転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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深夜のゲヘナでトリニティの生徒との密会回です

いつもたくさんの感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます!これからも頑張ります!


補習授業部と丹花タツミ

「ハーッハッハッハ!いいぞいいぞ!このまま押し切ってしまえー!」

「行くよ!ショベルカー部隊発進!」

「まずい!ショベルカーが出てきたぞ!?」

「ブルドーザーの次はショベルカーかよ!?生身の人間にそんなもん持ち出してくんじゃねぇボケェ!」

 

あれからの温泉開発部との戦いは熾烈を極めた。

ただでさえ数で負けてるこちらは終始押されており、俺様と銀鏡先輩が最前線で体を張ることでどうにかこうにか陣形を維持していた。

温泉開発部の連中は人海戦術だけではこちらを崩せないと判断したのか、まずはブルドーザー部隊を投入。

俺様と銀鏡先輩は協力してブルドーザーを運転している部員を撃破し、さらには風紀委員会の50mm迫撃砲の支援爆撃もありどうにかブルドーザー部隊を無力化。

……したと思ったら、今度は目の前に数機のショベルカーが現れて唸りを上げて俺様達に近寄ってくる。

 

「擲弾兵!次弾装填を急いでくれ!」

「はいっ!目標はショベルカーでいいですか!?」

「あぁ、それでいい!デカいのを頼むぞ!」

「了解しましたっ!」

 

中々攻勢に出られない状況に焦りが徐々に生まれてきているものの、ここで冷静さを失ってはいけない。

熱くなってもいいけど、落ち着いて判断はすべきだろう。

それに、何よりも特筆すべき事態が一つあって……

 

「うわぁ!?なんだこのガスマスクの女は!?」

「あ、あっちには水着の女もいるぞ!?」

「ガスマスクはともかく戦場に水着を着てきているってなんだよ!?気でも触れてるのか!?」

 

温泉開発部の連中がワーワーと騒ぐ声が聞こえる。

その理由はシンプルで、俺様達風紀委員会と温泉開発部との戦闘中にいきなり乱入者が現れたのだ。

 

その乱入者は片方はガスマスクを被って顔を隠した背中に羽の生えた女の子と、もう片方は戦場に水着を着て現れたクレイジーすぎる女性だ。

見れば見るほどあの二人の意味のわからない格好に頭がイカれそうになるけど、現状あの二人は温泉開発部に攻撃を仕掛けて戦闘を行っている様子だ。

 

「おい!?なんなんだあの二人は!?いきなり爆発と一緒に私たちの間に飛び込んできたと思ったら温泉開発部と戦い始めたぞ!?味方なのか!?」

「分かりませんけど、とても声をかけられる状態ではなさそうですね……!」

 

銀鏡先輩は混乱したような声でそう言い、それに対して俺様は冷や汗をかきつつそう答える。

……ってかあの二人、どこかで見覚えがあるような?

特に水着を着た女性の方は最近何処かで会った気がするが……あの胸のロゴ、もしかしてトリニティの……っ!?

 

「あぁっ!?」

 

思い出した!あの水着の女性、トリニティの補習授業部の浦和ハナコ先輩じゃねえか!?

クソ!トリニティの大聖堂で会ったときのインパクトが強すぎたのにすっかり忘れちまってたぜ……!

その隣の女の子も思い出した、確か浦和先輩と同じく補習授業部に所属している白州アズサ先輩だったはずだ。

 

……いや、そもそもなんでトリニティの生徒がゲヘナの自治区にいて、しかも温泉開発部と戦ってるんだよ!?

どういう事だ!?まるで意味が分からんぞ!?

 

「こちらチームブラボー、チームアルファ、応答せよ。」

 

そんな考えが頭をぐるぐると駆け巡っていると、白州先輩は通信機を取り出して誰かと連絡を取っている様だ。

意味のわからない状況に頭が混乱しそうになるが、盾が銃弾を防ぐ音を聞きハッと我に返る。

ともかく、事情は後で問い詰めるとして今は温泉開発部をなんとかしないと話を聞くことすら出来ない。

幸いあの二人は温泉開発部の方に攻撃を仕掛けてヘイトを分散してくれているので、攻勢に出るなら今がこれ以上無いチャンスだろう。

 

「銀鏡先輩!あのほしゅ……二人が何者なのかは分かりませんけど、とにかく気を引いてくれてるなら今がチャンスです!畳み掛けましょう!」

 

まさか正直にトリニティの生徒というわけにもいかない俺様は言葉を濁しつつ銀鏡先輩にそう叫ぶ。

今日、万魔殿にも風紀委員会にもトリニティの生徒がゲヘナへ来るという連絡は入っていないので恐らくはあの二人は無断でゲヘナに侵入して来ているはずだ。

補習授業部は先生がバックについているので何の理由もなくエデン条約前のこの時期にゲヘナに侵入するなんてことは考えられないが、傍から見ればそんなのは知ったこっちゃないからな。

トリニティの生徒が無断でゲヘナに侵入して、テロリストとは言えゲヘナの生徒に攻撃を仕掛けている。

これだけで外交問題を引き起こしかねないわけで……

ともかく、温泉開発部を何とかして何が何でもあの二人には事情を話してもらう必要があるだろう。

 

「わ、分かった!擲弾兵、次弾は撃てそうか!?」

 

そんな俺様の声を聞いた銀鏡先輩はハッとなったような表情になると、慌てて通信機に手をかけてそう言う。

 

「はい、装填完了してます!いつでも行けますっ!」

「よし!じゃあ発射してくれ!」

「了解しました!」

 

銀鏡先輩の合図とともに、俺様達の少し後ろに築かれた野営地から爆音が鳴り響いた。

発射された迫撃砲は弧を描いて俺様達を通過すると、前方のショベルカーのうちの一つに直撃する。

直後、すさまじい爆風と熱気が辺りを包み込むと迫撃砲を食らったショベルカーは爆発炎上を始めた。

 

「ショベルカーがぁ!?おのれ風紀委員会!いくらすると思っているんだ!お前たちは血も涙もないのか!?」

「うるせぇ鬼怒川!だったらさっさと撤退すればいいだろうが!」

「くっ……メグ、タツミを何とか出来ないか!?このままではいつまでも陣形を崩せそうにないぞ!?」

「ごめん部長、そうしたいのは山々なんだけどこっちに攻撃をしてきてるあのガスマスクちゃんと水着ちゃんが厄介でさ〜。ほっとくと被害が出そうなんだよね。」

 

下倉はガスマスクを被ってちょこまかと動き回りつつゲリラ戦を展開する白州先輩と、その後ろから的確に支援を行う浦和先輩の2人に手を焼いているようでこちらまでは手がまわらない様子だった。

よし、目の上のたんこぶである下倉があちらに気を取られている状況なら前に出れるぞ!

俺様は盾を持ち上げ、そのままジリジリと前進する。

 

「銀鏡先輩!前へ出ます!」

「分かった!風紀委員会前進!温泉開発部を押しつぶすぞ!」

「「「おぉぉーっ!!!」」」

 

俺様が前に出たのを皮切りに、風紀委員会の部員達も陣形を維持しつつ徐々に前線を押し上げていく。

温泉開発部の部員達はそれに気圧されたのか、ジリジリと戦線を後ろへ後退させていた。

徐々に形勢が風紀委員会の有利に傾いていく。

そして、後退していく温泉開発部の部員達を守るようにショベルカーが俺様の前に立ち塞がった。

 

「ショベルカーが……!」

「ここから先へは行かせないぞ風紀委員会!」

 

ショベルカーの操縦手はそう叫ぶと、機械音とともに勢い良くショベルを振り下ろす。

狙いは……前線の風紀委員会の部員か!

俺様は必死に走ってその風紀委員とショベルカーの間に立つと、振り下ろされたショベルカーの攻撃を盾を掲げて真正面から受け止めた。

 

ーーーガギャァァァン!!!ーーー

 

「ぐっ!?」

 

凄まじい轟音とともに襲ってくる、体が地面に埋まってしまいそうなほどの衝撃。

俺様はその衝撃を歯を食いしばってなんとか耐え、ショベルカーの攻撃を盾を滑らせて受け流すとブークリエの銃口をショベルカーの操縦手へと向ける。

 

「邪魔だ!そのまま寝てろ!」

 

そして、そのまま引き金を引く。

耳元で鳴り響く火薬の爆発音と共に、散弾を食らったショベルカーの操縦手はそのままその場で蹲る。

 

「大丈夫か!?」

「うん!ありがとうタツミくん!」

 

俺様は狙われた風紀委員に声をかけるが、風紀委員からは笑顔でそんな返事が返ってきた。

よし、怪我がないようでなによりだ。

 

「ハッ、重機を持ち出した程度で俺様を突破できると思わないことだな鬼怒川ァ!!!」

「な、なんなんだあいつは!?ショベルカーの攻撃を盾一つで受け流しただと!?ほ、本当にタツミにはヘイローがないんだろうな!?」

「どうするの部長!?このままだとマズいよ!」

「風紀委員会が勢いを増してきた……それにあの謎の二人組も……!」

 

ショベルカーを無力化し前進してくる風紀委員会、白州先輩と浦和先輩の仕掛けるゲリラ戦、そして後ろからは風紀委員会の50mm迫撃砲が雨あられと温泉開発部の陣地に降り注ぎ着実に数の差を埋めていく。

そんな状況では鬼怒川の先ほどまでの余裕もどこへやら、額に汗を浮かべて苦悶の表情を浮かべていた。

 

「……仕方ない、撤退するぞメグ!」

 

鬼怒川は少し考え込んでいたが、やがて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると撤退を決断したようだ。

 

「分かった!みんな、部長から撤退命令が出たよ!殿は私がやるから撤退を開始しよう!」

 

撤退命令を受けた下倉が温泉開発部の部員達にそう指示を出すと、温泉開発部は背を向けて一斉に撤退を開始する。

 

「温泉開発部の諸君!今は悔しいが退くとしようじゃないか!生きて帰れたらまた開発はできるからな!」

「逃がすかっ!風紀委員会、追撃するぞ!」

 

撤退を始めた温泉開発部に対し、銀鏡先輩がそう叫ぶと風紀委員会の部員達が追撃戦を開始する。

俺様を追い越しつつ、陣形をそのまま維持しながら風紀委員達はものすごい勢いで温泉開発部を追っていく。

 

「タツミ、メグが殿を務めてるみたいだから私が先行するぞ!」

「分かりました、あとから続きます!」

「あぁ、頼む!」

 

そう言うと、銀鏡先輩は最前線へと躍り出るとそのまま殿の下倉と戦闘を開始した。……恐らくだけど、このまま行けば温泉開発部は無事鎮圧できるだろう。

こちらには迫撃砲もあるし、何よりも銀鏡先輩が居る。

俺様は戦闘スタイルが基本的に盾で何でも防ぐって戦術だから炎を使って攻撃してくる下倉と相性が良くないだけで、彼女なら下倉に遅れは取らないだろう。

火炎放射器の炎も銀鏡先輩ほどの実力者なら上手く躱しながら戦えるはずだ。

 

そんな事を考えていると、視界の端にチラッと白州先輩が素早い動きで俺様へと近寄って来るのが映り込む。

俺様は思わずそちらを向くと、白州先輩は銃を下ろしながらこちらへと走り寄ってきていた。

 

……どうする?結果的に温泉開発部と一緒に戦ってくれたとは言え、彼女達は不法にゲヘナに侵入している立場なのには変わりはないわけで。

それに風紀委員会の手前もあるし、今風紀委員会は温泉開発部の対応で手一杯とは言えあまり友好的に接するのも良くないだろう。

俺様は彼女たちの正体を知っているが、風紀委員会視点だと正体不明の二人組なのだから。

 

「……っ、動くな!」

 

どうするかかなり迷ったが、やはり風紀委員会の手前友好的に接するのはあまり良くない。

そう判断した俺様はあくまでも正体不明の勢力として接するため、白州先輩に銃を向けて威嚇する。

 

「温泉開発部を攻撃してくれたことは感謝するけど、正体が分からない以上は……!」

「……タツミ、ハナコからの伝言だ。落ち着いたら1人でゲヘナ自治区15エリア77番街まで来てほしい。そこで事情の説明をする、とのことだ。」

「え、浦和先輩から……!?」

 

俺様はその言葉を聞き、思わず浦和先輩に目をやる。

浦和先輩は俺様と目が合うと、軽く頷いた。

……何だか分からないが、事情を説明してもらえるならそれ以上にありがたいことはないのは確かだけども。

 

チラリと銀鏡先輩や風紀委員達を横目で確認するが、みんな温泉開発部の追撃戦に集中しているようで白州先輩とのやり取りは見られていないようだった。

みんな前のめりになって突撃しているため、後から続くと言った俺様の位置が風紀委員の部隊から少し離れているのも功を奏したのだろう。

 

……なら、ここは一旦見逃したほうがいいか?

浦和先輩のことだから約束を放棄して逃げるなんてことをするとは思えないし、かと言って口封じのために俺様を誘い出すような罠を打つとも考えにくい。

それに、仮に逃げたとしたらトリニティや先生に苦情を入れればいい話ではあるけど……

 

「……分かりました、後で向かいます。」

 

色々な考えが頭を巡るが、ひとまず浦和先輩を信じることにした俺様は白州先輩にそう伝える。

ここは一旦見逃すとしよう。

あとで銀鏡先輩にこの二人のことを聞かれたら追撃戦の途中で見失ったとでも答えておけば大丈夫なはずだ。

 

「感謝する。では、私達は離脱させてもらう。」

「えぇ、気をつけて。」

 

俺様は白州先輩と顔を見合わせて互いに頷くと、そのまま白州先輩は浦和先輩を連れて撤退していった。

……どんな理由があるのかは分からないけど、後で指定された地区まで向かうとしよう。

そんな事を考えつつ、まずは温泉開発部を鎮圧するために俺様は盾を構えて追撃戦に合流するのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あれから無事に温泉開発部を鎮圧し、鬼怒川や下倉を牢屋にブチ込んだ俺様は銀鏡先輩や風紀委員会と共に事後処理を終わらせると戦闘の最中に浦和先輩と白州先輩から伝えられた番地へと1人で大急ぎで向かっていた。

ちなみに温泉開発部との戦闘中に牢屋から脱走したらしい美食研究会だが、死んだ声をした天雨行政官からそのまま逃げ切られてしまったと連絡が入って来た。

まぁ天雨行政官も寝起きだし、しかも深夜ということもあってまともな対応なんて出来てない状態だからな……仕方ないと言う他無いだろう。

今度会ったら覚悟しとけよあの美食バカ共……!

 

なお、銀鏡先輩と天雨行政官にはこれから予定があるのを思い出したと言って離脱してきた。

こんな時間から予定って何するんだ?って詰められたのでかなり強引に誤魔化してしまったから、明日会ったときに追及されないか心配だが……

まぁ、明日までに言い訳を考えておくことにする。

 

「さて……ゲヘナ自治区15エリア77番街だったっけ?」

 

浦和先輩から伝えられた番地を復唱しつつ、俺様はひたすら足を動かして前へ進む。

それにしても、ゲヘナ自治区の15エリアって言えば昔大規模な戦闘があって復興が全然進んでおらず、今は瓦礫と廃屋しか無いゴーストタウンと化しているはずだ。

そのためゲヘナに住んでる人間でもほとんど立ち寄らないくらいには人の気配がしない地区なんだが……

まぁトリニティ側の事情を聞くのであれば多少込み入った話になるかもしれないし、人の気配のしないエリアを指定してくるのは自然なことではあるかもしれんけど。

 

「相変わらずこの辺は人の気配がしねぇな……」

 

そろそろ15エリアに差し掛かろうかと言う所で、俺様はそう呟いた。

周りを見ると暗闇に紛れて街灯がまばらに点灯しているのみで、あとは不気味なくらいの静けさと真っ暗な暗闇がどこまでも続いている。

ため息をつきつつスマホの時刻を見ると、既に時間は深夜の3時半を回っていた。

こりゃ明日は寝坊確定どころか、下手すりゃ帰っても寝る時間がないまであるんだが……?

クソ、恨むぞ温泉開発部……!

 

「さて、そろそろ指定した番地に付くが……」

「うふふ♡お待ちしていました、タツミくん。」

 

そして、77番街に差し掛かったときだった。

俺様の背後から聞き覚えのある声が掛けられる。

 

「……どうも、浦和先輩。」

「ふふ、きちんと来てくださってありがとうございます。タツミくん。」

 

声のする方に素早く振り向くと、そこには先ほどの水着から制服に着替えている浦和先輩の姿があった。

その後ろには銃を携えた白州先輩、補習授業部の残りのメンバーである阿慈谷先輩と下江の2人。

そして、スーツを着た大人の女性……補習授業部の顧問である先生の姿もあった。

 

“やぁ、こんばんはタツミ。”

「先生……こんな深夜まで仕事してて大丈夫なのか?」

“それはお互い様じゃない?”

「……まぁそれもそうだな。おかげさまで明日は寝不足確定だよ。」

“あはは……まぁ、私もそうなりそうだけどね。”

 

俺様と先生はお互いに苦笑するとため息を吐いた。

今度よく効く栄養ドリンクでも渡しておくとしよう。

俺様も今日は帰ったら飲んどかねぇとなぁ……

 

「な、何だかすごい疲れてるみたいだけど……大丈夫?」

「あぁ……さっきまで温泉開発部と戦って、その事後処理もしてたからな……そっからすぐにここまで飛んできてるから疲れてないと言えば嘘になるが……ま、平気だろ。」

「えぇ……?どんだけ忙しいのよゲヘナの生徒会って……」

 

下江は俺様の話を聞くと、少し引いたようにそう言う。

仕方ねぇだろ、俺様だって好きで馬車馬のように働いてるわけではねぇんだよ。

まぁ、いつもこんなに忙しい訳では無いしエデン条約が終わったら少しは落ち着くとは思うんだけどな。

……まぁ、今はそんな事はどうでもいい。

 

「さて……じゃあ説明してもらいましょうか?何故トリニティの部活である補習授業部が、ゲヘナに何の連絡も無しに侵入して来たのかについて。」

 

俺様は一呼吸置くと、真剣な顔でそう切り出した。

そう。俺様が寮に帰ってベッドにダイブしたい気持ちを抑え、重い体を引きずってわざわざこんな場所まで来たのは今回補習授業部が何の連絡もなしにゲヘナに侵入して来た理由を知りたいからである。

 

まぁ補習授業部は目的からして政治からは遠そうな集団だし、温泉開発部と戦闘してたのもやむを得ない理由っぽそうではあるんだけど万魔殿に所属している身としては黙って見逃すってわけにも行かないからな。

と言ってもエデン条約前にトリニティと揉め事を起こすなんてまっぴらごめんだから、よっぽど下らない理由じゃない限りは見逃すつもりではあるけど。

それ以前にゲヘナとトリニティの境目の地区では両校の生徒によるイザコザなんて数え切れないくらいにはあるわけだし……

ま、今回のこれが正義実現委員会やティーパーティーみたいな政治的に影響力の強い集団なら今からアホ議長を叩き起こす必要はあっただろうけどな。

 

「分かりました、それは私から説明します。」

 

そんな事を考えていると、真剣な表情を浮かべて補習授業部の部長である阿慈谷先輩が前へと出てくる。

 

「分かりました、お願いします阿慈谷先輩。」

「はい、実は……」

 

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「……と言うわけなんです。」

「なるほど、事情は大体把握しました。」

 

それから、俺様は阿慈谷先輩より今回補習授業部の面々が何故ゲヘナに侵入して来たかの説明を受けていた。

 

まず阿慈谷先輩達補習授業部のメンバーは第二次特別学力試験なるものを受けるために一週間の合宿を行い、学力を強化して今日という日を迎えた。

ところが、トリニティの掲示板を確認してみると昨日になって突然試験範囲の拡大、合格ラインの引き上げ、試験会場の変更などが行われた……と言うことらしい。

で、元々はトリニティ内部で試験を行う予定だったのが何故か指定された場所がゲヘナだったため、やむを得ずゲヘナに侵入する過程でこうなってしまった……と。

 

補習授業部の面々は3回ある特別学力試験に合格しないとトリニティからの退学を言い渡されているらしい。

退学と言えば前世においてもかなり重たい問題ではあるんだが、ただ単に学校へ行く権利を失うだけの前世とここキヴォトスにおいては退学の意味は全く異なる。

 

学園がそれぞれの自治区を運営しているここキヴォトスにおいては、所属している学校の学生証が前世で言う国籍や身分証明書の代わりのような役割を果たしているからだ。

学生証がないと銀行口座も作れないし、ヴァルキューレから職質を受けた時に学生証を提示できないと問答無用で任意同行を言い渡されるくらいだからな。

 

だから退学処置なんてのは人権を剥奪する行為と同等なのだ。それこそ、山海経の申谷カイのように学校を破滅に追い込むくらいの問題行動を起こした生徒にしか適応されないはずなんだが……

どうやら、シャーレの超法的権限を利用されたらしくこのまま試験に合格できないと本当に阿慈谷先輩達はトリニティを退学することになってしまうらしい。

たかが試験の結果が悪かっただけで、留年をすっ飛ばして退学まで言い渡すなんてのはどう考えもやり過ぎだ。

 

実際、今回の第二次学力試験は試験範囲の拡大や合格ラインの引き上げによって浦和先輩以外は不合格になってしまったとのことだ。

まったく、とんでもねぇことをしやがる。

 

「分かりました、そういう事なら今回の件については俺様は何も見なかったと言うことにしておきます。」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 

俺様がそう言うと、ものすごい勢いで頭を下げてくる阿慈谷先輩。いや、別に感謝されるような事では無い。

そもそも阿慈谷先輩達補習授業部はどっちかと言うと直前になって会場を変更された被害者だし、自分達の退学がかかっているとなればそりゃ余裕もなくなるだろう。

それに補習授業部はゲヘナに潜り込んで政治的にどうこうしようって気は全くなく、ただテストを受けに来ただけのようだからな。

なら、特に問題視する必要はないだろう。

 

「それにしても、トリニティの裏切り者……ねぇ。」

 

先生や阿慈谷先輩、浦和先輩の話によると現ティーパーティーのホストである桐藤ナギサ先輩はエデン条約を阻止しようとするスパイがトリニティ内部に存在することを掴んだらしく、その候補者が集められているのが補習授業部……と言うことらしい。

つまり、早い話がスパイ疑惑のある連中はまとめて退学にしてしまえば良くね?ってことで結成された、補習授業とは名ばかりの部活ってことだな。

直前になっての試験範囲の拡大と言い、合格ラインの引き上げと言い、今回の試験会場をゲヘナにしたことと言い、桐藤先輩がどんな手を使ってでもスパイを排除したいと言う思考が透けて見える。

 

けど、これはいくらなんでもやり方が強引すぎるだろ。

阿慈谷先輩の話によると、桐藤先輩は普段ならこんなに独裁的な判断をするような人ではないとの事だし……

俺様から見ても、とてもじゃないけどこんな事をするような人には思えなかった。

一体どんな思惑があるのかは知らないけども、相当エデン条約の前で疑心暗鬼になっているんだろうなということはうかがい知れる。

逆を返せばそれだけエデン条約を結ぶことに固執しているとも言えるから、多少問題があっても調印式を無事に迎えることが出来そうって言うのは朗報だが。

 

「……それにしても、良かったんすか?阿慈谷先輩。」

「えっ?何がですか?」

「いや……俺様はゲヘナの、しかも生徒会に所属してるんすよ?政治の最前線に立って仕事をしてる立場の人間です。そんな立場の人間に、こんなトリニティの内部事情をペラペラと明かしてしまうとまずいんじゃ?」

 

まぁ、それを知ったところで俺様がどうこうできるってわけでもないんだがな。

けど仮にも俺様はゲヘナの万魔殿に所属している政敵であって、補習授業部がここまで事情を明かす必要はないと思うんだけど……

もし、俺様がこの事を羽沼議長に包み隠さずに伝えたらどうするつもりだったんだろうか?

絶対面倒なことになるから意地でも言わねぇけど。

 

「うふふ、それは私から提案しました。」

「……浦和先輩がですか?」

 

俺様がそう考えつつ首を傾げていると、浦和先輩が一歩前に出て来つつそう言った。

 

「はい。今回私がタツミくんをここに呼び出したのは先ほどヒフミちゃんが仰ったことを伝えるためです。」

「えぇ、しっかりと聞かせてもらいましたよ。」

「正直、タツミくんに全てを伝えるかは悩みました。タツミくんはゲヘナの所属ですし、ここに来るまでに先生を含めた私たち5人でどこまで話すかを相談していたのですが……」

 

浦和先輩はそう言うと、一呼吸置いて話を続ける。

 

「ふと、前にタツミくんがトリニティに来て私に会ったときに言ってた事を思い出しまして。」

「俺様が前に言ってたこと……?」

「前に大聖堂でお会いしたときに言ってたじゃないですか、「政治ってめんどくさい」と。」

「……あぁ、そう言えば言いましたね。そんな事も。」

 

まぁ実際政治って面倒くさいからな……

ゲヘナとトリニティだって昔からの因縁がなくて、政治的にもっと仲が良ければ今回だってこうやって補習授業部に会いにわざわざここまで来ていないわけで。

万魔殿って政治的な組織に所属してるけど、心の中では政治の事は正直心底面倒だとは思ってる。

だからゲヘナとトリニティのしがらみを無くすエデン条約には俺様も賛成だし、締結のために向けて頑張ってるってわけだけどな。

面倒ではあるがそれはそれ、仕事は仕事だから任された分はしっかりやるけども。

 

「……まさか、その一言で?」

「もちろんそれだけではありません、他にも色々と要素はあります。ただ、決め手となったのはその一言です。それでこの方になら話しても良いのではないか……と。」

「いやいや、そんなの分かりませんよ浦和先輩。もし俺様がこの事をウチの上司に全部伝えるような奴だったらどうするつもりだったんですか?」

「うふふ、本当に上司の方に伝えるのならそんな事は言いませんよね?」

 

いや、まぁそりゃ言うつもりは無いけどよ……

なんか見透かされているみたいで釈然としないんだが。

 

「それに、タツミくんは私との約束を守らずにそのまま万魔殿に帰ることだって出来たはずです。だけど、タツミくんは疲れているのにも関わらずきちんと約束を守ってここまで来てくれた。そんな人に中途半端にしか事情を明かさないのは失礼だと思いまして♡」

「いや、まぁ理屈は分からんでもないですが……」

「それに、先生も言ってましたしね。「“タツミはこういう事を言いふらすような子じゃないよ”」と。」

「……おい先生。それは反則だろ。」

“ごめんごめん。でも、そういう誠実なところもタツミのいいところだからさ。”

 

先生はそう言うと、照れたような笑みを浮かべる。

おいおい、そんな顔をされると何も言えなくなるだろ……

そういうところだぞ、この人たらしめ。

 

「わ、私は反対だったんだからね!言うにしても会場の変更までで良いって……」

「私もお前を簡単に信用すべきではないと思うが、ほぼ初対面の私の意見よりもタツミと交流のある先生の意見のほうが重要だろう。」

「私もタツミさんのことはよく分かりませんが、それでもわざわざ美食研究会を捕まえに来たり、その件でトリニティにキチンと謝罪に来てくださった事から悪い人ではないのは分かります。なので、信じてお話することにしました!」

「はい、ヒフミちゃんの言うとおりですね。私達はタツミくんを信じていますので♡」

 

続いて、それぞれの思いの丈を口にする補習授業部のメンバー達四人。

なるほど、俺様が口外しない事を信じてる……か。

まったく……そんな事を言われたら、その気持ちには応えなければならないだろうな。

そう思いつつ、俺様は阿慈谷先輩に向き直る。

 

「分かりました。約束しましょう、この事は絶対に誰にも言いません。俺様の心の中にしまっておきます。」

 

そして、俺様は真っ直ぐ阿慈谷先輩の目を見てキッパリとそう言い切った。

 

「ほ、本当ですか!?ありがとうございますっ!」

 

そんな俺様の言葉を聞き、阿慈谷先輩は勢いよく頭を下げて来る。

 

「頭をあげてください阿慈谷先輩。俺様はそんな大層なことはしてませんから。」

「え?で、でも……」

 

そう言って困惑する阿慈谷先輩だが、今言った言葉の通り俺様は特に何もしてないからな。

やったことと言えば今回のゲヘナへの侵入の件を見なかった事にすることと、今聞いた話を誰にも口外しないって約束をしたこと。それだけだからな。

 

「上手く言えませんけど、阿慈谷先輩達が大変だってのは理解しましたので。それに、今回の件もそうですけど悪いのは桐藤先輩であって補習授業部ではありません。阿慈谷先輩が謝る必要はないっすよ。」

 

……そもそも、この中に本当にエデン条約を邪魔しようとするスパイが紛れているのかってのも怪しいからな。

阿慈谷先輩は善良な女の子に見えるし、白州先輩は少し変わっているけどゲヘナに対する嫌悪感がそこまでなさそうだし、浦和先輩も言動はアレだけど中身は多分相当頭のキレるタイプだろうし、下江はそんな事を単独で行えるような胆力の持ち主には見えない。

案外、言いがかりみたいな理由をつけて集められているだけって可能性もあるわけだしな。

それで退学がかかってるって言うんだから、本人達からしたらふざけんなって話だろうが。

 

「まぁそのだから……もし第三次学力テストに落ちて退学になるような事があったら、俺様に声を掛けてください。もちろん合格してトリニティに残れるのが皆さんにとって一番なのは間違いないですけど、ゲヘナに皆さんの籍を用意できないか掛け合ってみますので。」

「えぇ!?いや、そこまでしてもらわなくても……」

「あとは……下江は同じ1年生だし、お前のテスト範囲なら俺様でも見てやれるかもしれない。俺様も勉強は苦手だが、教えるくらいなら出来ると思うからよ。」

「あ、アンタに教わることなんてないわよっ!?」

「そうか?まぁここで知り合ったのも何かの縁じゃねぇか。困ったことがあれば遠慮なく言ってくれよ。俺様のできる範囲でなら力になってやるからさ。」

 

俺様はそこで一旦言葉を区切ると、今度は先生へと向き直ってから口を開いた。

 

「先生。俺様はトリニティの内部で何が起こってるかは分からんし、トリニティの裏切り者……も正直よくわからん。そもそも俺様が知ったところでトリニティの政治に関わることはゲヘナに所属している俺様が協力できる話じゃないだろうからな。」

「だから補習授業部の問題の解決は先生に任せるぞ。俺様は俺様のやれる事をやるだけだ。」

「……ただ、もし俺様の力が必要なら言ってくれ。できる限りの協力はすると約束する。」

“ふふっ、分かった。その時はよろしくね?タツミ。”

「おう!任せとけ!」

 

笑顔を浮かべてそう言う先生に対して、俺様は親指を立てて同じように笑顔を浮かべながらそう言った。

 

「あ、あのっ!」

「……ん?」

 

俺様と先生がそんなやり取りをしていると、阿慈谷先輩が大声を出して間に割り込んでくる。

 

「どうしましたか?阿慈谷先輩。」

「な、何でタツミさんはそこまで私達を助けようとしてくれるんですか?私達はトリニティに所属していますし、それに今回の件でタツミさんにはご迷惑をおかけしてしまってる立場ですし、それにそもそもタツミさんと私達はほぼ初対面で……」

「なんだ、そんなことですか。」

 

そんなの、理由は一つしか無いだろ?

 

「トリニティとかゲヘナとか、そんなの関係ない。ほぼ初対面だろうと関係ない。迷惑かけられたとか、そんな事は気にしてません。そこに困ってる人がいるなら助ける。それが俺様という人間だから。」

「だから、阿慈谷先輩たちを助けるのはそれが理由っすかね。ハハハ!」

 

そう言うと、俺様は阿慈谷先輩に向けてニコニコとした笑顔を浮かべて見せる。

 

「それに……困っている人を助けるのに理由が居りますかね?阿慈谷先輩。」

 

そして、続けてそう言い切った。

 

「せ、聖人!?ここに聖人がいますっ!?」

「……なんか、タツミと会ってからゲヘナに対するイメージがひっくり返っていく気分だわ。」

「私も正直驚いている。こんな善人は中々いない。」

「ふふっ。先生の言った通り、底抜けのお人好し……それもタツミくんの個性なのかもしれませんね?」

“まぁ、そのせいでちょっと色々と厄介なことになってるけどね……タツミの良いところでもあるけど、悪いところでもあるって感じかな。”

「……?いや、別に悪いことはねぇだろうよ先生。」

“こういうところなんだよなぁ……”

 

その後もワイワイと騒がしい補習授業部の面々と交流を深めた俺様は、彼女たちをトリニティの自治区まで送り届けてから帰路へついたのだった。

なお、帰り際に何故か補習授業部のメンバー全員からモモトークの連絡先を聞かれたため交換しておいた。

何故全員から聞かれたのかは分からねぇけど……まぁ、これで勉強の手伝いは出来るから良しとしておくか!

 

なお、その後ゲヘナに帰還すると朝の5時だったため当然寝る時間などあるはずもなく徹夜確定となり、その日は1日中クソ眠かったのは言うまでもないだろう。

ちなみに風紀委員会に書類を取りに行った際、案の定深夜に離脱した理由を天雨行政官と銀鏡先輩に詰められたので適当にコンビニに行ったと答えておいた。

何故かジト目を向けられたけど……ま、大丈夫だろう!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……ねぇハナコ。」

「はい?どうしましたかコハルちゃん。」

「その、野暮なことを聞くけどなんでタツミになら補習授業部の事情を話して良いって思ったの?確かにタツミがいい奴なのは間違いないけど……」

「そうですね……コハルちゃんは前にタツミくんが美食研究会が暴れた件でトリニティに謝罪に来たのは知っていますか?」

「え?えぇ、先生やヒフミから聞いてるからそれは知ってるけど……」

「実は私、その時彼に会ってるんですよ。」

「え、そうだったんですかハナコちゃん!?」

「うふふ……その時のタツミさんは道に迷っていたんですけど、私を見るなりゲンナリした顔で助けを求めてきまして……」

「……なるほど、トリニティのゲヘナ生に対する視線にやられていたのか。」

「恐らくそうだと思います、その時の彼は早く帰りたいという一心で行動していたようで、トリニティの事を探ってやろうなんて気持ちは微塵も感じられませんでしたからね。」

「……単にトリニティの視線に参っていた可能性は?」

「うーん……その可能性も無くは無いですけど、仮にトリニティの内情を探るためならそのくらいでへこたれるとは思いませんし、そもそも内情を探るのであれば男子生徒なんて目立つ方を送ってくるでしょうか?」

「……それはそうね。」

「それと、後で聞いた話ですが彼は本当に謝罪をして帰っただけのようですからね。それに私の約束も守ってくれたましたし、不誠実な対応は彼に対して失礼だと思ったのですべて話すことにしました♡」

「……確かに、あのお人好し加減を見るともう疑うのもバカらしくなってくるわね。」

「うふふ、彼はいい人ですからね。」

「はい!もう底が抜ける程の聖人でしたね!」

「うん。私とハナコが戦っている時もさり気なく死角の敵を始末してくれていたり上手くヘイトを分散して私達にあまり被害が来ないようにしてくれてたし、タツミがいい奴なのは間違いないだろう。」

「そ、そんなことしてたんだ……やっぱアイツってとんでもない奴なんじゃ……?」

“そうだね、タツミはとんでもない子ではあるよコハル、いろんな意味で……ね。”

「???」

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