転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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再びシスターさんとの交流会です


歌住サクラコと丹花タツミ

「今日も皆さんに、平和と安寧がありますように……」

「き、今日も皆さんに……」

「タツミさん、もう少し腕を高く上げられますか?胸の位置辺りに持ってくるのが丁度良いですよ。」

「えっと……こ、こうか?」

「はい。バッチリです!」

 

時は昼下がり。トリニティ総合学園内の大聖堂にて。

俺様は隣で両手の手の平を組んで祈りを捧げる伊落の隣にて、共に礼拝堂内で神に祈りを捧げていた。

しかし、礼拝つってもただ祈るだけだと思ってたんだが案外難しいもんなんだな……

さっきから姿勢とか、腕の位置とか、唱える言葉とかめちゃくちゃ伊落から修正を受けまくっている。

やっぱり見よう見真似ではダメか。

 

「うーん、難しいもんなんだな。礼拝すんのも。これを伊落達は毎日やってんだろ?」

「いえそんな、私はたくさん祈りを捧げてただ慣れていると言うだけですので……」

 

隣で祈りを捧げつつ、控え目にそう言う伊落。

 

「いや、そんな事はないと思うぞ?それに伊落は懺悔室でトリニティの生徒の相談にも乗ってるんだろ?すごいよなぁ、同じ一年生として見習いたいもんだ。」

「そう言うタツミさんこそ、一年生なのにゲヘナからの外交官としてトリニティまで赴いているではありませんか。それは私には到底出来ないことですから……」

 

俺様がそう言うと、伊落は若干顔を赤くしながら照れたような様子でそう言葉を返してきた。

 

「それに、礼拝だってタツミさんなら慣れればしっかりと出来るようになられますよ。」

「うーん……そういうもんなのかねぇ……?」

「……ふふ。」

「……ん?どうしたんだ伊落。」

「いえその、そうしてるとタツミさんが本当の神父様のように見えたものですから。」

「あぁ……まぁこの格好だしなぁ。」

 

苦笑いを浮かべつつ、着ている服に視線を落とす。

黒を貴重とし左肩に十字架、右肩にトリニティの紋章のあしらわれたゆったりとしたロングコート風の衣装。

首からはストラと呼ばれる先端に十字架の描かれた帯を下げ、更にアクセサリーとして首からはこれまた十字架をモチーフにしたネックレスを付けている。

これが今の俺様の格好だ。

……うん、何処からどう見ても神父服である。

 

ちなみに何故神父服なんてものを着ることになったのかと言うと、今日も俺様はエデン条約関連の仕事のために単身トリニティを訪れていたのだがそれが思ったよりも早く終わったので、トリニティのケーキ屋で手土産のケーキを買ってシスターフッドに挨拶に来た。

その際、大聖堂の前で打ち水をしていた伊落に背後から声をかけたのだがあまりにも不意に大きな声で呼びかけてしまったせいでびっくりした伊落が持っていたバケツをひっくり返してしまったんだよな。

んでその中の水が避ける暇もなく俺様に直撃し、全身ずぶ濡れ状態になってしまった俺様。

変えの服を持ってきておらず、流石にずぶ濡れのままゲヘナに帰るわけにも行かないので何か着替えが無いか聞いたところ伊落が歌住先輩に事情を話してくれ、何故か倉庫に眠っていた神父服を借し出してくれた。

 

それにしても、なんで神父服があるんだろうな?

シスターフッドってシスターしか所属してないし、仮に男子用の制服として用意されていたとしてもキヴォトスに男子生徒なんて俺様以外ほぼ居ねぇんだし……

……ま、考えても仕方ないか。

 

んで、その後せっかくだし着ていたゲヘナの制服が乾くまでの間シスターフッドと交流会をしてはどうかと言う歌住先輩の提案によりこうして伊落と礼拝をしているというわけだな。

ちなみに伊落は俺様に水をかけてしまったことを顔を青くしながら何度も謝ってくれたのだが、いきなり背後から大声で声を掛けてびっくりさせてしまった俺様も悪いのでお互い様と言うことにしておいた。

その後も伊落は申し訳なさそうにしていたけど、別に替えの服も貸してもらってるわけだしこれっぽっちも気にしてないんだけどなぁ……

 

「とてもお似合いですよ、タツミさん。」

「そうか?俺様的にはなんか服に着られてるって感じが半端ないんだけど……」

「いえ、そうしていると本当のシスターフッドの一員になったみたいで……ふふ。」

 

両手を広げつつ、自分の着ている服を見る俺様。

そんな俺様を見つつ、柔らかい笑顔を見せる伊落。

そもそも俺様ゲヘナ所属だし、シスターフッドの伊落の手前言いにくいんだけど神に祈るってのも別に俺様のキャラではないからなぁ。

 

……まぁ、伊落が元気になってくれたのなら良かった。

さっきまでは本当に口を開いたら謝罪ばっかりだったからなぁ。

本当に気にしてないし、濡れた身体もさっさと拭いたから冷えてないし風邪を引く心配もないんだけど。

まぁ伊落はとても真面目で他人を思いやれる性格っぽいので、気にしてしまう気持ちは分かるんだがな。

 

あ、ちなみに伊落とは彼女からモモトークの交換を申し込まれたので交換しておいた。

何でも、水をかけてしまったことに対するお詫びとして今度時間の合うときに飯を奢ってくれるそうだ。

別にそこまでしてもらわなくても彼女に悪気はなかったし良いんだけど……まぁ人の好意を無下にするのはあまりよろしくないだろうからな。

ここは素直に受け取っておくことにする。

 

「あ、そう言えば伊落。シスターフッドに顔を出すに当たって手土産にケーキ買ってきたんだ。歌住先輩に渡してあるから、また後で受け取ってくれな。」

「はい、ありがとうございます。でもわざわざ人数分買ってこなくても良かったんですよ?」

「別にどうってことないさ。それに挨拶しに来んのに手ぶらって訳にも行かねぇからな。」

 

申し訳なさそうな顔をする伊落に対して、俺様はサラリとそう言ってのける。

まぁシスターフッドは大きな組織だけあって構成員もそれなりに居たからケーキを人数分用意するのはちょっとばかし大変だったけど、エデン条約を締結したらシスターフッドとも交流が増えるだろうことが予想される。

それにシスターフッドはゲヘナに対する偏見や差別心がほとんどないし、俺様としても仲良くしたいからな。

最初はゲヘナで手土産を買うことも考えたけど、やっぱりトリニティに住んでる人に差し入れをすんならトリニティのものの方が確実に口に合うだろうし。

 

「えっとケーキの種類はなんだっけ?確か……なんかミラクル5000とか言うケーキだった気がするが……」

「えっ……ミラクル5000ですか!?」

 

俺様の言葉を聞き、目を大きく見開き驚いた様子を見せる伊落。

 

「よ、良く人数分買えましたね……?」

「もちろんちゃんと予約したぞ。ミラクル5000ってめちゃくちゃ人気なんだろ?なら当日に行っても絶対に買えないだろうからな。」

 

俺様は甘いものに関しては疎いし、特にトリニティのケーキ屋のことなんてさっぱり分からない。

そこで甘いもの好きに定評がある羽川先輩にモモトークで聞いた所、シスターフッドに持っていくならミラクル5000と言うケーキが良いだろうとの意見をもらった。

聞くところによるとシスターフッドのシスター達はこのミラクル5000と呼ばれるケーキをこよなく愛していて、何なら礼拝よりもミラクル5000を優先しかねないほどには好きなのだとか。

いや、シスターとしてそれはどうなのかと思わざるを得ないけど……それを聞くと彼女達も甘いものの好きな女子高生なんだなぁと思わなくもない。

 

そしてミラクル5000はシスター達のみならず一般の生徒からも人気を博しているらしいので、俺様は予めケーキ屋にシスターフッドの人数分のミラクル5000を予約してそれを今日受け取って持ってきたというわけだ。

手土産に甘いものと言うのもなんとも芸が無い話ではあるが、相手は女子高生だし無難な方が良いだろう。

まぁトリニティのケーキだけあって値段は張ったけど、あのくらいなら万魔殿に帰って経費の申請をすれば俺様が経理から詰められるくらいで済むだろう。

そもそも外交には金をかけるものだと羽沼議長も言ってるわけだし、このくらい問題ないはずだ。

人数分のケーキはちょっとばかし重たかったけど、トレーニングがてらと思えば良いしな。

 

「まぁそういうわけだから、後で友達とかと是非食ってくれよな!」

「タツミさん……はい!ありがとうございます!」

 

俺様の言葉を聞き、笑顔を浮かべる伊落。

やっぱりこう見ると清楚なシスターである彼女も、中身は甘いものが好きな一人の女の子なんだなぁ……

その後も俺様は伊落と共にしばらく礼拝堂にて、他愛ない会話をしつつ祈りを捧げるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

伊落との昼の礼拝を終えた俺様は懺悔室に入る時間となった伊落と一旦解散し、シスターフッド内のシスター達と軽く雑談をしつつ大聖堂内をウロウロしていた。

 

(……やっぱり、シスターフッドのシスター達って俺様に対してもあんまり偏見無く接してくれるよなぁ。)

 

そんな事を考えつつ、俺様は大聖堂内を歩く。

エデン条約の調印式が間近に迫って来た今、最近は仕事としてトリニティに来ることも増えてきたけどやっぱりトリニティに来ると大体の生徒からはいつも通り悪意の籠もった視線を向けられることが多いんだよな。

まぁそりゃいくらエデン条約が結ばれるからと言って長年犬猿の仲だったゲヘナと急に仲良くしましょうってのは無理な話だろうから仕方ないとは思うんだけど。

ただいくら背景を理解していても人間ってのは脆い生き物なので、俺様からしてもずっとそういう視線を向けられると参っちまいそうになるんだよなぁ……

気にするだけ無駄なことなのは分かるんだけどな。

 

その点シスターフッドのシスター達はゲヘナにあまり偏見がないのか、やや対応にぎこちなさこそ感じるものの悪意の籠もった対応をしてくる事は少なく感じる。

なんと言うか、俺様がゲヘナ所属と言うだけあってやっぱりどこかおっかなびっくりではあるけど対応にはキチンと誠実さを感じるんだよな。

もちろん中にはゲヘナに対してバチバチに偏見があって塩対応のシスターも居るには居るんだが、俺様の記憶している限りでは片手の指で足りるくらいだし。

まぁシスターフッドは慈善団体と言う話だから、そう言う偏見も少ないのかもしれないが……

 

「あ、タツミさんっ!」

 

そんな事を考えながら大聖堂の廊下を歩き、曲がり角に差し掛かった時だった。

不意に俺様の後ろから聞き覚えのある声がかけられる。

思わずそちらへ振り向くと、そこには相変わらずのセクシーなシスター服を身に着けた若葉先輩の姿があった。

 

「若葉先輩!こんにちは、お久しぶりです。」

「はい!お久しぶりですタツミさん。」

 

ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべ、トテトテとこちらへと近寄ってくる若葉先輩。

なんと言うか、若葉先輩って胸の谷間が空いてたり太ももどころか腰まで見えてるようなエグいシスター服を着ているから見た目は妖艶なお姉さんに見えるんだけど、その実は人懐っこい大型犬みたいな性格なんだよな。

彼女とはモモトークを交換して最近はしょっちゅう他愛のない話をしたりしていたため、段々と若葉先輩のこともなんとなくだけど分かってきている。

ちなみにモモトークと言えば羽川先輩や補習授業部の面々やら、梅花園の教官の二人からの連絡などで最近はマジで通知がパンパンなんだよな……

寮の部屋に帰ってからはもっぱらスマホとにらめっこしかしていないような気もしてきたぞ。

 

「サクラコ様からタツミさんがシスターフッドにいらっしゃっているとお聞き致しましたので、是非ともお話がしたくてお探ししていました!」

 

そう言ってニコニコした笑顔を浮かべる若葉先輩。

……うん。なんか若葉先輩とは美食研究会の件でトリニティに謝罪に来た時に会ったきりだから久しぶりに会うはずなんだけど、最近モモトークで話していたからかあんま久しぶりって感じがしねぇな。

 

「そうだったんですね。わざわざありがとうございます、若葉先輩。」

「いえ!それにサクラコ様からタツミさんが神父様の服をお召しになっているともお聞きしたので、是非一目見たいと思いまして。」

 

そう言って目をキラキラとさせる若葉先輩。

うーん……俺様の神父服ってそんなに良いものじゃないと思うんだけどなぁ。

 

「ふふ、こうしてみると本当の神父様みたいですね。」

「会う人みんなからそう言われてる気がするんすけどそんなに似合ってますかねこれ?俺様としては、どうしても服に着られてる感が否めないんすけど……」

「そんな事はありません。とても似合っていますよ。」

「そ、そうっすかね……?ありがとうございます。」

 

俺様の目を見て真っ直ぐにそう言ってくる若葉先輩。

……そんな風に言われると素直に嬉しいな、うん。

 

「タツミさんがそのまま本当にシスターフッドに来てくださればどれほど嬉しいことか……」

「……ん?何か言いました?若葉先輩。」

「い、いいえ!何も言ってませんよ!?」

「そっすか?なら良いんすけど。」

 

そう言ってワタワタと慌てた様子を見せる若葉先輩。

……小声で何か言ってた気もするんだけど、俺様の気のせいだろうか?

 

「そう言えば、若葉先輩は今日も備品の整理ですか?」

「はい!私にはこれくらいしか出来ませんから……」

「いやいや、そんなことはないっすよ。前にモモトークでも言いましたけど、若葉先輩のやってる事はシスターフッドを運営するのに大切なことなんですから。」

「タツミさん……ふふ、ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。」

 

柔らかい笑みを浮かべながらそう言う若葉先輩。

そんな感じで、他愛のない会話を若葉先輩と続けていると……ふと気になるものが俺様の目に入ってきた。

 

「……あれ、若葉先輩ピアス新調したんですね?」

 

そう、それは若葉先輩の付けているピアスだった。

確か前に会った時はシルバーのシンプルな物だったと記憶しているんだけど、今は金色で十字架のアクセサリーの付いた物になっている。

 

「えっ!?き……気づいてくださったんですか……?」

「はい。前に会った時と違うピアスっすよねそれ?」

 

俺様の言葉を聞き、若葉先輩は驚いたように目を見開きながらそう言った。

……確か「女の子がアクセサリーを変えたらきちんと褒めてあげないとダメなんだよ、お兄ちゃん!」とこの前イブキが言っていたな。

我が妹からのアドバイスだ。早速活かさせてもらおう。

 

「前のピアスも似合ってますけど、新しいピアスも若葉先輩のイメージにピッタリでよく似合ってますよ!」

「そ、そうですか?えへへ……」

「はい。俺様は恥ずかしながらそう言うアクセサリーの類はよく分かんないんすけど、若葉先輩なら十字架のアクセサリーの付いてるそっちのピアスの方がイメージに合ってて素敵だと思います。」

「も、もうタツミさん!褒めても何も出ませんよ?」

 

少し顔を赤くし、頬に両手を当てつつ照れながらそういう若葉先輩。

いや、別に見返りは何も求めてないんだけどなぁ……

俺様なんかの言葉でそこまで喜んでくれるのは想定外だが、まぁ若葉先輩が嬉しそうで何よりだ。

 

「……あ、そうだ!せっかくシスターフッドに顔を出したんだし俺様も荷物運び手伝いますよ若葉先輩!」

 

にへにへとした笑顔を浮かべている若葉先輩に対して、俺様はそう声を掛けた。

 

「え!?そ、そんな。お客様であるタツミさんのお手を煩わせるわけには……」

「このくらいお安い御用なんで気にしないで下さい!それに前にモモトークでも言いましたけど、若葉先輩はもっと人に頼っても良いんすからね?」

「……ふふ、そうでしたね。分かりました。ではお言葉に甘えさせていただきますねタツミさん。」

 

俺様がそう言うと、若葉先輩はにっこりとした笑顔を浮かべながらそういった。

若葉先輩はモモトークで話してる時もそうだったけど人に頼らずに全部自分で抱え込んじまう癖があるからな。

まぁそれに関しては俺様も似たようなもんだから人の事は言えないんだけど、若葉先輩がいつも1人で頑張っているのは紛れもない事実なわけだし。

なら、ここで俺様が手伝わない理由なんてないだろう。

 

「じゃあそうと決まれば倉庫へ行きましょう!」

「はい!こちらです、ご案内しますね。」

 

その後、大聖堂内の倉庫へ案内された俺様は若葉先輩とめちゃくちゃ備品の整理をするのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「タツミさん!勘違いをされるようなことを大聖堂内でなさらないでくださいと前にもお伝えしたでしょう!」

「は、はい……すみませんでした歌住先輩。」

 

大聖堂内の応接間にて。

目の前で目を吊り上げて叱ってくる歌住先輩に対して、俺様はひたすら頭を下げるしか無かった。

 

あの後に若葉先輩と大聖堂内の倉庫へ赴いた俺様は二人で手筈通り倉庫整理をしていたのだが、今日整理する予定だった備品は結構重たいものが多く更に空調の効いていない倉庫での作業という事もあって俺様も若葉先輩も結構汗をかいてしまったのだ。

若葉先輩は体質的に汗っかきらしいと言うことはモモトークで聞いていたのだが、実際に見ると想像以上にすごい量の汗をかいていたため俺様はハンカチや持ってきていたスポドリを若葉先輩に手渡しつつ作業をしていたわけなんけども……

 

あらかた作業も終わって、最後に残った重たい木箱を若葉先輩が持ち上げた瞬間に彼女が急に足をすべらせてしまったんだよな。

当然そのままだと地面に激突しまうため、俺様は急いで倒れ込む若葉先輩を抱きかかえると体を入れ替えて下敷きになり地面へと激突した。

その際に若葉先輩は俺様の上に木箱を乗せるわけには行かないということで木箱を横に投げ捨ててくれたのだがその時に発生した「ドスン!」と言う大きな音に気づいたシスター達が何事かと倉庫に集まってきたのだ。

 

そして、シスター達は倉庫を覗き込んできたのだが……

そこにいたのは、地面に転がっている俺様とその上に乗っかっている俺様に抱きかかえられた若葉先輩。

倉庫整理をしていたおかげで2人共汗だくで顔も赤くなっていて、そんなところをシスター達に見られて誤解され無いわけもなく……

そのまま勘違いしたシスター達は驚く声や悲鳴にも感じる黄色い声を挙げ、必死で誤解を解こうと2人で弁解をしているところにたまたま歌住先輩が通りがかった。

で、歌住先輩にもその現場をバッチリ見られちまったため顔を赤くんした歌住先輩に「せ、説明していただきますからねっ!?」と言われて応接間に連れてこられた。

……で、なんとか必死に誤解を解いて今に至る。

 

「とは言え、タツミさんはシスターヒナタのお仕事のお手伝いをなさってくださっていた訳ですしそれにああなったのもシスターヒナタを助けようとしてのこと……」

「そのお心遣いと行動は素直に感謝しなければ行けませんね……ありがとうございます、タツミさん。」

「いえ、元はと言えば紛らわしいことをした俺様が悪いので歌住先輩が謝る必要はありませんよ。」

 

ひとしきり俺様を叱り終わると、今度はバツの悪そうな顔を浮かべつつ謝罪をしてくる歌住先輩。

俺様はそんな彼女に対して頭を上げるよう伝える。

 

まぁ元はと言えば若葉先輩が重たいものを運ぶ時に足元が見えにくくなるのは分かっていたから、彼女の足元に気を配ってなかった俺様も悪いわけだしな。

それに歌住先輩も他のシスター達の手前何もしないって訳にはいかないだろうから、仕方ないと言う奴だろう。

気が動転して思わず抱き締めて下敷きになるって助け方をしてしまったのも誤解を招く原因だしな……

 

なお、助けた後に若葉先輩は顔を真っ赤にしながら謝ってきたため気にしないでほしいと伝えておいた。

「私は汗っかきなのにタツミさんに密着してしまって汗臭くなかったでしょうか!?」と言っていたけど、全く汗くなくなんて無かったし何なら甘い香りがしたくらいだからな……

それに彼女は代謝がいいのか温かかったし、抱きかかえた時に色々柔らかいものが……って!

 

(だーっ!!!)

 

今はそんな事を考えている場合じゃねぇだろ!

無心、無心だぞ俺様!

……まぁ何はともあれ若葉先輩に怪我がなくて良かった。

なお俺様と若葉先輩の様子を見に来たシスター達の中には伊落も混ざっていたのだが、何故かあいつ頬を膨らませていたんだよな……?

俺様伊落に何かしたっけ?

うーん……よく分かんねぇけど後で謝っとくとしよう。

 

「それにタツミさんの制服が乾くまでの間に交流を……と提案したのは私ですからね。初めて訪れた時のみならず2度もシスターヒナタを救っていただいてありがとうございますタツミさん。」

「いえ、このくらいならお安い御用ですよ。気にしないで下さいね歌住先輩。」

「……ふふ、そう言ってもらえると助かります。」

 

俺様がそう言うと、にっこりとした笑みを浮かべながらそう言葉を返してくる歌住先輩。

 

「いかがでしたか?シスターフッドは。」

「そうですね……全員とは言いませんけどシスターフッドの皆さんは俺様がゲヘナ生であるにも関わらず殆ど偏見無く接してくれますし、いい人ばかりでしたよ。」

「ふふ。シスターたるもの、全ての者に対して平等であるべきですからね。」

「それにエデン条約が締結されたら今後は万魔殿とシスターフッドの交流も増えるでしょうから、仕事内容を見れたのもいい勉強になりました。」

 

俺様は机に置かれたティーカップの中の紅茶を一口飲みつつ、歌住先輩にそう言った。

そう、今回の聖園先輩のクーデターによって現在ティーパーティーはかなり不安定な状態になっている。

そのため、今後はシスターフッドもトリニティの運営の補佐として関わってもらうと桐藤先輩も言ってたしな。

なら必然的に万魔殿として交流する機会もエデン条約機構が設立されれば増えるであろうことが予測される。

なので、今のうちにシスターフッドと交流を深められることはこちらとしても願ってもない事だったしな。

 

それと、シスターフッドが普段どんな仕事をしているのかを垣間見ることが出来たのも面白かったし。

基本的には日課の礼拝を朝昼夕に行い、それ以外の時間は懺悔室でトリニティの生徒達に対するカウンセリングや校内の掃除や人助けなどの慈善活動をしているみたいで、中には若葉先輩のように備品整理や大聖堂内の設備のメンテナンスを行なっているシスターも居た。

流石は慈善活動シスターフッドと言うべきか、基本的にはどこで活動していてもトリニティの生徒からは好意的な目を向けられていた。

後は……活動は違えど、どこも表方と裏方に別れて仕事をしていると言うのは変わらない様子だったな。

まぁ組織なんてのは基本的にそんなもんだろうけども……

あとはモモトークを通じて親しくなれた若葉先輩や同級生である伊落との交流ができたのも良かった。

 

「そうでしたか、それは何よりです。」

「はい!ありがとうございます、歌住先輩。」

「ふふ、お礼には及びませんよ。」

 

そう言うと、歌住先輩はテーブルの上に置かれたティーカップを手に取ると中の紅茶を静かに口へ運ぶ。

うーん、こうしてみると本当に気品に溢れている振る舞いだよなぁ……ザ・シスターと言う感じがする。

 

「それにしても、その格好をしているとタツミさんは本当の神父様のように見えてきますね。とても良くお似合いですよ。」

「若葉先輩や伊落からも言われましたけど、そんなに似合ってますかねこれ?」

「はい。ふふ、タツミさんさえ良ければそのまま本当にシスターフッドで神父様を務めて下さっても良いのですよ?きっとヒナタさんやマリーも喜びます。」

「ははは……気持ちはありがたいんすけど、俺様は万魔殿所属なんで遠慮しておきますね。とは言えこの服を貸してくれたのは助かりました。ありがとうございます。」

「いえ、むしろせっかくこうして手土産まで持ってきてくださったのにそのくらいしか出来ずに申し訳ないくらいですよ。」

 

歌住先輩はそう言うと困ったように笑う。

いや、別に全然そんなことはないんだけどな。

確かに何故神父服がシスターフッドにあったのかは気になるけど、こいつを貸してもらえなかったら俺様はずぶ濡れの服でゲヘナに帰らなきゃ行けなかったわけだし。

 

「そんなこと無いですよ。すごく助かりましたから。」

「そう言ってもらえるのであれば良かったです。」

 

俺様がそう言うと、歌住先輩はホッとしたような表情を浮かべた。

まぁ歌住先輩も部下である伊落がゲヘナ生である俺様に水をぶっかけちまったことを結構気にしていたしな。

俺様はこれっぽっちも気にしてないんだけど、歌住先輩視点で状況だけ見たら部下が外部からの客に水をぶっかけてしまっているようなもんだし。

組織の長としては気にして当然だろうし、そりゃ心労もたたるだろうよ。

ま、俺様は全く気にしてないんだけどそれとこれとは話が別だろうからな。

 

それにしても、そういうところに気が回る辺り歌住先輩もいい人だよなぁとは思う。

これが仮に、万魔殿の平役員がトリニティからの客に水をかけた時に羽沼議長がきちんと誠意のある対応ができるかというと……答えは否だろう。

あの人の事だ。謝罪よりも先に嫌味が出るだろうし、何なら指を指して大笑いしてそうまである。

なんか想像してたら頭痛くなってきたな……

 

「……あの、タツミさん。」

「……ん?」

 

俺様がそんな事を考えていると、正面の椅子に腰掛けた歌住先輩が真剣な表情を作りそう問いかけてくる。

そのただごとではない様子に、俺様は思わず背筋を伸ばして姿勢を正した。

 

「どうかしましたか?歌住先輩。」 

「その、いきなりこんな事を質問するのもおかしな話だとは思うのですが……私って怖いのでしょうか?」

「……へ?」

 

歌住先輩はそのまま滅茶苦茶真剣な表情を維持したまま深刻そうにそう質問してきた。

てっきり政治関連の話をされるのかと思った俺様は思わず肩から力が抜け、マヌケな声を出す。

 

「……いきなりどうしたんすか?歌住先輩。」

 

俺様の聞き間違いじゃなければ今歌住先輩は「私って怖いのでしょうか?」って言ってたよな。

……いや、別に全然そんな事はないと思うんだけど。

少なくとも俺様はそんなふうに思ったことはねーぞ。

 

「その……私は何故か誤解される事が多くてですね。普通に話しているはずなのに、いつの間にか言われもない噂が広がっている事がありまして……」

「え、そうなんですか?」

 

うーん、初耳だぞ?

 

「はい。やれ何かを企んでいるだの、やれトリニティを掌握しようとしているだの、やれ裏で闇取引をしているだのと言われることも少なくなくて……」

「えぇ……?」

 

少し悲しそうにため息を吐きつつそう言う歌住先輩。

……いや、どんな根も葉もない噂なんだよそれ。

俺様は歌住先輩との付き合いは短いけど、とてもじゃないけどそんな事をするような人には見えないんだが?

それに、普段からモモトークでも若葉先輩は歌住先輩のことをいい人だって言って尊敬しているようだし。

 

「いや、別に俺様から見た歌住先輩はそんなことするようには見えませんよ?普通だと思うんすけどね。」

「うーん、何故なのでしょうか……?」

 

俺様がそう言うと、困ったように考え込む歌住先輩。

……まぁ組織の長に変な噂が付き物なのはウチの羽沼議長もそうだから分かるんだけど、流石に歌住先輩に対してその言い草はあんまりなのではないだろうか。

 

こうして話しているだけでも歌住先輩は充分いい人だって分かるほどの人物だし、とてもじゃないけどそんなとんでもない悪巧みをするような人物には見えない。

と言うか慈善活動であるシスターフッドの長がそんなことするわけなくないか……?と思わなくもないけどな。

羽沼議長に言うなら分かるんだけども、実際悪巧みは結構な頻度でやって俺様からゲンコツされてるし。

 

「俺様は歌住先輩とは短い付き合いですけど、そんな事をするような人には見えないと断言してもいいっす。」

「歌住先輩はゲヘナである俺様にも優しくしてくれますし、シスター達のこともよく見ている。それにトリニティの事を考えて、今はティーパーティーとかにも積極的に協力をしている。」

「そもそも組織の長に変な噂ってのは付き物ですからね、言わせたいやつには言わせときゃいいんですよ。」

「だってそれで歌住先輩の頑張りや人格が否定されるわけじゃないでしょう?それに、歌住先輩には慕ってくれてるシスターフッドの方々がいるじゃないですか。」

「それに若葉先輩や伊落も歌住先輩の事はとてもいい人だし、尊敬できる人だと言っていました。そしてもちろんですが俺様も同じ意見だと断言してもいいです。」

 

俺様はそこまで言うと、一旦言葉を区切る。

そして、息を吸い込むと言葉の続きを口にした。

 

「だからえっとその……うまく言えないんすけど、あんまり気にしないほうがいいんじゃないですかね?」

「どんな噂をされようが歌住先輩は歌住先輩です。それは誰にも変えられない事実なんで。」

「それでももし歌住先輩を悪く言うやつがいるなら言って下さい。俺様がそいつをとっちめてやりますよ!」

 

そして、真剣な表情で歌住先輩の目を見ながらキッパリとそう言い切った。

 

「なるほど、これは確かに……ふふ、少しヒナタさんの気持ちが分かった気がしますね。」

「……え?」

「何でもありませんよ。ありがとうございますタツミさん。そう言ってくださるととても心強いです。」

 

歌住先輩は小声で何かを言いかけていたような気もするが、やがて満面の笑みを浮かべるとそう言った。

うんうん、元気になってくれたのなら何よりである。

 

「いえ、俺様に出来るのは話を聞くことくらいですからね。少しでも気分が軽くなったなら良かったです。」

「……やはり、タツミさんは神父様に向いているのでは?これはマコト議長に引き抜きの直談判を……」

「……?」

 

何かさっきから歌住先輩、結構難しい顔をして小声でなにか言いながら考え込んでるけど大丈夫だろうか?

 

「……あ、そう言えば歌住先輩。白州先輩のトリニティへの正式転入の件、ありがとうございました。あれって歌住先輩がやってくれたんですよね?」

 

俺様は軽く椅子に座り直しつつそう言った。

そう、白州先輩は聖園先輩のクーデターの際にアリウスからの命令に背き、桐藤先輩を保護して守ってみせた。

その功績が認められて、晴れてアリウス分校からトリニティへの編入を許されていたのである。

もちろん少なくない批判の声はあったらしいが桐藤先輩を守ったこと、補習授業部の学力テストに合格したことを含めると編入は充分に可能だろうからな。

歌住先輩もそれを考慮してくれたようで、シスターフッドの権限で白州先輩のトリニティへの編入の書類を正式に作成してくれたようだ。

 

「はい。理由はどうあれ彼女はナギサさんを守り、補習授業部のテストにも合格しています。例え元がアリウスと言えど、トリニティへの転入を拒む理由はありませんからね。これはシスターフッドの決定でもありますので誰にも文句は言わせませんよ。」

「……ありがとうございます、歌住先輩。その件に関しては俺様からも礼を言わせて下さい。」

「ふふ、このくらいお安い御用ですよ。」

 

俺様が頭を下げると、柔らかな笑みを浮かべながらそう言う歌住先輩。

……誰だよ、こんな虫も殺せないような笑顔を浮かべる人に悪巧みするだのなんだのってイチャモンつける奴は。

見つけたら一発ぶん殴ってやるからな!

 

まぁそれはともかくとして、白州先輩の件は本当に良かったと思う。

聞けば彼女はアリウスにいた頃は戦闘訓練と過酷な任務ばかりで、補習授業部のようにお互いに高め合える仲間と過ごす楽しい時間は無かったらしいからな。

本来彼女くらいの年齢なら戦闘訓練なんかせずに、自分のやりたいことを好きなだけやってもいいんだから。

 

《勉強もせずに何をやっているのだ貴様は!》

《出来損ないが一丁前に遊んでるんじゃないわよ!》

(……チッ。)

 

やめろ、思い出すな。

ここはもう前世じゃないんだ。

忘れろ、忘れるんだ。

 

……ま、それはともかくやりたくないもことを誰かから強制されるのっては本当に辛いからな。

もう白州先輩はアリウスの生徒ではない、やりたくもない事を心を殺してまでやる必要はどこにもない。

今後はトリニティの生徒として、補習授業部の面々と思う存分に遊んで勉強して泣いて笑って欲しいものだ。

 

「……タツミさん?どうかしましたか?」

「……いえ、なんでもないですよ。歌住先輩。」

「そうですか?なら良いのですが……」

 

心配そうに問いかけてくる歌住先輩に対し、俺様は笑顔を作ってそう返す。

そしてその後、万魔殿の制服が乾ききるまで俺様は歌住先輩と他愛ない話をして過ごすのだった、

 

なお制服が乾いたため着替えて大聖堂を後にする際、歌住先輩からモモトークの交換を申し込まれた。

特に断る理由もないため、もちろん承諾しておいたぞ。

そしたらその日の夜に歌住先輩から早速「わっぴー!」とだけ送られてきたのだが、一体何なのだろうか……?

 

「……新手の挨拶か何かか?これ?」

 

俺様はスマホの画面を見つつ首をひねる。

そしてその後、俺様もなんとなくわっぴー!とのメッセージ歌住先輩のモモトークに打ち込むのだった。




もう少し日常会が続きます
調印式まで今しばらくお待ち下さい
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