転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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ゲヘナに戻って来てのお話になります


温泉開発部と丹花タツミ

「書類仕事が終わんねぇんだが……?」

 

時刻は既に深夜を回ろうかというところ。

今日も今日とて俺様は万魔殿の執務室にて、山のように積み上がった書類の処理を行っていた。

最近書類仕事多すぎんだろ……エデン条約関連の書類に加えて、普段万魔殿で処理してるものやあのアホ議長が風紀委員会に押し付けているものも含めるとかなりの量になっているんだが。

特にエデン条約関連の書類が多いな……まぁ、調印式もそう遠くない話なので仕方ないんだけど。

今度ETОの話し合いをするために連邦生徒会にも行ってこないと行けないし、調印式が近づくに比例して万魔殿に流れてくる仕事の量も多くなってきているしな……

棗先輩や京極先輩とも一緒にやってはいるんだが、そろそろキャパオーバーしそうだ。

 

「……ったく、面倒くせぇな。」

 

すっかり冷え切ったコーヒーを啜りつつ、俺様はボンヤリとしながらそう呟いた。

 

あのトリニティへの謝罪行脚から少し立つ。

結局、賠償自体は俺様からのティーパーティーへの謝罪と美食研究会が爆破した水族館を始めとする建物の修理費の支払いを万魔殿が行うと言う形で決着が付いたので、先日ティーパーティーの口座にはしっかりと耳を揃えて請求金額を入金しておいた。

先方も受け取って確認してくれたようなので、とりあえず美食研究会の一件は完全に解決したと言えるだろう。

 

トリニティに行った時は敵意や憎悪の籠もった視線を常に向けられてゲンナリしていたのは記憶に新しいが、そんな中でも桐藤先輩や浦和先輩、シスターフッドのようなゲヘナだからと言うだけで差別をしない人達との出会いと言う嬉しい出来事もあったので、俺様としてはそこまで悪くなかったかなーとは思っている。

エデン条約関連でまたトリニティに行った時は、是非彼女達に手土産でも持って遊びに行くとしよう。

 

なお、その時にモモトークを交換したシスターの若葉先輩からは定期的にモモトークが来るようになった。

話す内容は今日は何をしていたかとか、夕飯のメニューが何だったかなど他愛のないものだけどなんやかんやでわりと楽しくトークさせてもらっている。

モモトークと言えば羽川先輩からのスイーツ談義やら、シュン教官の愚痴やら、ココナ教官からの「次はいつ来れますか?」等で最近は通知でパンパンになっていることが多いからマメに返すようにしねぇとな……

最近はエデン条約の事で忙しくて梅花園へ顔を出せる頻度も減っちまってるし、今度また顔を出すとしよう。

 

ちなみに、トリニティへの謝罪を終えて万魔殿に帰ってからの方がどっちかと言うと大変だった。

あ、もちろん聖園先輩の事は濁して伝えてあるぞ。

エデン条約の前にティーパーティーと揉め事は勘弁だからな。

 

その後はトリニティに変なことをされてないか聞いてくる羽沼議長を落ち着かせたり、何故か不機嫌な棗先輩から一緒にサボることを強要されたり、何処かむすっとした京極先輩から膝枕を所望されたのでやってあげたりした。

なお、そんな中でも元宮先輩だけはいつも通り元気に週刊万魔殿のネタを探し回っていた。何故か俺様を取材するとか行ってしばらく付きまとわれてたけど。

あとイブキからはなでなで3時間を要求されたので、3時間と言わずに5時間撫でてやるとそれはもうニッコニコになっていて大変可愛かった。やっぱイブキは最高だな!

うぉぉぉぉ!イブキ最高!イブキ最高!

 

ゴホン。

 

あと、この事は風紀委員会にも報告しておいた。

空崎委員長はシナシナになりながら労いの言葉をかけてくれたが、最近はまた休めていないようだからな……

エデン条約の前のこの時期に美食研究会が暴れてくれたことで心労がたたっていると見える。

今度、また愛清先輩に厨房を借りて胃に優しくて栄養のある物でも作ってあげるとしよう。

なお、天雨行政官はいつも通りギャーギャーと元気だったし、銀鏡先輩とは模擬戦の約束したし、何故かやたら距離の近い火宮からは心配の言葉をもらった。

いつもの風紀委員会って感じで少し安心だな。

 

ちなみに、玄龍門の竜華先輩や錬丹術研究会の薬子先輩とも申谷カイの件でモモトークで連絡を取り合っているがあれから申谷が仕掛けてくる気配は今のところないらしい。

竜華先輩の話によると、どうやら山海経は月影祭と言う伝統の祭りの準備でこれから忙しくなるらしいのであちらはあちらで大変そうではあるがな。

月影祭はエデン条約の調印式の少しあとに開催されるらしいので、落ち着いたらイブキを連れて行ってやるのもありかもしれない。

山海経の祭りってくらいだからさぞ美味いもんが食えそうだし、祭りには玄武商会も店を出すらしいからな。

……まぁともかく、申谷がこちらの対応出来ない時期を狙って仕掛けてこないことを祈る。

 

「はぁ……とにかく、とっとと書類を終わらせちまわないと。日付が変わるまでには寮に帰らないと明日に響くからな……」

 

俺様はそう言って頬を叩いて気合を入れなおすと、書類を片付けるためにペンを握った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……結局こんな時間になっちまったな。」

 

万魔殿から寮への帰り道を歩きつつ、そう独りごちる。

俺様は手にしたスマホのディスプレイに表示された01:00と言う数字を見つつ、ため息を吐き出していた。

 

結局、あれから猛スピードで積み上がっていた書類の山を崩していった俺様だが日付が変わるまでに……とは行かずに全て終わったのは日付を超えてからであった。

まぁ超えちまったもんは仕方ないので、処理した書類を机の処理済みの引き出しにぶち込んだ俺様は万魔殿をサッサと飛び出して寮までの道を歩いて今に至る。

 

「あー……晩メシなににっすかなぁ……」

 

何気なく星の浮かぶ空を見上げつつ、俺様は今晩の夕飯のメニューを考え始めた。

まぁこの時間からなら手の込んだ物はなしとして……手軽に作れるぶっかけうどん辺りがいいかもしれんな。

今の時間的に夕飯ってよりはもはや夜食なので、腹に優しいほうがいいかもしれねぇし。

イブキが一緒ならもっと手の込んだものを作るんだけど、イブキはもう寝ちまってるしだろうし俺様しか食わねぇなら多少適当でも誰も文句は言わんしな。

よし決めた!今日の夕飯はぶっかけうどんにするぞ!

 

「……ん?」

 

そんな事を考えながらひたすら寮へと続く道を歩いている時だった。

何やら、ざわざわとした騒がしさを俺様は感じ取る。

 

「この時間に珍しいな?」

 

いくらゲヘナが日頃からアホ共がドンパチやってる自治区とは言え、流石に深夜帯のこの時間は不良達も寝静まっているのでそこまで騒がしくないことが多い。

まぁそれも昼に比べたらってだけで、この前の美食研究会みたいに深夜にド派手に問題を起こすやつも居るには居るんだが……

それにしたって、この騒がしさは異常だ。

昼と同じか、もしかしたらそれ以上のものを感じる。

 

「ったく、なんだってんだ?」

 

俺様は首をひねりつつ、この騒がしさの元を探るために周囲をぐるっと見渡してみると……

何やら、腕に風紀委員会の腕章を巻いた生徒達が慌ただしく動き回っている姿が遠目に確認出来た。

場所はどうやら風紀委員会の本部付近のようだ。

 

「……また美食研究会が何かやらかしたか?」

 

とは言え、あいつらはこの前のトリニティでの一件でまだ風紀委員会の牢屋で軟禁状態のはずだが……

そんなことを思いながら風紀委員会の本部まで足を進めると、先ほどまではざわざわとした騒がしさだったものが風紀委員会達の怒号や焦った声に変わっていく。

 

「くそっ!なんだってこんな時間に……!」

「言っててもしょうがないだろ!早く武器を持って鎮圧に向かわないと!」

「A班はこっちに集合だ!集まり次第現場へ向かうぞ!」

「うぅ……何で私が夜勤の日に限っていっつもこんな……」

 

風紀委員達のうちある女子は呆れたような、ある女子は困ったような、またある女子は額に怒りマークを浮かべながらドタバタと出動準備を整えているようだった。

……これはもう聞くまでもない、何かがあったんだろう。

そう判断した俺様はキョロキョロと周囲を見渡すと、バタバタと慌ただしく動く風紀委員達に指示を飛ばしている銀鏡先輩の姿を発見した。

 

「B班は編成を急いでくれ!C班は編成が終わったらそのまま現地へ!D班はなるべく医療行為の出来る人員で固めて後方支援に徹するように!」

 

テキパキと指示を出しつつ、自分もいつも使っている銃の動作チェックを行っている銀鏡先輩。

俺様は銀鏡先輩に近寄ると、そのまま声をかけた。

 

「お疲れ様です、銀鏡先輩。」

「えっ?た、タツミ!?」

 

俺様に声をかけられた銀鏡先輩は勢い良くこちらを振り向くと、目を見開いてそう言った。

 

「な、なんでタツミがこんな時間に……?」

「いや、万魔殿で書類仕事してたんすけど量が多すぎてこんな時間になっちまいましてね……んで、やっとこさ終わったんで帰ろうと思ったら風紀委員会が騒がしかったもんですから寄ってみた次第です。」

「そ、そうか……大変だなお前も。」

「いえ……銀鏡先輩は夜勤ですか?」

「あぁ、これで3連続で夜勤だな……」

「それは……お疲れ様です。」

 

俺様と銀鏡先輩はお互いに顔を見合わせると苦笑する。

 

「……って、お喋りをしてる場合じゃない!早く部隊を編成して現地へ向かわないと!」

 

ハッとした表情で銀鏡先輩はそう言うと、再びバタバタと出動の準備を始める。

 

「……銀鏡先輩、一体何があったんですか?」

「あぁ……それがどうも温泉開発部の連中がゲヘナの市街地のど真ん中を派手に爆発させてくれたみたいで……」

「うわぁ……それは……お疲れ様です。」

 

苦虫を噛み潰したような表情でそう言う銀鏡先輩に対して、俺様は痛くなってきた頭を押さえながら答えた。

 

温泉開発部。

ゲヘナ学園の部活動の一つだ。

その名の通り温泉を開発することを目的としており、これだけならまだ健全な部活動と言えるだろう。

 

ただ連中はその方法が薬でもやってんのかってくらいイカれており、温泉を開発するためならそこが市街地だろうが他校の自治区だろうが問答無用で爆破し、ショベルカーやブルドーザーなどの重機を使って更地にしていってしまうのだ。

もはや異常としか言えない熱意と、温泉を掘り当てる過程で起こる被害なんて知ったこっちゃないと言わんばかりの規模の破壊活動は当然ながら風紀委員会の悩みのタネであり、美食研究会と同様にテロリストとしてキヴォトス中に指名手配されている程だ。

しかも美食研究会とは違い温泉開発部は部員が多く、下手したら風紀委員会の部隊と張り合えるだけの人数を揃えていてもおかしくないレベルと厄介極まりない。

 

まぁ、早い話が今回の一件はテロリストがゲヘナの市街地を爆破しているせいで夜勤の風紀委員達が鎮圧へ向かおうとしていると言うことらしい。

うーん実にゲヘナだ。実家のような安心感を感じる。

 

「とりあえず寝ていたアコちゃんを叩き起こして今は部隊の編成をしてもらってる。それと、この前の美食研究会みたいにトリニティ自治区まで行かれるとマズいから、トリニティとの校区の境目には検問を敷いて街全体に外出禁止令を出したらしい。今通信が入った。」

 

銀鏡先輩が無線機の通信を聞きながらそう言う。

寝てるのに叩き起こされた天雨行政官がブチギレているのが目に浮かぶが、対応は流石としか言いようがない。

この前美食研究会がトリニティで問題を起こしたのに、ここで更に温泉開発部までトリニティで問題を起こしたとなると最悪エデン条約がおじゃんになりかねない。

トリニティとの校区の境目に検問を敷くのは当然だし、外出禁止令も民間人に被害を出さないためのもの。

やっぱり、なんやかんやで天雨行政官って優秀なんだよな……伊達に風紀委員会のナンバー2を務めては居ない。

あとは、空崎委員長が絡むとポンコツになるのさえ無ければ頼りになるんだがなぁ……

……ま、今度天雨行政官にも何か栄養のあるものを作ってあげるとしようかね。

 

「とりあえず事情は把握しました、そういう事なら俺様も手伝いますよ銀鏡先輩。」

 

俺様はブークリエにマガジンを差し込み、チャージングハンドルを引きつつそう言った。

 

「えっ?で、でもお前は仕事が終わって今から帰るところなんだろ?」

「まぁそうですけど、こんなバタバタしてる風紀委員会を見て何もしないってのは俺様の性分に合いません。」

「まぁそりゃタツミが手伝ってくれるならめちゃくちゃありがたいし、アコちゃんや皆も喜ぶだろうけどさ……明日も朝早いんじゃないのか?」

「……そうですね、もし寝坊したら温泉開発部の部長にでも責任を取ってもらうとします。」

 

チャージングハンドルを少し引きチャンバーに弾丸が送り込まれているのを確認しつつそう伝える。

 

「で、でも悪いよ……」

「銀鏡先輩。俺様がこう言い出したら聞かないのはあなたなら分かるでしょう?」

「……はぁ。全く、後悔しても知らないからな?」

 

呆れたような、それでいて何処か嬉しそうな笑顔を浮かべながら銀鏡先輩はそう言う。

そして、握り拳を作ると俺様へと突き出して来た。

 

「はい、望むところですよ!」

 

俺様はそれを見て口元を吊り上げて笑うと、銀鏡先輩から突き出された拳に自分の拳を突き合わせる。

 

「よし、行くぞタツミ!」

「了解です!温泉開発部部の連中をボコボコにしてやりましょう、銀鏡先輩!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

現場に到着した俺様達が見たもの、それは地獄だった。

あちこちで仕掛けられた爆弾が作動して建物や道路が紙くずのように木っ端微塵に吹き飛ぶ。

絶えず銃声が鳴り響き、ツンと鼻を突く火薬の匂いが辺り一面に充満する。

 

「ヒャッハー!開発だ開発だァ!」

「そこ掘れワンワン!温泉が出るぞー!」

「うぉぉぉぉ!私のブルドーザーが火を噴くぜぇ!」

 

目の前では白いヘルメットにタンクトップを着た温泉開発部の部員どもが銃を乱射したり、ショベルカーやブルドーザーを操縦して街を破壊している。

ビルや民家等が次々となぎ倒され、あっという間に周囲はどんどん更地になっていって行く。

現場に到着した俺様と銀鏡先輩達風紀委員会の部隊は、そのあまりにも規模のデカすぎる破壊行為にしばし唖然としていたが……

 

「……銀鏡先輩。」

「あぁ、分かってる。」

 

俺様と銀鏡先輩はお互いに顔を見合わせて頷くと、それぞれの武器を構える。

 

「風紀委員会、戦闘準備!」

 

銀鏡先輩が力の限り大声で叫ぶ。

その声を聞き、俺様達の後ろに居る風紀委員会の部隊も全員が手にした銃を構えて温泉開発部を睨みつける。

 

「目標は目の前の温泉開発部だ!あいつらを1人残らず取っ捕まえて牢屋送りにするぞ!いいな!?」

「「「「「おぉぉぉぉーっ!!!」」」」」

 

それぞれが手にした武器を大きく上に掲げ、腹の底から大声を出して温泉開発部を威嚇する。

俺様も折りたたみシールドを展開して構えると、声を上げながら温泉開発部を睨みつけた。

 

「な、なんだ!?」

「ふ、風紀委員会だ!風紀委員会の奴らが来たぞ!」

「またぁ!?ちっ、なんで私達に気持ちよく温泉開発させないんだよ!」

「ふんっ、返り討ちにしてやるよっ!」

 

そんな俺様達を温泉開発部の連中も視認したようで、連中も手にした銃の銃口を俺様達へと向けてきた。

少しの間だけ睨み合いが続いたあと……銀鏡先輩が口をひらく。

 

「行くぞ!風紀委員会、突撃ッ!」

 

そして、銀鏡先輩のそんな号令と共に戦いの火蓋が切って落とされた。

俺様はその言葉とともに地面を蹴って駆け出すと、飛んでくる銃弾を盾で防ぎながら前へ前へ進んでいく。

そして盾を地面に突き立てると、少しだけ盾から体を出してブークリエの引き金を引いた。

炸裂する火薬の爆発音と共に、数人の温泉開発部の部員が地面へと倒れていく。

その戦闘を皮切りに、風紀委員会と温泉開発部の部員達が正面から衝突する。

 

「お、おい!しっかりしろ!」

「盾にショットガンって……も、もしかして丹花タツミ!?」

「丹花タツミだって!?そんなの聞いてないよ!?」

「ハッ、当たり前だろ!テロリストを鎮圧するのにご丁寧に知らせるバカがどこにいんだよ!」

 

俺様はそう言いつつ、盾を少し持ち上げてすり足でゆっくりと前進を始める。

 

「前は俺様が引き受けます!」

「分かった!援護は私に任せろ!」

 

風紀委員会の今の陣形だが、俺様が盾を構えて一番前でヘイト役を引き受けている状態。

で、その俺様の横にはショットガンを手にした前衛の風紀委員達が広がってポジションを取っており、そのすぐ後ろから銀鏡先輩を初めとする射程距離の長い武器を所持しているメンバーが固めているといった形だ。

 

「チィ、数が多すぎんだろ!」

 

盾と遮蔽物の隙間から顔を出した俺様は目の前に布陣する温泉開発部の人数を確認してそう吐き捨てた。

その理由はいたってシンプル。

目の前で俺様達に抵抗する温泉開発部の人員は、ここからざっと見積もっても一個中隊規模の物だったからだ。

つまり120人弱は下らない……と言うことだな。

対するこちらの風紀委員達は夜勤中と言うこともあって一個中隊規模の部隊の編成は出来ていないので、必然的に人数ではこちらが負けているということになる。

恐らく人数で言えば50人にも満たないだろう。

戦力差は歴然だ。

 

いくら相手が温泉開発に特化した部活とは言え、温泉開発部は日頃から風紀委員会とやり合ってる部員達が大勢所属している部活でもあるのだ。

つまり、戦闘力で言えばゲヘナでも上澄みの部類に入るわけで……

更に言うと温泉開発部はショベルカーやブルドーザー等の重機類も所持しているので、それらを活用してくるであろう事も予想できる。

そんな連中に対してこの戦力差……苦戦は必須だ。

 

「クソ、数だけ無駄に揃えやがって!」

 

とは言え、こちらには銀鏡先輩も居るので気をつけていたら平の部員に蹂躙されることはないだろう。

銀鏡先輩はもちろん風紀委員会の部員達だって日頃からゲヘナのテロリストを相手にしている猛者達だし、俺様とて温泉開発部の平部員に負けるようなヤワな鍛え方はしていない。

一つ問題があるとすれば、温泉開発部の最高戦力である火炎放射器を持ったあの女が現れるとキツいことだが……

 

「ハーッハッハッハッハ!!!」

 

飛来する銃弾を盾で防ぎつつそんな事を考えていると、突如その場に緊張した空気にそぐわない高らかな笑い声が鳴り響いた。

 

「この声は……!」

「やぁやぁ!良く来てくれたな風紀委員会の諸君!我が温泉開発部の開発現場へようこそ!」

 

銀鏡先輩が苦虫を噛み潰したような声を絞り出しつつ、声の主へ向かって鋭い視線を向ける。

俺様もそれに習って盾から少しだけ顔を出して様子を窺うと、そこには白衣を羽織った小柄な女がドヤ顔を浮かべながら仁王立ちしていた。

……間違いない、温泉開発部部長の鬼怒川カスミだ。

その隣には赤髪を揺らし、巨大な火炎放射器を担いでニコニコしながらこちらを見据えている下倉メグの姿も見える。

 

「鬼怒川カスミ……!」

「……まぁ、そりゃ居るよなぁ。」

 

鬼の形相で鬼怒川を睨みつける銀鏡先輩の横で、俺様は冷や汗を流しつつそう言葉を零した。

まぁ、そりゃこれだけの人数でビルや建物を爆破してくれてるんだ。当然、ここまで大規模なら現場の指揮を執る人間が居て然るべきだとは思っていたが……

 

「鬼怒川てめぇ……!毎回毎回懲りずに街をぶっ壊しやがって!今日と言う今日は許さねぇぞ!」

「ん?おぉタツミではないか!今日も風紀委員会の仕事の手伝いとは精が出るな!流石は名誉風紀委員だ、その名は伊達ではないということか?」

 

おい誰が名誉風紀委員だ!俺様は万魔殿所属だぞ!

そりゃ風紀委員会の事を手伝う機会は多いけどよ……!

 

「やっほータツミくん!この前戦った時以来だね!」

 

そんな事を考えていると、俺様に気がついた様子の下倉が明るい口調でそんな言葉を投げかけて来た。

 

「下倉……!」

 

下倉メグ。温泉開発部の副部長兼現場での作業班長を務める赤髪の女だ。

コイツの獲物は背中に背負った巨大な火炎放射器。

そこから炎を出して敵を攻撃するのだが、その火炎放射器での攻撃というのを俺様はとても苦手としている。

 

その理由としては銃から放たれる弾丸や爆弾などの爆発物は盾を使えばある程度防ぐことは可能だが、炎だけはいくら盾をかざしても防ぐことが不可能だからである。

それどころか、炎を受けると盾が持てないほど熱されて盾を放棄するしかなくなるし受け止めたところで結局後ろに攻撃は通ってしまうからな。

遮蔽物に隠れれば炎を防ぐこと自体は可能だが、そうなると俺様のスタイルである後衛を守りながら前線を押し上げるって戦法を取れなくなってしまう。

そういう訳で、俺様はこの下倉と戦うことを大の苦手としているのだ。天敵と言ってもいい。

 

正直、部長の鬼怒川はそこまでの脅威ではない。

口と頭は回るが戦闘の腕はそんなにないので、奴の話術に付き合わずに力付くで拘束しちまえばいい話だ。

そのため、今回温泉開発部を鎮圧できるかは全てこの下倉との戦いにかかっていると言ってもいいだろう。

 

「ハーハッハッハ!今日の私は一味違うぞ!何故なら、今日の風紀委員会の夜勤シフトにヒナ委員長が入っていないのは確認済みなのだからな!」

 

そんな事を考えていると、鬼怒川は大声で笑いながら腕を組みつつドヤ顔でそう言い放った。

……そういや、鬼怒川は空崎委員長を一目見ただけで顔をクシャクシャにして泣き出すくらいには空崎委員長を苦手としているんだったな。

よりにもよって空崎委員長が休んでいるであろう時にこんな事をしでかしやがって……いや、それか空崎委員長が休みの時を狙われた可能性も考慮すべきか?

いずれにせよ、この時間なら空崎委員長は既に寮に帰って明日に備えて睡眠を取っている事が予想される。

空崎委員長がいれば温泉開発部の制圧は容易いだろうが、普段あれだけ頑張っている空崎委員長を就寝中に呼び出すなんて鬼畜じみた真似が出来るわけがなく……

ここは、俺様と銀鏡先輩。そして風紀委員会の面々で対応するしか道はない。

 

「ハーッハッハッハ!ヒナ委員長のいない風紀委員会など恐るるに足らないのだよ!」

「……へぇ?言うじゃねぇか鬼怒川。俺様がこの前お前をボコボコにしたのを忘れたわけじゃないよなぁ?」

「あ、あれは油断していただけだ!私が本気を出せば君に負けるわけがないだろう!?」

「ハッ、口だけなら何とでも言えるだろうが!」

 

ドン!と盾を地面に叩きつけながら俺様は叫ぶ。

鬼怒川はそれを見て少し顔を顰めた。

 

「やれやれ、相変わらず元気の良いことだよ……さて、じゃあお喋りはこの辺りにしておこう。我らの温泉開発の邪魔はさせないぞ、風紀委員会!」

「望むところだ!お前たち全員とっ捕まえて牢屋で反省してもらうからな、温泉開発部!」

 

銀鏡先輩と鬼怒川がお互いに声を張り上げる。

その声を聞き、風紀委員会と温泉開発部の部員達の士気が向上し戦闘がますます激化していく。

お互いの部員の怒号や悲鳴、痛みをこらえる声が戦場に木霊する。

 

「数はこちらのほうが上だ!押しつぶしてしまえ!」

「ハッ!頭数だけ揃えても上が無能なら烏合の衆でしか無いってことを教えてやるよ、鬼怒川ァ!」

「言ってくれるねタツミ……!メグ、頼んだよ!」

「はいはーい!部長の命令だよ〜!みんな突撃!温泉開発のため、風紀委員会を燃やし尽くせ〜!」

 

下倉の号令と共に、一気に前線付近の温泉開発部が俺様達の陣形の目の前まで距離を詰めてくる。

俺様は盾を構えて体を隠しつつ、近寄ってくる温泉開発部の部員をブークリエで片っ端から叩きのめしていく。

 

「俺様がいる以上ここから先へ進めると思うなよ!」

「うーん、やっぱりこれじゃタツミくんを突破できなさそうだね……それじゃ、私が出ようかな!」

 

下倉は明るい声でニコニコしながらそう言うと、手にした火炎放射器の発射機構のトリガーに指をかけると俺様の前へと躍り出てくる。

 

「来るぞタツミ!メグはなるべく私が引き受ける!」

「はい、お願いします銀鏡先輩!」

 

その発言を聞き、俺様は盾を勢い良く持ち上げると飛んでくる銃弾を防ぎながら近くの遮蔽物へと滑り込む。

直後、俺様の先ほどまで立っていた位置を下倉の火炎放射器から発射させた炎が通過する。

 

「タツミがどいたぞ!今だ、なだれ込め!」

「チィ!そうは行くかよ!」

 

俺様が遮蔽物に身を隠したことにより空いたスペースに温泉開発部の部員が突入しようとする。

しかしそこには下倉との相性を考慮してカバーに入ってくれていた銀鏡先輩がいたため、突撃してきた温泉開発部の部員と銀鏡先輩が衝突する。

俺様は遮蔽物から素早く飛び出すと盾で温泉開発部の部員をぶん殴り、銀鏡先輩の前に出ると続いてブークリエの銃口を敵に向けて引き金を引く。

ブークリエから放たれた散弾は怯んだ温泉開発部の部員に当たり、そのまま地面へと案内する。

 

「よし、ナイスだタツミ!」

「銀鏡先輩こそ!」

 

銀鏡先輩と顔を見合わせ、軽くハイタッチする。

やっぱり一緒に戦ってて思うけど、銀鏡先輩は俺様の意図を汲んだり弱点をカバーする動きをしてくれるから非常に頼りになる。

 

「さぁ!こっから先へは一歩も通さねぇぞ!」

「くっ、やはりタツミが厄介だな……!」

「うーん、こうなったら私が直接やるしかないかな?」

 

盾が銃弾を防ぐ金属音に混じってそんな声が聞こえてくるが、俺様はなるべくポジションをキープするべく盾のレバーを引いて盾をその場に固定させる。

そして、必要最低限のみ顔を出しながらブークリエで近寄ってくる温泉開発部の部員を叩き伏せる。

俺様の横ではショットガンを構えた風紀委員会の前衛担当が必死に持ちこたえており、後ろからはアサルトライフルや狙撃銃による援護が飛んできている。

 

『イオリ!聞こえますか!?』

「アコちゃん!?」

 

俺様が状況を整理しつつ歯を食いしばって必死に前線を維持していると、俺様のすぐ後ろで援護をしてくれていた銀鏡先輩の通信機から天雨行政官の声が響いた。

 

『そちらの戦況は!?』

「タツミも手伝ってくれてるから今は何とかなってるけどカスミとメグも居るし、ショベルカーやブルドーザーを持ち出されるとマズいかもしれない!」

『くっ、なんと厄介な……!分かりました、すぐに動ける人員を集めて援軍を……えっ、美食研究会が牢屋から脱走したぁ!?』

「なんだって!?」

 

銃声に交じり、天雨行政官の絶叫が聞こえる。

ってか、今美食研究会が牢屋から脱走したとか言ってなかったか!?

クソ、ただでさえこっちは大変なのになんてことしてくれてんだあのバカ共……!

 

『くっ……温泉開発部の対応に人員を割きすぎましたかね……!?すみませんイオリにタツミ!美食研究会の方も追いかけなければならないので、もうしばらくなんとか持ちこたえてください!行けそうですか!?』

「分かりました!任せてください天雨行政官!」

「分かった!なんとかするよアコちゃん!」

『すみませんがお願いします!美食研究会のほうが片付き次第、そちらに援軍を送りますので!』

 

そう言い残し、天雨行政官との通信が切れる。

……まぁ仕方ない。流石に美食研究会を野放しにしてまた問題を起こされるのも面倒だからな。

チィ、次から次へとこの問題児どもが……!

 

「さぁタツミ、踏ん張りどきだぞ!」

「言われなくてもッ!」

 

俺様と銀鏡先輩は顔を見合わせると、お互いに歯をむき出しにして笑い合う。

 

「ハーッハッハッハ!さぁ、このまま押し切るぞ!」

「行くよ〜タツミくん!突撃隊長さん!」

「上等だ!お前ら全員ボコボコにしてやるよッ!!!」

 

鬼怒川が高笑いし、下倉が火炎放射器を構える。

俺様はブークリエのマガジンを交換してチャージングハンドルを引くと、銃口を奴らへ向けて引き金を引いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

“美食研究会のみんな……?”

「ごきげんよう先生、みなさん。奇遇ですね。ここで何をされているのですか?」

「え、えっとその……私達は試験を受けるためにゲヘナに行かないといけないんです……!」

「……?トリニティの試験をゲヘナで、ですか?」

“……信じられないかもしれないけど、事実なんだ。”

「……なるほど、詳しくは分かりませんがとにかくゲヘナへ行かなければならないのですね?」

“うん。”

「分かりました。そういう事ならば協力致しましょう、先生。丁度心優しいフウカさんが車を貸してくれていることですし……ね?」

「んーっ!?んんんーっ!?」

“……ハルナ、申し出はありがたいけどそれはそれとして後でお説教だからね?”

「ふふっ、お説教はタツミさんからで充分ですわよ先生?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うわあぁぁぁぁぁっ!?」

「何なんですか何なんですか!?一体どうしてこんなことに!?」

「トリニティのあなた!バイクの運転上手だね!」

「いっぱいいっぱいなんですけどぉぉぉ!?」

「ちょっと揺らさないでヒフミ!照準が合わないっ!」

「わ、私が揺らしてるんじゃありませんよぉ!」

「と言うかショベルカーにブルドーザーまで来てるわよ!?温泉開発部にまで追われてない!?」

「そ、それどころか風紀委員会も来てますよ!?」

『こちらチームブラボー、チームアルファ、応答せよ。』

「あ、アズサちゃん!?」

『名前を言われると隠語の意味がない……それはそれとしてごめん。陽動作戦は失敗した、こっちは包囲された……と言うよりは戦闘中の集団に突っ込んでしまった。』

「はいぃ!?」

『前方には火炎放射器を持った温泉開発部、後方にはやたら強いツインテールの風紀委員。それと……盾とショットガンを持った、前に美食研究会の水族館襲撃の時に会った丹花タツミもいる。この状況はまずい。』

「えっ、丹花タツミ!?」

“タツミが……!?”

『ハナコと私はなんとか自力で逃げるから、後で落ち合おう。幸運を祈る。』

「あ、アズサ!?ちょっと!?」

「わ、私たちはあくまで試験を受けに来ただけなのに……どうしてこんなことになってるんですかぁぁぁ!!?」

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