タツミくんのメモロビ回です
メモロビ回と言いつつメモロビ要素は後半のみな件
『先生、突然メッセージを送ってすまねぇ。今時間大丈夫か?ちょっと相談に乗ってほしいことがあって……』
『”うん、大丈夫だよ。どうしたのタツミ?”』
『……おい先生。俺様がメッセージ送ってから1分も立ってねぇぞ。無理に時間作ってるなら先に仕事を終わらせてからで構わねぇからな?』
『“ううん、書類仕事なら本当に今終わったところだから大丈夫だよ。”』
『そうか?ならいいんだが……』
『“それにしても珍しいね?タツミが私に悩みの相談をして来るなんて。”』
『んー……まぁ最初は相談するかどうか迷ったんだけどさ。こういう事は先生の方が適任かなと思ってよ。』
『“なるほど?で、その悩みっていうのは?”』
『いやその……俺様ってゲヘナはもちろんだけど、山海経とか最近はトリニティにも行ったりしてるじゃん?』
『“そうだね。エデン条約前なのもあって忙しそうにしてるから、すごいなぁと思うよ。あ、たまにはちゃんと休まないとダメだからね?”』
『……それはあんたもだぞ先生。というかそういう先生こそちゃんと休んでるんだろうな?』
『“うっ……わ、私はほら!大人だからね!”』
『いや、大人でも休みは必要だろ……?またぶっ倒れて早瀬先輩に叱られる前にきちんと休んどけよな?』
『“あ、あはは……そ、それよりも!タツミの悩みを聞かせてよ!”』
『そうだったな……実は最近の事なんだけどよ……』
『“うんうん。”』
『その……最近モモトークの通知が常にパンパンでちょっとばかし困ってんだよ。』
『“ふんふん?”』
『あーその……なんだ。具体的に言うと、連絡先を交換してる人達からほぼ毎日メッセージが来てんだよな。』
『“うんうん……うん?”』
『万魔殿の皆は毎日顔を合わせてるからあれなんだが風紀委員会の皆とか、給食部の二人とか、救急医学部の氷室先輩とか……』
『後はトリニティの羽川先輩にシスターフッドの歌住先輩に若葉先輩に伊落だろ?それに梅花園のシュン教官やココナ教官に、竜華先輩や薬子先輩とか……』
『えーっと、アビドスの黒見からもだし……』
『それと補習授業部……特に浦和先輩からもだな。』
『“……”』
『そりゃ俺様としてもせっかく交換したんだしメッセージを送ってくれるのは嬉しいんだけどさ。毎日ほぼ全員から結構な頻度でメッセージが来るから最近はもっぱらずっとスマホとにらめっこしててよ……』
『“……なるほど。タツミがとんでもないスケコマシだって言うのはよーく分かったよ。”』
『いやどこがだよ!?仲良くなったから連絡先交換しただけだぞ!?友達と交換するようなもんだろ?』
『“タツミ、そのうち刺されないでね?”』
『刺される訳ないだろ!?ま、まぁそれはともかくそんな感じでモモトークの通知がパンパンなんだ。』
『もちろん俺様としてはせっかく連絡してくれてるのに無下にするのは相手に失礼だから一人一人キチンと返してはいるんだが、こうも多いと流石に……エデン条約の仕事しながらだとちょっとばかしキツくてよ。』
『そこで先生に相談なんだが、相手に失礼なく連絡を素早く返すコツとかって何かないか?先生は大人だし、キヴォトスに来るまでは社会人だっただろ?会社に努めてて取引先とかの大量の連絡を捌いてた経験とかあるなら是非教えてもらいたいんだけど……』
『“うーん……私も外での社会経験はそんなに豊富ってわけじゃないから申し訳ないけどいいアドバイスは出来そうにないかな……ごめんねタツミ。”』
『そうか……いや、先生が謝る必要はないぞ。野暮なこと聞いちまって悪かった。』
『“ううん、大丈夫。でもタツミがキチンと1人1人と向き合ってしっかり返信をしているっていうのはすごく良いことだと思うよ。”』
『そりゃ向こうも仕事やら勉強やらで忙しい合間を縫って俺様にメッセージを送ってくれてるはずだしな。いくら俺様が忙しいからって適当に返信したりすんのはメッセージを送ってくれた人に対して失礼に当たるしよ。』
『それに俺様もなんだかんだでメッセージを送ってくれるのは嬉しいんだ。ただ、量が多すぎるってだけで。』
『“……まぁそれはいろんな女の子を誑かしたタツミの自業自得ってことで。”』
『はぁ!?誑かすって何だよ!?俺様はそんなことしてないんだが!?』
『“でもあんまり目移りしてるとそのうち本当に誰かに刺されちゃうよ?本命の子は早めに決めないとね!”』
『いや何の話だよ!?』
『“まぁとにかく、現状では時間はかかるだろうけどしっかり返信していくしかないんじゃないかな?どうしても負担になるなら、私の方からやんわりと皆に伝えておいてあげるけど……”』
『……いや、そこまでしなくてもいいぞ先生。よくよく考えたら俺様が早く仕事を終わらせてメッセージを返す時間を作ればいいだけの話だしな。』
『“ず、随分力技に出たね……”』
『そりゃせっかくメッセージを送ってくれたなら俺様だって楽しくお喋りしたいからな!』
『“……ふふ、そうだね。”』
『ありがとな先生、忙しいのに手間取らせちまって。』
『“ううん、このくらいお安い御用だよ。”』
『また今度シャーレの当番に行った時に飯でも作ってやっから、先生も体に気をつけて無理はすんなよ!』
『……うん、ありがとうタツミ。』
『気にすんな!あ、またゲヘナに来ることがあれば是非万魔殿に寄ってくれ!イブキや万魔殿のみんなと歓迎すっからさ!』
『“分かった、また遊びに行かせてもらうね。”』
『あぁ、待ってるぜ!じゃ、ありがとうな先生!』
『“うん、体に気をつけてねタツミ。”』
“ふふ、本当にタツミは真面目なんだから。”
“自分も万魔殿の仕事で忙しいのに毎日大量に来るメッセージを一人一人丁寧に対応して、今もこうやって私の身体のことを心配してくれて……”
“意識しているのか無意識なのかは分からないけどタツミって本当にさりげない気遣いが得意なんだよね、それでいてそれを鼻にかけることは一切ない。”
“悩みも嫌な顔一つせず聞いてくれて、お人好しだし、面倒見も良くて料理もできて子どもからも好かれていて……”
“私から見て大人びてるなぁって思うシュンも彼には愚痴を言ったり弱音を吐いたりして甘えてるみたいだし、なんというか父性みたいなものも感じる。”
“ハスミも普段は頼れる副委員長として気を張ってるみたいだけど彼の前では1人の女の子になってるし、そんなハスミをタツミはしっかり女の子として扱ってあげてて。”
“それにシスターフッドのみんなもタツミのことはすごく好意的に見てるしね。特にヒナタなんてわかり易すぎるくらいにタツミに矢印を向けてる……”
“それ以外の子達もみんなタツミには好意的だし、キヴォトスの女の子が彼に夢中になるのも分かる気がするよ、私も同い年だったら分からなかったかもなぁ。”
“まぁ鈍感すぎるのはちょっと頂けないけど……”
“……でも、明らかにタツミは無理をしている気もするんだよね。人を助けるのは良いことなんだけど、タツミの場合ちょっと自分のことを疎かにしすぎと言うか。”
“よくも悪くも自分に対して無頓着すぎる気がする。なんだろう、他人至上主義っていうのかな?”
“私も何度もタツミには自分のことをもっと大事にしなさいって言ってるけど、それでも結局自分のことは二の次だし……タツミってああ見えて結構頑固なところもあるんだよね。自分の信念は何があっても曲げないと言うか。”
“タツミの自己犠牲精神は程々なら良いんだけど、行き過ぎると危険な気もしてるから私としてはちょっと心配だなと思うことはあるんだよね……”
“一体、何がタツミをそこまで突き動かすんだろう?”
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タツミとモモトークでそんなやり取りをした後日の事。
私はゲヘナ風紀委員会からの要請を受け、ゲヘナ学園の風紀委員会の本部へとやってきていた。
“アコ、この書類はこっちでいいのかな?”
「はい。そこのデスクに置いておいていただければ大丈夫です。」
“分かった、じゃあここに置いておくよ。”
私はアコに言われた通り処理し終わった書類をデスクの上に置くと、その場で大きく伸びをする。
「先生。コーヒーをお持ちしました。よければ飲んでくださいね。」
“ありがとうチナツ。いただくよ。”
バキバキと音を立てて鳴る肩に苦笑していると、チナツがコーヒーカップを私の座っているデクスに運んできてくれた。
私は湯気を立てるカップを持ち上げると、中身を冷ましながらカップを傾ける。
口内にコーヒー独特の苦みが広がった。
「すみません先生。先生もお仕事でお忙しいのにわざわざゲヘナまでお越しいただくことになってしまって。」
“ううん、気にしないでチナツ。それに今回のこの書類は私じゃないと承認できないものだったしね。”
「そう言ってもらえると助かります。ありがとうございます、先生。」
私の隣に立って申し訳なさそうに謝罪してくるチナツに対して私はそう言って彼女を安心させる。
そう、今回私が風紀委員会に呼ばれた理由はひとつ。
彼女たちでは処理できない書類が発生してしまったからである。
具体的にはまず連邦生徒会からシャーレに流れて私が承認し、次にゲヘナの風紀委員会へ回すはずだった書類が手違いで直接風紀委員会へ渡ってしまっていたのだ。
私はヒナの印鑑のみで書類を通すことをリンちゃんに提案したんだけど、そんな事出来るわけがないと言うことで見事に却下されてしまった。
いくら連邦生徒会の手違いとは言え流石にそのままにするわけにはいかないので、私はすぐ風紀委員会へ連絡。
そして、今回は風紀委員会から呼ばれた言う名目でこうしてゲヘナへとやって来ている。
「まったく……こんな手間を取らせるなんて七神リン代行は一体何をしているのですか!?」
私の目の前のデスクで積み上がった書類の山にペンを走らせつつ、アコがそう悪態をついた。
彼女の目の下には大きなクマが出来ており、何日か寝ていないんだろうなと言うことが伺い知れる。
“あはは……まぁ、そんなにリンちゃんを怒らないであげてねアコ。彼女も連邦生徒会長が失踪して、その穴埋めにてんやわんやになってるみたいだからさ……”
この前書類を取りにサンクトゥムタワーに行ったとき、アコと同じく目の下に大きなクマが出来ているリンちゃんを思い浮かべながら私はそう言った。
彼女も親友である連邦生徒会長の失踪で心労がたたって居るのだろうし、その穴を埋めるために何日も徹夜で頑張っているみたいだから書類の送り間違いくらいでとやかく言う必要はないんじゃないかな。
そう言えばこの前リンちゃんに会った時に「タツミさんからよく聞く胃薬とアイマスクをもらいました」と嬉しそうに言ってた気がする。
タツミは最近エデン条約の件で連邦生徒会にも顔を出しているようだし、その時にもらったのだろうか。
……と言うか、アコといいリンちゃんと言いキヴォトスの生徒って寝てない子が多くない?
若いうちはしっかり寝ないとダメなんだけど、彼女たちの抱えているものを考えると安易にそういう訳にもいかないし……中々もどかしい。
「いーえ!先生は甘すぎます!いくら疲れているとは言え今回の書類の送り間違いは先生の負担も増やしているんですよ!?」
“ま、まぁまぁアコ……私は別に大丈夫だからさ……”
「それに、何も疲れているのはリン代行だけでは無いんですからね!?ヒナ委員長やイオリにチナツ、もちろん私だってそうですからね!?」
キーッ!と言う擬音が聞こえてきそうな表情を浮かべながら腰に手を当ててそうまくしたてるアコ。
“あ、あはは……今度膝枕でもしてあげるからさ。”
「先生に膝枕されたら何も見えなくなるじゃないですか!あと、頭の上にその無駄に大きな胸が乗っかって重そうですので謹んで遠慮しておきます!」
“む、無駄に大きなって……私だって好きでこんなにおっきくなったわけじゃないもん!”
アコの言葉に思わず語気が強くなる。
そう、私だって好きでこんなに大きな胸をぶら下げているわけではないのである。
そもそもこの胸のせいで肩こりはひどいし、足元は見えにくいし、可愛い服だって着ぶくれで着れないし、下着は特注品でお金かかるし、何より外にいた頃は男からのいやらしい視線でストレス溜まりまくりだったし……
こんな事を言うと貧乳の子達からは怒られそうだけど、こんな思いをするくらいならこんな脂肪の塊なんていっそなくなってしまえと思ったことなんて何度もある。
“と言うか、それを言うならアコだって大きいじゃん!”
「それは……!確かに大きい方だとは思いますけど、先生の規格外の胸と一緒にしないでもらえます!?」
”そもそも前から気になってたけど何さその胸の横の空いた服は!そこから呼吸でもしてるの!?”
「それを言うなら先生だって何ですかそのパッツパツのスーツは!今にもはち切れそうじゃないですか!」
“しょ、しょうがないじゃん!これでも一番大きなサイズのスーツなんだよ!?”
「先生、アコ行政官。2人共そのあたりで……」
「そもそも先生はですねぇ……!」
“言ったね!?それを言うならアコだって……!”
「……ふたりとも、そこに正座しましょうか?」
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“……チナツにお説教されちゃった。”
結局あの後売り言葉に買い言葉でアコと散々言い合いをした私は、2人まとめてチナツからお説教されとぼとぼとした足取りで風紀委員会の本部を後にしていた。
……うん、流石に私も大人気なかったと反省はしている。
アコには申し訳ないことをしてしまったな……その場では謝ってアコからも謝罪してくれたけど、後で電話して改めて謝罪しておくことにしよう。
そんな事を考えつつ、一旦シャーレに戻るためにゲヘナ学園内を進み丁度校庭に差し掛かったときだった。
「また腕を上げたわね、タツミ。」
「いやー、空崎委員長には敵わないっすよ。」
ふと、ゲヘナの広い校庭の片隅から聞き覚えのある声が2人分聞こえてきた。
私はその声に思わず足を止めてそちらを振り向くと、そこにはお互いの武器を構えながら対峙するヒナとタツミの姿があった。
その横ではイオリが2人から少し離れた位置で彼女たちを見守っているのが見える。
「よく言うわ。私にここまで食らいつけるのなんてゲヘナ内でも貴方くらいよ、タツミ。」
「そりゃ光栄っすね。けど、やっぱり男に生まれた以上は最強を超えてみたいって思うものなんで……今日こそは勝たせてもらいますよ、空崎委員長!」
「ふふ……いいわ。全力でかかって来なさい、タツミ!」
「はいっ!行きますよ空崎委員長!」
そう言うと、タツミは彼が愛用している盾とショットガンを構えてヒナに突撃していく。
ヒナはそんなタツミを視認すると、構えたデストロイヤーの引き金を引く。そして……2人が衝突した。
その瞬間、周囲に響き渡る激しい銃声の音や金属の盾が銃弾を弾く甲高い音。
私は2人の戦いにしばし見入っていたが、やがてハッとなるとイオリの傍へと足を進める。
“やぁ、こんにちはイオリ。”
「ん?……えっ、先生!?」
戦っている2人から聞こえてくる激しい戦闘音に混じってイオリに声を掛けると、イオリは目を見開いて驚いたような表情をして私に目を向けてきた。
「な、なんで先生がここにいるんだ?」
“実は書類仕事の手伝いに風紀委員会まで行っててさ。今はその帰りってところかな。”
「そうだったのか、それはお疲れ様。」
“ううん、生徒のためだからね。このくらいなんてことはないよ。”
ねぎらいの言葉をかけてくれるイオリに対して、私は笑顔を浮かべながらそう答える。
「……って、そんな事言ってる場合じゃない!先生、ここに居ると流れ弾が飛んでくるかもしれないぞ!?危ないから早くもっと離れた場所へ行こう!」
“そうなの?うん、分かった。”
慌てた様子で「こっちへ来い」というジェスチャーをするイオリに連れられて、私とイオリは2人が戦っている場所から大きく距離を取った。
「よし、ここまで来れば大丈夫かな。」
“ごめんね、イオリ。ちょっと軽率だったかも……”
「いや、大丈夫だぞ先生。一応ヒナ委員長もタツミも訓練用のゴム弾を使ってるから当たっても死にはしないだろうけど、怪我はしちゃうだろうからさ。」
“……うん。ありがとうイオリ。”
なんでもないようにサラッとそういうイオリに対して、私はお礼の言葉を述べる。
……やっぱり、こう見るとイオリもいい子だよね。
流石は血の気の多いゲヘナで治安を取り締まる風紀委員会に所属しているだけはある。
“あの2人はいつもああやって模擬戦を?”
「いや。いつもは私とタツミでやる事が多いんだけど今日はタツミと模擬戦やろうって話をしてた時にたまたま委員長が居合わせててさ。せっかくだし一緒にやろうって話になったんだよ。」
激しく戦闘する2人を見つめながら、イオリはそう言う。
「まぁでも前々から委員長とタツミで模擬戦はやってたよ。タツミがゲヘナに入学してすぐの時くらいからかな?万魔殿から突然やって来て稽古をつけてくれって頭を下げて頼み込んできたんだ。」
“へぇー、そうなんだね。”
「うん。その時のタツミは盾の持ち方すら全然なって無くてもちろんヒナ委員長には瞬殺されたんだけど、それでもその後も何度も何度も折れずに模擬戦をしてくれって頼みに来てさ。」
“(……タツミらしいね。)”
「もちろん最初は空崎委員長も邪険に扱ってて私も万魔殿の奴だからってことでいい目では見てなかった。けど、何度完膚なきまでにコテンパンにしても何度も何度も立ち上がってタツミは委員長や私に挑んできた。」
「正直驚いたよ。委員長は言わずもがなゲヘナどころかキヴォトスでも右に出る奴がほとんどいない程の強者だし、私だって後輩を率いてる手前決して弱くないって自覚はある。」
「そんな私達に模擬戦を挑んでくるバカなんてゲヘナにいなかったからね。それを……あいつは、タツミは一時期はほぼ毎日私達に挑みかかってきたんだ。」
「……で、気づけば委員長も私もすっかりタツミの事が気に入っちゃってさ。こんなに芯が強くて来骨のある奴なんて滅多にいるもんじゃないからね。」
イオリはそこまで言うと、目の前で繰り広げられているヒナとタツミの激しい戦闘へと目を向ける。
私もイオリに習ってその戦闘へと視線をやると、そこでは圧倒的な力でタツミをねじ伏せにかかるヒナとそれを盾を使ってうまく受け流すタツミの姿があった。
ヒナの動きは私が戦闘慣れしていないと言うのもあるだろうが目で追うのがやっとと言うほどには素早く、並の相手であれば瞬きをしている間に一瞬で制圧されてしまうような圧倒的なものだ。
彼女の持つデストロイヤーから放たれる弾幕は相手をその場に釘付けにし、ひとたび接近戦をしようものなら拳の一発で相手を地面へと叩き伏せてしまう。
私はヒナを何度か指揮したこともあるから分かるが、彼女の力は暴力的なまでのものだ。
それこそ、キヴォトスでも肩を並べられる者なんて数えるほどしか居ないと言われるのが納得できるほどに。
しかしタツミはその動きを完璧に把握し、ヒナを目で追いながら彼女の攻撃を全て盾で防ぎきっていた。
流石に表情からは苦しそうな様子が見て取れるけど、それでもヒナ相手にここまで正面からやり合える人物なんてキヴォトス中を探してもそうはいないだろう。
ヒナの蹴りを盾で受け止めたタツミの体が一瞬浮き上がるが、タツミは足を地面に叩きつけるとそのまま盾を振りかぶってヒナを狙って盾を振り抜いた。
しかしヒナはそれをデストロイヤーで受け止め、2人はそのまま鍔迫り合いへと移行する。
「驚いた……全て防がれるとは思ってなかったわ。」
「おっ、こいつは一本取っちまいましたかね?」
「まさか。そのセリフを吐くのは私に勝ってからにしてもらうわよ?」
「ハッ、望む所っすよ!」
2人はお互いの武器に力を込めて押し合いをしつつ、犬歯を見せて好戦的な笑みを浮かべた。
“……あんなに楽しそうなヒナ、初めて見たかも。”
「そりゃ委員長からしたらゲヘナの名のある不良だって本気を出すまでもなく一瞬で片が付いちゃうからな。けど、タツミは模擬戦とは言え委員長が本気を出してもああやって必死に食らいついてくる。」
“つまり、ヒナは本気を出せるタツミとの戦いを楽しんでるってこと?”
「そういうことだろうな。かくいう私もタツミとの模擬戦はすごく楽しいから気持ちは良くわかるしね。」
屈託のない笑顔を浮かべながら、心底楽しそうにそういうイオリ。
「……タツミは強くなったよ、本当に。最初に委員長や私に挑んできて一撃で伸びていた頃とは大違いだ。」
“タツミにもそんな時期があったんだね。”
「あぁ。それが今やああやって本気の委員長に防戦一方とは言え互角に渡り合えるくらいだし、何なら私はタツミに模擬戦で負けちゃったことも何度かあるからな。」
「少しづつ委員長や私と打ち合えるようになって、ちょっとづつ本気を出しても崩れなくなって、最後にはああやって本気の委員長と渡り合えるまでに成長したし、今じゃ肩を並べて不良の鎮圧もしてる。それにタツミはまだまだメキメキと実力を伸ばしてるからな。まったく、あいつが風紀委員会所属じゃないのが残念だよ。」
少し残念そうな表情をしつつ、イオリはそう言った。
その言葉を聞いた私は、再び目の前の激しい戦いへと視線を移す。
本気を出し、楽しそうな笑顔を浮かべながら戦うヒナ。
苦しさの中にもどこか闘志を滾らせ、好戦的な笑みを浮かべながらヒナの攻撃を防御し続けるタツミ。
ゲヘナの風紀委員長という重い肩書を背負いながら、それでも少ない時間で鍛錬を積んで強くなったヒナ。
ヘイローがないと言う圧倒的なハンデを背負い、万魔殿の仕事をしながらもヒナやイオリに何度も挑みその度に地面を這ってでも少しづつ力を身に着けたタツミ。
きっと2人共、あのとんでもない強さの裏では血の滲むような努力を重ねてきたのだろう。
真面目なヒナとタツミの事だ。きっと模擬戦以外でも普段からトレーニングを積んでいるに違いない。
そして、今の実力に満足せずに更に上を目指してお互いに認め合い、高め合っている。
どこまでもストイックな2人に、私は脱帽するのだった。
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「あー畜生!もう少しだったのに!」
“ふふ、惜しかったねタツミ。”
「くそー、あそこでブークリエを構えるんじゃなくて格闘攻撃にしてたらもうちょっと粘れたかもしんねぇ……」
顎に手を当て、首をひねりながらヒナとの戦いの反省点を述べるタツミ。
私はそんな彼と横に並び、万魔殿を目指してゲヘナの校内を歩いていた。
あの後、しばらくヒナとタツミは激しい打ち合いを続けていたのだがやがて耐えきれなくなったタツミの盾がヒナによって彼の手から吹き飛ばされた。
タツミは盾を失った後もヒナに対して食らいついていたのだが、やがて彼女に銃を突きつけられ敗北。
審判を努めていたらしいイオリの号令により勝敗の判定が下され、ヒナの勝利で模擬戦は幕を閉じた。
その直後にヒナとイオリは不良の暴動が起きたとのアコからの連絡を受けて鎮圧のために出動。
私とタツミも同行を願い出たが、今回は規模が小さいため自分達だけで充分と言われたためそれ以上食い下がる訳にもいかずにヒナとイオリを見送った私とタツミ。
その後、せっかくゲヘナに来たんだし万魔殿に寄って行ってほしいと言うタツミの誘いを受けてこうして2人で万魔殿を目指して今に至る。
「しかし先生、勢いで万魔殿に来いよって誘っちまったけど仕事は大丈夫か?何なら俺様は今からいつやってもいい簡単な書類仕事しかねーから、このままシャーレに行って手伝ってもいいが……」
“あ、それは大丈夫だよタツミ。今日の仕事はさっき風紀委員会で終わらせてきたもので全部だからさ。”
「そうか?ならいいんだが……前もって確認せずにすまねぇな。」
“ううん、気にしないで。”
バツの悪そうな表情を浮かべるタツミに対し、私は気にしないでほしいという旨を伝える。
本当にこういうところでタツミは律儀なんだよなぁ……
「うーん、あそこの場面では盾を使わずに蹴りを入れるべきだったか?それともブークリエの銃床で殴りに行く方が良かったか?んー……どうしたら良かったかな……」
そんなタツミは私の横を歩きながら腕を組んで難しそうな顔をしつつ、先ほどの戦いを振り返っているようだ。
“前から思ってたけど、タツミってストイックだよね。”
「ん?そうか?いやーまぁ何事も勝負する以上は勝ちたいじゃん?俺様はほら、負けず嫌いだからさ。」
“でもタツミはあのヒナ相手に互角以上に渡り合ってたじゃない?”
「いや、あれは防戦一方って言った方がいいぞ先生。その証拠に俺様は空崎委員長の攻撃を防ぐので精一杯で攻撃がほぼ出来てなかっただろ?それに俺様は今までに何度も空崎委員長に挑んでるけど一回たりとも勝ててねぇからな……」
個人的にはキヴォトスでも最強レベルの実力を持つヒナと渡り合えるだけでも充分すごいと思うんだけどね。
あとタツミは自分では攻勢に出れてないと言いつつ、途中で明らかに盾をうまく使った攻撃をしてヒナが若干表情をしかめていた場面もあったからなぁ……
タツミは聞くところによるとゲヘナで不良の鎮圧もしていて不良からは恐れられているらしいし、シャーレの奪還戦で初めて戦ったときも盾の使い方の上手さや射線管理技術等のチーム戦の技術に驚いた記憶がある。
それと何と言っても、タツミはあの災厄の狐の二つ名を持つワカモと1対1で互角以上に渡り合える人物だ。
ワカモと互角に戦って、しかも被弾をゼロで済ませられる人物なんてそれこそキヴォトスを探してもそうそう見つかるものではないだろう。
……でも、タツミはそれで満足してはいないんだろうね。
「クソ、今度こそは絶対に勝ってやる……!そのためにももっと実力をつけねぇと……」
本気で悔しそうな顔をしつつ、そう呟くタツミ。
その表情からは本気でヒナに勝ちたいんだと言う思いがひしひしと伝わってくると共に……
私の中に、あるひとつの疑問を浮かび上がらせた。
“ねぇタツミ。キミはどうしてそこまで強くあろうとするの?”
そう、それは単純明快な話。
何故タツミがそこまで強さを求めるのか、と言う事だ。
私が言うのも何だけど、キヴォトスにおいてヘイローが無いと言うのは相当なハンデを背負っている。
何せキヴォトスは超銃社会だ。コンビニで弾薬が売ってるのは当たり前だし、自販機で手榴弾だって買える。
何か問題が起きれば生徒はすぐに銃を抜く。
けど、それは彼女達にヘイローがあるからであって私やタツミは彼女たちとはわけが違う。
私達は銃で打たれれば重傷を追うし、最悪死を迎えてしまう可能性だってある。
私はシッテムの箱のOSであるアロナが付いているからいざという時は彼女が守ってくれるけど、タツミはそういうわけにもいかない。
文字通りの身一つで彼は盾とショットガンを持ち、危険なキヴォトスで戦っているのだ。しかも最前線で。
タツミが所属しているのは風紀委員会ではない。
ゲヘナにおいての生徒会である万魔殿なのだ。
身も蓋もない言い方をすれば、万魔殿に所属しているのであれば政治だけをやって戦闘をやらなくても誰も文句の言う人は居ないだろう。
何故、タツミはそこまでして強くなろうとするのか。
何がキミをそこまで突き動かすのか。
ヘイローがない体で、そこまで無理をする理由なんて……
「俺様が強さを求める理由?そんなの決まってる。」
私がそんな事をぐるぐると頭の中で考えていると、タツミはまっすぐと私の目を見据えてきた。
イブキと同じ、黄色くて大きな瞳が私を見つめている。
私はしばし彼と目を合わせていたが、やがてタツミは口を開いて言葉を紡ぎ始める。
「答えは簡単だ。イブキを、そして皆を守るためだ。」
「そのために俺様は強くなりたいんだよ、先生。」
「ましてやここはゲヘナ自治区だぜ?キヴォトスで一番治安の悪い地区と言っても過言じゃねぇ。」
「そんな地区でてめぇの守りたいもんを守るってなると弁が立つだけじゃダメだ。圧倒的な力がいる。そう、空崎委員長みたいにな。」
「確かにすぐ暴力に訴えるのは良くないと思うぜ?話し合いで解決出来るならそうすべきだと俺様も思う。」
「けど、世の中ってのはそんなにお行儀良く済ませられる事ばかりじゃない。それは社会人経験のある先生なら痛いほど分かってるだろ?」
“それは……”
「……その様子だと心当たりはあるみたいだな。ま、そういうこった。」
「守りたいもんを守るためなら暴力に訴えないといけない場合もある、汚いことをしなきゃいけない場合だって当然あるかもしれない。」
「だから来たるべきときが来た時にイブキや皆を守れるように俺様は強くなりたいと思ってるんだ。」
「俺様に力があれば助けられたのに……なんてセリフは絶対に吐きたくねぇからな。誰かのピンチを指を加えて見てるだけなんてのは……死んでもゴメンだ。」
「それに普通【人生は一度きり】なんだ。なら、皆には笑って過ごしてもらいたいからな。」
苦笑いを浮かべつつ、タツミはそう言う。
「先生、俺様はもっと強くなってやる。」
「もっと強くなってイブキや万魔殿の皆、トリニティでゲヘナへの偏見なんて関係なく仲良くしてれる人達、山海経や梅花園の皆……俺様と親しくしてくれている人達みんなを守ってみせる。」
「もちろんその中にはアンタも入ってるからな、シャーレの先生?」
そう言って、人懐っこい笑みを浮かべるタツミ。
(……ふふ。)
なんだか、タツミの強さの秘密がわかった気がする。
タツミの強さ、それは彼自身の持つ優しさなのだろう。
そう、彼はどこまでも優しいのだ。
誰かを守るための力、それは誰かを思うからこその力。
決して誰かを傷つけることのない、優しい力。
タツミが盾を持ち、一番前に出て敵の攻撃を一手に引き受けるのも恐らくそれが理由だと思われる。
どこまでも優しくて、決して折れるの事のない強靭な心を持ち、人のためならいくらでも努力の出来る男の子。
それが丹花タツミと言う人間なのだろう。
「……ま、これが俺様が強さを求める理由かな。」
“うん。良く分かったよ。ありがとうねタツミ。”
「なーにいいってことよ!まぁ、それとは別に空崎委員長には毎回ボコボコにされてるからいい加減に勝ちたいって俺様の超個人的な理由も含まれてるけどな。」
“ふふ、タツミならきっと勝てるよ。”
「おっ、先生にそう言われたら頑張るしかねぇな!期待しててくれよな、先生!」
ニコニコとした笑みを浮かべながらそういうタツミ。
……そんな彼に対して、私は口を開く。
“……けど、タツミ。”
“キミのその志はすごく立派だし尊敬する。私も応援させてもらいたいと思うよ。”
“でも決して無理はしないで欲しい。誰かを守るためにキミが傷ついたなら……悲しむ人は大勢いるから。”
“と言うか、少なくとも私は悲しいかな。”
“それにイブキだってマコトだって、その他の万魔殿の皆や今までタツミが助けてきた人達だって……きっとキミがボロボロになる姿なんて見たくないと思う。”
“キミ1人で抱える必要はない。時には誰かに頼ることも大切だよ。大丈夫、きっと協力してくれるはずさ。”
“だからタツミ。無茶はしないでね?私との約束だよ。”
「先生……分かった、肝に銘じとくよ。ありがとな。」
タツミは私の言葉を聞くと、真剣な表情で頷いた。
今言ったのは私の本心だ。
確かにタツミの優しさは彼のいいところだし、みんなを守りたいって志は応援すべきものである。
……けど、タツミ1人が全てを抱え込む必要はない。
彼はまだ子どもだ。
いくらタツミが仕事や気配りができるとは言え、何でもかんでも抱え込むのは不可能だろう。
そんなことをしていてはいずれタツミはパンクする。
それに、タツミは私の守るべき大切な生徒の1人。
なら先生として、無茶をするのを見過ごすわけにはいかないからね。
「……なぁ先生。」
私がそんな事を考えていると、真剣な表情をしたタツミがこちらを真っ直ぐに見据えながらそう言ってくる。
“ん?どうしたのタツミ?”
「先生ってさ。前世のことは信じてるタチか?」
“へ?前世?前世って言うと……輪廻転生とかのあれ?”
「そうそう。その前世。」
“うーん……あまり現実味のない話ではあるけどたまに前世の記憶が残ってる人もいるって話は聞くし、もしかしたら確かに存在するのかもしれないね?”
「……そっか、分かった。突然野暮な事を聞いてすまねぇな。」
“ううん、大丈夫だよ。”
タツミはどこか達観したような表情を浮かべていたが一瞬で笑顔に変わると、そのまま万魔殿へと伸びる道を歩き始める。
私はその表情に言いようのない不安感を覚えつつも、彼とともに万魔殿へ向かうのだった。
なお、その後到着した万魔殿からは彼の妹のイブキを含めた全員から熱烈な歓迎を受けたのだがそれはまた別のお話。
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「うーん、先生からも心配されちまうとは……」
「まぁ最近は仕事でクソ忙しかったからなぁ……そのせいで万魔殿の皆からも心配されてるし、ちょっとは休みを取った方が良いのかもしれないけども……」
「ま、とは言えやっぱり俺様としちゃ皆に幸せで居てほしいからな。これからも頑張るとすっかね!」
「……そう。誰かが不幸にならなきゃいけないならそれは俺様だけでいい。みんなが不幸な目に会うなんてことがあっちゃいけないんだ。」
「だって人を助けるのに理由なんていらないんだから……そうだろ?」
「……さ、仕事仕事!ちゃっちゃと片付けて今夜はイブキと遊んでやるとすっか!」
「うおぉぉぉ!待ってろよイブキィィィ!!!」
と言うわけでメモロビ回でした
もう少しだけ日常が続いたあとに調印式となります