転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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今話から原作開始です


連邦生徒会と丹花タツミ

「……は?連邦生徒会長が失踪した?」

「キキキ……あぁ、どうやらそのようだな。」

 

ゲヘナ学園、万魔殿の執務室。

今日も今日とて書類と格闘していた俺様はテーブルを一つ挟んで向かい側に居る羽沼議長からそんな話を聞いていた。今日は珍しく羽沼議長も書類仕事をしている。

なお、中身はまたしょーこりもなく風紀委員に押し付けていた書類である。

俺様が風紀委員会から回収して叩きつけてやった物だ。

 

ちなみにラブリーマイエンジェルイブキは今日は非番の棗先輩と遊んでいるようだ。

非常に羨ましいが、棗先輩なら安心して任せられるな。

 

「なんだ、知らなかったのか?少し前から話題になっていたぞ?」

「恥ずかしながら全く知りませんでしたね。」

「貴様はテレビとか見ないのか?何ならスマホのニュースでも見れるはずだが?」

「俺様テレビほぼ見ないんスよね……スマホニュースは見てないだけっすけど。」

「タツミ、お前も万魔殿所属の身ならそういうことはチェックしておけよ?」

「分かりました、以後気をつけます。」

 

なんかいつになく真面目だな、羽沼議長。 

……っと話がそれたが、羽沼議長の口から発せられている連邦生徒会長失踪と言う結構な大事件であるが俺様は恥ずかしながら今の今まで全く知らなかった。

まぁ、日々の業務に追われてて知っていたとしても気にしてる余裕なんざなかったわけなんだが……

けどまぁそんなめちゃくちゃ重要なポジションに居る人なんだからすぐ戻って来るんじゃねーの?

……待てよ?連邦生徒会長失踪?なんかどーにも引っかかるな。

 

「キキキ、各学園はそのおかげでかなり浮足立っているようだな。」

「まぁそりゃ連邦生徒会のトップですからね。」

 

そらそんな人物が失踪でもしようもんなら、そりゃどこも動揺するだろうよ。

 

「噂ではとある地区の発電所が停止したり、そことは別の地区の犯罪率上がっているらしいぞ。」

「結構な大事件じゃないっスか……連邦生徒会長ってすごいんですね……」

 

連邦生徒会長が失踪するだけでそんなに治安悪化するってマジかよ、どんだけワンマン運営だったんだ。

まぁゲヘナ学園の自治区は毎日毎日飽きもせずにドンパチやらかすアホしか居ねぇから、治安悪化もクソもないんだけどな。元から世紀末みたいな治安だし。

元から悪い治安がさらに悪くなったところで気づかんだろ、俺様は毎日ゲヘナで過ごしてるせいで慣れちまってるから余計に分かりにくい部分もある。

……そのせいで連邦生徒会長失踪の影響を感じにくいのかもしれんが。

 

「それに、矯正局から停学中の不良共が脱獄したという話も耳に入ってきているな。」

「マジかよ!?」

「キキキ……チアキの取材で裏が取れているぞ。」

「えぇ……キヴォトスが世紀末になるじゃねぇか……」

 

おいおい、矯正局から脱獄犯が出るのは流石にヤベーとしか言えないぞコレ。

……と言うかその脱走ってホントに連邦生徒会長失踪と関係してるのか?ただ単にヴァルキューレの警備体制がガバガバだったせいとかじゃないだろうな……?

まぁ連邦生徒会長失踪でヴァルキューレが浮足立ってそうなのは確かではあるけどよ。

いずれにせよ、頼むからゲヘナにだけは来てほしくないもんである。また胃痛のタネが増えちまうからな。

主に風紀委員会の、だが。

 

「まぁ眉唾物の話ではあるから、単なる冗談や噂として片付けている連中もいるようだがな。キキキッ。」

「まぁ普通そんな人が失踪するとは思わないっすからね……」

 

にしても……連邦生徒会長失踪……なんだったっけな。

なんかこう、喉元まで出かかっているんだが。

なんかブルーアーカイブって連邦生徒会長が失踪するところから物語が始まらなかったか?

……だめだ、記憶が曖昧でよく思い出せねぇ。

 

「そこでだ、タツミ。」

 

頭に手を当てて考え込む俺様に、羽沼議長から声がかかる。気だる気に視線を羽沼議長に移すと、そこにはいつになく真剣な表情をした羽沼議長が居た。

 

「……なんすか?」

「お前、今日はもう書類仕事は終わって良いぞ。」

「は?……一体どういう風の吹き回しです?」

「キキキ、無論早上がりと言うわけではないぞ。お前にはこれから別の仕事を頼みたい。」

 

羽沼議長はペンを机に置き、手を組んで顎に載せる。

そして、俺様を真っ直ぐ見据えながら口を開いた。

 

「今から連邦生徒会に行って、七神リン代行に事情を聞いてきてくれないか。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……と、言うわけでやって来たわけだが。」

 

場所はDU地区。

連邦生徒会の総本山、サンクトゥムタワー。

目の前にそびえ立つクソデカいビルを見つめながら、俺様はため息を吐き出した。

羽沼議長から任された仕事は連邦生徒会長の代理を務める七神リン生徒会長代行に事情を聞いてくることだ。

曰く、いつまで立っても連邦生徒会長が失踪したままでは色々とまずいだろう(要約)と言うことらしい。

 

……まぁ、言ってることはご尤もである。

連邦生徒会長はここキヴォトスの実質トップと言っても差し支えない程の影響力を持っている人間だ。

そんな人間が失踪しましたと言われて、はいそうですかで済ませられるほど単純な話ではない。

少なくとも、どういう経緯で失踪して捜索状況はどうなのか等も知っておく必要があるだろう。

こう言うのは羽沼議長自らか、あるいは棗先輩辺りが来るべきだとは思うが棗先輩は今日は非番だし羽沼議長は仕事がある。京極先輩と元宮先輩も仕事だし、動けそうなのが俺様くらいだからという理由だ。

まぁ連邦生徒会には仕事で何度か来たことはあるし、七神代行とも話した事はあるからいいんだけど。

 

「どうなることやら……」

 

仕事が終わったらイブキと遊んでやりたかったんだが……

ため息を吐き出しながら、俺様はビルのドアをくぐる。

相変わらず真っ白な空間だな。さっきまで万魔殿に居たから目がチカチカして来そうだぜ。

さてと……受付に行って七神代行に話を通してもらうか。

俺様はそう思い、受付に足を運ぼうとする。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んで来て!」

 

足を一歩踏み出した瞬間、ホールの奥に設置されていたエレベーター付近から女性の叫び声が聞こえてきた。

何事かと思いそちらへと視線を移すと、青髪のミレニアムサイエンススクールの制服を着た生徒が何やら血相を変えてまくし立てて居るのが見える。

 

(このセリフ……どっかで聞いたことあんな?)

 

そんなことをボンヤリと考えつつその生徒の周りに目をやると、他にもトリニティ総合学園の制服を着た生徒が2人居るのが確認できた。

しかも内1人は黒のセーラー服を着ている。ありゃ正義実現委員会のトレードマークでもある制服だな。

……トリニティかぁ。

 

トリニティ総合学園。ゲヘナとは違って(キヴォトス基準で)治安が非常に良いとされている学校だ。

金持ちのお嬢様が多く通ってる学園として有名でキヴォトス3大マンモス校の一つとしても数えられている。

お嬢様が多くてお淑やかだが、ゲヘナ学園とは昔から犬猿の仲でありお互いに忌み嫌っているんだよな。

正直俺様は別にトリニティの事は嫌いでもなんでもないんだが、向こうがどう思ってるかはまた別だからなぁ。

他にはゲヘナの風紀委員の腕章を着けた茶髪に眼鏡を掛けた生徒が1人……って、あれ火宮じゃねぇか?

その奥には真っ白な服を着込んだ腰まで伸びた青髪に眼鏡をかけた七神リン代行の姿が見える。

 

(とりあえず、声をかけてみるか……)

 

今回ここへ来た目的はそもそも七神代行に連邦生徒会長失踪の件について聞くことだからな。

なんだかよく分からない面子に囲まれてるが、あそこに七神代行が居るなら受付でアポを取る手間も省けると言ったもんだ。

そう思った俺様は騒動の中心へと歩いていく。

 

「数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました。」

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不正流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」

 

七神代行を囲んでやいのやいのと騒ぐ生徒たちを見ながら俺様は歩を進める。

うーん、あまりにもキヴォトスクオリティすぎるな。

……と言うか別にそのくらいゲヘナでは日常茶飯事なんだが、他の自治区ってもしかして俺様が思ってるよりも割と治安良かったりすんのか?

外歩いたら不良に絡まれるなんざ当たり前だし、戦車やヘリコプターなんて犬猫よりもその辺で見かけるが。

俺様が頭ゲヘナなだけか?

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ……」

「あ、すんません。話の腰を折るようで申し訳ないんすけどちょ〜っと良いですかね?」

 

青髪のミレニアムの制服を着た生徒がまくし立てている隣にすっと立つと、俺様は手を挙げつつそう言った。

いきなりの乱入者に、その場に居た全員の視線が俺様の方を向く……や否や、トリニティの正義実現委員会の制服を着た黒髪の生徒は露骨に顔をしかめている。

……まぁトリニティだしな。むしろ隣のもう1人のトリニティの生徒が比較的普通なのが珍しいんだ。

そしてここにいる面識のある火宮と七神代行以外の全員が俺様の頭上と顔を何度も交互に確認して困惑した表情を浮かべている。

ちなみに火宮は何故ここに?みたいな表情を浮かべていた。そりゃそうか。

 

にしても……まぁそりゃキヴォトスでは珍しいわな。【ヘイローのない生徒】なんてのは。

あと俺様が男子生徒ってこともあるだろう。ここキヴォトスは何故か人間は女性しかおらず、俺様以外の男子生徒なんざ見たこともないからな……単純に珍しいんだろ。

オートマタや獣人なら普通に男もいるんだがなぁ。

……っと、話がそれたな。

 

「……あなたは。」

「その節はどうも、七神代行。ウチの羽沼マコト議長からの使いでお話があって伺いました。」

 

軽くお辞儀をしつつ、俺様はそう発言する。

 

「た、タツミくん!?」

「よう火宮。」

 

目を見開き、ビックリしたような様子の火宮が俺様の隣までやってくる。

 

「お前は空崎委員長から頼まれて……ってところか?」

「……その通りですね。流石に今の現状をいつまでも説明無しというわけには行きませんので。」

「まぁそうだよなぁ。ウチも似たようなもんだ。」

 

お互いに顔を見合わせながら苦笑する。

 

「ちょ、ちょっと!いきなり割り込んできてどういうつもり!?と言うか貴方は何者なの!?」

 

俺様達がそんな会話をしていると、ミレニアムの制服を着た生徒が抗議するようにそう言っていた。

 

「あ、すいません。失礼しました。俺様はゲヘナ学園1年生、万魔殿所属の丹花タツミと言います。」

「ご、ご丁寧にどうも。私はミレニアムサイエンススクールのセミナー所属の2年生。早瀬ユウカよ。」

 

俺様が自己紹介をすると、やや面食らったようにそう名乗ってくれた。なるほど、早瀬ユウカ先輩と言うのか。

 

「よろしくお願いします、早瀬先輩。」

「えぇよろしく……ってそうじゃなくて!」

 

うがー!と言う背景音が聞こえてきそうな表情で早瀬先輩は七神代行へ向き直った。

 

「とにかく!連邦生徒会長を出しなさい!」

「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと行方不明になりました。」

「……え!?」

「じゃあやっぱり連邦生徒会長が失踪したって情報は確かなんすね?七神代行。」

「えぇ。認めたくありませんが、真実です。」

 

苦虫を噛み潰したような表情で七神代行は言葉を絞り出す。その表情に俺様を含む全員は嫌が応にもその事実を受け入れざるを得ない。

……ほんとにこう言う情報に関しては仕入れるのも早いし正確なんだよなぁ、ウチの議長。

もちろん元宮先輩の諜報活動もあるだろうけど。

 

「結論から言うとサンクトゥムタワーの最終管理者が居なくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。」

(なるほど、連邦生徒会が機能してねぇって訳か。)

「認証を迂回出来る方法を探していましたが……先ほどまでそのような方法は見つかっていませんでした。」

「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官。」

 

落ち着いた声で、トリニティの正義実現委員会の制服を着た黒髪ロングの生徒がそう問いかける。

……あんま女性をそういう目で見るのはよくないとは思うんだけどよ、さすがに言わせてくれ。

 

(さっきから目のやり場に困るんだよ……!)

 

なんだよそのバカみたいにエグいスリットの入ったスカートは!どっかの風紀委員会の行政官のふざけた服装とタメ張れるレベルだぞ!?

ロングスカートの意味ねぇだろそれどう考えても。

しかも制服それサイズ合ってねぇだろ。

なんで胸の部分がそんなにパッツンパッツンなんだよ。

しかも身長が俺様よりも高いんだが……?

あと背中のトリニティ生徒特有の天使の羽もクソデカくて存在感があまりにもやばすぎるだろ。

 

と言うか、あんま意識しないようにしてたけど早瀬先輩と七神代行もなんつーカッコしてんだよ!

スカート膝上何cmだよ二人とも!異性の前でしていい格好じゃねぇぞマジで。

もう1人のトリニティの生徒を見習ってくれよな!

……いやこの人もスカート短いじゃねえか!貞操概念ガバガバやんけキヴォトス人!

あ?火宮?こいつのはもう慣れた。

 

「……何か?」

 

俺様が額に手を当てて目を瞑っていたのが気になったのか、正義実現委員長の生徒は俺様をジト目で睨みつつそう言って来た。

 

「いえ、何でもないです。」

「……続き、よろしいでしょうか?」

「あ、すいません。」

 

どことなく疲れているように見える七神代行に声をかけられ、俺様は返事を返す。

 

「オホン……この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」

“私が?”

 

七神代行はそう言うと、隣にいた1人の【大人の女性】へと向けて手のひらを指した。

……んんん?ちょっと待てよ……先生だと?

俺様は言われるまでまっっったく気づかなかった、七神代行が指した先生と言われる女性へと目を向ける。

 

そこに居たのは、なんかもう色々と凄い女性だった。

まず目を引くのはその胸。デカい、デカすぎる。あまりにもデカい。正義実現委員会の人のをメロンとするならこれは大玉のスイカと言っても差し支えない。

更にその恵まれた上半身を支えるかのように発達した太ももは早瀬先輩のそれを優に超えている。

ここまでくれば……まぁ尻に関しては言うまでもないだろう。デカい、それはもうデカかった。うおでっか……

着ているスーツが悲鳴を上げているんじゃないか、と言うくらいには色々規格外だ。

先生の格好は長い黒髪をポニーテールでまとめ、スーツにタイトスカートと黒タイツと言ういかにも一般企業に勤めていそうなOLといった感じだった。

そのスタイルを除けば……だが。

 

“なんだか今、ものすごく失礼なことを考えられたような気がするんだけど?”

「き、気の所為じゃないですかね?」

 

先生と呼ばれた人物にジト目を向けられ、俺様は冷や汗をかきながら苦笑いする。

しかし待てよ先生……連邦生徒会……ブルーアーカイブ……シッテムの箱……シャーレ……サンクトゥムタワー……

……!!!思い出した!

 

(ここプロローグの場面じゃねぇか!)

 

ゲームを起動し、連邦生徒会長と電車で話し、目覚めたらキヴォトスに居たプレイヤーが七神代行から説明を受けてチュートリアルが始まるあの場面だ。

……ってことは俺様達これから戦うの?マジで?戦闘なんて想定してないから最低限の装備しか持ってきてねぇぞ……持ってきた装備と言えば中に着込んだ防弾チョッキ、首から下げた防弾ゴーグルとブークリエくらいだ。

いつも使ってる盾とかヘルメットとかアーマーの類は荷物になるから万魔殿に置いてきちまったからなぁ……

ゲヘナ内ならいつどこで戦闘に巻き込まれるか分かったもんじゃないから常にフル装備で出歩くんだが、今回は連邦生徒会のお膝元への出張だったワケなので。

しゃーないから連邦生徒会にたかるか、次からは念の為重たくてもフル装備を持ち歩くようにしよう。

 

閑話休題。

 

んで、その後は確か脱走した狐面を被った女と戦ってアビドスとか言う学校に行って、ミレニアムとエデン条約と……ダメだ、流し読みしかしてないせいでハッキリとストーリーが分からないしそもそもどんな内容なのかもあんま思い出せねぇ。

なんせ前世のことだからなぁ…

まぁそれはともかく、この場面は何度もリセマラしてる時に嫌ってほど見たからな……どうにも既視感を感じると思ったがここだけはハッキリと覚えていたようだ。

ということは、トリニティの二人は羽川ハスミ先輩と守月スズミ先輩だな。

うっかり口にしねぇように気をつけねぇと……

 

……と言うか原作の先生って確か男じゃなかったか?

何故【女になっている】んだ?

 

「この方が?」

「ちょっと待って!そう言えばこの先生はどなた?とうしてここにいるの?」

 

……まぁ、深く考えるだけ無駄かね。

そもそも原作でも先生は男でも女でも取れるような口調と行動を取っていたから、別に不自然ではないか。

 

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね。」

「はい。こちらの先生はこれからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

……まぁ、そういう反応になるよなぁ。

火宮や羽川先輩、守月先輩を見ても釈然としないような困惑した表情を浮かべている。

 

「こ、こんにちは先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや。挨拶なんて今はどうでもよくて!」

「そちらのうるさい方は気にしなくていいです。」

「誰がうるさいって!?私は早瀬ユウカ!覚えておいてください!先生!」

“よろしくね、ユウカ。”

 

額に怒りマークを浮かべそうな勢いで、早瀬先輩は七神代行を睨みつけながらそう言った。

そんな2人を尻目に先生はニコニコした笑顔を浮かべながら手を差し出した。

早瀬先輩はその手をしっかりと握る。

 

「私はトリニティ総合学園3年、正義実現委員会の副委員長をしています。羽川ハスミと申します。」

「トリニティ総合学園2年生、自警団に所属している守月スズミです。よろしくお願いします、先生。」

「ゲヘナ学園1年生、風紀委員会所属の火宮チナツです。よろしくお願いします。」

“うん、よろしくね。ハスミ、スズミ、チナツ。”

 

先生は自己紹介された一人一人としっかりと握手をすると、まだ名乗っていない俺様の前へとやって来た。

 

“キミは……男の子……なんだね?”

「……?そうですが?俺様はゲヘナ学園1年生、万魔殿所属。丹花タツミです。よろしく頼みます、先生。」

 

そういって、俺様は右手を先生の右手とガッチリと握りあった。

 

“うん、よろしくね。タツミ。キミには他の子と違って頭に輪っかがないんだね?”

「あぁヘイローのことすか?そうすね、俺様は生まれつきヘイローないんすよね。妹には普通にあるんですが……まぁそういうわけなんで、多分肉体強度的には先生とそんな変わらんと思いますよ。」

“……?”

 

あぁ、そうか。先生はまだキヴォトスに来たばっかだからここがどんな世紀末世界なのかまだ分からんのだったな。プロローグ時点はそうだったはずだ。

まぁ、ヘイローのある生徒は銃で撃たれた程度じゃ痛いで済みます……なんて聞いたら驚きそうだが。

なお、火宮と七神代行以外の皆さんはわりと目を丸くして驚いているようだ。

 

「オホン!……続けますと先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の顧問としてこちらに来ることになりました。それが連邦捜査部、シャーレです。」

(いや俺様まだ握手中なんだけど……)

 

俺様達を尻目に、額に青筋が浮かんでいるような気がする代行は引きつった笑みで説明を始める。

連邦捜査部シャーレ。

曰く、単なる部活ではなく一種の超法的機関である。

曰く、キヴォトスに存在する学園の生徒を制限なく加入されることが可能。

曰く、各学園の自治区で制限なしに戦闘を行える。

まぁ要はキヴォトス中の学園にシャーレの判断のみで介入できるっつー権限のある部活っつーことだな。

……部活と呼んで良いのか?それ。

こりゃ帰ったら報告が大変だな……羽沼議長がどんな顔をするのかちょっと楽しみではあるけど。

 

「シャーレの部室はここから30km離れた外郭地区にあります。連邦生徒会長の命令でそこにとある物を持ち込んでいます。先生をお連れしなければなりません。」

 

ここから30km離れた外郭地区……?あそこは今使ってない建物があるだけのほぼ何もない場所のはずだが、そこをシャーレの部室として使用するってことか。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど。」

 

七神代行がホログラム通信機を起動すると、ピンク髪の短髪ツインテールの生徒が映し出される。

 

「シャーレの部室?あぁ外郭地区の?今そこ大騒ぎだけど?」

「大騒ぎ?」

「矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。今そこは戦場になってるよ。」

 

スナック菓子をつまみながら、モモカと呼ばれた生徒は心底面倒くさそうな表情でそう言い放つ。

 

「……うん?」

 

七神代行の表情が曇る。

 

「連邦生徒会に恨みを抱いて地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしているみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?」

 

……まぁ、プロローグの記憶が正しければそうだよな。

巡航戦車の出どころはブラックマーケットか、もしくはカイザーPMC辺りから買ったもんだろう。

んで、確か主犯は狐面を被った百鬼夜行の生徒のはず……名前は思い出せないが、そんな記憶がある。

狙いは先生の扱うチートじみたタブレット端末【シッテムの箱】だったはずだが……

 

「……」

「どうやらシャーレの建物を占拠しようとしているみたいだね。まるでそこに何か大切なものでもあるみたいな動きだけど?まぁでもとっくにめちゃくちゃな場所なんだから別に……あっ先輩。お昼ご飯のデリバリーが来たからまた連絡するね!」

 

そう言うと、スナック菓子を口に放り込んだモモカと呼ばれた生徒は通信を一方的にオフラインにした。

七神代行も苦労してんな……ちょっと同情する。

なお、そんな七神代行は額に青筋を浮き上がらせぷるぷると体を震わせていた。

あかん、ストレスが限界値まで達しておられる。

 

“大丈夫?深呼吸する?”

「だ、大丈夫です。少々問題が起きましたが、大したことではありません。」

 

先生に声をかけられると、七神代行はニッコリと笑みを浮かべてそう言った。なお目は笑っていない。

そして、くるりとこちらを向くと俺様たち一人一人へと視線を向ける。

……とりあえず、先生をシャーレの部室まで護衛する事になるのは確定だなこりゃ。

 

「な、何?どうして私たちを見つめているの?」

「丁度ここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので私は心強いです。」

 

おい、嫌味を隠しきれていないぞ。

まぁ彼女も連邦生徒会長が失踪しててんやわんやの中、普段の業務に加えて先生の対応等もしてるのだろう。

加えて後輩と思われる人物はあの危機感のなさ。

ストレスが溜まって嫌味の一つくらいは言いたくなるわなぁそら。

 

「七神代行、胃薬いります?」

「……いただいておきます。」

 

俺様はポケットから常飲している胃薬を取り出すと、七神代行の手の平に置いた。

 

「どうぞ。……大変っすね、七神代行も。」

「……お気遣いありがとうございます。タツミさん。」

 

俺様がそう言うと、七神代行はほんの少しだけ表情を崩して苦笑した。

七神代行は胃薬をポケットにねじ込むと、踵を返しながら口を開いた。

 

「さぁ、キヴォトスの正常化のため暇を持て余した皆さんの力が今切実に必要です。行きましょう。」

「ちょ、ちょっと待って!どこに行くのよ!?」

 

そう言って歩き出した七神代行を早瀬先輩は引き留めようとする。

……まぁ多分シャーレの部室まで歩いていくんだろうな、ヘリは結局手配出来てないみたいだし。

んで、この流れは戦闘することは確実だろう。

 

「七神代行。ちょっといいすか?」

「……なんでしょう。」

「不良達を鎮圧するのは俺様は構いませんが、戦闘を想定してないので装備が必要最低限しかないんすよ。なので連邦生徒会で貸してもらえると助かるんすけど。」

「……いいでしょう。何が必要ですか?」

「ありがとうございます。えーっと……」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

七神代行の許可を得た俺様は、いつも戦闘時に使っている足りない装備を言おうとすると早瀬先輩が会話に割り込んでくる。

 

「不良の鎮圧ってどういうこと!?なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!?」

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためにはシャーレの部室の奪還が必要だからです。」

「それは分かるけども……!」

「このうるさい方は放っておきましょう。」

「誰がうるさいって!?」

“ゆ、ユウカ……少し落ち着いて”

 

キーッ!と言う効果音が聞こえてきそうな勢いで凄んでいる早瀬先輩に対し、先生が声をかけてなだめている。

 

「それで、何が必要ですか?タツミさん。」

「俺様の武器は見ての通りショットガンなので、普段は盾を構えて戦ってるんすよね。なので体を隠せる程度には大きい盾、ヘルメット、肘当て膝当て辺りすかね。」

「分かりました、用意しましょう。」

 

そう言うと、七神代行は電話を取り出し連絡を取り始めた。とりあえず最低限コレだけあれば充分だ。

普段はサイドアームにハンドガンとか、近接戦闘用にマチェットとかも装備しているんだがそこまで要求するのは流石に面の皮が厚すぎるだろう。

 

「待ってください。」

 

そんなことをボンヤリと考えていると、いつの間にか俺様の横までやってきていた羽川先輩から声がかかる。

 

「……あなたは確か羽川ハスミ先輩でしたっけ?」

「はい。もしかしてですが、あなたも戦闘に参加するつもりなのですか?」

「えぇ、もちろんそのつもりですが?」

「危険すぎます。あなたにはヘイローがありません。しかも武器がショットガンと言うことは最前線と言うことではありませんか?被弾の可能性が高すぎます。」

「私も同意見です。あまりに危険すぎます。」

 

羽川先輩と、これまたいつの間にか隣まで来ていた守月先輩の二人は渋い顔をしながらそう言った。

……なんだ、俺様を見た時に顔を顰めたからゲヘナ嫌いなのかと思ったらちゃんと心配してくれるじゃないか。

と言いつつ、羽川先輩の方はやはり嫌悪感は隠しきれてない様子なのでゲヘナは嫌いだけどそれはそれとして危ないことをしようとしてるやつを見捨ててはおけないって感じだろうか。

 

「羽川先輩。守月先輩。確かに俺様にはヘイローはありませんから皆さんみたいに頑丈ではありません。撃たれたら痛い、では済まないとは思います。」

「でしたら……!」

「心配しないで下さい、大丈夫ですよ。」

 

俺様はそう言うと、相棒のブークリエを肩に担ぐ。

 

「ゲヘナの治安の悪さは知っているでしょう?」

「はい、それはもう野蛮だと聞いています。」

「間違いないですね、道を歩けばすぐ不良と気軽にドンパチ出来るくらいには治安が悪いです。そこで生き残ってきたんです。……死にませんよ、俺様は。」

「……その言葉、信じてもいいんですね?」

「もちろんです。」

 

表情を曇らせる二人に俺様は力強く答える。

 

「伊達にゲヘナで生き残ってないってところ、お見せしますから。」

 

そう言うと、俺様はニヤリと笑みを浮かべてそう言った。

 

「……まぁ多少怪我はすると思うから、その時は火宮!よろしくな!頼りにしてるぜ!」

「はぁ……全くあなたは……」

 

やれやれ、とでも言いたげな表情の火宮。

まぁ銃弾1発で当たりどころが悪ければ即死ではあるが急所は防具で守っているし問題はないだろう。

それに近接戦闘なら肉体強度的にはキヴォトス人よりちょっと弱い程度なので特に問題はないはずだ。

 

「あまり無茶はしないでくださいね?イブキちゃんを悲しませないように。……手当はしますけど。」

「あぁ、わかってるよ。」

「……本当に大丈夫なのですね?」

「はい。それに後ろには羽川先輩と守月先輩もいるじゃないっすか?早瀬先輩もいますし、七神代行……は前線に出るかわかんないすけど、一人じゃないんでね。」

 

そんな話をしているうちに、用意してくれた装備品が届いたようだ。連邦生徒会のマークが入ったヘルメットをかぶり、防弾ゴーグルと肘当て膝当てを装着する。

 

「それにしても、俺様はゲヘナの生徒だってのに羽川先輩も守月先輩も心配してくれるなんて俺様感動して泣きそうですよ。」

「……勘違いしないでください。私が心配したのは貴方がヘイローもなしに戦おうとしていた行為に関してですので。いくらゲヘナと言えど、目の前で死なれるのは正義実現委員会の副委員長として許せません。」

 

……なんかツンデレみたいなこと言うなこの人。

 

「私は特に偏見はないけど……心配してたのはハスミさんと同じ理由です。」

 

守月先輩は特に偏見はないらしい。

 

「まぁそれでも、です。ありがとうございます。あ、先に言っとくと俺様も火宮もトリニティに関してはほぼ偏見なしと言ってもいいんで気軽に接して下さい。」

「よろしくお願いします、ハスミさん。スズミさん。」

「えぇ、よろしくお願いします。タツミさん、チナツさん。」

「……善処はしましょう。」

 

柔らかな笑みを浮かべてそう言う守月先輩に対して、羽川先輩は毅然とした表情でそういった。

……まぁゲヘナとトリニティに関する問題はかなり根が深いからな。無理にフレンドリーになれとは言えない。

戦闘に関する連絡の伝達が阻害されなければ充分だ。

 

「俺様が前に立つからには必ず守ってみせますよ。その代わり、背中は任せますからね?」

「はい、任されました。」

「えぇ、やれるだけのことはやりましょう。」

「私も皆さんをサポートします。」

 

ま、少なくとも守月先輩は安心して背中を預けられそうだし、羽川先輩も正義実現委員会の名にかけて手を抜くことはないだろうし心配はいらんだろう。

そんなことを思いつつ、なんとか早瀬先輩を落ち着かせた先生と共に七神代行の案内で俺様達はシャーレの部室の奪還へと向かうのであった。




イブキの兄って設定なのにイブキの出番が少ない件について
原作に絡ませるとなると難しいんですよね…
日常回でいっぱい出すから許してください!
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