「ヒャッハー!撃て撃てぇ!」
「金!お菓子!アクセサリー!全部私のもんだぁ!」
「銃撃つのたーのしー!」
ツンと鼻を突く火薬の匂いが充満し、瓦礫の山がそこら中に散乱し土煙がもうもうと立ち込める中で今日もゲヘナのチンピラどもは元気に騒ぎまくっていた。
うーん、実にゲヘナだ。何なら建物が爆発していないのでいつもよりまだ平和まである。
いやはや、ゲヘナの日常過ぎて安心感すら感じるなぁ……
時刻は正午過ぎ。
補習授業部がゲヘナへ侵入して来た事件から翌々日の日のこと。
今日も今日とて風紀委員会にアホ議長が押し付けた書類を回収に向かった俺様は火宮から書類を受け取ったのだが、それと同時に不良が暴れているとの通報が風紀委員会へと飛び込んできたのだ。
空崎委員長はゲヘナ郊外へ出張中で、銀鏡先輩は美食研究会が暴れたためそちらの鎮圧に向かっており人手が圧倒的に足りていなかった風紀委員会を見かねた俺様は協力を申し出て、天雨行政官に編成してもらった部隊の臨時の隊長として不良の鎮圧へと赴いていた。
「クソ!無駄に数だけ揃えやがって……!」
「タツミくん!大丈夫ですか!?」
「おう!今んとこケガはないぞ火宮!」
俺様の少し後ろで負傷した風紀委員の手当てをしながら火宮が大声で呼びかけてくる。
それに対して親指を立てて返した俺様は、すかさず盾を持ち上げるとそのまますり足で前進を始めた。
「げぇ!?万魔殿の丹花タツミ!?」
「また風紀委員と一緒にいるのか!?もう名誉風紀委員だろお前ぇ!?」
いや、名誉風紀委員ってなんだよ。
俺様はあくまで万魔殿所属なんだが……?
そんな事を思いつつ、ブークリエの引き金を引いて前方で暴れている不良をバタバタとなぎ倒して行く。
「オラァ!次はどいつだぁ!」
俺様はドン!と盾を地面に叩きつけ、不良を威嚇する。
不良どもはそんな俺様を見て、一瞬だけ怯む。
「よし今だ!突撃するぞみんな!」
「「「了解!」」」
その隙を見逃さずに俺様は盾を持ち上げてそう叫ぶと、共に前衛を務めるショットガンを持った風紀委員達に号令をかけてそのまま走り出す。
風紀委員達は俺様の指示を聞くと、すぐに物陰から飛び出して不良どもへ向かって走り出した。
俺様と前衛の風紀委員は俺様を中心に扇形の陣形を維持しつつ、一気に敵との距離を詰める。
「食らいやがれ!」
「ぐあっ!?」
「こ、この……なんてことしやがる!」
「うるせぇ!そこで寝てろチンピラ共がァ!」
ブークリエの引き金を引き、火薬の爆発音が耳元で鳴り響くと同時にまた1人不良が地面へと倒れる。
「よし、前に出るぞ!」
俺様は盾を持ち上げ、少しづつ前線を押し上げる。
「タツミくんっ!怪我人の治療が終わったので、私も援護します!」
飛んでくる銃弾からひたすら後衛を守りつつブークリエの引き金を引き続けていると、ハンドガンを構えた火宮がそう言いながら後ろから走ってくるのが見えた。
「分かった!頼りにしてるぜ火宮!」
「はいっ!」
俺様と火宮は顔を見合わせて頷く。
そして盾で火宮を守るようにポジションを取った俺様はそのまま制圧のために前進を開始するのだった。
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「いででででで!!!ひ、火宮!もうちょっと優しくしてくれよ!」
「うるさいですね……少し我慢してください。」
「ちょ、ちょっと火宮さん?なんか怒ってな……いだだだだ!!!ごめん!ごめんってば!」
消毒液をぶっかけられて悲鳴を上げながら、俺様は思わず後ろに後ずさろうとするが火宮にしっかりと腕を掴まれているおかげでそれは叶わなかった。
場所はゲヘナ学園、救急医学部の部室にて。
あの後無事に不良達を鎮圧してその後の事後処理を天雨行政官と通信で連絡を取りながら終えた俺様は、書類仕事をするために万魔殿へと直帰しようとしたのだが……
「待ってくださいタツミくん。そんなにケガをしているのにどこへ行くんですか?」
と妙に威圧感を放ちながら笑顔を浮かべる火宮に腕を掴まれて救急医学部の部室まで連行されてしまった。
そして、今は万魔殿のジャケットを脱がされて手足のケガの治療を火宮にしてもらっているというわけだな。
そんなこんなでぐるぐると腕に巻かれる包帯を見つめていると、火宮が口を開いた。
「タツミくん、貴方は自分が何をしたのか分かっていますか?」
「えっと、被弾しそうになった風紀委員を庇った。」
「あとは?」
「接近戦になった時に殴られそうになっている前衛の子を守るために敵陣に特攻して助けた。」
「……まだあるでしょう?」
「そ……その後、これまた被弾しそうになった子をかばうために抱きかかえて物陰に飛び込んだ。」
「はい、よく言えました。で、この手足のケガはその時にその子が地面に激突するからと言って守るために自分がクッションになった時にできたものですよね?」
「……あぁ、間違いない。」
その言葉を聞き、特大のため息を吐き出す火宮。
「あのですねタツミくん。そもそも私達にはヘイローがあるんですから、銃で撃たれても少し怪我をする程度で済むんですよ?」
「……それでも男として、女の子が傷つくのを黙って見てるわけにはいかねぇだろ。」
いくらヘイローがあるとは言え、撃たれてたら怪我をする程度にはダメージが入っちまうんだ。
なら、守れるなら守ってやった方がいいだろう。
「貴方にはヘイローが無いんですよ?庇った結果、被弾してしまったら命の危機に晒される可能性だって……」
「……火宮。」
真剣な顔で目を吊り上げながらそう言う火宮に対して、俺様は声をかけた。
「お前が俺様を心配してくれてるのは分かってるし、それはありがたいと思うぜ?ただ、俺様だって何の覚悟もなしに戦場に立っちゃいない。」
「盾を使って極力自分も怪我しないように立ち回ってるし、そもそも俺様が盾を持っている理由は仲間を守るためでもあるからな。」
「だからお前の気持ちはありがたいが、俺様は今後も仲間を守ることはやめねぇ。例えそれで自分が傷ついたとしても、仲間が傷つくのを黙って見過ごすのは俺様の流儀に反する行為だ。」
「目の前に困っている人が居るなら助ける。」
「そもそも、人を助けるのに理由なんていらない。」
「悪いが俺様の信念としてこれだけは譲れねぇんだ。」
火宮の目をまっすぐに見てそう言い切ると、俺様は一旦言葉を区切る。
「……その結果、自分が死ぬかもしれなくてもですか?」
「安心しろ火宮。俺様は死なねぇ。そんなヤワな鍛え方はしてねぇし、何よりも俺様が死んだらイブキが悲しむだろうが。イブキを泣かせるような事はしねぇよ。」
当然だが、俺様だって死にたくはない。
俺様が人である以上死ぬのは怖いからな。当たり前だ。
だって、せっかく今世は可愛い妹やなんだかんだ言ってはいるけど頼りになる先輩に恵まれたんだぜ?
二度目の人生、なんとしても思う存分に謳歌しまくって悔いのないように過ごしたい。
それにイブキの花嫁姿だって見なきゃいけないからな。
だから腹に風穴が開こうが、怪我をしようが、狐面を被った変な女に襲われようが俺様は死なねぇ。
絶対に死ぬわけにはいかねぇんだ。
「……あの、タツミくんがケガをしたらイブキちゃんは悲しむと思うんですけど?」
「いやそれは……まぁそうなんだけどよ……」
ぐっ……それは否定できない事実すぎる……!
ごめんなイブキ……不甲斐ないお兄ちゃんを許してくれ……
「はぁ……タツミくんのことですから、私が何を言っても戦うことは辞めないでしょう。貴方は頑固ですから、今後も人を助けるでしょうけど……それはもう諦めて受け入れることにします。」
「ハハハ……すまねぇな。」
「なのでもうこの際人を助けるなとは言いませんし、人を庇うなとも言いませんけど……その結果もし貴方が死ぬようなことがあったら、私は承知しませんからね?」
「……分かった。ありがとう火宮。」
火宮の包帯を巻く力に少しだけ力が籠もった。
分かってる、こいつが俺様のことを心の底から心配してくれているって言うのは。
心配させてしまってるのは本当申し訳ないとは思う。
でも、俺様にだって譲れないものがあるんだ。
だから盾を持って戦場で戦う……そう、それだけの話だ。
「……いいですかタツミくん。何度も言いますけど、貴方が怪我をしたら心配する人達が居るんです。戦場に出るのは構いませんが、その事を忘れないように。」
「……あぁ、肝に銘じとく。」
うっ……それはあまりにも正論すぎて何も言えねぇ……
でも仕方ねぇじゃんかよ……!俺様が前衛を務めている以上は仲間に被害は出したくねぇんだから……!
「……はい、終わりましたよ。」
「ん、サンキュー火宮。助かった。ありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
救急セットをカバンにしまいつつ、火宮は呆れたような諦めたような表情で苦笑いを浮かべていた。
それにしても、さっきから思ってたんだけど火宮との距離がその……近くないか?
手当してもらった身でこんな事言うのはメッチャ失礼だとは思うが、ここまで密着する必要はないんじゃ……
「あ、あの火宮?ちょっと距離が近くないか?」
「そうですか?ケガの手当てをしていたんですし、このくらい普通だと思いますけど?」
そう言って更に体を寄せてくる火宮。
いや、そりゃ同性なら別にこの距離でも問題ないとは思うんだけど俺様は男なんだが……!
なんかいい匂いするし!なんか色々柔らかいし!
心臓に良くないんだが!
ーーーガラガラガラーーー
俺様が天井を見つめながら目を白黒させていると、救急医学部の部室のドアが不意に音を立てて開く。
急な物音に俺様がビクッとしてそちらを向くと、開いたドアから1人の女性が入室してくる。
「おや……チナツ?それに……タツミ?」
キョトン、とした顔で俺様と火宮を見つめながらそう言ってくるこの白髪の女性。
彼女は救急医学部の部長を務める氷室セナ先輩だ。
常に無表情だったり、負傷者のことを死体と呼ぶ変な癖があったり、負傷者の扱いが手荒だったりすることからよく誤解されがちだが、とても優しくて良い人である。
かくいう俺様も盾を持って戦闘を始めたばかりの頃は無傷で戦いを乗り切れることはほとんど無く、よく生傷を作っては救急医学部にお世話になっていたので氷室先輩とはちょっとした知人程度の付き合いではある。
最近は戦いにも慣れてきて、救急医学部に来ることはあまり無かったからなぁ……
「どうも氷室先輩。」
「こんにちはタツミ。今日はどうしたのですか?」
「すみませんセナ部長。タツミくんが風紀委員会の不良の鎮圧に協力してくれたのですが、その際に怪我をしてしまったので部室をお借りしていました。」
「あぁそうだったのですね。構いませんよチナツ。貴方は元々救急医学部の部員なのですから。何なら、今から救急医学部に戻ってきてもいいのですよ?」
「いえ……私は別に……丁重にお断りしておきますね。」
「そうですか……残念です。」
そう言って苦笑いを浮かべる火宮と、何処か残念そうな表情をする氷室先輩。
そう、氷室先輩は現在風紀委員会に所属しているが元々は救急医学部の部員だった火宮の元上司でもある。
火宮は救急医学部を抜けて風紀委員になったものの今でも氷室先輩とは仲良くしているようで、救急医学部の人員が足りない時はたまに手伝ったりもしているらしい。
そして、そんな火宮を氷室先輩も可愛がっている様だ。
「……それにしても、私はお邪魔でしたかね?」
そう言ってジト目を作ると、俺様と火宮を見つめてくる氷室先輩。
「いえ、別に邪魔とかそういう訳では……」
「そうですよ。お構いなくセナ部長。」
「はぁ……仲が良いのは良いことですが、間違いは起こさないでくださいね?」
いや、間違いってなんだよ……?
俺様がそう思って首を傾げていると、隣に座っていた火宮がすっと立ち上がる。
そしてそのまま氷室先輩へと近寄ると、彼女の耳に顔を近づけてヒソヒソと話し始めた。
「大丈夫ですよセナ部長。もしそういうことになっても私はいつでもアレを持ち歩いていますので。」
「……本人同士が良いなら構いませんけど、ヤることをヤるならしっかりソレを使ってくださいね?」
「ふふっ、もちろんです。」
何やらため息を付く氷室先輩と、何処か楽しそうな表情でそう話す火宮。
何を話しているかはさっぱり分からないけど、元々は同じ部活だった者同士やはり気が合う部分はあるんだろうなぁ。
「……チナツ、タツミのあの顔は恐らく何も分かっていませんよ。」
「うーん、そうなんですよね……困ったものです。」
そう言って、話の途中でジト目を作って俺様に視線を残してくる氷室先輩と火宮。
……えっ、何で俺様そんな目で見られてんの?
「セナ部長、私結構グイグイ行ってるつもりなんですけど分かりにくいですかね?」
「まさか。むしろ大胆すぎますよ。タツミがこうでなければ、とっくに気持ちに気づいていてもおかしくはないくらいには。」
うん?さっきからこの二人は何の話をしてんだ……?
気持ちってなんだ?医療行為の話とかだろうか?
「ところで、氷室先輩は今仕事帰りっすか?」
なんだか微妙になってしまった空気を変えるために、俺様は氷室先輩にそう質問をした。
「はい。先程まで風紀委員会から事後処理として貴方達の鎮圧した不良の死体……ではなくて、負傷者の治療の依頼を頼まれたので部員達と行ってたところです。」
「あ、そうだったんですね。お疲れ様です。」
「いえ、それが救急医学部の仕事ですからね。」
そう言うと、涼しい顔を浮かべる氷室先輩。
救急医学部はゲヘナでは唯一の救急医療を専門に扱う医療組織なので、常に自治区で何かしらのドンパチをやらかして怪我人が息を吸うように出るゲヘナでは必要不可欠かつ多忙を極めている部活動となっている。
その性質上風紀委員会との親交も深く、風紀委員会が鎮圧して負傷した不良を救急医学部が治療してやる……なんてことはもはやゲヘナの風物詩になっているくらいだ。
……まぁ負傷者を救急車に放り投げたり、本当に気絶しているかどうか確認するために倒れてる負傷者にためらいなく銃撃するのは流石に辞めてほしいけど。
なお、負傷者の治療を邪魔されると氷室先輩と救急医学部の部員達はそいつをボコボコにして新たな負傷者として救急車に積み込むので、ゲヘナの生徒達からはわりとヤベー集団だと思われているとかいないとか。
まぁ、そんなこんななので部長である氷室先輩は常に忙しそうにゲヘナを飛び回っており風紀委員会の空崎委員長同様あまり休めていない様子。
本人は負傷者を治療するのが好きと言って嫌な顔一つせず働いてはいるものの、やはり休みは取らせてあげるべきだろうと思って俺様も万魔殿の会議で救急医学部の人員の補充について話したりはしているんだが……
どうしても氷室先輩みたいに高度な治療技術のある人は中々見つからないんだよな。
氷室先輩の医療レベルはもはや本職の医者と言っても過言じゃないくらいなので、仕方なくはあるんだけども。
「今回はした……ではなく、負傷者が多かったので治療のしがいがありました。」
「まぁ、今回の暴動は結構大規模でしたからね……俺様も結構見境無くボコボコにしちまいましたし。」
「いえ、風紀委員長ほどではありませんよ。彼女が鎮圧した時はそもそも不良が壊滅状態になってもっと死体が多いので。」
おい、もう死体ってハッキリ言っちゃったぞこの人。
……と言うか、そう考えると空崎委員長も結構頭ゲヘナではあるよなぁ。
まぁ治安がこの世の終わりじみているゲヘナで話し合いなんか出来るわけもないので、武力に訴えるのは仕方ない話ではあるんだけど。
「ヒナ委員長もイオリも出払っていてどうしようかとアコ行政官と話し合っていた所にタツミくんが来てくれましたからね、本当に助かりました。」
「いや、こんくらいお安い御用だ火宮。気にすんな。」
俺様は親指を立てると、火宮に笑顔を向ける。
「……なるほど、さしずめその怪我はその時にまた誰かを庇って出来たものということですか。」
「ハハハ……まぁ、そんなところっすかね。」
「全く、貴方はどこまでもお人好しなんですから。」
はぁ、とため息を吐きながら腕を組む氷室先輩。
「まぁ、お説教は散々チナツからされたでしょうから私は追い討ちをかけるようなことはしませんが……」
そう言うと、氷室先輩は火宮の隣を離れるとツカツカと音を立てて俺様に歩み寄ってくる。
そして俺様の隣に腰を掛けると、真っ直ぐに俺様の顔を覗き込んできた。
「あまり無理はしないように。これは先輩命令です。いいですねタツミ?」
「……はい、分かりました氷室先輩。」
真剣な表情をしてそう言ってくる氷室先輩に対して、俺様は首を縦に振る。
なんやかんやで色んな人に迷惑や心配をかけちまっているな……やっぱ、もっと自分の行動を鑑みた方が良いのかもしれない。
……と言うか、なんか距離が近くないか氷室先輩?
さっきの火宮ほどではないけど、ほんのりいい匂いがする程度には近いんだが……
それに、なんか微妙に俺様に対して距離を詰めてきてるような……!?
「ちょ、氷室先輩!?」
そして、最早先程の火宮が可愛く見えるくらいに体を俺様にぴったりとくっつけてくる氷室先輩。
ちょ、これは流石にマズいだろ……!
「ち、近すぎますって……!」
「そうですか?ふふ……なら普段のお礼と言うことで。」
「意味がわかりませんが!?礼ってなんすか!?」
「いえ、タツミはいつも私達救急医学部を助けてくれているではありませんか?」
「いや、それはそうですけど……!」
そもそも助けてるって言っても、たまに救急医学部に顔を出して氷室先輩と書類整理をしたり、休めてない氷室先輩に食堂を借りて飯作ったり、風紀委員会の戦闘中に医療行為を行なっている氷室先輩が不良に狙われた時に助けたり、その時に足を挫いたらしい氷室先輩をお姫様抱っこして運んだくらいで……!
それに普段怪我した時に治療してもらってるから、その恩を返してるだけなんだが……!?
「……いくらセナ部長とは言え、抜け駆けは許せませんよ。」
俺様がそんな事を考えながら目を白黒させていると、いつの間にか俺様の横に座っていた火宮がジト目で氷室先輩を見つめながらそんな言葉を発していた。
そして火宮は俺様に体を寄せると、俺様の右腕を取って彼女の腕を絡めてくる。
「おや、ヤキモチですかチナツ?」
くすくすと笑いつつ、火宮と同じように俺様の左腕を掴むとそこに自身の腕を絡めてくる氷室先輩。
いや、ちょっとまってくれ!?
なんで俺様は治療をしてもらってただけなのにこの2人にサンドイッチにされてるんだ!?
ってか二人とも距離近すぎんだろ!俺様は男なんだから色々と自重してくれ……!
あと当たってんだよ……!めっちゃ柔らかいものが……!
俺様の両腕に!やばいって!
「ちょ、ちょっと二人とも……!」
「……くっつきすぎじゃないですか?セナ部長。」
「貴方だってさっきはタツミにくっついていたじゃないですかチナツ。」
俺様の両サイドから視線をぶつけ合わせ、バチバチと火花を散らす氷室先輩と火宮。
あの、火宮さん?何でそんなに不機嫌なんだ……?
そして氷室先輩は何でニヤニヤしてんだ……?
「それに、私にもチャンスがあっても良いのではないですか?いくら仲が良いからといって油断してると掻っ攫われてしまいますよ?」
「言っておきますけど、タツミくんにお姫様抱っこしてもらったことなら私もありますからね?」
「おやチナツ。それを言うなら、私はタツミに戦場で守ってもらったことだってありますよ?」
「わ、私だって何回もタツミくんには守ってもらってますからね!?」
そう言って、ワーワーと言い合う氷室先輩と火宮。
ってかそもそも何のことで争ってんのか分かんねぇけど、なんでこの二人は急に言い合いを始めたんだ!?
まぁ百歩譲って言い合いするのは構わないけど、出来たら俺様を挟まずにやって欲しいんだが……!?
「か、勘弁してくれ……!」
その後も、救急医学部の部員がやってくるまで俺様を挟んでの謎の言い合いは続くのであった。
なお、その後解放された俺様はクタクタになって万魔殿に帰ったのだが、何故かその場に居合わせた万魔殿のメンバーに叱られてしまうのであった。……解せぬ。
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「風紀委員会の手伝いをして帰ってきたと思ったら腕と足には包帯、更に身体からは女の匂い……役満ですね。」
「まったくもう……あんなんじゃ本当にそのうち誰かに攫われちゃいそうで心配になってくるわね……」
「お兄ちゃんってばもう……」
「結局風紀委員会とは関わるのをやめてませんし、最近は山海経へもよく行ってるとの情報が入ってきていますからね!まぁでも、最近はエデン条約の件でよく執務室に籠もっているようですが。」
「……そう言えば、タツミって人には休め休めっていうのに自分は休みたいとは言わないわよね。」
「そうなんですよね……タツミは非番の日だけで充分とは言ってますが、その非番の日も給食部等の手伝いをしているから厳密には休んでるとは言えませんし……」
「イブキ、お兄ちゃんがちゃんと休んでくれないと心配だなぁ……」
「私もですよイブキ。……そうですね、今度のタツミの非番の日は一緒にタツミをベットで寝かせてあげましょうか?」
「うん!そうする!それならきっとお兄ちゃんも休んでくれるよね!」
(と言うか、イブキちゃんが一言休んでっていうのが一番効くんじゃないのかしら……?)
「あれ?そう言えばマコト先輩はー?」
「マコト先輩は今日はお仕事で少し出かけてくると言ってましたよ!イブキちゃん!」
「そーなんだ!分かった!教えてくれてありがとうチアキ先輩!」
「それにしても最近マコト先輩が外出することも多くなってますが、一体何処へ行ってるんでしょうね……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……来たか、誰にも見られていないだろうな?」
「キキキ……愚問だな錠前サオリ。このマコト様がそんなヘマをするように見えるか?」
「その自信は一体どこから来るんだ……?まぁいい、作戦の決行日は予定通りエデン条約調印式の当日だ。」
「あぁ、分かった。」
「それで、ミサイルの座標は?」
「トリニティの通功の古聖堂。まさにエデン条約の調印式が行われる場所だ。」
「……ほう、その理由は?」
「古聖堂では当日ゲヘナは風紀委員会が、トリニティは正義実現委員会が警備をする手筈になっている。そこへミサイルを撃ち込めば我が万魔殿やお前たちアリウスを止めるものは居なくなるというわけだな。」
「なるほど、理に適っているな。ミサイル発射の実行班に伝えておこう。変更があれば次回言ってくれ。」
「キキキ……あぁ、よろしく頼むぞ。」
「それにしても……いいのか?羽沼マコト。」
「ん?何がだ?」
「いや、私がこんな事を言うのは変かもしれないが風紀委員会はお前達と同じゲヘナの所属なのだろう?」
「なんだそんなことか。貴様らに理由を教えてやる義理はないが……まぁいいだろう。そもそも私は前から風紀委員会の事は気に食わんし、何よりも風紀委員会のバカ共は前に一度私の大切な部下に愚かにも迫撃砲を撃ち込んでくれてなぁ?」
「……ほう?」
「そのせいで私の部下は死ぬかもしれなかったんだ、なら風紀委員会にも同じ目に遭ってもらわねばならない。巡航ミサイルを撃ち込むくらい許されるだろう?」
「なるほど、反逆者には処罰をということか。」
「そういう事だな。それに、トリニティの羽つき共はこの前部下がわざわざ約束を守って1人でトリニティに赴いた時に散々無礼な態度をとってくれたと聞く。そんな礼儀のれの字も知らん連中に情けなど無用だ。」
「……ふっ、それは随分と部下思いなことだな。」
「キキキ……そうだろうそうだろう。さぁ、共にトリニティと風紀委員会をキヴォトスの地図から消し去ってくれようではないか、アリウスよ。」
「……行ったか、我々に利用されているとも知らずに哀れなやつだ。」
「消えるのはトリニティや風紀委員会だけではない……貴様達もだ、羽沼マコト。」
「……さて、そろそろ頃合いだろう。潜入中のアズサに連絡を取るとしようか。」
「……vanitasvanitatumetomniavanitas。」
「すべては虚しい……そう、ただ虚しいだけだ。」
何やら不穏な様子がしてきましたねぇ…