転生したらイブキの兄だった件   作:砂糖菓子くん

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今更ですがこの小説には独自設定や偏見が含まれておりますので、ご了承ください


シャーレ奪還戦と丹花タツミ

七神代行の案内でシャーレの部室付近まで到着した俺様達だったが、俺様の目の前に広がっているのは地獄のような光景であった。

ツンと鼻を突く火薬の香り、その辺に転がっているのは恐らく何かしらの建物だったであろう瓦礫の山。

あちこちから火薬を爆発させるような爆音が鳴り響き、怒号や悲鳴が飛び交うこの世の地獄みてぇな状況だ。

 

「想像してたより被害が甚大ですね……」

「まさかここまでとは……」

 

羽川先輩と七神代行が苦い顔をする。

この騒ぎを起こしてるのは矯正局に捕まってた連中を含めた不良たちのはずだが、連邦生徒会への恨みもあるとはここまでド派手にやるとはな……

正直ゲヘナよりはマシだろうとタカをくくっていたんだが、少し面食らってしまった。

 

「……なんで私がこんな目に……私、これでもうちの学校では生徒会に所属しててそれなりの扱いなんだけど!」

「奇遇ですね、俺様も生徒会所属なんすよ。おそろいっすね早瀬先輩。」

「……貴方のそのメンタルが羨ましいわ。」

 

うがーっとなってる早瀬先輩をフォローしたつもりだが何故かため息を吐かれてしまった。……解せぬ。

……と言うか、連中結構派手に銃をぶっ放してるせいでこっちに流れ弾が飛んでこないとも限らないな。

俺様は連邦生徒会から借りた盾を構えると、なるべく先生の前にポジションを取る。

 

理由はもちろん先生はキヴォトスの外から来た人で、ヘイローが存在しないからだ。

つまり肉体強度的には俺様と何ら変わらない。銃弾一つで死の危険がある。

先生をここで流れ弾なんぞで失うわけにはいかないからな、他の皆はヘイローがあるから弾が当たっても最悪怪我程度で済むだろうが先生はそうは行かない。

……と言うか、目の前で銃撃戦起きてるのに先生肝座りすぎじゃね?あんたキヴォトスの外の人間だよな?

俺様とて最初の方は銃撃戦見たら足が竦んで膝も笑ってたんだが……どんなメンタルしてんだこの人。

それにしても、キヴォトス人はヘイローがあるから感覚が麻痺してるのかもしれないがヘイローのない先生をここに連れてくるのはまずかったんじゃねぇか?

連邦生徒会で待機しててもらってもよかったのでは……?

 

そんな事を考えていると、前方でアサルトライフルをぶっ放している不良と目が合ってしまった。

不良は何かを大声で叫ぶと、こちらへ向かって銃口を向けてくる。

 

「チィ!」

 

考えるより先に体が動く。

俺様は盾で全身を覆い隠すように構えると、先生を俺様の後ろへスッポリと収まるように位置を変えた。

瞬間、放たれたアサルトライフルの弾が甲高い音を立てながら盾にぶつかる音が聞こえ手に衝撃が走る。

……胃から酸っぱいものがこみ上げる。

 

「先生!タツミさん!ご無事ですか!?」

“うん、大丈夫だよ。タツミが守ってくれたからね。”

「……七神代行。先生を今から連邦生徒会の本部に戻すのは不可能っすか?流れ弾が危険すぎます。」

「申し訳ありませんが、それは出来かねます。シャーレの部室に持ち込んだある物の起動には先生が不可欠なのです。それにこの辺りなら流れ弾の心配はないでしょう。」

 

苦虫を噛み潰したような表情で七神代行はそう言った。

確かにシッテムの箱の起動は先生でなければ不可能だからな。致し方ないといったところか。

流れ弾については……さっきのは俺様達が発見されてしまって撃たれたから銃弾が飛んできたのであって、流れ弾はこの辺ならそう簡単には飛んでこない……か?

盾から少し顔を出して様子を窺うと、先ほどこちらを撃ってきた不良は羽川先輩に無力化されていた。

 

「痛い痛い!痛いってば!あいつら、違法JHP弾を使ってるじゃないの!」

「伏せてくださいユウカ。それにホローポイント弾は違法指定されていません。」

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

 

前方では被弾したらしい早瀬先輩と羽川先輩がそんな会話を繰り広げていた。

……おいおい、ホローポイント弾なんて食らったらシャレにならねぇぞマジで。

ちなみにホローポイント弾ってのは当たった瞬間に砕け散る肉体を破損させるのに特化した銃弾だ。

そんなイカれた銃弾を食らって【跡が残る】で済むキヴォトス人はやはり頭がおかしいとしか言えない。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気をつけましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です。」

「ハスミさんの言うとおりです。先生はキヴォトスではない所から来た方ですので……私たちとは違って弾丸1つでも命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を。」

 

そういって、火宮は先生の次に俺様にも視線を向ける。

……分かってるさ、俺様だって死にたくはない。

俺様は力強く首を縦に振った。

 

「分かってるわ。先生、先生は戦場には出ないで下さい!私たちが戦ってる間はこの安全な場所に居てくださいね!」

 

早瀬先輩がそう言う。

 

“私が指揮を執るよ、任せて。”

 

その言葉を聞き、先生は真面目な顔でそう言った。

……そういや、ゲームでは生徒を先生が指揮して戦ってるって設定だったな。すっかり忘れていた。

普通ならぽっと出のよく分からん大人に指揮されるのは嫌がる奴もいるだろうが、俺様は【ブルーアーカイブにおいての先生】の事をよく知っている。

生徒のことを一番に思い、生徒のためなら身を投げることも厭わない、そして責任はすべて自分にあると言うある意味狂人と言ってもいいかもしれない程の聖人。

そしてその異常なまでに生徒の能力を引き出す指揮能力。それが先生だ。そして今の俺様は生徒である。

なら、俺様が従わない理由はないよなぁ。

 

「戦術指揮をされるんですか!?まぁ先生ですが……」

「分かりました。これより先生の指揮に従います。」

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします。」

“うん、みんなよろしくね。”

 

そう言うと、皆はそれぞれの銃器のマガジンやチャンバーのチェックを始める。

俺様もブークリエにドラムマガジンを差し込み、チャージングハンドルを引いた。

 

「陣形の指示はありますか?先生。」

“うん、まず皆の武器を教えてくれるかな?”

 

先生がそう言うと、各自自分の武器を申告する。

早瀬先輩はサブマシンガンの2丁持ちに、ミレニアムが開発した電磁シールド。守月先輩はアサルトライフル。

羽川先輩はスナイパーライフル。火宮はハンドガン。七神代行は大型のマグナム系統のハンドガン。

そして俺様はフルオートショットガン、ブークリエだ。

 

“……よし、じゃあユウカは前に出て前衛。その少し後ろからスズミでその更に後ろからハスミで行こう。チナツは負傷した生徒の回復と援護を、リンちゃんは私と一緒に指示のサポートをお願い。タツミは私の護衛を頼める?”

 

先生から陣形の指示が出る。

 

「ちょっと待ってくれ、先生。」

 

が、俺様はその陣形に対して待ったをかける。

 

「早瀬先輩1人だと前衛の負担が大きいと思う。俺様も前衛に入れてくれませんかね?」

“でもキミは……”

「先生。俺様が所属してるゲヘナってところはこんな銃撃戦が毎日のように起こってる場所っす。伊達にそこで生き残ってきてません。それに先生の護衛なら火宮と七神代行で充分務まると思います。」

「でも貴方はヘイローが無いんでしょう?本当に大丈夫なんでしょうね?」

「……何度も言いますが、俺様はゲヘナ所属です。それに俺様は皆を守りたい。そのために盾を持ってるんす。先生の判断に口を挟むようで申し訳ないですが、これだけは譲れません。」

 

そういって、俺様は先生の目をまっすぐに見据える。

必死に訴えると、先生はしばし悩み……

 

“……分かった、タツミを信じるよ。前衛をお願い”

「はい、了解です!」

 

どこか頼もしい笑みを浮かべながらそう言った。

 

「よろしいのですか?先生。」

“うん、彼がそう言うのなら私は信じてあげたい。それにあの様子だと我慢できずに突撃しちゃいそうだしね”

 

先生は何かを含んだような笑みを浮かべてそう言った。

……まぁ仮に駄目だって言われて先生の護衛になってたら隙を見て前線に行くつもりではあったけどよ。

なんでバレてんだ。この人エスパーかなにかか?

まぁというわけで、俺様は早瀬先輩と共に前衛を務めることになった。

 

「よろしくお願いしますね、早瀬先輩。」

「えぇ、よろしくねタツミくん。さっさとあの不良たちを片付けちゃいましょう。」

 

サブマシンガンを構えつつ、早瀬先輩は額に怒りマークを浮かべてそうな表情でそう吐き捨てた。

俺様はそれを見て苦笑しつつ、七神代行からもらった指示の伝達用のインカムを身に着け盾を構える。

 

(……さてと。)

 

微かに震える手足をドンと叩きつつ、俺様はポケットから取り出した胃薬を口の中に流し込んだ。

独特の苦味と渋さが口に広がるが、自然とスーッと胃から込み上げてくる酸っぱいものは引っ込んでいく。

……まぁ、実を言うと戦うのが全く怖くないってわけじゃねぇ。ヘイローがあるキヴォトス人とは違って俺様は撃たれたら普通に死ぬ可能性があるからだ。

慣れはしたし覚悟も出来てはいるが、こうやって死の恐怖を完全に打ち消すってのは難しいもんだ。

撃たれたら当たりどころ次第では普通に死ぬし、ヘルメットとゴーグルで守ってはいるが頭なんて撃たれたら俺様は問答無用であの世行きだ。

最初に銃撃戦に巻き込まれた時なんかブークリエを抱き枕みたいに抱えてガタガタと震えてたし、その夜は一睡もできずにイブキに心配されちまったっけか……

その翌日は妙に羽沼議長や棗先輩が優しかったのを覚えてるし、京極先輩は背中を擦って慰めてくれたし、元宮先輩は何も言わず黙ってコーヒーを出してくれた。

それが情けなくて、悔しくて。

でも皆の優しさが嬉しくて、力になれたらと思って。

それから死ぬ気で訓練して、実戦もこなして、どうにかこうにかビビらず戦えるようになった。

……まだ気を抜くと挫けそうになっちまうけどな。

 

俺様は一度死んでる身だが、今世は可愛い妹にも恵まれたし出来たら寿命まで人生を全うしてぇからな。

少なくとも、イブキの花嫁姿を見るまで俺様は何が何でも死ぬわけには行かないんでね。

それに万魔殿はなんだかんだ言いつつも居心地が良いんだ。彼女たちに心配をかけるなんてゴメンだ。

 

……え?なら何で前衛を引き受けたのかって?

そりゃ先生に言った通りだよ。

一番前に居るほうが皆を守れるからだが?後ろに居ちゃ前で戦ってるやつを守れねぇじゃん。

それに早瀬先輩がいくら電磁シールドがあるとは言え前衛1枚ってのは流石にマズイだろ。

いくらヘイローがあるとは言え集中砲火を食らえば痛いでは済まないからな。

それに俺様が後ろにポジションを取るなら、何のために盾を持ってるんだって話だ。

後衛を守り、道を切り開くのが前衛の仕事だからな。

後ろの皆はもちろん、早瀬先輩も守りきってやる。

 

「それじゃ、行ってみましょうか!」

“総員前進!”

 

インカム越しに聞こえる先生の号令とともに、俺様達は陣形を維持しつつ銃声の鳴り響く中に突入した。

早瀬先輩は遮蔽物に適度に身を隠しながら進み、俺様は盾で体を隠しながらすり足で進みつつ周囲を警戒する。

その後ろから守月先輩、羽川先輩、先生達と言う陣形で俺様達は少しづつ前進していく。

 

(……もう少し奥から銃声が聞こえるな。さっきいた奴は見張りか何かか?)

「奥から多数の生体反応があります。恐らく、この騒動を起こしている不良たちかと。」

“もうすぐ接敵だよ。みんな、準備はいい?”

 

インカム越しに聞こえる先生の声に頷く。

もちろん、そんなモンは言われなくても出来ている。

ブークリエを構え、歩を進めるスピードを上げる。

……見えてきた。不良どもだ。

 

「ヒャッハー!撃て撃てぇ!連邦生徒会に胃薬をがぶ飲みさせてやるんだ!」

「うぉぉぉ!弾幕はパワーだぜ!」

「ワタシ、タテモノ、ブチコワス。」

 

……なんかえらい楽しそうだな。相当鬱憤がたまっていたと見える。

不良どもは銃をぶっ放したり、手榴弾をブン投げたりして手当たり次第に建物や道路を破壊していた。

銃声が鳴り響き、火薬の香りが鼻を突く。

 

「派手にやってくれるわね……タツミくん、準備はいいかしら?」

「もちろんです早瀬先輩。いつでも行けますよ!」

 

俺様と早瀬先輩は顔を見合わせると、手にした銃の引き金に指をかけた。

セーフティはとっくに解除済みだ。

 

“行くよ!攻撃開始!”

 

そして……

先生の号令と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「喰らいやがれ!」

 

叫びながら俺様は銃の引き金を引いた。

瞬間、響き渡るえげつない火薬の爆発音と共にストックを押し当てた肩に大きな衝撃が走る。

俺様が発射した銃弾をモロに食らったチンピラはそのまま血しぶきを挙げながら後ろに倒れ込み……

 

「い……っっってぇー!!!」

 

……は、しなかった。

まぁ今更驚くことでもあるまい。

なんせここはブルーアーカイブの世界だからな。

 

「なんだ!?」

「敵襲だ!あいつら私を撃ってきやがったぞ!」

「あの盾は連邦生徒会の物か!?」

「上等だ!やってやる!」

 

俺様たちに気づいた不良どもが銃を一斉にこちらへと向けてくるのを確認し、俺様は盾を前に突き出す。

瞬間、ヒュンヒュンという風切音とともに大量の銃弾がこちらへと向けて飛来した。

盾から衝撃とともに金属のぶつかる音が聞こえてくる。

横目で早瀬先輩を確認すると、物陰に素早く滑り込んでマガジンの交換を行っていた。

 

“スズミ!閃光弾を!”

「分かりました!これは痛いですよ!」

 

インカムからそんな声が聞こえてくると同時に、俺様の頭上を閃光弾が通過する。

不良たちに投げ込まれた閃光弾はそのまま炸裂し不良たちの視界と聴覚を奪う。

 

“ハスミ!タツミのカバーをしてあげて!”

「承知致しました。」

“ユウカは電磁シールドを展開して前へ!タツミはそのまま盾を構えて前線を押し上げて!”

「わ、分かりました!」

「了解ッ!」

 

先生からの指示が飛ぶ。

俺様は閃光弾を食らって思うように動けない不良どもにブークリエを向けると、引き金を引く。

 

「ギャッ!?」

「くそ……目が見え……うぁ!」

 

フルオートで発射された弾丸は不良どもに叩き込まれ、クリーンヒットした不良はバタバタと倒れていく。

俺様はすかさず盾を少し持ち上げて浮かすと、そのまますり足で前進し前線を押し上げていく。

すぐ横では早瀬先輩が電磁シールドを身にまといつつサブマシンガンで不良を蹴散らし、後ろからは閃光弾が的確なタイミングで投擲される。

そして前衛2人の死角となる敵に対しては羽川先輩の的確な射撃が飛び、敵を無力化していた。

 

「撃て撃て!奴らをこれ以上先へ行かせるな!」

「チィ……!」

 

くそ、連中数だけは無駄にいやがる。

一体どこからこんなに不良どもを集めてきたんだよ……

この騒動の首謀者は一体何を考えている?

弾幕を盾でしのぎつつ、隙を見て体を出して確実に1人づつに射撃を集中させて敵の戦力を剥がしていく。

 

(しかし、メッチャ戦いやすいな……)

 

先輩方の実力が高いというのもあるだろうが、一番の要因はやはり先生の指示だろうな。

俺様たちみたいな戦闘を想定していない急遽集まったメンバーの役割を武器を聞いただけで把握して陣形を組み立て、的確なポジションに置いてしっかりと指示を出して役割を遂行させている。

本来なら連携すらままならないだろう俺様たちを1つのチームとして機能させるその実力……恐れ入る。

 

「なんだか戦闘がいつもよりやりやすい気がします……」

「……やっぱりそうよね?」

「先生の指揮のおかげで普段よりずっと戦いやすいですね。」

 

普段は別々の組織に所属していて学年もバラバラ、本来なら連携もクソもないであろうチームで全員からここまでの評価を得るとは先生は超人か何かなのか……?

早瀬先輩は生徒会所属だから前線にはあまり出張らないだろうからともかく、守月先輩と羽川先輩は戦闘が主な組織に所属しているのにこの評価は素直に凄いな。

 

……っと、少し前に出すぎている気がするな。

これ以上前に出ると後ろの守月先輩と羽川先輩に射撃が飛んだ時に守りきれない、一旦停止して様子を見よう。

守月先輩と羽川先輩の位置を確認する。……よし、この位置関係なら何かあればすぐに間に入れる。

ざっと見る限り、不良達の持っているのはサブマシンガンやアサルトライフル、ガトリングガンのため射程距離はせいぜい中距離が限度だろう。

遠距離攻撃武器……スナイパーが見当たらないのが少し怖いが、中距離武器のみなら俺様と早瀬先輩が攻撃を引き受けていていれば後ろへの被弾は回避できるだろう。

 

「くっ……」

 

とは言え、この弾幕は少々キツイか……

ブークリエのマガジンを交換しつつ、舌打ちをする。

 

「皆さん、戦闘をしながらでいいので聞いてください。今この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました。」

 

盾から体を出そうとした瞬間、七神代行の声がインカムから聞こえてきた。

 

「ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前例がいくつもある危険な人物なので気をつけて下さい。」

 

それだけ伝えてくると、七神代行からの通信は切れる。

ワカモっつーと……もしかして狐坂ワカモのことか?

確か……後にキヴォトス七囚人とか呼ばれるようになるヤベー奴らの1人で、狐の面を被った奴だった気がするな。

つーか似たような前例ってこんなテロ行為を何回もやってる奴なのか?とんでもねぇ危険人物じゃねぇか。

待てよ……確かプロローグで狐の面を被った女が出てきてたはずだよな?

まさかそいつが狐坂ワカモ……

 

「っ!?」

 

盾から体を出して引き金を引こうとした瞬間だった。

俺様が照準を合わせていた不良の奥の方のガードレールから、不意に人影が身を乗り出してきたのが見える。

そいつの向けている銃の銃口は……間違いなく俺様の方を向いていた。

 

「クソ!」

 

俺様は本能的に危険を感じ取ると、ブークリエを引っ込めて咄嗟に盾を引っ張り体全体を隠す。

次の瞬間、【ガン!】と言う大きな音と共に俺様の構えた盾に銃弾が突き刺さった。

 

“タツミ!大丈夫!?”

「大丈夫です、先生。」

 

インカムから先生の心配する声が聞こえるが、銃弾が盾に当たった衝撃で手が少し痺れている以外に特に怪我もしていないためそう答える。

 

「……野郎、やってくれるじゃねぇか。」

 

背中に嫌な汗が流れるのを感じつつ、俺様は苦笑する。

そして、激しい弾幕の中必要最低限のみ盾から顔を覗かせた。

 

「フフ……連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと。」

 

ボルトアクションライフルの排莢を行いながら、その女はそう言い放った。

ヒラヒラとした和服に、先端に銃剣の付いた歩兵銃を構える狐面を被り頭に狐の耳を生やした女。

間違いない、狐坂ワカモだ。

……着てる服に対してはもう突っ込まないからな!

 

「噂をすれば……ってやつか?」

「騒動の中心人物を発見!対処します!」

 

言うや否や、俺様のすぐ横を羽川先輩から放たれたであろう銃弾が猛スピードで通過する。

狐坂はガードレールに引っ込んで銃弾をかわすと、すぐに頭を出して羽川先輩へ銃口を向けた。

 

“ハスミ!伏せるんだ!”

「……っ!」

「させるか!」

 

ボルトアクションを操作して排莢をしている隙を突かれた羽川先輩は先生の指示ですぐさま盾にしていたブロック塀に頭を隠すが、一瞬伏せるのが遅れる。

それを見た俺様はすぐさま盾を構え、狐坂と羽川先輩の射線の間に割り込んだ。

すぐに間に入れるポジションを取っていたのが功を奏したようで、しっかりと銃弾を防ぐことができた。

 

「大丈夫すか?羽川先輩。」

「……はい、助かりました。ありがとうございます。」

 

後ろを向いて羽川先輩を確認すると、申し訳なさそうに頭を下げてくる。

 

「後衛を守るのは前衛の務めですからね。」

“ありがとうタツミ。油断してたよ。”

「大丈夫ですよ先生。気にしないでください。」

 

それだけ言って、俺様は前方の不良たちに囲まれている狐坂を睨み付ける。

 

「皆さん!相手はあの狐坂ワカモです!くれぐれも気を付けてください!」

 

インカムから火宮の焦ったような声が聞こえる。

 

「あぁもう……何で私がこんな目に……もうヤケクソだわ!ここまで来たらとことんやってやろうじゃないの!」

「狐坂ワカモを捕まえてもう一度矯正局に送らないといけません。気を引き締めましょう。」

 

早瀬先輩と守月先輩が声を上げて銃を構える。

 

「次は油断しません……!」

「俺様が居る限りは仲間には指一本触れさせねぇぞ!」

 

移動して羽川先輩の射線を開けつつ、声を張り上げて俺様はそう叫んだ。

 

「なんだと!?生意気なぁ!」

「撃て撃て!奴の盾をスクラップにするんだ!」

 

俺様の安い挑発に乗った不良どもは、狙い通り俺様に向けて弾幕を展開してくる。

俺様は片膝をつくと、盾を固定し銃弾の勢いに負けないように足腰に力を入れて踏ん張りをかける。

 

“スズミ!”

「はい!閃光弾行きます!」

“ユウカ!今は狙いがタツミに集中してる!攻めるなら今だよ!ワカモの狙撃に気をつけて!”

「分かりました!電磁シールドを展開します!」

“ハスミ!ワカモへの牽制は任せるね!”

「承知致しました!」

“タツミ!苦しいだろうけど耐えて欲しい!”

「了解!任された!」

 

前方で閃光弾が炸裂し、早瀬先輩が電磁シールドを展開して不良たちを蹴散らしていく。

少し盾に感じる勢いが削がれたのを感じた俺様は盾を持ち上げ、そのまま前進を始める。

前進しつつ、時折顔を出して狐坂の銃口が後衛に向いていないかを都度確認する。

先程まで不良どもの持っているアサルトライフルやサブマシンガンでは俺様と早瀬先輩の後ろまでは攻撃を通しにくかったが、狐坂の持っているのは狙撃銃だ。

後衛の羽川先輩まで容易に届くくらいの射程があるわけなので、先ほどまでとは違ってただ攻撃を防いでいればいいというわけではないからな。

キチンと遠距離攻撃から後衛を守る必要がある。

幸い狐坂の使っているのはボルトアクションライフル。

一発撃つ事に排莢が必要になるタイプの銃だ。狙撃のタイミングはセミオートライフルより読みやすい。

排莢している瞬間は弾丸は飛んでこないからな。

俺様は守月先輩と羽川先輩のポジションを確認しつつ、すぐ狐坂の射線に割り込める位置をキープしながら前進し閃光弾を食らった不良にショットガンを叩き込む。

 

「ぐあっ!」

「おい、しっかりしろ!」

 

少しづつ、だが確実にジリジリと前線を押し上げていく俺様達。

時折ひときわ大きな衝撃が俺様の盾や足元を襲うが、恐らくこれは狐坂の狙撃だろう。

盾から必要最低限の顔を出して常に狐坂の位置取りを確認し、都度ポジションを変更する。

そして、守月先輩や羽川先輩に銃口が向いた瞬間に合図を送ってから射線に割り込む。

 

「閃光弾行きます!」

「怒りも悲しみも全部因数分解してやるわ!」

「集中して……」

「タツミくん!大丈夫ですか!」

「大丈夫だ火宮!今のところ怪我はないぞ!」

 

前方の不良にショットガンをぶち込み、盾に体を隠してマガジンを交換する。

俺様達が徐々に陣形を押し上げて前線を上げているのを見て、狐坂を始めとする不良たちは少しづつ前線を後ろへと下げ始める。

そうこうしているうちに、前方にシャーレの部室らしき建物が見えてくる。

 

「もうシャーレの部室は目の前よ!」

 

早瀬先輩の声で全員の士気が上がる。

敵の防衛対象、つまり本丸までこちらは攻め込んだ。

あとは建物を制圧するだけだ。

 

「撃てぇ!これ以上奴らを近づけるな!」

「邪魔だ!どけぇ!」

 

ショットガンをぶち込み、また1人不良を無力化する。

目標はもう目の前だが油断してはいけない。

俺様は徐々に後ろへ下がっていく狐坂の位置を常に確認しつつ、射線の管理をしながら前進する。

 

「……潮時ですね。私はここまで、あとは任せます。」

 

そん言葉が聞こえると同時に、狐坂は銃を肩に担ぐとその場から大きく跳躍して逃走を図ろうとする。

ここまで来て逃がしてたまるかよ……!俺様は心のなかで舌打ちすると、大きく一歩前へ出る。

 

「逃げられてるじゃない!追うわよ!」

「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちの目的はあくまでシャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進すべきです。」

「そうですね、罠かもしれませんし。」

「はい。建物の奪還を優先で、このまま前進するとしましょう。」

「……まぁいいわ。あいつを追うのは私たちの役目じゃないってことね。」

 

……まぁ確かに、まだ前方には不良どもがいる。

あいつらの弾幕をかいくぐって狐坂に追いつこうとなると命がいくつあっても足りなさそうではあるが。

 

「とは言え、逃がしても良いんですか?あいつを野放しにするとまたテロ行為されるかもしれませんよ?」

「悔しいですが、今はハスミさんの言う通りシャーレの奪還が最優先事項です。このまま進みましょう。」

 

インカムから七神代行の指示が入る。

まぁそういうことなら仕方ない。シャーレの部室の奪還を最優先で目指そう。

俺様と早瀬先輩を先頭に、不良どもを蹴散らしそのまま建物の入り口まで前線を上げていく。

 

「よし!建物の入り口まで到着!」

「あとは残った不良を倒して建物を制圧すれば……」

“みんな、最後まで油断せずに行くよ!”

 

先生の声を聞き、気合を入れ直した瞬間だった。

突然、俺様達の周囲の地面がガタガタと大きく揺れる。

 

「何だ!?地震か!?」

「いえ、違います。これは……地響き?」

 

ーーードゴォォォン!!!ーーー

 

突然の揺れに俺様達が困惑していると【ソイツ】は近くの瓦礫の山を突き破りながら俺様達の前に姿を現した。

黄土色の車体に、キャタピラと主砲を備えた鉄でできた車……そう、戦車だ。

……戦車だと!?

おいおいおい、シャレになんねーぞ!?

 

「気を付けてください、巡航戦車です!」

「クルセイダー1型……!私の学園の制式戦車と同じ型です。」

 

羽川先輩が苦い表情でそう言葉を発する。

トリニティの制式戦車だと?奴らどこでそんなもん手に入れてきやがったんだ……

いくら首謀者が狐坂とは言え、そんなホイホイと手に入るもんじゃねーぞ。

 

「不法に流通されたものに違いないわ!PMCに流れたのを不良達が買い入れたのかも!」

 

早瀬先輩がそう叫ぶ。

……まぁ、確かにありえない話ではない。

もしくはブラックマーケットで調達したか、だな。

 

“なるほど?つまり……”

「ガラクタってことだから、壊しても構いません!みんな、行くわよ!」

 

クソ、まさか戦車と戦うことになるなんて想定してなかったぜチクショウが!

確かにあのモモカって奴が巡航戦車を手に入れてるとは言ってたが、心の準備が出来てねーぞ!?

 

……だが、ここまで来たらもうやるしかない。

クルセイダーの主砲がゆっくりとこちらを向く。

背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

俺様は変な笑いを浮かべながら、盾を強く握りしめた。

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