そして、銃口をゆっくりと黒舘達へと向けた。

 

「なら俺様が腹いっぱい食わせてやるよ。ただし、メニューはマグロじゃなくて鉛弾だがな?」

「あら、せっかくタツミさんがご馳走してくださると仰っているのに申し訳ないのですが、私達今夜のメニューはマグロだと決めておりますので……」

「まぁそう言わずに食っていけよ黒舘。俺様からの怒りがたっぷり詰まった鉛弾だぜ?まさか食えないとは言わないよなぁ?」

「うふふ……どうやら余程味に自信があるようですね?」

「ちょっとハルナ!そんな高らかに喋ってないで適度に戦って早く逃げないと!」

 

俺様と黒舘がそうやり取りをしていると、赤司が血相を変えて割り込んでくる。

 

「ふふっ、それもそうですね。さぁ包囲網を破って退却しますわよ皆さん!一刻も早くフウカさんに新鮮なマグロのお造りを作っていただかなくては!」

 

黒舘が高らかにそう宣言すると、給食部の車の運転席に座っていた鰐淵が車のエンジンをかける。

そして俺様の立っている方へ車を方向転換させると、そのまま猛スピードで走り始めた。

 

「クソッ!」

 

俺様は咄嗟に車を避けるために地面を蹴り、左側の瓦礫に向かって体を滑り込ませる。

直後、先ほどまで俺様の立っていた位置を猛スピードで美食研究会の乗った車が通過しようとする。

 

「ちぃ、逃がすかよ!」

 

このままこいつらを逃がすわけには行かない……!

俺様は咄嗟に近くにあった爆発でえぐり取られたと思われる先の尖った大きなガレキを引っ掴むと、それを連中の乗った車のタイヤの下に向かって投擲した。

俺様の投擲したガレキは後輪のタイヤの右側へ吸い込まれていき……

 

ーーーバスン!ーーー

 

大きな破裂音と共に車をタイヤをパンクさせた。

美食研究会の乗った車は後輪を片方失ったことによりコントロールを失い、そのまま近くにあった建物へと激突して停止した。……ありゃ間違いなく廃車だろうな。

なりふり構っていられないとは言え、愛清先輩には悪いことをしてしまった……後でしっかり謝らねぇとな。

そんなことを思いつつ急いで立ち上がると、給食部の車から炎が立ち上り始める。

……まずい、ガソリンに引火でもしたか!?

 

「マグロがーっ!?」

「ふふっ、是非お造りの形でと思ったのですが焼きマグロになってしまいましたわね……」

 

慌てて俺様が愛清先輩を車から降ろすために近寄っていくと、直火でこんがりと焼き上がったマグロを抱えながら獅子堂が涙を目にためつつ車から飛び降りて来た。

続いて黒舘と赤司も車から飛び降り、最後に愛清先輩を抱えた鰐淵がゆっくりとした足取りで車から降りる。

その直後、給食部の車は爆音と共にガソリンに引火した炎に包まれると爆発炎上を始めた。

……あかん、愛清先輩の目が死んでいる。

すみません先輩、後で土下座しますので今は勘弁を……!

 

「さぁこれで足は潰したぞ……!覚悟してもらおうか、美食研究会!」

「まぁでもこれはこれでおいしそうじゃない?欲を言えばお刺身で食べたかったけど……」

「私もお造り一択だと思っておりましたので少々不本意ではありますが……幸いお造り用の醤油は用意してありますし、戦場で食べる料理というのもまた一興。」

「しかも直火焼きだから中までしっかり火が通ってるしね〜!もう我慢できないよ!私お腹すいた!」

「では早速いただいちゃましょうか★」

「おいバカ共てめぇら人の話を聞けェ!!!」

 

目の前で焼き上がったマグロに醤油をかけて食べようとする美食研究会……もといバカ四人組。

そのマグロがどれほど美味いのかは知らねぇけど、こんなところでメシを食おうとするんじゃねぇよ!

おい醤油をかけんな鰐淵!なにヨダレ垂らしてんだ獅子堂!ワクワクすんな赤司!

そしてなんでお前が一番ノリノリなんだ黒舘ェ!

 

「おいてめぇら!ふざけんのもいい加減に……!」

「う、動かないで下さいっ!」

「……ん?」

 

俺様が目の前のバカ四人組に対して声を上げようとした瞬間だった。

突如、そんな声が上がったかと思うと黒いセーラー服を着た正義実現委員会の女子たちが俺様達を包囲するようにぐるりと取り囲み、こちらへ向けて手にした銃の銃口を真っ直ぐに向けて来ていた。

……マズい、こいつらを捕まえることで頭がいっぱいだったがそういやこのバカ共は正義実現委員会に包囲されながら戦闘してたんだったな。

ぐるりと周囲を見渡してみるが、どこを見ても黒いセーラー服を着た前髪の長い女子たちにより美食研究会の退路は塞がれている状態だった。

……同時に、それは俺様の退路がない事も意味する。

 

「今すぐ武器を捨てて両手を上げて下さい!」

「これは警告です!従わなければ発砲します!」

「くっ……!」

 

どうする?ここで事情を明かして彼女たちに美食研究会を捕まえるために協力を要請するか?

とは言え、俺様はこいつらと同じゲヘナの生徒。

水族館を初めとする建物を散々破壊して、街を銃撃しながら爆走していたこいつらと同じ学校なのだ。

間違いなく印象は良くないだろう。銃を向けて敵対していたり車を破壊した事から、美食研究会の味方ではないことは恐らく把握してくれているとは思うが……

説明したところで、そうやすやすと信用してくれるか?

 

「ま、待ってくれ!俺様はこいつらの仲間じゃない!」

 

とは言え、まずは話をしない事には始まらない。

そう思った俺様は正義実現委員会の女子たちへ向けて声を張り上げる。

 

「え……そ、そうなんですか?」

「言われてみたら確かにゲヘナのテロリストとは敵対しているみたいだけど……?」

「で、でも同じゲヘナなんだよ!?制服だって彼女たちと同じだし!変なジャケットは羽織ってるけど!」

「それに、銃を向けてるって言ってもゲヘナなんて野蛮人なんだから同じゲヘナ同士で争うなんて日常茶飯事だって聞いたことがあるし!」

 

……困ったな、言い返せないくらいの正論だぞ。

つか、おい誰だ今変なジャケットって言ったやつ!?

万魔殿のジャケットカッコいいだろ!?

……って、そうじゃなくて!

 

「と言うか、よく見たら男の子じゃない?」

「ほ、本当だ……初めてみたかも。」

「キヴォトスに男子生徒なんていたんだ……」

「ど、どうしよう。ちょっとかっこいいかも……」

 

わちゃわちゃとしながらそんなやりとりをする正義実現委員会の女子たち。

 

「ん、おいしー!」

「これは……マグロ特有のアッサリとした風味がありながら、しっかり脂が乗っていますわ!刺身醤油との相性もぴったりですし焼きマグロは正解かもしれません!」

「んー、普通の焼き魚って感じだなー。」

「もう少し量が欲しいですね★」

「んんんーっ!んーっ!!!」

 

おいマジで焼きマグロ食ってんじゃねぇよこのアホ共が!あと、いい加減愛清先輩の縄をほどいてやれよ!

 

「くっ……よく聞いてくれ!俺様はゲヘナ学園の万魔殿所属、丹花タツミだ!この度はウチのバカ……じゃなくてそこのテロリスト集団、美食研究会がトリニティ自治区で暴れてるって情報を聞いてそれを取り締まるためにここまで来た!」

 

もう後ろのバカ共は放っておこう。

そう判断した俺様は、とにかく正義実現委員会の女子たちに敵ではないことを説明するために盾と銃を地面におくと両手を上げてそう説明する。

 

「今回の一件はこの美食研究会が起こしたことで、ゲヘナにトリニティと争う意思はこれっぽっちもない!俺様の目的もテロリストである美食研究会の拘束であって、トリニティと戦闘するためではないぞ!」

「し、信用できませんっ!」

「ちゃんとトリニティ自治区へ入るにあたってティーパーティーにも連絡を入れてあるし、正義実現委員会の幹部にも連絡を入れた!確認してもらえば分かる!」

 

俺様は必死に戦闘の意思がないことをアピールしつつそう言った。

まぁ連絡はしたけど、方やぶつ切り。方や未だに音信不通だがな……

まぁ、嘘は言っていないんだから問題はないはずだ。

 

「ど、どうしよう……?」

「騙されちゃダメだよ!相手はゲヘナなんだから……!」

 

クソ、このままじゃ埒が明かないぞ……!

平の部員と押し問答をしていても仕方ない、もっと上の……指揮官クラスの人物と話さないと。

 

「とにかく、君達の指揮官と話がしたい!会わせてもらえないか!?」

「そ、そんなのできるわけが……!」

「……その必要はありませんよ、タツミさん。」

 

俺様がそう言った瞬間だった。

その場に聞き覚えのある声が響きわたる。

 

「この声は……!?」

 

そんな事を思った時だった。

突然、俺様の正面に居た正義実現委員会の女子たちがにわかにざわめき始める。

何事かと思いそちらへと視線を向けると、道を開けるように左右に分かれた正義実現委員会の女子たちの後方からここからでも分かる一際目立つ大きな女性がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。あれは……間違いない。

 

「羽川先輩!」

「こんばんはタツミさん、あの会議以来ですね。」

 

その人物は正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミ先輩だった。

羽川先輩は俺様の前までやってくると、少し微笑みながら軽く頭を下げてきた。

そしてその後ろからは四人組の女子生徒達と、スーツを着た大人の女性が……

 

「え、先生!?」

“やぁタツミ。久しぶりだね。”

 

なんで先生がここに……?

そんな事を思っていると、先生は羽川先輩の横までやって来るとその場で停止した。

どうでもいいんだけど、この2人が並ぶと何がとは言わないけど目のやり場に困るんだよな……

その、色々デカいんだよ。マジで。色々とな。

 

“まさかハルナ達を止めるためにここに来たらタツミが居るなんて……ビックリしちゃったよ。”

「それはこっちのセリフだぞ先生。先生がトリニティに居るなんて聞いてないんだが……?」

“いや、実は補習授業部ってところの担任を……”

「……補習授業部?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“……と言うわけなんだ。”

「なるほど、大体事情は把握したぜ。」

 

あれから俺様は何故先生がトリニティに居るのかについてと、先生が補習授業部なる部活動の担任を務めている件について色々と説明を受けていた。

 

ちなみに、後ろで焼きマグロを食っていたバカ四人組は突然奇声を挙げながら突っ込んできた正義実現委員会の委員長だと言う人に完膚なきまでにボコボコされ、現在は簀巻きにされて護送車の中に放り込まれている。

その流れで俺様とも戦闘になりかけたのだが、先生と羽川先輩の説明により敵ではないことを理解してくれた様子でそのまま引き下がっていった。

しかし、鬼神の如き強さだったな……あの委員長。

仮にもキヴォトス中で指名手配されている凶悪なテロリストである美食研究会をああも簡単にボコボコにするなんて、空崎委員長といい勝負なんじゃなかろうか。

 

ちなみに、愛清先輩は既に縄と猿ぐつわを外して解放されており爆発炎上した車を見てため息を吐いていた。

すぐに愛清先輩には謝罪をしたのだが「タツミは何も悪くないから謝らないで欲しい」と言われた。

……なんと言うか、あまりにも気の毒すぎる。帰ったら元気の出る料理でも作ってあげるとしよう。

 

閑話休題。

 

まぁそれはともかくとして、先生は現在トリニティにて補習授業部と言う部活の担任をしているらしい。

補習授業部とはその名の通り放課後に補習授業を行う部活動のことで、何らかの理由でテストを受けられなかったり赤点を取った生徒達を指導する部活なんだとか。

 

メンバーは変なぬいぐるみのカバンを背負った補習授業部の部長、2年生の阿慈谷ヒフミ先輩。

白髪に白い羽、ふわふわした雰囲気に反してどこか鋭い眼光が特徴的な2年生の白州アズサ先輩。

何故か先程からニコニコしながら俺様を舐め回すような視線で見てくる、2年生の浦和ハナコ先輩。

そして正義実現委員会に所属しており、羽川先輩の後輩である1年生の下江コハル。

以上4名が補習授業部のメンバーらしい。

自己紹介の際に一言二言くらい会話を交わしたが、なんか阿慈谷先輩からは苦労人の気配を感じたな。

 

先生はこの四人が定期テストで合格できるよう、担任になって指導してほしいとティーパーティーのホスト達から頼まれたとのことだ。

と言うか、エデン条約前でゲヘナとトリニティがピリピリしているこの時期にシャーレって中立組織がトリニティに加担するのは良くないのでは……?

……と思ったけど、まぁ別に先生はどっちかの肩を持とうとかそんな事をするような人ではないからな。

きっと何かしらの事情があってのことだろう。

そう思っておくことにする。

 

「すみませんでした羽川先輩。連絡が繋がらなかったとは言え、俺様の判断で勝手にトリニティの自治区へ侵入してしまって。」

「こちらこそ、連絡に気づけず申し訳ありませんでしたタツミさん。先生やコハル達と話をしていた時にゲヘナのテロリストの話が入ってきたものですから、かなりバタバタしていまして……」

「いや、それなら仕方ないっすよ。一応ティーパーティーにも連絡は入れてあるんで、後で改めて確認しておいてもらえると。」

「はい、わかりました。」

 

で、万魔殿である俺様がこの時期にトリニティ自治区へと独断で侵入した件についてはあくまでも目的がゲヘナ自治区のテロリストである美食研究会の鎮圧と拘束であったことと、あらかじめティーパーティーや正義実現委員会の幹部である羽川先輩へとコンタクトを試みていたことにより無事にお咎めなしとなった。

羽川先輩がティーパーティーのホストである桐藤ナギサ先輩に確認した所、問題ないとの判断が下ったそうな。

とりあえずは一安心だ。

エデン条約前のこの時期に、万魔殿に所属している俺様が問題を起こすわけにはいかねぇからな……

 

ともかく、これで一件落着……と言いたかったんだが。

それとは別の問題もまた出てきちまったわけで……

 

「……アクアリウムや建物を破壊した件に関しては、また後日トリニティへ謝罪に伺わせて頂きます。」

「はい。お手数をお掛けして申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。」

 

そう。美食研究会はゴールドマグロを強奪する過程で水族館を爆破しているし、逃走中に無差別に銃撃をしてくれたおかげで建物や道路にもかなりの被害が出てしまっているのだ。

指名手配中のテロリストのやったことではあるのだが、奴らの所属は悲しいことにゲヘナ学園。

本来であれば俺様達ゲヘナ学園が謝る必要はないのだが、エデン条約前のこの多感な時期である。

ゲヘナ学園と言う【組織】としては、ウチの生徒が迷惑をかけてしまってすいませんでしたと公式に謝罪する必要はあるだろう。

と言うわけで、俺様は後日トリニティへと謝罪へ赴くことが決定したわけだ。

 

(……胃がいてぇ。)

 

俺様はその場でため息を吐き出すと、ポケットから胃薬を取り出して口の中へと流し込んだ。

スーッとする感覚が胃の中に広がり、少しだけキリキリする胃の痛みが和らぐ。

 

“タツミ、大丈夫?目が死んでるけど……”

「あ、あぁ……大丈夫だよ先生。別に問題ないぞ。」

 

俺様は心配して声をかけてくれた先生に対して苦笑いを浮かべてそう返した。

 

「んじゃ先生。美食研究会の引き渡しは任せたぜ。」

“うん、分かったよ。任せておいて。”

 

俺様は先生に対してそう言うと、先生は自分の大きな胸を拳で叩きつつそう言った。

今回トリニティ内で問題を起こした美食研究会は、いくら所属がゲヘナ学園であろうと本来であればトリニティ内で正義実現委員会の管轄の元処遇を決めるのが普通ではあるのだが……

今回は時期が時期なため、ゲヘナの風紀委員会に引き渡してそちらで処遇を決めてもらうと羽川先輩からの申し出があった。

まぁそれが一番丸いだろうし、空崎委員長もそういう事ならば拒否はしないはずだ。

 

そしてエデン条約の事を考えると、正義実現委員会が能動的に動くのは政治的観点から避けたい。

なので、中立組織であるシャーレから風紀委員会へと引き渡すことでその点を解決しようと言う訳だな。

実際、今回の件もシャーレが介入したことによって事が収まったと言うふうにするつもりだし、ゲヘナ側からしてもその方が丸く収まるので願ってもない申し出だ。

まぁもちろん、美食研究会が暴れてくれた分の謝罪はしっかりとする必要はあるけどな……

 

「では先生、行きましょうか。」

“うん、分かったよハスミ。それじゃあタツミ、フウカ。二人とも気を付けて帰るんだよ。”

 

そう言って、羽川先輩と補習授業部の面々。

一部の正義実現委員会の生徒ともに護送車に乗り込んだ先生は、こちらに手を振りながらそう言った。

この後先生達は乗り込んだ護送車でトリニティ郊外の引き渡し場所まで向かい、そこで風紀委員会へと美食研究会のバカ四人を引き渡す手はずになっているらしい。

そういう事ならば、あとは先生と羽川先輩に任せておけば問題ないだろう。

 

「おう、分かった!先生も気を付けてな!」

「ありがとうございました先生。助かりました。」

 

俺様は親指を立て、愛清先輩は深く頭を下げながらそれぞれ先生に対する感謝を述べる。

先生は俺様達からの感謝を受け取ると、護送車が発進しそのまま引き渡し場所へと向かっていったようだ。

 

「……んじゃ、俺様達も帰りますか。愛清先輩。」

「そうね……まったく、ひどい目に遭ったわ。」

「ははは……お疲れ様でした。」

 

俺様はスクーターのエンジンをかけると、予備のヘルメットを取り出して愛清先輩へと手渡す。

ちなみに愛清先輩は俺様のスクーターで送っていくことになっているので、今から仲良くニケツをするというわけなんだが……

 

あれ、冷静に考えるとスクーターでニケツしようと思ったら相当密着しないとダメだよな?

いくら愛清先輩がいい人とは言え、流石に俺様とそんなに密着するのは嫌がるんじゃ……?

……もしかして、先生に送ってもらう方が良かったか?

 

「何してるのタツミ?早く帰りましょ?」

「あ……は、はい!分かりました愛清先輩!」

 

そんなことを考えていると、愛清先輩は既にスクーターにまたがってサドルをポンポンと手で叩いている。

俺様は慌ててスクーターに飛び乗ってハンドルを握ると、俺様の腰にきゅっと愛清先輩の手が回された。

背中に温かな愛清先輩の体温を感じる。

 

……無心、無心だぞ俺様!

なんか控えめながらも柔らかいものが当たってるし、いい匂いもするけど無心だぞ!

 

「……その、ごめんねタツミ。ハルナ達を追いかけて来てくれたせいでこんなことになっちゃって。」

 

俺様がエンジンをかけてスクーターを発進させると、愛清先輩はしおらしい声でそんなことを言ってくる。

 

「何を言ってるんですか愛清先輩。悪いのは黒舘達美食研究会のバカ共です。愛清先輩はなんにも悪くないっすよ。それに俺様のほうこそ、給食部の車を爆発炎上させてしまいましたし……」

「そ、それはハルナ達を止めるためだから仕方ないわよ……タツミは悪くないわ。」

「……なら、お互い様ってことにしときません?」

「……ふふっ、そうね。そうしましょうか。」

 

俺様の背中側から少し明るい声でそう言う愛清先輩。

 

「まぁその、万魔殿に帰ったら事情を説明してまた給食部の車を購入してもらえるように手配してみますよ。」

「うん、ありがとう。あとジュリからも連絡が来てたけど、注文の入ったお弁当まで作ってくれて……」

「別にそのくらいお安い御用っすよ。牛牧も頑張ってますしね。」

「……そうね。ふふ、本当にありがとうねタツミ。」

 

心なしか、俺様の腰に回された手に少し力が籠もる。

その後も愛清先輩と何気ないやりとりをしつつ、俺様達はゲヘナ学園へと帰還するのだった。

……なお、翌日に寝不足で頭が回らなかったのはここで言うまでもないだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“……と言うわけなんだ。”

「……こんな大切なことを私に話していいの?先生。」

“うん、ヒナのこと信じてるからね。”

「まったく……貴方もタツミと同じくらいにはお人好しね、先生。」

“あはは……そうかなぁ。”

「私の意見としては、エデン条約はれっきとした平和条約。そう考えているわ。」

“なるほど?”

「確かに軍事同盟という見方も出来なくはないけどETОが一丸にならないと他の学園への侵略行為は不可能。マコトが誰かと協力できないタチな以上は侵略行為はあり得ないでしょうね。」

“じゃあ、何でマコトはエデン条約に賛成なんだろう?”

「賛成と言うか、何も考えてないんじゃないかしら。まぁ、その辺はタツミがうまくやってくれるでしょう。」

“タツミ、信頼されてるなぁ……”

「風紀委員長、まだですか?」

「今行く。……じゃあ先生、気を付けて。」

“うん。よろしくね、ヒナ。セナ。”

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うふふふふ♡コハルちゃん見ましたか?男の子ですよ男の子!」

「な、なんでアンタはさっきからそんなにテンションが上がってるのよ!?」

「そんなの決まってるじゃないですか!キヴォトスで滅多に見ない男の子……私達とは違う性の方……体で語り合うのにこれ以上ない相手だと思いませんか?♡」

「か、体で……!?エッチなのはダメ!死刑!」

「と言うか、体で語り合う必要はあるのか……?」

「あはは……それにしても、キヴォトスに男の子なんていたんですね。びっくりしちゃいました。」

「あぁ。私も少し驚いてマジマジと見つめてしまったな。それに正義実現委員会の委員長に襲われそうになった時のあの身のこなし……相当な実力者と見える。」

「あいつ、ツルギ先輩の気配に気づいて盾を構えてたものね……ヘイローがないのに銃撃戦の中に平気な顔して立っているし、どんな度胸してるのよ……」

「いや、よく見ると微かに足が震えていた。あれは相当訓練を積んで死への恐怖を克服しているに違いない。」

「ヘイローが無いということは先生と同じくらいの肉体強度と言うことですもんね……」

「それにしても、あいつが丹花タツミなんだ……」

「あら、知っていたのですかコハルちゃん?」

「う、うん。前にハスミ先輩が連邦生徒会に行ったときに知り合ったって聞いたんだけど、ゲヘナの生徒、しかも生徒会所属って聞いてすごく驚いたのよね。」

「なるほど、ハスミはゲヘナをかなり嫌っている。コハルが驚くのも無理はないだろう。」

「うん。それにしても、ハスミ先輩ってゲヘナの奴に対してあんな顔するのね……初めてみたかも。」

「あらあら……ゲヘナとトリニティの禁断の関係ですか……うふふ、とても楽しくなりそうですねコハルちゃん♡」

「だからあんたは何でそんなに楽しそうなのよ!」




次回、トリニティへの謝罪編です
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