転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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トリニティへ謝罪へ来たタツミの胃の運命は…

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ティーパーティーと丹花タツミ

時刻はお昼時がそろそろ終わるかというところ。

真上から照りつける太陽の日差しがとても温かく、油断したら眠くなっちまいそうな時間帯。

きっとこんな日に縁側なんかで昼寝をしたらさぞ気持ちのいいことだろう。 

 

「……遂にやって来ちまったなぁ。」

 

そんなことを思いつつ、俺様は足を止める。

そして、目の前の建物に視線をやった。

 

俺様の目の前に広がるのは、まるでどこかの宮殿かのごとく豪華絢爛なヨーロッパモチーフの校舎。

その立派な校舎を見あげつつ、俺様はため息を吐いた。

何を隠そう、俺様の前に聳え立つこの立派な校舎は……

トリニティ総合学園。その総本山である。

 

俺様が今日トリニティにやって来た理由はただ1つ。

この前の美食研究会のバカ共がやらかしてくれた、水族館の爆破や建物の被害に対する謝罪をするためだ。

まさかエデン条約の話し合いをする前に、謝罪でトリニティに赴くことになるとは思わなかったが……

 

ちなみにあの後万魔殿に帰って羽沼議長に報告したところ、羽沼議長は白目をむいていた。

まぁ無理もないだろう、エデン条約前で両校の緊張感がピークに達している時期にバカ共がとんでもないことをやらかしてくれたのだから。

その後、羽沼議長が風紀委員会へ美食研究会を二度と檻から出すなと迫っていたがそれはまた別の話。

なお、美食研究会を先生から引き渡された空崎委員長は羽沼議長に詰められて結構シナシナになっていたので、また胃薬を渡してその後の空いた時間でピラフとプリンを作って食べてもらった。

これで少しでも疲れが和らぐといいのだが……

 

それはともかく、今回最初は羽沼議長と共に謝罪へ赴くことになっていたのだが直前になってティーパーティーの方から「万魔殿の議長は結構ですのでタツミさんだけをよこして下さい」との連絡があったそうだ。

しかも、初めの方では正門まで迎えが来る予定が自力でトリニティの校舎を通ってティーパーティーの本部まで来いとのことらしい。

当然、その直後に羽沼議長はティーパーティーに抗議したが聞く耳を持ってもらえなかった。

怒り狂った羽沼議長は「こんな失礼な連中に謝罪など不要だ!」と言っていたが、さすがにここで謝罪を拒否して外交問題にでもなろうものならエデン条約にどんな影響があるか分かったもんじゃない。

そのため、今回俺様はゴネる羽沼議長を半ば無理やり説得する形で単独トリニティへ来たわけだ。

 

羽沼議長はティーパーティーが俺様に危害を加えないか心配してくれていたが、トリニティとてエデン条約の前にゲヘナ生をどうこうしようって考えはないはずだ。

しかも俺様は万魔殿所属、なにかしよう物ならそれこそ外交問題一直線だからな。

心配してくれているのは悪い気はしないが、そこまで気にしなくても大丈夫だろう。

と言うか、多分羽沼議長と一緒だったら開口一番嫌味からスタートするだろうから余計話がこじれかねなかったのでむしろ良かったまである気がする。

 

ま、恐らく帰ったら万魔殿全員からのお説教だろうな……

考えるだけでも憂鬱だが、今は目の前のことに集中するとしておこう。

 

なお、今日の俺様のコンディションは最悪に近い。

そりゃそうだ。ウチの学園の生徒の不祥事の謝罪に来たんだからテンションなど上がるわけがないだろう。

朝起きたときから既に憂鬱だったし、そのせいで朝飯もロクに喉を通らずイブキに心配されてしまった。

それでも身だしなみを整え、重い足取りを引きずって電車に飛び乗り、ここまでなんとかやって来たけど……

 

正直、道中からしてあまり気分のいいものでは無かった。俺様は今回、スクーターではなく電車でトリニティまで来たわけなんだが……

まず、そもそもトリニティにゲヘナの生徒が行くなんてことは滅多にあることではない。

そりゃそうだ。昔から犬猿の仲なんだから。

好き好んでお互いを行き来する生徒は少ないだろう。

そのため、トリニティ総合学園駅に近づくにつれて真っ白な制服を着たトリニティの生徒が電車の中に増えていくんだが……まぁ、目立つわけよ。俺様は。

 

犬猿の仲であるゲヘナの生徒ってことはもちろんだが、ゲヘナの制服ってのは黒を基調としているからな。

そのため、白が基調となっているトリニティの制服を着た生徒の中に混ざると激しく浮いてしまうのだ。

それに、俺様はキヴォトスでも珍しい男子生徒である。

ここまで人の目を引く要素が揃ってると……もう、ここに来るまでにどれだけの人に見られたのか分からねぇ。

好奇、困惑、嘲笑、軽蔑、憎悪、殺意……色々な感情の籠もった視線に晒され続けるのはあまり気分のいいものではなかった。

 

電車の中でさえこれだったのに、トリニティ総合学園駅で電車を降りてトリニティの街中を歩いていると……

まぁ刺さるわ刺さるわ俺様に対する道行く人々の視線。

何ならすれ違った人はおろか、俺様の姿を視認した人全てから視線を向けられていた気さえする。

しかもそのほとんどが例外なく負の感情を含んでいるのだから、胃の痛みは既にピークに達していた。

ゲヘナとトリニティは昔から犬猿の仲であるとは知っているつもりではあったんだがな……

改めて、トリニティにおいてゲヘナはものすごく嫌われてるんだなと実感せざるを得ない。

まるで針の筵である。居心地が良い訳がなかった。

別にトリニティに対してはそこまで偏見を持ってない俺様ではあるんだが、流石にここまで露骨に悪意を向けられると偏見がなくとも参っちまいそうだぜ……

 

あと、なんなら中にはわざわざ俺様に聞こえるように悪口を言ってくる奴もいたからな。

外交問題になってはいけないから我慢したけど、文句があるならコソコソ話してないで直接言いに来いよな……!

ったく……なんで俺様がこんな目に合わなきゃいけないんだよ。クソ……後世まで恨んでやるからな!

覚えとけよ、美食研究会のバカ共が!

 

まぁ、そんなこんながあって好奇や憎悪の視線を浴びつつもトリニティで謝罪のための菓子折りを購入して昼メシを適当に済ませた俺様はトリニティ総合学園までやって来たと言うわけだ。

なお、昼メシに食ったペペロンチーノは当然のごとく緊張で味なんてしなかった。

と言うか何なら値段も目が飛び出る程高かった。

ゲヘナの定食屋の何倍の値段だよあれ……?

流石はトリニティ、お嬢様学校の名は伊達ではない。

 

「見て、ゲヘナの生徒よ。」

「本当だわ……何でゲヘナの生徒がトリニティの校舎の前にいるのかしら?」

「それよりも見て、あのみすぼらしい格好を。あんな野蛮人がが近くにいると私達の気が滅入っちゃうわ。」

「本当に。早く帰ってくれないかしら。」

 

……あー、胃がいてぇなぁ!

まぁとりあえず、いつまでもここに突っ立っているわけにもいかないだろう。

俺様は深くため息を吐き出すと、ポケットから胃薬を取り出してそれを口の中へと流し込む。

 

「……良し、それじゃあ校舎に入るとするか。」

 

そして俺様は深く息を吐き出すと、果てしなく続くトリニティの校舎へと伸びている道に重い足を掛けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ティーパーティーの応接間にて。

学園内に入り、俺様に向けられる視線が一層濃いものになった事を嫌と言うほど感じつつも学園のパンフレットを頼りにティーパーティーの本部まで辿り着いた俺様は、受付のお姉さんから清々しいほどの塩対応を受けてこの応接間に通されていた。

……と言うかガッツリ舌打ちしてたよなあのお姉さん。

いくらゲヘナが嫌いだからって外交の場でそれをやったらだめだと思うんだが……?

 

……話がそれたな。

まぁそんなこんなで応接間に通された俺様は今からパーティーでもやるのかと言うくらい大きなテーブルに備え付けられた、それに負けず劣らずに高級感溢れる椅子に座って天井を見上げると小さく息を吐き出す。

 

(……憂鬱だ。)

 

ふと視線を下に落とすとそこにはティーカップに注がれた赤茶色の液体……紅茶が置かれており、ユラユラとカップの中で揺れる水面が俺様の顔を映し出している。

その向こう側には色とりどりの一口大のケーキやマカロン、スコーンなどのお茶請けがこれでもかというくらいに並べられているが……とてもじゃないけどこの精神状態で手などつけられるはずもなかった。

そして、俺様の正面には二人の女性が紅茶を口にしながら座っている。

 

「……丹花タツミさん。この度はわざわざトリニティまでご足労頂きましてありがとうございます。」

 

そんな事を思いながらキリキリと痛む胃を抑えていると、俺様の真向かいに座っている茶髪の落ち着いた女性からそんな言葉が発せられた。

この人は桐藤ナギサ先輩。ティーパーティーの派閥の一つ、フィリウス分派のリーダーでありティーパーティーの現ホストを務めるトリニティの生徒会長である。

俺様も詳しくは分からないけどティーパーティーってのは各分派のリーダーが実質的な生徒会長らしく、その最高決定者の事をホストって呼ぶらしい。

その現ホストである桐藤先輩は俺様に対して視線を向けて、軽く笑顔を浮かべながら頭を少し下げてくる。

 

「いえ、こちらこそウチの美食研究会が大変なご迷惑をおかけいたしまして……誠に申し訳ございません。」

 

そんな桐藤先輩に対して俺様は粛々と頭を下げた。

 

「頭を上げてくださいタツミさん。今回の事は指名手配中のテロリストのやった事ですからね。それに、エデン条約の前に大きな波風を立てるのは得策とは……」

「……ねぇ、それで謝ってるつもりなの?ゲヘナのお猿さんはとりあえず頭を下げれば良いと思ってるのかな?」

 

桐藤先輩が穏やかな口調でそう言っていると、急に横から桐藤先輩の横に座ってマカロンをつついていたもう一人のピンクの髪の女性が口を挟んできた。

この人はティーパーティーの派閥の一つ、パテル派閥のリーダーを務める聖園ミカ先輩だ。

そして……彼女は筋金入りの【ゲヘナ嫌い】でもある。

その証拠に先ほどから俺様をゴミを見るような目で見ているし、何なら応接間に入ってきた瞬間に「うわっ……」って言われたからな。

 

……まぁ別に内心でゲヘナの事をどんなに嫌ってようがボロカスに貶めようがそれは個人の自由だし好きにすれば良いとは思うんだけど、それを態度に出すのは外交の場においては良くないのでは……と思わなくもない。

とは言え、今回は美食研究会がド派手に暴れてくれたせいで結構な範囲に被害が出てしまっているからな。

ただでさてゲヘナ嫌いなのに、そのゲヘナに所属している生徒がトリニティで大暴れして建物や道路を破壊しましたなんてそりゃ許せるはずもないだろう。

クソ、マジで覚えてろよあのバカ四人組……!

 

ちなみに、ティーパーティーにはもう一人分派のリーダーが居るらしいのだがその人は今回はどうしても外せない用事のため欠席とのことだった。

まぁそれは別に構わないんだけど、エデン条約の会議でさえ頑なに出てこなかったティーパーティーのホストが今回顔を見せたのは何か理由があるんだろうか……?

 

「ミカさん!失礼ですよ!?」

「いえ……聖園先輩のお怒りはご尤もです、桐藤先輩。」

 

桐藤先輩は飲んでいた紅茶のカップを音を立てて置くと血相を変えて聖園先輩にそう言うが、俺様は静かにそう言葉を発した。

……まぁ今は政治の話はいい。謝罪の事だけ考えよう。

それに……聖園先輩の気持ちは俺様も理解出来ない訳じゃないからな。

そもそも今回の件は全面的にゲヘナが悪いので、ボロカスに言われても仕方がない。

そう思った俺様は、聖園先輩に対して頭を下げる。

 

「聖園先輩。この度はウチの生徒のせいでトリニティに多大なご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ありませんでした。」

「……ふーん?もっと食って掛かってくると思ってたけど随分と物分かりが良いんだね?ま、流石に腐っても生徒会所属ってところかな?」

 

聖園先輩はマカロンを一つ口に放り込むと、紅茶のカップを口に付ける。

 

「……で、今回の件だけどどう責任を取ってくれるの?キミの所の生徒のおかげでアクアリウムは大損害だし、街や道路にも被害が出てるんだよ?あーあ、私あのアクアリウム好きだったのになー?」

 

そして彼女は紅茶のカップを置き、ケーキをつつきながら俺様に対して鋭い眼光を向けてくる。

……そう、美食研究会がゴールドマグロとか言う魚を強奪するためにトリニティの市街地にあったアクアリウムを爆破したせいでそのアクアリウムはほぼ半壊とか言うとんでもない被害を受けてしまっていたのだ。

そんな被害を受けたら営業再開までにどれだけの時間を費やすか分かったものではないからな……聖園先輩が怒るのも無理はないだろう。

俺様は聖園先輩の視線から逃げずに真正面から視線をぶつけ返すと、口を開く。

 

「その件につきましては大変申し訳ございませんでしたとしか言えません……つきましては、アクアリウムや建物の修理費用等は万魔殿に請求していただきたく。」

「……そうですね。テロリストの仕業とは言え私達としても被害を被っている形になりますので、ここはお言葉に甘えさせていただくとしましょう。」

 

このままではマズいと思ったのか、苦笑いを浮かべた桐藤先輩がすかさずフォローを入れてくれる。

なんか、聖園先輩がめっちゃ敵対心を隠そうともしないからかその対比で桐藤先輩の対応が神に見えてくるな……

桐藤先輩はこちらが修理費用を持つことに対しても申し訳なさそうな顔をしているが、こちらとしても当然アクアリウムや道路を破壊した弁償をしなければいけない。

それに、破壊した分の弁償をしないなら何のために今回謝罪に来たんだよって話だからな。

そこはゲヘナ学園と言う【組織】としての責任を取るという意味でも、言い値を払うべきだろう。

 

「では、こちらの口座にこれから私の言う金額を……」

「は?修理費用?ゲヘナは今回の事を単なるお金の問題だと思ってるのかな?」

 

そう言って桐藤先輩が懐から1枚の紙を取り出そうとした瞬間、隣の聖園先輩から冷え切った声でそんな言葉が俺様に対して投げかけられた。

その瞬間、ただでさえ重苦しい場の雰囲気が凍りつく。

 

「……いえ、そういう訳ではありませんが。」

 

聖園先輩の隣で紅茶のティーカップを持ちながらぷるぷると震える桐藤先輩に心の中で合掌しつつ、俺様は聖園先輩に対してそう言った。

 

「へー?じゃあどういう問題だと思ってるの?トリニティはゲヘナ側がテロリストの動向を把握してなかったせいで被害を被ってるんだよ?それをキミはお金を払ってはいおしまいで済ませようとしてるって事だよね?」

 

俺様を絶対零度の視線で睨みつけつつ、スコーンをかじりながらそう言う聖園先輩。

 

「あははっ☆……ねぇ、トリニティを舐めてるの?」

 

聖園先輩の声がさらに冷える。

いや、別に舐めてるつもりは全くないんだけどな……?

と言うか聖園先輩さっきからいくら何でも言い方にトゲがありすぎやしないか……?

 

……とは言え、ここで何か言い返したところで彼女を余計にヒートアップさせるだけだ。

俺様とてここまで言われて何も思わない訳では無いが、この場はあくまでも謝罪の場。

被害者であるトリニティの代表に、加害者であるゲヘナの代表である俺様が謝罪を行なうための場なんだ。

ここは相手の怒りを全面的に認めて謝罪するしかない。

 

「……申し訳ありません。」

「あのね、謝るだけならゲヘナでも出来るんだよ?……あっ、ごめんごめん!キミはゲヘナだったじゃんね☆」

「ミカさんっ!」

「ナギちゃんは黙ってて。今回の件はこいつらにしっかり責任を取らせなきゃダメなんだから。」

「それはそうかもしれませんけれど、もっと言い方と言うものがあるでしょう!?」

「大体何で私がゲヘナに気を遣わなきゃいけないの?そもそも悪いことしてるのはゲヘナなんだしさー。」

 

目の前で「めんどくさいなぁ」と言わんばかりの表情を浮かべる聖園先輩と、それに対して血相を変えて食ってかかる桐藤先輩。

……なんか、桐藤先輩ってもしかしてかなりお労しい人なのでは?

なんというか、苦労人属性をひしひしと感じる。

 

この会議の後に胃薬でも渡してみようかな?

案外空崎委員長みたいに喜んでくれるかもしれないし。

……まぁ、花の女子高生が胃薬で喜ぶってのも大概な話ではあるんだけども。

 

(あー……胃がキリキリして来た……)

 

俺様は胃の痛みを誤魔化すように、目の前のティーカップを手にとって紅茶を一口胃の中へと流し込む。

……うん、味がしねぇや。どうやら俺様が思っている以上に緊張とストレスがかかっているらしい。

 

「で、何とか言ったらどうなのゲヘナの野蛮人くん?」

 

そんな痛む胃を抑えながら目の前のやり取りを眺めていると、不意に聖園先輩が俺様にそう問いかけてくる。

 

「……万魔殿、ひいてはゲヘナ側としてはもちろんお金の問題だけではなくきちんと誠意を見せるべきだと考えております。」

「へー?じゃあゲヘナの考える誠意はこれなんだ?キミ1人でノコノコやってきて、こんな安っぽい菓子折り一つ持ってきて頭を下げるだけがゲヘナの考える誠意って言うんだ?ふーーーん?」

 

俺様の持ってきた菓子折りの箱を拳でコンコンと叩きつつ、マカロンを口へ放り込む聖園先輩。

……いや、一人でノコノコつっーかそもそも俺様一人で来いって言ったのはそっちなんだが?

と言うかその菓子折りはわざわざトリニティに電車で早めに来て、トリニティの名店で買ったやつなんだぞ……!

そもそもいくらしたと思ってんだよその菓子折り!

そりゃトリニティのお嬢様にとってははした金でしかないかもしれないが、その菓子折り代がありゃいくつイブキのプリンが買えると思ってんだ……!?

せっかくゲヘナの菓子折りじゃ口に合わないとダメだからって思ってトリニティで用意したのに、その言い草は流石にあんまりじゃねぇかよ……!

 

……しかも、桐藤先輩は俺様だけ来た時にびっくりした様子だったしこの感じだと多分一人で来いって言い出したのは桐藤先輩じゃなくて聖園先輩だろうからな。

いくらゲヘナが憎いからといってやって良いことと悪いことはあるんだぞ……!

……と本来なら言いたいところだが、非常に言いたいところではあるがエデン条約前のこの時期に下手にティーパーティーと揉めるわけには行かないのもまた事実。

幸い桐藤先輩は良識のある人のようだし……ここは聖園先輩を刺激しない様にひたすら謝るしか無いだろう。

 

「……申し訳ありません。」

「あのさ、さっきも言ったけど謝るだけならバカでも出来るんだよ?私は誠意を見せてって言ってるの?分かる?分かんないかなー?」

 

……まぁ誠意を見せろっていうのは分かるんだけど、聖園先輩の思う誠意が分からない以上は見せようがないのもまた事実なわけで。

俺様とて今回の件は全面的にゲヘナの落ち度だからもちろんこうして謝りに来ているし、それに壊れた建物の弁償もしっかりとさせてもらうつもりではある。

けど、謝罪でもないしお金でもないとなれば聖園先輩の思う誠意とは一体何なんだろうか……?

 

「ミカさんっ!タツミさんは指名手配のテロリストのやった事のためにゲヘナから赴いてくださっているのですよ!?本来であればタツミさんが謝ることも、この謝罪の場ですら必要ないことです!それでもエデン条約前だと言うこともあるからわざわざゲヘナから来てくださっているというのに、それを貴方は……!」

「まぁまぁそう怒んないでよナギちゃん。……ねぇ、君のせいでナギちゃんに怒られちゃったんだけど?」

 

俺様がそんな事を考えていると、とうとう痺れを切らしたらしい桐藤先輩が大声でそう叫ぶ。

が、聖園先輩はどこ吹く風と言った様子で紅茶を飲みながらケーキを食べつつ嫌味を継続して来た。

……いや、それは俺様のせいじゃないだろどう考えても。

あんたの自業自得だよ、聖園先輩。

 

「まったくこれだからゲヘナは……大体今回の件もそうだけどゲヘナはさー……」

 

そう言って全く詫びれる様子もなく茶菓子をパクつきながらマシンガントークを繰り出す聖園先輩。

……なんかさっきから既視感があるなと思ったらアレだ。

聖園先輩、外交の場での態度がウチの羽沼議長とそっくりなんだわコレ。

羽沼議長も筋金入りのトリニティ嫌いだから、トリニティとの会談では口を開いたら嫌味しか言わないし態度もふてぶてしくて敵対心を隠そうともしないからな。

……いや、ほんとにこれ羽沼議長を指名されなくて逆に良かったまであるんじゃないか?

何故俺様を指名されたのかは良くわからないけど、ここに羽沼議長が居たらエデン条約が破綻するどころか下手すりゃゲヘナとトリニティで開戦しかねなかったぞ。

不幸中の幸い、と言うやつだろう。

まぁ俺様とてここでキレてエデン条約を台無しにするつもりは毛頭ないんだけど、これは桐藤先輩からしたらたまったもんじゃないだろうな……

 

……つか、よくよく考えたら聖園先輩ケーキとかマカロン食いすぎじゃね?

流石に羽川先輩ほどではないけど、この時間にそんなに茶菓子を食うと体重計に乗るのが怖くなっちまうぞ?

 

「いい加減にしなさいミカさん!」

 

そんな事を考えていると、紅茶のティーカップを置いた桐藤先輩がテーブルを叩きながら立ち上がった。

 

「ミカさん!今は私とタツミさんが話し合いをしているのですよ!?それなのにさっきからずっと!!横でぶつぶつぶつぶつと!!!」

 

桐藤先輩は椅子から立ち上がると、聖園先輩に向かってずんずんと距離を詰めていく。

その顔は怒りに満ちており、まさに阿修羅の如きだ。

 

「そもそもタツミさんが事前に美食研究会を取り締まるためにトリニティへ訪れようとした時も、ティーパーティーに事前連絡してくださったのに貴方の一存で勝手に連絡を切るし……!」

 

……やっぱ、あの電話口の対応は聖園先輩だったんだな。

 

「今回だって本来であればマコト議長と当事者のタツミさんに来てもらう予定だったのに、貴方が「議長じゃなくて下っ端の方が心置きなくサンドバッグに出来るじゃんね☆」等というふざけた理由で勝手にタツミさん一人を呼びつけて、それを直前まで黙っているし……!」

 

……いや、流石にやらかしすぎでは?聖園先輩。

どんだけゲヘナが憎いんだよ。

それともティーパーティーの仕事でストレスでも溜まっているのだろうか?

ならいい胃薬があるんすけど聖園先輩もキメときます?

 

「ミカさん!貴方のゲヘナ嫌いは良く理解しているつもりですが、だからと言って今回の件はいくら何でもやり過ぎですよ!?」

「な、ナギちゃん……?何もそんなに怒らなくても……」

「今までは大目に見てきましたが、今日と言う今日はもう許しませんからね!?さぁ、その小さなお口にロールケーキをぶち込んで差し上げましょう!」

 

桐藤先輩は目を吊り上げてそう言うと、テーブルの上においてあった一本のロールケーキを手に取った。

そしてそれを聖園先輩目掛けて勢い良く叩きつけたかと思うと、口の中にロールケーキをねじ込んで行く。

 

「もご……!?もごごごごっ!」

 

口の中にロールケーキをねじ込まれた聖園先輩は目を見開き、何か言いたげに口を動かすがそれはロールケーキに寄って遮られてうめき声のみがその場に響き渡る。

 

「しばらくそこで反省してなさいっ!まったく……!」

 

桐藤先輩は額に青筋を浮かべながらそう言うと、音を立てて椅子へと着席した。

……なぁ、これって謝罪の場だよな?

それなのにティーパーティーのホストが分派のリーダーの口にロールケーキを突っ込む場面を見せられているんだが……一体どういうことなんだ?

 

「ふぅ……さて、それでは改めてお話を続けましょうか。タツミさん?」

(……え、この流れで話すんの?)

 

椅子に着席して紅茶を一口飲み、スッキリしたような笑みを浮かべながら俺様に言葉をかけてくる桐藤先輩。

そんな桐藤先輩の隣でもごもごと口を動かし、手をバタバタとさせながら目に涙を浮かべる聖園先輩。

 

(……吐きそう。)

 

俺様はそんな彼女達を見つつ、冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“コハル、ここの数式はこの計算式を使って……”

「な、なによこれぇ……こんなの覚えたって正義実現委員会の仕事では何の役にも立たないわよっ!」

“そうかもしれないけど、コハル達が合格するためにはきちんと覚えないとダメだからね……私も頑張るからさ、一緒に頑張ろう?”

「うぅ……わかんないし難しい……つまんないわよぉ……」

「ん?ヒフミ、ハナコの姿を見なかったか?」

「あぁアズサちゃん。何でもハナコちゃんなら野暮用があるとかで今日は大聖堂へ行っているらしいですよ。」

「野暮用か……なら詮索するのは無粋だろうな。」

「何かハナコちゃんにご用があるのですか?」

「いや、またテストの範囲の勉強を見てもらいたいと思ってな……けどハナコにも都合があるだろう。帰ってきてから頼むとしよう。」

「あっ、ならそれまでは私ができる範囲でアズサちゃんの勉強を見てあげますよ!アズサちゃんの勉強している範囲は1年生の範囲のはずなので、それなら私でも教えられると思います!」

「そうか?なら頼む、ヒフミ。」

「はい、任せて下さい!」

“(うんうん、皆順調に身についてきてるみたいだね。)”

“(そう言えばふと思い出したんだけど、今日はマコトとタツミがトリニティに謝罪に来るって言ってような……?ナギサはともかくミカは筋金入りのゲヘナ嫌いだから何事もなく無事に終わると良いんだけど……)”

“(なんだろう、ものすごくタツミがシナシナになっている予感がする……また後でモモトークで様子を確認しておこうかな……?)”

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